05/05/19 第5回医師の需給に関する検討会議事録              第5回 医師の需給に関する検討会                        日時 平成17年5月19日(木)                           16:00〜                        場所 厚生労働省省議室9階 ○矢崎座長  それでは、定刻になりましたので、第5回「医師の需給に関する検討会」を始めま す。本日はお忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。ま ず、事務局から本日の委員の出欠状況について説明ください。 ○医事課長  本日は、池田委員、川ア委員、小山田委員、吉村委員がご都合により欠席とのご連絡 をいただいております。 ○矢崎座長  本日は、私立医科大学の理事会があるそうで、また水田委員には国立大学の委員会が あって早めに退出されますし、小山田委員もおられませんので、議論が少し低調になる かもしれませんが、よろしくお願いしたいと思います。では、資料の確認をお願いいた します。 ○中村補佐  事務局から本日の資料についてご説明いたします。「議事次第」「座席表」「メンバ ー表」がありまして、次に「資料目次」があります。本日の資料は、資料が1つ、参考 資料が2つあり、資料1は、前回事務局から提出いたしました中間報告書の骨子案をそ のまま出しております。参考資料1は、本日ご出席の泉委員からご提出いただいた資 料。参考資料2は、本日ご欠席の吉村委員から提出いただいた資料です。不足の資料が ありましたら、事務局までお知らせくださいませ。 ○矢崎座長  それでは、本日も前回に引き続きまして、中間報告書の骨子案について討論を進めた いと思います。今のご紹介にありますように、参考資料1と2があります。参考資料2 は、全国医学部長病院長会議会長で北里大学医学部長の吉村委員から、今までの議論を まとめたような形の資料を提出していただきました。これについては次回ご出席された ときに、少しコメントをしていただくということで、本日は参考資料1の泉委員からの 資料を簡単にご説明いだけますでしょうか。 ○泉委員  前回もこの報告書の位置づけや進め方について質問いたしましたが、それに関連して 意見を出させていただきました。  まず、全体に関するものとしては、この場では医師の問題について、非常に幅広い観 点からご議論がされているわけですが、中核的な問題の医師需給について、どう考える のかという、この検討会としての現在のスタンスを明確に記す必要があるのではない か、という提案をさせていただきます。。  これまでのご議論を踏まえますと、ここに4項目書いたのが、皆様方の意見が一致す るところではないかと思いますので、そういう内容を入れていただけないかということ です。  「2.現状の認識について」は、皆様方からの現場の実感、あるいは感想、ご意見が 書かれておりますが、できれば数字的な、実証的なデータも可能な限り載せていただく 必要があるのではないかということです。  3については、個別の課題について抜けていると思われたことを挙げました。 ○矢崎座長  大変具体的な課題をまとめて指摘いただきまして、ありがとうございました。これか らの推計には実証的なデータを限りなく引用して作業を進めていきたいと思っておりま す。また随時ご発言いただければ大変有難いと思います。  それでは、資料1から始めて、資料1の1の「はじめに」と2の「現状の認識」の段 落から議論を進めていきたいと思います。まず忌憚のないご意見を委員の方から発言い ただければ、大変有難いと思いますが、いかがでしょうか。  「はじめに」は概論ですので、これからの進め方についても触れていますが、2の 「現状の認識」については、いかがでしょうか。先ほど泉委員からもご指摘がありまし て、吉村委員からの報告にも触れておられますが、診療科、専門領域による医師の格 差、地域、さらには時間帯においても格差があるのではないかという現状認識で、これ も多くの方々が共通に認識しているところではないかと思います。地方では大学病院で も医師が不足して、関連病院に医師を派遣する余力がなくなっているのではないかとい う大学の方々のご意見もありました。  あと患者を中心とした医療を進めるということで、今までの医師が置かれていた環境 が、もう変わって、医師、患者関係のコミュニケーションを第一に医療のベースに置い ていくことによって、今までの医療提供体系が変わっていくのではないかということが 述べられておりますが。 ○水田委員  こういう報告書の場合は、「何々ではないか」でよろしいのか、あるいは最終的にデ ータまで示して、「何々である」とまで言う必要があるのか、どちらでいこうとしてい るのでしょうか。現状の認識では、皆さんそうではないかなと思いながらも、それを裏 付けするデータがあれば、「そうだ」と言えるのでしょうが、平成10年のときは過剰に なると言っておいて、この間の長谷川委員のお話では、随分足りなくなっているようで す。それでは、どのぐらい足りなくなるのかということが、きちんと数字で示せるのか どうかということですが、それはどうなのでしょうか。 ○矢崎座長  そうですね、先ほど泉委員が言われた実証的なデータに基づいて推計を可能な限り出 していくということで、ある程度それに基づいた判断による記述ができるのではないか と思います。 ○山本委員  「現状の認識」の中で、先ほどから出ている実証的なものということですが、地域医 療の必要度には客観的な数字がないということをはっきり書いておいたほうがいいので はないかと思うのです。 ○長谷川委員  前回も委員のほうからご指摘があったとお聞きしたのですが、私はおらず恐縮です。 現在の状況と将来の状況は、若干違うところがあって、平成10年の場合も長期的には医 師が余るという議論だったと思います。  また一方で現状は、特に一部で明確に医師が足りなくなっているわけですが、長期的 には私自身としても、余るのか足りないのかというのは、はっきり分からない状況です ので、現状認識の中に、長期的展望と現在の状況を勘案して、その流れの中で考える と、これから日本は、人類未踏の超高齢化社会に突入していきます。医師の診療形態自 体が大きく変わってくる可能性がありますので、長期的展望については量的な問題だけ ではなく、質的な、システム的な考え方が非常に重要だと思います。 ○吉新委員  数の理論というか、国のほうで総量をコントロールするとなると、計画的な配置をし なければいけないと思います。イギリスのNHSでやっていたような、ジェネラル・プ ラクティショナー(GP)はこの地域に何人、病院はこの地域にいくつで、専門医が何 人と計画的にやらないと、やっていけない時代がくるのではないかと思います。  へき地の立場からいうと、ドクターの高齢化が非常に進んでいるのと、町村合併で診 療所がどんどん廃止される地域が出現しており、今まで診療所があったのが廃院になっ てしまう、もしくは出張診療所になってしまう。そこの地域の人たちは非常に不安だと 思います。例えば、無医の離島などは日本中にたくさんあるわけですから、その場合は ナースを置いて、ドクターの権限に近いものをあげるとか、前の長谷川委員の資料でス キルミックスと書いてありましたが、ドクターでは十分満たされないような所は別の権 限の人をつくって代行させるなどといった、ちょっと医師法に絡むような部分もありま すが、医師が足りないのなら検討しないと無責任な議論になってしまうのではないかな と思います。ですから、総量の規制をするのか、それともアロケーション(分配)をど うするのかは、きちんと考えなければいけないと思います。  あとは私が前から言っているように、あまりにも過度な専門医制度礼賛というか、偏 重が住民側にもドクター側にも言えると思うのですが、日本のプライマリー・ケアとい うか、町医者のレベルを落としてしまったのではないかという感じがしており、そうい う意味では、ジェネラリスト、プライマリー・ケア、総合医でも何でもいいのですが、 そういう人たちを、きちんと医療の土台としてつくっておかなければ、そこの上に乗っ ていく専門医制度、それ自体が非常に危険になってしまうのではないかということを、 是非書いていただきたいと思います。 ○矢崎座長  そのほかにいかがでしょうか。 ○本田委員  今までは養成する医師の数をコントロールすることしかできていなくて、現状に至っ ているということを一般国民はあまり知らない。医師というのは、もっと計画的に養成 されているのではないかぐらいのことを思っている人が、私を含めて結構いることを、 最近実感しました。厚生労働省の関係ではないのかもしれませんが、長期的な視点で、 日本ではどういう医師がどのぐらいという養成の仕方も見直していく視点が必要になっ てきている、ということを含んでいただけたらいいなと思いました。 ○矢崎座長  ただいま、現状の認識に当たっても実証的なデータで現状を正しく認識することが重 要であるというお話と、医師の育成の段階で、少しきめ細かな配慮が必要ではないかと いうお話を伺ったと思います。また、これについてはいまのご意見を基に事務局でまと めていただいて、次回議論を進めていきたいと思います。大変恐縮ですが、次の「検討 すべき課題とその解決法について」、議論を進めていきたいと思います。ここでまとめ られたようないくつかの課題に分けることができるので、1つ1つ議論を進めていきた いと思います。  まず初めに、「地域偏在の解消等について」ですが、これは「現状の認識」に密接に かかわることで、すでにご議論をある程度いただいたところです。これについてご意見 を賜れば大変有難いと思います。いかがでしょうか。 ○土屋委員、現状分析の結果は、先ほどありましたように診療科の偏在になっているよ うですが、この際、過去の3回の検討会では、将来推計をして、医学部定員を1割削減 しようかというところで終わっています。それだけでは済まされない、はたと気が付い たら、現況は大変な状況になっている。そうすると、今回のこの検討会では、将来推計 に基づく対応策を講じることも1つでしょうけれども。もう1つは、先ほど長谷川委員 もおっしゃいましたが、冒頭に喫緊の課題をいかに解決するのかは避けて通れないみた いです。抽象的なことだけを言って、これから医師を養成するにしても削減するにして も10年かかりますので、その効果というか、その結果が出るのは10年先とするならば、 早急に何か具体的な方策を講じなければいけないのではないかと考えるわけです。  そこで日本医師会として喫緊の課題にいささかでも、これが具体的な方策として通じ るのではないかということで提案をしたいと思います。  まず、地域偏在に対する対策として、自衛隊病院というのがありますが、自衛隊病院 は全国で、中央病院も含めると16あります。最近、自衛隊病院をオープン化したい。そ の理由は、非公式ですが日本医師会に対して、いろいろなレベルで地域医療を学びた い、研修したいという要請がありました。自衛隊病院は一部を除いてクローズですの で、自衛隊員、あるいはその家族しか診ていないとするなら、自衛隊の人たちは滅多に 病気もしないでしょうし、怪我をする程度でしょうから、地域医療を研修したい、それ をやらせてくれという内々の希望があります。  いま、へき地・離島の保健医療検討会というのがあって、これにはこの検討会の委員 の方も何人か出ておられますが、へき地・離島も含めて、ある特定の地域ではそれと似 たような状況が起こっていると考えます。まず自衛隊の医師を何人派遣できるのか不明 ですが、災害の際には自衛隊は出動します。災害ではありませんが、地域における災害 にも等しい医療危機にあるのだ、という認識のもとに、それを救済するという、単に、 へき地にドクターを派遣するなどというレベルの話ではなく、こういう角度からも国民 を何とか守ってやろうという高邁な考え方で、オープン化して待っているよりも、この 際、これに積極的に取り組んでいただけないものか。地域へ出ていって勉強するのは大 変いいことでしょうし、地域におけるいろいろなサポート体制も、特にへき地・離島で はできておりますので、みんなで一緒になって勉強することが大事ではないか。  それから、臨床研修というのが始まっていますが、1カ月ぐらいはへき地というか離 島にも行くことを義務化することは大事なのではないでしょうか。その後方支援として は研修病院、あるいは何か起こしてしまったらどうするのかという賠償責任は、医師会 がバックアップするという制度もありますので、そういうことでいかがかということで す。何せこれから医師を養成するなどというのはもう少し先の話になりますので、とり あえずはそういうことでは如何かと思います。  もう1つは、日本医師会が主導して全国規模の医師紹介、あるいは紹介派遣システム の本格的なものを構築したらいかがか。現在は県医師会レベルではいくつかドクターバ ンクがあります。これは本来はそういうものではなく、会員の福祉対策みたいなことが 主体だったわけです。ご希望の所は、日本医師会ホームページに掲載いたしますが、従 来の医師の福祉対策を、もう少し地域医療対策という観点から一緒にすれば、ネットワ ークが大きくなって、もっと効率的で有効なシステムになるだろうと思います。これ は、現在あるものを再構築することに加えて新たに設置することになるだろうと思いま す。全国で現在21の医師会がこういうものを立ち上げています。都道府県医師会では 17、郡市医師会で4つです。もうひとつうまい具合に機能していないという意見もあり ますので、そうしてはいかがかということです。  診療科偏在についても意見がありますが、とりあえず地域偏在についてはそんなこと を、この際、以上、三つの提案しておきたいと思います。 ○矢崎座長  そのほか、ご意見ございますでしょうか。 ○山本委員  いまの土屋委員のご意見に賛成ですが、地域偏在の解消の中で、基本的にある地域で 医師が足りない、あるいは必要な医療が確保できないということを短期的な対応として まずやらないと、患者・住民が影響を受けるわけです。土屋委員は災害という言葉を使 われましたが、地域によってはそのぐらい危機的な感じなのです。とにかくいま医師は 来てくれと。こうしたものを早急に解決するための方法として、全国規模の派遣システ ムができれば有効だと思います。  その一歩前として、地域の中で医療関係者が相互に助け合うことが一義的にあっても いいのではないかと思っています。とすると、例えば私が前回、医師の流動的な業務の あり方を検討してほしいということを申し上げましたが、この意味はまさにそのことで す。例えば、地域に地域医療センターといったようなものをつくって、そこで国公立、 大きな病院の先生方で地域にある一定期間行ってもいいという人は登録をしていただ き、必要な所に応じて次元的に支援をするというシステムを作るのも短期的には有効で はないかと思っています。  この場合に「流動的な」と申し上げましたのは、現在、国立病院、自治体病院は外に 出ていくことは大変難しい環境にあります。職専免や職務専念義務というのがあって、 いちいち書類を出さないとなかなか動けないということがありますから、その辺を地域 医療支援センターに登録してあって、必要なときは割合うまく出られるという仕組みも 有効かなと考えています。 ○古橋委員  地域偏在の解消に関しては、これまでの議論では、事象・現象的に確かに偏在がある との実感を捉えてきました。泉委員のご提案、提出資料にもありますように、客観的事 実としての地域偏在の実態を、もう少し明らかにして、これがある意味で国民や地域に 知らされていくことが必要な気がいたします。ついては、一体医療需要というものが、 今のこの時代の日本の社会でどういう状況にあって、人口対病気発生率、あるいはいろ いろな病気の出現率とか、本当はこのぐらいの医師数がいるのだという辺りの客観的指 標をまず持って、地域の偏在がどういう実態なのかを明らかにしなければいけないので はないかと思っています。  看護職に関しては、いま需給見直し作業が進行中で、物差し、項目を定め、各都道府 県単位に全数調査をする作業が厚生労働省の一方で動いております。医師に関しても、 そうした客観的医療需要をどのように捉えて、そこに必要な医師数はどうなのかという 辺りを明らかにする必要があるのでないかと思っています。最近は国立系病院の独法化 に伴い、あるいは医師の卒後研修のスタートに伴い、各関係機関は医師の取り込み現象 が出てきていると感じます。要は自分の所を整備しなければならないので、取り込もう と。それはある法則やルールよりも、そこの施設の意思と事情によって、結果的には無 秩序に行われたのではないかという気がしております。そういう中で、ここにあるよう に、医師の分布に関して規制という言葉がいいのかどうか、あるいは行政の直接関与が 適切なのかどうかは議論はあると思います。それは医師の全体の自主的コントロール力 が働くということもあるかもしれませんが、そうした無秩序にならない秩序をどのよう に合意し、整えていくかの議論があってもいいのではないかという気がしております。 ○長谷川委員  いまの古橋委員と山本委員のご意見に対するコメント絡みの意見を述べたいと思いま す。第1番に、医師需給に関しては、私ども研究をいただいていることもありまして、 患者調査を使って、標準的な患者数に対して医師が何人必要かということの分析をして 事務局に提出しておりますが、何かの理由で皆さん方に配られていないのだと思いま す。そのようなことはどうかということも含めて、この検討会にご提案できればと思っ ています。  第2番目は、診療科偏在と地域偏在の課題というのは、個人個人が自由に診療科なら びに場所を選択できるという問題があって、国際的に見ても、職業選択の自由という か、それにどの辺まで踏み込めるかという結構大きな課題であるような気がいたしま す。本当は医師が地域や診療科を選ぶときのインセンティブというか、要因みたいなも のを分析して、それにどのように影響を及ぼすかを考えなければならないかと思ってい ます。それも今回諸外国を回ってきて、モデル等についても調べてきた次第ですが、そ の辺を検討していく必要があるのではないか。例えば、諸外国の場合には専門医の制度 があって、その専門医に入るレジデントの数を決めています。心臓外科などの場合、過 剰が起こらないように年間何人と決めていたり、あるいはイギリスのように、病院のポ ジションが決まっていますので、自ずと病院医になれる方は決まってくるといったこと があるので、抑えることはできるのですが、妥当かどうか。具体的な施策に踏み込んだ 上で、原理原則、つまり個人の職業選択の自由にまで踏み込めるかどうかという議論を する必要があるのではないかと感じました。 ○江上委員  私は医療の専門外の立場から少し考えていることを申し上げます。今回の検討会の骨 子案ですが、前回の流れからすると、かなり大きく転換する立場で今回、問題提起をす るということになろうかと思います。その意味では、1の「はじめに」と書く部分が、 結構大事だと思います。もちろん最終報告書で出すわけですが、今までの認識を大きく 変えるという議論が始まっている。そして中間報告書で何をどのように訴求するのか、 あるいはこれがどういう位置づけになるのかを、きちんと書いたほうがよろしいかと思 います。  2番目の現状認識の3行目に、「医師は過剰になるという平成10年の認識は正しいの か疑問である」という、ちょっと素朴な書きぶりですが、私は国民的にはかなり大きな 問題だと思います。つまり、今まで医師は過剰であるということで、1割削減という流 れを作ってきておきながら、今回はこういう言葉で出すことについては、やはり医療行 政に責任を持つ立場としては、この現状認識について、相当きちんと今までのことを総 括しなければいけないと思います。医療供給のヒューマンリソースの質の変化が、今ま での数字的な試算とは異なる問題を含んでいるということを、きちんとここで出さなけ ればいけないのではないかと思います。ですから、医療供給の人的資源の質の変化と医 療の質の構造変化を、ここできちんともう少し数字を用いて、転換という立場に立って 問題を検討しなければならないということを、もう少し明言したほうがいいのではない かと思います。  3番が、いきなり「検討すべき課題とその解決方法について」となってしまうのです が、この間にもう1つ、なぜこの問題が起きているのかということが必要なのではない でしょうか。喫緊の問題とその解決方法については、医療業界のリーダーの皆さんが、 さまざまに痛く感じておられる方法論の提案がたくさんあるかと思いますが、社会全体 を見据えた立場からすると、1の「はじめに」と現状認識、その背景にどういう構造的 な変化があったのかを、きちんと押さえるべきかなと思います。  今回のお話をずっと伺っていると、少子化の問題と非常に近い感じがするのです。結 局、すべての問題が系統的に絡み合っているので、1つのことで解決できない。特に高 齢化の問題や女性の医師の問題など、今まで我々が経験していない部分でいろいろ出て きている。そういうことについて、きちんとした視点の転換ということを出す必要があ るのではないかと思います。  地域偏在、専門分野別の偏在、時間帯別の医療の問題については、かなり委員の皆様 から相当問題解決の方法論が出されていると思います。高齢医師の問題の稼働率の問題 や女性医師の問題については、先進国では過去どのような形であったか、事例をきちん と調査する。例えばスウェーデンを調査したら、そのとおりになるとは限らないわけで す。これはまた、日本の育児休業などの問題とも絡み合ってきます。日本の女性が育児 をしながら共働きをする実態というのは、日本の社会が未成熟でそこまでなっていませ んから、そういうことも含め、かなり精緻な海外の先進事例の調査と実態の調査をしな がら、いくつも仮説を積み上げていって、女性医師がどのぐらい増えた場合、どのぐら いの稼働率になるのかというシミュレーションモデルも作りながら、考えていかなけれ ばならないと思います。1つは視点の転換をきちんと打ち出すことと、泉委員が出して いるように、実証的なデータをきちんと出すことと、そのデータについても今までの調 査統計が時系列で蓄積しているのか、専門調査のワーキンググループを立ち上げる必要 があるのではないかと考えております。それが課題の対応の1つとして必要なのではな いか。今後中期・長期プランを作るに当たっても、今までの数字の捉え方と違う定義 で、ベースになる調査をやっていく必要があるのではないかという気がしております。 ○水田委員  先ほど私が伺ったのもそういうことで、どの程度のものを作るのかということを聞き たいわけです。この検討会でどこまで出すのかということです。「何々だろう」と皆さ んが思っていることは、こうではないかしら、ああではないかしらというのは分かると 思うのですが、それの裏づけのデータがどこまであるか、それをどこまで言うのかとい うことも、また問題になってくると思います。それは、どういうものを作ろうとしてい るのかということで決まってくるのではないでしょうか。 ○医事課長  いま何人かの委員からお話がありましたように、これまで何回か医師需給の検討会を やっておりますが、その際も、基本的には現在余っているとか、そういう発想ではな く、将来的に見ると、医師が過剰になるので定員を減らそうということでずっとやっき ております。  今回ももちろん最終的には今年度末を目指して報告書をまとめるわけですから、その 際には、例えば今あったようないろいろな数字で見て、2千何年にはどうなるのかとい うことはやっていくことになると思います。ただ、もともとこの検討会が始まった経緯 も、私どもと文部科学省と総務省の3省の連絡会議の中での地域偏在の問題が、非常に 大きくクローズアップされて、それはもう一度検討しなければいけないのではないかと いうのがあったのが非常に大きいのです。  今回の中間報告については、将来的なものは将来的なものとして、喫緊の課題につい てどう対応していけるのかというのをまとめるのが中間報告の意味だと、私どもは思っ ております。水田委員が言われたように、「何とかではないか」という書き方は、最終 的にはこういったものには馴染みません。今回のこれについては、もともと骨子案(こ れまでの各委員の意見から)ということで書いておりますので、全体として検討会とし てのとりまとめという形で行う際には、書きぶりというか、言い切り方は異なってくる と思います。あくまでも今回のものは、そういう喫緊の課題について、どう対応してい くのかを中間報告とする。これは私ども医療制度改革について、社会保障審議会の医療 部会を走らせておりまして、平成18年の医療制度改正の準備をしております。この中に おいては、へき地医療の確保も含めて、いま私どもの検討会で議論しているものが、中 でのトピックに大きく影響するものもありますし、その中で医療部会のほうへいろいろ 反映させるべきこともあろうかと思いますので、そういう喫緊の課題についてまとめて いただければ、そういう形で進めていけるのではないか。  もちろん、そういうものをまとめる際にも、必要なデータは当然あると思いますの で、私どもとして出していきたいと思います。まず将来、2千何年がどうなるかという のもありますが、いまの課題を解決することに重点を置いてご議論いただければと思っ ております。 ○矢崎座長  最初のこの検討会で申し上げましたように、本当にアレキサンダー王のように、こん がらがった糸を一刀両断でボンと断ち切ってほどくことはとても無理で、先ほどお話が あった医療の量的・質的な、あるいは構造的な変化があって、複雑な多因子によって医 療の環境が変わっていく。それを正確に捉えて、英知を出して、こういう方向で検討し たらどうかというのが、私はこの検討会の使命ではないかと思います。ですから、正確 に方向性を打ち出すのが私どもの使命ではないか。  先ほどから実証データということですが、推計というのは極めて難しいのです。例え ば、地域でどのぐらいの医師・看護師が必要なのか、あるいは専門領域というと語弊が ありますが、診療科の医師がどのぐらい必要なのかというのは、地域の皆さんは可能で あれば全部欲しいというところなので、本当にスタンダードとなる基準をどう定めるか は地域の思い、あるいは個人個人の思いで随分変わってきます。事務局で、これが標準 のスタンダードで、実証的なデータですと示すのは、なかなか難しいかもしれません が、もう少し包括的な数字はある程度出せると思います。  先ほど課長が言われたように、今までと医療環境が違うので、平成10年までは現状と いうよりは、将来過剰になるというスタンスの報告書であって、医師が忙しい、大変な 状況にあるという現状認識は、議論の上ではあったと思います。将来推計をすると、医 師というのは養成に随分時間がかかりますから、将来過剰になる所を見越して今からど のように対策を立てたらいいかというのが、今までのメインの課題だったのです。現状 認識がその程度で済んだのが、いま喫緊の課題が次から次へと出てきたので、一見する と、報告が様変わりするのではないかという危惧を抱かれるかもしれませんが、何人か の委員が指摘されたように、喫緊の課題が急にクローズアップされてきたので、それに 対応するには英知を絞ってどうしたらいいかをこれで出せないかということなのです。 最終的な回答はちょっと難しいのではないかというのが私の座長としての感想ですの で、恐縮ですが、是非またいい知恵を出していただければと思います。  いま地域と診療科の偏在ということに対してのご意見をいだいたわけですが、偏在と いう言葉は、偏っているところで、いま喫緊の薄くなった部分の課題ですが、もしかす るとトータルには偏在の片寄ったほうも議論しなければ、なかなか解決が難しいので す。ですから、もちろん医療施設の集約化がいいのか、あるいは効率的な提供体制を確 立するというのが適切な言葉かどうかわかりませんが、診療科についても、そういう観 点から今後進めていかなければいけない。  ただ、トップダウンで決めるわけにもいかないところがありますし、医師の将来の選 択の自由が基本にありますので、誘導という言葉が適切かどうかわかりませんが、本人 の選択を尊重しながら自然にそちらに行くような仕組みを、医師の育成の段階からしっ かり考えていかなければいけないのではないかと思います。  時間も過ぎてきましたので、次の「良質な医師の養成・確保」をどうしたらいいか。 前回、労働基準法のお話をいただきましたが、医師の勤務体制について、ご議論いただ ければと思います。 ○土屋委員  先ほどの座長のお話もそうですが、偏在ということは、逆に言うと、トータルはこれ で大体いいのだという前提で言っているのか。日本全国、医療機関を見て、うちは医師 が余っているというのはほとんど聞きません。大学病院ですら、いま通常の診療をやる のに事欠いてしまっています。あえて言いますが、国立がんセンターですら、麻酔医が いなくて大変な状況のようです。どこかに偏っているのか、片方で足りない他方では充 足されているのが偏在ですから、偏在という言葉が果たして正しいのかどうか、私は当 初から疑問に思っています。これは現状認識を誤らせる用語かもしれないと考えていま す。  前に戻って、診療科目の医師数が少ないというのを、あえて偏在とするなら、それに 対する対策ですが、全国規模の医師紹介や派遣システムを構築したらいかがかと先ほど 申し上げました。例えば小児救急は大変だと言われています。夜間はほとんど一睡もで きないで、明くる日はまた外来をやらなければならないという状況のようです。その実 態を見ますと、パートタイムの医師、特に女性医師の場合、そういうことを希望してい る方が結構います。でも常勤は無理だと。ですから、週に2回ぐらい外来だけでも新患 だけでも診てもらって、入院が必要なものは入院させていただく。そうすれば、常勤医 は外来のデューティーが開放されて、夕べ全然休めなかった人が休めるかもしれない し、その時間に病棟の患者を診ることができるかもしれません。もう少し柔軟性を持っ た勤務態様というか、これからの時代は国立大学病院と言えども、そういうことを考え なければいけない。女性医師がどんどん増えてくると対応できなくなってしまうのでは ないか、常勤でなければ困りますという話だと、「では、私はやめておきましょうか」 ということになってしまいます。  これからは3〜5割を女性医師が占めてきます。当初の資料を拝見しますと、30代、 40代の女性医師は0.7か0.8ぐらいで計算してありますが、それはそれとして、あまり信 用ならない話で、10万対比206.1などという数字そのものが当てにならないので、あの ようなことで一応200を超えて、めでたいという話ではないと思います。実際に医師免 許証を持っているドクターたちが、自分が許される範囲内の勤務ができるように、病院 長たちに考えてもらわなければいけないと思います。大学病院ですら、それは大事なこ とだろうと思います。大学病院のほうが必要に迫られている関係で、少し先進的になっ ているのかなと思います。  国立大学の医学部長・院長会議で、「医師の確保等の推進について」という提言が出 され、その中でもいろいろなことをおっしゃっています。大学によっては、地方の地域 の医療、特にへき地医療を経験した者でないと助手、講師、助教授には昇格させない。 場合によっては専門医の認定要件にもそういうものを入れるのだということを、具体的 にやろうとしている大学病院があるぐらいです。先ほど申し上げた喫緊の対応として は、もう出来上がった医師、特にリーダー的な医師が率先垂範してそういうことを示す ことは大変良いことだと思います。まずこの検討会は、全国が大変注目して期待してい ます。これが立ち上がったときに、すでに地方からは、何とかならないのかという悲鳴 にも似た声が上がってきていたわけで、のんびり構えてはいられないのではないかと思 います。  ご意見の中にありましたように、お役所のマクロのデータをもって云々しようなどと は私どもは考えておりません。ミクロのデータを1つずつ積み上げる。それはしかし時 間がかかり、中間報告に間に合いそうにないものですから、全国的な私どもの仲間の中 からアンケート調査を行い、適正な医師数や、女性が卒業して研修を受けて以後のライ フコースを、個人ではなくマスでもいいと思いますが、いくつかの大学を10年ぐらいの 経過を追って見ていけば、将来推計の中で大変参考になるデータが得られるのではない か、と思っています。これから先どうするかということよりも、目下の課題を解決する 方法について考える必要があります。  その中で、パートタイムの医師を紹介・派遣するシステムを通じて、できるだけ雇用 し、社会全体として支援できるような、あるいは医療機関としても個々の病院でそうい うことに対する理解ができるように、きちんと啓蒙していく必要があるのではないかと 思います。 ○吉新委員  私は平成10年のこの検討会のメンバーの1人です。当時は医師は余りそうだ、増える と医師が変なことをし始めるので、そういうのはまずいから減らそうということでし た。へき地に1,000名必要だから、1,000名積み上げてくださいという話になって、えら い景気のいい話だったのです。総量の規制の話を確かにしました。具体的な問題は「な お、へき地にはまだ必要だ」といういくつかの但書が入っただけで、とにかく余るのだ という議論で終わってしまいました。今日の医師不足の責任の一端はあると思っていま す。当時、井形委員会で12名のメンバーだったのですが、将来不足したら、この12名で 責任をとりましょうと言って、矢崎座長と私が引き続きメンバーになっているわけで す。  当時も分配の議論は全くなされず、いま土屋委員が言われたように、積み上げていく ことが大事だったと思います。私どもがへき地・離島の話をしていますと、県の衛生部 長が見えて、何とか病院と何とか病院にドクターがいないので、2名ずつ何とかならな いかということで、救急などの部門で時間外の対応をしてくれる先生が欲しいという場 合が多く、そういう病院はどちらかというと、大病院より地域の中小病院で派遣元の医 局が非常に遠いケースが多いのです。この10年、20年で日本の中小病院が非常に元気で なくなってしまっているのではないか。それは診療報酬の誘導で、開業医と、専門医が たくさんいる大病院の二局分化という方向に行ったのでしようがないのですが、中小病 院がないことによって、医療供給体制が、構造的に非常にガタがきてしまっているので す。大病院のほうでたくさんポストを用意できればいいのですが、そうではない場合 は、ある程度の年齢でスペシャリストになった人が開業せざるを得ないという現実があ って、都市部には医師が結構余っているのではないかと思います。かなり競争が激化し ている地区もあると噂で相当聞きます。今はたくさん開業している医師は、どちらかと いうとジェネラリストではなく、もともとはスペシャリストだったというケースがほと んどです。40〜50歳の人たちが病院から消えたあと、どこに行ったかが非常に大事だと 思います。  いま医師が不足していると言いますが、絶対的に不足しているというよりも、どこか にシフトしているのではないか。前回の平成10年のときには病院にシフトしているとい う意見が出ましたが、今回はたくさん開業していて、開業にシフトしている。それはい いかどうかわかりませんが、そのような経済的な誘導というか、結果としてそうなって いるのではないかと思います。  地域医療計画で病床規制と中小病院たたきとは言いませんが、それで非常に経営が厳 しくなってしまい、中小病院の運営と継承がうまくいかない。日本の場合は中小病院が 民間病院であることが多かったのです。ああいう日本の中核になった病院がもうやめて しまった、もしくは機能を相当失ってしまった。そこに勤めていた人たちは、ある年齢 になると行き場がないので開業しています。継承がうまくいっていない部分があると思 うのです。一体医者はどこに行ったのか、という部分も是非調べてもらいたいと思いま す。 ○土屋委員  医師が、どこに行ったという、確かな1つの具体的なこととしては、先生がいまおっ しゃったように、それだけが理由ではないのですが、中小病院の医師が新しい研修制度 によって地域から1人、2人といなくなってしまったと。地域でそれなりの高機能な役 割を果たしていた医療機関が、この状態では、従来の医療を継続できないので、この辺 で有床診療所にでもなるかと。そうすると医師もそれほど大勢要りませんので、残った ドクターたちはどうするかというと、その周辺で開業してしまうのが1つです。  それから、そうなると確かに病院は減ってきて、さらに縮小してきているので、病院 側もポストがありません。ですから、たまたまその病院に就職しても、猛烈にハードな のです。少々専門的なことを勉強した若い医師で、それなりの使命感、希望、夢を持っ ていたのが、現実に耐えられなくなって開業してしまう。昔は40歳代、50歳代のほうに 山があったのですが、30歳代、40歳代の若い頃の開業に確実にシフトしています。これ は皮肉なことで、将来推計で、私ども医師会も将来そうなっては大変だから削減すべき である、という話に反対もしなかったのだと思います。  ところが、平成29年頃にはこうなるという話ではなくて、10年以上も手前でそういう 現実が起こっていることを、我々としては相当重く受け止めて、これについて対応策を 考えないと、その先のことを言っていられない状況だと思います。 ○江上委員  いろいろお話を伺っていると、一般の労働界の問題にも共通していることがたくさん 出てきていると思います。医師というところで問題を立てていくと、特殊性や医師とい う聖職、医師は労働基準法を超えて長時間労働をすべき存在だと議論が動いてしまうの ですが、基本的には、これから医療供給の人的資源をどうしていくかということで言え ば、就業形態の多様化、弾力化、流動化を適切に具現化していくために、いまどういう 障壁があるのかを整理していったほうがわかりやすい感じがしています。  それと、今回いろいろな審議会の部会等でも、同じ問題の議論が比較的たくさん集め られていることを伺うと、今回の検討会で出していく大きな柱としては、女性医師の増 加に伴うさまざまな問題を明らかにするというのは、この検討会の大きな役割の1つか と思っているので、先ほど土屋委員が、10年くらい女性医師の軌跡をトレースする調査 を予定されているということでしたが、医師のライフコース調査といった部分について は、今後の具体的な活動として、是非ここで明記されるといいのではないかと思いま す。 ○矢崎座長  女性医師の最近の動向や開業される方の動向といった基礎となるデータは、事務局に ありますよね。 ○中村補佐  ございます。 ○矢崎座長  7番目に「女性医師の活用について」と独立的な課題になっていますが、これは先ほ どから、女性医師にどう働いていただくか、勤務体制の柔軟化などで対応すべきだとい う話もあります。女性医師の掘り起こしと、非常勤医師への理解を求めるという方向 で、女性医師の課題もこの中で対応していただければと思います。その他にご意見はあ りますか。 ○長谷川委員  いまの江上委員のお話に補足するような形でコメントしたいと思います。女性医師の 就業形態が、労働基準法の適用によって一般の医師にも拡大することになるのかという ことで、その意味で女性医師の形態を詳しく調べることが、全体にも影響を及ぼすのか と思っています。  先ほど「何がいちばん問題か」と言われたのを端的に申しますと、主治医制が崩壊す るということにあります。看護師やその他の勤務形態と同様に、複数の医師が1人の患 者を診ていく構造になっていくので、主治医制が崩壊します。それがいいか悪いかは私 自身は判断はなかなか難しいところがあると思いますが、どこかでそういう選択をしな くてはならないのだろうと思っています。 ○矢崎座長  この主治医というのは前に本田委員からもコメントがあったと思いますが、複数の医 師が1人の患者を違った視点からしっかり診ることも重要であって、患者・国民側から 主治医というものをどう捉えるかも、勤務体制をどう柔軟化していくかの大きなポイン トではないかと思います。本田委員、いかがでしょうか。 ○本田委員  この先生が私のことを知っている、病状をわかってくれているというのは一つの安心 にはなっているのですが、一方で、患者もその先生がいまの医療のすべてを知っている とは思っていなくて、いろいろな先生の考え方、知見、技術を集めて、治療に当たって もらいたいという思いも高まっていると思います。  その中で、いまの主治医制が崩れていくことに対して、それを逆にプラスのほう、チ ーム医療などいろいろ言われていますが、本当にチームで支えていることが患者にわか るような状況に、きちんと情報の伝達もされているという仕組みさえあれば、先生がコ ロコロ替わっても、患者にこのチームなのだということが明確になっていれば、それほ ど困らないのではないかと私は単純に思っていて、仕組みの仕方だと思います。 ○山本委員  自分でも答えの出ていない部分があるのですが、診療科偏在、良質な医師の養成とい う部分で、何が良質な医師なのだろうかと。ここに「繰り返し事故を起こす云々」と書 いてありますが、事故を起こさなければ良質な医師なのか、そうではないと思うので す。本当の意味で良質な医師、この医師はいい医師だということを評価するシステムが なければいけないと思います。  そのためには、どうしても医療の標準化が必要になってきます。そういう物差しがあ って、その標準に達しているか、それより上にいるか下にいるかで質を考えるというの は、1つの考え方だろうと思います。  もう1点は、専門医の役割ということで、私は常に疑問を持っています。私は専門医 は大きく2つ役割があると思っています。1つは、自分の専門分野に対して、医学を発 展させ、医療を進化させ、その分野においてより良い安心な医療を患者に提供する、そ のために一生懸命研究をし、その専門分野を向上させていく義務があって、それは皆さ んやっています。しかし一方で、いまの患者や国民、あるいは医者同士でも、あるテリ トリーを決めて、そこをやっているのが専門医だと見ています。  専門医が技術的に非常に高度なものでも、それを普遍化させて、あるレベルに達した 医師に落としていけば、専門医のやることはもっと特定化されて、いまのような数がい なくてもできるのではないかと思います。そのように、教育と普遍化という部分で、専 門医のやるべき仕事がきちんとやられていないのではないかと思います。この部分を、 足りないということも含めて、学問・技術の進歩の過程で、技術的に完全に完成された ものは、教えればできる医師はたくさんいます。さらにその高い専門を目指す部分がな いために、小児外科であれば小児外科の医師しか駄目だとか、消化器外科であれば消化 器外科の医師、胃癌であれば胃癌の医師しか駄目だということをもって、果たして専門 家と呼ぶのかどうかに疑問を持っています。  私自身は外科医ですが、例えば私の下に3年目のレジデントが来たときに、1年、2 年私の下で研修をすれば、3年目で胃癌の手術をきちんと90%の確率でできるようにな るわけです。胃癌の手術というのは専門的なものではなくてチームでやる、どうすれば いいということは学問的に決まっていますから、技術的な部分が入る余裕は非常に少な いのです。そういう手術はたくさんあります。  本当の技術的な部分で開発中のものは、専門の医師がやらなければいけませんが、そ うではなくて、その技術が解決され、アカデミックにも解決されたもの、こうすればこ ういう結果が出るとなったものはどうなのだろうと。しかし患者から見ると、「あの人 は専門家ですか」といったことを気にされて、現場ではこの問題をどう考えていったら いいのか常に悩んでいるので、問題提起ということでお話をさせていただきました。 ○矢崎座長  「良質な医師の養成・確保」と「幅広い診療能力を持つ医師の養成について」の課題 で今議論が進んでいます。一方では専門医のあり方をヒアリングさせていただいたので すが、いま山本委員が言われたような視点から専門領域というものを考えたり、本当に いい医師を育てるという重要なポイントについて、何かご意見はございますか。 ○土屋委員  若いうちから専門家指向というか、医学教育の段階から偏っていたのかなという1つ の反省があるのですが、専門領域というのは一般的(ジェネラル)な最低限の基本の上 に成り立たないと、本来の専門性も発揮できないのではないかと考えています。いまの 若いドクターで完全に専門領域の人というのは、それしかできないのです。これは問題 でしょうし、本人たちも本当にそれだけでいければいいのですが、そうではない状況に おかれたときには本当に気の毒だと思います。  専門医制度というのがあって、医師会等にも絶えずご相談をいただいていますが、専 門というのは専らそのことだけをやるのかという話です。ところがそうではないので す。あれは学会認定の専門医で、ほとんどが何らかの専門医になっています。そうする と、世の中のドクターはすべて何らかの専門医です。患者も国民も専門医指向という変 な雰囲気になってしまっているのです。「本当にあなたは専門なのですか」といった ら、それほどの専門ではないのが専門医と称しているのが実態です。我々がいちばんそ れをわかっています。  外科なら外科で一通りの要件を満たせば、専門医になれるわけです。その程度の話 で、あまり国民を惑わしてはいけないのではないかと思います。これは、国民に向かっ て「専門医です」と言えるほどのものではありません。それぞれの学会が、9つの外形 基準を満たした者を「それならばそうしましょう」というものです。それが間違って、 ときどき広告に「厚生労働省認定専門医」とありますが、あれは違反表示で、「何々学 会認定の何々専門医」なのです。学会が認定しているだけであって、果たして本当に臨 床の現場における専門医なのか、国民が抱いているイメージどおりの専門医であるかど うかは、極めて怪しい部分があることを理解してもらわなければいけないのではないで しょうか。 ○水田委員  しかし、多くの患者さんはどこでも、いつでも「専門医に診て欲しい」とおっしゃる のです。患者さんにもきちんと現状を理解して頂けるような情報をだすことが必要だと 思います。  次に女性医師の実態調査と言うことですが、九州大学では女性医師が初めて卒業して 50年目に女性医師の実態を調査したことがございます。70歳代の方が何名かリタイアさ れていますが、一時期出産等で休まれた方もほとんどの方が現役でお仕事をなさってい ます。また、私の教室のことですが、15年間で小児外科に入局された女性医師17名を同 期入局の男性医師と比べてみますと、入局すぐに結婚し育休などを取られた方は別とし て、そうでない方は学位取得や認定医取得、昇進に差は認めませんでした。指導者の意 識もあると思います。しかし、色々きいてみますとパートナーの認識がきちんとあるこ と、自分をサポートしてくれる人(おじいちゃんおばあちゃんをはじめとして家事や子 供の世話をやってくれる人)がいて欲しいというのは皆さんの希望でした。 ○長谷川委員  良質な医師の確保と、幅広い診療能力の養成についていくつかコメントしたいと思い ます。  生涯教育、免許の更新制等、常識的に考えられる質の担保はあり得ると思います。そ れと同時に、研修や資格更新以外に、システム的に質を担保すると。例えば外科医の場 合に、手術件数が非常に少ないといったことがあるので、施設基準をきちんと決めて、 そこで手術の技術を高めると。あるいは専門医が活躍するには一般医との連携が重要で すので、診療所と病院の連携などのシステムを整備していくといったことも、良質な医 師の確保につながるのではないかと思います。  特に後者については、質だけではなく、効率も高めるのではないかと思います。医師 が足りない場合の当面の解決法は3つしかなくて、外国から医師を輸入するか、医師の やっている仕事を他の職種にお願いするか、医師自身の生産性を高めることです。先ほ ど申し上げたように、専門医と一般医の連携というのは、3つ目の医師の生産性を高め るのにつながるのではないかと思われます。 ○矢崎座長  女性のキャリアの方が、どのように社会に能力を還元するかは、JR東日本でもいろ いろ考えておられると思いますが、江上委員はどういう趣旨で発言されたかはわかりま せんが、そういうことも含めてコメントしていただけますか。 ○江上委員  先ほど水田委員がおっしゃった九大でのことですが、黎明期には職業感、使命感の強 い、長期間にわたって職業生活を維持しようという女性たちが出ていると思うのです が、量的な広がりがだんだん出てくると、いろいろな意識、考え方の女性が増えてき て、そうすると必ずしもフルタイムでずっと医師を続けるのではなくて、勤務医をやめ て開業医にして、1週間に3日ぐらいしか開業しないとか、いろいろなパターンが出て くるかと思います。  そういう意味では、女性医師の拡大に伴って、産業界だとキャリアトラックとかマミ ートラックとか、いろいろ言うわけですが、出産・育児期については多様なコースが出 てきているのではないかと思います。それをある程度量的に調査をして、今後のシミュ レーションをすることも必要なのではないかと思います。  言いたかったことは少し別のことで、良質な医師の養成・確保についてということ で、これは私は正確には把握はしていないのですが、ペーパーの中にも「最近の医師の 気質が変わってきた」という記述があったり、発言もありました。あるいは中小病院の 継承の問題、医師の子息・子女がまた医師になるという、職業的な継承の問題など、い ろいろ変化が見られるということで、これは一般的な印象でしかないのですが、医師と いう職業の魅力度、社会的な使命感から見た医師という役割が、近年変わってきている のではないかという気がするわけです。  そういう意味では、小学校・中学校の段階で、医師という職業に対する啓蒙・教育と いう活動も、これからは非常に重要なのではないかと思います。質の高い使命感を持っ た医師を養成していく、児童期でのそういった啓蒙活動も重要なのではないかというこ とが1つです。  もう1つ、先ほど一般医と専門医の話があったのですが、予防医学に関する国民の知 識は、これだけインターネットが活用されて、いまインターネット上で検索できる情報 の分野として、健康情報が非常に多いわけです。そういう意味では、IT社会における 健康情報の普及、また国民がこれだけ急速に高学歴化していっていますし、今後予防医 学に関する国民的な知識の普及・蓄積ということで、非常に伸びていくと思います。そ れに加えて学校教育段階でも、予防医学的な授業の強化ということも含めて展開してい くことも必要なのではないかと思います。そういう意味で、一般医の仕事の役割をなる べく軽減していくことも考えられるのではないかと思いました。 ○本田委員  私の仕事はマスコミ記者ですが、確かに最近、患者の中でも専門医指向をすごく感じ るし、専門の先生に診てほしいという声がすごく多いので、新聞社にも「この専門医は どこにいるのかリストをください」といった投書がたくさん来るのです。しかしそれは 裏返しであって、実際にだんだんわかってきていると思うのは、いまの専門医というの は、例えば乳癌の専門医なら乳癌について少し知っている人で、本来の意味での専門医 ではない。本当の専門医は、違う名前を付けてこれから養成しなくてはいけないのでは ないかと私は思っているのです。  その一方で、医療というものがどんどん広がっているのと、高度になっていることは 患者でも感じるので、何でもできる先生も私たちにはもう一つわからないのです。何で もできる、全体のプライマリーができるというのも専門性ではないのかとも思ってしま うのです。そういうことも国民や患者を抜きに話さないで、先ほど水田先生がおっしゃ ったように、医療側からも、こういう状況なのだというものを出していただいて、両方 で考えていくようにしないと、単に過剰な期待が空回りしている現状はすごく感じま す。 ○吉新委員  一般的な商売に例えると、大病院が専門店がたくさん入っているデパートとすると、 一般の部分はコンビニだと思うのです。救急も含めて、多くのコモンディジーズ、日常 よく見られる病気には対応して、予防的なこともある程度やったりするということだと 思います。しかし、実際にいま増えている開業医というのは、専門医で病院に残らなか った人が、病院の専門店をやっているのです。ですから、ウナギやカレーの専門店がた くさんできていて、板前1人でやっている状況です。それで患者はどこへ行ったらいい かわからないのです。本当はコンビニに行けば多くの基本的な問題は解決して、そこで 足りないものは専門医に紹介してくれると。そういう入口と出口、医療のきちんとした マッピングができていなくて、相当混乱しています。  私も外来をやっていると、当然高血圧の患者だと思っていたら、「あなたに高血圧を 診てもらっていますが、私は3つの場所で診てもらっているのです」と。「気に入った ときにその薬を飲むのです」という患者がいて、その人はまた特殊な人なのでしょう が、ドクターショッピングのようなものであったり、縁でそこの病院に行かなければい けないということがあったり、日本の医療構造が多様化しすぎてしまっていて、利用者 の患者に入口がわからなくなっているのです。ツアーガイドのような、「あなたの病気 は、こうすれば間違いなくいい治療が受けられて、結果もいいですよ」という人がいな いと、スペシャロイドやジェネラロイドがたくさんいすぎて、きちんとした筋道がわか りにくくなっているのではないかと思うのです。  先ほど長谷川委員が専門医と一般医の話をされていましたが、日本に一般医はいない と思うのです。来週、京都で世界一般医家庭医学会がありますが、ヨーロッパや欧米諸 国には、専門医にかかるため、あるいは日常の病気を解決するための家庭医なり一般医 という方がいて、その方たちが患者の大きな窓口になるのですが、日本にはそれがいな いのです。先進国でも、いないのは日本ぐらいではないかと思うのです。そして一般医 の実力が落ちてしまって、町医者の体制が崩れたというか、いままでそういう人たちが 頑張って日本の医療を支えていたのが、どんどん専門医に置き換わって、専門以外のこ とは診ないから非常に生産性が低くなっています。そういう意味で、かなり危機的な部 分があるのではないかと思います。  そういう意味で、イギリスがNHSでやっていた人頭払いのような制度もいいのかも しれませんし、医療の窓口はこの先生にお願いしますという制度をつくると、そのGP がグループで診療することで、かなりの救急・時間外などにも対応できるようにする、 病院以外では1人ずつがそのプラクティスをやるしかないという現状を少し直して、非 常に便利なコンビニをつくっていけるのではないかと思うのです。そうすれば国民は、 どこにかかればいいか、どうすればいいかということがわかって、非常に効率がいいの ではないかと思うのです。 ○古橋委員  いま厚労省で、別に医療計画の検討をしているところがあります。そこでは「かかり つけ医」ということが1つのテーマになっていて、いろいろな議論がなされています。 先ほど来から出ているように、医師の中の専門医指向は、この情報の速く流れる時代で は、国民の中の専門医指向にかなり伝染しています。その中で、かかりつけ医はどうな るのかという問題にも連なるように思うのです。  国民の中の専門医指向が、「より詳しくそのことについてわかっている人」という程 度の理解ですと、専門医を指向なさる気持はごく自然だと思うのですが、多くの医師と 一緒に仕事をさせていただいている中には、専門医制度がある方向でいくと、木を見て 森を見ずというか、診断と治療に邁進なさってその人を見ず、というドクターとご一緒 することも少なからずあります。ここの委員会でも出ましたが、新卒医師の研修が終わ った後は、大学の医学部としては専門医教育に入っていく必要があるのだというご発言 もあったのですが、私は大学の医学部の教育の中に、総合医の重要性をしっかり構築し て、専門医指向が極端に進んだときの弊害辺りも考えながら、総合医教育の構成をもう 一度考え直す必要があるのではないかと思えてなりません。  それについては、自治医科大学の吉新委員もおられるわけですが、当初進めた総合医 としての教育というのは、うまくいかなかったのかどうかも併せて、少しお伺いしたい と思うのです。いま本田委員もおっしゃったように、トータルに見ることも含めて、非 常に高度で、重要な医師の機能ではないかという気がしているのです。1つ私の意見 は、医学部の中の教育、大学病院の中での卒後の人の育成についての専門医指向を、も う一度振り出しに戻せないのかどうか、医学会なり国民がそれを要求するということは あったとしても、そういう発想にもう一回戻る必要があるのではないかと思っていま す。自治医科大学が当初そこを目指して教育をスタートなさったのが、現在結果として どうなっているのかも併せて知りたいような気がしています。 ○吉新委員  へき地医師養成大学としての自治医科大学は、基本的には失敗したのだと思います。 世間並みに専門医指向と、ホスピタリストになったほうが実入りもいいですし、ステー タスが高いとか、へき地にいたのではプレステージが低いといったことがあって、いま の質問に答えるとすると、スペシャリスト指向になったりジェネラリスト指向になった り、振り子のように動いているのです。ただ、現場を見るとジェネラリストが必要だと いうことはよくわかります。ところが、ジェネラリストがあまりにもいないために、結 局「便利屋」として、ものすごい負担になってしまうことがあります。それから、ある 程度の都市部に移りたいということになると、ホスピタリストにならないと戻れないと いうことがあって、毎回揺れ動いています。  ただ、3割ぐらいの根強いジェネラリスト指向がいて、その方たちは地域に留まって 頑張っているのです。そういう意味で、まだきちんとした制度的なものは確立していま せんが、一部は非常に良かったと言いますか、少しづつ作っているというのが本当のと ころだと思います。  自治医大でなぜ総合医教育ができなかったかというのは、ジェネラリストは場が定義 するのだと思うのです。大学の中で総合医といっても、総合医が内視鏡をやれば、消化 器内科から怒られるのが現実です。なかなか難しいというのがあります。例えばオレゴ ン健康科学大学などですと、ポートランド市内に、いくつか総合医の人たちの教育をす るクリニックを持っていたり、オーストラリアのニューサウスウェールズ州立大学でも 全体にたくさんアフィリエート教育用の場所を持っています。もともとファミリー・メ ディスンやジェネラル・プラクティショナーを養成することが国・地域なりで当たり前 なのです。  そういう意味では、日本の場合でジェネラリスト指向だというと、ある教授は「お前 は何でそんな馬鹿なことをやっているのだ」「もっと一生懸命勉強して専門医を取らな いと、お前は飯を食えなくなるぞ」ということがありまして、まだまだ国として方向性 を出してもらうことなどがないと、きちんとしたジェネラル・プラクティスというか、 先ほどのお話のコンビニに相当する医療を担うジェネラリストは日本に出てこないので はないかと思います。そういう意味で、これはすぐにうまくいく方法かはわかりません が、国として認めていただけるような家庭医、総合医、一般医、そういったジェネラリ ストを認定するような制度が、日本にもできたらいいと思っています。 ○矢崎座長  国の方策というのはいろいろなレベルで考えられると思いますが、医学教育あるいは 医師養成の段階、そういう意味で法に定められた医師臨床研修制度ができたわけです。 しかし、その後どう教育するかというのは、私個人的には、いま委員の皆さんが言われ た課題を解決する基本的な方策ではないかと思います。ですから、新医師臨床研修制度 を修了した方を、どのように教育していくか、研修していくかというのが、大きな課題 で、従来どおりそのまま診療科に入っていくのか、もう少し研修プログラムをしっかり 定めて、いまの委員の方々の課題が解決するようなシステム、これは法で定めるところ ではないので、職業の自由といったところもあるので、何かうまい仕組みを考えていく ことが1つの解決方法ではないかと思っています。これは大学、病院、医師会も含め て、真剣に議論を深めていかないと、基本的な筋道がうまく立たない可能性がありま す。  だいぶ時間が過ぎてきました。あと残っているのは「医師と他職種との役割分担につ いて」です。ご発言があったのですが、これについてはいかがでしょうか。先ほどお話 のあった主治医制度とのかね合い、専門医の依存でいろいろな問題が起こるということ で、チーム医療を中心に据えましょうという話がありましたが、どうでしょうか。 ○古橋委員  栄養、リハビリテーション、高齢者、認知症のケア、安全を視野に置いた医薬品の問 題、キュアとケアなど、いろいろな領域で、もちろん医師をチームリーダーとはしなが らも、他職種が専門性を発揮しながらかかわれるということは、本当に格段に進歩した という気がします。その中で、例えば看護職において日常的に悩ましいのは、医師の絶 対的な支配の中で事が進んだほうがいいとお考えの先生も、少なからずおありと見受け られることです。是非とも、医師の中のパターナリズムということからドクターたちも 解放され、周辺職種の専門性をしっかりと捉えて、医師の立場からそこを活用するとい う視点に立ったチーム医療を、自分たちの中でこなしていただけると大変ありがたいと 思います。  医師の診断・治療というのは、法律に定められた医師ならではのことはありますが、 他の職種も大変に学習も進み、その領域で研究にも取り組んでいるので、是非とも医師 の領域で、他職種の専門性をしっかりと受け止め、ご理解いただいて、チームを組んで いくという視点を広げていただきたいと思います。そうしていただかないと、国民も損 をする気がするので、そこを是非お願いしたいと思っています。チーム医療に関しては いろいろな点で良い結果を出している動きも出てきていると感じています。 ○本田委員  私も他職種と医師との役割分担、責任分担はとても重要になってくると思います。ア メリカのある病院の小児病棟、救急病棟を見せていただいたとき、システムが違うので そのままではないのですが、ナースの中にも処方のできるナース、ある程度の診察ので きるナースがいました。薬剤師も一緒になって、入院病棟の中では、ナースと薬剤師で そのとき症状の変わった人の対応を全部やっていたのです。「医師はどうなのですか」 と言ったら、「医師は救急で忙しくて、忙しい医師に全部やらせるのは違う。毎朝診察 とか、この状況にはどういう対応をすればいいのかという打合せをしているから、あと は自分たちがやるのだ」という話を聞いて、とても役割分担が進んでいるのと、「これ がチーム医療なのです」と言われたことを思い出します。  いま患者として自分もかかわっている中で、何もかもドクターがやっているのを、自 分で自分の首を締めているのではないかと思うぐらい、「大変ですね」と言うしかない ような状況があります。根本的な診察・診断は医師の仕事でしょうけれども、分担でき るものを見直していって、そこで規制があるのであればそこを見直していくという方向 を考えていかないと、いろいろなところをすべて背負い込まないで、重要なところをき ちんとやってほしいと思います。 ○泉委員  いまは法的な規制も含めて変えたらどうかというご意見もあったと思うのですが、そ こまでいかなくても、例えば私どもの茨城県は、全国に比べて医師が7割くらいの非常 に少ない県ですが、そこでも人口に見合った患者が発生するわけで、小児救急の現場な どでは非常に負担がかかっています。厚労省の進めている救急の子どもの電話相談とは 別に、小児救急を受ける病院に来る前に1回電話をしてくださいと、そこでナースが受 けると。そういう仕組みでワンクッションをつくって、それなりの対応のできるナース を置きます。ただ、そこでは判断はせずにアドバイスをします。「心配でしたら来てく ださい」と一言付け加えることを忘れないようにします。こういうことをするだけで、 現場の負担が随分減っていく事例を経験しています。それなりの教育はもちろん必要で すが、現在の制度の中でもできることはあるかと思っています。 ○山本委員  医師とその他の職種との役割分担は、私は問題としては非常に大事な問題だと思いま す。この日本でいちばんうまくいった例の1つは、救急のシステムだと思います。救急 救命士というものを認めていただいて、救急医との連携の中で活動し、非常に日本の救 急システムがよくなって、成績が上がってきたということがあります。  なぜそれがうまくいったのか。実はアメリカはうまくいっていないのです。これが進 みすぎてしまって、救急救命士がドクターと関係なく独自に走り始めてしまったのがア メリカなのです。その結果、患者に大変なマイナス面が発生しています。日本でこれが うまくいった1つの理由は、そこでメディカル・コントロールをしっかりと検討して、 患者のためにどうしたらいいかということを救急医と救急救命士が一緒になってやった から、初めてうまくいったシステムだったと思います。そういう意味では、この他職種 との役割分担は非常に重要なのですが、常に基本は、患者のためのメディカル・コント ロールをどうするかを絶対に外してはいけないと考えます。 ○土屋委員  他職種の専門性を持ったものとコラボレーションで1つの仕事をやっていくというこ とは、いまはもう当たり前のことで、そうでなければ本当に質のいい医療はできないぐ らいの状況になっています。これと、医師の数が少ないから、医師の負担を減らすため に誰かにそれを請負わせて、分担したらどうだという話とは少し違うのではないかと思 います。本来はドクターだけだったものが、専門性のある人たちが協力したらこのよう にいい医療にできるのだということであって、間違った請負・分担の考え方がどんどん 進んでいくと、実力があるのだから資格がなくてもやらせたらどうだという話になりか ねないのです。ですから、少なくとも医師の負担が大きいから、医師が少ないから、そ の肩代わりをさせるように考えたらどうかという意見と区別して考えなければいけない と思います。 ○矢崎座長  時間が迫ってきましたが、「その他」の事項で、いくつかダブッた項目があると思い ますが、いかがでしょうか。中には「医療法の人員配置基準が医療の実態に合っていな い部分もあるのではないか」というご意見もありました。あと「卒後3年目以降の研修 のあり方が医師需給を考える上で重要ではないか」と、これは極めて基本的な課題だと 思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。  これには「骨子案」と書いてありますが、骨子案の骨子です。今日ご熱心にご議論い ただいた内容を踏まえ、先ほどご指摘いただいたような、もう少しブレイクダウンした 骨子案というものを作って、次回までにそういうものを出したいと思います。そして次 回また委員の皆様にご議論いただいて、議論を深めていって、できるだけいい中間報告 を出していきたいと思っています。時間が少し余っていますので、医政局長からご感想 でもいただければと思います。 ○医政局長  熱心なご議論、ありがたいと思っております。私どもでは、いま医療全体を今後どう していこうかということで、社会保障審議会の医療部会を進めています。単に施設、医 療計画等々の問題だけではなくて、人の配置あるいはどういうマンパワーが必要かとい うことにも反映させたいと思っています。ここでの検討結果は、需給のみならず、そう いう場、ひょっとしたら医療法・医師法なりに関連することも出てくるかと思っていま す。  議論の初めに説明があったかと思いますが、医師の不足感や、法律上の配置標準に比 べて足りている足りていないというのは、大学での名義貸しの話があったからです。そ のような状態で、本当に劣悪な医療が行われていたのか。そうでないとすると、一体そ ういう標準とは何なのだろうかと最初は思っていました。  昨今の医師が疲弊して、特に小児科、産科、救急など、どんどん病院からやめていく ということを聞くと、確かに過重労働なのだろうとも思っています。そういう本当に大 変な話と、見かけ上の足りない話と、さまざまなものが錯綜して議論をしてきたのでは ないかと思うので、骨子案あるいは今後の中間報告に向けて、そういうところが先生方 の議論の中で明らかになり、ある程度きちんとしたものになってくれば、我々も必要な 部分は法改正をいたしますし、より良い医療提供体制に結び付けられるのかなと思って います。そういう意味で、今日の宿題はきちんとした骨子案を作れということですの で、事務局一丸となって次回までには提出したいと思っています。本日はありがとうご ざいました。 ○矢崎座長  どうもありがとうございました。医師の需給関係というのは、これだけで議論できな いので、広い立場から、事務局で情報を集めて、いい骨子案を作っていただいて、また それを我々で議論をして、ブラッシュアップしていきたいと思っています。  本日はお忙しいところをご出席いただき、また熱心なご討議をありがとうございまし た。それでは今後の予定について、事務局からよろしくお願いいたします。 ○医事課長  次回は6月13日(月)15時、共用第8会議室において開催する予定です。議事につい ては、いま座長からもあったように、私どものほうで医師の需給に関する検討会の中間 報告書の骨子案といいますか、文章化したものを提出させていただきたいと思いますの で、それに基づいてご討議をお願いしたいと思います。 ○矢崎座長  それでは、どうもありがとうございました。本日の検討会はこれで終了させていただ きます。                                     −了−                         ┌─────────────┐                         │照会先          │                         │厚生労働省医政局医事課  │                         │課長補佐 宮本(内線2563)│                         │指導係長 双川(内線2568)│                         │代表 03-5253-1111    │                         └─────────────┘