平成17年6月13日
健康局疾病対策課


後天性免疫不全症候群に関する特定感染症
予防指針見直し検討会報告書(概要)


I. 我が国におけるHIV・エイズの発生動向及び問題点

1. 我が国におけるHIV・エイズの発生動向

 ○  近年の発生動向の特徴
 新規感染者の増加率が上昇。
 診断時、既にエイズを発症している患者が報告全体の約30%を占めている。
 ○  新規感染事例等の分析
 2000年以降は、地方の大都市においても感染者・患者が増加傾向
 この5年間に感染した者のうち、20歳代以下の者が全体の約35%、30歳代の者が約40%を占めており、比較的若い世代を中心に、感染の拡大が進んでいる。
 感染経路別に見た場合、性交渉による感染がほとんどを占め、特に、男性同性間の性的接触が全体の約60%を占めている。

 感染の危険性に曝されている国民への対策が、今後のHIV・エイズの感染の拡大を抑制する鍵を握る。

2. 現状の問題点

 ○  今後解決を図っていくべき問題点として、特に次のような指摘がなされた。
(1)  診断時には既にエイズを発症している事例が約30%を占める
(2)  若い世代や同性愛者における感染の拡大への対応が十分ではない
(3)  一部の医療機関への感染者・患者の集中が生じている
(4)  国と地方公共団体の役割分担が明確ではない
(5)  各種施策の実施状況等の評価が十分ではない

 これらの問題点の主な原因を明らかにし、エイズ対策の見直しの方向を提示。


II. エイズ対策の見直しの方向

1. 総論:エイズ対策の見直しにおける基本的方向

(1) 発生動向及び疾患特性の変化を踏まえた施策の展開

 ○  感染の拡大は性交渉がほとんどを占め、性行動の変化等に伴い、感染の危険性は増加しつつある。
 ○  「多剤併用療法」の進歩により死亡率は著しく減少し、「不治の特別な病」から「コントロール可能な一般的な病」、即ち慢性感染症へと変化しつつある。

 →  国及び地方公共団体においては、今後、このような発生動向及び疾患特性の変化を踏まえた施策の再構築・展開が求められる。

(2) 国と地方自治体の役割分担の明確化

 ○  互いの比較優位性を踏まえた上で、我が国における発生動向と疾患特性の変化を踏まえれば、基本的に、地方公共団体が中心となってエイズ対策の実施に当たることが求められる。

 →  
(1) 検査・相談体制の充実  ←  都道府県等※
(2) 医療提供体制の確保  ←  都道府県
(3) 正しい知識の普及啓発  ←  都道府県等&市町村


国は、先導的立場
の下に、必要な
技術的支援を強化

 都道府県並びに保健所を設置する市及び特別区をいう。

(3) 予防対策及びまん延防止対策に係る施策の重点化・計画化

 ○  地方公共団体は、予防及びまん延の防止の対策に係る施策を中心に、重点的かつ計画的に取り組むことが望ましい。

 →  
 予防及びまん延の防止の対策に係る施策
(1)  普及啓発及び教育
(2)  保健所等における検査・相談体制の充実
(3)  医療提供体制の確保

2. 各論:指針に掲げられている各種施策分野の見直しの方向

(1) 原因の究明
 ○  国は、感染者等の人権及び個人情報の保護に最大限配慮した上で、都道府県等が地域における発生動向を正確・適時に把握することが可能な仕組を検討することが必要。

(2) 普及啓発及び教育

 @) 普及啓発及び教育の方向性
  ○  感染の危険性に曝されている国民へ向けた働きかけのみならず、それらを取り巻く家庭、地域、学校、職場等へも取り組み、行動変容を起こしやすくするような社会的環境を醸成していくことが必要。
  ○  無防備な性行動を低減するため、お互いの身体や心を思いやる心の醸成や豊かな人間関係を構築できるコミュニケーション能力の向上を図っていくことが大切。
 A) 具体的推進策
  ○  国は、国民一般を対象に、正しい知識等へのアクセスを確保する必要。
  ○  地方公共団体は、対象となる層を設定し、具体的な行動変容を促すことが必要。この場合、地域における発生動向を踏まえ、対象の実情に応じた普及啓発及び教育を重点的・計画的に実施することが重要。

(3) 検査・相談体制の充実

 @) 検査・相談体制の充実の方向性
  ○  早期検査による早期発見、陽性者に対する相談の機会と早期治療・発症予防の機会の提供が重要。
  ○  国及び都道府県等は、保健所における検査・相談体制の充実を基本とし、重点的・計画的に取り組むとともに、検査・相談の機会を個々人の行動変容を促す絶好の機会と位置付け、利用者の立場に立った取組を積極的に講じることが必要。
 A) 具体的推進策
  ○  国と都道府県等が連携し、
(1)  検査・相談の利用に係る情報の周知
(2)  利用者の立場に立った検査の利便性及びサービスの向上
(3)  相談(カウンセリング)体制の確保
 に一体的に取り組むことが必要。
  ○  相談体制の確保に当たっては、陽性者に対しては適切な相談と医療機関への紹介を、陰性者に対しては行動変容を促す相談を可能とすることが必要。

(4) 医療の提供

 @) 医療の提供の方向性
  ○  国及び都道府県は、感染者等が一部の医療機関へ集中している現状を踏まえ、各都道府県内における総合的な医療提供体制の構築に重点的・計画的に取り組むことが必要。
  ○  良質かつ適切な医療の提供のため、人材の育成による治療の質の向上や医療機関の連携や各種研修の充実による知識や経験の交流を通じて、医療従事者の更なる資質の向上を目指していく。
 A) 具体的推進策
  ○  「中核拠点病院」制度を創設(原則、都道府県内に1カ所設置)し、そこを中心に、都道府県内におけるエイズ治療拠点病院間の機能分化を含めた医療提供体制の構築を図ることが必要。
  ○  都道府県は、医療計画等を活用し、重点的・計画的に医療提供体制の確保を図ることが必要。また、地域における各拠点病院等の機能を把握した上で、院内の他科診療との連携はもとより、中核拠点病院と拠点病院等との連携を図ることが重要。

(5) 研究開発の推進

  ○  国は、研究課題の募集等の際各研究課題の目標や期待する成果を可能な限り具体的に示すとともに、目標の達成度合いや成果の評価を行うことが必要。

(6) 国際的な連携

  ○  国は、アジアにおけるHIV・エイズの拡大が懸念されていることや、全世界の新規感染者数の約90%がアジア・アフリカ諸国で発生している事実にかんがみ、引き続き、アジア・アフリカ諸国等への協力を進めることが必要。

(7) 人権の尊重

  ○  HIV・エイズに対する偏見・差別の撤廃について、国及び地方公共団体は、患者等を取り巻く地域、職場等へ向けた普及啓発等にも取り組み、偏見・差別が防止されるような社会的環境を醸成していくことが必要。

III. 施策の評価等

(1) 施策の評価

  ○  国は、関係省庁と定期的な報告や調整等を行うことにより、関係省庁間の連携を一層進め、総合的なエイズ対策を推進していくべき。
  ○  地方公共団体においては、地域の実情に応じて、(1)施策の目標を記載するとともに、(2)定期的に、各種主要施策の実施状況等を評価することが必要。
  ○  具体的な目標の設定に当たっては、基本的には、定量的な指標に基づく目標を設定することが望まれるところであるが、必要に応じ、定性的な目標を設定することも考えられる。

(2) NPO、NGO等との連携及び財団法人エイズ予防財団の機能の見直し

  ○  個別施策層を対象とする施策を実施する際には、NPO、NGO等の民間団体等(以下「団体等」という。)と連携することが有効である。
  ○  財団法人エイズ予防財団は、こうした団体等における人材育成、活動等の支援等において、核となって機能すべき。

トップへ