医師の需給に関する検討会中間報告書
―特定の地域及び診療科における医師確保対策のための緊急提言―

平成17年7月27日

.はじめに
 本検討会においては、昨年の「へき地を含む地域における医師の確保等の推進について」(地域医療に関する関係省庁連絡会議)を踏まえ、平成17年度中に医師の需給に関する報告書をとりまとめるべく、検討を行っているところである。
 一方で、平成18年度での医療制度改革を目指して、医療制度全般の改革について、社会保障審議会医療部会において議論が進められているところである。
 本検討会の最終的な目標は、平成10年の医師の需給に関する検討会報告書公表後の医療を取り巻く環境の変化や社会経済状況の変化等を踏まえた医師の需給の将来推計及び今後取り組むべき課題についての検討を行うことであるが、一方で、病院における医師の不足感、医師の偏在による特定の地域や診療科における医師不足など、医師の需給に関し早急に対応策を講じる必要がある課題が指摘されているところである。これらの課題については、最終報告書を待たずに、中間報告として取りまとめ、国民的な議論に付することが適当と考えた。
 以上のことから、医師の需給に関する諸課題のうち、喫緊の課題としてできる限り早期に手当てすべきと考えられるものに関する施策について、本検討会における議論を取りまとめるものである。
 さらに残された課題については、最終報告書の取りまとめに向け引き続き議論を行っていくこととしたい。

.医師の需給に関する現状についての議論
 平成10年の「医師の需給に関する検討会報告書」においては、医師の需要を最大、医師の供給を最小に見積もっても、平成29年には医師は過剰になるという推計が示されている。本検討会では、今後、最終報告書に向けて定量的な調査・分析を行っていく必要があるが、医師の需給についての現状に関する、現在までの主な議論は以下のとおりである。

(1) 医師数は、近年、年間4,000人程度増加しているにもかかわらず、現状では充足感がなく、むしろ、患者及び医師の双方から見て、医師は不足していると感じられる場面が多い
(2) 医療機関、診療科、時間帯、地域による医師の偏在があるのではないか

 これまでの、上記(1)の理由に関する議論について、整理すると以下のとおりである。

(@) 需要側の変化
  @) インフォームド・コンセントの普及をはじめとして患者と医師の関係が変容している。治療方針の内容やその危険性について患者に十分説明することが求められており、患者一人あたりの診療時間が延びているのではないか。
  A) 医療を受ける国民全体の高齢化に伴い、医療が対象とする疾病構造が感染症中心からがん・脳卒中・心疾患中心に変化している。これらは、感染症に比べ、継続的な経過観察・治療を必要とするケースが多い。
  B) 医療が高度化、専門化、細分化していることに伴い、1人の患者に対し複数の専門分野の医師がチームで医療を行うことが必要になっている。
  C) 患者の側にも専門医志向が強くなっており、初期段階から専門分野の医師による診療を求める傾向が強い。

(A) 供給側の変化
  @) 医師の専門化が進み、結果として一人の医師が対応できる患者や疾病の範囲が縮小しているのではないか。
  A) 女性医師の数は平成に入って対前年で10%以上の伸びを示しており、全医師数に占める割合も近年増加のペースを速めている。育児休業等、子育てと仕事の両立を支える制度の整備は進んでいるが、実態では女性医師は男性医師に比べ出産、育児による労働の一時的な中断や短縮が多く、平均した生涯労働時間が少ない傾向にあるため、女性医師の比率の増加が、結果として医師数の増加に見合った診療量の増加をもたらしていないのではないか。
  B) 臨床研修にマッチングシステムが導入され、研修医が出身大学にとらわれずに研修施設や研修プログラムをその内容に基づいて選択することが可能となったことにより、研修医の流動化と指導医の確保について問題が生じているのではないか。

 次に、上記(2)の理由に関する議論は、以下のとおりである。
  @) 例えば、当直などで長時間労働を余儀なくされる勤務医を避け、相対的に拘束時間の短い診療所を志向したり実際に開業する医師が増え、病院の勤務医から開業医へというような、医師のシフトが起こっているのではないか。
  A) 特に、平日の日中のみ診療を行う診療所が増加し、その結果、夜間救急への対応が求められる病院の勤務医の負担の増加を招いているのではないか。
  B) 昨年度から国立大学が法人化して労働基準法が適用されたこと及び研修医の流動化に伴い、労働力のさらなる確保のために、大学病院から地域の病院に派遣していた医師を大学に引き上げることにより、地域別格差が拡大しているのではないか。
  C) 地域医療を守っている医師の多くが引退年齢にさしかかっており、地域によっては代替する医師が確保できず、地域別格差が拡大しているのではないか。
  D) 医師の間に、特定の診療科や地域に行くことを避ける傾向が高まっているのではないか。具体的には、病院における産婦人科や、小児を含む救急医療のような、長時間の過重労働を強いられる診療分野に継続して従事する医師が減少したり、また、医師が過疎地に行かなくなっているのではないか。このことにより、診療科別格差、地域別格差が拡大しているのではないか。

.当面の対応策
 最終報告書に向けての将来の医師需給の推計は、上に述べたような現状を十分踏まえるべきであるが、そのうち、特定の地域と診療科における医師不足は深刻な問題となっており、喫緊に対応すべき課題である。それらに対する当面の対応策として考えられるものを以下(別紙参照)のとおり列挙した。
 地域偏在の問題には、都道府県別でみた格差と、都道府県内における格差と、2種類の格差があると考えられるので、対応策を検討する際には区別して論じる必要がある。

.最終報告書に向けた検討課題

労働法規の遵守の影響
 夜間の当直の後も通常どおり勤務しなければならないなど、医師の重労働の実態については多くの指摘があった。このような医師の献身的労働によって現場の医療が支えられていたことは事実であるが、医師も労働者である以上、このような労働形態は改められなければならない。一方で、労働法規を遵守することが医療提供の在り方にどのような影響を及ぼすのか、検証していく必要がある。

女性医師の就業のマルチトラック化
 臨床医に占める女性医師の割合は約15%であるが、国家試験合格者では女性の占める割合は3分の1となっており、今後女性医師の割合は増加していくと予想される。女性医師は出産や育児により労働時間が短くなる傾向があると考えられ、女性医師の割合の増加による、医師の需給への影響を検証するとともに、パートタイム勤務など、女性医師がライフステージに応じて働くことのできる柔軟な勤務形態の促進を図る必要がある。

医療関連職種等との連携
 医師とその他の医療関連職種等の者が、それぞれの専門性を発揮しつつ、協力してチーム医療を行うことにより、医師の業務の効率化や患者が受ける医療の質の向上につながると考えられる。

医師養成の在り方
 国民が「医師が不足している」と感じる原因の一つに、国民の初期段階からの専門医受診志向が進み、医師も専門分野以外の診療を厭い、一人の患者に多数の専門分野の医師が診療にあたる状態になっていることがあるのではないかと考えられる。一方、初期段階から、細分化した専門分野の医師が患者の医療にあたるのは、決して効率的とはいえないのみならず、高齢化により複数の疾患を抱える者が増加している昨今、適切な診断・治療が確保しにくくなる恐れもある。医療資源の有効活用及び、社会のニーズに適した医療の確保のためにも、幅広くプライマリーケアのできる医師を養成していくことが必要である。これに関し、全体的にプライマリーケアができるということそれ自体も専門性であり、そういう専門性を国として認定していくことも必要ではないかとの意見があった。
 また、必修化された医師臨床研修修了後に一定の専門性を持ちつつ、さらに臨床能力を向上させるため、いわゆる後期臨床研修の在り方を検討する必要がある。その基本として、特定の診療領域において、関連領域を含めた経験症例数、手技などの到達目標や期間を設定した研修プログラムを作成し、その情報を公開した上で、それに基づいた臨床研修を行う必要がある。

国民の理解の促進
 医療についての国民の理解と協力を促進することは、例えば救急でなければできるだけ夜間ではなく昼間に診療を受けるようになったり、初期段階ではまずプライマリーケアを行う医師の診療を受けるようになるなど、患者の受療行動の変化を促し、特定の診療分野の負担の軽減や医療資源の有効活用につながるのではないか。また、医療体制の整備とそのコストは表裏一体であることを国民に情報発信していく必要がある。

医療連携体制の推進
 医師不足が問題となっている地域や診療科において、医師の充足が即時に見込めないからには、既存の地域の医療資源を最大限活用した医療連携体制の一層の推進を図る必要がある。
 なお、この課題の解決には、小児救急、救急医療、麻酔科、産科など特定の診療科・部門の集約化も必要であるとの意見があった。

将来の医師需給
 最終報告書に向けての将来の医師需給の推計は、この中間報告書で述べてきたような、医療の質と量の変化をはじめとした医師の需要側の変化、労働法規の遵守、女性医師の増加などの供給側の変化を十分考慮に入れたものとすべきである。また、総量としての医師の数だけではなく、診療科別、地域別に需給の推計を行うことにより、現在医療の場で起こっている変化やその対策が明らかになると考えられる。併せて、医師需給を取り巻く変化の定量的な分析や将来推計に必要なデータを得るための基盤整備を進めていく必要がある。

(以上)



当面の医師確保対策(医師需給検討会中間報告書別紙)



 医師不足地域における医師確保(へき地の医師確保を含む)
医師の地域偏在・・・
@)都道府県別で格差があること
A)同一都道府県内でも、都市部と周辺部で格差があること

A.地方勤務への動機付け
(1)医師のキャリア形成における地方勤務の評価(人事面、給与面等)
 国公立の公的病院等公益性の高い病院等において、人事面、給与面等で、地方勤務を積極的に評価することにより、地方勤務への動機付けを図る。
(2)都道府県又は地域ブロック内でのキャリア形成を可能にする医師育成システムの構築
 都道府県やそれを超えた地域ブロック内において医療機関等をローテートすることによる医師育成システムを構築し、当該地域内での医師としてのキャリア形成を可能にする。
(3)へき地医療を支援する病院に対する医療計画上の配慮
 病床過剰地域に開設している民間の医療機関が、同一都道府県内のへき地の医療を支援し、へき地の患者を当該医療機関で診療する場合、医療計画上の配慮を行う。
(4)税制面での配慮
 へき地医療を公益性の高い医療サービスと位置づけ、これを担う医療機関に対し、税制面での配慮を行うことを検討する。

B.地方勤務への阻害要因の軽減・除去
(1)へき地勤務医師のバックアップ体制の強化
 地域医療支援病院の主な2要件(「紹介外来制の原則」「救急医療の提供」)の他に、へき地医療支援(へき地への医師派遣、代診機能、へき地医療機関からの紹介・逆紹介の評価等)を新たに要件とする。
(2)地方医療機関と勤務希望医師のマッチングの推進
 へき地医療情報ネットワーク、自治体病院・診療所医師求人求職支援センター、地域医師会のドクターバンクなど、各種事業の総合調整を行い、地方勤務の求人求職情報の幅広い流通を可能にする。
(3)ITの活用、推進
 画像診断の活用等遠隔診療を推進し、遠隔地における診療に従事する医師の相談への対応体制を整備する。

C.医師の分布への関与
(1)医学部定員の地域枠の拡大(地域による奨学金の有効活用等)
 医師確保が困難な都道府県における医師確保対策に資するものとして、入学定員の地域枠の拡大を推進する。その際、奨学金の有効活用等、実際に地元に定着することを促す施策を併せて検討する。
(2)自衛隊医官との連携
 自衛隊医官の専門的研修が可能な地域の医療機関への派遣を行う。
(3)自治医大の定員枠の見直し等
 医師確保の困難さの度合いに応じ、原則各都道府県一律となっている定員枠を弾力的に見直す。
(4)臨床研修における地域診療の推進
 現在義務化されている地域保健・医療において、へき地、離島診療所を含む地域診療を体得できるような研修プログラム作りを促す。

D.既存の医療資源の活用等
(1)雇用関係の多様化の促進
 へき地等への医師の供給を促進するため、定年等で退職した医師の再就業のための再教育等の充実強化を図る。
(2)医師の業務の効率化
 チーム医療を推進し、医師の業務の効率化や医療の質の向上を図るため、医療関連職種や事務職員との連携を進める。

 医師が不足している産科等特定の診療科における医師確保
A.不足している診療科への誘導
(1)診療報酬での適切な評価

B.不足している診療科における診療の阻害要因の軽減・除去
(1)地域内協力体制の整備(夜間救急への診療所医師の協力)
 夜間救急など、医師不足が深刻な診療分野に関し、診療所の医師も含めた地域の連携・協力体制を構築する。
(2)夜間救急患者の集中緩和方策(テレフォンサービスの活用)
 夜間の電話相談事業等、患者からの相談受付体制を整備することなどにより、夜間救急への集中を緩和させるなど、患者の受療行動面に働きかける。

.既存の医療資源の活用
(1)特定の診療科における医療資源の集約化の推進
 特定の診療科について、少人数で診療を行っている医療機関が散在している地域においては、地域医療対策協議会を活用することなどにより、地域における連携体制を構築した上で、効率的に診療機能をまとめるなど、医療資源の集約化を推進する。
(2)女性医師の多様な就業への環境整備
○ 短時間勤務、在宅勤務の導入など、女性医師の働きやすい勤務形態についての検討や、全国的な女性医師の就業支援システムの整備により、女性がライフステージに応じて働くことのできる環境整備を図る。
(3)麻酔科医の確保
 麻酔業務を行っていない麻酔科標榜医の活用等を図る。

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