中間とりまとめで示された方向性等に対する指摘と考え方について(有期労働契約)

第5 有期労働契約 2 (1) 契約期間の書面による明示
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
   正当な理由がなければ期間の定めのある労働契約を締結できないこととすべきである。  業務の繁閑に応じて雇止めにより雇用を調整することは必要であり、「正当な理由」という抽象的な要件ではこれが含まれるか否かが不明確なため、かえって紛争を招く。  有期労働契約は労使双方の多様なニーズに応じて様々な態様で活用されているものであり、その機能を制限することは適当ではない。
 また、業務の繁閑に応じて雇止めにより雇用を調整することが、有期労働契約を利用する正当な理由といえるかどうかなど、何が「正当な理由」かは不明確であってこのような概念をもって期間の定めの効力を左右するのは混乱を招くのではないか。
 使用者が契約期間を書面で明示しなかったときの労働契約の法的性質については、これを期間の定めのない契約であるとみなす方向で検討することが適当である。    労働者が有期労働契約であることを認識していた場合であっても、期間の定めを書面で明示しなければ期間の定めのない契約とみなされるのは行き過ぎではないか。  労働契約において契約期間は非常に重要な要素であり、労働基準法において書面明示が義務化されている事項でもあるので、期間の定めが書面で明示されていなければその効力が生じないとしても問題はないのではないか。
中間取りまとめ以降の論点 考えられる指摘 論点・各指摘に対する考え方
 使用者が契約期間を書面で明示しなかったときに期間の定めのない契約とみなすこととした場合の実務上の影響について、どのように考えるか。    期間の定めについて労使で合意したにもかかわらず、使用者がこれを書面で明示し忘れたことを奇貨として労働者が期間の定めがないことを主張するのは不当ではないか。  期間の定めのない契約とされたとしても、解雇の有効性が認められる場合はあり、また、解雇が認められない場合には、配置転換など使用者の負担が合理的な範囲での解決が図られ得る。
 有期労働契約が良好な働き方として活用されるよう、「有期雇用とするべき理由の明示の義務化」や「正社員との均等待遇」について、法律的な観点から整理しておくべき事項があるか。  労働者に対して有期労働契約とする理由が明示されれば、その理由から、労働者がどのような場合に雇止めをされるかや、これが労働者の正当な権利を行使したことによるものかどうかなどを判断することができるようになるのではないか。    雇止めやその有効性の予測可能性の向上を目的とするのであれば、現在「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に定められている更新の判断基準の明示によることで足りるのではないか。
 有期契約労働者と正社員との均等待遇を法律で規定すべきである。    (均等待遇の理念については、改めて総論で議論することが適当である。)
2 (2) 有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 労働契約法制の観点からも「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に定められた手続を必要とすることとし、これを履行したことを雇止めの有効性の判断に当たっての考慮要素とすること等についても検討する必要がある。  労働契約法制の観点からも「基準」に定める手続の履行を求め、これを雇止めの有効性の判断に当たっての考慮要素とすることは、手続を踏みさえすれば雇止めを有効とすることにつながり、現在の判例法理よりも労働者に不利になるのではないか。    雇止めの判例法理は労働者が有する更新に対する期待を保護するものであるから、手続の履行を雇止めの有効性の判断の考慮要素とすることは、現在の判例法理を変更するものではなく、その具体的な判断を明確化して予測可能性を高めるものであって、労働者が現在よりも不利になることはない。
 契約の更新があり得る旨が明示されていた場合には、正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないこととする方向で検討することが適当である。    有期契約労働者は期間の満了に伴い当然にその地位を失うものであるのに、正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないとすることは、労働契約の締結(更新)を強制することになり、使用者の採用の自由を侵害するのではないか。  労働者に与えられた正当な権利は、それが行使できるよう保障されるべきであるから、労働者が、契約が更新されないことを恐れて正当な権利の行使をできないことがあってはならないと考えられる。
 また、地方労働委員会の再雇用命令を相当とした最高裁判例があり(平成7年近畿システム管理事件)、再雇用・契約の更新は新規採用とは事情が異なるといえる。
 正当な権利を行使したことを理由とする雇止め以外にも制限すべき場合があるのではないか。    人種、国籍、性、信条等を理由とする差別的な雇止めはできないこととすることが適当と考えられる。
中間取りまとめ以降の論点 考えられる指摘 論点・各指摘に対する考え方
 雇止めの効力の判断に当たっては解雇に関する法理を類推適用するとの判例法理により雇止めが制限される場合の予測可能性が低いことは、労働者と使用者にどのような影響を与えるか。
 これを踏まえ、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に定める手続を労働契約法制の観点からも求めることの必要性について、どのように考えるか。
     「基準」に定める手続を求めることで、労働者が更新の可能性を予測しやすくなり、判例法理が働くトラブルが少なくなり、より安定的に有期労働契約が利用されることにつながるのではないか。
 契約を更新することがありうる旨が明示されていた場合には有期契約労働者が正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないこととしたときに、使用者が契約の更新を予定しているにもかかわらず更新をしない旨を明示し実際には更新を繰り返すことへの対応について、どのように考えるか。  使用者が、雇止めの制限を免れるためだけに契約の更新をしない旨を明示することを防止する必要がある。    使用者が労働者に更新の可能性がない旨を明示した場合であっても、その契約の期間満了後一定期間(例えば3か月)以内に同じ使用者と労働者が再度有期労働契約を締結したときは、再度締結した有期労働契約の更新については、更新の可能性がある旨が明示されたものと扱って、正当な権利の行使を理由とする雇止めはできないこととしてよいのではないか。
 有期契約労働者を長期間継続して雇用する場合であって、更新することがあり得る旨が明示されていなかったとしても正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないこととすべき場合には、どのようなものがあるか。  有期契約労働者が長期間継続して雇用されている場合は、労働者としても雇用の継続に対して相当高い期待を有しており、正当な権利を行使したことを理由とする雇止めは許されないのではないか。    有期契約労働者が同じ使用者に一定期間(例えば5年)を超えて引き続き雇用されたときは、有期労働契約の締結又は更新に際して更新の可能性がない旨が明示されていたとしても、更新の可能性がある旨が明示されたものと扱って、正当な権利の行使を理由とする雇止めはできないこととしてよいのではないか。
3 (1) 試行雇用契約
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 契約期間満了後に引き続き期間の定めのない契約を締結する可能性がある場合にはその旨及び本採用の判断基準を併せて明示させることとして、試用の目的を有する有期労働契約の法律上の位置づけを明確にする方向で検討することが適当である。その際、期間の定めのない契約を締結する可能性がある旨を明示した場合には、有期契約労働者が正当な権利を行使したことを理由とする本採用の拒否はできないこととする方向で検討することが適当である。  試用を目的とする有期労働契約が法制化されれば、企業が適性を見極めにくい若年労働者に対して一斉に利用することが容易に予想できる。試用を目的とする有期労働契約の新設はすべきではない。    現在、有期労働契約をどのような目的で利用するかには制限はない中で、試行雇用契約は常用雇用につながる契機となって労使双方に利益をもたらすものとして活用されている。中間取りまとめはこのような試行雇用契約を新設するものではなく、これを法律上位置づけるに過ぎない。中間取りまとめは、試行雇用契約で雇用された労働者について、通常の有期契約労働者と同様に、正当な権利を行使したことを理由とする本採用拒否から保護する規定を設けることを提案している。
 試用を目的とする有期労働契約は、すべて期間の定めのない契約における試用期間とみなすべきである。  使用者が契約期間等を書面で明示し有期労働契約を締結したと考えていたにもかかわらず、試用の目的を有するために、最高裁判例(平成2年神戸弘陵学園事件)により、これが期間の定めのない契約とされることは、使用者にとって予想外の不利益となり、将来常用雇用につながる試行雇用契約が活用されなくなる。  試行雇用契約と試用期間との区別を明確にするため、試用の目的を有する有期労働契約については、定められた契約期間の満了によって(本採用としての期間の定めのない契約の締結がない限り)労働契約が終了することを明示するなど、一定の要件を満たしていなければ試用期間とみなすことが考えられるのではないか。
 試行雇用契約については期間の上限を定めないこととすることについて引き続き検討することが適当である。  若年労働者に対して不当に長い試行雇用契約を締結することは不安定雇用につながり適当ではないため、試用期間と同様に、試行雇用契約の上限を法定すべきである。    試用期間に上限を設けることとした場合にも、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の事由が認められる試用期間と、期間中は雇用が保障される試行雇用契約とでは位置づけが異なるのではないか。
中間取りまとめ以降の論点 考えられる指摘 論点・各指摘に対する考え方
 試行雇用契約において期間満了後に引き続き期間の定めのない契約を締結する可能性がある旨を明示した場合に有期契約労働者が正当な権利を行使したことを理由とする本採用の拒否はできないこととする場合、その法的効果について、どのように考えるか。  使用者はその労働者を本採用しなければならないとすべきではないか。  試行雇用契約であっても有期労働契約である以上、使用者が本採用をしない限り期間の満了により労働者は労働者としての地位を当然に失うものであり、更新や本採用の強制はすべきでない。  このような場合に本採用をしなければならないとすることは、これまで締結されていた契約と全く違う種類の契約の締結を強制することになり、その労働条件等も明らかでないため困難ではないか。
 例えば、このような場合には、労働者が使用者に対して、正当な権利の行使により不利益を受けたことに対する損害賠償を求めることができることとしてはどうか。
3 (3) 解雇
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 民法第628条に基づき労働者が使用者に対して損害賠償請求をする場合に、使用者の過失についての立証責任を転換することについても、引き続き検討することが適当である。    労働者を過度に優遇し使用者に「過失の不存在」という証明困難な過度な負担を課すものであり、労使対等を基本とする労働契約法になじまない。  契約期間中に労働者を解雇するやむを得ない事由があるのは使用者の側であるから、それが過失によるかどうかの証拠をより多く有しているのも使用者であり、過失によるものではないことの立証責任を使用者が負うこととしても過度の負担とはならない。

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