障害者に対する要介護認定基準の有効性について(概要)


【目的】
 障害者の介護ニーズを判定するための指標として、現行の要介護認定基準の有効性を評価するため、福祉サービスを利用している障害者(2,468人)を対象に認定基準調査を実施


【結果】
(身体障害者)
 身体障害者については、要介護認定における一次判定結果と、障害程度 区分(生活関連動作支援項目)、介護支援専門員からみた要介護度との間 に高い相関を示した。
 ホームヘルプ利用者・身体障害者療護施設入所者(119人)中、117人が要介護状態ないし要支援状態と判定

(知的障害者)
 知的障害者については、要介護認定における一次判定結果と、障害程度区分(生活関連動作支援項目)、HoNOS、介護支援専門員からみた要介護度との間に比較的高い相関が認められた。
 ホームヘルプ利用者(30人)中、29人が要介護状態ないし要支援状態と判定

(精神障害者)
 精神障害者については、他の障害と比較して、要介護認定の一次判定結果と、その他の指標との間にあまり高い相関は得られなかった。
 ホームヘルプ利用者(8人)中、2人が要介護状態ないし要支援状態と判定
 一次判定結果が「要支援」以上であった群は、「非該当」であった群との比較において、障害程度区分、GAF、IADL、ケア必要度等他の指標の多くにおいて、重度またはケアの必要性が有意に高かった。


【結論】
 現行要介護認定基準は、身体介護等の介護サービスに相当するサービス、グランドデザインで言うところの「介護給付」に相当するサービスの必要度を測定する上では、障害者においても有効と考えられた。
 ただし、障害者に対する支援においては、自立を目的とした機能訓練や生活訓練、就労支援等も重要であり、これらの支援の必要度の判定には、「介護給付」に相当するサービスの判定に用いられるロジックとは別のロジックが必要と考えられた。



障害者に対する要介護認定基準の有効性について

 目的
 障害者の介護ニーズを判定する指標として、現行の要介護認定基準の有効性を評価する。

 方法
「要介護状態の評価における精神、知的及び多様な身体障害の状況の適切な反映手法の開発に関する研究」厚生労働科学研究費補助金・長寿科学総合研究事業(主任研究者・遠藤英俊)、「介護ニーズ評価に関する調査研究事業」老人保健・健康増進等事業(財団法人日本公衆衛生協会:分担事業者・高橋紘士)の調査結果について、分析を行った。
何らかの福祉サービスを受けている障害者(身体障害者(737人)、知的障害者(841人)、精神障害者(890人))、合計2,468人に対し、介護保険の要介護認定で用いられている認定基準調査を実施。
併せて支援費制度の施設給付に関して用いられている障害程度区分調査を実施、また精神障害者、知的障害者については、その他の評価指標等についても調査。

調査開始時点において、障害福祉サービスの新しい体系が不明であったため、介護保険で給付される介護サービスと同じ性格のサービスである、障害保健福祉施策改革のグランドデザイン(以下、グランドデザインと略)で「介護給付」と位置付けられるサービスとは性格を異にする更生施設、授産施設等のサービス利用者も調査対象に含む。
障害程度区分については、その内容から全体を「生活関連動作支援項目」「社会参加支援項目」の二つに分け、それぞれの合計点を尺度として使用した。
その他の評価指標としては、GAF、BPRS、HoNOS、ケアニーズ、介護支援専門員からみた要介護度、等を使用した。

 結果
[身体障害者]
要介護認定における一次判定の結果は、「要介護5:10.6%、要介護4:7.6%、要介護3:5.5%、要介護2:8.8%、要介護1:38.4%、要支援:17.5%、非該当:11.6%」であった。
要介護認定における一次判定結果と、障害程度区分(生活関連動作支援項目)、介護支援専門員からみた要介護度、ともに高い相関を示した。
グランドデザインで「介護給付」と位置付けられるホームヘルプと身体障害者療護施設の利用者については、119人中117人が要介護状態ないしは要支援状態と判定された。

[知的障害者]
要介護認定における一次判定の結果は、「要介護5:4.7%、要介護4:5.5%、要介護3:7.3%、要介護2:13.0%、要介護1:35.2%、要支援:21.5%、非該当:12.8%」であった。
要介護認定における一次判定結果と、障害程度区分(生活関連動作支援項目)、HoNOS、介護支援専門員からみた要介護度との間に比較的高い相関が認められた。
ホームヘルプの利用者については、30人中29人が要介護ないしは要支援状態と判定された。

[精神障害者]
要介護認定における一次判定の結果は、「要介護3:0.1%、要介護2:1.8%、要介護1:17.0%、要支援:35.0%、非該当:46.1%」であった。
他の障害に比較して、要介護認定の一次判定結果と、その他の指標との間にあまり高い相関は得られなかった。
ホームヘルプの利用者については、8人中2人が要介護ないしは要支援状態と判定された。
要介護度別に、障害程度区分、GAF、IADL、ケア必要度等他の指標の得点の分布を見ると、要介護度が重度であるほど、他の指標も重度又はケアの必要性が高くなっていたが、各要介護度毎の分散は大きく、群間の分布の重なりも認められた。
一次判定結果が「要支援」以上であった群は、「非該当」であった群との比較において、障害程度区分、GAF、IADL、ケア必要度等他の指標の多くにおいて、重度またはケアの必要性が有意に高かった。
「非該当」、「要支援」、「要介護1」の3群間の要介護認定基準調査結果では、認定調査項目のうち、第2群(移動)、第3群(複雑な動作等)、第5群(身の回りの世話等)、第6群(コミュニケーション関連)、第7群(問題行動等)において、要介護状態区分が高いものほど該当する認定基準調査項目が多くなる傾向が認められた。

 考察
[現行要介護認定基準の適用可能性]
 現在、客観的な指標に基づき介護の必要度を判定するものとして、我が国で制度的に用いられているものは、介護保険における要介護認定基準しか存在しない。
 現行の要介護認定基準は、高齢者の加齢による介護ニーズに対し、身体介護等の介護サービスの必要度を予測する指標として開発されたものであるが、今回の調査において、身体障害者及び知的障害者の身体介護を中心とした介護サービスの必要度を測定する上でも有効であることが認められた。
 一方、精神障害者については、「非該当」と判定された群と「要支援以上」と判定された群の2群間の比較では、GAF等他の指標の大半において、「要支援以上」の群が「非該当」の群と比べて重度またはケアの必要性が高いという有意差が認められ、要介護認定基準が精神障害者においても身体介護等の介護サービスの必要度を反映していることが示唆された。
 精神障害者について、今回のデータでは、要介護認定の一次判定結果と、介護支援専門員が判断した要介護度、障害程度区分、GAF、BPRS等他の指標との高い相関は得られなかったが、これは、(1)調査対象者の半数について「要支援」又は「要介護1」が大半であり、残りの半数も「非該当」という結果であったこと、(2)介護支援専門員の判断する要介護状態区分が比較的低いレベルに分布していること、(3)障害程度区分(日常生活支援項目)の点数も低いレベルに分布していること、から統計的な相関が高くは得られなかったと考えられる。
 なお、精神障害者が実際に利用しているサービスは、その大半が、グランドデザインでいうところの「訓練等給付」に相当する授産施設等のサービスであり、「介護給付」に相当するサービスとは異なっているが、これは、精神障害者では身体障害者や知的障害者と比べて身体介護等の支援を必要とする者が、相対的に少ないという実態を反映しているものと考えられた。

 結論
 現行要介護認定基準は、身体介護等の介護サービス、グランドデザインで言うところの「介護給付」に相当するサービスの必要度を測定する上では、障害者においても有効と考えられた。
 ただし、障害者に対する支援においては、自立を目的とした機能訓練や生活訓練、就労支援等も重要であり、これらの支援の必要度の判定には、「介護給付」に相当するサービスの判定に用いられるロジックとは別のロジックが必要と考えられた。

 今後の研究方針
 今回の調査結果では、障害者に対しても、「介護給付」に相当するサービスの必要度を判定する指標として、介護保険制度で用いられている要介護認定基準は有効性をもつことが認められたが、今後、これを出発点として、より精確で加齢による要介護状態、障害による要介護状態双方により有効な指標の開発を進めていくことが必要である。そのためには、介護保険の要介護認定基準策定の際に行われたようなタイムスタディの実施が不可欠であり、平成18年度にも実施できるよう、障害福祉サービスにおけるケアコードの開発等の準備を行う必要がある。
 なお、障害者に対する支援は、精神障害に関する今回の調査結果からも明らかなように、訓練、就労支援など身体介護以外のサービスが必要であり、こうしたサービスの必要度を判定するための指標の開発をあわせて進めていくことが必要と考える。

トップへ