第19回社会保障審議会医療保険部会 資料5
平成17年8月24日

医師確保総合対策

平成17年8月11日
地域医療に関する関係省庁連絡会議

1. はじめに
 本連絡会議では、平成16年2月26日に「へき地を含む地域における医師の確保等の推進について」を取りまとめ、地域における医師確保等についての施策を推進してきているところである。医師の需給については、平成10年の「医師の需給に関する検討会報告書」では、将来は過剰になるという見通しが示されているところであるが、一方で、医師の偏在による特定の地域や小児科、産科等の特定の診療科における医師不足が、依然深刻な課題となっている。このため、関係省庁(厚生労働省、総務省、文部科学省及び防衛庁)においては、「医師の需給に関する検討会中間報告書」(平成17年7月27日)及び「へき地保健医療対策検討会報告書」(平成17年7月27日)も踏まえ、総合的な医師確保対策を緊急に打ち出すこととした。今後、平成18年の医療制度改革に向け施策の具体化を図っていくものである。
 なお、将来の医師需給については、平成10年の上記報告書公表後の社会経済状況等の変化を十分踏まえた推計を平成17年度中に取りまとめるべく、医師の需給に関する検討会において、現在検討中である。

2. 確保対策
 ※
 「共通」: 「へき地」と「診療科」に共通の医師確保対策
 「へき地」: へき地、離島等における医師確保固有の対策
 「診療科」: 診療科ごとの医師確保固有の対策

(1) 地域の実情に応じた具体的な取組の推進
(1)  医療対策協議会の制度化(共通)
 地域の医療関係団体、中核的な医療機関、医育機関など関係諸機関の参加・協力を得て、地域における医療提供体制・医療資源の実情に応じ、具体的な医師確保方策について検討を行う場として、都道府県が中心となった、医療対策協議会の設置を制度化する。


(2) 医療計画制度の見直しを通じた医療連携体制の構築等
(1)  医療計画による実効性ある地域医療の確保・医療連携体制の構築(共通)
 医療計画について、地域における医療機能の把握、数値目標の設定等を通じて実効性ある計画に見直すこととし、その中に、へき地医療・小児医療・周産期医療等の確保を具体的に位置づける。

 新たな医療計画制度を通じ、医療機関間の連携・協力体制の具体化や、医療提供者の役割の明確化を図るなど、へき地医療対策・小児医療・周産期医療・救急医療対策といった主要な事業ごとに医療連携体制を構築する。

 特に、へき地保健医療対策については、第10次へき地保健医療計画(平成18〜22年度)に基づき、都道府県が、へき地医療拠点病院を中心とした医療連携体制の構築を図り、地域の医療機関が実施するへき地・離島の保健医療サービスについて、その具体的内容を医療計画に明示する。

(2)  医療資源の集約化・重点化の推進と地域内協力体制の整備(診療科)
 地域において、医療機関や診療科の再編成・集約化を検討し、例えば小児科、産科など特定の診療科について、少人数で診療を行っている医療機関が散在している地域においては、医療対策協議会を活用することなどにより、地域における連携体制を構築した上で、効率的に診療機能をまとめるなど、医療資源の集約化・重点化を推進する。

 夜間救急、小児医療など、病院の医師不足が深刻な診療分野に関し、診療所の医師の積極的参加による地域の連携・協力体制を構築する。

(3)  自治体病院の再編・ネットワーク化の推進(共通)
 自治体病院が、相互の連携、機能分担及び病床の合理化を一層推進し、その再編等医療提供体制を抜本的に見直す取組を、地方財政措置等により支援し、推進する。


(3) へき地医療や小児救急医療等に対する関係者の責務の明確化と積極的評価
(1)  国及び地方公共団体の責務の明確化(共通)
 医療法上、国及び地方公共団体の医療提供体制の確保についての責務が規定されているが、その役割に基づき、国及び地方公共団体は、へき地医療や小児救急医療等の確保に努め、また、医療計画の策定に係る基本方針を国は新たに定めることとするなど、国及び地方公共団体の責務の明確化を図る。

(2)  公的な医療機関によるへき地・離島の診療支援の責務の明確化(へき地)
 国公立病院等も含めた公的な医療機関によるへき地診療支援の責務を医療法上明確化する。

(3)  地域において必要不可欠な医療についての医師の責務の明確化(共通)
 へき地診療、夜間診療、救急医療など、地域において必要とされる医療への従事、協力に関する医師の責務を明確化する。

(4)  地域医療支援病院制度の活用(へき地)
 へき地・離島の診療に対する支援について、地域医療支援病院の機能として位置づけ、承認する際にその活動を評価する。このため、現行の地域医療支援病院の主な2要件(「紹介外来制の原則」「救急医療の提供」)の他に、へき地医療支援(へき地への医師派遣、代診機能、へき地医療機関からの紹介・逆紹介の評価等)を新たに要件とするなど、承認要件の見直しを行う。

(5)  公益性の高い医療を行う医療法人の支援(税制面での配慮)(共通)
 へき地医療、小児救急医療、周産期医療のうち一定のものについて、公益性の高い医療サービスと位置づけ、これを一定程度担う公益性の高い医療法人に対し、税制面での配慮を行うことを検討する。

(6)  へき地・離島での医師の診療に対する評価(へき地)
 今後専門医の育成の在り方について検討が行われる中で、へき地・離島での診療を「地域診療」に関する専門性として評価することについて検討する。

 へき地診療に係る実務経験を、へき地医療に関連のある専門医の取得要件として評価することを、関連のある学会へ働きかける。

(7)  へき地・離島での医師の診療経験の評価(へき地)
 へき地・離島での診療への動機付けを図る観点から、地域における公的病院等において、報酬や勤務条件(就職、昇進等)の面において、へき地・離島での医師の診療経験を評価するよう働きかける。

(8)  へき地・離島等での診療活動に対する国民の理解の推進(共通)
 へき地診療、夜間診療、救急医療、小児・周産期医療など、地域において必要とされる医療に従事、協力をする医師の活動について、広報等による周知を積極的に行い、国民の理解を深める。


(4) 養成・研修課程における医師確保対策
(1)  医学部定員の地域枠の拡大(地域による奨学金の有効活用等)(共通)
 医師確保が困難な都道府県における医師確保対策に資するものとして、入学定員における地域枠の拡大を促進する。 その際、都道府県において、奨学金の有効活用等、実際に地元に定着することに結びつける施策を講ずることを促す。

(2)  自治医大の定員枠の見直し等(へき地)
 医師確保の困難さを勘案し、自治医大の定員枠の見直しと卒業生の地域への定着促進策について検討する。

(3)  臨床研修における地域診療の推進(へき地)
 卒後臨床研修制度で現在履修が義務化されている「地域保健・医療」の分野について、臨床研修病院及び大学病院に対し、へき地・離島診療所を含む地域診療を体得できるような研修プログラム作りを促す。

(4)  臨床研修における幅広い基礎的診療能力を持つ医師の養成(診療科)
 卒後臨床研修制度において、すべての医師がプライマリ・ケアを中心に幅広く基本的な診療能力を身につけることにより、小児科・産婦人科、救急等での初期対応が可能となる医師の養成を推進する。

(5)  地域医療等社会的ニーズに対応した医療人教育支援プログラム(共通)
 地域医療等社会的ニーズに対応したテーマ設定を行い、大学病院を置く国公私立大学から申請された教育プログラムの中から、特色ある優れたものを選定し、財政支援を行うことにより、大学病院の教育の活性化を促進するとともに、へき地を含む地域医療を担う人材の養成を推進する。


(5) へき地医療等に対する支援策の強化
(1)  へき地・離島の保健医療サービスに対し継続的に支援する民間医療機関に対する医療計画上の配慮(へき地)
 病床過剰地域に開設された病院の開設者が同一都道府県内のへき地・離島の保健医療サービスを支援し、へき地・離島の患者を当該病院で治療する場合、当該患者の治療に係る分としての病床を認めることにより、民間医療機関によるへき地の保健医療サービスの提供を支援する。

(2)  都道府県又は地域ブロック内でのキャリア形成を可能にする医師育成システムの構築(共通)
 都道府県やそれを超えた地域ブロック内におけるキャリア形成を確立するための医師育成システムを構築し、当該地域内での医師としてのキャリア形成を可能にする。

(3)  都道府県による医師派遣(共通)
 都道府県において、へき地・離島等の公立医療機関に派遣するための医師を雇用するとともに、魅力ある研修コースの設定等により当該医師のへき地・離島等勤務への定着を図る、といった取組を推進する。

(4)  へき地医療支援機構の診療支援機能の向上(へき地)
 都道府県が設置するへき地医療支援機構に新たに非常勤医師を配置することにより、機構の代診医の派遣調整業務の充実強化等診療支援機能を向上させるとともに、機構に所属する医師がへき地診療所において代診できるようにする。

(5)  へき地・離島診療支援事業(仮称)(へき地)
 へき地・離島診療所に勤務する医師からの医療相談に24時間応えることができる医師を新たに地域医療振興協会に配置する。

(6)  へき地に医療機関を設置する民間医療機関への支援等(へき地)
 現在のへき地保健医療対策において、民間医療機関がへき地に設置する医療機関の設備等についても、国庫補助の対象としていることについて周知を図る。
 へき地において、医療機関の再編統合と重点化により、地域の高度な保健医療サービスの提供を行う場合、複数の医師の配置が可能となるような支援措置の活用を図る。

(7)  情報通信技術(IT)による診療支援(へき地)
 画像診断等遠隔診療を推進し、へき地・離島において診療に従事する医師の支援体制を整備する。
 遠隔医療システムなど、すでに組織的に取り組まれている好事例等の周知。
 地域医療振興協会において、全国からの専門的な診療に関する意見照会や相談等に対し、情報通信技術(IT)によって対応可能な体制を確保。
 医師が常駐しないへき地診療所の看護師の活動を支援するため、情報通信技術(IT)を用いた医師による遠隔診療のための設備について引き続き国庫補助を行う。

(8)  へき地・離島医療マニュアル(仮称)の作成(へき地)
 へき地・離島においては、住民側から不足があるとの不満とともに、医師の側からもどのような保健医療サービスを提供すればよいか分からない、といった不安の声がある。そのため、新たにへき地・離島に赴任する医師等を対象に、へき地医療において実践されるべき保健医療サービスに関する標準的なマニュアルの作成に取り組む。

(9)  医師に対する救急医療講習の実施(へき地)
 へき地・離島では、重症救急患者の発生が少なく、へき地・離島に勤務する医師にとって経験を積む機会が限られている。一方、いったん重症救急患者が発生した場合には、患者の初期治療に当たらなければならないため、へき地・離島に勤務する医師に対し、重症救急患者の適切な初期治療を行うための救急医療講習の受講を支援する。

(10)  巡回診療の実施(へき地)
 診療所に医師が常駐できない地域においては、へき地・離島医療の中核となる診療所による巡回診療に対し引き続き支援を行う。

(11)  へき地・離島の患者の搬送方策の確立(へき地)
 へき地・離島における患者のヘリコプター等による搬送に関し、患者の搬送によって当該へき地・離島の医師が不在となることのないよう、搬送に係る具体的な手順等を定めるとともに、関係者が共有する。

 移動手段を持たない高齢者が容易に医療機関に受診できるよう、引き続きへき地患者輸送車による支援を行う。

(12)  麻酔科標榜医の活用(診療科)
 麻酔業務を行っていない麻酔科標榜医の活用等を図る。


(6) 診療報酬における適切な評価(共通)
 診療報酬における適切な評価について検討する。


(7) 需給調整機能の強化と働き方の多様化への対応
(1)  地方医療機関と勤務希望医師のマッチングの推進(共通)
 へき地医療情報ネットワーク、自治体病院・診療所医師求人求職支援センター、地域医師会のドクターバンクなど、関係機関による協議会を開催し、各種事業の総合調整を行い、地方医療機関の求人求職情報の公開を通じた医師の労働力の需給調整機能を強化する。

 特に、へき地・離島での取組の紹介、掲示板機能によるへき地・離島での診療の志望者に対する相談等幅広い取組を実践しているへき地保健医療情報システムについては、診療志望者に限らず、住民や関係者へ普及啓発するといった機能を追加するなど、今後も必要な見直しを行いながら実施する。

(2)  大学における医師紹介システムの明確化・透明性の確保(共通)
 大学における医師紹介システムの明確化及び決定プロセスにおける透明性の確保を推進する(平成17年3月現在35大学で窓口を一本化)。

(3)  女性医師バンク(仮称)事業の創設(共通・特に診療科)
 女性医師がライフステージに応じ、多様な就業形態を通じてキャリア形成していくことができるよう、パートタイム勤務等の職業斡旋事業、女性医師バンクの設立・運営等を委託事業として創設する。

(4)  仕事と育児を両立できる就労環境の整備(共通・特に診療科)
 医療従事者の子育てを理由とした退職の減少や、子育てを理由に退職した医師の復帰支援を図るため、子育てしながら働くことができる環境を整備(産休、育休代替要員の確保、保育の充実等)することを事業者に働きかけるなどにより、小児科・産科等における診療に従事する医師の増加を図る。

(5)  女性医師復帰支援講習会の開催(共通・特に診療科)
 女性医師の確保を図るため、医療機関を退職等した医師に対し、再就職等を支援するための講習会を開催する。

(6)  退職医師の活用(へき地)
 へき地・離島への医師の供給を促進するため、定年等で退職した医師の再就職のための再教育等の充実強化を図る。


(8) 医師の業務の効率化
(1)  医師の業務の効率化(共通)
 チーム医療を推進し、医師の業務の効率化や医療の質の向上を図るため、医療関係職種や事務職員との役割分担、連携を進める。

(2)  夜間の軽症小児救急患者に対するテレフォンサービスの活用等(診療科)
 医師、看護師等による夜間の電話相談事業等、患者からの相談受付体制を整備することなどにより、夜間救急への集中を緩和させるなど、患者の受療行動面に働きかけ、効率的な救急医療の提供を確保する。

 救急対応のガイドブックの普及を図ることにより、救急医療に関する患者の受療行動の変化を促す。

(3)  小児科医師以外の医師による小児の初期救急医療への参加(診療科)
 小児初期救急診療ガイドブックの活用等により、小児科医師以外の医師に小児の初期救急医療への参加を促す。

(4)  麻酔科医の業務の効率化(診療科)
 麻酔に関する業務について、看護師の研修の推進により、麻酔科医と看護師の一層の連携を進め、麻酔科医の業務の効率化を図る。

(5)  産科医師と助産師の役割分担・連携(診療科)
病院・診療所における正常妊産婦を対象とした助産師による外来や助産所との連携を図ることにより、産科医師と助産師の役割の分担・連携を進める。

(6)  在宅・終末期医療における看護師の役割の明確化(共通)
 在宅がん末期患者の疼痛緩和のため、医師の具体的な指示に基づき、看護師が患者の疼痛の状況に応じて適切に麻薬製剤の与薬等を行うことができるよう支援する。

 在宅の終末期患者の死亡に際し、医師の指示に基づき、看護師が患者の尊厳や家族に配慮する観点から適切な対応ができるよう支援する。


(9) その他の医師確保策
(1)  へき地等における人員配置標準における特例の導入(へき地)
 国が定める基準を下回る人員配置であっても、都道府県知事が、医療計画等において、医療提供の体制を確保できると判断できる場合には、一定の圏域を指定し、その圏域内の医療機関については、全国一律のものより緩やかに設定する数を上回っていれば、「標準を欠く」には当たらない取扱いとする仕組みを創設する。

(2)  自衛隊医官との連携(共通)
 自衛隊医官にとっては、専門的な医療技術の取得に必要な症例の数と種類を短期的に経験できる医療機関が必要とされている。自衛隊医官にとって望ましいとされる専門的研修が可能な地域の医療機関への派遣がされた結果、その医療機関からへき地にある医療機関への別の医師が派遣可能になるなど、間接的な効果も考えられることから、自衛隊医官の地域の医療機関への派遣について検討を進める。

(3)  裁判外紛争処理制度の検討(診療科)
 周産期医療分野における医療訴訟の件数が多いことが、産科を志望する若手医師の減少の理由の一つとされることから、医療分野における裁判外紛争処理制度等について、様々な課題も踏まえつつ、具体化に向けた検討を進める。

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