05/06/03 労働政策審議会雇用均等分科会第45回議事録            第45回労働政策審議会 雇用均等分科会 1 日時: 平成17年6月3日(金)14:00〜16:00 2 場所: 厚生労働省専用第21会議室 3 出席者:    労側委員:吉宮委員、岡本委員、篠原委員、片岡委員    使側委員:川本委員、吉川委員、前田委員、山崎委員、渡邊委員    公益委員:横溝会長、樋口委員、今田委員、奥山委員、林委員 ○横溝分科会長  ただいまから、第45回労働政策審議会雇用均等分科会を開催いたします。  本日、佐藤博樹委員と佐藤孝司委員のお二人がご欠席です。  早速、議事に入ります。本日の議題は「男女雇用機会均等対策について」ですが、本 日はまず、「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止について」ご議論をいただ きたいと思います。その後、できれば、前回取り上げる予定にしておりました「ポジテ ィブ・アクションの効果的推進方策」と「セクシュアル・ハラスメント対策」について もご議論いただきたいと存じます。まず、事務局から、「妊娠・出産等を理由とする不 利益取扱いの禁止について」説明してください。 ○石井雇用均等政策課長  本日、2種類の資料を用意いたしました。資料No.1は、前回提出したものと同じも ので、1月から4月にかけて当均等分科会においてご議論いただいたときの主な意見を まとめたものです。これについては省略させていただきます。資料No.2は、「妊娠・ 出産等を理由とする不利益取扱いについて」です。2月にご議論をいただいたときに、 育児休業における不利益取扱いと同様に考えるかどうかを少し整理しながら進めてみて はどうかといったご意見があったことも踏まえ、こちらで検討すべき事項として少し整 理を試みたものです。4つの項目に分けて論点を作っております。  1つ目は、「単に妊娠しているのみで職務の遂行に何ら影響を及ぼしていない場合、 これを理由とした不利益な取扱いは許されず、禁止すべきという方向で検討してはどう か」です。これは例えば、「妊娠しました」という報告をした途端に「では、明日から 来なくていい」あるいは「契約内容を変更します」といった例を思い浮べていただけれ ばよろしいかと思います。  2つ目は、育児・介護休業法におけるものとかなり類似しています。「産前産後休業 を取得しようとし、または取得したこと、母性保護措置や母性健康管理措置を受けよう とし、または受けたこと自体を理由とする不利益な取扱いは許されず、禁止すべきとい う方向で検討してはどうか」です。これは、例えば産休を取得した、あるいはしようと したことと直接的な因果関係を持って不利益となったようなものです。まさに因果関係 があるという場合です。  参考として、育児・介護休業法第10条における不利益取扱いの考え方をお示ししてお ります。休業を取得しようとしたこと、または取得したこと自体が当該取扱いの理由と なっている場合に、不利益取扱いとして禁止ということです。  2番目として判例の考え方もお示ししております。住友生命保険事件においては、産 休等の取得の関係も争点になっていました。ここにあるように「産前産後休業等を取得 した女性労働者を一律低く査定したことについて、労働基準法は、産前産後休業等労働 基準法上認められている権利の行使による不就労を、そうした欠務のないものと同等に 処遇することまで求めているとは言えないが」に続く以下ですが、「権利を行使したこ とのみをもって、低い評価をすることは、労働基準法の趣旨に反し、許されない」と判 示をしているところです。  つぎは2頁の3、「産前産後休業、母性保護措置、母性健康管理措置による休業等の ため実際に就業していなかった期間の取扱いについてはどのように考えるべきか」で す。まさにこれは、前回この問題を取り上げた際にかなり議論となった点です。休業し たという客観的な事実からくるものです。これについては、そのときの議論をそのまま に2つの考え方を併記しております。1つ目は、「就業していた者と同様に取り扱わな ければ不利益な取扱いと考えるべきか」です。2つ目は、これは育児・介護休業法と同 じ考え方ですが、「就業していなかった期間については不就業として取り扱うが、就業 していなかった期間を超えて働かなかったものとして取り扱うことについては不利益な 取扱いと考えるべきか」です。  ちなみに、ここについても参考をお示ししております。まず、育児・介護休業法第10 条に規定する不利益取扱いの考え方をお示ししております。例として、育介休業期間中 又は子の看護休暇を取得した日について賃金を支払わないこと、退職金や賞与の算定に 当たり現に勤務した日数を考慮する場合に休業した期間又は子の看護休暇を取得した日 数分は日割りで算定対象期間から控除すること、これ自体は不利益な取扱いには該当し ないと捉えているところです。  ここについても判例の考え方をお示ししております。上のほうは最高裁判決で確定し ているものです。日本シェーリング事件、学校法人東朋学園事件は、いずれも同様のタ イプの事案であり、同種の判決が示されているところです。「産前産後休業取得等を理 由とした不利益取扱いについて、労務を提供しなかった部分に応じた賃金の減額等は許 容されるとしても、法律上の権利行使を抑制し、法律が労働者に権利を保障した趣旨を 実質的に失わせるような不利益な取扱いは許されない」と判示されているところです。 まさに、著しく処遇に影響を制約するような場合は不利益であるという考え方が示され ているところです。  4番目の項目、「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを検討するに当たって育児 休業を理由とする不利益取扱いとは異なる特有の場面はあるか」です。これについては 2つの観点、すなわち育児休業とは同様に考えられない、独自に見ていかなければなら ない事項として例示的に2つほど挙げております。  1点目は、これはまさに前回の議論の際にもご指摘があった事項ですが、「妊娠・出 産起因の症状に伴う能率低下、労働不能を理由とする不利益取扱いについてはどのよう に考えるべきか」です。典型的には、例えばつわりにより欠勤した、その結果として解 雇される、あるいは退職を強要されるといったような事案は、日本のみならず諸外国の 中でもよく見られる事案のようです。  2つ目は、「有期労働者の雇い止めについてはどのように考えるべきか」です。育児 ・介護休業法が改正されたあとに指針の改正がなされています。その際、有期労働者の 雇い止めについても不利益取扱いの中身として入れ込んだ経過があるのは記憶に新しい ところではないかと思います。ただ、育児・介護休業法においては、有期労働者のうち そういった休業を取得できる人の適用対象者は、一定要件を満たす者となっています。 それに対して妊娠・出産の関係でいくとあらゆる有期労働者が対象になり得るというこ とで、そういう範囲の違いという意味で特有ということで例示として取り上げたもので す。  参考についてはかなり幅広く取り上げましたが、直接関係するのは1の2つ目の○で す。いま私が申し上げたことの繰り返しになりますが、期間を定めて雇用される者につ いて契約の更新をしないこと、あるいは予め契約の更新回数の上限が明示されている場 合に当該回数を引き下げることは、不利益取扱いとしているところです。資料2につい ては以上です。  本日、そのほかに参考として、先般記者発表いたしました平成16年度の均等法の施行 状況の資料を付けております。これからご議論いただく妊娠・出産等を理由とした不利 益取扱いに関係のある所として、3頁をお開きください。これは、全国の都道府県労働 局雇用均等室に寄せられた個別紛争解決援助の推移を示したものです。平成16年度の数 字が新たに出ています。13条に基づく援助の件数自体は、平成15年度の157件に比べ若 干減り、149件でした。ただし、その内訳として法8条関係、定年・退職・解雇に係る ものは125件であり、平成15年度の123件に比し2件の増加となっています。  図4をご覧ください。そのうち近年増えている妊娠・出産等を理由とするものは、平 成16年度は増加傾向がさらに続いており106件です。平成15年度は96件だったので10件 増加していることになります。すなわち、個別紛争解決の中で妊娠・出産等を理由とす る解雇事案の件数が増えているという状況です。資料の説明は以上です。 ○横溝分科会長  ありがとうございました。ご意見等がありましたらご議論をお願いします。 ○吉宮委員  1つは、今日は先ほど提示された前回までの議論をまとめて4点議論しましょうとい うことですが、それにも関連してお聞きします。いま少子化対策がかなり叫ばれていま す。最初の資料として出されたかと思いますが、妊娠・出産を理由として辞めている方 が結構いらっしゃる、その辞めていない方が育児休業をして継続できているかという議 論がありました。労働者自身は働きたいのだけれども結局、辞めさせられたという方が どのぐらいいらっしゃるのか。各労働界にも要請されていますが、今後、政府を挙げて 少子化対策を、安心して産み育てやすい職場環境を作るという観点からすると今日の議 論と非常に深く関わっていますので、お互いに認識を共有する意味でどのぐらいの方が いらっしゃるのかをお聞きしたいのです。  2つ目です。2月9日の第41回の議論で今日のテーマを議論させていただきました。 当日配られた資料の6頁、研究会の報告の中の今後の議論をどのように進めるか、海外 等の事例を紹介しつつ我が国ではどのような議論をすべきかという議論の最後のまとめ にこのような記述があります。「産前産後休業期間中の評価は休業しなかった者とのバ ランスをどう考えるかという問題があり、仮に休業期間中、休業しない労働者と同様に 扱うことを法律上義務づけることとすれば、女性が男性に比べより一層コストの高い労 働力となることを印象づけ、妊娠する可能性の高い女性の採用を企業が敬遠することに ならないかという懸念がある。」一方、「我が国においては、疾病とは異なり妊娠・出 産に関しては法による保護がなされており、産前産後休業と一般の疾病等による労働不 能とで保護に差を設けることにも合理性があるとも言える」という記述があります。  ここでの意味合いは、基準法上でも保護されているので一般の疾病等と産前産後休業 とは異なりますよということです。「一般疾病等」とは、疾病であれば自己責任もかな り伴っており、必ずしも事業主だけの責任ではないので、そこで事業主が取り扱う措置 と権利として保護された産前産後休業とは保護の内容が異なってもいいという理解でい いのか、合理性の持つ意味合いをどのように理解していいのかをお聞きしたいのです。  3つ目です。今日の議論の4番目のタイトルは、「妊娠・出産等を理由とする不利益 取扱いの禁止について」となっています。「妊娠・出産」はわかるのですが、「等」と は検討する対象としてどういう範囲を定めているのか。基準法上、育児時間の問題もあ るでしょう。あるいは妊産婦の保護の話もあるでしょう。そういうものを指して「等」 とおっしゃっているのか。その辺の「等」の範囲がどのようなことを指しているのか。 我々は妊娠・出産に限定して議論したような感じがするので、そういう意味で「等」の 範囲をどのように考えればいいのか。  その上で3頁、今日まとめていただいた検討すべき事項の4番目です。「妊娠・出産 等を理由とする不利益取扱いを検討するに当たっての育児休業を理由とする不利益取扱 いとは異なる特有の場面はあるか」の最初の・と2頁目の3で産前産後休業、産前産後 休業以外の母性保護措置、あるいは母性健康管理措置という休業等の場合を除いた妊娠 ・出産起因の症状に伴う能率低下、労働不能という規定の考え方ですが、先ほど課長が つわり休暇の話をしました。つわり休暇は母性健康管理措置の範囲に入っているという 理解は間違っているのか、間違っていないのか。つまり、妊娠したことで母子健康管理 手帳が交付され、医師の診断を受けながら対応します。事業主は、医師の指示に基づい て守らなければいけないということになります。その場合の妊娠は妊娠したときから始 まるわけで、4カ月後の妊娠は、基準法では出産ということで定義付けていますね。ま た、産後の肥立ちと言いますが、産後も母性健康管理措置には入ると思うのです。それ を除いたものとは何になるのでしょうか。また、労働能率の低下や労働不能と言ってい ますから、この辺の検討の範囲が理解しにくいのです。ですから、イメージとして具体 化していただいたほうが議論しやすいと思うのです。 ○石井雇用均等政策課長  では、順次お答えします。まず、妊娠・出産で辞めていく方、あるいはそれを契機に 辞めていく方のうち、辞めさせられた方がどのぐらいいるのかというお尋ねだったと思 います。  いま手元にあるのが日本労働研究機構が平成15年に行った「育児や介護と仕事の両立 に関する調査」です。そこで確かに女性の場合はもともと育児に専念するために辞める という方も多いわけなのですが、このデータによると、仕事を続けたかったけれども辞 めたという理由として、5.6%の方が退職勧奨された、あるいは解雇されたとお答えに なっています。要は無理無理辞めさせられたという方のイメージとしてこれが果たして 全体を表しているかどうかは別として、いま手元にあるデータが1つ参考となるのかな と思っております。それが1つです。  2つ目です。2月9日の議論で引用した研究会報告の中の6頁の(4)に書かれていた 産前産後休業と一般の疾病との関係の所で、保護に差を設けること、一般の疾病と産前 産後休業とで保護に差を設けることも合理性があるとも言える。その意味合いは何かと いうことであったかと思います。ここはまさに一般の疾病と労基法などで法的に休みを 取ることが位置づけられたもの、その法的な意味合いの違いに着目してこのような指摘 をしているということです。  3番目は、「妊娠・出産等」の「等」の意味は何かということでした。これは、研究 会報告でも妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いという形でテーマを定めており、こ れを引き継いでいるわけです。妊娠・出産は通常の性差別とは違いまして例えば産休な どに入り、母性保護措置などを受け、実際に職務遂行ができないといったような場面も あります。また、そのような保護措置を直接受けていなくても、欠勤しがちになるとい った事象が現実問題としてあるわけです。現にアメリカのPDA(妊娠差別禁止法)に おいても、妊娠・出産、妊娠・出産に起因する疾病という形で、妊娠・出産と分けた形 で疾病問題、あるいは体調が変わる問題を捉えています。そういう意味で妊娠・出産そ のものとそれにまつわるものということで、「等」というものを漏れなく議論の対象に 含めるという意味で取り上げています。  4点目です。つわり休暇の場合、まさに母性健康管理措置の指導の対象として休む権 利と申しますか、そういう法的な位置づけがあるわけです。ただ、ここでわざわざ「除 く」としているのは、母性健康管理措置についてはその前の2、3でカバーされている ものということです。さはさりながら、いちいちお医者様の診断書をとって母性健康管 理措置の対象となる位置づけをしていないケースであっても、欠勤しがちになるという ことは現実問題としてあるわけです。そういったことを捉えて、「4」でご議論いただ ければと思った次第です。ちなみに前回、さまざまな事例をご紹介した中で、医師の診 断書が出てこないのだけれどもつわりで数日間休んで、その結果パートへの勤務変更を 求められたという事案を紹介いたしました。これなどがまさにここの事例に該当すると 思っております。 ○横溝分科会長  吉宮委員、よろしいですか。 ○吉宮委員  はい。 ○横溝分科会長  ほかにご意見はありますか。 ○川本委員  今日は事務局で資料No.2としてだいぶ区分けしていただいたので議論がしやすくな ったかとは思っておりますが、逆に、見れば見るほど難しい部分もあるのかなと思って おります。まず、1頁目の1、2の所だけ、ご意見を言わせていただければと思いま す。  1番目は、単に妊娠しているのみで不利益取扱いという話の切り口であろうかと思い ます。先ほど事務局から、例えば妊娠していると言ったら解雇されたといった事例のお 話がありました。いま言われたような事案であれば非常にわかりやすいのですが、その ような事案だけなのかどうか、そういったところが実は結構難しい問題なのかなと思っ ております。つまり、この文章は2行ではありますが、この「職務の遂行に何ら影響を 及ぼしていない場合」についても、本人の認識と同じ職場の周囲の人たちがどのように 思っているか、あるいは上司、管理職がどう思っているか等、実は認識がかなり異なる 場合もあるのではないか。違うということは、実態の把握は一体誰がやってどういうこ とになるのかということを考えると、結構簡単な話ではないのかなと思いました。  もう1つ。「不利益な取扱いは許されない」となっています。一方で、企業が妊娠し ていることを告げられた場合、仕事の内容によっては配慮をする場合があるわけです。 これもやはりご本人の感覚や認識によるのでしょうがそれを不利益と受け取る場合、あ るいは会社側が安全のための配慮をしてくれたと思っていただける場合など、いろいろ なパターンを考えると範囲がかなり広がっていくのです。私どももここはもう少し勉強 したいと思っておりますし、慎重な議論が必要なのかなと思っております。とにかく妊 娠という話をしただけで何か解雇のような、そういった限られた事案を想定されている のかどうか、そのようなことを質問も含めてさせていただければと思っております。こ れが1つです。  2番目です。これは産前産後休業を取ろうとした、あるいは取ったことと、母性保護 措置の話も入っていますが、取ったことによって例えば不利益な取扱いを受けるという 問題になろうかと思います。この取扱いについては、いま育児介護休業のほうで禁止し ていて、ある程度事例を並べられているかと思います。この不利益取扱いという所で育 介法で言う不利益取扱いと同じような内容を意味しているのかどうか、それも確認して いただければと思います。その内容がどうなるかによっても考えなければならない範囲 がかなり広がってしまうので、これもご質問も含めてということになります。 ○石井雇用均等政策課長  1点目、1について限られた事案を想定しているのかどうかということであったと思 います。これは、考え方の整理ということで捉えていただければと思います。いま川本 委員がおっしゃったように、確かに現実の適用場面を考えればいろいろなケースがあり 得るわけです。その場合には一つ一つ認定と言いますか、実際にどうであったかという 作業が加わってくるのだろうと思います。ただ、考え方として、そのような場合は禁止 すべきであるという方向で検討してはどうかというつもりでお示ししました。いちばん わかりやすい事例ということで、現に室に来る相談の中には妊娠をした、それまでは何 の指摘もなかったのに妊娠したことを報告した途端に掌を返したように明日から来なく ていいと言われたなど、そういうものは典型事例として結構あります。それだけに限定 するつもりはありませんが、考え方として、それまでと働き方は変わっていないのに妊 娠したというだけで不利益な取扱いをしたことをどう考えるかということでお考えいた だければと存じます。  2点目です。2の所は、まさに育児・介護休業法とかなりパラレルな形で書いており ます。現実、休業をするという意味合いからしても類似のものです。基本的には同じよ うなパターンを想定しておけばよろしいのかと思います。ただ、具体的に不利益と考え るかどうかの中身の問題は実はあるわけで、それが3のケースです。育児・介護休業法 の中では、現実問題として不利益をどう考えるかというところで、欠勤の場合の評価の 問題あるいは配置の変更の判断の問題を掲げているわけです。ですから、基本的な詰め るべき点はあるかと思いますが、まず大枠としては、育児・介護休業法で並べているよ うなことが想定されるという意味でお考えいただければと存じます。 ○吉宮委員  各論になってしまいましたが、研究会報告の一般の疾病と母性保護措置を基準法等で やっている場合、そういう意味では取扱いが異なっても合理性がありますという記述の 所に関連しますが。法の仕組としては、性別による差別を禁止するという法律の基本的 大前提があり、男性に対しても差別を禁止するという法律の枠組が出来たとします。そ の場合に妊娠・出産は女性だけに伴う措置ですから、現行で母性健康管理措置は均等法 ですが、それ以外のさまざまな基準法の措置そのものを現行どおり別に定めて行うとい うイギリスタイプ、性差別禁止法があって、妊娠・出産は別の法律で定めていくという イギリスタイプがあります。EUなどもそのような考え方をします。我が国も、外国の 研究会が挙げている外国の例を見ると、イギリスタイプではないかと思います。イギリ スは、産前産後休業期間中等に賃金問題を含めて、原則として、妊娠・出産前の賃金・ 労働条件をきちんと保持させるべきだという基本的な考え方があります。そうすると、 我々はどのようなスタンスに立つのかという基本的なものの考え方がまずベースにあっ て、その上で川本委員がおっしゃった休業中の取扱い、つまり、たぶん使用者側はノー ワークノーペイということで、働いていないのだからそれは判例にもあるように出勤率 は比例して控除していい、あるいは日々の支払賃金について仕事をしていないのだから 払わなくていいということもおっしゃるでしょう。休業期間中の賃金の取扱いと処遇の 取扱いの問題、休業以外の場面の取扱いがあると思うのです。いずれにしても、原則と して、産前産後休業は女性のみに与えた権利ですからそこを特別に保護することについ て、ということは逆に言うと賃金・労働条件について個別労使が取り扱う場合につい て、基本的に妊娠・出産前の取扱いをやってくださいという考え方で各ケースごとに不 利益取扱いの問題を議論することとは全然違ってくるのです。そういう意味で私は、先 ほど言った研究会はどういう思想に立っているのか。我々が議論する場合の各論、春ま でずっと議論したかった問題は先ほど質問した所なのです。そこはどのような理解をす ればいいでしょうか。 ○奥山委員  研究会に携わった者として1つ申し上げます、報告書を出したのがだいぶ前のことに なりますので細かいところまで記憶は定かではありませんが、いま吉宮委員がおっしゃ った妊娠・出産による不就労とその他の一般の疾病をどう区分けするかということです が、諸外国の法制にはイギリス型、アメリカ型があります。そのような呼び方をしてい いかどうかわかりませんが、アメリカは、妊娠・出産による不就労とその他の一般の疾 病による不就労を区別しないのです。つまり、原則的に母性保護を外して、要するに疾 病なら疾病という枠の中で考えていっているわけです。ヨーロッパ、特にイギリスなど は、伝統的な形で差別の禁止という観点からは日本と同じように扱うのですが、妊娠・ 出産は母性保護の観点からその他の一般の疾病とは違う扱いをするということで区分け しているわけです。これからそれをどうするかは今後の議論の的だと思いますが、これ までの日本の枠組の中では、イギリス型と同じように妊娠・出産については母性保護の 観点からより充実させ、そのようなものについての休業の権利を労基法などで認めてき たわけです。ですから、その限りにおいてはイギリスと同じような法制の枠組で議論し てきたところがあると思うのです。そのときに妊娠・出産による不就労について特別に その他の一般の疾病と区別するところの範囲と内容だと思うのです。  これは研究会を代表してではなく、私個人の理解であると考えていただきたいと思い ます。事務局と違うかもしれません。保護の範囲を考えたときに、現行法の下では基本 的に休む権利を与えています。もちろん業務転換、軽易業務への転換、変形労働時間制 の制限などといろいろあるにしても、基本的には休む権利を与えています。それ以上に 他の疾病による不就労とどう異なるようにするか、例えば休んだときの賃金その他、例 えば一時金についての算定や退職金についての算定、昇進についての考課の尺度といっ たものについて反映させるかどうか、これは法律では何も言っていないわけです。現行 法の中では、妊娠・出産はその他の疾病と異なるようにさせる形で保護について合理性 はあると言っているのですが、それは当然休む権利を認める、それ以上に何を異なるよ うにさせるかはまだ何も言っていないのです。それがどうあるべきかは、ある意味では いくらでも議論できるのです。そのときに産休のような不就労をどう見るか、妊娠によ る労働能力の低下をどう見るか。休んではいないが通常のときに仕事をしていたときよ りも能率が少し落ちるようなとき、休んではいないが妊娠によって能力が落ちることを どう見るか。それは妊娠・出産に伴う必然的な結果ではないか。それを保護することは それも含めての保護になるべきではないか。もう1つ、不就労と同レベルで能率が落ち ているのだからそれについて同じように評価できないのではないかという議論と、当然 2つの議論が出てくると思うのです。そこをどうするかはかなり難しい議論をしなけれ ばいけないだろうと思いますが、最初の吉宮委員のご質問については、そのようなこと です。 ○吉宮委員  奥山委員に対してですが、判例で基準法上の権利抑制とのバランスを言っています ね。最高裁判決はかなり極端な例で、例えば妊娠・出産は90%出勤していなければ、と いうのはまずいなど。昇進もハードルが少し高いと思うのです。それについて研究会 は、場面、場面で違うと思いますが、賃金上の扱いや職務上の扱いで権利行使のバラン スを失うという場合は、どのような議論をされたのですか。 ○奥山委員  そこは一応、一般論的にはした記憶があります。ただ、結局、そういうものは裁判所 でそのような差別の問題、不利益取扱いが具体的に性に基づく差別に当たるかどうかの 問題として、具体的にケース・バイ・ケースの判断になるのです。おっしゃったよう に、東朋学園事件でもそうですが一般的に裁判所の傾向としては、それによって不利益 を受ける権利の性質や内容、不利益の程度などを総合的に判断して結果としてその被害 を受けたとする女性がそのような権利行使ができない、したくともできない、そういう ことをするとこんな不利益が来るということで、結果的に法律の認めた権利の行使につ いて抑制的な効果が非常に大きいと判断されたら、それは駄目だということになりま す。ですから、結局、一般論で線を引くのがなかなか難しいのです。要するに問題にな った当該ケースについての不利益の権利の性質、内容、程度などを考慮しながら、結果 として権利の抑制的な効果がどのぐらいあるかを見るしかないのではないでしょうか。 裁判所は、このような問題についてはそのような判断で扱っています。 ○吉宮委員  川本委員に意見を申し上げます。今日示された1の「単に妊娠しているのみで云々」 は、当たり前の話です。2も、禁止するのは当たり前です。問題は3と4です。要する に権利行使、基準法でも年休取得に伴って出勤に扱わないのは駄目だということで、基 準法もいくつか改正した例があります。以前、一時金の算定基礎に年休を入れてしまっ たことがあり、それを変えたという経緯もあります。育児休業法も、出勤と見なして年 休のカウントをするといった取扱いはあるのですが、産前産後休業について労働協約な どはいろいろ出勤率にカウントしない場合にどのぐらいの割合でカウントするかという 議論も、協約締結の際たくさんあるのですが。1、2については、不利益取扱いの禁止 として当たり前だなと思います。川本委員は異議申立をされていますが、当たり前だな と思います。ケース・バイ・ケースもあるでしょうが、1と2は不利益取扱いは当たり 前だなという印象を持っています。 ○川本委員  先ほど事務局の石井課長からもご説明がありましたが、いちばん最初にご説明のあっ た1であれば、妊娠しました、休みを取ると言った途端に解雇されるといった話は当然 問題だと思っています。ただ、先ほども言ったようにこの2行の文章の中にも、ここで は表現していますが実態、判断、認識等を考えるといろいろなケースが考えられる。し たがって、一般的な考え方として出すと言われても影響は大きいので、ケースを考えた りしながらもう少し慎重な議論をしたいと思っています。重なった発言になってしまう のであまり詳しくは言いませんが、さまざまな場合が考えられる可能性があるというこ とです。あまり範囲が拡大し過ぎても非常に困るなと思っているということです。  2頁の3です。吉宮委員からも3にかかった話がありました。「川本委員からはノー ワークノーペイというお話」まだ言っていないのですが言われてしまいました。私ども としては、3の上の・、休んでいた期間についても就業していた者と同様に扱わなけれ ば不利益であるという考え方は、当然考えられないと思っております。やはりノーワー クノーペイの原則だろうと思っております。したがって、見る角度を変えれば、ノーワ ークは、企業がその分の不利益を被っているわけです。したがって、企業としてノーワ ークノーペイ、そこの部分を何かしらペイというものを考えるのであればそれは全く別 の角度、つまり企業に本来求めるべき話ではなく、違うことの考え方なのではないかと 思います。これが上の・の考え方です。  下の・、就業していなかった期間については不就業として取り扱うが、就業していな かった期間を超えて働かなかったものとして取り扱う不利益な場合です。参考として下 に育介の話、判例が載っています。しかし、これが規定された場合、ほかにどのような 事案が考えられるのかと思っております。私どもとしても、この規定があった場合に、 このような考え方が取り入れられた場合にどのような状況があり得るのかを少し考えて みたいと思っております。これはこれでもう少しイメージを膨らませて考えておかなけ れば、当然でしょうというものもあるかもしれませんが、当然理解の範囲だと思ってい たものがそういうことまで規制されることになるという可能性もあるかなと思っており ます。答にならないような答で申しわけないのですが、事案的なものをもう少し膨らま せて考えていきたいと思っております。ですから、むしろ事案をいろいろ言っていただ けるとありがたいと思っています。 ○岡本委員  いまのご意見ですが、このあとの法改正のスケジュール等も待ったなしということだ と思います。また、考えますと基本的に、先ほど吉宮委員もおっしゃっていましたが、 いまのお話を伺えば、1と2については基本的な考え方にそれほど異議はないというこ とでしょうか。つまり、事例については確かに難しいことがいくつかあると思います。 私が反対の観点から言えば、「職務の遂行に何ら影響を及ぼしていない場合」という言 葉が書いてあることだけでこの判断は非常に難しい、誰がこの判断をするのだろうかと 同じように思っております。しかし、基本的には、1と2を大前提にして不利益取扱い をしないことを決めた上で、具体的な問題について議論していくことをしたほうがいい のではないかと思います。つまり、そのような具体事例がない中でこの基本のところま でも決められないということになると、なかなか議論が進まなくなるのではないかと感 じました。これは判例などもたくさんあるようですし、均等室のほうでもこれまでに対 応してきたさまざまな事例があると思いますので、それに沿って考えれば整理すること がそれほど難しいことではないのではないかと思います。議論としていちばん紛糾する のは賃金の取扱いの部分だろうと思いますので、そこは十分な議論が必要かと思いま す。ただ、一方的な配置転換、業務自体が変わっていく、そういったことについては、 これまでの事例から言ってもきちんと判断できるものではないかと思います。 ○片岡委員  吉宮委員がおっしゃっている性差別禁止の場合の妊娠・出産に係る保護の取扱いをど うするかということで、そこがいちばん重要であると私自身も思います。そこに立った 上で1から4の事例について、それぞれ意見があるわけですが基本的な自分自身の意見 としては、仮に妊娠や出産に起因する不就労があった場合でも賃金や昇級、昇格などを 不就労という扱いでなく担保すべきである、それが保護するという具体的な内容である と思います。  揚げ足取りのような意見になってしまうかもしれませんが、労働組合の役員を長くや っていて、労働組合の中でも例えば産前産後休業の扱いをどのようにしていくかは、必 ずしも有給ですべて合意が得られているような状況にはありません。その場合にもちろ ん法律の労基法で定めているという法の根拠、その人の昇進・昇格に与えられる影響等 が実際にあるのでそれはきちんと、例えば賃金で言えば有給扱いすべきであるといった ことをやっています、そこは男性、女性で意見の違いなども少し入りますが。その結 果、残念ながら、私は例えば自分の加盟組合の状況を見ると、例えば妻の出産の休暇は 有給が圧倒的に多いです。産休は、大手は比較的有給ですが、有給でない所は、健保の 6割に共済組合を乗せるなどしてやっています。しかし、無給の所も多いです。一方 で、私傷病の取扱いなどは比較的長期にわたって有給で扱い、その後の休職も担保して います。このようになぜ、産休だけではないですが、ここでは産休で例を出しているわ けですが、無給にすることが問題かは、そのような比較をいろいろしても取扱いが非常 に不合理だと言いながら一歩でも二歩でも、残念ながらまだ変えている状況です。結 局、そこで無給扱いが一旦されると、昇格、昇進の欠格条項でもう適用対象ではないと 置かれたものがその後の昇給、昇格の度にはじかれるという状況があります。私が言っ ているのは育休ではありません。出産休暇そのものであるという状況があります。私 は、そのような実態から見て、その保護をサービスの対象としないということは通常と 同じに扱うことがまず必要であると、いままでそれがなかったならここでそのことを前 提に意見を言っていきたいと思っています。  これは少しいいとこ取りをしているかもしれませんが、お許しいただきたいのです。 判例のお話の中で東朋学園の最高裁の判決なり、先ほどそれ以外の判決の例が示された のですが。東朋学園は地裁、高裁、最高裁といったわけですが、東京高裁の場面では、 やはり東朋学園の行っている措置に関して無効である、公序良俗に反する、そうなった 場合には出産休暇などはいわゆる欠勤扱いではなく全額支給されて、これは一時金のこ とだと思いますが、当然だという裁判の判断もあったわけです。もちろん判例の扱いに ついては承知していますが、この中にそのような判断もあったという点では、私はやは りこれなども参考にいま申し上げたような意見です。  それと併せて1つ質問があります。検討課題の4に「有期契約労働者の雇い止めにつ いてはどのように考えるか」という検討素材が出されています。これは4、妊娠・出産 等を理由とする不利益取扱いの検討、先ほど特有な場面とご紹介があったのでいいのか なと思っているのですが、例えば有期の人でも1に該当するものもあるわけです。単に 妊娠しているのみで雇い止めなど、先ほどもその例をおっしゃったかもしれませんが。 つまり、有期契約労働者が置かれている状況で妊娠・出産に係るさまざまな不利益取扱 いとはどの項目にわたってもそのことを前提にどのような問題があり、どうするかとい う理解で議論してよろしいですね、そういう扱いですかという質問です。 ○石井雇用均等政策課長  まさにこちらに取り上げた趣旨は先ほど説明したとおりであり、いま片岡委員もおっ しゃったように有期労働者の雇い止めということに限ってみても、1の場面で行われる ことはあると思います。ただ、一方で、その前に欠勤が若干あったような場合など、そ れとは違うようなケースもあり得ると思います。そういう意味で、両方にまたがるとこ ろがあるのは事実です。ここの4を設定した趣旨は、前回の議論のときに、妊娠・出産 と育児・介護とで若干違うところがある、違いもしっかり認識した上でそこをどうする かを少し整理して考えていったほうがいいのではないか、そういうことで取り出したも のです。特にここは最近、育児・介護のほうで充実されて変わったばかりの所であり、 そこに違いがあり得るということで取り上げたという趣旨です。 ○横溝分科会長  先ほど奥山委員が挙手をされましたが、いかがですか。 ○奥山委員  私は、川本委員がおっしゃったことに対して少し自分の意見を、ということだったの です。岡本委員と片岡委員がおっしゃったあと、たぶん議論が混乱してしまうと思いま すので結構です。ノーワークノーペイについてちょっと発言が…。 ○横溝分科会長  では、それは置いておいて、まず吉宮委員にお伺いしましょう。 ○吉宮委員  川本委員にお聞きします。先ほどノーワークノーペイというお話がありました。例え ば産後休業は、法律上、6週間強制ですね。その前の産前休業なり産後のある週は、休 むか休まないかは任意ですね。それも同じように考えられているのかどうか。法律で仕 事をしてはいけないと言っているのに、働いていないからノーペイであるというところ までおっしゃっているのかどうか。そこは法律上の権利行使の関係で抑制的に働くので はなく、例えばそのような扱いをどのように考えるかというのが1つあります。  2つ目は、片岡委員がおっしゃった有期契約の問題についてです。ドイツでは、たぶ ん派遣などの有期契約者は多いと思うのです。有期契約労働者の議論は、育児・介護休 業の際議論させていただいて、産前産後休業はきちんと適用されますよということです ね。ドイツの場合、「女性労働者は、採用に際し自らが妊娠していることを使用者に告 げる義務はなく、使用者からの質問に答える義務はない」とされています。いま派遣の 場合は、使用者側が事前面接なども派遣法で認めるようにという話が結構出ています。 例えば派遣元が採用に当たって派遣労働者に「あなたは妊娠していますか、結婚してい ますか」と聞くことは、ここで言う不利益に当たるのか当たらないのか。派遣でも常用 型はたぶん少ないと思いますが、登録型の場合はかなり多いわけで、特に女性ですが。 そこの場合、事務局はどのように考えていますか。 ○川本委員  企業として企業活動と考えたときにはノーワークはノーペイという考え方が原則では ないか、と申し上げたのです。したがって、これは強制的な休業ですから、その場合の ノーワーク、ノーペイの部分を補うのであれば、実際にいま健保等でやっているわけで すが、これは企業としてではなく別の考え方があるのではないでしょうか、と申し上げ たのです。何でも企業にという話にはならないのではないか、企業の考え方はやはりノ ーワークノーペイの原則論に則っているのではないか、という思いで申し上げました。 ○奥山委員  いま、いみじくもノーワークノーペイのお話になり元の状態になったので、少し意見 を申し上げます。先ほどから川本委員はノーワークノーペイのお話をされていますが、 これがあるのは契約上の原則としてそうだと思うのです。釈迦に説法ですが。民法第623 条は、労働者が労務に服することを約して、相手方がそれに対して報酬を支払うという ことです。基本的に労務履行が先履行になっていて、労働がなければ対価である報酬が 得られないということは契約上の大原則なのです。そういったものを踏まえているかど うかわかりませんが、産前産後の休業についての第65条の規定はあくまでもそういうも のについて休業の権利を設定している、つまり休業請求権は設定しているが休んでいる 間の報酬をどうするかについて、法律の問題としては何も言っていないわけです。あと は、労働契約上、そのような場合の不就労について賃金請求権が発生するかどうかとい う問題になります。  そういったことを考えると、川本委員が仕事をしなければ賃金が入らないとおっしゃ るのは、一般論としては当たっているのです。しかし、契約解釈論からすると、必ずし もすべてがそうなるわけではありません。民法第536条の2項の危険負担でその労務の 不就労がどのような原因で出てきているかによって、川本委員の前提は労働者の責めに 帰すべき事由、例えば無断欠勤をした、勝手に休んだなど、そういった場合には労働者 の責めに帰すべき事由なので対価が発生しませんが、これが別の使用者の責めに帰すべ き事由で休めば、当然休業手当のような形も、第536条の2項でも出るわけです。です から、簡単に仕事をしなかったから賃金が入らないというのは、契約論的には必ずしも 適切な言葉ではないわけです。  理屈ばかりで恐縮ですが。問題は、契約論から言うと、妊娠や出産による不就労をど ちらに負担を負わせるべきかという話なのです。これに関して法律は、特に日本の労基 法や民法は何も言っていません。ですから、いろいろな議論ができるわけです。先ほど 吉宮委員がおっしゃったように、育児・介護休業にしても、法律は休む権利は設定して いて、休むかどうかは労働者本人の自主性に任せてあります。第65条の産前休業は、基 本的に労働者が取りたいと言えば取れます。しかし、産後休業の6週間は強制なので す。労働者が働きたいと言っても、働かせてはいけないということを刑事罰で抑えてい るのです。ですから、産後の休業の不就労をどう見るかは、産前の休業や育児・介護休 業とは理論的にはかなり違う問題なのです。ですから、その辺は少し区別しながら議論 する必要があるのではないか、ノーワークノーペイも産前産後の産後と育介とでは少し 違う性質の問題である、個人的にはそのように思っているのです。 ○篠原委員  まさに奥山委員が言われたような形で、私もそのように思いました。先ほど石井課長 からご説明があったように、特に3番の2つ目の・は育休と同じような取扱いではどう かという考え方に立ってといったご説明をいただいたわけです。いま奥山委員が言われ たように、特に産後についての取扱いはきちんと別に考えるべきではないかと私も思い ました。 ○吉川委員  少子化問題を考える角度から、いろいろな働くことについての部分の抜粋をお話しさ せていただきたいと思います。先ほど川本委員からも発言がありましたが、例えば妊娠 したといったときに、これは職種にもよりますが、企業として好意的に配置転換を考慮 したときに、本人にありがたいという思いがあっても、「そういうことを受け入れては 駄目だ」という周りの風潮が強くて、本人がそれを言いにくくなってしまう雰囲気があ るということも聞きました。  もう1つは、多少のことであれば周りが手伝えることなのに、手伝おうとすると、別 の人が「そういうことを手伝ってしまうと自分たちにプラスのことがこなくなるから、 手伝っては駄目だ」という声もあると言われています。中には、妊娠したことが同僚に わかると、「会社に言わないで」といって、自分が先に配置転換を申請してしまってい る例とか、多くではありませんが、一部いろいろなところで意見を聞くと、そういう話 も耳に入ってきます。ですから、せっかくお互いに協力し合う体制、基本は子育ては全 体で見なければいけないという問題だと思うので、そういう協力体制を反対の形に持っ ていくような風潮を避けて、協力し合う意識の滲透を、役所も企業も推奨していくべき ではないかと思います。  それからノーワークノーペイについてですが、産前産後については、大手企業はどう かわかりませんが、中小企業については、この負担は大変大きいので、現行はお支払い しなくて、健康保険組合から6割を負担していただいていると思いますが、いま健康保 険組合は大変だという声もありますし、もし許されるのなら、そこの部分を、もう少し 国にプラスアルファの負担をしていただくことも、私は考えていただきたいと思ってい ます。産前産後の3カ月休暇については、比較的皆さんに浸透して、理解していると思 いますが、むしろその後の子育て中の方に対する、早く帰らなければいけない、保育園 の迎え、そういう圧迫のほうが、心理的負担としては大きいと聞いているので、その部 分についてもう少し徹底して、小児科医と連携を取った形で、少なくとも勤務時間内は 特別な病状でない限り、そういうこともしていただくと、働く女性に対する間接的サポ ートになっていくのではないかと思うので、そのような角度からも考えていただけたら と思います。この件についての直接なことではなく総論になるかもしれませんが、その ようなことも考慮していただけたら、働く女性に対するサポートになると思うので、よ ろしくお願いしたいと思います。提案したいと思います。 ○石井雇用均等政策課長  吉宮委員からの2つ目の質問に対して、まだお答えできていませんでしたので、いま 返答させていただきたいと思います。先ほど吉宮委員は、派遣労働者の事前面接の話に 絞っておっしゃられましたが、それは募集採用という通常の行為にも敷衍して言える話 ではないかと思います。すなわち、募集・採用の中で、妊娠しているから採用しないと か、そういう情報を集めるとか、そういうことを含めての話だと思います。不利益取扱 いの項目の1つとして、そういうものも取り上げ得る話だと思います。ちなみに、奥山 委員を座長としてお願いした研究会の中でも、諸外国の取組みについて作表して紹介し ていますが、その中で募集・採用という区分を設けていたところです。 ○吉宮委員  吉川委員にお聞きしたいのですが、妊娠・出産に配慮をしていろいろやったことが労 働者側に伝わらなくて、理解できない問題があるので、2月9日の審議会で配られた均 等室の事例ですが、例えば出産後一方的に時間外労働のないところに配置をしたという ことですが、事業主側は出産をしたので残業がないほうがいいと配慮をしたということ なのです。均等室が使用者に聞いたら、違うということでした。使用者側は答えている のですが、実際は違うという例があります。使用者側が均等室に呼ばれて答えるとき は、全て配慮なのです。結果はみんな強制退職だったりするわけですが、私は配慮とい うことで全部通るような話ではないと思います。まさに、こういう事案で判断しない と、使用者が「時間外労働のないところにやったのだから」と本当に思っていれば別で すが、本心では思わないわけです。 ○吉川委員  それもケースバイケースで、配慮をしていただいたと本人が感じた方に対しても、 「そういうことを認めては駄目だ」と周りからの意見が出るという話を耳にしたので、 していただいた配慮が、本人にとって「これは配慮ではない」と感じるものとまた違う と思うのです。だから、本人はそういう配慮があると感じているにもかかわらず、周り が言うから言えない風潮があると耳にしました。それも例として発言させていただきま した。 ○岡本委員  いまの話は、一緒に働いている同僚が、妊娠・出産を経験する方に対して、どのよう な形で支援ができるか、受け入れるかという問題だと思うのです。つまり、職場環境が どうであるかの問題なのだと私は思いました。  今回ここで議論をしていることは、まさしく経営者と労働者という、言葉を変えれば 強者と弱者と、少なくともそういう関係にある中で、妊娠・出産をする方たちに対し て、どのように具体的に配慮をすることができるか、または経営者に対して指導してい くことができるかを担保する法律だと思うので、私は職場環境の問題と、法律の議論を している問題とは、分けていくものではないかと思います。職場環境の問題は、労働組 合としてももっときちんとしていかなければいけないという反省の上に立たなければい けないと感じます。そこは明らかに、経営者側の妊娠・出産に対してのさまざまな対応 が現実的にあるわけですから、そのことで議論するわけではないと思います。 ○吉川委員  働くということは経営者と対個人ではないです。経営者と全体という中であるので、 その環境自体も全部ひっくるめて議論していくべきではないかと思っています。 ○片岡委員  いまおっしゃっていること、つまり権利行使をしない人との関係で、お互いが協力し 合う、それはお互いにどこか譲り合うという意味でおっしゃるのなら、その必要はすご く日常的に感じているので、休まない人もいるし、休む人をカバーする人もいる職場で 運営していますから、協力体制が必要だというのならわかるのです。しかし、いまここ で議題にしているのは、妊娠・出産をする権利を行使すること自体が、いまは解雇は禁 止されていますが、その権利行使に伴って起きているさまざまな不利益をなくしていこ うということでいうと、基本的には権利行使できることが前提で、仮に先ほどの例で、 「妊娠したことを告げずに」とおっしゃいましたが、妊娠した人の中には、妊娠したこ とを言った途端にということをさまざま見てきて、それは自分が無理をしたら、流産や 早産をするというリスクがありますが、自分の周りの先輩や状況を見ているにつれ、我 慢できるところまでは黙っていようと、私はそういうこともあるのではないかと思って いるのです。  ノーワークノーペイの議論とは別に川本さんに伺いたいのですが、産後休業、強制休 業について、「基本的には企業ではなく、健保など企業外で」とおっしゃったことは、 「そこまで言うのですか」という反論があります。  先ほど奥山委員から、契約の大原則のノーワークノーペイのご説明があって、その都 度それの説明をいただくので、そこは自分でも十分に理解をしています。それに基づい て職場は動いていく中で、私が先ほど持ち出した例なのですが、ノーワークノーペイ原 則に立ちながらも、一方で職場の中で働く人に何らかの権利を認めていくことが、その 人の意欲を高める、あるいはそういう企業の1つの政策にロイヤリティを感じ、もっと 頑張ろうと、企業に自分も役立ちたいと思う。そういうものがあるから、そういう関係 の中でノーワークノーペイの原則だけれども、例えば休暇で言えば、さまざまな休暇、 もちろん無給のものもありますが、この間に有給にしてきたものもあると思います。だ から、私はそこは企業、労使間で、これは会社としても保障したほうがいい、働く人も そこを保障してもらったほうが、より働く能力が高まるという合意の中で、先ほど私傷 病休暇、出産休暇を言いましたが、最近ではドナー休暇もあります。そういう個人の社 会貢献を認めようと、それがその人に非常にメリットを与え、会社にとってもメリット だという議論があって決まっているのに、なぜ女性にかかわる産休についてだけ、無給 で置かれているか、これは不当ではないかと私は思うのです。ノーワークノーペイを貫 徹してくれと言っているのではなくて、そのことに対して、企業、労使間で保障規定が さまざまあるのに、どうして産休の例を出せば、実態からすごく不当に扱われていると 思います。今日の議論でいうと、まず基本的な考え方として、保護をベースとした権利 は、その保護を受けなかった人と同じ扱いにするという考え方に私は戻るのですが。 ○樋口委員  議論がコンフューズしているので、少し整理なり、クールになったほうがいいと思う のです。1、2については原則論で、そう大きく違っていないと思っています。それぞ れケースがどうなのかということがあるわけですが、3と4について、まさにケースの ほうがあまりにも多様化しているので、それぞれの委員がどう考えるのか、何を想定し て議論しているのかによって、まったく議論が違ってくるという感じがします。  例えば3のところでも、正社員の日給月給の労働者を考えていくのか、パートタイマ ーの時給の話を考えていくのか、それとも最近議論されている考課主義に基づく年俸制 の給与の労働者を考えるかによって、かなり違った扱いになってくる可能性があるので はないかと思うのです。  それぞれが違ったことを考えて発言しているために、その中身がよく見えてこないと ころがあって、もしこれを法律にするとするなら逆にどういう法文になるのか、そして またそれを指針として解釈していくのだと思いますが、同じ基準を、いま言ったような 多様な雇用形態全ての人に当てはまらないと、法律である以上は意味がないわけで、当 てはめることができるのかどうかということでどう考えていくのか。3、4を具体的に 法文化しようとしたときにどうなるのかのアイディアがあったら教えていただきたいと 思います。 ○横溝分科会長  個別のいろいろなご体験や知識は必要なので、おっしゃっていただくのは結構なので すが、時間の限りもあるので、いま樋口委員がおっしゃったように、この均等分科会で 労働制度、法律に向けて何の意見を出すか、どのようにまとめるかに絞って、もう少し 集約して、いま樋口委員がおっしゃったように、事務局に立てていただいた柱立てに沿 ったご意見をいただけたらと思います。重点的には3と4になりますが、1、2でも結 構です。 ○山崎委員  1に関係するかもしれませんが、例えば妊娠している従業員がいて、その人が妊娠に 起因する原因ではなく能率低下の状況があったとします。そういうことを使用者側がい ろいろ勘案して、不利益にならない程度の配置換えをして、使用者側としてはそれがよ りよいとしてやったとします。ところがその女性にとってみれば、たまたまいったとこ ろが面白くないということがあって、「これは私が妊娠しているので不利益な取扱いを したのではないか」ということを主張し始めたケースはかなりあるのではないかと思う のです。  そうすると、労使の不利益の考え方の取り方が少し違うということで、そこでかなり 論争が起きると。ただ、不利益の取扱いという言葉というのは、事象よりも先にいって しまって、何となく正当化されてしまうということで、せっかく使用者側もそういうこ とではなくやったにもかかわらず、「不利益」という言葉のほうが正当性があるような 感じがして、たまたまその人が妊娠していて、それが原因ではないのですが、自分では 「そういうことだ」ということを主張された場合にどう考えたらいいか、かなりそのよ うなケースも起きるのではないかと思うのです。先ほど川本委員からのいろいろな事案 がありましたが、実態としていろいろな場合が考えられて、果たしてこれが本当に不利 益な配置転換になるのかどうかと、そのようないろいろな問題が起きてくるのではない かと思います。 ○川本委員  先ほど時間的な関係もあって集約に向けてという話もありましたが、私が申し上げて おきたいのは、私ども委員もここに出席しながら、公益の委員の皆さん、または労働側 の委員の皆さん等も含めたご意見を聞きながら、想定しているイメージなどもわかって いくわけで、非常に貴重な意見をさまざまいただいていると思っています。そして私ど もも持ち帰って、私個人も考えますし、企業のメンバーの意見も聞きながら、いろいろ な問題を考えていきたいと思っているわけです。時間はかかるかもしれませんが、ぜひ 議論は続けたいと思っています。それを申し上げたいと思います。労側の委員の方たち には具体的な意見を随分言っていただけるものですから、私どもも具体的なイメージを 持った上でどう考えるかを検討できるということを申し上げておきたいと思います。  1、2というのは文書で見る限り、また極端な事例であれば、「なるほど」と思うの ですが、そういっても、このまま規定をしただけであれば、思いもしなかった対象のト ラブルが起きてくる可能性もあるわけです。企業の管理というのは現場で起きるトラブ ルがいちばん困るわけで、したがってある程度イメージを膨らませた上で、どのような 書き方をするのか、あるいはものによっては、いままでのものでも指針に落とし込ん で、かなり具体的に書くものもありますが、そういう必要性があるのかないのか、そう いうところにつながっていくと思っているので、私も意見を言いますが、併せて他のメ ンバーからもいろいろなご意見をいただいたほうが助かると思っています。  それから、4についても申し上げたいと思います。これについても考えれば考えるほ ど悩ましいのです。ただ、その中で考えたのは、4に2つポツがありますが、1つ目の 「妊娠・出産起因の症状等に伴う能率低下、労働不能」のときの取扱いの問題ですが、 妊娠のパターンというのは、妊娠から出産までの限られた期間ですが、出産後の問題は 非常に短期間の問題のものもあれば、非常に長期にわたってしまう場合もあり得て、あ るいは断続的に出てくる場合もあり得ます。つまり、出産に伴って元気な方ももちろん いるのですが、体調が悪くなる方もいます。期間をしばらく置いてから別の病気になっ たとか、いろいろなことが起き得る話かと思っています。したがって、ある程度限られ た期間である妊娠の場合の話と、出産起因の話は少し違うのかと思っています。  特にいま言ったように、出産後の話は、継続的に出てくる、断続的に出てくる、それ が起因かどうか因果関係はよくわからないのですが、病気を誘発した場合があるとか、 能率低下が起きてくるというのは、その辺の因果関係をどう証明するのか、どう認定し ていくのかという非常に難しい問題をはらんでいるのかと思っています。したがって、 ここの扱いについてはかなり難しい問題があるのだという中で、どう扱っていくかを考 えていく必要があると思っています。 ○吉宮委員  私ども、妊娠・出産の休暇中の取扱いは、現に労使で結んでいる協約等も観察して提 案しなければいけないと思います。使用者側がおっしゃられる企業負担ではなく、国な どの負担というものです。私どもは出産手当金を、前回の議論では「ILO第183号条 約を批准するために、日本の支給率は60%ちょっとなので、それを上げないと批准でき ないということで、出産手当金を引き上げるべきだ」と申し上げました。出産手当金は 健康保険から出ているわけですが、その性格は賃金の代わりとして出ていると認識して いいのか、そうではなくて、出産となるといろいろな費用がかかるから、それを健康保 険から支援するという意味なのか、それはどういう性格なのでしょうか。  多分この労使協約も、出産手当金6割というのを前提にして、それにプラスするとい う協約のベースなのです。4割を補填して、休み前の賃金と変わらないようにする、あ るいは10%というのもあります。それは健康保険から出るという前提があると思いま す。その辺の性格はどのように理解すればいいのでしょうか。また、使用者側はどのよ うに認識されているのでしょうか、賃金の補填で出ていると認識されているのか、そう ではなくて出産に費用がかかるから、その費用として出ていると理解されているのか、 賃金と違うと理解されているのでしょうか。 ○石井雇用均等政策課長  誠に申し訳ないのですが、他局が所管している制度なので、いい加減なことを言うの は避けたいと思いますので、確認した上できちんとお答えさせていただきたいと思いま す。 ○吉川委員  私は1つの法律をつくるにおいても、この委員会はこのことということで、点と点の 話合いでも、社会は全体で動いているわけですから、もっとトータルで議論を大いにし て、その中で、この部分はこのようにしていくとか、点と点だけであちこちやっている ので、全体になってみるとこちらの件とこちらの件が全然違う、バラバラになっていく ことが役所の弱点ではないかと思っているのです。もう少し点と点ではなく、トータル で進めていって、議論をしていって、それでもう少しお互いに情報の交流をしながらや っていかれるほうがいいと思うので、私も大いに議論していただきたいと思っていま す。 ○奥山委員  議論をすることは大事なことで私も大賛成なのですが、聞いていると、個別の具体的 な例が出てきます。これは労使関係の当時者の皆さんは、日常の中で起きている問題が 常に議論の前提になるでしょうから、それは十分に理解しています。しかし、こういう 場で立法的な枠組をどう設定していこうかというときには、最初に石井課長がお話され たように、基本的な枠組ですから、例えば妊娠したこと自体を理由とする不利益取扱 い、客観的に見てそういう事実があったときにどう対応するかという問題、そのときに 当事者がどう思っていたかという認識の問題は個別の具体的な問題になると思います。 そこをこの時点でギリギリやっていると、おそらく収拾がつかないと思います。これは 先ほど樋口委員がおっしゃったとおりだと思います。  もちろんそういうところは大事な議論だと思うのですが、まず総論の枠組のところ で、方法や程度は私もわかりませんが、例えば4のところでも、妊娠・出産起因の症状 等に伴う能率低下、労働不能を、不利益取扱いという前提からルール化していくことが 適切なのかどうかをまず皆さんの共通の認識にしていって、そういう場合に何をもって 不利益とするかをさらに個別の具体的な例に即しながら考えたほうがいいのではないか と思います。もちろん議論を抑えるという意味ではないのですが、聞いたところの感じ を言わせていただきました。 ○今田委員  いろいろな実態というのは非常に複雑で、いろいろな評価があると思います。この 「妊娠・出産を理由とする不利益取扱い」という、今度の均等法の全体の中の1つの項 目なのですが、この項目の重要性について、今後これをどう詰めていくかというときに 重要なので、あえて申し上げたいと思っています。  もちろん事務局からも再三いろいろなデータで紹介されていると思いますが、女性が 妊娠、出産をして、子育てをして、就業継続していくものを下支えするための均等法、 その他の法律がどんどん整備されていっているわけですが、最近のいろいろなパネルデ ータなどを見ていると、確かに育児休業制度などの整備などによって、育児休業を取得 して働き続ける女性は増えているのです。そういう意味では育児休業制度の整備は非常 に高く評価されるのですが、それには裏があって、実際に女性の傾向を見てみると、結 婚、出産をした人の大半が辞めているという現状があるわけです。  妊娠をして継続した人にとっては、育児休業制度を取得して、就業継続をしていく制 度ができて、それはかなり機能している現実はあるのですが、厚労省のパネルデータを 見ると、現実に働いている女性の3分の1くらいしか残っていないわけです。パネルデ ータを追っていけば、女性が学校を卒業して、働き出して、結婚をして、出産をした ら、どういう就業状態になるかはつぶさにわかることになるのですが、最近のデータを 見ても3分の1も残っていません。これは我々が昔にやった、均等法施行時点とそれほ ど大きな改善はされていないのです。  ということから、妊娠・出産という契機に、女性がリタイアしないで継続していくこ とについての下支えは改めて重要なことで、育児休業制度の整備は高く評価されるとし ても、その前のイベントで大半の人は辞めているという事態は、非常に忌々しきことで あると思います。制度としても、企業としても、優秀な女性が辞めていくわけです。と いうことで、改めて育児休業制度ができて、不利益取扱いの規定もできている今日にお いても、なおかつ妊娠・出産を理由とする不利益取扱いが議論されなければいけないこ とも、この分野について法的な整備はされていなかったのかという感想を改めて持ちま す。そういう十分でなかったということが、まさに結果として、妊娠・出産に伴って多 くの女性が辞めざるを得ない、辞めていると。先ほど5%と出ましたが、解雇などの明 示的なものであって、不利益取扱いなど、いろいろな処遇に伴った結果として、妊娠・ 出産に伴って女性がリタイアしていくという、企業にとっても非常に優秀な人たちを失 っていくことが実際に起こっていることを考えて、これから法律をどう作っていくかと いうことで我々は知恵を出していかなければいけないのですが、まず大前提として、不 利益取扱いの禁止を労使の合意に基づいて、きちんと定義して、より不利益取扱いを禁 止することによって、妊娠・出産によって女性がリタイアせずに継続していけるよう に、現実的な雇用のあり方をどう支えて、どうルール化していくかというところで、細 かなルールを労使で考えていく、知恵を出していく。まず大前提として、妊娠・出産を 理由として、意に反して退職しないような制度をつくっていくのだということを、ここ で使用者側、労働側、行政側も、強く認識した上で、これをどう詰めていくかという議 論をしたいと思います。 ○樋口委員  今田委員のおっしゃったことはもっともなことだと思います。個別ケースについて議 論するのも重要なインフォメーションだと思うのですが、小渕内閣のときから厚生労働 省を挙げてミレニアムプロジェクトをやっているわけです。いまのパネルデータはそれ なのです。それは何十万人の方に回答してもらって、妊娠で辞めている人がどのくらい いるか、どういう人が辞めているのかは全部出ています。そうだとすれば、何が問題に なっているのかを統計的に一度整理してもらって、ここがボトルネックになっていると か、こういう人たちが不利益に扱われているということを整理した上で議論をすること も、法律を考える上では必要なことなのではないかと思います。そういう意味で、まっ たく同感だと思います。 ○吉宮委員  私も冒頭に、5.6%というのは認識が違うと思って、私の記憶では70%が意に反して 辞めているというものだったので言ったのですが、いずれにしろこの問題は非常に大き なテーマです。人口減少時代に対応して、いま人口維持に必要なのが2.07%ということ は、女性の方が産む数を2人以上とすると、産前・産後休暇、2人以上というのを企業 の方にも覚悟してもらわないと駄目なのです。負担を社会的にどうするかはあります が、そのときになぜ辞めているかを私どもがもう少し観察する必要があると思います。 私どもでしたら、労側で辞めた方のヒアリングをしたり、何が問題だったのかというの をやりたいと思っているのですが、いずれにしてもこの議論は非常に重要なテーマです ので、少しデータを揃えていただいて、総枠の議論に発展できるようにしていただきた いと思います。 ○横溝分科会長  今回の均等分科会の抱えているテーマの中でも非常に大きなテーマですから、時間は かけたいと思います。これに関しては2月9日にもこれに関しては相当ご議論をいただ いて、記録上も残っています。今日事務局が示した4つの柱に沿って、このテーマにつ いて今日こういう意見があるということがあれば、なお発言していただきたいと思いま す。 ○林委員  私は2月9日の議論に参加していないので、ピントが外れていたらお許しください。 3、4を検討するときに、妊娠・出産等を理由として、どのような欠勤や能率低下な ど、そういう事態が生じた場合に、具体的には解雇があるだろうし、職場の変更など、 そういうなされた行為に対して打ち出された会社側の態度のバランスが当然考えられる のではないかと思います。  いま議論しているのは、不利益取扱い一般という形で議論をして、その中で今田委 員、樋口委員がおっしゃられたような、意に反した離職ということが大きな問題ではあ るのですが、法文化していくときに、その辺を不利益取扱い一般で括ってしまっていい のかが、私が感じている問題点であります。  それから、先ほど奥山委員がおっしゃった産後のほうは強制休暇であると、私も当初 は、「強制でも有給でも」という感じを持ったのですが、労働基準法で産前産後を決め た、母性保護という見地から決めたその制度と、それをとることによって雇用の機会の 均等を進めていこうというこの法律の趣旨をまったくパラレルなものとして考えていい のかどうかというのが、私自身も検討しなければいけないのかなと思っているところで す。 ○奥山委員  私も十分に勉強しているという自信はないのですが、労基法の6章の2ですが、もと もと6章で「女性、年少者についての保護を与える」というのは、女性の場合について は、妊娠・出産に関する母性保護という観点から規制がかかっているわけです。推測で すが、結果として産前については、女性についての悪阻等の状況など、個人差が非常に 大きいということで、妊娠していても通常業務なら平気でやれる人もいますし、非常に 悪阻が重くてそういうこともできない人もいます。ですから、それは勤労の権利も含め て、ある程度任意にゆだねようと。ただし、出産後については、一般的には非常に大変 な作業を行った女性について、直ちに職場復帰をするのは難しいだろうという趣旨があ って、強制になっているのだと思うのです。そのときに、賃金をどうするかということ は、立法政策上の問題だと思っています。おそらく立法者は産前産後について使い分け をしたのではなくて、全般的に出産に伴う休業ということで、出産休暇的な形でそれを どう扱うかということでやったのだと思うのです。  それから、いまのお話ですと、労基法のいまの規定は母性保護という観点からの特別 の手立てで、いま我々が議論しているのは、育介法でも均等法でもそうですが、そうい う事情を原因とする不就業を差別との関係でどう法的に評価するかの問題ですから、ギ リギリ議論をすれば違うレベルの問題だと思うのです。その辺を議論をする中で、認識 はきちんとしていかなければいけないのかと思っています。 ○石井雇用均等政策課長  先ほどお答えできなかったことの1つにお答えさせていただきたいと思います。まず 出産手当金の性格ですが、いま確認をしたところ、基本的には生活の保障をするために 支給されるという性格で、賃金というものではありません。ただ、背景として、労務に 服さなかったことによる所得の喪失、減少を補って、その上で生活の保障を行うために 支給されるものです。そういうことが趣旨です。  それから、いままでの議論の中で2つほど申し上げたいのですが、先ほど樋口委員の ほうから、「もう少し統計的な話で整理をして」とありました。また、今田委員、吉宮 委員のほうからも、冒頭に質問があって、「無理にやめさせられた方の比率が5.6%と いうのは少さすぎるのではないか」という話がありました。もう少し整理をすると、確 かにパネルデータでは7割とか6割といわれていますが、妊娠・出産を契機に辞められ たという方がその位いるわけです。その中にさまざまな事情があって、そこから先の両 立が難しいということが大きな理由で辞める方もいますし、もともと家庭に入るつもり だったという方もかなりいます。ただ、統計の中で出てきていたのは、法律上禁止はさ れているはずなのに解雇された、あるいは退職勧奨されたということで、本当に無理に やめさせられた方が5.6%という数字で挙がってきているという姿です。ただ、これも 改めて提出させていただいたほうがいいかと思っています。  それから、林委員のほうからも「不利益取扱いの類型のイメージがつかめない」とい う話がありました。事例的なものは2月にお出ししましたが、それをまたパターン化し たような形でお示しすることによって、議論の交通整理が一層できるかと思っており、 今度この議論をする際にはそういうものも用意させていただければと思っているところ です。 ○樋口委員  5.6%の話はありがとうございました。こういう議論をするときに正社員を考えて、 正社員の5.6%という話をしているのか、パートタイマーまで入れて話をしているのか がはっきりしないために、これだけ雇用形態が多様化している中で、誰を想定している のかによって全然違ってくるのです。そういうインフォメーションがほしいと思いま す。それによって法律の立て方も変わってくるのではないかと思います。ここでの議論 の対象は、皆さんは正社員を念頭に置いているのかと思いつつ、有期という話が出てい るから違う、派遣という話が出てきたりしているのです。どこをターゲットに話をして いるのかが見えないところがあって、そこを整理していただくとありがたいということ です。 ○片岡委員  4点目の労働不能というのは、単純に考えて休むと理解できますが、能力低下という のはどういうことを想定しているのでしょうか。結局、それも妊娠をしているという母 体の状況によっては個別に出てくることはあるかもしれませんが、それを能力低下とし て見るのかというと、私はそうではないと思っているわけなのです。自分の意見を言っ てしまった上で恐縮ですが、厚労省はここの中ではどのような例をおっしゃっているの でしょうか。 ○石井雇用均等政策課長  まさにこれは均等研の中でも取り上げましたし、またアメリカや各国の法制の中で検 討したときに、この辺はセットで出てくるものですから、素直に取り上げたということ です。  確かにわかりやすいのは、欠勤という形でその場にいないというのがあります。ただ 勤務中、中断をすることが多いケースもあり得るとなると、「能率低下」という表現の ほうが適切かもしれません。さらには、お腹が大きくなってくると、どうしても動作が 緩やかになって、例えば出来高的な仕事をされている場合には、それまでよりも量が落 ちることもあるかもしれません。先ほど来、使用者側からも、若干そういった能率低下 の例はあるというお話がありましたので、もし補足があれば使用者側委員のほうから何 かおっしゃっていただければありがたいと思います。 ○横溝分科会長  冒頭に申し上げたように、本日は「ポジティブ・アクションの効果的推進方策」と、 「セクシュアルハラスメント対策」についてもご意見をいただく予定でした。この妊娠 ・出産を理由とする不利益取扱いというのは、まだまだ引き続き議論をいただくことに なると思うので、今日のところは特段いまおっしゃるご意見がなければ、後の時間を 「ポジティブ・アクションの効果的推進方策」についてご意見をいただきたいと思いま す。 ○吉宮委員  均等月間のデータが配られましたが、いま企業が女性活躍推進協議会、各都道府県で 労側を除いて、公益と使用者側でつくっているのですか、各均等室レベルで。かなり普 及はしているし、企業の方もご努力していることは十分認識しているのですが、この延 長線上にこのままいけば、いわば女性の活躍の場がどんどん増えていくと描けるのか、 もう少し質的な強化を必要とするのかということからすると、私どもは1999年の均等法 施行から数年経っていて、これをどう見るかというのもありますが、もう一段と政府関 係のいろいろな研究レベルも、女性の活躍の場を拡大することによって、企業に非常に メリットがあるというデータを考えると、もう一段と均等法でレベルアップをしようか ということはあるわけです。  そこでどういうレベルアップをするかです。問題は、募集採用のところは、もちろん 女子のみ、男子のみというのは禁止されていて、それがスムースにいけば女性の職域も かなり拡大していけるかと思いきや、徐々に浸透しているもののまだ不十分だというこ とです。入口の段階の女性の採用、職域の拡大、活躍の場を担保する意味で、ある程度 スキームを事業主にご努力いただいて、工夫すると。例えば参画計画の中に、東京都の 例、神奈川県の例、つまり県内の企業に、女性、男性の労働力調査、配置状況等をご報 告いただいて、その上でどういう職位にいるか、どういうポストにいるのかということ を調べていただいて、そこで何年か観察をして、前進を見なかったら、行政側も助言指 導などを行うことをしているところもあるわけです。  いま若干中断しているようですが、福岡県の福間町でも、町が受発注の事業をやる場 合に、女性の活躍の場がどれだけあるかによってそれを決めるという条例を決めたと か、我が国でもいろいろと試みがされているわけです。そういう意味では、公正競争と いうか、企業間の競争を公平にする意味でも、ある程度そういうスキームを国レベルで つくってはどうかと思います。これは他の国にもあるように私は聞いているのですが、 私どもの検討の場では、大体300人以上の企業に対して、そのようなプランニングを義 務づけて、例えば毎年出していただいて、ある程度それを観察して、その変化が見られ ない場合に、何らかの助言指導を行っていくと。  やった企業とやらない企業をどうするかという意味で、ある意味ではやった企業を誉 めるような仕組を税制上なのかわかりませんが、何らかの国レベルからのそのような措 置を講じることによって、頑張れば企業もメリットを感じるというスキームを導入する ことによって、入口の段階の均等法の契約締結前のところを少し押さえることができる のかという意味で前から考えているのですが、その辺を今回のポジティブアクションで は検討いただきたいというのが第1点です。  セクシュアルハラスメントについても前回は欠席したのですが、これも相談案件がい ちばん多いわけです。均等法上は調停にも入りませんから、労働局の個別紛争に仕分け して、他の仕組でやっているということです。相変わらず多いということをどのように 認識しているのか、被害を受けているのは圧倒的に多いと思いますが、被害を受けてい ながら気持よく働いているのかどうか、もし残念ながらもやめざるを得ないとなってい る方、あるいは精神的な疾患が出たり、さまざなことがあると思います。それを安心し て働ける環境を企業がどうつくるかという意味でも、いまの均等法の枠組では弱いので はないかという意味で、いまは配慮義務ですが、もっと強制力のあるものにして、従業 員のたくさんいる会社と少人数の会社と違いはあるかと思いますが、被害を受けた方が 引き続いて働ける環境をつくることが必要だと思います。解決するにはやめざるを得な いという状況は、私は解決の姿として望ましいと思いません。そういう意味で、働ける 環境をつくるようなスキームを均等法の中に措置することを、ぜひ検討していただきた いと思います。 ○横溝分科会長  奥山委員、何かありますか。 ○奥山委員  ポジティブ・アクションについて吉宮委員から神奈川の条例の話が出まして、決して 吉宮委員のお話に水をさすわけではないのですが、募集・採用、配置、昇進の度合、そ ういうものの数字をいただいています。いただいているのですが、そういうものの主な 目的は、同業他社のところでそういう状況がどうなっているかを、お互いに情報として 提供して、私どものところは少し遅れているということであれば、それを頑張ってやっ ていただこうというような形で、いま進めていることが実態で、後で少し触れられたと ころで、それが不十分であれば行政が指導をするというようなニュアンスを込められて おっしゃられたような気がしたので、そこまではしていないのです。300人以上の事業 所に対して出してもらっているというところで、あとは同業他社の情報提供という形 で、もちろんそれで止まるということではなくて、現状はそういうことです。 ○吉宮委員  東京都のものとか、神奈川県の横浜市と川崎市など、市レベルでもそれぞれ違います が、しかし報告を求めることは条例でやっているところもあるわけです。これを国が定 めることによって、もう少し平準化される時期に入ったのではないかという認識がある もので、そのスキームを少し検討していただきたいということです。 ○片岡委員  ポジティブ・アクションとセクシュアルハラスメントの2つを一緒に話してもいいの かと思っています。今日は妊娠・出産に係ることについて詳細にわたった資料と受け止 めたのですが、依然としてセクシュアルハラスメントが39.2%という割合になっている ので、今後の議論をわかりやすくする意味で、何点か今日のうちに質問をして、お答え をいただければいただきたいと思っていることを申し上げます。  件数なりボリュームがあることは承知していますが、相談内容から見て、被害の状況 の具体的な中身がデータではわからないので、知ってみたいと思います。それと、被害 に遭った人は自分の希望する解決を得ているのかどうか、ということを知ってみたいと 思います。その結果とつながるのですが、就労継続の状況はどうであるのか。先ほど 来、妊娠・出産で辞める人が多いという話があったのですが、もっとその手前でいう と、全体の女性にかかわってセクシュアルハラスメントで辞めているのも多いというの が、この間いろいろご意見としてもあったわけですが、そういうものを客観的に見てみ たいというので、そういうものがあれば就労継続の状況についても知ってみたいと思い ます。  4点目は、相談を受けたということは、その会社が何らかの対応をしたという中に、 加害者に対してはどのような処分をしているのか、あるいはその中身だけでなく、例え ば再発防止などについてはこのようなことをしたとか、そのような具体例があるのかな いのかなど、今後の議論の参考にしたいので伺いたいと思います。今日ここに来る前 に、共通だと思いますが、各審議会委員宛てに送られてきた被害状況をまとめた資料が ありますが、それを見ると、被害状況が大変深刻で、性犯罪という分類の中に入ると思 います。例えば性暴力で、ストーカー行為、痴漢行為というのは一般的に犯罪だから、 みんながわかるように表示されているわけですが、性暴力の中のセクシュアルハラスメ ントも大変な問題なのですが、どうもそのような認識ではないと指摘をされる、あるい は受け止めざるを得ないような被害状況の深刻さが、その中にはあるわけです。  何としても防止強化をしたいというのがもともとの意見の柱なのですが、被害者がど のような救済をされているのかを、このさまざまな議論の中で柱に置いて、もう少しい まの規定振りだけの問題ではないと思いますが、防止・被害者支援の強化を私は進めた いと思っています。  これは行政には批判的な事例になりますが、私がこの間聞いた中では、裁判所に持っ て行く選択はベストだとは思っていないので、支援者の方が「まず均等室に相談に行き ましょう」と相談に行ったところ、均等室からも会社に対して問合せをしたのですが、 その答えでは会社は「事実関係はない」ということで、それで終わってしまったので、 仕方なく次のステップとして裁判を準備している、その中で会社との協議、裁判準備の 中で接触をしたときに、結果としては事実があったことが判明したという例もありま す。そうすると、相談窓口の対応が、いちばん身近なところとしては大変重要なのだけ れども、もちろん企業内でやることがもっと大事なのですが、さまざまに行政機関が間 口を広げ、支援したり、助言していることが、もっと有効にならないと駄目なわけで す。いま申したのはほんの1例かもしれませんが、そういう事実調査が十分でないまま 戻されている被害者は、またどういう状況に置かれてしまうのかと思うわけです。  あと何度も申し上げてきましたが、労災の判断基準に関して、申請はされているよう だというところまで申し上げたのですが、実際にそれを認定して、受理されたものはな くて、労災の判断基準は業務の起因性がいちばんポイントになっていて、実際はセクシ ュアルハラスメントはもちろん仕事をしている場で起きているのですが、仕事そのもの は労災認定を受けるような過重労働とか、そういうこととは少し性質が違うわけです。 しかし、判断基準にはPTSDのことも入っているわけです。もちろん判断基準を緩く してという意味ではなくて、それなら業務の危険性とか、セクシュアルハラスメントを 受けること自体も業務の危険性に考えるとか、そういうことでやっていかないと、従前 の判断基準では対応できないことは少し研究すべきではないかと、この間自分でいろい ろと把握した中で思っています。  いろいろ申し上げたのですが、初めに戻って、少しそういう具体的な状況をぜひ教え ていただきたいと思うので、次の時でも構いませんのでお願いをいたします。 ○石井雇用均等政策課長  昨年10月にかなり詳細な個別の事案、どのように解決をし、対応をしたか、その中に は非常に深刻な内容のものも含まれておりましたし、加害者に対して処分を行ったもの も含まれていたと思います。その際、たしかこれは口頭だったと思いましたが、3点目 におっしゃられた「就業継続ができているか」ということについていえば、実は辞めて しまってから来られる方が結構な割合でおられます。そのために、もともと就業継続が かなわないような事例があったのだということも申し上げました。確か私の記憶では、 辞めずに来られた方の半分くらいは、何とか就業継続になっていたかという感触をお伝 えしたかと思います。  いずれにしても、口頭で申し上げて言い尽くせる話でもありませんので、いま片岡委 員から「次の時にでも」とおっしゃっていただきましたので、その辺について再度提出 させていただければと思っています。 ○林委員  まず、セクシュアルハラスメントについては、今回何点か議論したうちの最初の論点 の「男女双方に対する差別の禁止について」と、これについて基本的にはそういう方向 になっていくのではないかという印象を受けているので、その場合については、セクシ ュアルハラスメントのほうも男女双方という形でいくのが然るべきではないかと思って います。  今日いただいた資料によると、是正措置についても、セクシュアルハラスメントが断 トツに多いという状況ですので、職場におけるセクシュアルハラスメントの防止は非常 に大事なことであるということで、防止のために義務規定にするのがいいかどうかはま た別として、セクシュアルハラスメントというのが性別役割分担意識ということとも、 直接的なそういうものと結び付いていると。セクシュアルハラスメントについては、企 業なり、トップなり、上司なりの意識が変わらなければ、なかなか職場全体の意識は変 わらないということなので、性的言動の中に、非常に難しい問題が含まれていると思う のですが、性別役割分担意識に基づくものというのも何とか入れることにすることによ って、企業がそれをまた啓発する行動につながっていくのではないかと思うので、いま の段階の話ですが、セクシュアルハラスメントの原因になるものとしての意識まで取り 上げることができないかと考えています。 ○横溝分科会長  時間がきましたので、本日はこれくらいにさせていただきたいと思います。本日の署 名委員は篠原委員と吉川委員にお願いします。事務局から次回の予定についてお願いし ます。 ○石井雇用均等政策課長  次回は6月24日(金)の午後3時から開催いたします。場所については調整中で、決 まり次第ご連絡させていただきたいと思います。 ○横溝分科会長  本日はありがとうございました。  照会先:雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課法規係(7836)