有期労働契約に関する判例・裁判例

 ○  丸子警報機事件(平成8年 長野地裁上田支部判決)
 最も重要な労働内容が同一であること、一定期間以上勤務した臨時社員については年功という要素も正社員と同様に考慮すべきであること、その他本件に現れた一切の事情に加え、使用者において同一(価値)労働同一賃金の原則が公序ではないということのほか賃金格差を正当化する事情を何ら主張立証していないことも考慮すれば、女性臨時社員の賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるときは、その限度において使用者の裁量が公序良俗違反になるとした。

 ○  近畿システム管理事件(平成7年 最高裁第三小法廷判決)
 労働委員会は、労働者個人を救済する観点及び正常な集団的な労使関係を回復・確保する観点から必要・適切な措置を命ずることができることから、地方労働委員会による再雇用命令がその裁量を逸脱・濫用したものと解することはできないとした原審の判断を是認した。

 ○  神戸弘陵学園事件(平成2年 最高裁第三小法廷判決)
 労働者の新規採用契約においてその適性を評価し、判断するために期間を設けた場合には、右期間の満了により右契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当であるとされた。

 ○  安川電機八幡工場(パート解雇)事件(平成14年 福岡高裁決定)
 有期契約労働者の契約期間中の解雇について、事業の縮小その他やむを得ない事由が発生したときは契約期間中といえども解雇する旨定めた就業規則の解釈にあたっては、解雇が雇用期間の中途でなされなければならないほどのやむを得ない事由の発生が必要であるというべきとした。

 ○  モーブッサン ジャパン事件(平成15年 東京地裁判決)
 有期労働契約の契約期間中において、いつでも30日前の書面による予告の上、本件契約を終了することができる旨の記載をした労働契約書により契約を締結した者に対する契約期間中の解雇について、解雇の理由がやむを得ない事由(民法第628条)に当たるとは認められないため無効とした。

 ○  ネスレコンフェクショナリー事件(平成17年 大阪地裁判決)
 民法第628条は当事者において解除事由を「已ムコトヲ得サル事由」より緩やかにする合意をすることまで禁じる趣旨とは解し難いとし、労働者又は会社の都合により契約期間内であっても解約できるとの契約上の条項を有効とした。



 有期労働契約に関する裁判例

丸子警報機事件(長野地裁上田支部平成8年3月15日判決)

(事案の概要)
 Y会社の就業規則には、従業員を「事務員」「作業員」「嘱託」「臨時傭員」の4種類に分ける旨の定めがあり、通常、会社内では、前二者を正社員、後二者を(狭義では「臨時傭員」のみ)を臨時社員と呼んでいる。平成6年1月1日現在の従業員数は155名であるが、うち110名が正社員(男性87名、女性23名)、45名が臨時社員(女性43名、男性2名(嘱託))である。
 Xらは、いずれもYの女性臨時社員であり、いずれも原則として雇用期間2か月の雇用契約を更新するという形で継続して勤務している。Xらは、女性正社員と同じ組立ラインに配属され、同様の仕事に従事しており、その勤務時間も通常午前8時20分から午後5時までで、他の正社員と同じである(ただし、午後4時45分から15分間は残業扱い。)。勤務日数も正社員と同じであり、いわゆるQCサークル活動にも正社員とほぼ同様に参加している。Y社の賃金体系においては、正社員については基本給は原則的には年功序列となっている一方で、臨時職員については3ランクに分かれており、勤続年数10年以上(A)、勤続年数3年以上10年未満(B)、3年未満(C)となっている。
 Xらは、Yが同一(価値)労働同一賃金の原則という公序良俗に反しているとして、損害賠償を求めた。

(判決の要旨)
〈同一(価値)労働同一賃金の原則について、これを明言する実定法の規定は存在しないとし、また、我が国の多くの企業において同一(価値)労働に単純に同一賃金を支払ってきたわけではないこと及び労働価値が同一であるか否かを客観性をもって評価判定することが著しく困難であることから、これに反する賃金格差が直ちに違法となるという意味での公序とみなすことはできないとした上で、〉
 このように、同一(価値)労働同一賃金の原則は、労働関係を一般的に規律する法範として存在すると考えることはできないけれども、賃金格差が現に存在しその違法性が争われているときは、その違法性の判断に当たり、この原則の理念が考慮されないで良いというわけでは決してない。
 けだし、労働基準法3条、4条のような差別禁止規定は、直接的には社会的身分や性による差別を禁止しているものではあるが、その根底には、およそ人はその労働に対し、等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在していると解される。それは言わば、人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原理と考えるべきものである。前記のような年齢給、生活給制度との整合性や労働の価値の判断の困難性から、労働基準法における明文の規定こそ見送られたものの、その草案の段階では、右の如き理念に基づき同一(価値)労働同一賃金の原則が掲げられていたことも惹起されなければならない。
 したがって、同一(価値)労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合があると言うべきである。
 右の観点から、本件におけるXら女性臨時社員と正社員との賃金格差について検討する。
 これまで述べた本件における状況、すなわち、Xらライン作業に従事する臨時社員と、同じライン作業に従事する女性正社員の業務とを比べると、従事する職種、作業の内容、勤務時間及び日数並びにいわゆるQCサークル活動への関与などすべてが同様であること、臨時社員の勤務年数も長い者では25年を超えており、長年働き続けるつもりで勤務しているという点でも女性正社員と何ら変わりがないこと、女性臨時社員の採用の際にも、その後の契約更新においても、少なくとも採用されるXらの側においては、自己の身分について明確な認識を持ち難い状況であったことなどにかんがみれば、Xら臨時社員の提供する労働内容は、その外形面においても、Yへの帰属意識という内面においても、Y会社の女性正社員と全く同一であると言える。したがって、正社員の賃金が前提事実記載のとおり年功序列によって上昇するのであれば、臨時社員においても正社員と同様ないしこれに準じた年功序列的な賃金の上昇を期待し、勤務年数を重ねるに従ってその期待からの不満を増大させるのも無理からぬところである。
 このような場合、使用者たるYにおいては、一定年月以上勤務した臨時社員には正社員となる途を用意するか、あるいは臨時社員の地位はそのままとしても、同一労働に従事させる以上は正社員に準じた年功序列制の賃金体系を設ける必要があったと言うべきである。しかるに、Xらを臨時社員として採用したままこれを固定化し、2か月ごとの雇用期間の更新を形式的に繰り返すことにより、女性正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したことは、前述した同一(価値)労働同一賃金の原則の根底にある均等待遇の理念に違反する格差であり、単に妥当性を欠くというにとどまらず公序良俗違反として違法となるものと言うべきである(なお、前提事実記載のとおり、臨時社員にもその勤続年数に応じその基本給ABCの3段階の区分が設けられていたが、その額の差はわずかで、かつ勤続10年以上は一律であることから、正社員の年功序列制に準ずるものとは到底言えない。)。
 もっとも、均等待遇の理念も抽象的なものであって、均等に扱うための前提となる諸要素の判断に幅がある以上は、その幅の範囲内における待遇の差に使用者側の裁量も認めざるを得ないところである。したがって、本件においても、Xら臨時社員と女性正社員の賃金格差がすべて違法となるというものではない。前提要素として最も重要な労働内容が同一であること、一定期間以上勤務した臨時社員については年功という要素も正社員と同様に考慮すべきであること、その他本件に現れた一切の事情に加え、Yにおいて同一(価値)労働同一賃金の原則が公序ではないということのほか賃金格差を正当化する事情を何ら主張立証していないことも考慮すれば、Xらの賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を明らかに越え、その限度においてYの裁量が公序良俗違反として違法となると判断すべきである。


 有期労働契約に関する裁判例

近畿システム管理事件(最高裁平成7年11月21日第三小法廷判決)

(事案の概要)
 Zは昭和57年にX会社に入社し、A労働組合の執行委員長であった。X会社は、昭和54年頃から定年(60歳)退職者について、内規に「X会社と本人の希望が一致した場合は引き続き一年間嘱託として雇用することができる」と定め、特段の欠格事由がない限り、事前に本人の希望を徴し、希望者を嘱託として再雇用してきた。しかし、X会社は、通勤費の過大請求やキセル乗車の疑いを理由にZを定年後に再雇用しなかった。Z、A労働組合及びA労働組合の上部組織Bは、これを不当労働行為であるとして、Y労働委員会に救済申立をした。X会社の不当労働行為に当たると判断したY労働委員会は、X会社に対し、Zを嘱託社員として再雇用することを命ずる内容の本件救済命令を発した。X会社は、Y労働委員会による本件救済命令について、取消の訴えを提訴した。

(判決の要旨)
 原審の適法に確定したところによれば、X会社は、本件救済手続きにおいては、嘱託再雇用はあくまでX会社の自由な裁量で行っているものと主張して、その期間が一年間と定めている旨の主張も、前記内規の存在の主張もせず、これを証拠として提出することもせず、本訴において初めてこれらの主張立証をしたというのである。右の経過に原審の適法に確定したその余の事実関係を加えて本件を考察すれば、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。

(原判決の要旨)
 <X会社がZを再雇用しなかったことは不当労働行為に該当するか否かについて、>X会社は、組合との団交において、右事実<(Zの通勤費の過大請求及びキセル乗車に対する強い疑惑があること)>をZ不再雇用の理由として挙げておらず、本件救済手続において初めて主張したものであり、右事実は、通勤費の過大請求及びキセル乗車疑惑がZ不再雇用の理由として、後からこじつけたものではないかとの疑念を抱かせる。<中略>当時からZの不再雇用が不当労働行為であるとして労使間で大問題になっていたのであるから、X会社が、Zの不再雇用に正当な理由があると考えていながら、これを積極的に説明しないとは考え難いのであって、X会社の右主張は採用できない。他方、X会社において、Zが主導する組合の活動、特にBへの加入、BのX会社に対する団交要求等を嫌悪していたことは明らかであり、その他、1<X会社による不当労働行為意思を推認させる事実>、2<X会社はYのキセル乗車の疑いを持ったが、処分しなかったこと>認定の諸事情を総合すると、Zの不再雇用の理由は一にX会社がZ、A労働組合及びBの組合活動を嫌悪したことにあると認めるのが相当である。したがって、X会社がZを再雇用しなかったことは労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為である。
 <本件救済命令が必要な救済の限度を超えているか否かについて、>X会社は、嘱託再雇用期間は一年間であるが、本件救済命令は実質上一年間を超える再雇用を命じていることに帰するから不当である旨主張するところ、なるほどY労働委員会が、X会社に対し、Zを嘱託社員として取り扱うことを命ずる内容の本件救済命令を発した時期は、Zの定年後一年三か月以上経過していたことが認められる。
 しかしながら、<中略>X会社は、本件救済手続きにおいては、嘱託再雇用はあくまでX会社の自由な裁量でなしているものと主張し、前記内規の存在を主張せず、これを証拠としても提出せず、まして、その期間が一年と定められている旨の主張もせず、本訴において始めてこれらの主張立証をしたことが認められ、右事実によれば、X会社の右主張は信義に反するものであり、そのことをひとまず置いても、Y労働委員会は、救済命令として、労働者個人に対する侵害に基づく個人的被害を救済するという観点からだけでなく、あわせて組合活動一般に対する侵害の面をも考慮し、このような侵害状態を除去、是正して法の所期する正常な集団的労使関係を回復確保するという観点から、必要、適切な措置を命ずることができるのであるから、本件救済命令が、右趣旨に鑑み、その裁量を逸脱、濫用したものと解することはできず、X会社の右主張は理由がない。


 有期労働契約に関する判例

神戸弘陵学園事件(最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決)


(事実の概要)
 Xは、昭和59年4月1日付けでYの社会科担当の教員(常勤講師)として採用され、その職務に従事していたが、Yは昭和60年3月18日にXに対し、XY間の雇用契約は同月31日をもって終了する旨の通知をした。
 昭和59年3月の採用面接の際に、Y理事長は、Xに対し、採用後の身分は常勤講師とし、契約期間が一応昭和59年4月1日から1年とすること及び1年間の勤務状態をみて再雇用するか否かの判定をすることなどにつき説明をするとともに、口頭で採用したい旨申出をした。同月、Xは、勤務時間、給料、担当すべき教科等につき大まかな説明を受けてこれを了承した上、採用申出を受諾した。
 そして、同年5月中旬には、Xは、Yから求められるままに、同年4月7日ころに予めYより交付されていた「Xが昭和60年3月31日までの1年の期限付の常勤講師としてYに採用される旨の合意がXとYとの間に成立したこと及び右期限が満了したときは解雇予告その他何らの通知を要せず期限満了の日に当然退職の効果を生ずること」などが記載されている期限付職員契約書に自ら署名捺印していた。

(判旨の概要)
 使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。そして、試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期聞中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段変わったところはなく、また、試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。そして、解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。

〈1年の期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとYとの間に成立しているなどの特段の事情の有無について〉
 原審は、Xは、昭和59年3月1日の第二回目の面接の際に、Yの理事長から、採用後の身分は常勤講師とし、契約期間は一応同年4月1日から1年とすること及び1年間の勤務状態を見て再雇用するか否かの判定をすることなどにつき説明を受けるとともに、口頭で、採用したい旨の申出を受け、同年3月5日、右申出を受諾した、と認定しており、契約期間につきYの理事長が「一応」という表現を用いたとしているのである。また、原審は、Xは、右第2回目の面接の際に、Yの理事長から「A校は断って、うちで30年でも40年でもがんばってくれ。」とか「公立の試験も受けないでうちへきてくれ。」とか言われた旨供述しているが、Yの理事長はXが教員としての適性を有することを期待し、契約を更新して末永く本校において教鞭をとることを望んでいたことが認められるから、1年の期限付契約を結んだことと右Yの理事長の発言とは矛盾するものではない、としている。原審はYの理事長がXの供述するとおりの発言をしたと認定しているのかどうかは必ずしも明らかではないが、もし右発言がされたのであるとすれば、Yの理事長は契約期間の1年を「一応」のものと述べたというのであり、右理事長が用いたと認定されている「再雇用」の文言も、厳格な法律的意味において、雇用契約を新たに締結しなければ期間の満了により契約が終了する趣旨で述べたものとは必ずしも断定しがたいのであって、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとYとの間に成立していたとすることには相当の疑問が残るといわなければならない。
 もっとも、原審の認定によれば、Xが署名捺印した期限付職員契約書には、Xが昭和60年3月30日までの1年の期限付の常勤講師としてYに採用される旨の合意がXとYとの間に成立したこと及び右期限が満了したときは解雇予告その他何らの通知を要せず期限満了の日に当然退職の効果を生ずることなどの記載がされているというのであり、右によれば、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとYとの間に成立していたかの如くである。しかし、XがYから右期限付職員契約書の交付を受けたのは本件雇用契約が成立した後である昭和59年4月7日ころであり、これに署名捺印したのは同年5月中旬であるというのである。また、本件記録によれば、XがYに提出した右期限付職員契約書の第一条には、Yは学園の生徒数、職員数等の事情から昭和59年度に限り本契約職員を採用する必要がある旨記載されていることが窺われるところ、本校は昭和58年4月に開校されたというのであるから、昭和59年度は開校2年目で、生徒は1年次生と2年次生のみであり、昭和60年度になって1年次生から3年次生までが初めて揃う状況にあった。したがって、昭和59年度から昭和60年度にかけてはむしろ生徒数が増加する状況にあり、生徒数の事情から昭和59年度に限って期限付職員を採用する必要があったとは思われず、同様に職員についても生徒数の増加に伴い増員する必要こそあれ、職員数の事情から昭和59年度に限って期限付職員を採用する必要があったとは思われない。次に、本件記録によれば、右期限付職員契約書の第二条には、XはY学園勤務規定を遵守して誠実に勤務する旨の記載があることが窺われるが、昭和59年5月当時には右勤務規定はいまだ作成されていなかったことが窺われるのである。以上によれば、Xの提出した期限付職員契約書は、本件雇用契約の趣旨・内容を必ずしも適切に表現していないのではないかという疑問の余地がある。
 更に、本件記録によれば、Xは昭和58年3月にB大学経済学部を卒業後、昭和59年3月にC大学社会学部通信教育課程を終了して、本校の教員に採用されたものであることが窺われるところ、このような場合には、短期間の就職よりも長期間の安定した就職を望むのがわが国の社会における一般的な傾向であるから、本件においてXが1年後の雇用の継続を期待することにはもっともな事情があったものと思われる。
 以上のとおりであるから、本件雇用契約締結の際に、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとYとの間に成立しているなどの特段の事情が認められるとすることにはなお疑問が残るといわざるを得ず、このような疑問が残るのにかかわらず、本件雇用契約に付された1年の期間を契約の存続期間であるとし、本件雇用契約は右1年の期間の満了により終了したとした原判決は、雇用契約の期間の性質についての法令の解釈を誤り、審理不尽、理由不備の違法を犯したものといわざるを得ず、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、諭旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 そして、本件においては、前記疑問を解消し、本件雇用契約を1年の存続期間付のものであると解すべき特段の事情が認められるかどうか、右特段の事情が認められないとして本件雇用契約を試用期間付雇用契約であり、その法的性質を解約権留保付雇用契約であると解することが相当であるかどうか、そのように解することが相当であるとして本件が留保解約権の行使が許される場合に当たるかどうかにつき、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。


 有期労働契約に関する裁判例

安川電機八幡工場(パート解雇)事件(福岡高裁平成14年9月18日決定)

(事案の概要)
 X1、X2はY社の「Dスタッフ」と呼ばれる短時間契約従業員として3か月の雇用期間を定めて雇用され、モーターに取り付ける検出器の調整取付けに従事していた。X1は14年間、X2は17年間、同様の契約が更新されてきた。X1らは平成13年6月20日頃、同月21日から同年9月20日までの契約更新手続を行った。
 平成13年6月27日頃、Y社はX1らに「パート退職願い」用紙を配布し、退職理由欄には「会社都合」と記入し、押印の上提出するよう指示した。同年7月25日、Y社は、X2を含む14名に対して同年6月25日に、X1を含む7名に対して同月26日に解雇予告をしていたとして、X1には7月26日、X2には7月25日をもって解雇する旨の意思表示をした。
 Y社の「Dスタッフ就業規則」には、「会社は、次の各号の1つに該当するときは、契約期間中といえども解雇する。5号 事業の縮小その他やむを得ない事由が発生したとき」(9条)、「前条の規程による解雇については、本人の責めに帰すべき事由を除き、30日前に本人に予告する」(10条)との規定があった。
 X1らは、Y社のなした整理解雇の意思表示が、解雇予告義務に反し、解雇理由が存在せず解雇権濫用であり無効である等主張し、労働契約上の地位保全及び賃金仮払いの仮処分を申し立てた。1審はX1らの申立を却下した。

(決定の要旨)
 <証拠略>によれば、平成13年6月25日、<Y社の課長Aは>X2を含む14名に対し、同年7月21日以降の契約をしない、解雇予告に遅れた5日分については補償する旨述べて解雇予告をし、同月26日、X1を含む7名にも同様の通告をしたことが認められる。ところで、<証拠略>によれば、平成13年6月27日ごろ、解雇予告をしたパートタイマー従業員全員に、「パート退職願い」用紙を配布して、これに記入・押印して提出するよう指示しており、「パート退職願い」用紙を配布したことをもって、上記通告が退職勧奨であって、解雇予告ではないとは認められない。

 期間の定めのある労働契約の場合は、民法628条により、原則として解除はできず、やむことを得ざる事由ある時に限り、期間内解除(ただし、労働基準法20、21条による予告が必要)ができるにとどまる。したがって、就業規則9条の解雇事由の解釈にあたっても、当該解雇が、3か月の雇用期間の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要であるというべきである。Y社の業績は、本件解雇の半年ほど前から受注減により急速に悪化しており、景気回復の兆しもなかったものであって、人員削減の必要性が存したことは認められるが、本件解雇により解雇されたパートタイマー従業員は、合計31名であり、残りの雇用期間は約2か月、X1らの平均給与は月額12万円から14万5000円程度であったことやY社の企業規模などからすると、どんなに、Y社の業績悪化が急激であったとしても、労働契約締結からわずか5日後に、3か月間の契約期間の終了を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむを得ない事態が発生したと認めるに足りる疎明資料はない。<中略>したがって、本件解雇は無効であるというべきである。

 X1らが14〜17年間もの長期にわたって、3か月ずつの雇用期間を多数回にわたって更新してきたことからすれば、Y社がX1らとの間の労働契約を更新しなかったことについて、解雇に関する法規整が類推適用される余地があるというべきである。そこで、次にY社が本件解雇をした、即ち、X1らとの間の労働契約を終了させた理由が合理的であって、社会通念上相当なものとして是認することができるかどうかについて検討する。
 <認定事実によれば、本件においてはいわゆる整理解雇の4要件のうち、人員削減の必要性、解雇回避努力、手続の妥当性の3要件は満たされている。>次に、被解雇者選定の妥当性について検討するに、<中略>X1は、<中略>無断欠勤や無断遅刻があり、これまでにも上司に注意をされたが是正されていなかったことが認められるから、<中略>Y社がX1を選定したことに違法は認められない。
 しかし、X2については、<中略>Y社が主張するX2の勤務態度や協調性の問題点については、時期、態様等について具体的な主張がなく、これを疎明するに足りる客観的な資料や他の候補者との比較資料の提出もなく、さらに、Y社が、当初、X2に対して年齢とか勤務状況であると答え、その後も具体的な理由は明確にされていなかったこと<証拠略>に照らし、X2が選定されたことが妥当であると認めるに足りる疎明はないというほかない。したがって、X2については、仮の地位を定める仮処分についての被保全権利の存在が一応疎明されているというべきである。


 有期労働契約に関する裁判例

モーブッサン ジャパン事件(東京地裁平成15年4月28日判決)

(事案の概要)
 宝石等の輸出入、卸売及び小売等を営むY社はXとの間に、「(1)Y社はXを契約部外エグゼクティブとして雇う。(2)Xは契約の全期間を通じてY社の東京事務所を本拠として専門的な業務を遂行する。(3)Xの地位をマーケティング・コンサルタントとする。(4)XとY社は、本件契約の期間中、いつでも30日前の書面による予告のうえ、本件契約を終了することができる。(5)本件契約書に規定されていない一切の事項は、Y社の就業規則及び日本の法律に従って決定する。(6)本件契約は、平成11年10月16日に発効し、平成12年4月15日に自動終了する。」等が記載された英文の契約書により、契約を締結した。なお、本件契約書中の(7)「At least 30 days before the hereabove mentioned termination date, Y may propose you another contract.」との文章には、XとY社で解釈に争いがある。
 その後Y社は、契約期間中であった平成11年11月18日にXに対し、同年12月18日をもって契約を終了する旨書面により通知した。これに対してXが、労働契約上の地位確認、労働契約に基づく賃金の支払等を求めて出訴した。

(判決の要旨)
 <Xが労働時間の管理を受けていないなど、Xの労働者性を疑わせるいくつかの事情があるが、他方で>XとY社は指揮監督関係にありXが個々の仕事に対して諾否の自由を有していたとはいえないこと、就業規則や労基法の適用対象とすることが予定されていたこと、専属性の程度が高かったことなどを総合すると、Xは、Y社との間の使用従属関係のもとで労務を提供していたと認めるのが相当であり、本件契約は、労働契約としての性質を有するものと認められる。

 <契約関係の継続(更新)の有無について、>この英文の規定<(上記(7))>は、Y社は契約終了日の30日前までに他の契約を提案することができることを意味するものと解され、X主張のように契約の提案をY社に義務付けたものと解することはできない。実質的にも、このように解しないと、契約期間を定めた意味がなくなり不合理である。
 また、Xは、既に他社に再就職しているから<中略>、Y社に復帰する意思がないことは明らかである。
 したがって、XのY社に対する労働契約上の地位確認請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

 <Y社は、Xの在庫管理に誤りがある、XがY社に対して私用電話の料金を支払うよう不正に請求したとしてXを解雇したとしているが、証拠等によれば、>Y社はXが在庫表や販売予算を提出するよりも以前に本件契約の解除を決定したと疑わざるを得ない。
 また、XがY社に精算を求めた私用電話は、金額がさほど多額とはいえないうえ、Xは精算を受けていない。
 そうすると、Xが作成した在庫表と販売予算に多数の誤りがあったことや、通話料金の一部を不正に請求したことは、本件解雇を根拠付けるやむを得ない事由(民法628条)に当たるとは認められないから、本件解雇は無効である。


 有期労働契約に関する裁判例

ネスレコンフェクショナリー事件(大阪地裁平成17年3月30日判決)

(事案の概要)
 X1、X2、X3、X4は、菓子類の販売促進業務に従事する労働者として、A会社と平成13年4月1日以前に雇用契約を締結するとともに、同契約を更新してきた。
 チョコレート、キャンディ等の製造、輸入、輸出、販売等を業とする株式会社であるY会社は、平成13年4月1日以降、A会社の契約上の地位を継承し、X1、X2、X3、X4と契約を更新するとともに、X5と同様の雇用締結を締結した。
 X1らの契約期間は一年(ただし、X3、X4、X5の一部の契約には、一年未満の期間のものがある。)であり、最終の更新による契約期間の終期はそれぞれ平成15年8月31日から、平成16年3月31日にかけてであった。本件各契約書の第一項には、X1ら又はY会社の都合により、契約期間内においても解約することができるとの条項(以下「本件解約条項」という。)が設けられていた。
 Y会社は、菓子類の販売促進業務をB会社に外部委託するために、B会社との間で業務委託契約を締結し、B会社は平成15年7月1日から業務を開始した。
 そのため、Y会社は、X1らに対し、平成15年5月28日に開催した説明会において、X1らの契約期間中である同年6月30日をもって解雇するとの意思表示をした。また、Y会社は、平成15年6月23日付けでX1らに対し、予備的にそれぞれの雇用期間満了日において本件各契約の更新をしない旨通知した。
 X1らが、Y会社がした解雇又はその後の雇用契約の雇止めは解雇権濫用の法理の適用又は類推適用により無効であるとともに、契約期間内の解雇又は雇止めがY会社の不法行為に当たるとして、提訴した。

(判決の要旨)
 <本件解約条項が民法628条に反し無効であるか否かについて、>民法628条は、一定の期間解約申入れを排除する旨の定めのある雇用契約においても、「已ムコトヲ得サル事由」がある場合に当事者の解除権を保障したものといえるから、解除事由をより厳格にする当事者間の合意は、同条の趣旨に反し無効というべきであり、その点において同条は強行規定というべきであるが、同条は当事者においてより前記解除事項を緩やかにする合意をすることまで禁じる趣旨とは解し難い。
 したがって、本件解約条項は、解約事由を「已ムコトヲ得サル事由」よりも緩やかにする合意であるから、民法628条に違反するとはいえない。

 この点、X1らは、<労働契約の締結ないしその後の展開過程における労働者保護の規定は、強行規定であると解すべきであり、>民法628条は労働者が期間中に解雇されないとの利益を付与したものであると主張するが、それは、むしろ民法626条の趣旨というべきであり、民法628条は合意による解約権の一律排除を緩和するために置かれた規定と解すべきであるから、X1らの主張は採用することができない。
 また、雇用期間を信頼した労働者保護の要請については、解除権濫用の法理を適用することにより考慮することができるから、このように解したとしても、不当な結果を招来するわけではない。
 <なお、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と是認することはできず、無効であるとされた。また、本件雇止めの効力について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することはできず、権利の濫用として無効であるというべきであるから、X1らとY会社との間には、期間満了後においても従前の雇用契約が更新されたのと同様な法律関係が生じているものとされた。>

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