「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」中間取りまとめ(抄)
(総論)


第1  総論

 労働契約法制の必要性
(1)  これまでの労働関係
 労働契約は、本来、労働者と使用者との間において、労使対等の立場での交渉を経て、当事者間の合意により決定すべきものである。しかし、労働者と使用者との間には情報の質及び量の格差や交渉力の格差があるため、これを完全に契約自由の原則に委ねるとすれば労働者にとって酷な結果をもたらすこととなりかねない。
 そこで、労働組合法においては、労働者が労働組合を組織し団結することを擁護し、これにより労使間の格差の是正を図ってきた。また、このことは、労働条件が労働者の集団と使用者の集団的な交渉によって定められることを意味し、企業組織において労働条件が統一的、画一的に定められる必要性があったことにも合致していた。
 また、労働基準法等においては、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」(労働基準法第1条)との考え方に基づき、賃金、労働時間等の全国的統一的な労働条件の最低基準を定め、これを下回る労働条件については法律の基準まで引き上げるとともに、罰則をもって使用者の義務の履行を担保し、かつ、臨検監督による行政指導を行ってきた。
 実際にも、従来、労働条件は労働協約や就業規則によって統一的、画一的に規律される場合が多く、個別の労働契約書が交わされこれにより労働条件が定められることは稀であった。労働者自身も、例えば、年功的な賃金制度の下においては年齢や勤続年数が同じ労働者については賃金の額も概ね同じように決定されてきていたことなどから、自らの労働契約の内容に対する関心は必ずしも高かったとはいえず、個別の合意による権利義務関係の設定も求めてこなかった。

(2)  近年の労働契約をめぐる状況の変化
 ア  労働条件の個別的・迅速な決定・変更の必要性
 しかしながら、序で述べたように、近年、長期雇用慣行及び年功的処遇体系の見直しが進み、中途採用の増加、採用方法の多様化、成果主義・能力主義的処遇制度の導入・拡大など、人事管理の個別化・多様化・複雑化が進み、また、非正規雇用で就業する労働者が約3割を占めるに至るなど、就業形態や就業意識の多様化が進んでいる。このため、労働者ごとに個別に労働条件が決定・変更される場合が増えており、それに伴う紛争も増えている。特に、バブル崩壊後の経済の低成長の中での労働条件の変更においては労働条件が引き下げられる場合が多く、不可避的に紛争が増加している。
 さらに、企業としては、事業環境や経営環境の急激な変化に対して、従前にもまして速やかに適応しなければ企業の存続自体が危ぶまれる場合も生じてきており、その際には、紛争なしに労働条件の変更が迅速に行われることが必要となる。
 一方、労働組合の組織率が低下し、団体交渉等による集団的な労働条件決定システムの機能が相対的に低下してきていることから、労働条件の決定・変更に際して労働者の意思が反映される仕組みが不十分となってきている。また、労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方に対応した労働時間法制の見直しの必要性も指摘されている。
 このような状況の変化に伴い、個々の労働者の権利意識は高まってきており、使用者のなす解雇や労働条件の引下げに対して自らの権利を主張する労働者も増えている。その際、企業という共同体の中でのみこのような紛争の解決を図るのではなく、公平な第三者による判断を求める場合も多く、裁判所や都道府県労働局等における個別労働関係紛争は増加傾向にある。

 イ  労使当事者の自主的な決定と公正かつ透明なルールの必要性
 上記アのような就業形態の多様化等による労働条件の個別的な決定・変更の必要性からは、労使当事者が、最低基準に抵触しない範囲において、労働契約の内容をその実情に応じて自主的に決定することが重要となる。その際には、労使当事者の行動の規範となる公正かつ透明なルールを設定する必要がある。このようなルールが設定されれば、労使当事者が、これに基づいて、労働契約を適正・明確な内容で締結することや、締結された労働契約を契約どおりに適正に運用すること、そして労働契約の内容を適正に変更していくことが促進される。
 企業の現状を最もよく把握している労使当事者が、公正かつ透明なルールに従って対等な交渉により自主的に労働条件を決定していくことは、企業にとっても、経営環境の変化等に迅速かつ柔軟に対応することができるという大きな利点があるものである。
 また、我が国全体として事前規制・調整型社会から事後監視・救済型社会への転換や、法の支配の原則に従った社会や企業の運営が求められてきている大きな流れからしても、労働契約においても労働者と使用者が権利義務の主体として自律的に行動し得るように公正かつ透明なルールの整備が必要となっている。個別労働関係紛争において公平な第三者による判断を求める場合が増加していることもこの流れに合致し、公正かつ透明なルールの設定は、紛争を迅速かつ適正に解決するためにも重要な意義を有している。
 ウ  現在の労働契約に関するルールの問題点
 上記イのとおり、労働契約に関しても労使当事者の自主的な決定を促進する公正かつ透明なルールを設定する必要があるが、現在の労働契約に関するルールについては以下のような問題がある。
(ア)  判例法理の限界
 現在、労働契約をめぐるルールは判例法理に委ねられている部分が多いが、判例によるルールは個別の事案に対する解決の積み重ねであり、その内容も「(新たに作成又は変更された就業規則の)当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」等の抽象的なものが多いため、具体的な事案に適用する場合の予測可能性が低く、一般的に労使当事者の行動の規範とはなりにくい。また、判例法理は既存の法体系を前提に判決当時の社会通念を踏まえて形成されたものであるところ、今日の雇用労働関係の下におけるより適切なルールを定立する必要性が高まっている。
(イ)  労働契約に関するルールを既存の法律に定めることの限界
 労働基準法は、最低基準としての労働条件を保障する観点から、特に賃金や労働時間のような、労働者の生活に与える影響が大きく客観的で一律の基準を設定することが可能な事項を中心に、罰則及び監督指導により履行を確保してきたところであるが、労働契約に関する一般的なルールを定める法律がほかにないことから、解雇権濫用法理のように労働契約に関するルールであって罰則及び監督指導を前提としないものまで同法で規定するようになっている。
 今後、純然たる民事的効力を定める規定を更に労働基準法に盛り込むとすれば、罰則と監督指導によって労働条件の最低基準を保障する労働基準法において性格の異なる規定が増加し、法律の体系性が損なわれることとなる。また、労働契約に関するルールには労働基準法第13条の定める強行的・直律的効力とは異なるより多様な民事的効力も考えられるところ、これを現行の労働基準法に取り込むことは必ずしも適切ではない。

(3)  労働契約法制の必要性
 ア  労働契約法制の必要性
 以上のような状況の変化及び問題点を踏まえ、労働関係が公正で透明なルールによって運営されるようにするため、労働基準法とは別に、労働契約の分野において民法の特別法となる労働契約法制を制定し、労使当事者がその実情に応じて自主的に労働条件を決定することができ、かつ、労働契約の内容が適正なものになるような労働契約に関する基本的なルールを示すことが必要である。
 この労働契約法制においては、単に判例法理を立法化するだけでなく、実体規定と手続規定とを組み合わせることや、当事者の意思が明確でない場合に対応した任意規定、推定規定を活用することにより、労使当事者の行動規範となり、かつ、具体的事案に適用した場合の予測可能性を高めて紛争防止にも役立つようなルールを形成することが必要である。

 イ  労働基準法と労働契約法制それぞれの役割
 労働基準法には、強制労働の禁止や中間搾取の排除等のように基本的な人権に反する封建的な労働慣行の排除を目的としている規定があるが、これらについては引き続き罰則及び監督指導によって履行を確保することが不可欠である。また、労働者の賃金の支払や適正な労働時間の実現等の分野においても、労働者が人たるに値する生活を営むことができるようにするため、労働基準法において労働条件の最低基準を定め、罰則及び監督指導により履行を確保することが重要である。さらに、労働条件の明示や就業規則の作成等については、労働契約と密接な関係にあるが、罰則及び監督指導を前提とする労働基準法において定めることが実効性の確保の観点から適当であると考えられる。
 一方、現在労働基準法において定められている規定であっても、労使当事者が自主的に労働契約の締結、変動、終了を決定するに当たって必要となる民事的なルールについては、罰則と監督指導を前提とする労働基準法から新たに定める労働契約法制に移すことが適当である。
 労使当事者の自主的な決定を促進する労働契約法制と、労働条件の最低基準を定め罰則や監督指導によりその確保を図る労働基準法等の従来の労働関係法令とは、両者があいまって時代の変化に対応した適正な労働関係の実現を可能とするものである。

 このような観点から労働時間制度についてみると、就業形態の多様化や事業の高度化・高付加価値化によって、労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方への対応が求められており、労働契約法制を制定する際に、併せて労働基準法の労働時間法制についても基本的な見直しを行う必要がある。
 また、仮に労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方に対応した労働時間法制の見直しを行うとすれば、労使当事者が業務内容や労働時間を含めた労働契約の内容を実質的に対等な立場で自主的に決定できるようにする必要があり、これを担保する労働契約法制を定めることが不可欠となるものである(第7参照)。

 労働契約法制の内容と規定の性格
 労働契約法制においては、労働契約に関する基本的なルールとして、労働関係の成立、展開、終了に関する権利義務の発生、消滅、変動の民事上の要件と効果を定めて明確化を図ることが適当と考えられる。
 その際には、企業組織の変更に伴うルールを取り込むかどうかについても検討を行うことが適当である。
 ここで、労働契約に関する基本的なルールを定めるに当たっては、労働契約については情報の質・量及び交渉力において労使当事者間に現に格差が存在することや、労働契約は労働者と使用者との継続的な関係であり、一般に労働者は労働契約の継続を望むため労働契約の内容については使用者に対して強く主張しにくいことなどにかんがみ、労働契約の内容の公正さを担保する強行規定は当然必要となる。一方で、労働契約の多様性を尊重しつつその内容を明確にするためには、労使当事者間の労働契約の内容が不明確な場合に、その内容を明らかにして紛争を未然に防止する任意規定や推定規定を、必要に応じて設けることが適当である。
 また、労働契約の内容の公正さを確保するためには、実体規定だけでなく手続規定も重要であって、事項に応じて実体規定と手続規定を適切に組み合わせることが適当である。手続規定として考えられる内容は、協議や通知など多様であり、その対象者からみても集団的な手続のほかに個別の労働者を対象とした手続も考えられる。これらの手続規定は、透明なルールに従って労働条件を決定することや、労使当事者間の協議を促進することに資し、労働契約の多様性の要請に対応する方途ともなるほか、労使当事者の権利義務関係の明確化にも役立つと考えられる。
 これらの規定によって、上記1のとおり、労使当事者の行動の規範となり得るルールが形成されると考えられる。その際、規定が複雑となると労使当事者がこれを行動の規範とすることが困難となるため、規定はできるだけ分かりやすいものである必要がある。
 なお、労働契約法制において規定すべき内容については、その社会的影響を慎重に検討しなければならず、紛争の未然防止のために規定した条項が、その解釈を巡ってかえって労使当事者間の新たな紛争の原因となることがないよう十分に留意すべきである。

 労働契約法制の履行確保措置
 上記1のとおり、労働契約法制は、労使当事者の自主的な決定を促進することを目的とするものであるから、その履行も基本的に労使当事者間の信頼関係によって図られるべきである。この履行は、最終的には民事裁判によって確保されるが、履行に係る行政の関与についても、労使当事者間で労働契約をめぐる紛争が生じ、かつ、労使当事者が行政の指導・助言等を求めた場合に行うことを原則とすべきである。
 このような場合に対応する仕組みとしては、既に個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき個別労働紛争解決制度が設けられ、相当の実績を上げていることから、労働契約法制の履行に係る行政の関与は同制度に従って行い、監督指導は行わないことが適当と考えられる。
 ただし、労働契約法制においても、労使当事者間の情報の質及び量の格差、交渉力の格差にかんがみ、また、紛争の未然防止等を図るため、行政として労使当事者からの労働契約に関する相談に応じたり、関係法令や契約の条項に係る一定の解釈の指針等を示すなどするほか、労働契約に関する資料・情報を収集して労使に対して適切な情報提供を行うなどの必要な援助は適時適切になされるべきである。

 労働契約法制の対象とする者の範囲
 労働契約法制の対象を定めるに当たっては、「労働者」を定義することにより労働契約法制の対象とする者の範囲を画する方法もあれば、「労働契約」を定義しこれにより対象範囲を画する方法もある。いずれの方法を取るとしても、労働基準法に定める「労働者」や「労働契約」との関係は問題となる。
 ここで、労働基準法の対象とする者の範囲は、事業に使用される者に限られているが、労働契約法制の対象とする者の範囲としては、そのような限定は必要ないのではないかとの意見があった。また、労働契約法制の対象とする「労働契約」と民法に定める雇用契約との関係も問題になるとの意見があった。
 労働契約法制の対象とする者の範囲については、例えば、請負契約や委任契約に基づいて労務を提供する者であって労働基準法上の労働者性が認められない場合であっても、ある程度の従属性が認められる者については、労働契約についての民事的効力を定める労働契約法制の対象とすることは有意義であるとの意見があった。
 一方、労働契約法制については、労働契約についての民事上の効力を定めるものであり、労働基準法のような刑罰法規ではないことから、当事者間に具体的な紛争が生じた場合に裁判において労働契約法制の各規定の趣旨、目的及び効果を考慮しつつ類推適用がなされ得ることなどによって柔軟な対応が可能ではないかとの意見もあった。
 この点について、例えば、個人で業務を請け負い又は受託する者の中には、発注者との間で使用従属関係まではなくとも、経済的に従属していたり、情報の質・量や交渉力に格差があったりする場合もあるため、このような一定の者を法制上位置づけて、労働契約法制の一定の条項を適用させることも考えられる。
 ただし、一方で、このような中間的な分類の者を概念上設けると、従来労働者として保護されていた者が形式的な契約の変更等により、保護が弱い分類に移り、また、社会保険料逃れの便法に使われるおそれもあることに留意する必要がある。また、このような中間的な分類における就労の形態は多様であることから、このような者に労働契約法制を適用することとした場合には、就労の形態に応じて様々に異なる規定を適用することとなって法制が複雑になるか、各就労形態に共通して適用することができるごく一部の規定のみに限って適用することとなるという問題もある。
 いずれにせよ、労働契約法制の対象とする者の範囲等の問題については、労働契約法制の内容と密接な関わりがあることから、労働契約法制全体の検討を更に深めることに併せて引き続き検討することが適当である。

 労働者代表制度
(1)  現行の労働者代表・労使委員会制度
 事業場の労働条件の設定・変更に際して、当該事業場の労働者の意見を反映させる制度として、現在、労働基準法においては、時間外労働や変形労働時間制などの事項について、過半数組合(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合)又はこれがない場合に過半数代表者(当該事業場の労働者の過半数を代表する者)との書面による協定を要件として、その協定に定めるところによって労働させても労働基準法に違反しないという効果を与えている。
 また、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則の作成・届出義務があるが、その作成・変更の際には過半数組合又は過半数代表者の意見を聴取することが義務付けられている。
 さらに、企画業務型裁量労働制の導入には、使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする労使委員会(委員の半数以上が労働者代表であることが必要)での決議が要件とされている。また、労使委員会が一定の事項について行った決議には、労使協定に代わる効力が与えられている。
 このほか、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法第7条に定める労働時間短縮推進委員会も事業主及び当該事業主の雇用する労働者を代表する者を構成員とするもの(委員の半数以上が労働者代表であることが必要)であり、当該委員会が一定の事項について行った決議についても労使協定に代わる効力が与えられている。
 なお、これらの労働者代表については、使用者は、労働者代表であること等を理由とする不利益取扱いをしないようにしなければならないこととされている。

(2)  現行制度の問題点
 上記の過半数代表制度のうち、過半数組合がない場合には、一人の代表者が当該事業場の全労働者を代表することとなるが、就業形態や価値観が多様化し労働者の均一性が低くなる中では、一人の代表者が当該事業場全体の労働者の利益を代表することは困難になってきている。
 また、過半数代表者は、労働基準法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される手続により選出されることから、常設的なものではなく、必要な都度選出されることが原則となる。このため、例えば、時間外労働に関する協定を締結した過半数代表者があったとしても、当該代表者がその事業場における時間外労働の実際の運用を確認すること等は期待し難い。
 一方、労使委員会及び労働時間短縮推進委員会は常設的な組織であり、その労働者委員は複数人であるものの、これを当該事業場の過半数組合又は過半数代表者が指名することとされており、必ずしも多様な利益を代表する者が労働者委員になることが保障されているわけではない。

(3)  労働契約法制における労使委員会制度の活用
 ア  労使委員会制度の法制化
 労働組合の組織率が低下し、集団的な労働条件決定システムの機能が相対的に低下している中で、労働者と使用者との間にある情報の質及び量の格差や交渉力の格差を是正して、労働者と使用者が実質的に対等な立場で決定を行うことを確保するためには、労働者が集団として使用者との交渉を行うことができることとすることが必要である。労働組合が存在する場合には、当然、当該労働組合がそのような役割を果たすものであるが、労働組合が存在しない場合においても、労働者の交渉力をより高めるための方策を検討する必要がある。
 その際、常設的な労使委員会は、当該事業場における労働条件について、例えば、制度を変更した場合にその運用状況を確認することや、問題が生じた場合の改善の協議、労働者からの苦情処理等のさまざまな機能を担うことができる。また、次に制度を変更する際にこれらの経験を活用することなども期待される。
 このため、常設的な労使委員会の活用は、当該事業場内において労使当事者が実質的に対等な立場で自主的な決定を行うことができるようにすることに資すると考えられる。そこで、このような労使委員会が設置され、当該委員会において使用者が労働条件の決定・変更について協議を行うことを労働契約法制において促進する方向で検討することが適当である。

 イ  労使委員会制度の在り方
 労使委員会の活用に当たっては、就業形態や価値観が多様化し、労働者の均一性が低くなってきている近年の状況の中で、労使委員会が当該事業場の多様な労働者の利益を公正に代表できる仕組みとする必要がある。また、労使当事者が実質的に対等な立場で交渉ができるような仕組みも必要となる。
 そこで、労使委員会の在り方としては、委員の半数以上が当該事業場の労働者を代表する者であることのほか、例えば、当該事業場の全労働者が直接複数の労働者委員を選出することや、選出された労働者委員は当該事業場のすべての労働者の利益を代表するようにしなければならないこと、使用者は委員であること等を理由とする不利益取扱いはしてはならないこととすること、委員の任期を定め一定期間後には委員が改選されるようにすること、労使委員会の開催方法は労使委員会の決議により定めることという仕組みにすることが考えられる。また、労働者委員が、当該事業場の労働者の意見を適正に集約することができるような方策についても、引き続き検討することが必要である。

 ウ  労使委員会制度の活用
 このような労使委員会について、使用者がこれを設置し労働条件の決定・変更に関する協議を行うことを促進するためには、労使委員会において合意が得られている場合等には労働契約法制において一定の効果を与える方向で検討することが適当である。
 例えば、就業規則の変更の際に、労働者の意見を適正に集約した上で労使委員会の委員の5分の4以上の多数により(これにより労働者委員の過半数は変更に賛成していることが確保される。)変更を認める決議がある場合に変更の合理性を推定することが考えられる(第3の1の(2)のイ参照)。
 さらに、労使委員会に事前協議や苦情処理の機能を持たせ、労働条件決定が個別化する中で労使当事者間の実質的に対等な交渉力の確保を図ることや、労使委員会における事前協議や苦情処理等の対応を、配置転換、出向、解雇等の権利濫用の判断基準の一つとすることも考えられる。
 もっとも、労使委員会の活用方法を検討するに当たっては、労使委員会での決議は、団体交渉を経て締結された労働協約とは異なり、当然に個々の労働者を拘束するものではないことに留意する必要がある。

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