「医療計画の見直し」についての意見
005/05/27
日精協 鮫島 健

1,医療計画の見直しの方向性

 O「地域完結型の医療」を目指した新しい医療提供体制の構築のためには、正確で公平な疾病調査、患者・住民のニーズ調査、医療機関の機能調査などが必要であり、それを前提にした診療ネットワークが検討されねばならない。需給のミスマッチの解消などを含めた基盤整備を行う必要があり、この際に、外来・入院機能の転換を行って、新しい役割を果たす医療機関に対しては積極的な援助を行う必要があるのではないか。
 O現在の「医療計画の見直し等に関する検討会」においては、従来の医療計画が量的な整備や規制を中心としたものであったが、今後は提供される医療の内容に焦点が移行した、とされている。本来、この両者は医療計画において表裏一体でなければならない筈のものであるが、どうして乖離してしまったのか、歴史的な経過を踏まえた、幅広い面からの検討がもう少し必要ではなかったかと考える。ただ単に、焦点が移行したとか、視点が変わっただけで解決するとは考えにくい。
 O今後の見直しの方向性としては (1)住民・患者の視点を尊重した、分かりやすい「体制」の実現、(2)質が高く効率的で検証可能な「体制」の構築(数値目標と評価の導入による実効性のある医療計画)、(3)都道府県が自主性・裁量性を発揮することによる地域に適した「体制」の確立などが挙げられている。大枠ではある程度の評価ができるが、医療機能の評価や情報提供のあり方や診療ネットワークのつくり方など具体策になるとさまざまな問題点が浮上してくるだろう。多くの人が評価している都道府県の自主性・裁量性の拡大についても、財源や権限を伴わない限り、益々地域差を拡大することにならないだろうか。

2.基準病床数制度(いわゆる病床規制)の意味について

 Oいわゆる病床規制に関しては、WG報告書で規制廃止のための4つの最低条件が示されているが、当面は実現の可能性は少ない。したがって、医療費への影響の観点、救急医療や僻地医療など採算に乗らない医療の確保、入院治療の必要性を客観的に検証する仕組みの未確立等の理由から、病床規制が存続されることとなった。しかし、あくまでも病床規制は消極的な意味として理解すべきなのか。
 O一方、精神病棟では10年間で約7万床の減少を促すような、基準病床数算定式 が社会保障審議会精神障害分会で報告されている。これは、かなり積極的、政策的な病床規制である。この公式との整合性と今後の展望をどう考えるのか。
 O他方、某県では病床減少などによって、基準病床数を5百床以上下回ったところ、その隙間に政策的に殆ど意味のない病院開設が許可されてしまった。救急病床など不足していることから、必要な医療の内容が明確であったにもかかわらず、それに関係のない病床が増える結果となった。このような矛盾を繰り返えさないためにこそ、病床規制の活用が必要ではなかったか。

3.記載事項と数値目標について

 O記載事項が多すぎると焦点がボヤケてしまうので、少ないほうがよいという意見があったが、内容を見る限りにおいてはすべて必要なものである。必要だからこそ、現在の8項目から、15項目に追加された訳でもある。しかしすべてが、都道府県レベルで実現可能のものではない。国レベルや地方ブロックや複数の都道府県レベルで実現するのが現実的方策の場合もある。これらの区別や調整やバックアップする機能は国の役割ではないか。
 O数値目標を挙げるのは結構であるが、アウトカムによって評価する仕組みは慎重にすべきではないか。

4.日常医療圏と診療ネットワーク

 O疾患別の日常医療圏を設定するというが、イメージとしては理解できるとしても、地域によってエリアが違うし煩雑である。主要疾患といえども、多くのバリエーションがあり、複数の疾患を合併している場合もあるから現実は複雑である。
 O疾患別ネットワークとなれば、全人的な医療を否定することにならないか。
 O窓口として「かかりつけ医」の機能が重要であるが、地方型と都市型ではそのあり方が違うのではないか。それぞれの機能を整理したほうが解りやすい。
 Oイメージ図の中に「一般病院」がない、その位置づけはどうなっているのか。
 O「核になる病院」から始めるのではなく、「かかりつけ医」を中心とした連携強化を図ること、そのための情報ネットワークを充実させることが先決ではないか。

5.メンタルケアのすすめ

 O身体疾患で入院治療中の患者のうち、30%から40%は適切なメンタルケアが必要であるといわれている。中でも多いのがうつ病である。癌や糖尿病や脳卒中においても20%から30%の合併率が報告されている。これらを早期に治療することによって、平均在院日数を短縮化させる効果があるという。つまり、癌患者だけ集めて専門的に治療することが必ずしも効率的でないことを示唆しているのではないか。

トップへ