参考資料2

平成17年7月29日

医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等の
あり方に関する検討会  座長
   山路 憲夫 様

日本看護協会 常任理事
菊池 令子

新人看護職員の卒後研修に関する意見

 医療の高度化、複雑化、在院日数の短縮等に伴い、安全な医療・看護の提供が難しい危機的状況にあります。看護業務の密度が高まり、看護職員に高い能力が求められる今日、看護職員の適切な配置と資質向上が急務です。
 看護職員の資質向上に向けて、次のことが強く求められます。

 ● 看護師の基礎教育について教育期間延長を視野に入れて見直し充実すること
 ● 保健師助産師看護師法改正により、免許取得後の新人看護職員に臨床研修を義務付けること

【理由】
1. 医療安全対策が緊急課題の中、新人看護職員は医療事故を起こす可能性が高い。
看護職員は、新人といえども「診療の補助」業務の「最終実施者」となることから、知識・技術の未熟な新人看護職員が医療事故に遭遇する危険性が高い。厚生労働省のヒヤリハット事例収集事業によると、ヒヤリハット当事者の81.7%が看護職員であり、13.0%が職種経験0年の新人である(看護職員以外も含む)【図1、図2】。
本会調査によると、病院内で報告されたインシデント総件数のうち81%に看護職員が関与しており、そのうちの13%に新卒看護職員が関与している(本会平成16年「新卒看護職員の早期離職等実態調査」)。
新卒看護職員の7割以上は、入職後3ヶ月経過しても基本となる看護技術103項目のうち68項目を一人で実施できないにもかかわらず、半数以上の新卒者が入職2ヶ月で夜勤業務を始めている(本会2002年「新卒看護師の看護基本技術に関する実態調査」)。

2. 新人看護職員の入職時の「看護技術能力」と、病院側が求める能力との格差が大きい。
医療の高度化に伴い、看護職員にも高い知識・技術・能力が求められているが、新卒看護職員の臨床看護実践能力が看護管理者の期待する水準に達していない。新卒看護師の7割以上が「入職時1人でできる」と認識している技術は、132項目のうちわずか4項目にすぎない(本会2002年「新卒看護師の『看護基本技術』に関する実態調査」)。

3. 基礎教育の中で臨床技術を学ぶことが困難となっている。国家免許取得後に、実践の場でしか培えない能力を獲得するための研修が必要である。
近年、看護基礎教育では、患者の権利意識の向上や医療安全確保の観点から、人間を相手とした技術の実習経験が制限されることが多くなっている。免許取得後、実践の場でしか培えない能力を獲得する機会を保障し、リアリティショック、適応障害、早期離職の防止を図ることが必要である。
看護教員の85.3%が卒後研修の必修化が必要と考えている(本会2003年 看護教育基礎調査」)。

4. 新人看護職員の臨床研修を病院の努力に任せておくのは限界にきている。
病院では看護部が中心となって、新人育成のために、医療・看護の安全に関する研修の実施(90.7%)、プリセプター制導入(85.6%)、看護技術実地指導者の配置(37.5%)、年度当初の一時的看護要員配置増(22.9%)などの対策をとっている(本会2004年「新卒看護職員の早期離職等実態調査」)。
しかし、医療が高度化、複雑化し、在院日数が短縮化して看護業務の密度が高まる中、新卒看護職員の育成を病院の努力だけに頼ることは限界にきている。

5. 病院に就職した新人看護職員の離職率は9.3%にのぼる。その背景には知識・技術不足や医療事故への不安がある。
平成15年度に病院に就職した新卒看護職員の入職後1年以内の離職率は9.3%であった(2003年度実績 本会「2004年病院における看護職員需給状況調査」)。平成15年4月に病院に就業した新卒看護職員は47,585人(平成15年看護関係統計資料集)であることから、4,425人が離職したと推計される。この離職者数は看護師等学校・養成所(平成15年4月時点で1校の1学年定員を平均43人と計算)の103校分に相当する。
新卒看護職員は、仕事を継続する上での悩みとして、「配属部署の専門的な知識・技術が不足している」(77%)、「医療事故を起こさないか不安」(69%)、「基本的な技術が身についていない(69%)を挙げている<複数回答>【表1】(本会「2004年新卒看護職員の早期離職等実態調査」)。
看護管理者、学校教育者ともに、新人の職場定着を困難にしている要因として「基礎教育終了時点の能力と看護現場で求める能力とのギャップ」をトップにあげている【表2】。

6. 他の医療職種の教育が充実する中、看護の基礎教育だけが50年以上変化していない。看護教員は、現在の教育期間(3年間)では不足していると考えている。
医療の高度化、複雑化に伴い、チーム医療における看護職員の責任は重くなっている。他の医療職種は教育年限が延長され、臨床研修制度が整備される中、看護教育だけが昭和26年以降50年以上基本的に変化していない。
看護教育の当事者である看護教員は、看護師養成課程における教育期間(3年)について、57%が「延長した方が良い」と考えている(本会2003年「看護教育基礎調査」)。


【図1.ヒヤリハット当事者の職種】

ヒヤリハット当事者の職種の図
(ヒヤリ・ハット事例収集 平成16年4月〜9月集計より)

【図2.ヒヤリハット当事者の職種経験年数】

ヒヤリハット当事者の職種経験年数の図
(ヒヤリ・ハット事例収集 平成16年4月〜9月集計より)

【表1】  新卒看護職員の仕事を続ける上での悩み(複数回答 上位4位)
新卒看護職員n=741
1. 配置部署の専門的な知識・技術が不足している  76.9%
2. 医療事故を起こさないか不安である  69.4%
3. 基本的な技術が身についていない  67.1%
4. ヒヤリ・ハット(インシデント)レポートを書いた  58.8%
(本会2004年新卒看護職員の早期離職等実態調査より)


【表2】  新卒看護職員の職場定着を困難にしている要因(複数回答 上位3位)
 上位3項目については病院(看護管理者)、看護学校(教務主任等)ともに見解が一致している。
病院調査
(n=1,219)
学校調査
(n=436)
1. 基礎看護教育終了時点の能力と看護現場で求める能力のギャップ   76.2%
2. 現代の若者の精神的未熟さや弱さ 72.6%
3. 従来に比べ看護職員に高い能力が求められるようになってきている 53.3%
80.3%
76.4%
47.0%
(本会2004年新卒看護職員の早期離職等実態調査より)

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