中間とりまとめで示された方向性等に対する指摘と考え方について(例)(労働関係の終了)


1(1) 解雇権濫用法理
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 解雇は、労働者側に原因がある理由によるもの、企業の経営上の必要性によるもの又はユニオン・ショップ協定等の労働協約の定めによるものでなければならないことを明らかにすることについて、検討する必要がある。  解雇には正当な理由が必要とし、その立証責任が使用者にあることを明確にすべきではないか。  解雇事案は多様でかつ複雑な事実関係に基づいている場合が多く、解雇権の濫用についての裁判例は、各事案ごとの個別判断事例であるから、法律による解雇要件の具体化は適当ではないのではないか。  解雇の類型を示し、解雇が濫用に当たらないためには最低限これらの類型に該当していなければならないことを明らかにすることは、解雇の有効性の判断の予測可能性を少しでも向上させ、紛争を予防・早期解決するために重要である。
 他方、解雇には正当な理由が必要とすることは、平成15年の労働基準法改正で立法化された解雇権濫用法理とは異なるルールとなり、企業実務や裁判実務に与える影響が大きいことから、適当でない。
 解雇に当たり、使用者が講ずべき措置を指針等により示す方向で検討することが適当である。
 使用者が講ずべき措置としては、例えば、労働者の軽微な非違行為の繰り返しを理由として解雇を行う場合には、事前に一定の警告が必要であるとすることが考えられる。
 解雇に当たり使用者が講ずべき措置は、解雇が有効とされるための要件として、法律で規定すべきではないか。    解雇が労働者にとって大きな不利益である一方で、解雇事案は多様かつ複雑な事実関係に基づいて行われることの両者を考慮すると、権利濫用法理を具体化するに当たっては、濫用に当たらないために最低限該当すべき解雇の類型を法律で示しつつ、それぞれの類型において使用者が講ずべき措置は指針で対応することが、最も適切である。
中間取りまとめ以降の論点 考えられる指摘 論点・各指摘に対する考え方
 どのような場合に解雇が権利の濫用とされるかについての予測可能性の向上を図ることの必要性や、解雇に当たり使用者が講ずべき措置を示すことの必要性及びその内容について、どのように考えるか。  解雇に当たり使用者は次のような措置を講ずべきではないか。
警告、再教育、配置転換等の解雇回避措置を尽くすこと
労働者に対して解雇理由に関する説明を尽くし、弁明の機会を付与すること
労働組合や過半数代表者から説明・協議を求められた場合にこれを尽くすこと
   使用者が講ずべき措置としては、労働者の軽微な非違行為の繰り返しを理由として解雇を行う場合には、事前に一定の警告が必要することが考えられる。
 一方、労働者に対して弁明の機会を付与することは、懲戒解雇の場合に、解雇に時間がかかってその間に労働者が退職してしまうことに対応できないなどの弊害がある。
 また、労働組合や過半数代表者との協議についても、過半数代表者等に対して、ある労働者が解雇されるという事実や、その労働者の非違行為等が示されることとなるため、被解雇労働者の個人情報の保護などの観点から、行き過ぎではないか。
 また、解雇に当たり使用者が講ずべき措置を指針で示すこととした場合、その効果について、どのように考えるか。  指針は使用者の行動の基準となることもありうるが、法律に明記しなければ、十分な効果は得られないのではないか。    (労働契約法における指針の性格については、改めて議論することが適当である。)
2 整理解雇
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 整理解雇について労働基準法第18条の2にいう解雇権の濫用の有無を判断するに当たっては、予測可能性の向上を図るため、考慮事項を明らかにする必要があり、具体的には、人員削減の必要性、解雇回避措置、解雇対象者の選定方法、解雇に至る手続等を考慮しなければならないことを明らかにすることについて議論を深める必要がある。  整理解雇の四要件を明確に法律上位置づけるべきである。  整理解雇がどのような場合に有効となるかの判断基準は、経済・社会情勢の変化に応じて変化していくべきものであり、また、最近の裁判例は四要件ないし四要素にこだわらずに濫用判断を行うものもあることから、整理解雇の濫用判断について法的規制を設けることは適当ではない。  四要素にこだわらない近年の裁判例は、裁判所ごとの解雇権濫用判断のばらつきを生じさせ、紛争が長期化する一因ともなっていると考えられる。
 そこで、解雇権濫用判断の予測可能性を向上させて紛争を予防・早期解決するためには、整理解雇の判断に当たって、必ず考慮に入れなければならない要素を、裁判規範となるように法律で示すことが必要である。
 一方、解雇が有効とされるための要件を定めると、例えば、手続に一部問題があったが人員削減の必要性が非常に大きかった場合などに、それぞれの考慮要素間のバランスを考慮した柔軟な判断ができなくなるため、適当でない。
中間取りまとめ以降の論点 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 特に、整理解雇について、予測可能性の向上や使用者が講ずべき措置を示す必要性及び使用者が講ずべき措置の内容をどのように考えるか。      整理解雇は労働者側に原因がないにもかかわらず解雇されるものであり、予測可能性の向上や使用者が講ずべき措置を示す必要性は高い。使用者が講ずべき措置の内容は、裁判例の四要件・四要素を基本としつつ、労働市場の動向を踏まえて更に検討すべきである。
3 解雇の金銭解決制度
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
本研究会においては、解雇紛争の救済手段の選択肢を広げる観点から、仮に解雇の金銭解決制度を導入する場合に、実効性があり、かつ、濫用が行われないような制度設計が可能であるかどうかについて法理論上の検討を行うものである。  労働者は、裁判上の和解や労働審判制度において金銭解決を求めることができるため、労働者側に金銭解決のニーズはないのではないか。    労働者からの申出については、解雇された労働者が解雇には納得できないが職場には戻りたくないと思った場合に、あらかじめ労使間で集団的に定められた基準に従って解決金を請求できる権利が保障されるというメリットがあるのではないか。
 違法な解雇を行った使用者に金銭解決の申出を認める必要はないのではないか。    違法な解雇は無効とされ、現在までの違法状態は是正される。
 その後の問題として、現実に職場復帰できない労働者にとっては、違法(無効)な解雇を行った使用者からの申立てであっても解決金を得られる方がメリットがあり、紛争の早期解決に資することも考慮すると、このような使用者からも金銭解決の申出を認める必要があるのではないか。
 なお、公序良俗に反する解雇を行った使用者からは金銭解決の申出を認めない。
 金銭解決を認めることは、金さえ払えば解雇できるとの風潮を広めるのではないか。    公序良俗に反する解雇を除外するほか、使用者の故意又は過失によらない事情で労働者の職場復帰が困難な特別な事情がある場合に限ることによって、金さえ払えば解雇(金銭解決)ができるという制度ではないことを明確にする。
   有期労働契約は本来期間満了で終了するものであり、長期継続雇用を予定しないものであるため、雇止めをめぐる紛争については金銭解決がなじむ。雇止めについても金銭解決制度を導入すべきではないか。  雇止めについて金銭解決制度を導入するためには、雇止めは客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は無効であるとの取扱いの確立を先行させる必要があるのではないか
中間取りまとめ以降の論点 考えられる指摘 論点・各指摘に対する考え方
 解決金の性格について、どのように考えるか。      解決金は雇用関係を解消する代償であり、和解金や損害賠償とは完全には一致しないのではないか
3(1) 労働者からの金銭解決の申立て
中間取りまとめ以降の論点 考えられる指摘 論点・各指摘に対する考え方
 労働者の辞職の申立てと引換えに解決金の給付を認める場合に、当該辞職の申立てはどの時期まで認められるべきか。      金銭解決を認める判決確定の日から一定期間(例えば30日以内に労働者が辞職の意思表示をしなければ金銭の請求権を失うこととしてはどうか。
 なお、この場合、労働者は辞職の意思表示をしていないので、当然労働者としての地位を有する。
3(2) 使用者からの金銭解決の申立て
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 思想信条、性、社会的地位等による差別等の公序良俗に反する解雇を除外する外、使用者の故意又は過失によらない事情であって労働者の職場復帰が困難と認められる特別な事情がある場合に限ることも考えられる。  この要件での限定は非常に曖昧であり、限定の機能を発揮しうるか疑問である。
 また、複雑な基準は一般的には理解できない。
 「労働者の職場復帰が困難」であるかどうかは裁判所で客観的に判断できる事柄ではなく、職場復帰が円滑に行われない解雇紛争の実態にそぐわないため、要件とすることは適当でない。  労働者の職場復帰が困難であることは、使用者からの金銭解決の申立てが認められるための大前提であり、使用者による濫用を防止するためには、中間取りまとめで示した要件を定める必要がある。
 また、「労働者の職場復帰が困難と認められる特別な事情」についてはさらに検討する必要がある
   どんなに要件を限定したとしても、職場復帰を望む労働者がその意思に反して職場に復帰できなくなるケースが発生することは妥当ではない。    実際に職場復帰ができない労働者にとっては、解決金を得られる方がメリットがあるのではないか。
使用者の申立ての前提として、個別企業における事前の集団的な労使合意がなされていることを要件とすることが考えられる。    金銭解決制度を法律上新たに設けるに当たって、企業における集団的な労使合意までも要件とする必要ないのではないか。  金銭解決を認めるか否かは解決金の額の如何に依拠するところも大きいが、使用者と個々の労働者との間には交渉力等の格差があるため、個別の合意のみによるとすると不当に低い解決金の額での金銭解決に合意せざるを得なくなるおそれがある。
 このため、額の基準も含めてあらかじめ集団的な労使合意を得ておく必要があるのではないか。
 集団的な労使合意としては、どのようなものがあるか。    解決金の額の基準について労使が合意することが重要であり、何をもって集団的な合意とするかについては、労使委員会の在り方なども含め、さらに検討する必要があるのではないか。
 各個別企業において労使間で集団的に解決金の額の基準の合意があらかじめなされている場合に限って金銭解決を認めることとし、その基準をもって解決金の額を決定する。
 しかし、使用者からの申立ての場合の額の基準が、労働者からの申立ての場合の額の基準よりも低い場合には、使用者からの金銭解決の申立てができないこととすることが適当である。
 また、使用者からの申立ての場合に、解決金の額の最低基準を設けることも考えられる。
 解決金が不当に低くならないよう、解決金の額は法律で定めるべきではないか。  支払うことができる金銭の額は企業の実情によっても異なり、金銭の額を一律に決定することは困難ではないか。  解決金が不当に低くならないようにしつつも企業の実情に応じた決定ができるようにするために、解決金の額の基準を個別企業の集団的な労使合意によって決定することにするものである。
   解決金の額の基準を事前に労使で集団的に決定するとすれば、不当に低い金額となることは考えられず、額の最低基準を法律で定める必要はないのではないか。  集団的な労使合意によって解決金の額が不当に低くはならないと考えるが、より確実なものとする必要性があれば、額の最低基準を法律で定めることについても検討すべきではないか
中間取りまとめ以降の論点 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 使用者から申し立てる金銭解決の場合に、裁判においてのみ労働契約の解消を認めることについて、どのように考えるか。    金銭解決が認められる要件を法律で定めておけば、裁判でなくても労働契約の解消を認めてよいのではないか。  使用者による安易な金銭解決を防止するとともに、金銭解決について労働者が納得するための適正な機会を確保するために、裁判は必要ではないか
4 合意解約、辞職
中間取りまとめで示された方向性 考えられる指摘 各指摘に対する考え方
 労働者が合意解約の申込みや辞職の意思表示を行った場合であっても、それが使用者の働きかけに応じたものであるときは、民法第540条の規定等にかかわらず、一定期間はその効力を生じないこととし、その間は労働者が撤回をすることができるようにする方向で検討することが適当であり、その期間の長さについてはクーリングオフの期間(おおむね8日間)を参考に、検討すべきである。  労働者の合意解約の申込みや辞職の意思表示については、使用者の働きかけに応じたものでなくとも一定期間撤回できるようにすべきである。    一律の撤回を認めるとすると完全に自由な意思で退職を申し出た労働者にも撤回を認めることにならざるを得ず、制度の安定性を阻害するため適当ではない。
   労働者の真意によらない退職の意思表示については、錯誤、詐欺、強迫による無効・取消制度があり、これと別に労働者に特別の撤回権を与えると、退職の意思表示がなされた段階で業務の引継ぎや後任者の手配などを開始する使用者にとって、著しく不利になるのではないか。  錯誤、詐欺、強迫までは認められない場合であっても、労働者が使用者から心理的な圧力を受けて退職の申出をすることがあり得ることや、退職により労働者が収入の途を失うという意思表示の帰結の重大性を考えると、一定の場合の撤回は認める必要があるのではないか。
   民法第627条により労働者が労働契約の解約を申し入れれば2週間の経過により雇用契約は終了するとされているが、担当業務の引き継ぎや後任者の手配などを考えればこれでは短かすぎ、労働基準法の解雇予告期間とあわせて30日前に予告が必要とすべきである。  労働基準法の解雇予告期間は、労働者にとっては突然解雇されれば賃金を得られず生活ができなくなるという重要性にかんがみ必要とされているものである。使用者の経営上の利害と労働者の生活上の重要性を同列に論じるべきではないのではないか。

トップへ