障害者虐待防止についての勉強会


1.  趣旨
施設や家庭等で続発する障害者に対する虐待防止の在り方及び防止のための適切な支援の在り方を検討するため、障害保健福祉部長の主催する、各方面の有識者や行政担当者による勉強会を開催し、施策の方向性を検討する。

2.  参加メンバー
障害に関する有識者
 (別紙参照)

行政担当者
  厚生労働省  障害保健福祉部  企画課、
 障害福祉課、
 精神保健福祉課

3.  開催状況
 第1回
  日時: 平成17年2月18日(金)18:00〜20:00
  場所: 厚生労働省社会・援護局第2会議室(4階)

 第2回
  日時: 平成17年3月11日(金)18:00〜20:00
  場所: 厚生労働省社会・援護局第2会議室(4階)

 第3回
  日時: 平成17年3月23日(水)18:00〜20:00
  場所: 厚生労働省社会・援護局第2会議室(4階)

 第4回
  日時: 平成17年4月27日(水)18:00〜20:00
  場所: 厚生労働省社会・援護局第2会議室(4階)

 第5回
  日時: 平成17年5月30日(月)18:00〜20:00
  場所: 厚生労働省社会・援護局第2会議室(4階)

4.  今後の予定
 勉強会を継続し、虐待防止方策について検討していく予定。



(別紙)

虐待防止についての勉強会メンバー

藤沢 敏孝 知的障害者施設エルシーヌ藤が丘施設長

中野 敏子 明治学院大学社会福祉学科教授

松友 了 全日本手をつなぐ育成会常務理事

佐藤 彰一 弁護士・法政大学法学部教授

野沢 和弘 毎日新聞社社会部副部長・全日本手をつなぐ育成会権利擁護委員会委員長



障害者虐待防止についての勉強会の意見の概要

I. 障害者虐待の現状
 1. 施設における虐待の共通点(知的障害者施設の場合)
 ・ 虐待そのものが利用者本人にも理解されず、親が施設への配慮から虐待する側を守る場合がある。
 ・ 職員に体罰という認識がなく、指導・しつけと考えている。また、職員側に利用者への支援のスキルがない場合が多い。
 ・ 利用者が言わない、言えない。あるいは、利用者が言っているのに声が届かないと、体罰が繰り返され、さらにエスカレートする場合もある。
 2. 虐待防止について
 ・ 職員に支援スキルが必要。そのためには実際的な研修が必要である。
 ・ 虐待行為は密室で生まれる。第3者が介在する必要がある。
 ・ 権利侵害は、軽度のものから連続的に悲劇的なものとなっていく、初期の段階で対応することが大切である。そのためには、権利侵害を掘り起こしていく必要がある。
 ・ 虐待が発生していたら、虐待に対するための権限を持った行政機関と生活に密着した民間の機関が機能分担して対応していく必要がある。

II. 障害者虐待を未然に防止するための取り組み
 1. 施設協会の取り組み
 ・ 施設団体とし虐待の調査、指導、施設の建て直しなどを検討していく必要がある。
 2. 千葉県の中核地域生活支援センターについて
 ・ センターは民間と行政が協働して行い、24時間365日の相談支援を行っている。虐待事例の緊急対応は、福祉救急隊により、現地にすぐに入ることにしている。

III. 今後の虐待防止のための方策について
 1. 障害者虐待の実態調査などについて
 ・ 虐待の実態を把握する際、事例などを含めて調査する必要がある。
 2. 虐待の通告・介入について
 ・ 虐待が発生している場合、周囲の職員が気づいていることがほとんどである。法律等により通告を義務化する必要があるのではないか。
 ・ 虐待の通告を受ける機関や利用者を守り、通告者を守る機関が必要。
 3. 虐待防止に関する掲示物に関して
 ・ 意識を促すために虐待防止のポスター等を掲示をするのは有効である。
 4. 権利擁護のシステム
 ・ 虐待を未然に防止するため、専門に苦情を受ける機関や専門家が必要である。
 5. 障害者虐待防止法などの法整備について
 ・ 知的障害者施設では権利侵害は起きやすい。権利侵害を犯しそれに気づき反省する機会がないまま虐待へとエスカレートする。権利侵害が虐待に発展しないために法整備が必要である。
 ・ 「虐待は絶対に許さない」という理念をうち立てるために、障害者虐待防止法の制定が必要。



障害者虐待防止についての勉強会の意見


I. 障害者虐待の現状
 1. 施設における虐待の共通点(知的障害施設の場合)
 (1) 虐待が表にでない主な理由
 ・ 虐待事件の本質が利用者本人にも理解されていない。
 ・ 対応が困難な行動を抑えるのだから強い指導も必要だと、虐待の原因を利用者の問題行動に帰している。
 ・ 加害者が本来保護すべき立場にある職員であること。
 ・ 公的機関(行政側)が、事件を正面から受止めきれない。行政が虐待を隠蔽する役割を担うこともある。
 ・ 親が虐待する側を守る行動をとる。背景に、わが子を預ける場のない、行き場のない状況がある。
 (2) 虐待がおきる理由
 ・ 体罰の容認。
 ・ 体罰という認識がない(指導、しつけと考えている)。
 ・ 体罰はいけないと思いつつ行ってしまう。職員の個人的性格、ストレス等にも関係している。
 ・ 職員側に利用者への支援のスキルがない場合が多い。
 (3) 体罰を繰り返す理由
 ・ 体罰が発覚しない。
 ・ 利用者が言わない、言えない。
 ・ 利用者が言っているのに声が届かない→利用者の声を聞くシステムがない。
 ・ 職員が体罰を内緒にしている。仲間としてかばう傾向がある。
 ・ 体罰を上司に通告しても改善されない→通告が生かされないシステム。

 2. 虐待防止について
 ・ 制度として、成年後見制度、第三者評価、オンブズマン等制度はできているが、虐待は減っていない状況である。
 ・ 資格ができても暮らしが見えていない。暮らしが見えないと虐待を発見できない。
 ・ 支援に対するスキルが必要。→スキルがないと、あらゆる場面での危機対応ができず、それが虐待につながることになる。
 ・ きちんとした倫理観、価値観を持ち、スキルを身につけ、支援の実際の形が見える職員の育成が必要。
 ・ 虐待と聞いて、加害者側の意識に立つか、被害者側にたつ人間かの視点により、問題の見え方が違ってくる。
 ・ 虐待の加害者は、日々障害者の身近にいて世話をしている人が虐待に加わっている→ 親、施設職員が「生きるスベ」が与えられるような議論が必要。
 ・ 虐待を考えるとき、障害者を取り巻く世界が、他の世界と違っていても良いという一般の意識があるのではないか。(「障害者だから仕方ない」等々)
 ・ 福祉における生活が見えている人が、日々の虐待、権利侵害を日々検討していくことが必要である。
 ・ 施設、学校、会社においては虐待がつきまとうのだということへの認識が必要。
 ・ 虐待は、あらゆる面で行為が密室で行われるいることから生まれる。第3者が介在する必要がある。
 ・ 行政の指導監査にも問題がある場合がある。
  (1) 県の職員が施設に顔を出さない。
  (2) 2〜3年で異動になり専門性をもっていない。
  →  県に施設を指導するための専門官の制度のような専門性を持つ職員をおくようなシステムが必要。
 ・ 虐待が起きている実態があるとしたときそれに対して、あなたはどのように対応するかについて考えるべき。
 ・ 権利侵害のない施設はない。→権利侵害が起きている事に気づかない、又は、それを隠すという状況。→その状況に気づき、どのように支援するのが最善かを考えていく事が必要。
 ・ 権利侵害は、軽度のものから連続的に悲劇的なものとなっていく、初期の段階で対応することが大切である。そのためには、権利侵害の掘り起こしをしていく必要がある。
 ・ 虐待が発生していたら、虐待に対するための権限を持った行政機関と生活に密着した民間の機関が機能分担して対応していく必要がある。


II. 障害者虐待を未然に防止するための取り組み
 1. 施設協会の取り組み
 ・ 日本知的障害者福祉協会は、知的障害者倫理綱領、知的障害施設職員行動規範などをつくり虐待防止に取り組んできた。また利用者に対する専門的支援を行うための研修にも取り組んでいる。
 ・ 今後の施設団体としての対応としては、
 (1) 会員準則を定め、研修に参加しないような施設には指導を行う。
 (2) 虐待を起こしている施設に対しては、団体としての何らかの処分が出来るようにしていこうと考えている。
 (3) 問題を起こしているような施設に対する調査を行う必要はあると考えている。
 (4) 問題が発生した施設に対して処分を行うだけではなく、人材を派遣して施設の建て直しを図るようなシステムを考えていく必要がある。

 2. 千葉県の中核地域生活支援センターについて
 ・ 障害者だけでなく、子ども、高齢者等も含め地域で暮らすための個別的ではなく横断的な施策として展開している。
 ・ センターは民間と行政が協働して行い、24時間365日開設している相談支援を中心とした事業を行っている。
 ・ 虐待事例の緊急対応は、福祉救急隊(ボランティア:専門性を持つ人たち)により、現地にすぐに入ることにより対応している。


III. 今後の虐待防止のための方策について
 1. 障害者虐待の実態調査などについて
 ・ 虐待がどうして発生してしまったかという状況だけではなく、なぜ周囲が助けられなかったかについて調べる必要がある。
 ・ 虐待が起こった事に対する支援技術、その方法等について具体的な事例の研究が必要ではないか。
 ・ 虐待等の情報については、アウトプットして言うことが重要である。関係者に知らせていく事により、虐待を減少させていく契機になる。
 ・ 虐待の実態を把握することを、まず行ってもらいたい。

 2. 虐待の通告・介入について
 ・ 虐待の事実から、職場の同僚をかばうとか秘密にするといった日本的な土壌の意識から、通告を義務化することが必要である。
 ・ 通告を義務化すると、いろいろな問題が出てくるだろうが、まずは虐待の事実を秘密化しないことが大事である。
 ・ 虐待が発生している場合、周囲の職員が気づいていることがほとんどである。そのことを通告してもらうために、法律等により通告を義務化する時代になっているのではないか。通告した者を保護する制度も必要である。
 ・ 虐待の通告を受ける機関が必要であり、そこから利用者を守り、通告者を守る機関が必要。
 ・ 虐待について「告発をしなかったらあなたは共犯になります」というような法体制を整えることで、成果が上がるのではないか。
 ・ 虐待は犯罪であるという毅然として、曖昧さをなくすべきである。
 ・ 虐待があった場合の介入は、第三者的なニュートラルな者による介入を行うというようなシステムが必要ではないか。
 ・ ニュートラルな者とは、日本で言えば福祉における資格制度を持つものとして社会福祉士が考えられるが、現状のままでは難しい。資格に高い役割と権限を持たせる必要があるし、権利擁護に関するもう一段階上の研修が必要である。
 ・ 虐待を判断できる専門家が必要である。専門家はアドボケートの専門家を作る必要がある。→社会福祉士にアドボケートの力を持たせる必要ある。
 ・ 千葉のセンターのような方式でも、中核となるような専門性をもったプロフェッショナルが必要である。
 ・ 虐待を判断できる専門家が必要である。専門家はアドボケートの専門家を作る必要がある
 ・ 虐待が起こった場合、その親は施設と対峙してしまうことのないよう、まず、相談するための組織が必要であり、相談するという意識を育てていかなければいけない。
 ・ 相談できるということを啓発していく必要がある。
 ・ 親が安心して虐待と向き合うためのバックアップ体制を整える必要がある。
 ・ 虐待が起こった場合、一時的に避難するための機関、システム等が必要ではないか。
 ・ 虐待の定義から始まり、どこの機関が対応するのか、内部告発者の保護、ネグレクトを傍観していることの問題等々、対応すべき問題はいろいろある。
 ・ 虐待をしてしまった職員に対する再起についても、虐待防止法は視野に入れていきたい。
 ・ 職員に対する研修において、自分の性格を客観視できる能力を磨くとか、コミュニケーション力を身につけるとか、ストレスの発散法とかの研修の即効性があり、現場で役立つのではないか。
 ・ 施設の中で人権についてチェックを行ったり、苦情の受付が出来るような役割を持った人権擁護士の資格の創設が必要ではないか。

 3. 虐待防止に関する掲示物に関して
 ・ 意識を促すために掲示をするのは有効である。
 ・ 虐待が当たり前となっている施設における意識に対して、当たり前の事ではないとする意識を構築するような観点からの掲示物とする内容が必要である。

 4. 権利擁護のシステム
 ・ 虐待を予防するためのシステムとして苦情受付、第三者委員、運営適正化委員会等などがうまく機能していない。その理由として、苦情を申し立てられない状況がある。
 ・ サービスの事業者が少なく、利用者に選択権がない状況において、苦情を申し立てるのは困難である。さらに、知的障害者の場合利用者の意思を確認することは困難なことであり、それをアドボケートする者がいない状況で苦情を申し立てること自体が困難である。アドボケートを専任で行う者や組織が必要である。
 ・ 虐待を未然に防止するため、苦情処理の職員はケアスタッフから離れて専任とし、専門に苦情を受け、ケアスタッフを改善することが出来るようにしなければいけない。
 ・ 権利擁護に特化したADR機関(福祉の実情にあった紛争処理機関)を作ってはどうか。

 5. 障害者虐待防止法などの法整備について
 ・ 虐待防止法が必要な理由
 (1) どこにでもある虐待の芽に気づくために
知的障害者=判断能力にハンディのある人のいる現場では権利侵害は必ず起きる。絶えず起きている権利侵害に気づくために必要。
 (2) 利用者からの苦情や注文が遮断されている知的障害者の施設は権利侵害のハイリスク職場の典型。熱心で情に厚い施設長も、難しい現場にいるうちに権利侵害を犯し、それに気づき反省する機会がないまま虐待へとエスカレートする。権利侵害が虐待に発展しないために必要。
 (3) 職員を守るためにも
体罰や権利侵害が自分の身近で起きているとき、それを防止する「手だて」が準備されていないと、せっかく質のよい職員も失望し変容し、体罰容認派になるか職場を去らざるを得なくなる。職員を守るためにも必要。
 (4) 保護者を呪縛から解放するためにも
わが子が虐待されながら「少々のことは仕方ない」と耐えて、虐待する側の味方になる保護者も犠牲者。こうした保護者の心情が結果的には、虐待を生み育て、権利擁護の壁となっている。保護者が自分の子どもの権利を擁護するために必要。
 (5) 行政は虐待から障害者を救えない
提供できる福祉資源が少ないと、サービス提供者は行政に対して相対的に優位に立つ。行政担当者の知識、情報量不足にも差がある。サービス提供の調整をする役割の行政の担当者と権利擁護の担当者を区別するためにも必要である。
 (6) 「権利擁護システム」が不可欠
施設職員も保護者も体罰や虐待を許しているわけではない。こうした人々を救い、権利侵害が起きても虐待までに発展しない職場を作るためにには、「有効に機能する権利擁護システム」が必要。そのシステムとは、虐待を早期発見して被害者を救済する根拠を定めた「法規範」、それを現実に運営する「機関」である。
虐待防止法は、法的な意味だけでなく、社会に対して障害者の虐待は許されないことを強く知らしめるシンボルにもなる。児童虐待防止法がそうであるように、国民の意識を変えたり、自治体や市民グループの活動を積極的にする効用もある。
 ・ まずは、知的障害からだけでも緊急的に必要ではないか。出来ることから動き出す必要があるのではないか。
 ・ 知的障害を第1歩として、その他の障害に拡げていかないと、なかなかまとまらず時間を要してしまう恐れがある。
 ・ それぞれの障害種別の事情はあるが、グランドデザインにより、障害種別毎という概念がなくなり、例えば知的障害のみを整備することは困難ではないか。
 ・ 両親への支援等日本において、国民の人権意識の啓発を行う為、法律を作ることは一つの宣言になる。
 ・ 虐待はいけない事という啓発を行い、社会を変えていくことが必要そのためには理念的なものとしての法でも良いが法を作る必要があるのではないか。
 ・ 高齢者虐待と観点は同じところにある。人権という観点で高齢者も障害者も児童も一本のものがあるべきと考えている。
 ・ 虐待は絶対に許さないと言う、この問題を正面から取り組んでいくため、その理念をうち立てる必要がある。その意味からも障害者虐待防止法の制定が必要。
 ・ 予算上の問題にしても、制度の問題にしても、法律がないと応援が出来ない。法制化を考えてほしい。

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