05/05/10 労働政策審議会労働条件分科会第41回議事録            第41回労働政策審議会労働条件分科会                     日時 平成17年5月10日(火)                        16:00〜                     場所 厚生労働省17階専用第21会議室 ○西村分科会長  第41回労働政策審議会労働条件分科会を開催します。本日は、荒木委員、廣見委員、 紀陸委員、佐藤みどり委員、奥谷委員、谷川委員、原川委員が欠席されています。また 紀陸委員の代理として讃井さんが出席されています。本日の議題に入ります。本日の議 題は、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の中間取りまとめについてで す。事務局より資料について説明をお願いします。 ○監督課長  お手元にお配りしている資料番号No.1以下について説明します。昨年3月23日のこ の労働条件分科会におきまして、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」を今 度開催するという説明をさせていただきました。その際に、この研究会の節目、節目で 検討がまとまった場合には、その経過を報告するようにとの御指示をいただいたところ です。今般、4月13日にこの研究会の中間取りまとめがなされましたので、前回の御指 示に従いまして御報告をさせていただきます。資料No.1が本文で、資料No.2はポイン トの1枚紙です。資料No.3はそれをもう少し詳しくした2枚紙で、概要としては資料 No.4があります。本日は資料No.2と資料No.4に沿って説明します。  資料No.2のポイントを説明させていただきます。これは全体像ですが、労働契約法 の必要性です。背景としては左のほうに五つあるポツの最初の四つです。労働条件決定 がだんだん個別化してきた。経営環境の急激な変化がある。個別労働関係紛争が増加し てきている。労働組合の組織率の低下等もあり、集団的労働条件決定システムの機能の 低下がある。  右側のほうにいき、労使当事者が実質的に対等な立場で自主的に労働条件を決定する ことを促進し、紛争の未然防止等を図るために、労働契約に関する公正・透明なルール を定める新たな法律が必要となってきている。このような背景から、そういうふうにな っています。  背景のところの最後の五つ目のポツですが、経営環境あるいは労働環境が多様化して いる等もあり、労働者の自律的な働き方に対応するために、労働時間法制の見直しも検 討していく必要が同時にあるという背景もあります。これに対しては、もし仮に労働時 間法制の見直しを行う場合には、当然、労使が労働契約の内容を対等な立場で自主的に 決定できるようにするための労働契約法が不可欠になってくる。どうしても個別の労働 者と組織たる企業の労働者間での仕事の配分、その他について、個別の合意ということ が出てきますので、それを対等の立場で自主的に決定できるシステムを作っていく必要 がある。そういう意味でも労働契約法が不可欠であるという考え方です。  真ん中のところで労働契約法の性格としては、労働契約に関する公正・透明なルール ですので、基本的には労働基準法とは別の民事上のルールを定めた新たな法律にする必 要がある。そして履行確保のための罰則や監督指導は行わない。もし契約遵守のために 罰則とか監督指導が必要な部分については、労働基準法において整理する。この労働基 準法についても労働契約に関するルール明確化の観点から、例えば労働基準法第15条の 労働条件の明示のような部分について、こういう事項を中心に見直し、拡充ができる部 分がないかという点でも検討を行う。  具体的な検討の方向性ですが、労働契約法の制定の部分と、労働基準法の見直しの部 分の二つに分かれています。中身については資料No.4で説明しますが、簡単に申し上 げると、労働契約法のほうでは、(1)が、労働条件の設定の運用状況を常時調査討議 し、労働条件の決定に多様な労働者の意思を適正に反映させることができる常設的な労 使委員会制度を整備する。  労働契約法の手段としては、(2)手続規制、任意規定や推定規定なども活用する。 もちろん強行規定というのもあるわけですが、実体規定以外にも手続規制、任意規定や 推定規定という形で、いろいろな手段を使うということ。  中身としては、(3)労働契約の成立・変動・終了に関する要件と効果を規定する。 具体的なものとしては採用内定、試用期間、配置転換・出向・転籍、懲戒、解雇、退職 等のルールの明確化、安全配慮義務や労働者の個人情報保護義務等の整備、「雇用継続 型契約変更制度」の導入の検討、解雇の金銭解決制度の導入の検討等という形で、多岐 にわたっています。(4)の有期労働契約関係についても、法律的な検討をしていただ いています。  労働基準法の見直しですが、これは平成15年の労働基準法改正のときに、契約期間と いうのは基本的に1年であるものを3年に延ばしましたが、この研究会の中では、その 期間を定める法的意味を三つに分類しています。期間を定めるということは、一つは労 働者がその期間は退職が制限される。二つ目として、その間は使用者が労働者を解雇で きない。三つ目として、その期間が過ぎれば契約が終了する。この三つがあるわけです が、労働基準法の期間制限については、本来的には労働者の身分的拘束の弊害を除去す るということで、契約期間の上限規制の趣旨は労働者の退職制限の防止に限られる。こ こをきちっと明確化し、(2)、(3)については、むしろ労働契約法等のほうで考えるべき ではないかということです。  採用内定期間中の解雇予告制度の適用除外ですが、これは試用期間の勤め始めてから 14日目までは解雇予告制度の対象にはならないとなっていますけれども、そもそも勤め る前の状態であれば均衡から考えれば、そこも適用除外というふうになるのではないか と言われています。  労働契約法の兼業の禁止については、今後はいわゆるダブルジョブホルダーが増え る。あるいは労働者の自由時間については自由に利用できるということから、兼業を禁 止することは基本的に無効とするのが適当ということです。これは後でまた説明します が、そうしますと使用者にしてみれば、自分の事業場で働く場合についてはコントロー ルできても、それ以外の時間についてはコントロールできなくなるということで、労働 基準法第38条第1項という、1日8時間労働等の規定の適用のときには自分の事業場以 外の別法人格の事業場で働く場合も通算するというのがありますが、これはそのまま強 制するのは難しくなってくるのではないかという議論等もあります。  先ほども申し上げましたが、労働契約に関するルールの明確化の観点から、労働条件 を明示する事項については、さらに拡充していく必要がある。あるいは就業規則の必要 記載事項についても、もう少し見直す必要があるのではないかという観点の指摘もあり ます。  平成15年の労働基準法改正で盛り込まれた第18条の2、いわゆる解雇権濫用法理の関 係ですが、こういう民事的効力のみを有する規定を、労働契約法のほうに移行するのが 適当であるということも言われています。これは全体像です。中身については資料No.4 に沿って具体的に説明します。  第1総論で、1の労働契約法制の必要性ですが、近年の労働契約をめぐる状況の変化 ということで、アは、労使当事者の自主的な決定と公正かつ透明なルールの必要性で す。近年、就業形態・就業意識の多様化に伴う労働条件決定の個別化の進展、経営環境 の急激な変化に対応する迅速・柔軟な労働条件変更の必要性の増加、あるいは個別労働 関係紛争の増加が見られる。集団的労働条件決定システムの機能の低下という、最近は 労働契約をめぐる状況に大きな変化が見られるということです。労働者の創造的・専門 的能力を発揮できる自律的な働き方に対応した労働時間法制の見直しの必要性も指摘さ れる。  こういう関係から、どうしても就労形態の多様化等もあって、労働条件の個別的な決 定・変更の必要性ということが出てくるわけですが、労使当事者が、最低基準に抵触し ない範囲において、労働契約の内容をその実情に応じて自主的に決定することが重要と なる。その際には労使当事者の行動の規範となる公正かつ透明なルールを設定する必要 がある。  イで、現在の労働契約に関するルールの問題点を見てみると、判例法理による部分を 言うわけですが、それは具体的な事案に適用する場合の予測可能性が低いということ。 したがって、一般的に労使当事者の行動の規範となりにくい。また判例法理というのは 既存の法体系を前提に、判決当時の社会通念を踏まえて形成されたものであるけれど も、今日の雇用労働関係の下における、より適切なルールを提示する必要性が高まって いる。さらに、今後、純然たる民事的効力を定める規定を、更に労働基準法に盛り込む ということになると、罰則と監督指導によって労働条件の最低基準を保障する。そうい う労働基準法の性格というのがありますので、それとは異なる規定が増加するというこ とで、法律の体系性が損なわれることが起こる。また労働契約に関するルールについて は、労働基準法第13条の定める強行的・直立的規定というのがあり、ここでも民事的な 効力はあるわけですが、そうではなく、例えば任意規定、推定規定というようなものま で労働基準法に盛り込むというのは、なかなか難しいものもあるということです。そう いうことから労働契約法というのは必要になるわけです。  (2)の労働契約法制の必要性のアですが、以上のようなことをまとめて、労働関係 が公正で透明なルールによって運営されるようにするために、労働基準法とは別に労働 契約の分野において民法の特別法となる労働契約法を制定し、労使当事者がその実情に 応じて自主的に労働条件を決定することができ、かつ、契約の内容が適正なものになる ような労働契約に関する基本的なルールを示すことが必要である。  この労働契約法制においては、単に判例法理を立法化するだけでなく、実体規定と手 続規定とを組み合わせる。あるいは任意規定とか推定規定を活用する。そういうことに よって労使当事者の行動規範となり、かつ、具体的な事案に即した場合の予測可能性を 高めて、紛争防止にも役立つようなルールを形成することが必要だ。イで労働基準法と 労働契約法制それぞれの役割ですが、労使当事者の自主的な決定を促進する労働契約法 制と、労働条件の最低基準を定め、罰則や監督指導により、その確保を図るやり方、そ ういう従来の労働関係法令とは、両者があいまって時代の変化に対応した適正な労働関 係の実現を可能とするということです。  こういう観点から労働時間制度についてみますと、就業形態の多様化や事業の高度化 ・高付加価値化により、労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方への 対応が求められている。そういう状況で労働契約法制を制定する際に併せて、労働基準 法の労働時間法制についても基本的な見直しを行う必要がある。  また逆の意味で、仮に労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方に対 応した労働時間法制の見直しを行うとした場合には、労使当事者が業務内容や労働時間 を含めた労働契約の内容を、対等な立場で自主的に決定できるようにする必要がある。 これを担保するためには労働契約法制を定めることが不可欠となると指摘されていま す。  2の労働契約法制の内容と規定の性格ですが、これは先ほど資料No.2で説明したよ うに、基本的に強行規定というのは当然必要となる。労使間の情報格差、交渉力格差か ら見ても、それは当然必要です。一方で、労働契約の多様性を尊重しつつその内容を明 確にするためには、労使当事者間が労働契約を締結する際に内容が不明確であった。そ ういう場合にその内容を明らかにして、紛争を未然に防止する任意規定や推定規定を必 要に応じて設けることが適当であろうということ。  また、労働契約の内容の公正さを確保するためには、実体規定だけではなく手続規 定、特に労使の協議という規定、あるいは書面明示等の手続規定も重要であって、事項 に応じて実体規定と手続規定を適切に組み合わせることが適当である。こういう指摘が なされています。  3で、この労働契約法制の履行確保をどうするかが一つの大きな問題ですが、基本的 にはこの労働契約法制の履行に係る行政の関与は、個別労働紛争解決制度に従って行 い、罰則や監督指導は行わないことが適当とされています。  ただし、労働契約法制においても、労使当事者間の情報の質及び量の格差、交渉力の 格差があります。また紛争の未然防止等を図るために、行政として労使当事者からの労 働契約に関する相談に応じたり、関係法令等の解釈の指針等を示す。労働契約に関する 資料・情報を収集して、労使に対して適切な情報提供を行う。そういう必要な援助は適 時適切になされるべきだという指摘です。  4で、労働契約法制を考える場合、労働契約法制が対象とする者の範囲ですが、これ については労働契約法制の中身に密接に関わることですので、労働契約法制全体の検討 をさらに深めることに併せて、引き続き検討することが適当であるということで、ここ についてはさらなる検討という形になっています。  5の労働者代表制度ですが、これは労働条件の設定に関する運用状況を常時調査討議 することができ、労働条件の決定に多様な労働者の利益を公正に代表できる常設的な労 使委員会が設置され、当該委員会において使用者が労働条件の決定・変更について協議 を行うことを、労働契約法制において促進する方向で検討することが適当である。  例えば促進する方法として、就業規則の変更の際に、労働者の意見を適正に集約した 上で、労使委員会の委員の5分の4以上の多数、つまり労働側委員の過半数の賛成は確 保できている状態のときに、その変更を認める決議がある場合に変更の合理性を推定す ること。あるいは労使委員会における事前協議や苦情処理等の対応を、配置転換、出 向、解雇等の権利濫用の判断基準の一つとすることなどが考えられるということ。  第2の労働関係の成立で、1の採用内定ですが、(1)採用内定と労働基準法との関 係です。先ほども説明したように、採用内定期間中について労働基準法第20条の適用を 除外することの是非について、引き続き検討することが適当である。(2)採用内定取 消ですが、これは大日本印刷の最高裁判決に沿い、解約権を行使する事由が採用内定者 に対して書面で通知されている場合には、当該留保解約事由に基づきなされた留保解約 権の行使については、当該解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認めら れ、社会通念上相当と認めるものであれば、権利の濫用に当たらないことを法律で明ら かにする方向で検討するのが適当です。この場合に、採用内定当時に使用者が知ってい た事由及び知ることができた事由による採用内定取消というのは、無効とする方向で検 討することが適当である。基本的には最高裁判例によりますが、書面性ということも加 味して、ここで指摘されています。  2の試用期間ですが、期間の定めのない契約において、最初、適性を見るために試用 期間というのは置かれる場合が多いですけれども、その試用期間中については、適性を 見る期間が長くあれば労働者の地位が不安定であり、その他、調査をすれば労働条件等 も不利益なまま置かれているのではないかなど、これも今後、検討する必要がありま す。そういう問題もありますので、これについては期間の上限を定める方向で検討する ことが適当だろうということです。実際、3か月というのは非常に多く6割から7割で す。6か月でも97%ぐらいという実態もあります。また試用期間であることが労働者に 対して書面で明らかにされていなければ、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自 由は認められないとする方向で検討することが適当であるという指摘もあります。  3の労働条件の明示関係ですが、基本的に労働基準法第15条で、労働契約締結の際に 主要な労働条件は労働者に書面で明示するとなっています。それは今後も履行確保のた めに労働基準法に残すとして、それに違反した場合の法的効果については特に規定がな い。一部、事実と違っている場合には労働者のほうから解除できるというのがあります が、労働者のほうの解除権というのは労働者としてメリットが少ない。むしろここに書 いてあるように、労働契約の締結時に労働者に明示された労働条件に達しない場合に は、労働者は、明示された労働条件の適用を使用者に対して主張できることを明確にす る方向で検討することが適当であると指摘されています。以上が労働関係の成立の部分 です。  第3の労働関係の展開で、1の就業規則です。(1)の就業規則と労働契約との関係 で、これは秋北バス事件最高裁判例でもありますように、就業規則の内容が合理性を欠 く場合を除いて、労働者及び使用者は、労働条件は就業規則に定めるところによるとの 意思を有していたものと推定する、という趣旨の規定を設けることが適当である。この 場合、その推定も反証を挙げて覆すことができる。契約成立時においては就業規則が示 されていれば、具体的に労働者のほうが了知していなかったと仮にしても、示されてい る以上は、その中身によるという意思を有していたものと推定する。そうでないという 反証があれば、それは認めるという趣旨のことが書かれています。  ただ、そういう就業規則であっても効力発生というのは、もう少し厳密に見るべきだ という議論があります。4頁のイで、就業規則が拘束力を生ずるためには、その内容の 適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとする判例 法理を、法律で明らかにすることが適当である。これはフジ興産事件最高裁判決等でも 示されたところです。  また、現行の労働基準法で必要とされている過半数労働組合等からの意見聴取を、拘 束力を発生するための要件とする方向で検討することが適当である。なお、この場合、 意見を聞こうとしても応じてくれない場合もある。あるいは10人未満の事業場について は、労働基準法上は義務となっていないということもありますので、そういう場合、個 々の労働者に対して就業規則の内容を周知した上で、意見を募集する措置を講ずる場合 でも、拘束力を認めてもいいのではないか。  さらに、行政官庁への届出を就業規則の拘束力が発生するための要件とする方向で検 討することが適当である。これは秋北バス事件最高裁判決では、この行政官庁への届出 というのも、一つの判断要素として入れているということです。実際に行政官庁へ届出 すると、法令違反の部分については変更命令という形で是正ができる担保もあるので、 そういうことも拘束力の判断に入れてもいいのではないかという議論があります。  ウの労働基準法上の就業規則の作成手続ですが、現行の過半数労働組合又は過半数代 表者からの意見聴取のほか、労使委員会が当該事業場の全労働者の利益を公正に代表で きるような仕組みを確保した上で、過半数代表者からの意見聴取に代えて、労使委員会 の労働者委員からの意見聴取によることを認めること。あるいは意見聴取の手続に関す る指針を定めることについて、検討する必要があるという指摘です。  現在、労働基準法第93条では、就業規則の基準に達しない労働条件は就業規則のレベ ルで、つまり最低基準として保証するという規定がありますが、これは民事的な効力の みを有しているので、労働契約法の体系に移す方向で検討することが適当であるという 指摘もあります。以上が、労働契約締結時における就業規則が、契約の中身になる場合 の関係です。  (2)は、実際に就労を開始した後、事情の変更等により就業規則を変更する必要が 生じた場合の話です。それによって労働条件を変更する場合、これも秋北バス事件の最 高裁判例等、その後の第四銀行事件、みちのく銀行事件等の判例が大体かたまってい て、就業規則による労働条件の変更が合理的なものであれば、それに同意しないことを 理由として、労働者がその適用を拒否することはできないという、就業規則の不利益変 更に関する判例法理を、法律で明らかにすることを検討すべきである。この場合の労働 条件変更についての拘束力についても、先ほどの就業規則の効力発生要件と同じよう に、周知、意見聴取、行政官庁への届出という要件は当然、必要だろうと指摘されてい ます。  イの就業規則の変更による労働条件の不利益変更について、さらに詳しく書いていま す。就業規則の変更による労働条件の不利益変更について、一部の労働者に対して大き な不利益のみを与える変更の場合を除いて、労働者の意見を適正に集約した上で、過半 数労働組合が合意をした場合又は労使委員会の委員の5分の4以上の多数により、変更 を認める決議があった場合には、変更後の就業規則の合理性が推定される。そういうこ とについてさらに議論を深める必要がある。  これは資料No.2で説明した労使委員会制度を設けることにより、これは常設的であ るということで、常に討議した後のフォローアップもできる委員会を設けることは、労 使、特に企業経営の平和あるいは安定という観点からもいいですし、労働者のほうも意 見が言えるということで非常にメリットがあり、促進する方策が必要だということは言 っていましたが、その中で一つは、こういう労働者の多数の意見が賛成している場合に は合理性が推定される。  第四銀行事件やみちのく銀行事件のように、当時は55歳定年を60歳に延ばすという場 合に就労期間は延びるわけですが、賃金原資の関係から若干の賃金体系の変更がある場 合に、何が不利益か、何が合理的な変更なのかはなかなか難しい。そういう場合に、影 響を受ける労働者の過半数が「いいだろう」と言っている場合には、合理性を推定する としても、それは一つ理由があるのではないか。そうすることによって使用者としても 予測可能性ができる。いままで判例等で、裁判をしなければわからなかったということ なく、安定的に労使関係が運営できるメリットがあります。労働者のほうも自分たちの 意見が言えて、双方にメリットがあるのではないかという議論もありました。そのひと つの大きな表われとして、就業規則の変更による労働条件の不利益変更の場合の合理性 の判断に、それを活用するということです。  2の雇用継続型契約変更制度ですが、これは就業規則を変更することによって労働条 件を変更できる場合も多数ありますけれども、最近は例えば最初から職種限定で雇われ る、あるいは勤務地を限定して雇われるという方々、あるいは就業規則をどう変更しよ うと、あなたについてはもうこれで変えませんという個別の合意があるものについて は、就業規則の変更によって労働条件変更はできないのですが、一方で企業環境の変化 等に伴い、どうしても事業場を閉鎖せざるを得ない、あるいはその職種が維持できない 場合に、職種や勤務地を変わってほしいということも、今後は多く出てくる可能性があ る。  そういうときに、基本的には労働契約の変更のことですが、労使当事者が双方、どう しても意地になったりして不幸にも解雇に至るということがあると、それは非常に経済 的にもコストがかかるだけで労使双方にメリットがない。労働者が雇用を維持した上 で、どうしてもお互いが自分の正当性を裁判所等で認めてもらいたいという場合には、 労働契約の変更の合理性を争うことを可能とする制度を設けることは、非常に有益だろ うという指摘がありました。名称としては雇用継続型契約変更制度と名付けています。  案としては二つ書いています。案の(1)は契約変更の申込みをするということです。 申込みに際しては一定期間きちっと協議する。協議が整わない場合の対応として、契約 変更の申入れと、一定期間内において労働者がこれに応じない場合の解雇の通告を同時 に行う。労働者は労働契約の変更について異議をとどめて承諾しつつ、雇用を維持した まま、この変更の効力を争うことを可能にする。こういう制度を設けるという案です。  その際、労働契約の変更を認める場合としては、例えば変更が経営上の合理的な事情 に基づき、変更の内容が合理的であって労働者と十分な協議を行う。就業規則変更法理 などの他の手続によっては、労働条件の変更を実現することができない場合に限る。こ ういう上で労働者が異議をとどめて承諾した場合についての解雇を無効とするという手 続です。  案(2)は、端的に使用者に労働契約の変更権を認める形にしています。労働契約の変 更の必要性が生じた場合には、変更が経営上の合理的な事情に基づき、かつ、変更の内 容が合理的であるときは、使用者に労働契約の変更を認める。こういう場合の行使は労 働者と十分な協議を行った場合であって、就業規則変更法理などの他の手段によっては 労働条件の変更を実現することはできない、あるいは本制度による変更を行わざるを得 ない場合に限るということが考えられます。  また、労働者が使用者の変更権の行使に従って就労しつつ、この変更の効力を争って いる場合に、当該争いを理由として行われた解雇は無効とするという厳密な手続もする 必要がある。さらに、使用者が本制度による変更権を行使することによって、解雇を回 避できるにもかかわらず、これを行使せずに労働者を解雇したときには、当該解雇を無 効とするということについても議論を深める必要があるという検討がなされたところで す。  3の配置転換ですが、配置転換に関する権利濫用法理というのは最高裁判例等で出さ れました。これについて法律で明らかにすることについて議論を深めることが適当であ るという指摘がなされています。特に配置転換の場合は通常の業務命令と区別が付かな い場合も多いのですが、特に問題となるのが転居を伴う配置転換です。その可能性があ る場合には、その旨を労働基準法第15条に基づき明示する。その明示事項の中に一つ入 れる。それとパラレルな関係にありますが、就業規則の必要記載事項の中にも入れるこ とについて検討することが適当だと指摘されています。  4の出向ですが、(1)出向命令の効力については、使用者が労働者に出向を命ずる ためには、少なくとも、個別の合意、就業規則又は労働協約に基づくことが必要であ る。これを法律で明らかにする方向で検討することが適当であるとされています。それ から出向の可能性がある場合には労働基準法第15条の明示事項に入れる。あるいは就業 規則の必要記載事項に入れることも検討することが適当である。また、権利濫用法理に ついても議論を深めるということが指摘されています。  (2)出向をめぐる法律関係として、出向の際は口頭で「出向してくれ」と言われ て、後はっきりしないまま出向することもあって、いろいろともめるということもあり ますので、出向労働者と出向元あるいは出向先との間の権利義務関係を明確にするため に、これは例えばということですが、出向労働者と出向元との特別の合意がない限り は、出向期間中の賃金は出向を命じる直前の賃金水準をもって、出向元と出向先が連帯 して当該出向労働者に支払う義務がある。そういう任意規定を置く方向で検討すること が適当であるということです。これは、「出向してくれ」と言った使用者のほうがきち っとしていない限りは、その危険は出向元のほうが負うということです。もちろん出向 先のほうが賃金が高い場合については、水準を超える部分については別に連帯義務とい うものはないわけですが、特に低い場合あるいは出向時の賃金水準の場合に、そこまで の部分の支払担保の責任があるということです。  5の転籍ですが、転籍については、いま勤めているところを完全に辞めて新たな所に 移るわけですので、労働者の実質的な同意を確保する必要がある。そういう観点から、 使用者は労働者を転籍させようとする際には、転籍先の名称、所在地、業務内容、財務 内容等の情報及び賃金、労働時間その他の労働条件について書面を交付することにより 労働者に説明をした上で、労働者の同意を得なければならない。書面交付による説明が なかった場合や転籍後に説明内容と現実が異なることが明らかになった場合には、転籍 を遡及的に無効とする方向で検討することが適当であると指摘がなされています。  6の休職ですが、これについては、本来ですと就業規則の必要記載事項に入れておく べきであったという指摘がありました。  7の服務規律・懲戒で、(1)懲戒の効力発生要件ですが、使用者が労働者に懲戒を 行う場合には、個別の合意、就業規則又は労働協約に基づいて行わなければならないと することが適当である。これはフジ興産事件最高裁判決等ではっきりしているところで す。  (2)懲戒及び服務規律の内容ですが、就業規則等に定めた懲戒事由及び服務規律事 項は合理的に限定解釈されるべきとすることについて検討する必要がある。また、懲戒 が権利濫用に当たる場合は無効となることを、法律で明らかにする方向で検討すること が適当であるという指摘もされています。  (3)懲戒の手続ですが、これは特に判例等はありませんけれども、減給、停職、懲 戒解雇のような労働者に与える不利益が大きい懲戒処分については、対象労働者の氏 名、懲戒処分の内容、対象労働者の行った非違行為、適用する懲戒事由、これらを書面 で労働者に通知することとし、これを使用者が行わなかった場合には、懲戒を無効とす ることについて議論を深める必要があるという指摘がありました。  8の昇進、昇格、降格ですが、昇進、昇格、降格については基本的に使用者のほうの 人事権ということですけれども、その人事権の濫用は許されないことを明確にすること が適当である。さらに職能資格の引下げ、いわゆる係長職、課長職という役職ではな く、こういう技能のある人という意味での職能資格を引き下げる場合、役職の降格に伴 うのとは違い、こういう職能資格の引下げとしての降格については、就業規則等の明確 な根拠が必要であるという方向で検討することが適当であるという指摘がなされていま す。  9の労働契約に伴う権利義務関係で、(1)の労働者の付随的義務として兼業禁止義 務が書かれていますが、基本的には競業に当たる場合、その他兼業を禁止することにや むを得ない事由がある場合を除いては、いわゆる仕事を提供する義務がない部分は自由 利用の原則というのがありますから、そういうことをするのは無効とする方向で検討す ることが適当である。このやむを得ない事由として実際に挙げられていたものとして は、例えばトラック運転手のように疲れによって安全運転ができなくなる恐れがある場 合は、除く必要があるのではないかという議論がなされています。  兼業禁止を原則無効とする場合には、先ほど申し上げた労働基準法第38条第1項につ いて、使用者の命令による複数事業場での労働の場合を除いて、複数就業労働者の健康 確保に配慮しつつ、これを適用しないこととすることについて、併せて検討することが 必要となるということです。  イの競業避止義務ですが、実際に労働者がまだ働いているときの競業避止義務という のは当然のことであり、信義則から明らかなので特に法律上、規定する必要はない。た だ、退職後も競業避止義務を負わせるという契約は結構あって、裁判例もいくつかあり ます。そういう場合には労使当事者間の書面による個別の合意、就業規則又は労働協約 による根拠が必要であるということを、法律で明らかにすることが適当であるというこ と。競業避止義務を課す個別の合意等の要件としては、労働者の正当な利益を侵害する ものであってはならない、あるいは当該義務に反する労働者の具体的な行為が、現実に 使用者の正当な利益を侵害することが考えられる場合に限る。こういう議論がありまし た。さらに退職後の競業避止義務については、競業避止義務の対象となる業種、職種、 期間、地域が明確でなければならない。そういう要件を課して、これらを退職時に書面 により明示することが必要とする方向で検討することが適当であるということです。  これと似たようなものとして、ウの秘密保持義務ですが、これについては不正競争防 止法で営業秘密について、それを犯す場合は退職労働者についても罰則や差止め等の規 定があります。ここで議論されたのは、営業秘密というのは厳重に管理された秘密だけ を指しているので、これは罰則等がかかる関係で非常に厳格になされています。それ以 外にも、管理しなくても守るべき企業の秘密というのはあるのではないかという議論が あり、ただ、それを野放図に認めるというわけにもいかないということで、不正競争防 止法の保護する範囲以上に労働者に退職後も秘密保持義務を負わせる場合には、労使当 事者間の書面による個別の合意、就業規則又は労働協約による根拠が必要であること を、法律で明らかにすることが適当である。また当該合意や就業規則等の規定等につい ては、当該義務に反する労働者の行為により、使用者の正当な利益が侵害されることを 要件とするべきである。つまり形式的にいかにも秘密を漏らしたように見えていても、 実際、それが使用者にとって何も利益を侵害されない。しかもそれが正当な利益を侵害 されたわけではないという場合には、それは別に義務違反として取り扱うべきではない という議論がありました。  当然ですが、労働者が退職後も秘密保持義務を負う場合には、秘密保持義務の内容及 び期間を、退職時に書面により明示することが必要とする方向で検討することが適当で ある。これは特に秘密保持義務の場合、秘密というのは時々刻々変わりますので、退職 時に書面で出すということは、競業避止義務以上に重要なことだという指摘がありまし た。この退職時に書面によらない場合は、もしやらなければそれは義務としては無効で いいのではないかという議論もなされたところです。  (2)の使用者の付随的義務ですが、アの安全配慮義務は最高裁判決がいろいろあり ます。川義事件等で、使用者は労働者が労務提供のために設置する場所、設備若しくは 器具等を使用し、又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生 命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負う。こういう安全配慮義務 で、これは確立された判例ですが、これについては法律で明らかにすることが適当であ ると指摘されています。  イの個人情報保護義務ですが、今年の4月1日から個人情報保護法というのが施行さ れています。5,000件以上の個人情報を保有する企業、事業者については、持っている 個人情報を適切に管理する義務がある。要するに不正な目的で利用してはいけないとか 他に漏らしてはいけない。そういう義務が当然にかかる。それ以外に、個人情報を保有 されてしまった当人から開示請求があれば開示に応じなければいけないとか、訂正請求 があれば訂正しなければいけない。それに違反した場合には主務大臣からの勧告があっ て、それに違反すればさらに罰則が付く。こういう規定があります。  ただ、これは5,000件以上持っている場合です。5,000件未満の場合でも、持っている 個人情報を不正に利用してはいけない。あるいは勝手に漏らしてはいけない。そうい う、いわゆる根源的な義務については、どのような規模の企業も、そこはやらなければ いけないという議論もあり、労働者の個人情報を適正に管理しなければならない部分に ついては、法律で明らかにする方向で検討することが適当である。それ以上に開示請求 に答えるとか訂正請求というのは、規模の小さい中小零細にはなかなか難しい部分もあ る。そういうことで個人情報保護法上も外しているわけです。そこは難しいのではない かという議論もありました。  10の労働者の損害賠償責任ですが、ここでよく問題にされているのが、業務と明確に 区分された留学・研修費用に係る金銭消費貸借契約について、裁判例等では、基本的に 企業で留学・研修費用を負担し、それは一応貸した形にしておいて、研修や留学から戻 って来た後に一定期間勤めることを条件に、その返済を免除するというのがあります。 これは労働基準法第16条に当たるという裁判例等があります。ただ、確かに業務の一環 としての留学・研修費用の場合は非常に問題がありますけれども、留学制度があって自 由に応募できる、あるいは留学中については学問に専念できるという場合まで、こうい う労働基準法第16条で禁止すると言ってしまえば、逆に企業は、そういう留学制度等を 設けなくなる恐れもある。それは労使ともにメリットがないのではないかという指摘も ありました。そういうことで業務等明確に区分された場合については、少なくとも労働 基準法第16条の禁止する損害賠償の予定には当たらない。この辺は裁判の動向とは違っ て、はっきりとそうではないということを明らかにするのが適当ではないか。  一定期間以上の勤務を、費用の返還を免除する条件とする場合、これはあまり長くす るのは逆に身分的拘束の問題も出てくるということで、民法第626条では、どんなに長 い期間の定めのある雇用期間でも、5年を過ぎれば労働者は辞めることができるとある ので、その均衡を考慮して、その返済免除期間としては5年以内に限るとし、5年を超 える期間については、5年とみなすという形で検討することが適当であるとしていま す。6年、7年というふうにあっても、5年勤めれば返済免除となるのが適当だという ことです。  第4の労働関係の終了ですが、1の解雇で、現在ある労働基準法第18条の2との関係 です。(1)の解雇権濫用法理については労働基準法第18条の2がありますけれども、 さらに要件がもう少し明確化できないかということで、解雇は労働者側に原因がある理 由によるもの、企業の経営上の理由によるもの、それからユニオン・ショップ協定ある いはクロード・ショップ協定も一応あり得るということですが、そういうユニオン・シ ョップ協定等の労働協約の定めによるものでなければならないことを明らかにすること について、検討する必要がある。解雇に当たって使用者が講ずべき措置を、指針等によ り示す方向で検討することが適当である。こうすることによって、もう少し解雇権濫用 法理も明確化してくるのではないかという指摘がありました。  (2)の労働基準法第18条の2の位置付けについて、これは純粋明示的なものである し、解雇権濫用法理をさらに明確化するということをやるためにも、労働契約法の体系 に移す方向で検討することが適当であるという指摘もありました。  2の整理解雇については、解雇権濫用法理の中でも整理解雇については4要件とか4 要素という議論がありますが、予測可能性の向上を図るために考慮事項を明らかにする 必要がある。そのときには人員削減の必要性と解雇回避措置、解雇対象者の選定方法、 解雇に至る手続、こういう考慮事項を挙げて、それを明らかにすることについて議論を 深める必要がある。さらに、その整理解雇に当たって使用者が講ずべき措置を指針等で 示すということで、この四つの考慮要素をもう少し詳しく書く。それ以外にどうしても 解雇せざるを得ない場合でも、代償措置について指針の中に入れる必要があることも議 論されました。  3の解雇の金銭解決制度ですが、閣議決定等で検討するということで出た中身です。 ここでは解雇紛争の救済手段の選択肢を広げる観点から、仮に解雇の金銭解決制度を導 入する場合に、実効性があって、かつ、濫用が行われないような制度設計が可能かどう かという形で、法理論上の検討をしたということです。  基本的には、労働者からの金銭解決の申立てをして、アに書いてあるように一回的解 決をまず図る必要があるということです。要するに解雇無効で従業員たる地位の確認を 求めることをして、通常で考えると、その地位確認の訴訟は訴訟で終わり、その後また 金銭解決の申立てをすると二度手間になる。それは解決の迅速性とか一回的解決という 意味であまり実効性が上がらないとの指摘があり、やはりここは一回でやる必要があ る。そのとき理論的におかしいとされないかどうかをよく検討する。地位の確認を訴え ておきながら、一方で自分から地位を捨てるというのは矛盾するのではないかという議 論もありますが、そこは、地位の確認を求める訴えを認容する判決が確定した場合に、 その確定の時点以後に本人が辞職の申出をしたら、それを引き換えとして解決金の給付 を求める訴えを併合するという形で、整理ができるだろうということで、紛争の一回的 解決に向けて同一裁判所での解決の手法について検討を深めるべきだということです。  要するに、解雇が無効で従業員たる地位の確認がなされる。そこまでは従業員の地位 はある。それ以降に辞職の申出をした場合、その辞職の時点以降は地位がなくなる。そ の代わりに金銭を求める。そういう地位確認の訴えと、辞職の申出と引き換えに給付判 決を求めて訴えることを併合する形でやれば矛盾もしないし、その時点における整理も できているし、同一裁判所でそれが判断できるというメリットがあるということです。  イの解決金の額の基準ですが、解雇の金銭解決制度で導入する場合にネックとなって いたのは、企業の規模や業種によって解決金の支払い能力が千差万別であり、それを一 律に決めるのはなかなか難しい部分があるということです。これについては個別企業に おいて事前に、労使間で集団的に解決金の額の基準について合意されている場合に限っ て認める形にして、その基準をもって解決金の額を決定する。そういう工夫をすること が可能ではないか。そうすることによって、労使が集団的に話合いをちゃんとした場合 だけだというメリットもあるし、額が事前にはっきりしているメリットもある。個別企 業の事情に応じた解決金の額も決まるというメリットもあるということです。  (2)の使用者からの金銭解決の申立てですが、これは必要だとか、相当慎重にやら なければいけないとか、いろいろ意見が出されたところです。解雇を無効にするか有効 にするかの判断がぎりぎりの場合、例えば51対49で解雇は無効とせざるを得ないが、実 際に職場に戻れるかどうかはまた別の問題で、例として出されたのが、例えば職場でセ クハラをした職員がいて、それがどうしても職場での影響が高いので慌てて解雇したけ れども、その人のその後の生活を考えると解雇するのはかわいそうだ。ただし、職場で はセクハラをしたような人と一緒に仕事はできないと従業員が騒いでいて、なかなか戻 すことも難しいという場合には、例えば解決として使えるのではないかという指摘があ りました。  この場合について、いずれにしてもどうやったら濫用を防げるかという点が、何か仕 組みとして可能かどうかを検証するということです。特に一番大きな批判というのが、 アの「違法な解雇が金銭を払うことによって有効となる」、そういう批判がある。これ については9頁にあるように、使用者からの金銭解決の申立てについては、例えば、解 雇が無効であると認定できる場合に、労働者の従業員たる地位が存在していることを前 提として解決金を支払う。そういうことにより、その後の労働契約関係を解消すること ができる仕組みとする。  これも労働側からの金銭申立ての場合と同じように、地位の確認の時点と解消の時点 を前後させる。時点を分ける形にして、解雇そのものが金銭により有効となるというも のではないとしてやるべきだということです。もちろんそれだけではなくて、いかなる 解雇についてもこの申立てを可能とするものではない。思想信条、性、社会的地位等に よる差別等の公序良俗に反する解雇の場合を除く。これは当然のことです。それだけで なく、使用者が故意又は過失によらない事情であって、労働者の職場復帰が困難と認め られる特別な事情がある場合に限る。こういうことも考えられるということです。  イの使用者の申立ての前提として、個別企業における事前の集団的な労使合意がなさ れていることを要件とする。そうすることによって労働者の過半数は、制度を設けても いいだろうということを事前に了解しているということで、そういう意味でも金銭解決 制度の濫用の懸念は薄れるのではないかということです。  ウの解決金の額の基準ですが、これも個別企業によって労使間で集団的に解決金の額 の基準の合意が、あらかじめなされていた場合にのみ申立てができるとして、その基準 によって解決金の額を決定する方向で検討することが適当であると指摘されています。 使用者から申し立てる場合については、解決金の額が不当に低いものとなる恐れがあ る。これは労働者は選べないということがあります。労働者側から訴える場合には、低 ければ申立てをしなければいいということがありますが、使用者からくる場合には、労 働者がそれによって地位を失うということもあるので、そういうのを避けるために使用 者から申し立てる金銭解決の場合に、その最低基準を設けることも考えられると指摘さ れています。  4の合意解約、辞職ですが、これは実際に裁判でよく争われることです。民法の規定 によると、いわゆる継続的契約の解除の意思表示というのは、一度すれば撤回できない とはっきり書かれています。労働者はよく辞表を出してしまって後で撤回したいと言っ たときに、裁判で非常にもめることがあります。これがもし辞職の意思表示であれば撤 回できないという形で裁判ではっきりしてくる。それはあくまで合意解約の申込みであ って、使用者がまだ了解していないという場合に、それはまだ撤回できるかどうかの議 論等もあります。いずれにしても裁判では、法律上撤回できないとなっているのでやむ を得ない、撤回できないとはっきりしています。  これについて企業のほうとしては、あらゆる辞職の申出等について撤回できるとする とそれは企業の人事政策に多大な影響があるということで、それは非常に問題だという ことですが、使用者から辞めてくれないかという形で働きかけがあった場合には、特に 労働者としては冷静さを失う場合もあるし、使用者が実際に働きかけているわけですか ら、使用者としてもその場合だけ注意しておけばいいという、両方の意味があります。 そういう場合に限定すれば、一定期間はその効力は生じないという形にして、その間、 労働者が撤回をすることができるようにすることはできないか。その場合の期間につい てはクーリングオフの期間も参考にして検討すべきとの指摘がありました。  第5の有期労働契約ですが、これは最初に申し上げましたけれども、有期労働契約の 効果は三つあるということです。(2)の見直しの考え方として、労働基準法第14条で は今は3年を超える期間を定められない。ただ、1年を超えたら労働者は自由に辞めら れるとなっています。そもそも第14条の規定というのは、労働者の退職の制限に対する 規制だということを明らかにすることを考える。例えば何年間を超えて退職を妨げる合 意をすることはできないという形に書き直すといったことだと思いますが、そういうふ うにしてはっきりさせる。(2)、(3)の効果というのは、どちらかというと民事的な話で あろうということです。特に期間満了によって労働契約が終了することについては、雇 止めの問題がありますので、判例法理で一定の場合に雇止めを制限されている。その判 断に当たっては契約締結・更新の際の手続が考慮されている場合が多いことにかんがみ て、雇止めの効果については有期労働契約の手続と併せて検討することが適当だという ことです。  10頁で「いずれにしても」ということで、そういうことについては有期労働契約に関 する実態を調査して、調査結果を踏まえて検討する必要があると指摘を受けています。  また、平成15年の労働基準法改正の際の衆参両院の附帯決議において指摘されている 「有期雇用とするべき理由の明示の義務化」や「正社員との均等待遇」についても、有 期契約労働者に関する実態調査の結果等を踏まえて、検討する必要があるという指摘を されています。  2の有期労働契約に関する手続ですが、(1)の契約期間の書面による明示は労働基 準法第15条の規定により、そもそも期間の定めのある場合には、使用者は労働者に対し て書面で明示しなければいけないとなっています。その場合の効果について特に規定は ないわけですが、これをきちっと履行するという意味でも、使用者が契約期間を書面で 明示しなかったときの労働契約の法的性質については、これを期間の定めのない契約で あるとみなす方向で検討する必要があるとの指摘がされています。  (2)の有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準ですが、これは平成15年 の労働基準法改正のときに、この法律に根拠を持って「有期労働契約の締結、更新及び 雇止めに関する基準」という告示が出されています。これは労働契約法制の観点からも 非常に必要なものであるということで、これを履行したことを雇止めの有効性の判断に 当たっての考慮要素とすることについて、検討する必要がある。  その際には、例えば契約を更新することがあり得るという旨が明示されていたにもか かわらず、有期契約労働者が年次有給休暇を取得し、それを快く思わなかった使用者が 雇止めする、あるいはセクハラで訴えた職員に対して、それを面白く思わなかった使用 者が雇止めしたというのは、ある意味公序良俗に反するので、そういうのを理由とする 雇止めはできない。したがって、もう一回更新してくださいという仕組みができない か。そういうことについて検討することが適当であるということです。  ただ、この場合、初めから更新をしないと言っておきながら実際は更新するという形 で、形式的に逃れるという場合、あるいは何回かやっていて最後だけ「しません」と言 えば逃れられるかという問題があるので、これについてはさらに検討する必要がある。 例えば更新しないと言っておきながら更新した場合には、更新することがあり得ると捉 えると解釈するかどうかという議論だと思います。ただ、これは当然に更新しなければ いけないということではなくて、あり得るというだけで、それによって例えばその期間 中に労働者が正当な権利を行使したことを快く思わなかった使用者が、次にそれを理由 として雇止めをした場合には、そういうのは公序良俗に反するので、さらに更新という 議論の中での話です。  3の有期労働契約に関する労働契約法制の在り方ですが、これは最高裁判例で神戸弘 陵学園事件というのがあります。これは先生の積極性を見るために試行雇用契約をし て、それで適格性がないのでそのまま打ち切ったという例です。それは試用期間と見る べきであるという判例です。ただ、実際に試行雇用契約というのは、労働者の専門性を 判断する上で労働者自身の適格性の判断、使用者が労働者を判断していく上で有効な手 段として、これがまた雇用促進的にも有効だという評価もあるわけです。そういう意味 で、そのままでいいのかどうかという問題はあります。  したがって、そういう判例がある中で、こういう試行雇用契約というのは本来、あり 得るという形で、有期労働契約に関する手段として契約期間満了後に、引き続き期間の 定めのない契約を締結する可能性がある場合には、その旨及び本採用の判断基準を併せ て明示させるという形で、試用の目的を有するべき労働契約の法律上の位置付けを明確 にする方向で検討することが適当である。こういう指摘を受けています。  試用期間は上限を定めるべきだと書いてありましたが、試行雇用契約のほうは、その 試行雇用契約期間中は雇用は保障されることがある。同時に、有期契約の期間の制限も 当然入っているわけですので、そういう意味で試用期間とは意味が違っています。こち らについては適格性を判断するという意味では、上限は設けない方向で検討するのがい いのではないかとの議論がありました。  (2)の解雇で、有期労働契約について期間契約中の解雇の問題ですが、この場合、 そういう解雇は、やむを得ない事由がないと基本的に解雇できないはずであり、それに ついては周知すべきだということがありますが、一方で、やむを得ない事由がある場合 には解雇できる。ただし、そのやむを得ない事由が生じたのが使用者の過失に基づく場 合には損害賠償を請求できる。  例えば、ある店舗で働いていて、そこが火事になって働く場所がないので、期間を1 年と定めていたのが3か月で解雇されたという場合、その解雇が有効か無効かはまた別 途議論がありますけれども、仮に有効とされた場合に、その火事になったのが使用者の 過失かどうかは労働者ではなかなか立証できないので、ここは使用者に過失がなかった ことの立証責任を負わせる形について、検討することが必要ではないかという議論で す。  第6の仲裁合意ですが、仲裁法というのが一昨年にできました。もともと仲裁という のは労働契約上生じてくる紛争についても、仲裁合意というのはできたわけですが、新 しく仲裁法という形で条文を作った。仲裁手続そのものは昔からあったわけですけれど も、新たな条文を作ったときに、その附則のところで、既に発生した個別紛争を解決す るための仲裁合意は今後も有効だけれども、まだ発生していない個別紛争について、将 来的に仲裁をしましょうという合意については、当分の間無効とするという形で規定さ れています。  これについては、あくまでも附則であって今後検討するという形になっていますが、 これは基本的に仲裁法のほうで書いてありますので、いわゆる仲裁法的な判断で検討す ることになります。しかし中身としては、将来において生ずる紛争をどうするかについ ては、個別労働紛争解決制度とか労働審判制度の活用状況、労働市場の国際化の動向、 個別労働紛争についての仲裁のニーズ等の考慮という意味で、判断していく必要がある ことから、労働契約上の問題として検討する中身ですし、労働契約法のほうの附則に移 すのが適当ではないかということで、そのことを法律を明確にする方向で検討が必要と のことです。ある意味、仲裁法にあったものを労働契約法のほうで引き取り、労働契約 法の観点で将来は考えるというのが、この研究会の指摘です。以上です。 ○西村分科会長  労働契約法制というのは、これまでも課題となってきた重要な問題であります。事務 局の説明にありましたとおり、現在、研究会でその法律的な論点が議論されておりま す。研究会の最終報告がなされた後は、本分科会において、政策的な議論を行うことに なるだろうと思います。  いま、中間取りまとめについて事務局から説明をしていただいたわけですが、ここで は中間取りまとめを一つの手がかりとして、委員の皆様方の労働契約法制についての考 え方などを御披露いただきながら、時間の許す限り活発にその議論をしていただきたい と思います。ただいまの説明について御質問があればお願いいたします。 ○小山委員  中身に入る前に、取扱いについて確認をしたいと思います。いま、分科会長からお話 がありましたとおり、当分科会では、最終報告の後に議論をするとのことですが、この 中間取りまとめの段階では、委員の皆さんの意見を聞くというお話でしたけれども、膨 大な中身でかつ非常に重要な、戦後の労働法制の根本的な分野の改定にかかわる内容で す。残り1時間もない中で意見を聞くというには時間がなさすぎるのではないかと思い ます。  そこで、どのように考えたらいいのかということですが、残された1時間弱、時間の 許す限りしか意見を聞けないのか、あるいは違う場所で労働側の意見なり、それぞれの 委員の意見なりをきちんと聞く場があるのか、その辺の考え方をお聞きしたいと思いま す。 ○監督課長  基本的にこの研究会は、法律的な論点を整理し、今後の審議会での議論の参考資料と させていただくということです。ここから最終報告が出た後で、この場で御議論いただ ける形になっております。そこで、いろいろなことは言えるわけですので、本日は、中 間報告の段階での意見をお伺いできればと思います。  そういうものを参考にし、当然最終報告に向けて議論が出されます。出されたものに ついては、あくまでも法理論的なものの検討が中心ですので、それを参考にしていただ いて、審議会で今後、秋以降御議論いただき、何らかの方向性を出していただくことに なっております。そこで、御意見はいくらでもお出しいただければと思います。 ○田島委員  いまの点に関連してですけれども、参考にするということですが、この資料の4頁の 雇用継続型契約変更制度については、案(1)、案(2)という形で並列的に検討課題が出さ れています。そのほかについては「検討することが必要だ」とか、「適切」「適当であ る」という形で一定の方向性を出しているわけです。  この研究会にはそうそうたるメンバーが入っている中で、一つの結論で報告を出すの ではなくて、並列的に出しながらどういう制度がいいのか検討すべきではないか。雇用 継続型契約変更制度で示しているように、いくつかの案を示しながら今後審議会にかけ ていく、ということを本報告では是非やってほしいと思います。  労働条件分科会委員には、公益の先生も何人か入っているわけです。その人たちは、 この報告書に縛られて、労働条件分科会での検討になるのか、あるいは全くフリーで分 科会委員として論議ができるのか、これは基本問題だと思うのです。その点をお聞かせ 願います。 ○監督課長  研究会のメンバーは研究会のメンバーとして、法理論的な整理を基本的にしていただ いております。審議会は、もちろん労使の方々のいろいろな意見を伺いながら、公益の 立場として議論していただくわけですから、この研究会報告に縛られるということがあ るわけではありません。縛られないということです。 ○新田委員  私も同じようなところが気になるのですが、これは中間報告ですよね。そういう意味 では、いま田島委員がおっしゃった意味合いからもして、最終報告では、こういう論点 があるのだ、こういう案があります、その上でこれを取ればこういうメリットがある し、デメリットもあるということが明示されて、審議会にかけられていくというような 最終的な報告になるのならば、それはいまおっしゃられたように、ここのメンバーで研 究会に入っておられる先生もまたフリーで議論できるだろうと思うのです。そういう形 の最終報告にしてもらえるのならば私は了解できます。  これは、方向性が出ていないものもありますが、ピョンと出されているものもあると いうことでは、ちょっとこれまでとは違うのではないかという気がしてしようがないの です。最終形は、そういう形で広く議論ができるという形にしてもらったらどうかと思 います。 ○監督課長  次回開かれます研究会には、そういう御意見があったことはお伝えいたします。 ○小山委員  先ほど私が申し上げたところから関連してのことですが、本日のこの場での議論とい うのは1時間もないわけですから、そこで委員の皆さんの意見を聞いたというような場 にはとてもなりえない時間設定です。公に意見表明をする方法はいろいろあるから、そ ういうのを研究会の皆さんに聞いてもらうのがいいのか、それは別途考えなければいけ ないと思うのです。  ただ申し上げたいのは、いま新田委員が言われたとおり、前回もそうでしたけれど も、論点を深掘りして示すというのがこの研究会の役割だという御説明でした。本来の そういうものでしたら、それはそれでよろしいのではないか。論点ですから、いろいろ な観点から良い面、悪い面、法律上の問題、あるいは社会的な問題等を指摘していただ くのは結構だろうと思うのです。  ここはこうしたほうがいい、ということを明示しているような文面がいくつもあるわ けです。労使委員会の問題にしてもそうですし、そういうことのまとめがこれからされ ていくとしたら、ここでこれからあと何時間もかけて意見を聞いてもらう場を持っても らわなければいけない。そうでなくて、まさに論点としてまとめるのですよというので あれば、残り数十分の議論でよろしいかと思うのです。そこのところがいちばん大事な ポイントだと思っています。 ○労働基準局長  この研究会での議論というのは、学者の先生方に集まっていただいて理論的な整理を していただきます。その際には、ヒアリングなどもして、実態も先生方なりに把握を し、議論していただいたということだと思っています。  この報告には書かれていないですけれども、それには相当議論をして、いまおっしゃ ったような議論がなされて、それが表に表れていない部分もあります。そういう意味で は、いまお話のあったような意見をお伝えして、できるだけ議論ができるような形にし ていただく、ということはお願いしようと思います。  基本的には、先ほど来申し上げておりますように、これは労使当事者にとって極めて 重要な影響の大きい問題でありますので、やはり審議会で十分議論していただいて方向 性を出していただく、というのが最もいいかと思っています。そういう意味では、その 議論をきちんとしていただけるようなものとして、一つ法律的な整理をしていただくと いうことでお願いをしましたので、一応中間はこういう形になっていますけれども、い ま申し上げたような形で進めてもらいたいとお願いしてみようと思います。 ○平山委員  いまお話があったことに関連するのですが、基本は労使自治でというところを促す、 という意味での法律の議論だというふうにこの議論自体は受け止められるような表現に なっています。ただ、項目自体は、契約から終了までです。いままでは、各企業の人事 制度である。人事制度というのは基本的に労使関係の中で議論しながら作っていく。そ ういういろいろな仕組みの中で、それぞれの企業の労使が実施してきたことについて、 正直いうと、いままではこういうことが法制化されるのかというようなところも含まれ ています。  例えば、昇給、昇格みたいなところは、各企業の人事制度そのものの話です。本当に こういうものが法制化になじむのか、という感覚は一様に企業の方も労働組合の方も持 つのだろうと思います。実際にこれが法律化されれば、それぞれの企業の前線の人たち がかかわりを持つことになるわけです。  たぶん、一つ一つそれぞれが企業ごとに制度を持ち、労使関係でもいろいろなものを 積み重ねてきているというわけです。その中で、一つの言葉をめぐっても、たぶん解釈 は相当にバラつきがあるのだろうという気もします。それぞれの企業ごとのやり方とか 多様性が広がっていることに伴い、わかること、理解できること、できないことという のは、企業ごとに相当幅が広いのだろうと思います。  そういう意味でいえば、この法律の必要性をどう受け止めるのか、全体を受け止める のかということと、一個一個どういう形で法制化するのかというのを、それぞれ適用対 象になる企業の人事労務担当者、労働組合の関係者にしても、本当に趣旨をわかるとい うのはそう簡単ではない。これは規制法ではないだろう、余計に難しい部分も結構ある のだろうと思います。  そういう意味では、いまお話がありましたけれども、全体の必要性、一つ一つの項目 の妥当性というところはよく議論し、それぞれに発信できるような議論をしておかない と、本当に意味あるものになるのだろうかということも、入口の議論ではおそらくそう いう疑問をみんなが持ちながらこれを見ていくのではないかという気がします。  そういう意味では、これからまた議論されて、秋口にというお話がありましたけれど も、どういう論点があるのか、その解釈の仕方も含めてよく議論できるように進めてい くということではないかと思います。そういう意味では、時間をかけてきちんとやると いうことかなという気もいたします。本日は中間だということなので、一個一個につい ては言及しません。 ○小山委員  こうした労働契約法制の必要性は、我々も本当に必要だという認識で一致できると思 っています。先ほども申し上げましたが、この中で断定的にこういう方向だ、というこ とが示されすぎているのではないかというところがあります。一番気になっているの は、実質的な対等な立場で自主的な決定を行うというところです。そのことは、労働組 合が団結権と争議権を背景にしてはじめて成り立ちうるのが対等性である、というのが 戦後の日本の労働法の基本だろうと思っていたものですから、労使委員会がそれに代わ るかのような記載があちこちに見受けられる、というのが大変気になりました。この労 使委員会の位置付けですが、そこで対等性があるといっている根拠はどういう議論の経 過だったのかを教えていただきたいのです。 ○監督課長  おっしゃられたように、労使の実質的な対等の基本は、なんといっても労働組合があ って、団結権、団交権、団体行動権がある。それは、ここでも何も否定するものではあ りません。その機能はまったくそのままあった上での話です。企業においては、労働組 合のない所もあります。ない所は、企業という組織と、労働者個人の間で契約を結ばざ るを得ないわけです。どうしても、個人対組織ということになります。  例えば、消費者契約法などでもありますけれども、個人対組織ということになると、 情報の格差があります。それは、質も違うし量も違う。それから交渉力も違うし、経済 的な力も全然違います。そういうものがあった上で、それはそのままでやってください といえば、それは強いほうがどうしても有利になってしまいますので、そのままでは対 等性が確保できない。そのために団結しようということがありますけれども、実際にそ ういうものがない所では、その情報格差をどうやって埋めるか、交渉力が少し弱いのを どうするかというときに、常設的な労使委員会があったら、そこで資料を出していただ く、恒常的に討議していただく、という形で情報の格差を埋めるとか、いろいろな労働 者が集まった中での議論ですから、交渉力に関しても少しは格差が埋まります。  そういう意味で、完全に対等になるということではありませんが、脆弱な交渉力しか ない労働者をどうやってサポートしていくかという一つの方法として、労使委員会とい うのが使えるという観点も当然あるだろうという議論もあるわけです。 ○小山委員  「実質的な対等な立場」という言葉の使い方をされていますが、実質的なというとこ ろまで言ったら、いまの説明と随分違うと思うのです。いろいろな情報格差などを埋め ていくという意味合いはわかりますけれども、そこで対等性があるかのような、実質的 な対等性があるかのような記載というのは、ちょっと不適切な記載の仕方なのではない かと思うのです。  それはなぜかというと、例えば、労使委員会の労働側の委員の選出方法については、 現行の規定以上のことについてここではあまり触れられていません。ましてや使用者側 から特別なテコ入れがあって選出される、などという事例はいまでもザラにあるわけで すから、そういう問題については何も触れていないで、一方で対等な、などという書き 方はないだろうと思ったのですが、それはどういうことなのか説明していただければと 思います。 ○監督課長  資料1の本文の10頁の辺りでは、労使委員会制度の在り方について触れております。 10頁のイの労使委員会制度の在り方の2段落目に、そこでということで労使委員会制度 の在り方としては、委員の半数以上がこれこれであることのほか、例えばということ で、当該事業場の全労働者が直接複数の労働者委員を選出することや、選出された労働 者委員は、当該事業場のすべての労働者の利益を代表するようにしなければならないこ と、使用者は、委員であること等を理由とする不利益扱いはしてはならないこととする ことや、委員は任期を定め、一定期間後には委員が改選されるようにすること、あるい は、その開催方法は労使委員会の決議で定めること、という仕組みが考えられているこ と。この辺りです。それから、労働者委員が、当該事業場の労働者の意見を適正に集約 することができるような方策についても引き続き検討することが必要であるということ で、ここをもう少し充実させた形で今後さらにまた議論が進むところです。  おっしゃるとおり、先生方の中でも「実質的に対等な」というのは、これだけではあ りませんけれども、手続的な規定がいろいろあったり、協議義務を課すとか手続的にい ろいろやって、協議に応じてくれない使用者は協議しないと不利になるような形でや る、というのも一つの方法です。それで完全になるわけではない、という御指摘も当然 あります。ただ、できる限り実質的に対等になれるような手続をどんどん入れていこう という方向性を示したということで御理解いただければと思います。要するに、目立つ ところはそこだけれども、それで十分だということではないということは先生方も認識 された形で書いております。ただ、そちらを目指したいということです。要するに、情 報格差をできるだけ埋めたい、交渉格差はできる限り埋めたいという意識があって作ら れたものです。これでいいですよ、ということではありません。 ○小山委員  労働者代表制度を否定するものではないのですけれども、それがあたかも労働組合の 機能を代替するかのような書きぶりがどうも見受けられるものですから、それは我々と しては最も気になったところです。そのことは、また違う場所で議論なり、今後の議論 の課題になろうかと思います。  いまでもある使用者は、労働者代表制があれば労働組合は要らないではないかという ことを露骨に言ったりしていて、これは不当労働行為に当たるわけですが、持ちかけて くる場合もあるわけです。そういう現実の上に立って、本当の意味で労使がきちんと話 し合える場所、あるいは協議する場所として設定される意味合いはわかるのですけれど も、そこに一定の権限まで持たせることは先ほどの問題に全部関連してきます。個々の 細かいことまでやりますと夜中までかかりそうな気がしますのでやめますけれども、中 間的な意見だけ申し上げておきます。 ○田島委員  関連してですが、労使委員会が一つのポイントだろうと思うのです。委員の選出で、 例えば労働組合の役員を選ぶときに、経営者側が支配介入したら不当労働行為に当たる わけです。しかし、いま現在の従業員代表制度で、私どもの組織で36協定の従業員代表 を選ぶときに、会社側の推薦者を投票した者に対して、後から商品券が配られたという 事実があります。  そういう意味では、こういう従業員代表を本当に公平性、透明性を担保するのだった ら、不当労働行為という概念を入れておかないと、本当に民主的、あるいは公正に選ば れるかという問題が1点あります。  労使委員会で非常に気になるのは、5分の4という位置付けをしています。5分の4 というのはどういうことかというと、労使が同数ですから、労働者側は6割の賛成でい いということなのです。いわゆる使用者側が全員賛成したら、労働者側は5人中3人が 賛成すれば5分の4になるわけです。そうすると、あまりにもこの比率は低いのではな いか。本来は、全員一致を原則にすべきだろうと思いますし、いろいろな意味で最低3 分の2、あるいは4分の3以上の賛成がなければ駄目だということにする。ここでは、 5分の4が先に独り歩きしている。5分の4というのは、労働者側の委員の6割の賛成 でいいのですよ、3分の2以下でいいのだとなってしまうし、これでは全く対等性が担 保できないのではないかと思うのですが、その点についてはかなり議論されたのです か。 ○監督課長  労使委員会制度というのは、強大な権限を与えられているということ自体ではなく て、ここで言っているのは労働条件変更の合理性の推定の話でして、いつでも反証は当 然可能な中身です。過半数労働組合があった所では、過半数労働組合が賛成していれ ば、大体合理性が推定されているといういままでの裁判の流れ等も見て、そのように5 分の4と決めることで、一応合理性の推定をするということです。何か権限をスパッと 決めた、ということではありません。 ○田島委員  5分の4というのは、全体の5分の4だから、労働者側の5分の4ではないのです。 労働者側は実質的には5分の3なのです。 ○監督課長  いままでの裁判の流れでいいますと、労働者の2分の1以上の賛成、過半数代表があ ったら、それは2分の1以上の労働組合、それの賛成があれば大体合理性があるという 形で裁判などもきていますので、2分の1よりは少し多くなっています。  それで全部決める、何か権限を与えてというわけではなく、労働条件の変更の合理性 が大体いいかなということをここで書いているわけです。そんなに強大な権限をスパッ とそこで立てる、何か権限を一つ与える、あるいは権利を一つ取る、ということをここ でいっているわけではありません。 ○新田委員  そういう意味でいえば、いまある労働組合の位置付けがどうなるか、ということを明 確にしておかないと、法律に書いてなければ裁判官は持ち込んだときに、法律に書いて あることによって判断するというふうに聞いていますから、そこの関係が明確でないと いうことは大変危ないと思っています。  私たちがいままでやってきたのは、どんな提案であれ、どちらからの提案であれ、議 論を闘わせて労使合意をしてということが100%で、辛抱することも、諦めることも含 めて合意をするわけです。それで、就業規則なり何なりに決めていったということの保 証がこれには何も見えないのです。このやり方では、労働組合との関係が明記されてい ないからというのはどのような議論なのかなということが一つです。  もう一つは、説明の最初にもあったのですが、労働基準法は、罰則や監督・査察が入 るといった行政行為もあるとおっしゃっていましたがそのとおりです。今回の労働契約 法は民事的なものなのだ、だから事前にいろいろなルールも明確に決めておいて、とい う意味合いではわかるのですが、例えばいまの議論の関係でいえば、田島委員がおっし ゃったように、不当労働行為的な、不当労働契約法的なものがあれば、何をするのかと いうことで罰せなければ食い逃げの勝ちなのです。そこのところをどう担保するのかと いうことが見えないと、この法律の最初にいわれている透明性をもって、ルールも明確 にしていきながら、対等に結びましょうというようなところが保証されない、やはり対 等ではないということです。  そのどちらにしても、個別の労働者と経営と契約を結ぶということにおいていえば、 対等というのはとても無理だと思うので、逆にいえばその種不当なところに遭遇する と、やはりこれは駄目なのだよ、法律では駄目なのだよというところまできちんと作っ ていかないと、契約内容そのものもそうですし、運用上もそういうことをすると、こう いうことがあるぞということを見せないと、やはり危ないということです。これは議論 していって積み上げていけばいいと思うのですが、その辺のところはどうなのでしょう か。 ○監督課長  先ほどおっしゃった、不当労働行為的な話という中で、これはまさに要件・効果から 御議論いただければと思います。労使委員会で決議した事項の効果は何かというと、先 ほど申し上げましたように合理性の推定、それは民事上の効果としてのことをいいま す。そのときに、例えば商品券を配ったということになれば、それは当然公正な意見集 約があっての決定ではありませんので、その合理性の推定を否定しておけばよろしいわ けです。民事的に、そういう場合には合理性の推定がないとすれば効果はなくなるわけ です。それは、民事的な仕組みの中で、何か悪いことをする者については、その民事的 効果についてさらに規制するという形で、やはり民事的に手続をすればいいだろうとい う形で出てきます。一個一個民事的効果、あるいは要件の効果の中で御議論いただけれ ばと思います。  労働組合がある場合の議論ですが、過半数労働組合があれば、過半数労働組合の賛成 でも合理性を推定することもあり得るわけです。労働組合は、まず最初に優先するのは 当然です。労働組合があって、きちんとできる所は、例えば労使交渉で労使委員会の持 ち方をどうするかも決めていただければいいわけです。そこは、まず労働組合がありき という整理は、この研究会でもそういうことが前提です。  いま、労働組合がある所でも、労使協議機関はあります。それとどう違うのかという と、それほど違いはない形で、それを少し合理性の推定という形で、何か民事的な効力 上の仕組みとして何かないかということでやっているわけです。それ以上に大きな、例 えば労使委員会の設置を義務化するとか、これによって強大な権限を与えるとかそうい うものではなくて、あくまで民事の中で、例えばそういう推定規定みたいなものをうま く活用すれば、少し予測可能性が出てくるのではないかという発想です。ここを御理解 いただければと思います。 ○審議官  切り口が違うので答えにはならないと思うのですけれども、いま労働側の各委員が言 われたようなことが、今後、審議会で御議論いただけるポイントだと受け止めていると いうことをまず御了解いただきたいと思います。個別の法的効果については課長が御説 明しているように、専門家の方でいろいろな状況を加味し、どういう効果を与えるかと いう、ある意味では一つのモデルをここでいま提示していただいていると我々は受け止 めています。そのモデルのベースとなる基本的な背景や、労働契約法制の在り方をどう するかということを決めないと議論できないと思います。ここの議論は、まさに言われ ましたように、いま労働基準法は、労働者の過半数で組織した労働組合なり、労働組合 がない場合も過半数の方と使用者がガップリ四つになって労働条件を設定するというふ うに想定しています。  かつ、この法律は労働組合が日本国全体に行きわたっている、ということをイメージ しないとこの法制は成り立たないです。かつ、この対等原則を先ほど言われたように、 団結権であるとか争議権ということを担保するから対等になる。これは、現行の労働基 準法が出来上がったときからの理念であります。  ところがご存じのように、労働組合の組織率とか、実際に企業の中に労働組合がどの ぐらいあるかという現実を見た中で、この条文が当てはまらなくて、又は規定で過半数 代表者で交渉するような場面が増えている中で、さてこの交渉の対等性や自主決定をど うするかということが出発点だということは了解いただけると思います。  そこで、この代替するシステムを何か考えて、かつこのシステムと使用者がいろいろ な議論をするときに、手続で整理していくのか、議論するときに例えば義務付けると か、協議でいいのか、意見を述べるでいいのか、どういう付き合い方をするのがいいの かという議論をし始めますと、先ほど言われたように、そういった議論をすること自体 労働組合をないがしろにして、労働組合と同等の組織を認知することからしてどうかと いう議論がまず出ますので、それを整理していただかなければいけません。  実際に労働組合がない中で、個別の労働者と使用者が契約を結び始めている。そうい う個別の契約を結ぶ労働者の方々における、自主的な対等原則をどう提示するかとい う、まずそこを踏まえていただくことから出発しないといけないかなという気がしま す。言われた問題をもう少し整理していただけないかという気がしています。そのため の問題提起と考えているということなのです。  その上で御議論いただいたときに、認めるとした上で、先ほど言われたようにそうい う組織を認知するのであれば、手続的にこれを阻害する行為を不当労働行為と位置付け て制裁を加えるのか、そんなしっかりした組織ではないのだから仲良くやりましょうと いうことで、緩やかな効果を与え、緩やかな規定でやるかといった整理ではないかと思 うのです。しっかりした組織をつくることにするかどうか、それが労働組合を否定する ものであるかどうか、ということにもちゃんと踏み込んでいただいて、区分けした議論 をしないとグルグル回りが始まってしまいます。  強化しろということになると、労働組合と違う組織を認知して、自分たちの存在基盤 を脅かす、ということに戻っているような気がするのです。いま言われたことをここで やった法的な提言をそのまま素材にしながら、基本論をやっていただくことがまずスタ ートかと思っています。結論になりませんけれども、間違いなくここからこの労働契約 法制の議論を始めていただき、それがここでいう自主的な決定を促すシステムとして評 価できるかどうか、というのが常に最初の課題であるし、最後まで課題だと思っていま す。 ○渡辺(章)委員  労働側の委員がおっしゃったように、労使委員会制度をどう構想するかというのは、 労働契約法制の正否にかかわる重大問題だと思うのです。本日は時間の関係もあります ので一つだけ要望というか、お聞きしたいことというのは、労使委員会の選挙を労働委 員会が選挙管理するということは議論されないのですか、カットですか。公正代表とい う、公正さを担保するために手続が必要だという、中身で議論するか、手続をきちんと したものにして、中身は労使の話合いに任せるかというキーポイントです。公正に代表 するという以上は、労働組合の場合には労働組合大会で役員を選べばいいわけですけれ ども、公正代表といっても、公正に代表させるさせ方をどうするか、というのは大変な 問題で、申立てに基づいて労使委員会が選挙管理を引き受ける。各地方労働委員会は少 し暇であります。そういうことは議論にもならなかったのか、それともこれから議論し ていくことなのか、その辺のところは私の意見として聞いてください、質問はやめま す。私は、そういう方向で是非議論していただきたいと思っています。 ○石塚委員  全体として構造にかかわる問題ですが、労働契約法制は民法の特別法として位置付け られます。そうするといろいろな手法が出てきて、例えば、解雇のところでいろいろな 指針等という、ガイドラインという表現がすごく出てきます。具体的にあるものを盛り 込んで、その実効性を担保するために、指針、ガイドライン等を示して、その中で誘導 していくというか、そこで明示していくという手法がとられているわけです。これは、 労働基準法に基づく、罰則規定を背景にした進め方という意味においてはよくわかりま す。  これは民法ですから、民法上においてガイドラインとか指針というものがどの程度の 意味合いを持ちうるのかというのがよくわからないのです。ギリギリ詰めていったとき に、民法である以上は、最後のルールは裁判になると思うのです。裁判になったとき に、そのガイドラインとか指針というものが、どの程度裁判官の考慮要素になりうるの か、そこなのです。  労働基準法の頭で見たときにはよくわかることなのですけれども、一方において、こ れは民法の世界に入ってきているわけです。しかも、それは労使委員会をキーにして、 巨大な組織と労働者個人が契約を結ぶわけなので、そこにおいて最後争いになったとき に、どのようにしたら実効性が担保されるのかというのか、どうもそこの切り換えがよ くわからないで腑に落ちないところがあります。  最初は、このガイドラインや指針を示したことにより、使用者はどの程度拘束される のか。仮に裁判になったときに、裁判官にとってどの程度ガイドラインや指針がありう るのか。これは要望ですけれども、民法的に考えていえば、実体規定である程度明示で きるものはできるだけルール化してほしいのです。裁判をやるときのガイドラインだと いうのではなくて、もちろん細かい話になったときに、個別、個別の事情があってやる のならばそのとおりだけれども、民法上ある程度規範的なものとして担保するために は、できるだけルールを示していく。そのことが、法で謳っている「公正かつ透明なル ール」が旗印のはずですから、たぶんそれに応えていくのではないかという気がしてい ますので、その辺は構造上の問題として要望しておきます。 ○紀陸委員代理讃井氏  この研究会そのものと、審議会との関係がいろいろ御指摘あったのではないかと思い ます。局長から御発言がありましたように、審議会で議論できる材料を研究会でまとめ ていただいているということです。審議官からもお話がありましたけれども、実質の議 論のスタートは審議会で行う。いろいろなことを決める主体性は審議会にあると理解し てよろしいわけですね。  先ほどから御指摘が出ているように、いま中間取りまとめを拝見していても、さまざ まな問題があるわけです。どれ一つ取っても、労使にとって非常に大きな影響があると いうことです。影響があるというだけでなく、実際にどうやっていくかということが、 その時代に合った法律を作っていくことに、とても重要なことだと思います。ですか ら、議論を尽くすことに力点を置いていただきたいと思います。ゆめ、拙速に流れるこ とのないように、ということだけお願いいたします。  いまは中間取りまとめということですので、最終報告が出るまでには、また研究会で もいろいろ議論をされると思うのです。そちらの場でも、いろいろなケースを考え、現 実にも立脚して、あとは法律の専門家としてのきちんとした議論を展開していただけた らいいと思います。  その上で、今後中間取りまとめから最終報告に向けて、いくつかお願いしたいことが あります。それは、個別のアイテムについて云々ということではなく基本的な姿勢で す。一つは規制緩和の視点といいますか、最初の目的のところにも書いてありますが、 「労使自治の尊重」を第一の柱にしていただきたいと思います。今日、労働契約法制の 在り方を議論している背景には、就業形態の多様化、企業環境の変化があるわけです。 その中で、従来のような統一的な、あるいは画一的な労働条件の規律が合わなくなって きた。  それを踏まえてどう変えようかということですから、時代の変化に合わせた決め方を 目標にしているわけです。そういうときには、多様化とか個別化ということはここに書 かれておりますけれども、現実の社会によりフィットした労働条件の決め方、このルー ルを決めることが今回の第一の目標であることを念頭に置いていろいろ御議論いただき たいと思います。労働条件というのは、労使が交渉なり協議なりということで自主的に 決めていく、労使自治が基本であると思いますので、労働契約に関するルールを作ると いうことでありましたら、その観点を第1に押さえていただきたいというのが一つ目で す。  二つ目は、先ほど来労使対等ということが出ておりますけれども、これは労働契約法 制ですので、労使対等という考え方も一つの重要な点としていただきたいと思います。 確かに、企業と労働者ということになると、ときには交渉力において違いがある場合も あり、その点の手当ては必要なのかもしれません。しかし、これは契約当事者双方の権 利と義務を決めるということですので、義務についてはそのバランスも十分に踏まえて いただきたいと思います。  三つ目は、判例を法制化するということが縷々出てきているところがあります。そう いう考え方については、最小限のものにとどめていただきたい、必要なもの、どうして もあり得べきものだけにとどめていただきたいと考えるわけです。今日の規制改革にお いては、事前の規制から事後の規制、あるいは事後の対応という流れがあるわけです。 いろいろ予想できない事態もあるわけですから、社会の変化にフィットしたものを求め ていく観点からは、あまり事前にがんじがらめのものを作ってしまうことは、現実に耐 えられなくなる部分も出てくるのではないかという気がいたします。  四つ目は、シンプルでわかりやすい法律をお願いしたいということです。人事管理が 個別化、多様化している中で、迅速に、個別にいろいろなことを決めていくということ が求められているわけです。そのための手続があまり煩雑になってしまうと、かえって 人事労務の現場で対応できなくなることも出てくるわけです。当初の目的は達成できな いことにもなるわけですので、労使共に使い勝手がいいような法律を目指していただき たいと思っています。非常に基本的な考え方のみですけれども、そういう観点で引き続 き研究会には御検討をお願いしたいと思います。何度も言うようですが、それを踏ま え、自由に審議会でいろいろ議論できるようにしていただきたいというふうにお願い申 し上げます。 ○審議官  いま言っていただいた話は、まさに審議会で使用者を代表する立場で、ここで提供す る研究会の報告書を縦、斜め、横自由に刻んでいただいて御議論いただくときの視点だ と受け止めます。そういう御意見がある、ということを研究会のメンバーにも戻しなが らまとめに向けてやっていただくことになろうと思います。  四つほど言われましたけれども、このそれぞれがまさに同じ点について労働側から も、別の視点からの御指摘があるはずなのです。それで初めて議論になると期待してお ります。シンプルさは、ある意味では効果として、シンプルではあるけれども、しっか りしたものが要るのではないか。判例についてだって、最高裁まで上がって確定したも のについては相当一般化しているから、予測し難いのではなくて、予測し得るものだか らあらかじめ提示して、自分たちで条件設定できるためのものとして出すという判断で やりましょう。  対等の原則は先ほど言われましたように、個対集団という構成の中で、弱い労働者を どう対等性を担保するかという視点からもう一回やる。これは要る、ということは多分 ここで共通認識になったので、どの程度やることが対等性を担保できるのだろうか。例 えば、この研究会で報告を出せば、それで足りる、足りないという御議論をやっていた だきたいということです。  自主性については当然でありまして、労働基準法という罰則をもって絶対に守らなけ ればいけないというスタンダード法であれば、これは自主性ではなくて他律的なものな のです。ですから指針を作り、この他律的なもののどこを突くと破れるか、どれを履行 すれば守ったことになるか、という意味で指針を作るということであります。  労働契約法制はそういう視点ではなくて、当事者が明解な意思を示さないで契約を締 結、まさに自主的にやったという世界の中で、トラブルが起こったときに、その意思解 釈をどうするのだというのが最終的な問題です。そこで意思解釈して初めて双方に権利 が生じ、あるいは義務が生ずる。そうすると、その最終的な決着の目安として、裁判官 の解釈基準になるぐらいのことを頭に置きながら、そんな処理がされるのであればそれ を踏まえて事前に自分たちでルール化していこうではないかと、そういうための素材と 考えていただければと思います。ザックリ言うとそんなものだと思います。それが、ま さに民事法制における指針ではないかと考えています。  つまり、これが最終的な意思が不明なところの解釈の規範になるぐらいの意味付けに なる、という意味で大切である、罰則法規とは違う、というぐらいの目で研究会報告を ザッと見ていただければ、とりあえずの整理はできると思うのです。その上で、何度も 言いますけれども御意見をいただきたいのです。決していまのもので固まっているわけ ではなくて、そういう見方をしていただくための一つの提言と受け取っていただくこと がスタートになるのではないかと思っています。 ○岩出委員  関連してですが、資料1の36頁の10の労働者の損害賠償責任の(1)でいろいろ問題 提起がされています。この概要は資料4の7頁の10にいきますと(2)だけになってし まいます。これは、審議会に戻された場合に概要には反映されなかったテーマ、問題提 起された問題点についても議論していいのだと理解してよろしいですね。 ○須賀委員  私どもも、この研究会のヒアリングを受けさせてもらいました。これは、20回近く開 催されてきた研究会の中間のまとめではあるのですけれども、公正・透明な労働契約に 関するルールを作るという法の趣旨、あるいはそういう法律を作るのだという気構えで 検討されていることについては敬意を表するものです。  実は、サラッと読むと労働側から見ても非常に評価できる部分が多いような気がする のですが、よくよく読んでみると、これは大変だという話がいっぱい裏に隠れていま す。これは取り様によって、見方によって、表から見たのと裏から見たのかによって違 います。これは、先ほど使用者側の委員がおっしゃったような視点もあると思います。 したがって、そういう多様な性格、多様な見方ができる報告であるがゆえに、かえって 誤解を招くような部分もこの中にはたくさんあっただろうと思っています。  先ほど審議官は、議論のモデルになるベースだとおっしゃいましたけれども、そのわ りにはこうしたい、あるいはこうあってほしい、あるいはこうあるべきだという、一定 の目的なり意図を持って方向性が示されている文章があまりにも多すぎるという気がい たします。  折角、日本の名だたる高名の労働法学者の皆さん方にお集まりいただいて議論をし、 そして一定のまとめをされているのであれば、仮にこういう方向に行くのであれば、こ ういう問題がありますよ、逆にこういう問題はクリアしておかなければ、ある意味公明 正大なルールにはなりえませんよということがあったほうが、モデルを議論するための ベースとしては適切ではないかと思うのです。そういう感想を持っています。  分科会長もおっしゃいましたように、研究者の視点で法理論的な議論を展開させる、 そのための参考資料をこの場に提供するということであれば、是非そういうようないろ いろな視点での検討ができる素材をきちんと提供していただいて、すべて研究者の立場 で検討し尽くしたというような報告がこの秋に上がることを期待しております。また、 それをベースに置いて、分科会の中できちんとした議論ができるということを私どもと しては期待しておきたいと思います。  特にこの議論が、私どもは労使委員会の関係について労働側からも意見を言いました けれども、仮に答弁があったようなことだとして百歩譲ったとしても、労働組合と労使 委員会の関係というのは非常に私どもにとっても大きな懸念材料であります。  もう一方で、労働組合の傘に入っていない人たちのこと、つまり未組織の労働者のこ とをどこまで考えうるのかということでいけば、冒頭にありました実質的に対等な立場 でということを、私どもはどこまで担保してやれるのかというのが、本日ここに集まっ ている労働側のメンバーの非常に大きな目的意識になっていくのだろうと思っていま す。こういう使命感も持ちながら、これからの審議に臨んでいきたいと考えているわけ ですから、そういう私どもの期待にちゃんと応えていただけるような、研究会のまとめ にしていただけるよう、特に分科会長にもお願いしておきたいと思います。  使用者側の委員もおっしゃいましたけれども、労働者側なりに個別の項目ごとにいろ いろ問題を指摘したい部分はたくさんあります。したがって、いろいろな場でそういう ことを個別課題ごとに意見を聴取していただけるような場もあったらありがたいと思っ ていますので、これを最後に要請しておきたいと思います。いずれにしても、秋に本当 の意味で高名な研究者がすべての検討を尽くしました、という報告書になることを大い に期待しておきたいと思います。 ○小山委員  労働時間法制について、なぜここで検討して出してくるのだ。あれは、労働基準法で やるのではないのですか。それが、この間の我々の確認だったと私は思っていました。 私は、ここで労働時間法制について、この研究会が一定の考え方を出すことについては 反対です。このことを申し上げておきます。 ○西村分科会長  労働法の研究者が中心になって、こういう中間まとめをやったわけです。労働法の研 究者もというべきか、研究者でさえもというべきか、社会的な実態をいろいろ研究者な りに考慮して、一定の方向性を出そうとしているのです。方向性を出すというのが良い のか悪いのか、というのは議論のあるところだと思うのです。南に行くのか北に行くの か、あるいは東に行くのか西に行くのかということがまったくわからないままで、いろ いろな所がありますというだけでは、研究者としての責任を果たせないだろう、という のがスタンスとしてはあると思うのです。  ここで大事な点は、労働側あるいは使用者側の立場で、このような社会的実態の見方 は承服し難いとか、あるいはもう少しこの点は考慮すべきではないか、という議論をま さにやる場がここの労働条件分科会だろうと思うのです。研究会と審議会というか、労 働条件分科会のどちらが決定するのかというと、これは当たり前の話でここで決定する わけであります。そういう立場からいうと、ここでの中間まとめであれ、最終まとめで あれ、それはここでの議論の素材でしかないのです。  そこの場で、労働側としてはこういう点は実態を踏まえるとこうだと。使用者側とし ては、現在とてもこういうことでは労使関係がうまくいかないとか、さまざまな議論を 出して、それこそ良い労働契約法制を実現できればと思いますが、それでよろしいでし ょうか。 ○須賀委員  事務方の皆さんにお願いがあるのですけれども、この一連の研究会報告がまとまった ときに、新聞の報道を見てもらったらわかるのですけれども、特に金銭解決のところで は、お金さえ払えば解雇できるのか、という問い合わせが私どもにものすごく寄せられ ました。こういう誤った報道がなされることにより、本来実質的で対等な立場で、自主 的な労働条件決定ということを曲げてしまうような報道があちこちに見られたのです。  そうではないという説明に時間を要して、面倒くさくなるぐらい質問がボンボン来ま した。本日傍聴されている方もいると思うのですが、マスコミの方に誤解のない報道を するように事務方も気をつけていただきたいと思います。これはお願いです。 ○西村分科会長  時間が少しオーバーしましたが、今後の労働条件分科会のスケジュールについて事務 局からお願いいたします。 ○監督課長  次回以降の日程等については未定ですので、また改めて御連絡させていただきます。 ○西村分科会長  本日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録署名人は、小山委員と平山委員 にお願いたします。本日は、お忙しい中をありがとうございました。                    (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)