看護師、助産師及び准看護師の名称独占について


(現状)
 保健師については、保健業務自体は業務独占ではないが、保健業務における名称独占が規定され、違反には罰則が課せられている。看護師、助産師及び准看護師は、業務独占ではあるが、その名称の使用について制限は設けられていない。ただし、業務独占にも反していた場合には罰則が重くなっている。
 なお、医師及び他の医療関係職種については、ほとんどが名称独占となっている。

○経緯
 昭和16年、保健婦規則に保健婦の保健業務における名称独占が規定される。
 昭和23年、保健婦助産婦看護婦法に、保健婦のみは名称独占規定が設けられたが、助産婦、看護婦、准看護婦については、資格を持たない者が、名称を使用して業務を行った場合における罰則の加重規定が設けられた。

○保健師助産師看護師法における名称独占の規定
 昭和23年当初の法律から、保健指導業務上、類似する名称も含めて、保健師でない者の保健師名称使用の制限がなされ、今日に至っている。
 ※1 保健師助産師看護師法(昭23.7.30法第203号)
 第29条 保健師でない者は、保健師又はこれに類似する名称を用いて、第2条に規定する業をしてはならない。

○罰則
 保健師でない者が保健師又はこれに類似する名称を用いて保健指導業務を行うという罪を犯した場合、看護師、助産師及び准看護師でない者がこれらの業務を行うという罪を犯した場合で、看護師、助産師及び准看護師又はこれに類似した名称を使用した場合には、罰金額が2倍に加重されている。
 なお、医師、歯科医師についても、同様の罰則の加重規定が設けられている(「3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこの併科」が、「3年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はこの併科」に加重されている。)。
 ※2 保健師助産師看護師法
 第43条 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 第29条から第32条までの規定に違反した者
 (略)
 2 前項第1号の罪を犯した者が、助産師、看護師、准看護師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、2年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

○名称独占の意義
 一般に専門的な資格、業務を識別させ、それに対する社会的な信用力を確保し、相手方との信頼関係の確立や被害の未然防止を狙いとしていると考えられる。行政的に一定の水準を確保する手段として活用する狙いを持つものもあると考えられる。
 なお、業務に関係なく、名称独占とされるもの(例 医師)が多いが、業務に関して名称独占とされるもの(例 保健師)もある。

 ※3 法令用語辞典(学陽書房 林修三ほか)
 特別の知識又は技能を必要とし、法令により一定の資格を有しなければならないこととされている職業については、その資格を有しない者が当該職業の名称を使用することを禁止し、公衆の保護を図る例が多い。

 ※4 「公的規制の緩和に関する答申」(臨時行政改革推進審議会(新行革審))
昭和63年12月1日

III 検査・検定制度・資格制度
 3 資格制度
(3)制度の内容等による区分とこれに応じた見直しの視点
(1) 業務独占資格
 有資格者以外は当該業務に従事することを禁じることにより、資格者に対して業務を独占させるとともに業務上の一定の義務化を課する資格については、国民の生命や財産の安定を図る上で重大な役割を果たす者等に限定するとともに、業務独占の範囲を必要最小限のものとする。
(3) 名称独占資格
 国民の利便や職業人の資質向上を図るため、一定の基準を充足している旨を単に公表し、又は一定の称号を独占的に証することを許す資格については、国が設けるにふさわしい特別な社会的意義を有する者に限定する。

 ※5 保健婦規則制定の背景
 保健婦に関しては、当時、保健婦、社会保健婦、公衆衛生看護婦、衛生訪問婦、巡回看護婦、結核看護婦、健康指導婦等数10種の名称が使用され、職分も一定でなく、教育、経験の程度も著しい差異があった。そのため、保健婦の資格を一定し、的確な指導を行う保健婦の普及を図るため、保健婦制度の制定が強く要望されるようになった。
 ※ 昭和15年 第1回全国保健婦大会 昭和16年には第2回開催。第2回大会で、保健婦規則案が提案される(保健婦名称の下で名称を統一し、かつ、それらの人の職場確保のため、一定の教育を行い資格を一定するとの内容)。
 ※ 保健婦は、一定の徽章を着用することがあわせて義務付けられた。
 ※ 保健婦規則(昭16.7.10厚生省令第36号)
 第9条 第1条第1項ノ規定ニ依ル地方長官ノ免許ヲ受ケズシテ保健婦ノ名称ヲ使用シ同条第1項ノ業務ヲ行ヒタル者ハ50円以下ノ罰金ニ処ス

 厚生省衛生局長から地方長官あての通牒(昭16.7.28発衛90号)においては、社会保健婦、農村保健婦と称する者も規制対象となるが、巡回指導婦、衛生指導婦のような保健婦の名称を使用しない場合には、規制対象とならないとしている。

 ※6 医師、理学療法士等の名称独占の例
(医師)
 医師法(昭23.7.30法第201号)
 第18条 医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。
 第31条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 第17条の規定に違反した者
 (略)
 2 前項第一号の罪を犯した者が、医師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、3年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 第33条の2 ・・・・第18条、・・・・・・・の規定に違反した者は、50万円以下の罰金に処する。
(理学療法士・作業療法士)
 理学療法士及び作業療法士法(昭40.6.29法第137号)
 第17条 理学療法士でない者は、理学療法士という名称又は機能療法士その他理学療法士にまぎらわしい名称を使用してはならない。
 2 作業療法士でない者は、作業療法士という名称又は職能療法士その他作業療法士にまぎらわしい名称を使用してはならない。
 第22条 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
 第7条第1項の規定により理学療法士又は作業療法士の名称の使用の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、理学療法士又は作業療法士の名称を使用したもの
 第17条の規定に違反した者
(言語聴覚士)
 言語聴覚士法(平9.12.19法第132号)
 第45条 言語聴覚士でない者は、言語聴覚士又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。
 第51条 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
 第9条第1項の規定により言語聴覚士の名称の使用の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、言語聴覚士の名称を使用したもの
 第45条の規定に違反して、言語聴覚士又はこれに紛らわしい名称を使用したもの
(歯科衛生士)
 歯科衛生士法(昭23.7.30法第204号)
 第13条の6 歯科衛生士でない者は、歯科衛生士又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。
 第20条 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
 (略)
 第13条の6の規定に違反した者

(問題点として指摘される点)
○患者に対する医療に関する情報提供として不適切である。
 看護補助業務を行っている者に対して、見習い看護婦などの名称を称させることは、一定の教育を受けた資格者であるような誤解を与え、患者に対して医療に関する正確な情報提供を促進しようとする動きに反するものであり、患者の不信感を強めさせかねないおそれがある。最近問題となりつつある看護師でない保健師が看護師と称することも不適切である。
 ※7 過去に問題とされた事例
 一定の研修を修了したとして、看護婦でない者に対して副看護婦の「資格」を与えたり、看護婦、准看護婦に対して産科看護婦と称する登録証を発行していた例がある。

○他の医療関係職種との整合性が図られていない。
 看護職員に独占されている診療の補助業務の一部を解除して創設された理学療法士等の医療関係資格が名称独占とされているのに、母体となっている看護職員が名称独占とされていないことは不整合である。仮に看護師、理学療法士でない者が診療の補助業務とまではいえない理学療法関連の業務を実施した場合、理学療法士の名称は禁止され、看護師の名称は許されることはおかしい。
 なお、刑法における助産師に加え、平成13年改正において、すでに、保健師、看護師、准看護師に守秘義務が規定されており、不整合は拡大している(守秘義務の法定化により、他資格並びで資格としての信用力は向上しているにもかかわらず、無資格の看護師と称する者が規制されないことから、これらの者による個人情報漏洩のおそれがあり、このことが看護関係資格そのものの信用性にも悪影響を及ぼすおそれがある。)。

○福祉関係資格との整合性も図られていない。
 社会福祉士や介護福祉士は、近年創設された福祉関係資格であるが、福祉に関する相談や介護行為自体は国民が日常生活で行っていることからそれ自体を規制する(業務独占)ことは不適当であるが、それらの専門従事者であることが国民から識別され、社会的な信用を確保することが必要であることから名称独占とされた経緯がある。これらの事情は看護職員にあっても同様である。

○名称独占とされている保健師についてもさらに見直しが必要ではないか。
 名称の使用が制限されるのは、保健指導業務に従事する場合のみであるが、同様の性格を持つ歯科衛生士においては、歯科保健指導業務に限らず名称独占とされており、規制としては不完全ではないか。

(その他の論点)
 名称独占とした場合、どこまでを規制するのか。紛らわしい名称も規制する場合、その範囲が不明確ではないか。
 家族や家政婦による付き添い「看護」の実態があり、仮に付き添い看護婦なる存在があった場合、名称独占に抵触することとなるのではないか。看護補助者、看護助手、看護職員、看護要員等の用語の使用はどうか。

 業務独占がかけられていれば実際上不都合はないのではないか。今になって制度改正する必然性があるのか。

 業務に関する名称独占とするのか、一般的な名称独占とするのか。



医療関係職種に係る「資格の性格」等一覧

名称 資格の性格 制度創設年 (参考)従事者数
医師 業務独占
名称独占
昭和23年 262,687人
歯科医師 業務独占
名称独占
昭和23年 92,874人
薬剤師 業務独占
名称独占
昭和35年 229,744人
保健師 名称独占※1 昭和23年 45,976人
助産師 業務独占 昭和23年 25,724人
看護師 業務独占 昭和23年 772,407人
准看護師
(都道府県知事交付)
業務独占 昭和26年 424,343人
歯科衛生士 業務独占※2※3
名称独占
昭和23年 73,297人
歯科技工士 業務独占 昭和30年 36,765人
診療放射線技師 業務独占
名称独占
昭和26年 56,156人
衛生検査技師 名称独占 昭和33年 133,019人
理学療法士 業務独占※3
名称独占
昭和40年 37,068人
作業療法士 業務独占※3
名称独占
昭和40年 22,757人
臨床検査技師 業務独占※3
名称独占
昭和45年 150,613人
視能訓練士 業務独占※3
名称独占
昭和46年 5,353人
臨床工学技士 業務独占※3
名称独占
昭和62年 17,473人
義肢装具士 業務独占※3
名称独占
昭和62年 2,869人
救急救命士 業務独占※3
名称独占
平成3年 25,125人
言語聴覚士 業務独占※3
名称独占
平成9年 7,750人
※1 保健指導業務に関して名称独占とされている。
※2 歯科保健指導業務は業務独占ではない。
※3 業務独占は、保健師助産師看護師法第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず、診療の補助として行う業務である。
医師、歯科医師及び薬剤師は平成14年末の届出数(「医師・歯科医師・薬剤師調査」)
保健師、助産師、看護師及び准看護師は平成15年末現在の従事者数(「医療施設
(静態・動態)調査・病院報告」及び「衛生行政業務報告」による推計
歯科衛生士、歯科技工士は平成14年末の従事者数(「衛生行政業務報告」)
その他は平成15年末の免許取得者数

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