05/05/19 第21回今後の労働契約法制の在り方に関する研究会議事録         第21回今後の労働契約法制の在り方に関する研究会                     日時 平成17年5月19日(木)                        17:00〜19:00                     場所 厚生労働省18階専用第22会議室 ○菅野座長  時間になりましたので、ただいまから第21回「今後の労働契約法制の在り方に関する 研究会」を開催いたします。本日は、お忙しい中をお集まりいただきましてありがとう ございます。本日は内田先生、春日先生、村中先生から御欠席という連絡をいただいて おります。また、法務省の筒井参事官が御欠席のため、民事局付の和田さんが代理で出 席されています。  4月6日に開催いたしました前回の研究会での議論を踏まえて、4月13日に中間取り まとめを公表いたしました。それに対して審議会で議論がなされたり、関係団体からの 見解も発表されております。本日は、そういった様々な御意見も考慮に入れながら、秋 の最終報告の取りまとめを目指して、第2ラウンドの議論を行いたいと思います。ま ず、本日の資料の構成等について、事務局から説明をお願いします。 ○労働基準局監督課調査官(秋山)  お手元の資料の構成について最初に説明させていただきます。本日の資料のうち、資 料1から3までが今後の検討の進め方全体に関するもの、資料4から6が、今後の検討 の進め方について本日研究会で御了承いただけましたならば御議論いただきたいと考え ております「労働関係の成立」に関するものです。また、資料7は今後のスケジュール に関するものです。なお、資料7で一箇所誤植があります。資料7の今後のスケジュー ルの第21回、5月19日、本日の研究会は17から19時ですので、訂正いたします。  今後の検討の進め方全体に係る資料のうち、資料1及び資料2については後ほど監督 課長から説明いたします。資料3は、平成16年度に厚生労働省から独立行政法人労働政 策研究・研修機構に研究を要請しておりました、「諸外国の労働契約法制に関する調査 研究」の結果の概要です。この調査研究結果については、今後適宜活用してまいりたい と考えております。また、同じく同機構に研究を要請しておりました国内の「労働契約 をめぐる実態に関する調査研究」も、先般結果が取りまとまったところです。このう ち、本日御議論いただきたいと考えております「労働関係の成立」に関する部分を抜粋 して、資料6として本日提出しております。資料の説明は以上です。 ○菅野座長  今後の検討の進め方について事務局から提案があるということですので、御説明をい ただきます。 ○労働基準局監督課長(苧谷)  資料1について説明いたします。5月10日に開催された労働政策審議会労働条件分科 会において、先般取りまとめられた中間取りまとめについて事務局から報告いたしまし た。その結果、審議会の委員からいろいろ御意見をいただきましたので、別紙に概要を 書いております。  1、中間取りまとめの全般について、労働契約法制の必要性の認識は一致している。 しかし、中間取りまとめでは、雇用継続型契約変更制度のように二つの案が並列されて いる項目もあるが、方向性が断定的に示されているところが多い。研究会の報告は、あ くまで審議会での議論の参考にするというのであれば、最終報告では案を並列的に示 し、また、こういう論点にはこういう案がある、この案を採ればこういうメリットがあ る、こういう方向に行くのであればこういう問題がある、といった書きぶりにして欲し い。審議会でいろいろな視点からの検討ができるように、研究会で議論を尽くして欲し い。これは労働者側委員からの意見です。また、労働契約法制はどの項目も重要であ り、労使に与える影響が大きいので、研究会の場でもいろいろなケースを考えて立脚し た議論を尽くして、拙速を避けて欲しい。これは使用者側委員からの意見です。  2の取りまとめの中身ですが、労働契約法関係について、使用者側委員から、労働契 約法制についての具体的な要望として、第一に、規制緩和の視点から労使自治を尊重 し、現実にあったルールの設定をお願いしたい。第二に、労働契約法制であるので、労 使対等の考え方に立って労使双方の義務のバランスをとって欲しい。第三に、事前規制 から事後的監視へという流れもあり、またあらかじめ予測できない事態が起こることも あるので、判例の法制化による規制などの設定は必要最小限にとどめて欲しい。第四 に、労使ともに使い勝手の良いシンプルでわかりやすい法律をお願いしたいとの意見 や、労働契約法制は企業の人事労務担当者にとっても、労働組合にとっても影響が大き い。労働契約法制全体の必要性と個別の項目の妥当性をよく議論する必要がある。個別 の項目でいえば、各個別企業の労使で話し合って実施してきた昇進・昇格等の人事制度 等は法制化になじむのかという感じがするとの意見がありました。  一方、労働基準法における指針は意味があるとしても、民事法である労働契約法制に おいて解雇についての指針がどういう意味を持ちうるのか。ルール化できるものについ ては、指針に委ねるのではなくできるだけ実定法化して欲しい。それが、透明・公正な ルールの設定という要請に応えることになる。との意見が労働者側委員からありまし た。  労使委員会関係では、かなり議論が出ました。労使委員会が労働組合の権能を代替す るような記述がなされているが、労使委員会で労使の対等性が確保できるのか。労使委 員会は労使当事者が「実質的に対等な立場で」自主的な決定を行うことに資するという 表現は不適切ではないか。労使委員会の設置により労使の対話を促進するのはよいが労 使委員会に強大な権限を与えることは適当ではないのではないか。これは労働者側委員 からの意見です。  また、労働者側委員からは、労使委員会と労働組合の関係が不明確であり、現在ある 労働組合の位置付けがどうなるかを明確にしなければいけない、労使委員会の委員の5 分の4以上の多数による決議で就業規則の変更の合理性を推定するとしているが、これ では労使の対等性が確保できず、全会一致を原則とすべき、労使委員会が労働契約法制 の一つのポイントとなる。労働組合の役員の選出に使用者が介入したら不当労働行為と なるように、労使委員会についても不当労働行為的なものへの規制が必要ではないかと いった意見がありました。  また、労使委員会をどう構成するかは労働契約法制の成否に関わる重要な問題であ る。労使委員会の手続をきちんと確保した上で内容は労使委員会に任せるという考え方 に立てば、例えば労働委員会において労使委員会委員の選挙管理を行うことが考えられ るのではないか。との意見が公益委員からありました。  さらに、労使委員会により労働組合の意義が低下することは懸念材料ではあるが、一 方、労使委員会の活用により未組織労働者の使用者との対等性をどこまで担保していけ るかも重要な課題であるとの意見が労働者側委員からありました。  労働時間法制関係については、労働時間法制についての記述がなぜ労働契約法制に係 る研究会報告に出てくるのかわからない。労働時間法制は労働基準法で対応するはずの ものであり、ここで方向を出すのは反対であるとの意見が労働者側委員からありまし た。  その他については、労働契約法制については内容も広範にわたり、戦後労働法の大改 定に関わる重要な問題であるので、別途労働者側の意見を聴く場を設けてもらえないか との意見が労働者側委員からありました。  今後の進め方として、審議会委員のほうからいま説明したような意見が出ましたが、 意見については、労働契約法制の在り方全体に関わるものから、個別的なものまで広範 囲にわたるものであったが、いずれも労働関係の実状を踏まえた貴重なものであること から、今後の議論に当たっては、これらの意見も参考として、次のとおり検討すること としてはどうか。  (1)今後、最終報告に向けて、それぞれの項目について、検討の方向性が既に示され た案についての検討を深めるに際しては、その案の必要性や留意点についてもできる限 り併せて検討する。  (2)中間取りまとめにおいて検討の方向性が示されていない項目や、今後新たに検討 する項目については、最終報告においてできる限り複数の案を取り上げ、それぞれの案 のメリット、デメリットを示した上での検討結果を示すことを念頭において検討する。  (3)は後でお諮りしたいと思いますが、審議会の意見のほかにも広く国民から意見を 募集することを考えております。各項目についての検討が一巡した段階で、それらの意 見を参考にしつつ、労働契約法制の全体像あるいは理念などの基本的な問題を掘り下げ て検討すること、以上です。 ○菅野座長  ただいま説明のありました審議会での意見について、まず御質問がありましたらそれ をお聞きして、その後今後の進め方についてまたお諮りします。西村先生、何かコメン トはありますか。 ○西村先生  こういう意見が出たということです。 ○菅野座長  事務局から、審議会での意見を踏まえて、最終報告に向けて、検討の方向性が既に示 された案についての検討を深めるに際しては、その案の留意点や必要性についてもでき る限り併せて検討するということ。それから、中間取りまとめにおいて検討の方向性が 示されていない項目や、今後新たに検討する項目については、最終報告においてできる 限り複数の案を取り上げ、それぞれの案のメリットとデメリットを示した上での検討結 果を示すことを念頭において検討していくということ。それから、各項目についての検 討が一巡した段階で、審議会の意見や国民から寄せられた意見を参考にしながら、労働 契約法制の全体像や理念といった基本的な問題を検討すること、これらのことが提案さ れております。今後このようなことで検討を進めていくということで、よろしいでしょ うか。  では、そのようにさせていただきます。資料1にありました中間取りまとめについ て、広く国民からの意見を募集する方法につき事務局から提案があるということですの で、説明をお願いいたします。 ○労働基準局監督課長  広く国民から意見を聴く方法といたしましては、いわゆるパブリック・コメントとい うのがございますが、これは閣議決定において定められたものです。パブリック・コメ ントの手続の対象とされているのは、基本的には政省令や告示等国民の権利義務に影響 があるものという形になっておりますが、本研究会の中間取りまとめは、これに該当し ないことになっております。  ただ、今後労働契約法制について検討を深める上で、国民一般や関係団体から多様な 意見を募り、これを参考とすることは望ましいことと考えられますので、厚生労働省の 開催する他の研究会において、パブリック・コメントに準ずる形で意見募集を行った例 もございます。そのため、中間取りまとめに関して、国民等から意見募集を実施するこ ととしてはいかがかという提案をさせていただきたいのです。もし本日の研究会で御了 解いただければ、速やかに意見の募集を開始し、例えば明日以降一か月間実施する。そ して、寄せられた意見は、事務局で整理ができ次第この研究会に報告するという段取り でやらせていただければと思っております。 ○菅野座長  ただいま説明のあった意見募集については事務局の説明のとおり実施して、寄せられ た意見を整理した上で本研究会に報告していただくことにしたいと思いますが、よろし いでしょうか。  それでは事務局において意見募集を実施していただくようにお願いいたします。次 に、中間取りまとめ以降の検討の進め方に関して、資料2として論点(案)が示されて いますので、事務局から説明をお願いいたします。 ○労働基準局監督課長  資料2に沿って説明したいと思います。これは中間取りまとめと、先ほど紹介した労 働条件分科会での意見等を踏まえて、今後更に研究会において議論を深めていただきた い事項を載せたものです。4月6日に開催された前回の研究会において、第2ラウンド で新たに議論していくとの御意見が出された項目も追加されております。中間取りまと めの段階で、研究会として方向性についてほぼ意見がまとまっている事項などについて は、ここでは載せておりません。例えば、労働条件の明示、就業規則の効力発生要件、 転籍、休職、秘密保持義務、安全配慮義務などは、そういうことで載っておりません。  今後、資料2の論点に沿って議論を進めていただきたいと考えておりますが、それぞ れの項目について各回の研究会が御議論いただく際には、議論の素材として、本日資料 5として提出しているような追加資料を用意する予定です。資料5の中で、例えば今回 は労働関係の成立ですが、「中間取りまとめで示された方向性に関する留意点等につい て」は、こういう形で用意して進めたいと思っております。  (案)の第1は「総論」です。1は「労働契約法制の対象とする者の範囲」です。労 働基準法の労働者以外の者を労働契約法の対象とする必要性について、どのように考え るか。その際、どのような者について、どのような条項を適用する必要があるか。  これは中間報告でも出てきますが、例えば、個人で業務を請け負い又は受託する者で あって発注者に経済的に従属している者について、どのように考えるかという論点で す。  2は「労使委員会」です。これは審議会で出た意見等も踏まえて書いてありますが、 労働者と使用者が実質的に対等な立場で労働条件を決定するために労働組合制度がある ことを踏まえつつ、労働組合が存在しない場合でも労働者の交渉力をより高め、また、 多様な労働者の意見を反映するための恒常的な労使委員会の意義や必要性について、ど のように考えるか。また、労働組合と労使委員会との関係について、どのように考える か。これを踏まえ、労使委員会の委員の選任等の手続や、労働者委員の独立性を確保す るための方策、労働者委員が当該事業場の労働者の意見を適正に集約するための方策に ついて、どのように考えるか。  3は「総則規定の必要性」です。労働契約法制を定める場合、総則的な規定としてど のようなのが必要か、労働契約における人種、国籍、性、信条、社会的身分等による差 別禁止規定の必要性について、どのように考えるかということです。  次に、第2「労働関係の成立」についてです。  1は「採用内定」。採用内定時及び就労開始時の労働条件明示の在り方について、ど のように考えるか。ここで、いつ採用内定がなされたか、労働契約が成立したかを判断 するに当たっての考慮要素について、どのように考えるか。  2は「試用期間」です。試用期間は、どのような目的のために設けられ、また、試用 期間中の労働者は労働条件その他についてどのような地位に置かれているか。また、現 実に、目的に見合った期間が設定されているか。これを踏まえ、試用期間の上限の在り 方について、どのように考えるか。  第3は「労働関係の展開」です。1が「就業規則」です。(1)就業規則と労働契約 との関係。就業規則の内容に合理性があっても、これに労働者が拘束されないこととす べきであるのはどのような場合であり、それはなぜか。これを踏まえ、就業規則の内容 が合理的なものであれば労働契約の内容になるという判例法理を立法化するに当たっ て、推定規定を設けるとすれば、推定される事実は何か。また、反証が認められるのは どのような場合か。さらに、推定規定が働かない場合は、どのような場合かとあります が、これは、むしろ掘り下げていただく部分です。  (2)は就業規則を変更することによる労働条件の変更です。(1)就業規則の変更が 合理的なものであっても労働者が拘束されるべきでないのは、どのような場合であり、 それはなぜか。これを踏まえ、就業規則の変更法理を立法化するに当たって、案(1)を 取る場合に推定される事実とは何か。また、反証が認められるのはどのような場合か。 案(2)を取る場合に、使用者の変更権がないとすべきであるのはどのような場合か。  また、就業規則の変更の合理性の判断に関し予測可能性を向上させることの必要性に ついて、どのように考えるか。過半数組合の合意や労使委員会の委員の5分の4以上の 多数により変更を認める決議がある場合の合理性の推定について、合理性の推定が働か ない場合及び推定が覆される場合について、それぞれどのように考えるか。  2は「雇用継続型契約変更制度」です。労働者が雇用を維持したまま労働契約の変更 を争うことができるようにすることは、労働者にとって、また、使用者にとって、どの ような意味を持つか。これを踏まえ、案(1)(2)のそれぞれにおける労働契約の変更に必 要な具体的な手続について、どのように考えるか。また、労働契約の、変更が経営上の 合理的事情に基づき、かつ変更の内容が合理的である場合とは、どのような場合である か。  3は「配置転換」です。配置転換の目的と労働者に与える影響を踏まえ、配置転換に 当たって、使用者はどのような措置を講ずるべきか。  4は「出向」です。出向期間中の出向労働者と出向元・出向先との間の権利義務関係 についてどのような問題があるかを踏まえ、出向中の賃金に関する規定のほか、任意規 定を置くべき事項があるか。  5は「懲戒」です。(1)懲戒処分が労働者に与える影響を踏まえ、減給、停職、懲戒 解雇のような労働者に与える不利益が大きい懲戒処分について、労働者の非違行為や適 用する懲戒事由等を書面で労働者に通知することが必要とした場合に、使用者が当該通 知を行わなかったときには、どのような効力を及ぼすこととすべきか。  (2)懲戒解雇を理由とした退職金の減額、不支給は、労働者にどのような影響を与え、 これについてどのように考えるか。  6は「労働契約に伴う権利義務関係」です。(1)は兼業禁止義務です。(1)兼業禁 止規定はどのような目的のために設けられ、また、労働者にどのような影響を与える か。これを踏まえ、労働者の兼業の禁止はやむを得ない場合を除き無効とすることの必 要性や、その際、兼業の禁止がやむを得ない場合とはどのような場合であるかについ て、どのように考えるか。また、使用者の命令による複数事業場での労働の場合を除 き、労働時間を通算しないこととした場合に、複数就業労働者の健康確保に対する配慮 について、どのように考えるか。  (2)は競業避止義務です。労働者に退職後の競業避止義務を課すことによる労働者 の不利益と、これを課さなかった場合の使用者の不利益とは、それぞれどのようなもの か。これを踏まえ、労働者に退職後も競業避止義務を負わせる個別の合意等が有効とな る要件について、どのように考えるか。また、退職後の競業避止義務の内容が明確でな いことは、労働者にどのような影響を与えるか。これを踏まえ、退職後の競業避止義務 の対象となる業種、職種、期間、地域を退職時に書面により明示することが必要とした 場合に、使用者が当該明示を行わなかったときには、どのような効力を及ぼすこととす べきか。  7は「労働者の損害賠償責任」です。業務とは明確に区別された留学・研修費用に係 る金銭消費貸借契約は労働基準法第16条の禁止する損害賠償額の予定には当たらないこ ととする場合、「業務とは明確に区別された」とは、どのようなものをいうか。また、 金銭消費貸借契約で留学・研修後の勤続年数に応じて返還すべき額を逓減させることに ついて、どのように考えるか。  第4は「労働関係の終了」です。1は「解雇」です。どのような場合に解雇が権利の 濫用とされるかについての予測可能性の向上を図ることの必要性や、解雇に当たり使用 者が講ずべき措置を示すことの必要性及びその内容について、どのように考えるか。特 に、整理解雇について、これらをどのように考えるか。また、解雇に当たり使用者が講 ずべき措置を指針に示すこととした場合、その効果について、どのように考えるか。  2は「解雇の金銭解決制度」です。解雇の金銭解決制度に関して、中間取りまとめに 示した事項で更に検討を深める必要があるものがあるか。労働者から申し立てる金銭解 決において本人の辞職の申立てと引換えに解決金の給付を認める場合に、当該辞職の申 立てはどの時期まで認められるべきか。また、使用者から申し立てる金銭解決の場合 に、裁判においてのみ労働契約の解消を認めることについて、どのように考えるか等で す。また、解決金の性格について、どのように考えるか。  第5は「有期労働契約」です。1は「有期労働契約をめぐる法律上の問題点」です。 有期労働契約が良好な働き方として活用されるよう、「有期雇用とするべき理由の明示 の義務化」や「正社員との均等待遇」について、法律的な観点から整理しておくべき事 項があるか。  2「有期労働契約に関する手続」の(1)は契約期間の書面による明示です。使用者 が契約期間を書面で明示しなかったときに期間の定めのない契約とみなすこととした場 合の実務上の影響について、どのように考えるか。  (2)は有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準です。(1)雇止めの効力 の判断に当たっては解雇に関する法理を類推適用するとの判例法理により雇止めが制限 される場合の予測可能性が低いことは、労働者と使用者にどのような影響を与えるか。 これを踏まえ、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に定める手続を 労働契約法制の観点からも求めることの必要性について、どのように考えるか。  また、契約を更新することがあり得る旨が明示されていた場合には有期契約労働者が 正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないこととしたときに、使用者が 契約の更新を予定しているにもかかわらず更新をしない旨を明示し実際には更新を繰り 返すことへの対応について、どのように考えるか。更に、有期契約労働者を長期間継続 して雇用する場合であって、更新することがあり得る旨が明示されていなかったとして も正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないこととすべき場合には、ど のようなものがあるか。  3は「試行雇用契約」です。試行雇用契約において期間満了後に引き続き期間の定め のない契約を締結する可能性がある旨を明示した場合に有期契約労働者が正当な権利を 行使したことを理由とする本採用の拒否はできないこととする場合、その法的効果につ いて、どのように考えるか。以上です。  この研究会で具体的な御議論をいただく順番として一応考えておりますのは、第1の 総論については、各論で検討いただく事項の内容にも深く関わるものですので、本日は まず第2「労働関係の成立」から御議論いただき、各論が終わった段階で最後に総論に 戻って議論していただければと思っておりますが、いかがでしょうか。 ○菅野座長  ただいま事務局から説明のあった今後の論点について、中間取りまとめや、これまで の本研究会での議論、それから、先ほど御紹介いただいた中間取りまとめに対する労働 条件分科会での意見等に照らしまして、追加すべき項目や検討視点など、修正すべき項 目がありましたら、御意見をお願いいたします。 ○土田先生  先ほどおっしゃった中で休職や転籍のように、ほぼ方向性なり論点が出ているものに ついては載せていないということはよく分かりました。ただ、例えば6の(1)の兼業 禁止義務や2の雇用継続型契約変更制度のように、項目によって、かなり基本的なこと を論点として挙げていて、どのような意味を持つかという問いかけがあります。兼業禁 止義務についても、どのような目的のために設けられ、どのような影響を与えるかとい う、かなり基本的な論点が提起されています。その一方で3の配置転換、4の出向、5 の懲戒では、いわば労働契約法制におけるこれらの論点が持つ意味を踏まえて、補充的 な論点を挙げているという印象があるのです。そこの使い分けや意味合いの違いを説明 してもらえませんか。 ○労働基準局監督課長  雇用継続型契約変更制度について、中間報告後の各団体の意見等を見ますと、根本の ところは議論すべきものもございます。そこで少し深いところ、議論が巻き起こりそう なものについては根本のところからもう一度書き下ろしています。ほかに根本的にもう 一回議論しておいたほうがいいというものがあれば、それは入れるべきだと思います が、今のところ気がついた分はここでございます。  もちろん、もし意見募集をする場合には、そこで出てきた意見で議論が変わる可能性 もあるのです。 ○土田先生  個別の論点によっては、ここにはないけれども基本的に検討すべき、という点という のは出てくるわけですね。 ○労働基準局監督課長  はい。 ○菅野座長  議論に役立つような資料があれば、事務局から適宜提出していただきたいと思います が、資料2の論点に沿って本研究会での検討を進めていく。必要に応じて、論点の追加 や修正は柔軟に行う。また、総論は後回しにして、本日はまず第2の「労働関係の成立 」についての議論をさせていただく、こういうことでよろしいでしょうか。  では、そのようにさせていただきます。それでは第2「労働関係の成立」についての 議論をお願いしたいと思います。資料1で、今後の検討の進め方について議論をしてい ただきましたとおり、中間取りまとめで検討の方向性が示されているものについては、 その案の必要性や留意点についても、できる限り併せて検討することとしたところです が、そのような観点で本日の議論に役立つように、事務局にお願いして資料5を準備し てもらいました。資料5の中には、先ほど御了解をいただいた資料2の論点も含まれる 形になっておりますので、まず事務局のほうから資料5の説明をお願いいたします。 ○労働基準局監督課長  資料5の横表の左側の部分が「中間取りまとめで示された方向性等」の部分ですが、 中間取りまとめ以降の論点も後ろのほうに載っております。  まず「採用内定」関係から説明したいと思います。採用内定期間中について、労働基 準法第20条、解雇予告の適用を除外することの是非について検討すると中間取りまとめ で示されたわけですが、気がつく「留意点」をその右に書かせていただきました。解雇 の予告日と就労開始予定日が30日以上離れている場合は、労働者、採用内定者にとっ て、労働契約上の地位がいつ消滅するかという問題にすぎない。これは就労しないわけ ですから、賃金ももらえないまま30日が来てしまう。つまり4月1日が入社日だとする と、3月1日以降の場合ですと、解雇日までの間に就労することができる日が生ずるこ とから、労働基準法第20条の適用を除外すると、その間の賃金が担保されないこととな り、この点は労働者にとって不利となるのではないか、と。考えられる反論としては、 こういうことが起こり得るだろうということです。  これに対する事務局としての考え方は、実際には多くの場合に試用期間が設けられて おり、使用者は、この試用期間になるまで待てば賃金を払わず即時に労働者を解雇でき ることから、労働基準法第20条の適用を除外することが労働者にとって不利との批判は 当たらない、と。試用期間のうち最初の14日間については解雇予告が適用除外されてお りますので、そういうことになるのではないかと思いますし、むしろ適用除外していな ければ、本当は3月20日に解雇予告をしたかったけれども、残りは10日ですから、あと 20日分働かせなければいけないということになる。4月1日まで待てば、4月1日に解 雇になるというようなことも起こり得る。わざわざ試用期間になるのを待たずに、その 使用者が速やかに解雇を通告し、解雇されることになると、採用内定者としては、少し でも早い時期から求職活動ができるようになるというメリットがあるのではないか、そ のような考え方もあるのではないかということです。  その下の段、採用内定の中の留保解約権の件ですが、留保解約権を行使する場合、留 保解約事由が採用内定者に対して書面で通知されている場合には、当該留保解約事由に 基づきなされた留保解約権の行使については、当該解約権留保の趣旨、目的に照らして 客観的に合理的と認められ社会通念上相当と認められるものであれば、権利の濫用には 当たらないこと。これは大日本印刷事件の最高裁判例があるわけですが、この判例を法 律上明らかにする方向で検討するということが示されたわけです。  これについて、一番右側の案は、まずメリットはあるだろうということで、採用内定 取消事由の書面通知により、採用内定取消がその趣旨、目的に照らして権利の濫用に当 たらないと判断され得る効果が付与されるだけでなく、どのような場合に採用内定が取 り消されるのかを採用内定者があらかじめ知る機会を増やすメリットがあることを、強 調してよいのではないかと。もう一つのメリットとして、採用内定者や使用者に対し て、客観的に合理的と認められ社会通念上相当と認められない採用内定取消は権利の濫 用として無効となることが周知され、恣意的な採用内定取消が少なくなるというメリッ トがあるのではないかと、そういうことがあるかと思います。  一方、考えられる論点としては「客観的に合理的」あるいは「社会通念上相当」とい う用語を用いる限り、結局どのような場合に採用内定取消が認められるのかをあらかじ め予測することは不可能ではないかとの論点が考えられます。これについては右側の欄 で、「客観的に合理的」あるいは「社会通念上相当」という用語は、採用内定の実態が 多様であることを踏まえて用いざるを得ないものであり、予測可能性の向上は、判例で 示された具体的事例を整理・収集することで一定の効果をあげることが可能となるので はないか、という考え方を示してあります。  1頁の下の左の欄に進みます。書面で通知された留保解約事由以外の理由による採用 内定取消が行われた場合には、通常の解雇権と同様の判断がなされるべきことについ て、指針等により明らかにする方向で検討するとされ、これについての留意点は、法定 されていない場合の解釈を、逐一指針等で明らかにするとすれば、そもそも「労働契約 法」が行政指導を予定しない民事法であることと矛盾するのではないか。一番右で労使 ともに疑義を生ずる事項について指針等により明示することは、十分意味があるのでは ないか、という考え方があります。  次は2頁の2段落目です。採用内定当時に使用者が知っていた事由又は知ることがで きた事由による採用内定取消は無効とする方向で検討する。これについては、右側の欄 で使用者が知っていた事由等を後々持ち出させないとすることは、採用内定者の地位を 安定させるだけでなく、社会通念上不公正な行為の抑制になることを強調してよいので はないか。使用者にとって、このような採用内定取消は無効とされることが明らかにな り、採用内定取消の効力の判断に関する予測可能性が現在よりも向上するというメリッ トがあるのではないか。  続いて中間取りまとめ以降の論点として二つあります。一つが、いつ採用内定がなさ れたか、いつ労働契約が成立したかを判断するに当たっての考慮要素についてどのよう に考えるか。これについては真ん中の欄で、労働契約が成立したとされる時点が明確で ない現状は、労働者保護の観点から問題が多いのではないかとなっています。これにつ いての考え方としては、契約成立の判断についての予測可能性の向上は、その考慮要素 として判例等で示された具体的事例を整理・収集することで一定の効果をあげることが 可能となるのではないかとあります。これは、大日本印刷事件の最高裁判例等でも、誓 約書が出されたとか、入社式が実際にあった、あるいは他に約束事がなかったというよ うなことが示されているわけですが、その他いろいろな実態も踏まえた上での事例の整 理・収集で、ある程度明確化していくのではないかという考え方です。  その下は、採用内定時及び就労開始時の労働条件明示の在り方について、どのように 考えるか。これは労働基準法第15条の考え方ですが、真ん中の欄で、労働条件明示は使 用者に一定の負担を課すものであり、その負担を考えるならば、明示しなければならな いこととされている労働条件を十分に整理する必要があるのではないかと。労働基準法 第15条のほうは「労働契約の締結に際し」ということですので、成立時の明示であると いうことです。そういうことで右側の欄で、労働者にとっては就業の場所や従事すべき 業務は重大な関心事であり、採用内定時に少なくともその範囲を示すことは重要ではな いか。分かる範囲、できる限り具体的なる範囲で示すべきであるということです。  また、採用内定時以後であってもこれが特定された段階で可能な限り事前に知らせる ことは重要ではないかとあります。資料6の1、2頁でJILPT、日本労働政策研究 ・研修機構の調査によると、実際に条件を明示するのは、採用内定時にも知らせ、また 就労開始時にも知らせるということを一般的にはやっているようです。そういうこと で、実態的には、多くの企業が明示はしているということかと思われます。  「試用期間」に移ります。試用期間を設ける場合の上限を定める方向で検討すると、 中間取りまとめで入れております。これについて考えられる問題点として、試用期間に 上限を設けるとしても、従事する業務の内容によって労働者の適格性判断に必要とされ る期間が異なり得るので、一律の上限を設定することは困難ではないかと。  このような反論も一応考えられますが、日本労働政策研究・研修機構で作った資料の 17頁を見ると、実際、期間が6か月程度までがほとんどです。規模計の全体を見ると、 右に0.2、0.8とあります。これは0.2が1年超える期間を定める期間を定めているもの、 0.8が7か月程度から1年程度。要するに6か月を超える期間を定めているのは1%程 度。99%が6か月の中に収まっているという実態もございます。この計算でいきます と、3か月以下でも93.5%で、もともと6か月を超えるものはあまりないという実態が ございます。  そういう実態を踏まえた上で、考え方として、著しく長い試用期間を定めることは、 労働者を長期間不安定な地位のままにしておくこと、また、その間は、本採用後よりも 賃金その他の労働条件が低い水準である傾向が強いことから、少なくとも「著しく長い 期間」を上限として定めることは可能ではないか。なお、長期にわたる適格性判断は、 試用を目的とする有期労働契約、試行雇用契約で対応することが可能ではないか、とい うような考え方があります。  もう一つの問題点として、また、上限を設けた場合、それを超えて試用期間を延長す ることを認めることは論理的に難しくなることから、適格性判断が不十分な場合に試用 期間を延長せずに解雇が行われ、労働者に不利になることはないか、ということがあり ますが、上限期間を適正に設定すれば、当該期間内で労働者の適格性を判断することが できると考えられる。社会通念上「著しく長期にわたる期間」はあるはずであって、上 限の設定はあくまでこれを避けるものにすぎない、このような考え方でいかがかという ことです。  試用期間の関係で、中間取りまとめで書いたもう一つの項目があります。試用期間で あることが労働者に対して書面で明らかにされていなければ、通常の解雇よりも広い範 囲における解雇の自由は認められないとする方向で検討することです。  これについて、まずメリットとして考えられるものとして、書面通知を普及するのみ ならず、労働者が、自らが解雇される可能性があることを知る機会を増やすというメリ ットを強調してよいのではないか、そういうことも考えられるのではないかということ です。  考えられる問題点としては、「通常の解雇よりも広い範囲」が具体的に明らかにされ ない限りは、結局どのような場合に試用期間中の解雇が認められるのかをあらかじめ予 測することは不可能ではないか。これについては右側の欄で、具体的な一律の基準を定 めることは困難であるとしても、判例で示された具体的事例を整理・収集することで一 定の効果をあげることが可能となるのではないかという考え方を書かせていただきまし た。  試用期間について中間取りまとめ以降のもう一つの論点として、試用期間は、どのよ うな目的のために設けられ、また、試用期間中の労働者は労働条件その他についてどの ような地位に置かれているか。また、現実に、目的に見合った期間が設定されている か。これを踏まえ、試用期間の上限の在り方について、どのように考えるか。  これについての問題点として、試用期間を設けることは従来から広く行われており、 大きなトラブルがあったわけでもないので、上限を設けるとしても実態を十分考慮のう え慎重を期すべきではないか。そして考え方として、試用期間に上限を設けることは、 労働者が不安定な地位にあり不利な労働条件に置かれやすい期間が長期にわたらないよ うにすることであり、労働者の保護につながるものとして評価することができるのでは ないか、と書かせていただきました。  「労働条件の明示」について、中間取りまとめで書かせていただいた論点としては、 実際に適用される労働条件が、労働契約の締結時に労働者に、明示された労働条件に達 しない場合には、労働者は、明示された労働条件の適用を使用者に対して請求すること ができることを明確にする方向で検討する。  これに対する問題点として、労働者が明示された労働条件の適用を請求できることは 当然であり、特に問題を生じていないことから、新たな規定を置く必要性に乏しいので はないかということです。これが実際に起こり得る話としては、例えば労働者に書面で 労働条件を明示して、それで労働者が納得して契約を結ぶわけですが、職場にそれとは 若干異なる、あるいは特例的な慣習があった、あるいは口頭で特例を言った、言わなか ったとかでもめた時などには有効になり得る規定だと思います。法的にはそういうこと ですが、メリットとしては、明示された労働条件が事実と違う場合に即時解除ができる ことは法律上明記されていることから、明示された労働条件の適用を請求できることも 法律上明記し、二つの選択肢があることを明確にすることは重要であると書かせていた だきました。以上です。 ○菅野座長  ただいま御説明いただきました資料5を参考にし、「労働関係の成立」について議論 していただきます。 ○西村先生  一番上の、採用内定の期間中の解雇の予告の問題なのですが、いつもこれで違和感を 感じるのは、採用内定期間というのがどういうものであるのかをきちんと検討した上で ないと難しいのかもしれませんが、通常は労働関係が展開しない期間です。具体的な労 働関係が展開していないところで、解雇の予告ということを論じる意味はどこにあるの だろうか。普通、解雇の予告というのは、例えば30日間であれば就業関係が維持され て、その間は賃金が保障される。突然の解雇による失職という脅威から保護するところ に意義があります。  採用内定の場合は、考えてみればなるべく早く言ってあげることが大事で、最近のよ うに採用内定が非常に早くなってきているとギリギリまで待っていて、試用期間が始ま ってから取消をやるなどというのはもってのほかで、3月にわかっていれば3月に、2 月にわかっていれば2月に、あるいは1月にわかっていれば1月に知らせればいいと。 要するに、年度を超えてから言うというのは、ある意味で非常に酷な話であるので、で きるだけ早くということが問題なだけなのです。期間が必要だということはあまりない のではないかと思うのです。  まさにそのことで試用期間に入ってしまえば、普通なら第21条で2週間を超えれば予 告が必要なのに、要らない、というのは本末転倒の議論かという気がするのです。試用 期間に入ってしまえば、採用内定取消の理由はどういう関係になるのでしょうか、後で 随分限定していますね。したがって、ここでの議論は、本来解雇の予告の問題ではなく て、なるべく早く教えてあげなさいということに尽きるのではないか。わかっているの ならわかった段階で、それを年度を超えて、あるいは3月末まで持っていること自体が 問題だと考えたほうがいいような気がいたしますがいかがでしょうか。予告の問題では ないのではないか。予告をして、30日間維持することの意味というのは一体何があるの か。あなたは採用内定を取り消しますよと。30日間は、まだ何があるかという感じなの です。この議論は、ちょっと違和感があります。 ○労働基準局監督課長  ここで申し上げているのは、労働基準法第21条では、適用除外の場合が1号から4号 まであり、4号に「試用期間中の者」というのがありますが、採用内定期間中の者とい いますか、まだ就労を開始していない者は除かれていないけれども、それは形式論から いくと、解雇予告は必要なのかという疑義が生じている状態になっているということで す。もしはっきりさせるのなら、5号みたいなものを追加するのかどうかということで す。 ○西村先生  むしろ、そのことが大事ではないですか。試用期間に入れば即時にというのは酷です よ。もっと早くできたのに、なぜそこまで持っていたかといったら、第21条の適用除外 があるからだというのは、えっ、という感じではないですか。 ○菅野座長  基準局の解釈は、採用内定期間中も第20条の適用があるといっています。 ○西村先生  契約が成立していればですか。 ○菅野座長  はい。バランス論としては、西村先生の言うとおりだという感じがします。 ○曽田先生  契約が成立している、という考え方からそのようになってくるわけです。労働契約 は、内定時に多くの場合成立する、ということが前提にあります。 ○西村先生  その場合に、例えば30日よりもう少し短いという話の意味はどこにあるのかというこ とです。 ○曽田先生  そうですね。 ○西村先生  こういう解約権を行使する事由がわかった段階で、なるべく早くそれを知らせること の意味が大きくて、一定の期間を取ってということの意味はあまりないですね。 ○菅野座長  例えば、休職期間中に仮に解雇するということになれば、当然第20条の適用があると いうことですか。 ○労働基準局監督課長  休職期間中もそうです。当然消滅事由というのが別にあります。 ○菅野座長  それは別ですけれども、働いていなくても第20条の適用があることはありうる。た だ、まだ全然就労も開始していないのにということですね。 ○西村先生  そうです。 ○土田先生  働いていない、就労を開始していないということと、もう一つは中間取りまとめで も、論理としては大日本印刷事件の判決を使って、採用内定の取消を留保解約権行使で あるという性格づけをしています。これは、解雇とは別の整理をしています。  それとは別に、留保解約権の行使とは異なる通常の解雇があると整理していて、それ を突き詰めれば、留保解約権を通常の解雇とは異なるものとして性格を規定すれば、就 労していないということとは別で解雇ではない。だから、労基法上の解雇とは別だか ら、もともと適用がないという議論もできることはできると思うのです。  それと関連して、中間取りまとめの内在的な議論なのかもしれないのですけれども、 採用内定の法的性質と、そこで留保された解約権の法的性質は何かということは、いわ ば中間取りまとめでこういう形で整理されているわけですけれども、もしここで内在的 な検討ができるのであれば、少しそうしたほうがいいのかという気がするのです。  先ほどの休職期間中は、当然そこで行われる解約権というのは解雇権ですから、労基 法上の解雇になると思います。唯一、採用内定の留保解約権のみは少し違うのかという 気がいたします。 ○菅野座長  それも、採用内定期間中だからということになるのではないですか。例えば、試用期 間中の留保解約権について第20条がある、除外されるというと。 ○土田先生  それもちょっと。 ○西村先生  1頁から2頁にかけて、書面で通知された留保解約事由以外の理由による採用内定取 消しの場合は、通常の解雇権と同様だという話なのです。だから、もう少し厳格な判断 がなされる、ということでは確かにそうなのでしょうが、予告の問題ではないのではな いかと思います。一定期間を置いて予告することの意味というのは、ほとんどないです よね、それよりも早くしてあげるということのほうが重要で、ギリギリになってから言 われても意味がないです。4月に試用期間に入ってからやるなどというのはもってのほ かだと思うのですが、これは言ったらいけないことではないかと思います。 ○審議官(労働基準担当)(松井)  いまの第21条の1号から4号までは、実際に労務が供給されている場合ばかりです。 ですから、言われるように具体的な労働関係が展開されている。そこで解雇ということ を労働者に申し渡すと不利な状況があるから、形式的には予告期間が要るのだけれど も、実質判断として適用できるのだけれども、第21条の柱書きを入れて適用しないとい う命題なんですよ。  労務供給がないところについては、適用も何もないのだと。もともと理念上解雇とい う法制は当たらないのだとここで整理されている。条文ではどう処理すればいいのだ と。この第21条の第5号で足すのではないと思うのです。適用しないではなくて、こう いうものは解雇予告の適用対象外ですよ、ということを何か書き起こすのでしょうか。  解雇というのは、具体的な労務供給が行われているところについてのみ、こういう概 念を考えさせるとなると、これは法律以前の問題だと。法律上処理の仕方が、いまの条 文から照らすと思ったりしたのです。 ○労働基準局監督課長  いまの行政解釈は、契約が成立すれば解雇だと。解約権も含めて全部解雇だと。現象 面を捉えて、労働契約を解除することが解雇なので、いまのコンメンタール等の解釈で は、別に就労開始前であっても解雇は解雇だという解釈になっています。 ○審議官(労働基準担当)  ここでの議論は、労働関係が展開されていない、つまり労務供給がないところでの解 雇という概念ですね。あまり意味がないのではないか、ということからですね。契約上 は契約が締結されれば、労務供給があろうとなかろうと労働契約が締結されているか ら、そこには形式的に解雇という概念が当てはまるということをコンメンタールでやっ ています。コンメンタールレベルなのか、あるいは自明の理としてもう一回確認的な条 項を起こすか。  つまり、契約を締結しているけれども、一定停止条件とか、一定期間中は労務供給が ない、という契約期間中は当然として第20条の法理が適用されない、ということを確認 的に条項を起こすというものかという気がしたりします。 ○西村先生  採用内定というのは、極めて特殊な期間なのでしょうね。休職のときには、確かに労 務の提供はないけれども、あれはある種社会保険の被保険者資格の問題とか全部関係し ますから、単純には言えないです。 ○山川先生  第20条の趣旨の問題かという気がします。つまり、第20条の趣旨は、賃金を払われな がら再就職活動ができるという趣旨だとすると、賃金が払われるであろうような状態を 前提にした規定であることになります。賃金が払われているか、払われていないかにか かわらず、とにかく再就職の余裕を与えるという規定ですと、内定であっても早目のほ うが、ということにつながるような気もします。  第21条4号については、たぶん内定法理のできていない段階での立法ですから、おそ らく内定段階で契約が成立するという理解に立ったものではないです。第21条は中間取 りまとめで方向が出ているので、たぶん逆の方向にというのはならないですけれども、 逆に第21条4号のほうを見直すことだって論理的にはなくはないです。その前提となる のは、第20条をどう考えるかによって、結論が違ってくるということだと思います。 ○菅野座長  実質的には、ここでの内定期間中というのは、第20条を適用するような関係ではない ということではコンセンサスが得られたということで、規定はどこかを工夫していただ くということですね。 ○山川先生  資料5の1頁の一番下の段落の事項ですが、「指針により明らかにする」というのは 解釈指針というようなことになるかと思うのです。これは行政指導を予定しない民事法 であることと矛盾するのではないかというコメントがありますが。答えとしては、この 留意点に対する考え方で結構だと思うのですが、指針というものの性格を整理されたら どうでしょうか。  最近新聞で、敵対的買収に対する対応策について指針を出すということが出ていまし たが、あれも行政指導ということではないのではなかろうかと思うのです。証取法だっ たら別かもしれないのですが、そのように指針というのは役所の中の上下関係のもので 出てくるものと、本当の解釈指針といろいろなものがありうるような感じもします。そ の点は機会があれば整理していただければと思いますし、既にありましたら教えてくだ さい。 ○労働基準局監督課長  これは、中間取りまとめの前の段階でも御説明いたしましたけれども、指針で念頭に 置いていますのは、労働契約承継法でも現在指針があります。あれは、解釈指針の形に はしてなくて、分割計画を定める際に使用者が講ずべき措置について必要な指針という ことで、一見は使用者がどのようなことをしてもらえるか、ということが望ましいのを 行政的に書きます、という形にしております。  ただ、そのときにこのような形でやると無効になるという判例があることに留意する ことという形にして、解釈的なことも盛り込んだ形で作られています。こういうこと で、限りなく解釈的なことも盛り込むような形での指針が実際は作られているというこ とで、形式的にはこれがいきなり裁判規範になるということではないのですが、現象的 には解釈的にも使えます。あくまでやっていることは、使用者が講ずるのに望ましいこ とを行政として書いたという性格のものが一つあるということです。 ○山川先生  そうすると、純粋な解釈指針というのもあり得るということなのでしょうか。 ○労働基準局監督課長  労働契約承継法を作ったときには、全くの解釈指針というのは無理だということは、 法制局内部であったようですが、そこははっきりいたしません。どれがいいかは、また ここで御議論いただければと思います。 ○山川先生  形式的な位置付けはともかく、指針があったほうがいいということはあまり異論はな いのではないかという感じがします。 ○菅野座長  指針でごまかすな、という議論はあるわけです。 ○山川先生  そういう趣旨ですか。 ○土田先生  これは民事法なのだから、そこにおける指針の位置付けをどう考えるかという問題が ある。先ほどあった意見の概要のところでいう指針批判というのは、むしろ本則で、法 律で書けといっています。後者のほうは、選択の問題だと思うのですけれども、前者の ほうはおっしゃるとおり、民事法制で行政的な指針を活用しすぎるのは問題だと。やる とすれば解釈指針のような形かと思います。  そうだとすると、いま山川先生がおっしゃったところもそうだし、試用期間の3頁、 通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められないとする方向で検討する。 結局これは予測が不可能であるというのに対して、一律の基準を定めることは不可能、 困難だとしても具体的事例をとありますが、これも指針でできないことはないと思いま す。そういう意味での指針は非常に有用だと思うのです。 ○菅野座長  試用期間の上限で、90何%は6か月に収まっているのと逆に、ごくわずかだけれども 長いものというのは特別に理由がある、というようなことはないのですか。それは、ど うしてそんなになるのですか。 ○労働基準局監督課長  この調査ではわからないのですが、もし、わかりましたらまたお知らせいたします。 ○菅野座長  その点は、念のためにお願いします。 ○西村先生  採用内定の2頁の真ん中ですが、「いつ採用内定がなされたかを判断するに当たって の考慮要素について」と書いてありますが、具体的にはどういうことを念頭に置いてお られるのですか。 ○労働基準局監督課長  大日本印刷事件で出ましたように、誓約書を提出させたかどうか、あるいはほかに内 定的なものはなかった、あるいは一斉に採用内定式があるとき、要するにたくさん内定 を貰っていても、どこか一社に必ず行かなければいけないというときに、もうほかに行 けなくなってしまうという時期というのが、いろいろ総合的に考慮すべき事項というの はある程度挙げられるのではないか。内定者を集めて海外旅行へ行かせれば、もうほか には絶対に回れないわけですから、そういうのも一つあるかもしれません。誓約書を出 させるということもあります。 ○菅野座長  実際にいままでの裁判例だと、採用内定通知によって契約が成立したと見るか、採用 内定を申込みと見るかの違いしかないのではないですか。それによって誓約書や承諾書 を出したときに成立と見るか、その違いしかないという意味では、そんなに不明確かと いう気がしないことはないのです。 ○西村先生  まさにそのとおりで、採用内定通知をする。それと相俟って誓約書が提出される、と いうことで成立したと見る。その後、内定書を集めてどうのというのは、成立した後の 話で、それも成立の判断の考慮要素とすると、かえってわかりづらくなるのではないか という気がするのです。その点は、従来の実務がやっているように、正式の内定の決定 を出したと、誓約書を出してくれということで、それが出れば契約が成立したと見てお かしくもないのではないか。  その後のことは、成立した後の事情でどこかに行けないようにするというだけの話 で、そこまで契約の成立の要素を入れていくと、かえって混乱するのかという気がしま した。 ○労働基準局監督課長  労働政策研究・研修機構の資料6の11頁で、「新規学卒者に対する採用内々定の有無 及び性質」ということで、企業としてどのように考えているかということで、採用内定 に先立って採用内々定を行っている企業、全体では3.6%しかないのですけれども、企 業規模が1,000人を超えると41.3%の企業が行っているというものがあります。企業は、 採用内々定と採用内定をどのように考えているのか。  その後、方法はどのようにしているかというと、12頁で、もちろん文書を交付するの が一番多いのですけれども、口頭で伝える、電話で伝えるというのもかなりあるという ことも出ています。  採用内々定をどう考えているかということについては、11頁で採用を確約するもので はないと考えている企業も27.2%ほどある、内定と同じ効力を有するというのが47.3% あるという調査がありますので、これをどう考えるかということです。 ○労働基準局長(青木)  労働者というか、内定されたほうは調査していないのですか。 ○土田先生  いまの説明の採用内々定はよく理解できますけれども、正式の採用内定がある場合 に、通常はそれによって労働契約が成立する。だからこそ、この中間取りまとめにあっ た留保解約権の行使という話になってくるわけです。もちろん、要素を整理するのは、 それはそれで有意義だと思いますけれども、基本的には内定の通知によって労働契約が 成立する、ということでよろしいのではないですか。さらに、それより前の段階の内々 定がどういう意味を持つのかということは別の論点だと思います。 ○荒木先生  そこが、必ずしも明確でないかもしれないです。仮に内定通知を出して、それに求職 者が誓約書を出しても、二つの企業に誓約書を出している場合に、いままでの内定とい うのはほかの就職を断って一社に決めた、という事実を重視し、その相手方との間で契 約が成立したと思います。  内々定は複数持っていて、現実は10月1日の内定日にいずれかの会社へ行くことによ って事実上一社に絞られたと思います。もし、内定通知と誓約書で採用内定になると考 えた場合に、複数あり得る場合にはどう考えるのかという問題が残ってきます。実態は 多様なので、なお採用と呼んでよいものなのか、内々定なのか自体が議論の対象点には なり得ると思います。 ○土田先生  複数の労働契約ですか。 ○荒木先生  複数の労働契約が成立したということになる場合は、その段階ではまだ内定に至って いないということになるのか。複数の間でどちらに行く可能性もあるという場合でも内 定と認めてよいということなのか。 ○菅野座長  契約が成立して、あとは取消の問題だと考える、解約の問題であると、そう整理する のかな。 ○荒木先生  それが一つの整理ですし、複数間との間でそういうやり取りをやっているときには、 まだ内定には至っていないという考え方もあります。 ○菅野座長  どちらかは行きませんというのは、意思表示するわけでしょう。そうすると、行くほ うとしては成立した時期というのは内定時期になるのではないですか。内定に対して承 諾した時期しかないのではないですか。 ○荒木先生  そうすると、一社に絞ったというのはあまり意味がないという評価になってきます ね。 ○山川先生  確かに、内々定において文書を交付するということがあって、かつ内定において口頭 のみというものがあるとすると、一体どういう関係に立つのかという気がしなくもない のですけれども、契約という原則に立ち返れば、申込みと承諾で意思表示が合致したと いうことが基本ではないかと思います。  それでもう一つ、内定と内々定の区別はそれ以後特に申込みと承諾と見られるような プロセスが存在しないということになるのではないか。健康診断などがあるので、その 意味では確約はしていないと言われればそれまでですが、それは取消事由の問題である ということで、そういう要素はあり得るのかという気がします。  文書を出したとしても、その文書をどう解釈するのかという問題はあり得て、これは 内定でしたという場合と、内々定でしたという場合があって、おそらく内々定はこれか らまだ何かやりますという趣旨で出しているのではないかと思うのです。しかし、どう いう趣旨かは画一的には決まらないようにも思います。 ○菅野座長  内々定にこんなに書面を使ったり、内定と同じ効力を有しているというのが47%もあ るというのは私も知らなかったです。そうなってくると、労働契約法で内々定が内定に 当たるということがあり得て、そういう意味では曖昧であるということがあり得ます。 遅くとも内定通知のときまでには成立するという意味では、そんなに不明確ではないと いう感じですか。 ○労働基準局長  私もそうだと思うのです。通知というのは、少なくともこのときまでにはもう決まっ ているだろうと。実際には、昔、学校で習ったのを思い出すと、両当事者の意思の合致 ですから、口頭で内定しますとか、内々定しますと言ったときに、わかりました、よろ しくお願いしますと言って帰っていったら、その後、誓約書の用紙を送ったりというの は動かぬ証拠になるかもしれませんが、いつかという議論のときにそれになるというの は、もしこの間でトラブルが起きたときには救えなくなってしまうような気がするので す。ですから、遅くともここだというような議論はあり得るのかとは思っているのです けれども、その辺はどうなのでしょうか。 ○曽田先生  就職を希望している人が雇用に応募していくというのは、いくつかの企業に申し込む わけです。それは労働契約の申込みかもわかりませんが、それで企業が内定通知を出し ても、そのことによって直ちに労働契約が成立するということではなく、求職をしてい る人の側から見ると、いくつかの候補の中から内定通知を貰ったというだけであって、 またそれに対してほかには行きません、お宅で働きますという誓約書を出したときが求 職者の側の意思表示なのではないか。 ○菅野座長  判例ではそれが普通だと思います。大日本印刷事件では、採用内定が企業側の承諾だ と。 ○曽田先生  受験が申込みだと言っています。 ○菅野座長  あれは、二社推薦一社。 ○曽田先生  ただ、大日本印刷の場合は誓約書も出しているのです。 ○菅野座長  出していますけれども、あれやこれや選ぶという応募の仕方ではないのです。最初か ら一社、二社に絞っての応募のケースです。 ○曽田先生  どこで労働契約が成立しているかというのは、事案によって判断の違いが出てくるこ ともあるかもしれないので、こうなったら内定で、労働契約成立と条文で規定してしま うのがいいのかどうか。 ○菅野座長  それは、できないでしょう。できないし、やるつもりもないのでしょうね。 ○労働基準局監督課長  意思の合致、要するに働きます、お金を払いますと約したときに成立するというのは 民法にも書いてありますが、その程度は書いてと。あれを根拠条文として大日本印刷の 最高裁判例がいろいろ条件を出してきて判断していますので、それは同じような形にな るのかという気がしています。 ○菅野座長  内定の通知によって、労働契約が成立しますなどというのを一律に書くわけにはいか ないと思います。少し気になるのは、試用期間の上限を設けて、それ以上長いような試 用は試行契約でやったらどうかということが書いてあります。試行契約というのは、期 間の定めのある契約です。期間の定めがあって、それが切れても実際上は試用なのだか ら、期間の定めのない契約に移行する期待があって、そういう意味ではそういう契約を 結ばないことについて合理的理由が必要になるとか何かになるのかもしれないけれど も、そういう契約と長くてもいいから試用期間の契約というのと、労働者にとってどち らが有利かというと、最初から期間の定めのない契約のほうが有利だと考えると、その 道を閉ざすことにならないのか、という疑問はどうしますか。 ○審議官(労働基準担当)  いまの試用期間の定義というか中身ですけれども、試用期間というのが、いつでも使 う側が能力判断をして、自由にきちんとした処遇をするかいい加減な処遇をするかとい う、裁量権を使用者側に留保した契約内容だとすると、労働する側で試用期間でもいい けれども、長くというときの労働側のメリットみたいなものがすぐには思い浮かばない のです。理念的にはおっしゃるようなものがあるのですけれども、実態論として、そう いう選択肢があるだろうかということがちょっと気にかかります。  普通の場合、労働者は自らの処遇の安定を目指して、使用者との間で安定した地位を 希望するだろうということを前提にやっていますから、不安定状態でありながら、長く いるほうがいいという労働者像がどんなものかが見えないのです。 ○菅野座長  そこで、長いのはどういうケースなのだろうかということで質問したのです。 ○荒木先生  試行雇用契約というのは、要するに有期契約を試用期間の代わりに使うというものな のですか。そうすると、その後試行雇用契約が終わって、再度契約を申し込まない限り は自動終了するということなのですか。 ○労働基準局監督課長  いま実際にやられている試行雇用契約はそうです。要するに、本採用する可能性があ ると。その期間中に適格性が認められれば、本採用の可能性があるということを事前に 示した上で、有期労働契約を結ぶ。終了前に、本採用しますというような通知をすれば 本採用ですけれども、なければ終了ということです。 ○荒木先生  そういうものだとすると、求職する側は試用期間を大過なく過ごせば本採用が保証さ れている契約と、新たに試行期間が終わった後に、やはり君にするよと言われない限り 雇用関係は終了するというものであれば、長くても試用期間付きの、しかし無期の契約 のほうが有利だと思うのが通常ではないかという気もするのです。 ○労働基準局監督課長  無期になるにもかかわらず、常に不安定な状態のままいつまでも置かされるというの と、この期間しっかり働けばすぐ結論が出るというのとどちらがいいかということがあ ると思います。有期の場合、その期間は保証されていますので、その期間は雇用が保証 されている。試用期間が長くなれば、いつ切られるかわからない。  いかにも期間の定めのないということで、目の前にそういうのがぶら下がっているの だけれども、いつまで経っても辿り着かないのがいいのか、この期間しっかり働けばと いうことで、覚悟の上で来て、その期間は少なくとも雇用が保証されている。それとの 比較ということになろうかと思います。 ○曽田先生  非常に素朴に考えてしまうと、試用期間というのは期間の定めのない正規雇用に行き ます、というのを前提にして、それに適応した人材かどうかを見るための試用期間とい うことの位置付けではないかと思うのです。  そうすると、それは短いほうが求職者には有利だし、使用者の側は長いほうが常にキ ャンセルできる期間が長く持てるということで、試用期間が長いというのは使用者側に とってメリットがあるのではないか。求職者にとっては短くて、本採用になるのが一番 いいわけです。本採用というのが目標としてあって、それに至る仮の期間という位置付 けなのかと思うのです。 ○菅野座長  それはそうですね。実際は、試用期間の上限をどのぐらいにするかです。 ○荒木先生  試用期間をかなり短いところに設定すると、それ以外は有期契約でやりなさいという ことになってしまう。その有期契約でしか雇われないというのと、長い試用期間があっ ても、無期の契約で働けるのとどちらが労働者にとって有利かということです。 ○山川先生  先ほども出ていましたが、例外みたいなものを認めるかどうかという点と、上限とい うことの意味は、強行規定的に考えることになるでしょうか。強行規定以外で上限とい うのはなかなか考えにくい面もあります。そうなると、ここの考え方に書かれているよ うに、著しく長い期間というのを上限とするというのは、強行規定化に馴染むのかどう かという点はあるかと思います。ケース・バイ・ケースでできるような、公序良俗的な 判断を行うかどうかです。 ○菅野座長  上限を設けるというのは、ある線を引くということでしょう。それを、いまのところ は「著しく長い期間」と表現しているだけだということですね。その場合、期間の長さ の上限を設けても、第14条のように何か特別の理由がある場合は別だ、ということはあ り得ないでもないですね。 ○労働基準局監督課長  労使協定で外す、というのもあるのかもしれません。 ○土田先生  上限規制を設ける必要性というのはどのぐらいあるか、ということは費用対効果の問 題であると思うのです。本日の資料を見ると、非常に長いというのがわずかにあると。 その後の試用期間から本採用になる際の変化、業務の内容は基本的に変わらないと。要 するに、期間の定めのない契約を前提にテストしているということで、期間は6か月が 非常に多いです。  しかし、例外的に非常に長い間不安定な地位に労働者を置いているケースも確かにあ るのかもしれません。しかし、他方で先ほど菅野座長が言われたようなデメリットがあ って、試用期間の上限を規制することで、逆に有期雇用の利用のほうに転換するような デメリットがあるというのであれば、それからまた労働契約法制として、「著しく長期 にわたる期間」というものを明確な基準として果たして設定できるのかという点の疑問 などを考えると、そもそも上限規制を契約法制に盛り込む必要性があるのか。これはな いのではないか、という気もするのです。 ○荒木先生  99%の企業が6か月以下ということですので、原則はここが上限だと決めておいて、 特殊な場合に対応する余地を考える、というあり方もあるような気がします。全く規制 をしないというのもあるかもしれませんが、通常試用期間についての、社会的なコンセ ンサスがあるとすれば、それは契約法ですので一つのデフォルト・ルールにしておい て、その特段の事情がある場合についてどういう対処をするのか、ということで詰める 手もあるのかもしれません。 ○西村先生  本日の資料6の17頁と18頁で、新規学卒者を採用する際の試用期間と、中途採用者の 試用期間と分けています。これは統計を見ると、微妙に数字が違いますから全く同じで はないので別に設定しているのでしょうか。新規学卒者の試用期間は、従来の考え方か らすれば、あまり試用期間的な意味はないです。ところが中途採用者の場合には、まさ にその試用期間がないと採用できないことになりますから、就業規則で、中途で採用す る者については試用期間はこれこれだとちょっと長目に設定するということがあるので しょうか。 ○労働基準局監督課調査官  この調査票といたしましては、新規学卒者の採用の場合の試用期間と、中途採用者の 場合の試用期間を分けて聞いております。その結果を見ると数字的に似ているというこ とですので、これをどう読むか、どう評価するのかということだと思います。 ○西村先生  区別しているような就業規則も見ないような感じもしますが、実際は区別しているの でしょうか。 ○土田先生  いずれにしても、いままでもそんなに期間は変わらないですけれども、中途採用者に ついて試用期間を設けたら、中途採用者についてはシビアに判断すると思うのです。こ れで見ると、本採用拒否の判断基準や、22頁の本採用のところは新卒者と中途採用者と 区別されていないから分からないです。  関連してですが、いまの中途採用の問題で、採用内定もそうですし、試用期間もそう ですが、採用内定でいえば本日の留意点の1頁の下から二つ目の留意点に対する考え方 等にある予測可能性の向上の対処というところ、それから試用期間でいえば3頁の上か ら二つ目の段の解雇の事由の範囲についての具体的事例の整理・収集。  中途採用内定の場合、中途採用者についてどう考えるかというのはかなり重要な論点 だと思っています。これは、たぶんここでも一回議論されたと思うのです。大日本印刷 事件みたいに、採用内定期間を調査の期間、資料を収集して調査する期間だという趣旨 を非常に重視すれば、そもそも中途採用者について採用内定を設定できるか、という問 題もあると思うのです。  それは実際に企業でやっているから採用内定というものを認めるとして、おそらく採 用内定における留保解約権の行使の「客観的に合理的」な理由とか、「社会通念上相当 」というものは、中途採用者についてはシビアになってしかるべきものだと思うので す。いろいろな考え方はあると思うのですが、そういう考え方が一つできると思うので す。具体的な事例の整理、予測可能性の向上という点は指針で対処していいと思うので す。いくつか類型化して、特に中途採用者については慎重にというか、中途採用者につ いての一定の何らかの指針を示すのであれば、そういう点の留意が必要だと思います。  一方で、試用期間のほうは実態が全くわからないのですけれども、中途採用者につい て試用期間が実質的に機能しているとすれば、これも留保解約権の行使、解雇の範囲は 少し違ってくるのではないか。一方で雇用の流動化が進んでいるわけですから、中途採 用者の採用内定というのはあまり留保解約権の幅を広くして、雇用の流動化を阻害する ような政策はとらないほうがいいと思うのです。  新卒者に対する採用内定試用期間ということで、中途採用者についてそれがどういう 意味を持つかということは、こういう指針や類型化をする場合には少し考えてやったほ うがいいのではないかと思います。 ○菅野座長  採用内定時の労働条件の明示で、就業の場所や従事する業務がこんなに高い割合で示 されているのが意外なのです。どういう内容で示されているか、というのはわかるので すか、わからないのですか。 ○労働基準局監督課調査官  申し訳ございませんが、わかりません。 ○労働基準局監督課長  採用内定時に、配属し得る場所をできる限り特定しなさいと。初めからこの工場とわ かっていれば工場ですし、関東近辺の工場とわかっていればそういうふうにしなさい、 という通達はあります。 ○菅野座長  採用内定時の通知に、そういうのを同封するのですか。あまり、そういうイメージが できていないのです。 ○荒木先生  決定的に示しているのではなくて、当該企業で配置可能な事業場の一覧みたいなもの を示したということではないでしょうか。 ○菅野座長  そういうのも送っているのですか。 ○荒木先生  就業規則や会社紹介みたいなものがありますよね。 ○菅野座長  会社紹介みたいなものを送ってですか。それで、それを示していると考えてしまうわ けですか。 ○荒木先生  そのように書いてきている可能性はあると思います。 ○労働基準局監督課長  キャリアはどうしますかというのは、入社説明会で説明するなりして、あなた方は勤 務地限定ですとか、何年目まではこういうふうにします、という説明はかなりされてい ると聞いています。 ○菅野座長  これは、「採用内定時に知らせる」だから、それまでのいろいろな説明会ではなく て、採用内定時にでしょう。 ○土田先生  賃金はそれなりのリストがあるでしょう。 ○審議官(労働基準担当)  労働契約の締結に際しては、採用内定時も含む。 ○菅野座長  それは、解釈ではそうですけれども、実際にどのぐらいやっているかということで す。 ○審議官(労働基準担当)  ですから、いまの疑問はここでいう第15条が「契約の締結に際し」としか書いていな い中で、厳密に内定時の話と、本採用をもう少し区分けして書くかというのが大事なの です。書いた上で、いままでどおり明示ということをやるか、前段は先生が言われたよ うに、その概要的な明示でいいと、決まっていないのだから、というふうに丁寧に作る かというぐらいのイメージなのです。それが本当に書くことが必要か、本契約のところ だけでいいのではないか、という意見もたぶんあり得ます。ここの部分を、もっと限定 解釈できる規定を設けたほうが、実務としてはいいのではないかというところに収斂し ていただければと思います。 ○菅野座長  その参考とするデータとして、実際にどうやっているのだろうか。これだけ高い比率 で明示していることになっているのだけれども、実際は何をやっているのかという疑問 です。 ○審議官(労働基準担当)  我がほうも、通達で言い放しなものですからよくわかりません。 ○荒木先生  留意点に対する考え方としては、採用内定時に少なくともその範囲を示すことは重要 ではないか。就業の場所や従事する業務。要するに、そういうものに限定してはどうか という趣旨なのですか。 ○審議官(労働基準担当)  ここは、ある意味で相当でっち上げて作りました。いま言ったようなことを、あえて 議論していただくために書いています。幅を持たせなければという気持ちもあります。 ○労働基準局監督課長  基準法第15条の本来の趣旨をあれしまして。 ○審議官(労働基準担当)  そこまで厳格に要求するかということです。 ○労働基準局監督課長  基本的には、労働者は契約を締結する際に条件がわからなければ働けないということ がまずあるわけです。その後、2項、3項がありまして、例えばどこか遠い所から工場 のある所に来た。その前に締結していて、実際に働こうと思って来たときに違っていれ ば、帰りたいからと言って帰郷旅費を出せということが言えるわけです。働くときに明 示すればいいのであれば、その話は違ってきます。ここは、約束した段階、働く前の段 階であるというふうにしないと、全体がおかしくなってしまいます。 ○菅野座長  それは、そのとおりだと思います。 ○土田先生  非常に厳格に解釈して、労働契約の締結に際しというものを厳密に考えて、採用内定 時と解したとすると、いろいろ事項がありますけれども、例えば賃金を取り上げると、 賃金については翌年の賃金はまだわからないから実績額を明示せざるを得ない。それを 例に厳密に考えると、先ほどどこかにあった、要は労働契約締結時に明示された労働条 件に達しない場合には履行請求できるということになると、ギリギリやっていくとそこ の問題は必ず出てきます。  たぶん言われたのは、要はそれが実用にそぐわない面があるとすれば、厳密にやるの ではなくて採用内定時と、それから実際の就労時の労働条件明示の2段構えにして、採 用内定時については少し大まかな形で考えたらどうかということですか。 ○審議官(労働基準担当)  あえて乱暴な議論をしますと、第15条の1項と2項で挟み撃ちになっていて、使用者 からすると、こういう条件だと書いて、実際に働かせるときに違うと2項が働いて法違 反になる。そうすると、なるべくぼかした条件にさせてください。ぼかして、例えば選 択肢を書いていても、法違反したくなければこれで明示でいいのではないかと聞いてく るのです。そうすると、明示というのは全部解釈にかかってくるということがあるわけ です。  あとは時点の話です。いまから内定時で、この人は事務系にやる、工場にやるとかい ろいろなことを考えながらやっていると、君はここですと言ってしまうと、後の採用計 画、具体的な配置で困ると、結局両方書いておいて、君はどちらへ行くかわからないけ れども、とりあえず示したのだからいいではないか、特定をしないけれども示したとい うことで言い逃れが起こる。それが、本当にこの保護法益として予定していたものだろ うかとなると、もっと時点を絞って明確にするということを外枠でかけてもいいかなと いうぐらいの問題意識だと思います。そうしないと、2項の関係が全然役立たなくなっ てくるということなのです。 ○菅野座長  明示された労働条件と違う場合は、その差額を請求できるという明示は本当の明示で すね。 ○審議官(労働基準担当)  そう構成しておかないと意味がないわけです。例えば、労働時間などもどういう形で 明示するか、何時何分という形でやるのかとか、諸々すごくきれいには書かれています けれども、実態論とするとあまり厳密に当てはまると動きがとれない部分もあるという 現状があります。 ○菅野座長  結構厄介ですね。 ○山川先生  明示そのものをどうするかというのは、労働基準法の問題として議論するということ でしたね。そうすると、内定段階ではこうで、現に就労を開始する段階ではこうだ、と いう形が予定されていると。その効果についてはその2段階によって違うことがあり得 る、という理解でよろしいのですか。 ○審議官(労働基準担当)  まだ予定していなくて、そういうことも選択肢に入れて契約法を考えていただけない か。いま基準法はこれがありますから、それとは別の体系でどうかけていくかというと ころを少し分析しておかないと、基準法との関係が辻褄が合わなくなると思います。 ○菅野座長  そうすると、内定時にどれだけどういう形で明示しているのか、というのをもう少し 調べたいですね。ヒアリングか何かできないですか。 ○審議官(労働基準担当)  ここで言われる実態調べはもう少し可能な限り調べてやらないと判断できませんね。 先ほどの議論の指針の性格なのですが、条文を書くときのイメージを申し上げますと、 新しい契約法体系の中で、この法律において解釈のための指針を設けることができると か、解釈のために指針を書くというふうに条文を書けば、それが法制的に許されるかど うかは別として明確なのです。  先ほど来説明しておりますのは、通常いろいろな行政法的なものを書いたときに指針 となると、その行政指導なりを行うための指針というのはほとんど一対になっていると いうことですから、通常指針を書くときには、指導などを予定しないところに指針を書 きたいといっても意味がないではないかと消される、という説明で終わっています。  ここの研究会の場の中では、指針という言葉がいいかどうかは別として、この新しい 法体系の中では条文を書き込んだ上に、民法や基準法にはないけれども、関係者に疑義 が生じそうなことについては要件を固めていないけれども、あえてピックアップして指 針で解釈を施すといった条文を入れるかどうかということもあえて議論しておいていた だければありがたいと思います。そこがポイントではないかという気がします。必要か どうかという意味でです。 ○菅野座長  そういうのを含めて、労働契約法の全体像、理念、性格辺りをもう一回議論する必要 があるかと思っています。 ○土田先生  そうなると、試用期間中の解雇は通常の解雇よりも広い範囲であるとよく言われます けれども、なぜそうなのかというのは。 ○菅野座長  少しも整理されていません。 ○土田先生  それは、現実的な必要性があることは明らかなのです。あとは、そこを法体系上どう 整理して位置付けて、どういう性格を持たせるかはもちろん決めなければいけないで す。 ○菅野座長  各論の個々のところで、留保解約権の範囲や条件が普通の解雇とどう違うか、という のはできるだけ明らかにする必要はあります。それを、どういう方法でやるのかという ことがあります。それとは別に、全体にわたって我々が議論している労働契約法という のはどういう性格の法律かを最後にまとめて議論する必要があるかと思っています。 ○山川先生  解釈指針というもの自体どういうものか、この指導自体もどこからどこまでが指導 か、推奨みたいな概念があり得るかどうか法制的にはよくわかりませんけれども、議論 はあり得るかと思います。 ○荒木先生  指針の根拠条文を作って指針を書いた場合に、それは裁判所を拘束するのですか。ア メリカの公正労働基準法は、行政解釈を出して、行政解釈に従って行動した場合には、 それは裁判所の目から見て違法であったとしても違法の責任は問われないという条文を 作っています。 ○菅野座長  あれは、罰則ないでしょう、公正労働基準法は。 ○荒木先生  あります。そういう仕組みにすれば別ですけれども、そうでなければ解釈指針を行政 が作っても、それを裁判所が拘束するというのはどういう理屈かということがありま す。もしそうであれば、労働者概念について、労働基準法研究会が報告書を出して、そ れを裁判所が尊重して判断した例があります。そういう労働契約法研究会みたいなもの で、これはこういう趣旨に解すのが妥当であるという報告書を出して、それはもちろん 裁判所を拘束しませんが、専門家の見解はこうであるということにする。もし指針を作 っても拘束しないのであれば、指針にこだわる必要もないかもしれません。 ○菅野座長  参考資料ね。 ○荒木先生  はい。 ○山川先生  拘束するためには、委任立法の形式をとらないと難しいかと思います。そうでないも のとしては、もちろん立法者は国会ですけれども、その原案を作った行政、あるいは審 議会なりの意思を示すのは、前回の労基法の改正のときには附帯決議でやっていまし た。そういう形で、もし裁判所が適用する際のメッセージを送るということであれば、 告示なり形式はいろいろあり得るとは思うのですが、あまり埋没しないようなものにし たほうが効果としてはあるのではないかという気がします。附帯決議も国会なのです が、指針という形ですと、比較的正式のもののようなイメージがありますので、原案を 作った者の意思が現れるような形の、なるべく目につきやすいような文章という形が何 かあり得ないかという気がします。 ○土田先生  参考資料的なものも考えられると思うのですが、中間取りまとめでも法の拘束で規定 しつつ、指針で具体的運用をしてというようなことがあります。要は、これは当事者の 行為規範としても役立てようと。事前の行為規範として、そして紛争を防止しようとい うことになると、わりと周知されるような形で作ったほうがいいのではないかという気 がするのです。その意味では指針なのかどうか、そこの形式はよくわからないのです が、そういうものにしたほうがいいのではないかと思います。 ○山川先生  最低限、個別労働紛争解決促進法で助言指導する際にはこういうふうにやってくださ い、というような手法は、搦手かもしれませんけれども使えるのではないでしょうか。 ○審議官(労働基準担当)  それは、行政側が行政客体に何かアクションを起こす法体系の中で、アクションの根 拠を法律レベルで認めていただくときの議論です。もしここで契約保護法が当事者の行 為規範や判例の判断を補うための法律とすると、それはストレートには使えないという 意識です。あえて遊びをすれば、当事者を縛る法律の中に指針というものを作れます よ、という法律でまず認知することが一つ、その指針をもし書き込んだら中は白地であ りますけれども、その指針を両当事者が尊重するということまで命令をかけてサンドイ ッチにしてやる。全く抽象的ですけれども、そんなやり方になるかもわかりません。こ れはいま思いついたもので何も吟味していないのですけれども、何らかの形で立法府の 意思で両当事者に効かせるようなものをやらないと、通常の場合は行政が法律を運用す る上で指導するときの根拠とする。だから、ここでの議論で、行政のための指針ではな くて、解釈のための指針と議論されると、何かの工夫が要るのではないかということを すごく感じています。もう一回整理しなければいけませんけれども。 ○労働基準局監督課長  労働総覧の107頁に、純粋民事法規と考えられている法律で指針を出した非常に珍し い例として、会社分割の場合の労働契約承継法の指針があります。これは指針を書くと きに、解釈というのは民事法規で解釈が難しいのでどう書いたかというと、「厚生労働 大臣は」と書いてあって、この会社が講ずべき「この承継に関する措置に関してその適 正な実施を図るために必要な指針を定めることができる」と書いて、「会社が講ずべき 措置に関して円滑化を図るために必要な指針」と書いています。使用者の行為規範みた いな書き方で書いています。  実際には111頁のところで、例えば下の段のイの基本原 則、維持される労働条件ということで、「商法又は有限会社法の規定に基づき設立会社 等に承継された労働契約は、分割会社から設立会社等に包括的に承継されるため、その 内容である労働条件はそのまま維持される」というふうに解釈みたいなことも書いてあ ります。こういうことも留意した上で、使用者はやってくださいということです。行為 規範的に書いておいて、実は解釈を書くというのはこれが最初ではないかと思います。 例としては、こういうのがあるということです。 ○土田先生  私のイメージもこんなものです。 ○労働基準局監督課長  イメージとして頭にあったのはこれですけれども、ほかに何があるのかです。 ○土田先生  細かすぎますけれどもね。 ○曽田先生  そうですね。 ○菅野座長  予定の時間になりましたので、「労働関係の成立」についての議論は以上とし、本日 の研究会はこの辺りで終了させていただきます。次回以降の研究会の日程、テーマを事 務局からお願いいたします。 ○労働基準局監督課調査官  資料7をご覧ください。日程については前回の研究会で御了解いただいております。 次回以降、それぞれの回のテーマについては当面は資料7のような日程とテーマで御議 論いただきたいと考えております。次回の研究会は、6月15日の10時から12時まで、場 所は厚生労働省18階の専用22会議室です。次回は、本日御議論いただきました論点に沿 って、「労働関係の展開」について御議論をお願いいたします。 ○菅野座長  本日の研究会はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。 照会先:厚生労働省労働基準局監督課政策係(内線5561)