中間取りまとめで示された方向性等に対する指摘と考え方について(労働関係の成立)(修正版)


中間取りまとめで示された方向性等 考えられる指摘 左の指摘に対する考え方
1 採用内定
 採用内定期間中について労働基準法第20条(解雇の予告)の適用を除外することの是非について検討する。  解雇の予告日と就労開始予定日との間が30日以下の場合には、解雇日までの間に就労することができる日が生じることから、労働基準法第20条を適用すると、労働者にとってその間の賃金が担保されるというメリットがあるのではないか。  採用内定期間中は労務の提供や賃金の支払がなく、採用内定が取り消される場合には、採用内定者が少しでも早くこれを知ることができるようにすることが最も重要である。採用内定期間中については労働基準法第20条の適用を除外することで、採用内定者が少しでも早い時期から求職活動ができるようになるメリットがあるのではないか。
 留保解約権を行使する事由(留保解約事由)が採用内定者に対して書面で通知されている場合には、当該留保解約事由に基づきなされた留保解約権の行使については、当該解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当と認められるものであれば、権利の濫用には当たらないことを法律で明らかにする方向で検討する。    採用内定取消事由の書面通知により、採用内定取消がその趣旨、目的に照らして権利の濫用に当たらないと判断されうる効果が付与されるのみならず、どのような場合に採用内定が取り消されるのかを採用内定者があらかじめ知る機会を増やすメリットがあることを、強調してよいのではないか。
   採用内定者・使用者に対して、客観的に合理的と認められ社会通念上相当と認められない採用内定取消は権利の濫用として無効となることが周知され、恣意的な採用内定取消が少なくなるというメリットがあるのではないか。
 「客観的に合理的」、「社会通念上相当」という用語を用いる限り、結局どのような場合に採用内定取消が認められるのかをあらかじめ予測することは不可能ではないか。  「客観的に合理的」、「社会通念上相当」という用語は、採用内定の実態が多様であることを踏まえて用いざるを得ないものであり、予測可能性の向上は、判例で示された具体的事例を整理・収集することで一定の効果をあげることが可能となるのではないか。
 書面で通知された留保解約事由以外の理由による採用内定取消が行われた場合には、通常の解雇権と同様の判断がなされるべきことについて、指針等により明らかにする方向で検討する。  法定されていない場合の解釈を、逐一指針等で明らかにするとすれば、そもそも「労働契約法」が行政指導を予定しない民事法であることと矛盾するのではないか。  (労働契約法における指針の性格については、改めて議論することが適当である。)
 採用内定当時に使用者が知っていた事由又は知ることができた事由による採用内定取消は、無効とする方向で検討する。    使用者が知っていた事由等を後々持ち出させないとすることは、採用内定者の地位を安定させるだけでなく、社会通念上不公正な行為の抑制になることを強調してよいのではないか。
 使用者にとって、このような採用内定取消は無効とされることが明らかになり、採用内定取消の効力の判断に関する予測可能性が現在よりも向上するというメリットがあるのではないか。
(中間取りまとめ以降の論点)    
 いつ採用内定がなされたか(労働契約が成立したか)を判断するに当たっての考慮要素について、どのように考えるか。  労働契約が成立したとされる時点が明確でない現状は、労働者保護の観点から問題が多いのではないか。  労働契約が成立する時点がそれほど不明確という問題はないのではないか。また、契約が成立するのは採用内定者と使用者との間で合意が成立した時点であるから、遅くとも採用内定者による誓約書の提出があった時点ではないか。
 採用内定時及び就労開始時の労働条件明示の在り方について、どのように考えるか。  労働条件明示は使用者に一定の負担を課すものであり、その負担を考えるならば、明示しなければならないこととされている労働条件を十分に整理する必要があるのではないか。  労働者にとっては就業の場所や従事すべき業務は重大な関心事であり、採用内定時に少なくともその範囲を示すことは重要ではないか。
 また、採用内定時以後であってもこれが特定された段階で可能な限り事前に知らせることは重要ではないか。
2 試用期間
試用期間を設ける場合の上限を定める方向で検討する。  試用期間に上限を設けるとしても、従事する業務の内容によって労働者の適格性判断に必要とされる期間が異なり得るので、一律の上限を設定することは困難ではないか。  著しく長い試用期間を定めることは、労働者を長期間不安定な地位のままにおくこと、また、その間は、本採用後よりも賃金その他の労働条件が低い水準である傾向が強いことから、少なくとも「著しく長い期間」を上限として定めることは可能ではないか。
 なお、長期にわたる適格性判断は、試用を目的とする有期労働契約(試行雇用契約)で対応することが可能ではないか。
 また、上限を設けた場合、それを超えて試用期間を延長することを認めることは論理的に難しくなることから、適格性判断が不十分な場合に試用期間を延長せずに解雇が行われ、労働者に不利になることはないか。  上限期間を適正に設定すれば、当該期間内で労働者の適格性を判断することができると考えられる。社会通念上「著しく長期にわたる期間」はあるはずであって、上限の設定はあくまでこれを避けるものにすぎない。
 試用期間に上限を設けた場合には、使用者は試行雇用契約を活用するようになり、労働者にとってかえって不利になるのではないか。  試行雇用契約は、労働者の適性や業務遂行能力を見極めた上で常用雇用につながる契機となって労使双方に利益をもたらす面があるとともに、期間中は解雇が制約され、試用期間よりも労働者にとって有利な面もあるのではないか。
 また、試用期間の上限を設けつつ、特別な理由がある場合にはこの限りでないとすることも考えられるのではないか。
試用期間であることが労働者に対して書面で明らかにされていなければ、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由は認められないとする方向で検討する。    書面通知を普及するのみならず、労働者が、自らが解雇される可能性があることを知る機会を増やすというメリットを強調してよいのではないか。
 「通常の解雇よりも広い範囲」が具体的に明らかにされない限りは、結局どのような場合に試用期間中の解雇が認められるのかをあらかじめ予測することは不可能ではないか。  具体的な一律の基準を定めることは困難であるとしても、判例で示された具体的事例を整理・収集することで一定の効果をあげることが可能となるのではないか。
(中間取りまとめ以降の論点)    
 試用期間は、どのような目的のために設けられ、また、使用期間中の労働者は労働条件その他についてどのような地位におかれているか。また、現実に、目的に見合った期間が設定されているか。
 これを踏まえ、試用期間の上限の在り方について、どのように考えるか。
 試用期間を設けることは従来から広く行われており、大きなトラブルがあったわけでもないので、上限を課すとしても実態を十分考慮の上慎重を期すべきではないか。  試用期間に上限を設けることは、労働者が不安定な地位にあり不利な労働条件に置かれやすい期間が長期にわたらないようにすることであり、労働者の保護につながるものとして評価することができるのではないか。
3 労働条件の明示
 実際に適用される労働条件が、労働契約の締結時に労働者に明示された労働条件に達しない場合には、労働者は、明示された労働条件の適用を使用者に対して請求することができることを明確にする方向で検討する。  労働者が、明示された労働条件の適用を請求できることは当然であり、特に問題は生じていないことから、新たな規定を置く必要性に乏しいのではないか。  明示された労働条件が事実と違う場合に即時解除ができることは法律上明記されていることから、明示された労働条件の適用を請求できることも法律上明記し、2つの選択肢があることを明確にすることは重要ではないか。

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