労働関係の終了に関する諸外国の労働契約法制の概要

(労働政策研究・研修機構「諸外国の労働契約法制に関する調査研究」報告書から抜粋)

2 各論

  ドイツ フランス イギリス アメリカ
雇用の終了

解雇
1 個人に起因する理由による解雇(個人的な理由による解雇、行動を理由とする解雇)
(1) 解雇についての規制
ア 法律又は良俗違反の解雇は無効(民法典134条、138条、242条)。
イ 解雇は社会的に不当な場合は無効となる。ただし、この規制は、(1)労働者数10人以下の事業場の労働者、(2)勤続6か月未満の労働者には適用されない(解雇制限法1条1項、23条1項)。
 次のいずれかの事由に基づかない解雇は社会的に不当となる。
(1)労働者の個人的事由、(2)労働者の行動に存する事由(解雇制限法1条2項)。
※ 解雇事由が存するか否かについて次の4段階に分けて審査(判例)。
(1) 解雇事由それ自体が存在するのか
(2) かかる障害又は不能が将来においても持続するのか(予測原理)
(3) それは解約告知によってのみ除去されるのか(最後の手段)
(4) 労働者と使用者の利益を勘案して、解約告知に対する使用者の利益の方が優越しているのか
ウ 中央保護機関の同意があった場合に限り解雇が可能(重度障害者法15条)。
エ 妊婦、産後4ヶ月間内の女性あるいは育児休暇取得者の解雇は原則として禁止(母性保護法9条、連邦育児手当法・育児休業法18条)。
オ 職業訓練生について、重大な事由がある場合にのみ解雇が可能(職業訓練法15条2項)。
カ 事業所委員会の委員等の解雇は原則として禁止(解雇制限法15条)。
(2) 解雇予告
ア 使用者が解約する場合、暦月の15日又は末日を期限とすること及び4週間の解約告知期間が必要(民法典622条1項)。
 なお、事業所又は企業内での労働関係の継続期間に応じて、解約告知期間は以下のとおりに延長される(労働者が満25歳になるまでの期間は算入されない。民法典622条1項、2項)。
 勤続2年以上:1か月、勤続5年以上:2か月、勤続8年以上:3か月、勤続10年以上:4か月、勤続12年以上:5か月、勤続15年以上:6か月、勤続20年以上:7か月
イ 上記の解雇予告の規制については、労働協約によって異なる定めをすることができる(民法典622条4項)。
ウ 労働関係が3か月を超えて継続する場合を除き、労働者が一時的な補助のために雇い入れられた場合等は、個別契約によって民法典622条1項に定められた期間よりも短い解約告知期間を定めることができる。
エ 使用者及び労働者は、労働関係の継続を期待し得ない実質的な理由がある場合には、即時に労働関係を解消することが可能(民法典626条)。
(3) 解雇手続
ア 事業所委員会の関与
(1) 使用者は、労働者を解雇する場合は、事前に事業所委員会の意見を聴取することが必要。意見聴取を経ないでなされた解雇は無効(事業所組織法102条1項)。
(2) 事業所委員会は、解雇について疑義があるときは、使用者に対して理由を示して意見聴取から原則1週間以内に書面で通知しなければならない(事業所組織法102条2項)。
(3) (i)事業所委員会が同意した選考基準に反していること、(ii)解雇の対象とされている労働者を当該事業所又は当該企業内の他の労働ポストに就かせることができることを理由として、事業所委員会が意見聴取から1週間以内に使用者に対して書面で異議を申し出た場合には、当該解雇は社会的正当性がないとされる(解雇制限法1条2項)。
イ 解約告知又は解約契約による労働関係の終了は、書面によりその効力を発する(民法典623条)。
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 労働者は、解約告知が社会的に不当であると考える場合、解約告知が言い渡されてから1週間以内に事業所委員会に異議を申し立てることができる。事業所委員会はこれに根拠があると判断する場合には、使用者との和解を招来すべく努力しなければならない(解雇制限法3条)。
イ(1) 解雇の無効確認訴訟については、書面による解約告知到達後3週間以内に労働者が労働裁判所に提起することが必要(解雇制限法4条)。期間を徒過した場合は、解雇は最初から有効であったとみなされる(解雇制限法7条)。
(2) 事業所委員会が使用者に対して適法に解雇についての異議を申し立て、かつ、労働者が適法に、解雇無効の裁判を提起した場合、労働者は、効力確定までの間、元の労働条件で継続就業を請求することが可能(事業所組織法102条5項)。
(3) 裁判所は、解雇により労働関係が消滅していないことを確認した場合であっても、(i)労働者に労働関係の継続を期待できない事情があるときは、労働者の申請により、(ii)使用者と労働者の間において事業目的に資するような協働が今後期待できない事情があるときは、使用者の申請により、労働関係を解消させ使用者に対して算定された補償金の支払いを命ずる判決を下すことができる(解雇制限法9条)。
※ 補償金の上限は、12か月分(満50歳以上かつ勤続15年以上:15か月分、満55歳以上かつ勤続20年以上:18か月分)の報酬額(解雇制限法10条)。

2 経済的理由に基づく解雇
(1) 解雇についての規制
ア 法律又は良俗違反の解雇は無効(民法典134条、138条、242条)。
イ 解雇は社会的に正当な場合にのみ許容される。
 社会的に正当性がある解雇事由として、緊急の経営上の必要性が必要(解雇制限法1条2項)。
※ 緊急の経営上の必要性による解雇の場合に解雇事由が存するか否かについて次の4段階に分けて審査(判例)。
(1) 労働者をもはや契約に従って活用することができないという帰結をもたらす企業家の決定の存在
(2) 活用可能性が永続的又は予測し得ない期間失われること
(3) 時間外労働及び社外労働の廃止、他の空席の労働ポストへの配転、場合によっては期待可能な継続訓練又は再訓練措置若しくは契約条件の変更を行っていること
(4) 被解雇者の選定に当たって社会的選択が行われていること(比較可能なグループ確定、社会的に最も保護の乏しい者の選択、その継続就労に事業所の正当な必要性が認められる労働者の除外)
※ 緊急の経営上の必要性に基づく場合は、被解雇者の選定に当たって、年齢、勤続年数、扶養義務、障害を考慮していない場合には、社会的正当性を欠くとされる(解雇制限法1条3項)。
ウ 解雇規制の適用除外、解雇制限の内容等については、1(1)に同じ。
 なお、使用者が緊急の経営上の必要性に基づき解雇を行う際に、3週間の提訴期間中に提訴しなかった場合、補償金を請求しうる旨を労働者に伝え、労働者が実際に提訴しなかったときは、勤続1年につき月収の半額の補償金請求権が発生する(解雇制限法1a条)。
(2) 解雇予告
 解雇予告の内容等については、1(2)に同じ。
(3) 解雇手続
ア 大量解雇の規制
(1) 一定規模以上の事業所で一定数以上の労働者を30日以内に解雇する場合には、使用者は雇用エージェント(Agentur für Arbeit)に届け出ることが必要(解雇制限法17条1項)。
(i) 21人以上60人未満の事業所で6人以上の労働者を解雇する場合
(ii) 60人以上500人未満の事業所で10%又は26人以上の労働者を解雇する場合
(iii) 500人以上の事業所で30人以上の労働者を解雇する場合。
(2) 届出義務のある解雇を計画している使用者は、事業所委員会に対して、遅滞なく目的に沿った情報を提供しなければならない。特に、(i)解雇理由、(ii)解雇される労働者数と職業分類、(iii)解雇される労働者の選択基準等については、書面によらなければならない。
 使用者と事業所委員会は、解雇を避け、又は限定し、結果を緩和できる可能性について協議しなければならない(解雇制限法17条2項)。
(3) 大量解雇は、届出到達後1か月を経過するまでは、雇用事務所の同意があった場合に限り有効。なお、雇用事務所には、解雇の停止を、届出到達後2か月経過するまで延長する権限が付与されている(解雇制限法18条)。
イ 社会計画
(1) 事業所の変更による解雇などで労働者に経済的不利益が生じる場合には、事業所委員会と使用者との間で「社会計画」が策定され、解雇の補償金や転換訓練の費用等の支給が行われる。
(2) 社会計画については、書面をもって作成し、かつ使用者と事業所委員会がこれに署名をしなければならない(事業所組織法112条)。
(4) 不当解雇等の場合の救済
 事業所委員会への異議申立、無効確認訴訟
については、1の個人に起因する理由による解雇と同じ。

3 差別的な理由による解雇
(1) 解雇についての規制
ア 法律又は良俗違反の解雇は無効(民法典134条、138条、242条)。
イ 性を理由とする解雇は違法(民法典611a条)。
ウ 重度障害者については、中央保護機関の同意があった場合に限り解雇が可能(重度障害者法15条)。
エ 年齢差別を禁止する制定法は存しないが、緊急の経営上の必要性に基づく解雇の場合に、年齢等社会的観点を考慮していない場合には、社会的正当性を欠くとされる(解雇制限法1条3項)。
オ 人種、宗教を理由とする差別的解雇を禁止する制定法は存しない(2004年12月に包括的な差別禁止法案が連邦議会に提出されている。)。
(2) 不当解雇等の場合の救済
 性を理由とする解雇の場合、労働裁判所における通常の民事手続により救済がなされる。
1 個人に起因する理由による解雇(人的理由による解雇)
(1) 解雇についての規制
ア 解雇理由に「真実かつ重大な理由」(cause réelle et sérieuse)がない場合は違法となる(L.122-14-3条)。
※ 解雇理由の「真実性」は、(1)その理由が実際に存在するかどうか、(2)その理由が解雇の真の理由かどうかという観点から、解雇理由の「重大性」は、企業にとって労働の継続を不可能とし解雇を必要とするかどうかという観点から判断される。
イ 妊娠・出産、労災・職業病を理由とする休業期間等の労働契約停止期間中の解雇は違法、無効(L.122-32-2条等)。
ウ 従業員代表、組合代表等一定の保護された労働者について、労働監督官の許可のない解雇は違法、無効(L.412-19条、425-3条、436-3条)。
(2) 解雇予告等
ア 次の解雇予告期間が必要(L.122-6条)。
(1) 勤続6か月未満の者は協約又は慣習により定められる期間
(2) 勤続6か月以上2年未満の者は1か月
(3) 勤続2年以上の者は2か月
 ただし、労働者に重大な非行がある場合には予告期間は不要。(L.122-6条)また、予告期間を遵守しない場合には当該期間の賃金等に相当する手当を支払わなければならない。
イ 使用者は、解雇予告手当とは別に、解雇の時点で在職2年以上の労働者に対し、労働者に重大な非行があった場合を除き、勤続年数1年につき1か月分の賃金の10分の1の割合で計算される解雇手当(10年を超える場合は10年を超える1年につき月額の15分の1の割合で加算。)を支払うことが必要(L.122-9条)。
(3) 解雇手続
ア 使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、
(1) 面談の目的、日時、場所及び補助者の同席の可能性を記した召喚状を労働者に書留郵便で送付し、
(2) 解雇決定前に面談を行い、解雇の理由を説明し、労働者の弁明を聴取することが必要(L.122-14条)。
イ 解雇を決定した場合は、解雇理由を解雇通知書に記載し受領証明付書留郵便で労働者に送付することが必要(L.122-14-1,2条)。
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 解雇が真実かつ重大な理由に基づかない場合には、
(1) 11人以上の労働者を有する企業に雇用されている勤続2年以上の労働者については、(i)労働審判所は使用者に復職を提案することが可能、(ii)復職が実現しない場合は使用者は賃金6か月分以上の賠償金を支払うことが必要(L.122-14-4条)。
(2) 10人以下の労働者を有する企業に雇用されている労働者又は勤続2年未満の労働者に対しては、使用者は労働者の被った損害に応じた賠償金を支払うことが必要(L.122-14-5条)。
イ 解雇手続違反の場合には、
(1) 11人以上の労働者を有する企業に雇用されている勤続2年以上の労働者については、手続の追完及び1か月分の賃金を上回らない金額の賠償金の支払いが必要(L.122-14-4条)。
(2) 10人以下の労働者を有する企業に雇用されている労働者又は勤続2年未満の労働者に対しては、損害に応じた賠償金を支払うことが必要(L.122-14-5条)。

2 経済的理由に基づく解雇
(1) 解雇についての規制
ア 解雇理由に「真実かつ重大な理由」がない場合は違法となる(L.122-14-3条)。
 解雇制限等については、1(1)イ及びウに同じ。
イ 経済的解雇における真実かつ重大な理由は次の3つを要件とする。(1)当該解雇が雇用の廃止・転換又は労働契約の変更(に対する労働者の拒否)を原因とすること、(2)雇用の廃止・転換又は労働契約の変更が特に経済的困難又は新技術の導入及び企業競争力の保護を目的とする再編成の結果として行われたこと(L.321-1条)、(3)解雇を回避するために使用者が適応義務及び再配置義務を履行したこと(判例)。
(2) 解雇予告等
ア 解雇予告期間、解雇手当の内容等については、1(2)に同じ。ただし、解雇手当の額については、勤続年数1年につき1か月分の賃金の5分の1の割合で計算される額(10年を超える場合は10年を超える1年につき月額の15分の2の割合で加算。)(L.122-9条)。
イ 解雇された労働者は、契約解消の日から1年間、再雇用優先権を有する(L.321-14条)。再雇用を希望する労働者は、契約解消の日から1年以内に使用者に申し出ることができ、使用者は契約解消後の1年間、優先的再雇用を申し出た労働者に対し、その職業上の資格に対応する空きポストがある場合にはそのすべてを通知することが必要。
ウ 1,000人以上の労働者を雇用している使用者等は、労働契約を維持しながら職業訓練や求職活動をするための再配置休暇を最大9か月間、労働者に保障することが必要(L.321-4-2条)。
(3) 解雇手続
ア 解雇通知
 事前面談手続は1(3)アと同様。また、解雇を決定した場合は、解雇理由及び優先的再雇用権(priorité de réembauchage)について解雇通知書に記載し配達証明付書留郵便で労働者に送付することが必要(L.122-14-1,2条、L.321-14条)。
イ 被解雇者選定基準
 被解雇者選定基準は、当該使用者に適用される労働協約に定めがあればそれに従い、ない場合は従業員代表との協議を経た上で使用者が決定するが、特に、(1)家族責任、(2)当該事業所又は企業での勤続期間、(3)労働者の再就職を困難なものとするような社会的性格を有する状況(特に障害者及び高齢者)を考慮しなければならない(L.321-1-1条)。
ウ 従業員代表への諮問、情報提供
 30日間に2人以上解雇する場合、使用者は、当該解雇について従業員代表に事前に諮問し、その際、(1)解雇の経済的、財政的、技術的理由、(2)解雇予定者の数、(3)解雇順位の決定のために予定している基準と関係する職種等解雇計画に関する全情報を通知することが必要(L.321-2、321-4)。
エ 雇用保護計画(plan de sauvegarde de l'emploi)
(1) 30日間に10人以上を解雇する場合で、50人以上の労働者を雇用している使用者は、解雇の回避・制限及び被解雇者の再就職援助のために、(i)外部・内部再配置、(ii)新たな活動の創設、(iii)教育訓練、(iv)労働時間の短縮・調整措置等を含む「雇用保護計画」を作成し実施することが必要(L.321-4-1条)。
(2) 作成した雇用保護計画については従業員代表と協議することが必要(L.321-4条)。
(3) 使用者は、解雇通知を行う前に、行政機関に雇用保護計画を含む解雇計画を届出、その内容や従業員代表への諮問等の手続的適法性の審査を受けることが必要(L.321-7条)。
(4) 行政機関は、雇用保護計画について、従業員代表との協議終了前に、使用者の経済状況や財政能力を考慮して雇用保護計画を補充又は変更するための提案等を行わせることができる(L.321-7条)。
オ 行政機関への届出
 使用者は、解雇対象者数により、手続に関する行政機関のコントロールを受けるほか、解雇通知書は発送後の届出等が義務づけられる。
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 雇用保護計画の内容、作成の手続が違法の場合、解雇は無効とされる(L.321-4-1条)。
イ 解雇手続違反の場合には、
(1) 11人以上の労働者を有する企業に雇用されている勤続2年以上の労働者については、(i)解雇に関する手続一般の違反の場合は、手続の追完及び1か月分の賃金を上限とした金額の賠償金の支払い、(ii)経済的解雇に固有の手続違反の場合は、損害に応じた賠償金を支払うことが必要(L.122-14-4条)。
(2) 11人未満の労働者を有する企業に雇用されている労働者又は勤続2年未満の労働者に対しては、損害に応じた賠償金を支払うことが必要(L.122-14-5条)。

3 差別的な理由による解雇(禁止される解雇)
(1) 解雇についての規制
 出自、習俗、性、家族状況、民族、国籍、人種、政治的意見、労働組合又は共済活動、ストライキ権の通常の行使、宗教的信条、健康状態・障害、年齢等を理由とする解雇は違法、無効(L.122-45条、521-1条)。
(2) 不当解雇等の場合の救済
 差別禁止規定違反の解雇の場合には、労働裁判所における通常の民事手続により、原職復帰の救済がなされる。なお、労働者が復職を求めない場合には金銭賠償の救済も可能である。
※ このほか1(1)イ及びウの解雇が「禁止された解雇」の範疇に含まれ、その救済措置は上記3イと同様となる。
1 個人に起因する理由による解雇
(1) 解雇についての規制
ア 解雇は公正(fair)でなければならない(1996年雇用権利法94条)。
イ(1) 解雇の理由が、(i)被用者の職業的な能力や資格に関するものであること、(ii)被用者の非行に関するものであること、(iii)被用者が剰員(redundancy)であること、(iv)被用者をその仕事に就かせることが法律上の定めに違反すること、(v)その他解雇を正当化できる実質的な理由である場合は解雇が許容される(1996年雇用権利法98条2項)。
 なお、この規定は、(i)1年未満の勤続しか有しない被用者、(ii)定年年齢又は65歳以上の被用者には適用されない(1996年雇用権利法108条、109条)。
※ 解雇の「公正さ」の判断基準は次のとおり(1996年雇用権利法98条)。
(1) 使用者の解雇の理由が(i)から(v)までのいずれかに該当すること
(2) 使用者が取った行動、対応が合理性を有すること
(2) (i)労働組合員資格や組合活動、(ii)妊娠や出産、(iii)安全衛生活動、(iv)制定法上の権利の主張等を理由とする解雇は不公正解雇となる(1996年雇用権利法104条等)。
(2) 解雇予告
ア 被用者は使用者による雇用終了に際して継続雇用期間に応じた予告期間の権利を有する(1996年雇用権利法86条)。
(1) 継続雇用期間が1か月以上2年未満の場合は最低1週間
(2) 継続雇用期間が2年以上12年未満の場合は継続雇用期間1年につき1週間で計算した期間
(3) 継続雇用期間が12年以上の場合は最低12週間
イ アにかかわらず、被用者の重大な雇用契約違反行為があった場合には予告期間は不要。また、予告に代わる金銭支払いが認められている。
(3) 解雇手続
 1年以上の勤続を有する被用者を解雇した使用者は、被用者からの要求があった場合、2週間以内に解雇理由書を交付しなければならない。
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 解雇された被用者が、解雇に不服のあるときは、原則として雇用終了から3か月以内に、雇用審判所に対して当該解雇が不公正であることの申立を行うことが可能(1996年雇用権利法111条)。
イ 雇用審判所は解雇が公正でないと判断したときは、復職命令又は再雇用命令を下すことが可能。申立被用者が復職又は再雇用を望まない場合、使用者がこれを受け入れることが実際的ではない場合には、雇用審判所は補償金(compensation)の裁定を行う(1996年雇用権利法112条等)。
※ 補償金には、被用者の年齢、勤続期間及び週給額に応じて算定される基礎裁定(basic award)、被用者が被った金銭的損害の補償を目的とする補償裁定(compensatory award)等がある(1996年雇用権利法118条)。
ウ 不公正解雇の申立がなされた場合には、雇用審判所から、紛争当事者に対して助言、斡旋、仲裁等を行う助言斡旋仲裁局に申立書の写しが送付され、事前に当事者による自主的解決や斡旋・仲裁による解決が図られる。

2 経済的理由に基づく解雇(制定法上の剰員整理解雇)
(1) 解雇についての規制
ア 解雇は公正でなければならない(1996年雇用権利法94条)。
イ(1) 解雇の理由が、被用者が剰員である場合は解雇が許容される(1996年雇用権利法98条)。
(2) (1)の規定の適用除外や労働組合員資格等を理由とする解雇が不公正解雇であること等については、1(1)イ(1)及び(2)と同じ。
※ 解雇が許容される「被用者が剰員であること」とは、(1)使用者が事業を停止する場合、(2)使用者が事業場を閉鎖する場合、(3)被用者に特定の種類の仕事をしてもらうことが不必要である、又はその必要性が減少する場合である(1996年雇用権利法139条1項)。
※ 剰員整理解雇の合理性の判断基準は次のとおり(雇用審判所指針)。
(1) 被用者の事前通知と協議
(2) 公正な被解雇者選定基準の設定と公正な適用
(3) 解雇回避措置としての代替雇用の申出の有無
(2) 解雇予告
ア 被用者は使用者による雇用終了に際して継続雇用期間に応じた予告期間の権利を有する(1996年雇用権利法86条)。
 予告期間の内容等については、1(2)に同じ。
イ 継続雇用期間が2年以上の被用者には、予告期間が終了する前に、新たな雇用を探すため、又は将来の雇用のために職業訓練を受ける措置を講じるために、就業時間中に合理的な長さの有給のタイム・オフを取得する権利が認められている(1996年雇用権利法52条、53条)。
(3) 解雇手続
ア 労働者代表との協議
(1) 使用者は、90日以内に20名以上の被用者を剰員として解雇することを提案する場合は、(i)整理解雇を回避するための方法、(ii)被解雇者数を減らす方法、(iii)解雇によってもたらされる影響を軽減する方法を含む事項について、適切な労働者代表と協議することが必要(1992年労働組合・労働関係(統合)法188条)。
(2) 特段の事情のない限り、使用者は適切な時期に、少なくとも(i)一事業所で90日以内の20-99人の整理解雇が提案された場合には、最初の解雇が行われる30日前、(ii)一事業所で90日以内の100人以上の整理解雇が提案された場合には、最初の解雇が行われる90日前に協議を開始しなければならない(1992年労働組合・労働関係(統合)法188条1A項)。
(3) 協議を行う際に、使用者は、労働者代表に対して、(i)整理解雇提案の理由、(ii)被解雇予定者の人数と種類、(iii)被解雇者選定の方法等の情報を文書で開示することが必要(1992年労働組合・労働関係(統合)法188条4項)。
イ 剰員を理由とする解雇をするときは、使用者は解雇対象被用者(継続勤務2年以上の者)に対し、その年齢、週給額及び継続雇用年数に応じた剰員整理手当(redundancy payment)を支払うことが必要(1996年雇用権利法135条等)。
 なお、定年年齢又は65歳以上の被用者には、剰員整理手当の支払いは不要(1996年雇用権利法156条)。
ウ 使用者は、整理解雇を提案するときは、ア(2)のスケジュールにより、貿易産業大臣へ書面で届出をすることが必要(1992年労働組合・労働関係(統合)法193条)。
(4) 不当解雇等の場合の救済
 使用者が制定法に従って情報を開示し協議を行わなかった場合には、
ア 労働者代表又は被用者は、最後の解雇の日から3か月以内に雇用審判所に法違反の申立を行うことができる。
イ 雇用審判所は、その申立に正当な理由があると認定する場合には、その旨を宣言し、適切な場合には「保護裁定」(protective award)を下すことができる。
  
3 雇用契約違反の解雇(違法解雇(1))
(1) 解雇についての規制
 上記の類型にかかわらず、解雇に公正性があったとしても、その手続により違法解雇(wrongful dismissal)とされることがある。具体的には、使用者が、(1)雇用契約又は制定法により義務づけられた解雇予告期間よりも短い予告により被用者を解雇する場合、(2)雇用契約の内容となっている懲戒手続を履行することなく雇用契約を終了させる場合、(3)雇用契約の内容となっている人員選定基準に違反して剰員整理解雇の対象者として選定した場合、(4)雇用契約に拘束される意思のないことを示す違法な契約の履行拒絶を行ったため被用者が雇用契約を終了させた場合、(5)雇用契約上に限定列挙された解雇事由以外の事由により解雇する場合などがある。また、(6)期間の定めのある雇用契約においては、期間中の正当な理由(雇用を継続できない程度の労働者側の重大な契約違反等)のない解雇は違法解雇となる。
(2) 不当解雇等の救済方法
 違法解雇の救済方法は、通常、損害賠償(解雇予告期間の賃金相当額。ただし、解雇の仕方に起因する精神的苦痛や信用の喪失に対する損害賠償請求は認められない。)に限定されている。

4 差別的な理由による解雇(違法解雇(2))
(1) 解雇についての規制
ア 性別又は婚姻上の地位を理由とする解雇は違法(1975年性差別禁止法6条)。
イ 皮膚の色、人種、国籍又は民族的ないし国家的出身を理由とする解雇は違法(1976年人種関係法1条)。
ウ 障害に関する理由で、かつ使用者が正当化できない理由による解雇は違法(1995年障害者差別禁止法4条)。
エ 年齢、宗教を理由とする差別的解雇を禁止する制定法は存しない。
(2) 不当解雇等の場合の救済
ア 差別禁止法違反の解雇の場合には、
(1) 救済の申立てをしようとする労働者は差別行為のあったときから3か月以内に雇用審判所に救済の申立てをしなければならない。
(2) 審判所は、申立に理由があると判断する場合には、(i)被用者の権利の宣言、(ii)補償金の裁定、(iii)差別行為により生じた不利益を除去し、又は減殺する措置の勧告等を行うことができる。
イ 被用者は、機会均等委員会(人種差別の場合は人種平等委員会、障害者差別の場合は障害者権利委員会)に援助を求めることができる。
 委員会は、助言、紛争解決の助力、弁護士の手配等の援助等を行うことができるほか、差別的広告、差別行為等を行うように他人に圧力をかけることを禁ずる宣言的判決等を郡裁判所等に求めることができる。
1 個人に起因する理由による解雇
(1) 解雇についての規制
ア 随意雇用原則により、原則として随意に労働者を解雇することが可能。
イ 随意雇用原則の修正
 解雇を(1)公序違反(使用者からの違法行為要求の拒絶、制定法上の権利を行使を理由とする解雇等)、(2)契約違反(エンプロイー・ハンドブック記載事項違反等)、(3)誠実・公正義務違反、として随意雇用の例外を認める判例法理が展開しつつある。
(2) 解雇予告
 なし
(3) 解雇手続
 なし
(4) 不当解雇等の場合の救済
ア 公序違反の解雇には、不法行為として、逸失賃金その他の逸失給付、精神損害の賠償、さらには懲罰的損害賠償といった救済が与えられる。
イ 契約違反の救済として、逸失賃金その他の逸失給付の賠償は認められるが、被解雇者が他の職を探す合理的努力を怠った場合、賠償額が減額。また、精神損害や懲罰的損害賠償及び復職は認められない。
ウ 誠実・公正義務違反の解雇の救済は、契約違反と同様とする州が多いが、不法行為とする州もある。

2 経済的理由に基づく解雇
(1) 解雇についての規制
 随意雇用原則により、原則として随意に労働者を解雇することが可能。
(2) 解雇予告 
 原則としてはなし。ただし、労働者数100人以上の事業所は、事業所閉鎖又は大量レイオフをする場合には、60日前に交渉代表組合又は各労働者及び行政機関に書面により通知することが必要(労働者調整・再訓練予告法)。
※ 「事業所閉鎖」とは、50人以上の労働者が30日にわたって雇用を喪失する事業所の全部又は一部の閉鎖をいい、「大量レイオフ」とは、(1)全労働者の33%以上かつ50人以上、又は(2)500人以上の労働者が30日にわたって雇用を喪失することをいう。
(3) 解雇手続
 なし
(4) 不当解雇等の場合の救済
 解雇予告義務違反の場合、被用者は民事訴訟によって予告不足日数分の賃金及び諸給付のバック・ペイを請求することができる。

3 差別的な理由による解雇
(1) 解雇についての規制
ア 人種、皮膚の色、宗教、性、出身国を理由とする解雇は不当解雇となる(公民権法第7編)。
イ 40歳以上の年齢を理由とする解雇は不当解雇となる(雇用における年齢差別禁止法)。
ウ 障害者であることを理由とする解雇は不当解雇となる(障害を持つアメリカ人法)。
(2) 不当解雇等の場合の救済
ア 差別禁止の各法違反の不当解雇の場合、
(1) 被用者は雇用機会均等委員会に救済申立をすることができる。
(2) 雇用機会均等委員会による調整・
調停が成立しなかった場合には、雇用機会均等委員会あるいは被用者は訴訟を提起することができ、被用者は、(i)原職復帰、(ii)バック・ペイ、(iii)合理的な範囲の弁護士費用等の衡平法上の救済を受けることができる。
イ 人種・皮膚の色、宗教、性、出身国を理由とする不当解雇、障害を理由とする不当解雇の場合で、違反が故意に基づく場合、(1)精神的損害及び直接又は間接的な経済的損害の賠償、(2)懲罰的損害賠償が認められる場合がある。
ウ 年齢を理由とする不当解雇の場合で、違反が故意に基づく場合、付加賠償金の支払いが認められる場合がある。
※ その他、(1)組合活動や組合加入を理由とする解雇、(2)年金受給権発生を阻止するための解雇、(3)ポリグラフ・テスト拒否による解雇、(4)陪審員を務めたことによる解雇、(5)使用者の違法行為を当局に通報したことを理由とする解雇、(6)その他法律上の権利行使や手続利用に対する報復としての解雇は、それぞれ制定法により規制されている。救済は各法の定める手続による。

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