05/03/04 医療安全対策検討会議第19回議事録              第19回医療安全対策検討会議                         日時 平成17年3月4日(金)                            12:00〜                         場所 厚生労働省9階省議室 ○高久座長  時間になりましたので、ただいまから第19回医療安全対策検討会議を開会させていた だきます。委員の皆様方、本日は雪の中、しかもお忙しい中をご出席いただきまして、 ありがとうございます。一部遅れて来られる方がいらっしゃるようですが、15名の方か らご出席の返事をいただいています。ただいまから検討会議を開催しますが、最初に資 料の確認を、事務局からよろしくお願いします。 ○事務局  皆様方のお手元には、議事次第、出席者名簿、座席表がそれぞれ1枚ずつ、資料1〜 4、参考資料1〜9があります。それから、財団法人日本医療機能評価機構からの通知 が追加で配られていると思います。資料については以上です。 ○高久座長  それでは、まず初めに、「平成17年度の予算案」、「医療安全対策検討会議関連部会 について」、「医療事故情報収集等事業の見直しについて」の3つについて、いずれも 関連がありますので、まとめて事務局から説明していただいて、そのあとご議論をいた だきたいと思います。 ○事務局  それでは、順次説明をさせていただきます。本日は報告が2点、ご議論いただきたい 点が1点あります。資料1は、「平成17年度予算(案)医療安全対策の総合的推進」で す。1頁は平成17年度予算の予定です。12億5,600万円で、前年度と比べて約2億円、 約19.3%の増となっています。新規の事業についてのみ、ご説明させていただきます。 1「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」と4「その他」になります。○が いくつかありますが、ハイリスク施設・部署の安全ガイドライン導入、周産期医療施設 のオープン病院化モデル事業、手術室における透明性の向上です。この3番目の○は、 内視鏡手術の訓練をする施設を整備していただく際の施設整備費、あるいは設備整備費 の補助ということになっていて、メニュー項目の追加となっています。新規は以上4点 です。それ以外の項目は、基本的には前年度と同じような施策を行うこととなっていま す。  4頁にあります、来年度から行う予定のモデル事業2つについて、簡単にご説明させ ていただきます。診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業ということで、約1億 円となっています。診療の過程において予期し得なかった死亡や診療行為の合併症等で 死亡した場合に遭遇したときに、解剖所見に基づいた正確な死因の究明と、診療内容に 関する専門的な調査分析とを行いまして、診療上の問題点と死亡との因果関係を解明す るとともに、同様な事例の再発を防止するための方策を専門的・学際的に検討し、それ を皆さんにお伝えするといった趣旨の事業です。  5頁に、モデル事業の概略、概念図を記載しています。時間の関係で、この説明は割 愛させていただきます。  6頁は、周産期医療施設オープン病院化モデル事業です。こちらは、2,700万円余り です。安心、安全な周産期医療体制の確保を図るために、産科のオープンシステム病院 を中心とした病診連携のシステムを構築するといった事業です。これは、「厚生労働大 臣医療事故対策緊急アピール」にも、「施設」に関する対策として記載されている事項 です。7頁に事業のイメージ図が書いてありますので、こちらも後ほどご覧いただきた いと思います。  資料2は、「医療安全対策検討会議関連部会」です。1頁の図は、平成16年度の組織 体制です。医療安全対策検討会議の下に3つの部会、2つのワーキンググループが動い ています。2頁には、その開催状況が記載されています。本日を含め、計13回の検討・ 審議をしていただいています。昨年10月から事故報告制度が始まったことを踏まえまし て、ヒューマンエラー部会と事例検討作業部会の役割分担が不明確になるのではないか というご指摘があります。平成18年度の医療法改正に向けた議論が医療部会で始まって いますが、この医療法改正に向けて、医療安全に関する施策のあり方について、検討の 必要性なども受けまして、検討体制の見直しを図りたいと考えています。  3頁は、平成17年度の組織図(案)です。大きく2点あります。まず1点目は、医療 安全対策検討ワーキンググループ(仮称)の設置をご審議いただきたいということです 。今後の医療安全対策のあり方についての検討ということになっています。平成18年度 の医療法改正に向けての議論が、社会保障審議会の医療部会で始まっています。医療安 全分野も大きな柱になっていますが、その医療安全分野に関して具体的な議論を医療安 全対策検討会議でしていただくという形になっています。その具体的な議論を、こちら のワーキンググループでしていただこうという趣旨です。  続きまして、ヒューマンエラー部会と、その下に各種作業部会とあります。事故報告 制度が始まったことに伴い、事例検討作業部会との役割が不明確になってきたというご 指摘も踏まえまして、さまざまな医療安全に関する問題点があったときに個別に議論を していただく場としての作業部会を設置してみてはいかがか、という考え方です。資料 1にもありましたが、来年度の予算で「ハイリスク施設・部署の安全ガイドライン導入 」が掲げられています。来年度は、集中治療室における医療安全管理体制、安全管理指 針の検討等を具体的には行ってはどうかと考えている次第です。  4頁はワーキンググループの運営要綱(案)になっていますので、ご覧いただければ と思います。  資料3は、「医療事故情報収集等事業(ヒヤリ・ハット事例)の見直し」についてで す。1頁は、2月4日のヒューマンエラー部会でお諮りした資料です。3つほど問題点 がありました。定点医療機関の問題で、定点化を平成16年4月から行っています。た だ、施設の規模・地域等の調整をしておらず代表性がない、定点の登録を行っても、定 期的な報告のない医療機関があるといった問題点がありまして、それに対して、規模・ 地域等を調整した対象機関を大体300医療機関程度にすることを考えています。これに ついては、2頁にその考え方を記載しています。定点医療機関については、全般コード 化情報を必ず報告してもらうという形にしてはどうか、といった改善案です。  2つ目ですが、平成16年4月から対象医療機関を全医療機関に拡大したことにより報 告数が急増しています。もともと250カ所程度だったものが、平成17年2月1日現在で 1,263カ所になっています。これは、この資料の3頁、4頁に、登録施設数、内訳等が 記載されています。平成16年4月から、全般コード化情報は6カ月毎、記述情報は3カ 月毎に収集しているという状況になっています。これらの方法の多少の変更を考えてみ てはいかがか、ということです。全般コード化情報に関しては定点医療機関のみの報告 とする、記述情報に関しては全ての登録医療機関から、テーマを決めまして、それに沿 った事例、あるいは特に警鐘的な事例に関してのみの収集にしてみてはどうかというこ とです。また、全般コード化情報も記述情報に合わせて3カ月毎の収集とし、サーベイ ランス的な機能も期待してみてはどうかということです。その他、記述情報は事例の分 析が十分に行われておらず、改善策等が適切に記載されていない、記述情報の中に個人 名が記載されているなど、不適切な記載も増えています。こういったものに対して、医 療機関への周知、あるいは教育・研修を行ってみてはどうかということです。こちらに ついては2月4日のヒューマンエラー部会でお諮りし、ご承認をいただきました。これ を踏まえて3月1日付で日本医療機能評価機構から関連の通知が出ています。 ○高久座長  どうもありがとうございました。予算、関連部会の再編の問題、ヒヤリ・ハット事例 の収集方法の見直しということで事務局から説明していただきましたが、何かご質問あ りますか。資料2に関連部会の再編がありますが、事務局の案のように部会を見直すと いうことでよろしいですか。なお、ワーキンググループの委員の方々については、私と 事務局で検討して、この会に報告したいと思います。ご一任いただければと思います。 本日のいちばん重要な課題は、第4番目の議題の「今後の医療安全対策」です。前回も いろいろご議論いただきましたが、今日も残りの時間を使って、今後の医療安全対策に ついていろいろご議論いただきたいと思います。その前に、事務局から資料4について 説明していただきます。 ○事務局  それでは、資料4、「医療提供体制の改革に関する主な論点整理」です。まず1頁、 項目案(医療安全分野)についてご説明させていただきます。参考資料1にもあります が、2月2日の社会保障審議会医療部会で提出された論点整理案が、資料の左側に書か れています。右側が医療安全対策検討会議、具体的には先ほどご承認いただいたワーキ ングのほうで検討を行っていただく主な論点案です。  (1)は、医療安全対策における国、地方の役割ということです。医療部会のほうで 医療安全対策が医療政策の重要課題となっていることを踏まえ、医療安全対策について の国、地方の役割を明確にするべきではないか、といった論点が提出されています。こ れに関して、ワーキングでは、医療法における国と地方公共団体の役割について議論し ていただきたいと思っています。この関係としては、参考資料2と3になります。参考 資料2では、関連の法令を一部抜粋しています。まず医療法第1条の3に「国及び地方 公共団体は、前条に規定する理念に基づき、国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に 提供する体制が確保されるよう努めなければならない」という形で記載されています。 従来、この「良質かつ適切な」というところに「安全な」という意味も含まれていると いう解釈ではあるかと思いますが、安全に対する考え方を明記してみてはどうかという ことです。同じような条文が第1条の4などにも続いています。法の理念に安全という ことを明記してみてはどうかということも含めて、国と地方公共団体の役割について議 論していただきたいと思っています。  参考資料3は、医療安全推進総合対策です。こちらの会議で平成14年4月に取りまと めいただいた報告書です。この6頁に、国あるいは地方自治体の責務ということで考え 方が明記されていますが、法律上そういったものがないということで、これについて議 論してみてはどうかということです。  (2)は、医療機関における安全管理体制です。(1)は、医療安全管理体制です。安 全管理者(リスクマネージャー)や安全管理部門の設置、患者相談体制の整備が、特定 機能病院及び臨床研修病院について義務化されています。ただ、責任を持った安全管 理、患者の利便の観点からは、一定規模以上の医療機関にその対象範囲を拡大すべきで はないか。例えば診療所においても高度あるいは専門的な医療が行われているという実 態もあり、医療機関の規模、機能に応じて実効性ある安全管理体制の実現を図るため、 どのような改善強化策が考えられるか、といった論点があります。診療所あるいは歯科 診療所、助産所、薬局等についての安全管理体制のあり方、あるいは、医療の提供を行 うという意味で、介護老人保健施設や訪問看護ステーションにおける安全管理体制のあ り方、医療機関内の患者相談体制について等々、議論をしていただければと思っていま す。こちらは、参考資料2の4頁に関連の条文があります。病院、有床診療所に現在4 つの項目が義務化されていますが、こういった内容を診療所等にも一部でも考えていく べきではないか、といった論点です。  次に、院内感染対策と放射線防護対策ですが、こちらは担当の指導課から説明しても らいます。  院内感染については、医療部会における論点として、必要な管理体制の整備の推進、 院内感染発生時における医療機関の対応を検討するべきではないか、というお話があり ました。これについては、平成14年7月から「院内感染対策有識者会議」を省内に設置 し、平成15年9月に報告書がまとめられたという経緯があります。これは、参考資料5 として付けさせていただいています。その中でいろいろ対策をとらなければいけないこ とがありまして、論点として右側に3点ほど挙げてあります。このようなことについて 検討していく必要があるのではないかと思っています。  続きまして、放射線防護の関係です。患者に適切な放射線照射が行われるよう必要な 管理体制の整備を推進するべきではないか、というお話がありまして、3点ほど挙げて あります。従来より放射線照射につきましては、CTや造影検査といった画像診断を中 心とした利用が行われていますが、今般、PET検査などのように新しい放射線診断法 の普及や、がん組織への照射など、放射線治療、また線源の埋込み等々いくつか動きが ありますので、その辺を踏まえた形の安全管理体制の整備を検討する必要があるのでは ないかと考えています。  引き続きまして、2頁の(3)の説明をさせていただきます。苦情や相談への体制整 備ということで、(1)は医療機関における体制です。医療機関における患者からの苦情 や相談を受け付ける体制は十分なものとなっているか、という論点です。これについて は、患者相談体制についての議論をしていただきたいと思っています。(2)の医療安全 支援センターについては、現在、都道府県等に設置していただいていて、簡単に言いま すと、行政にある相談窓口という形になります。医療事故防止をはじめとした医療安全 向上のため、患者等からの苦情相談に対応する機関として医療安全支援センターがあ り、整備が進められているが、患者等の利益の保護の観点から、法的な位置づけの明確 化や二次医療圏ごと等への設置拡大、改善充実を図っていくことが必要ではないか、と いった論点です。現在、医療安全支援センターに関しては法的な位置づけがなされてい ません。ワーキンググループでは、医療計画への位置づけ等も含めて議論をしていただ きたいと思っています。  (4)は、医療事故や医療関連死の報告・届出に関する制度です。(1)は、事故事例 の報告・届出です。事故事例、ヒヤリ・ハット事例については、既に事例収集の仕組み があるが、報告対象や収集後の分析、還元の在り方について見直す必要はないか、ま た、医療事故等の報告を法律上義務づけるべきとの意見についてどのように考えるべき か、といった論点が医療部会から示されています。これについては、備考欄にも書いて ありますが、ヒヤリ・ハット事例の報告対象等については見直しを行い、平成17年4月 1日からの改善の予定です。しかしながら、集められた情報の活用方法については、ま だ考えていかなければいけないということで、集積したヒヤリ・ハット事例情報の活用 方法等についても議論をしていただきたいと思っています。(2)は、原因究明制度、紛 争処理制度等です。医療の透明性の確保、医療事故の再発や萎縮医療の防止を図るた め、診療行為に関連して患者が死亡した場合の届出と、中立的専門機関による科学的根 拠に基づいた原因究明を行う制度について検討する必要はないか、医療事故等に関わる 紛争について早期解決を図るための裁判外紛争処理制度(ADR)について検討する必 要はないか、といった論点が示されています。  先ほど予算のところでも簡単に触れましたが、平成17年度より、診療行為に関連した 死亡の調査分析モデル事業を行う予定です。ただ、届出制度についてはまだモデルとい う段階ですので、そういった制度的な必要性について議論していただきたいと思ってい ます。また、中立的機関による死因究明制度に関する検討については、参考資料8にな ります。医療現場から、診療行為に関連した患者死亡の届出についてということで、日 本内科学会をはじめとした19の臨床系の学会からこういったご要望を受けています。こ のようなことを踏まえて検討をお願いしたいと思います。  3つ目の医療分野における裁判外紛争処理制度の検討については、すでに裁判外紛争 解決手続の利用の促進に関する法律が、平成16年12月1日に公布になっています。医療 だけに特化したわけではなく、全体ということになるのですが、医療分野に関するもの についての議論が必要ではないか、といった論点です。  (5)の医療事故をおこした医師等への対応については、担当の医事課からご説明さ せていただきます。  お手元の資料の4頁以降が、この部分に関する関連資料です。医療事故を含め、さま ざまな理由で行政処分を受けた医師が、処分後医業に復帰するに当たっての再教育のあ り方に関して、昨年3月の医道審議会医道分科会において、別途検討会を立ち上げ検討 を進めると定めたところです。それを受けまして、昨年の秋から、「行政処分を受けた 医師に対する再教育に関する検討会」を立ち上げました。現在までにすでに4回の検討 を終えていまして、本年度中を目途に最終的な報告書を取りまとめる予定です。  (6)は、その他です。歯科医療における安全確保の強化についてどう考えるか。病 院歯科及び歯科診療所における医療安全管理体制についてのご議論をいただきたいと思 っています。医療事故の中でも、医薬品に関連するものが多いことを踏まえ、医療機 関、薬局における医薬品に関連する医療安全をどのように確保していくか、という論点 に関しまして、医療機関、薬局における医薬品安全使用体制について、それから、薬局 における調剤事故等の報告制度のあり方についての検討もしていただきたいと思ってい ます。医療機関における医療機器の適正な利用や保守管理についてどのように確保して いくか、という論点に関しては、医療機器の適正な利用や保守管理に関するルールの検 討をしていただきたいと思っています。  以上、事務局でさまざまなご意見を取りまとめた中で、ワーキンググループで検討を 行っていただきたい主な論点案を取りまとめたものです。これらに関するご意見、ある いは、他の観点での論点があるのではないかといったご意見等をいただければと思って います。 ○高久座長  どうもありがとうございました。医療安全に関係するいろいろな問題について、現在 進行中、検討中のことを含めて説明がありましたが、今の報告への質問も兼ねて、医療 安全全体の今後の対策ということで、ご意見をいただきたいと思います。 ○桜井委員  ヒヤリ・ハットのことなのですが、資料3と資料4の(4)の(1)に関連して、医薬 品・医療用具等対策部会でたびたび議論が出ました。ヒヤリ・ハット事例報告は、医療 機関のご努力によって件数も増えたと思います。ただ、あくまでこのヒヤリ・ハットの 事例報告というのは入口のことで、リスク管理とか安全対策ということから言うと、出 口が非常に大切なわけです。入口ばかり間口を広げても、出口が効果的でないと、いわ ゆる労多くして効少ないということになりかねない。したがって、出口をにらんだ形で の入口の報告制度が考えられないか、ということが1つです。  もう1つは、いままでのヒヤリ・ハット事例の評価がなされていないということです 。何千件、何万件と集まっても、どれがどういうことかという評価がなされていない。 要するに、フィルターがかかっていない一次情報だけがどんどん重なってくるというこ とです。  3番目は、先ほどの出口論と同じなのですが、フィードバックが大事だろうというこ とです。いくら事例が集まっても、それが現場にフィードバックされなければ何の意味 もないわけです。したがって、十分そこで評価をし、フィルターをかけ、その結果をフ ィードバックして、安全に効果あらしめるということが筋ではないかと思います。そう いう議論はいままでもたびたび出ているのです。ここには何も書いていないものですか ら、ちょっと発言させていただきました。 ○高久座長  実際にフィードバックして、医療機関に事例や対応を知らせるような組織があるので すか。 ○事務局  ヒヤリ・ハット事例については、いままで事例検討作業部会、ヒューマンエラー部会 でご議論いただき、重要事例などを取りまとめてコメントを付けたものを、医療機能評 価機構のホームページで検索できる形では公表していますが、さらに活用を考えるため に、来年度の厚生労働科学研究などでは、具体的な対策の提言などができるような形で 研究を進めていただこうと考えているところです。 ○北村委員  診療行為の関連死の届出ですが、学会からの申し出に対して行政が速やかに動いて、 行政と医学会が医療事故の問題について初めてくっついた。従来、学会というのは専門 ばかが集まってやっていて、行政との関連は非常に少ないものでしたが、医療事故を起 こし易い先端的なことをやっている医師たちには、行政からの指導だけではなくて、学 会の専門医教育などを通しての指導がいちばん有効ではないかと思うのです。行政から キシロカインの問題が出たときも、循環器系の学会、心臓外科の学会、看護師の学会等 が対応してから、キシロカインの事故はなくなっているのではないかと思います。  以前から、都道府県の知事には通達は行っていたのですが、実際にキシロカインを注 射するのは現場の若い医師が多いのです。ですから、行政と日本医学会との連携を強化 して、専門教育をしたり、日本医学会を使って指導、通達をしてほしい。行政と学会が 手を結び合っているのが、いちばん確実な姿ではないかと思うのです。座長の高久先生 が医学会の会長をしておられ、医政局長もいらっしゃいますので、このお2人に手を結 んでいただくのがいちばん実効力のあるやり方だと思います。こういうことを現場の若 い医師に戻すというのは、行政はやりにくいだろうと思います。知事に通達しても、現 場の医師に通達されていない。医学会と行政とが組むという形が望ましいのではないか と思います。 ○高久座長  19の医学会が共同の声明を出したというのは今までなかったことで、ある意味では、 それだけ現場は困っていたのだと思います。学会についてはいろいろなことが言われま すが、学会はやはりある程度世の中に信用があって、19の学会がまとまってこういう声 明を出すということにはかなり意味があると思います。日本医学会には現在、98の学会 が属していますが、日本医学会としてもこの声明をサポートしたいと考えています。医 学会といってもマンパワーがたくさんあるわけではありませんから、各分科会の学会の 方々と協力して、行政、日本医師会とも連絡をとりながら、こういう社会的に重要な問 題について意見を表明したいと考えています。 ○高津委員  資料4の3頁の(6)に「歯科病院及び歯科診療所における医療安全管理体制につい て」という課題が入っていますが、歯科診療所においては日本歯科医師会で医療安全ネ ットワーク事業を進めていますので、少し把握できるようになっています。しかし、大 学の附属病院も含めて、そのほかの総合病院の口腔外科を中心とした病院歯科は、日本 歯科医学会の参加を受けて両立でやっていかないといけないと思いますので、ワーキン ググループ等に日本歯科医学会の麻酔学会、口腔外科学会も含めて参加させていただい て、こういう作業をすればいいのかなと感じています。 ○細田委員  ヒヤリ・ハットで出てきたものを、どうやって実際に起こらないように予防するか。 総括的には、事務職員まで含めた現場の人間が認識を高めるということが大事だという ことはわかり切っているのですが、折角いま情報システムを病院に導入しようという動 きがある。5、6年前に私どもの班会議でやったことを厚生労働省に出してあるのです が、情報システムを使って物理的にエラーが起こりにくい仕組みをつくるということは 非常に重要ではないかと常々思っています。  私どもは、情報システムを入れたときに、患者さんの枕元でそれが立ち上がるように し、患者さんがいないとその患者さんの情報システムは立ち上がらないようにしました 。要するに、患者さんがそこに陪席することによってその人のシステムが立ち上がるこ とにしたのです。そして、その人のその日のスケジュールが全部書いてあります。患者 さんはそれを見ていますから、何時になったら看護師が来て注射をするかということが わかっているわけです。そうすると、隣の人に注射をしようとしたときに「それは違う 」と言える。医療従事者がいくらチェックするといっても、情報システムなどを使っ て、やはり患者さん自身にもそれをやっていただくという方向へ持っていくのがいいの ではないかと思って、今やっているわけです。  実は4月に個人情報保護法案ができて、現場はてんやわんやになっています。その一 方で、いまだにヒヤリ・ハットで患者さんの間違いというのがあるわけです。患者さん の間違いをゼロにするというのは大事なことではありますが、患者さんの間違いが起こ らないようにするには、何よりも認証を確実にすることだと思います。情報システムを 使って、できるだけ認証が確実にできるようにすることが大事です。  これは何も病院だけではなくて、いま金融関係で大問題になっています。それも含め て、社会的なキャラクターで個人認証をするから間違いが起こるので、バイオメトリッ クスで個人認証をするシステムをつくっていただきたい。厚生労働省だけではなく、総 務省も財務省もみんな一緒になって開発していただいて、10種類ぐらいの個人認証をバ イオメトリックスで簡単にできる端末を開発していただければ、それぞれの病院で、あ るいはそれぞれの銀行で、自分に合った何種類かを採用して個人認証をする。そういう システムが全体でできれば、今のようにばか高いシステムを入れなくても、かなり安く て確実なことができるのではないか。少なくともチェックシステムにはこういったもの を使うのがいいのではないかと思っています。複数のチェックシステムを使うと、1つ がかなり怪しくても、複数を使うことによって認証は非常に確実になると思うのです。  例えば麻酔がしてあって顔に布がかかっている人を顔写真で認証するといっても、こ れは大変なのです。そういうことを考えて、何種類かのものをそれぞれの病院で自由に 採用すればいい。いま、ユビキタスの研究費が政府から出ているのです。ああいうもの を上手に使って、カードにはマイクロチップを付けて、そこに個人のバイオメトリック スの情報が入っているようにして、それでチェックすれば、非常に簡単にできると思う のです。少なくとも、バイオメトリックスをチェックするシステムを全国的に共通に汎 用できるシステムをつくっていただいて、学校や金融や病院で、そのうちの自分に必要 なものだけを決めて使えばいい。  顔写真が基本ではありますが、アメリカでもビザが顔写真と指紋になりました。アメ リカは全体に対してもそれをやっているのですから、骨相、赤外の写真、指紋、掌紋、 声紋、サイン(署名)などいろいろなものをとれるようにしておいて、そのうちいちば ん安いものを使うのがいいのではないかと思います。我々も今、赤外とか骨相とかいろ いろやっていますが、我々の病院だけでやると、ものすごくお金がかかるのです。お金 がかかるだけではなくて、不確実なものになる。今流通しているものでは、サイバーサ インなどというものもありますから、金融の人などはサインを使えばそれでチェックが できる。今からのIT社会をプロモートする意味でも、非常にいいのではないかと思い ます。 ○高久座長  今朝8時ごろ、NHKで、医療施設が個人情報保護にどう対応するか、ということを 放送していました。これから、病院の外来で名前を呼んではいけないなど、いろいろな 制限が必要になってくる。プライバシーを守ることは重要なのですが、それと医療の安 全とをどう調和させるのかということが問題になってきます。いま細田委員が言われた バイオメトリックスなどの方法を使って、名前を書いたり呼んだりしなくても個人を同 定できる方法を確立しないと、どこでどう間違えるかわからない。間違えたりすると大 変なことになります。この事は、厚生労働省だけではなくてすべての省に関係がありま すので、少し検討していただければと思います。 ○寺岡委員  個人認証が大切だということで、細田委員がおっしゃったこと、座長がおっしゃった ことは基本的にはそのとおりだと思います。ただ、医療機関の現状、そういう高度な情 報システムを導入できる状態かどうかという現実を考えますと、患者さんと医師その他 の医療提供者個人個人がつながりを大切にする医療という基本に立ち返りませんと、情 報システム導入ということですべて解決するという問題ではないだろうと思うのです。 すべての医療機関が利用できるような、安価で効率がよくて安全なシステムが開発でき れば、それにこしたことはないわけですが。  私は今朝のNHKのニュースも見ていましたし、朝日新聞で「医療の現場が変わる」 という特集をしているのも見ていますが、高度な情報システムや機器を導入することに よってさまざまな問題が解決するという方向がもてはやされている。でも、それで解決 されるということには私はどうも賛成できないのです。個人情報保護についても、保護 なのですが、大切なのは、法律に基づいた患者さんと医療提供者との改めての信頼関係 を再構築するということで、医療の現場で信頼関係をもっと厚くするということが基本 であろうと思うのです。その辺を勘案しながら進めるということが大切ではないかと思 いましたので、一言意見を言わせていただきました。 ○細田委員  いまの寺岡委員のお話と私の意見は全く同じです。私は、機械を導入すればそれでよ ろしいと言っているのではなくて、機械でチェックのサポートをしようと言っているわ けです。今、コンピューターを各患者さんの横に置いてと言いましたが、それも、患者 さんのところへ看護師が行かないと何事も起こらないというシステムをつくっています 。ですから、患者さんと離れるのではなくて、患者さんとの間でそういうことをきちん とやる。例えば家族が来られて「こういう情報をください」とおっしゃったときでも、 そのご家族が本当にご家族であるということ、偽証ではないということをチェックする のに使えるシステムなのです。私は機械でやったらいいと言っているわけではないの で、誤解のないようにしてください。 ○辻本委員  私どもの電話相談に最近、入院患者さんから、どうして医療者はあんなに患者の私に 何遍も何遍も名前を言わせるのだ、という類の苦情が届くのです。それは患者さんの安 全を患者さんご自身にも守っていただくための新しい取組みなのです、ということを説 明すると、病院はちゃんとそういうことを説明していないではないか、というお話が出 てくるわけなのです。病院が説明していないわけはない、ちゃんと説明はしていらっし ゃるのですが、ということを申し上げるのですが、その辺りの情報を聞いていきます と、やはり一方通行なのです。いま、関係の中でというご意見を賜ったので、一言申し 上げたかったのですが、一度伝えれば伝わるものでもないし、一度の儀式でもないので す。  私は、ある病院の外来や病棟の掲示板に、患者さんご自身に名前を名乗っていただく のは安全のためなのです、というかわいいイラスト入りの掲示を見ました。こういうも のが常に見える形で患者さんにエンパワーメントしていただきたい。4月1日の基本法 の変り目が契機だと思いますので、是非とも患者さん自身が自分の身を自分で守れるよ うな、エンパワーメントできるようなシステム、環境をお願いしたいと思います。 ○高久座長  そうですね。今は入院期間が非常に短くなっているものですから、医療側のほうも大 変なのですね。 ○中村委員  地域医療の現場からの声を申し上げたいと思います。先月、読売新聞にこういう記事 がありました。医療事故の当事者の刑事責任は厳しく追及すべきだという国民感情はよ く理解できるが、医療行為の特殊性に配慮して闇雲な責任追及を行わない仕組みを整え ないと、危険を伴う手術などを避ける医療の萎縮と、リスクを伴いがちな診療科の医師 不足を招く。全くそのとおりで、最近は外科で手術待ちの日数が大変増えています。  それから、昨日の新聞に、新卒看護師12人に1人が1年以内に離職、主に6月ごろ、 というようなことが書いてありました。もう職業倫理や正義感だけでは現場での仕事が 務まらないような時期になっているのではないかと思います。司直の手が入って「やっ たのは誰か」という質問があると、本当に不安感が先に立ってやる気がなくなるのでは ないかと思います。いろいろな面で整備がされると同時に、この辺も並行してやってい ただき、我々が安心して医療ができるような体制を整えていただきたいと思います。 ○高久座長  わかりました。異状死といいますか、医療関連死に関しての19学会の声明も、いま中 村委員がおっしゃったことに関係があると思います。現実に、心臓外科や産科の希望者 が非常に減っていますし、私の大学の周りの病院でも、病院勤務があまりにも大変だと いうので、辞めて開業される方が随分増えて、非常に困った状況になっています。これ は、非常に重要な問題だと思っています。 ○中村委員  新研修医の話なのですが、5時を過ぎると「お先に失礼します」と言って帰る人がか なり多いと聞きます。私は将来に対して非常に不安感を抱きます。研修医の労災死の事 故があり、大きく報道されましたが、本来医師として時間外でもやるべき仕事はやらな ければいけない、ということがだんだん薄れていくような世の中になりつつあるのでは ないか、と危惧しています。 ○高久座長  逆に、救急医などは三交替制にしてはどうか。いまのように長時間勤務すると、どう しても医療事故が起こりやすくなる。そうすると、ドクターの数が足りなくなり、医療 費がかさみますが、世界的にみて、一定時間以上は勤務をしないほうが医療安全のため に良いということになりますと、勤務時間を制限せざるを得なくなります。研修医の場 合には、別な理論で現状の様になっていますが、研修医でなくても、あまり長時間の勤 務は危険だという意見が強いです。 ○堀内委員  医療事故、特に死亡事故の原因究明の制度を新しくつくられるというのは大変結構な ことで、是非進めていただきたいと思います。実は昨日、国立大学病院の病院長会議が ありまして、そこで、医療事故を公開するということを正式に決めました。ただ単に死 亡事故だけではなくて、回復した事例でも重篤なものについては公開するということに なりました。これを全国の大学病院がそろってやるということは大変結構だと思います が、患者との関係では、透明性をどう確保するかということが大事だと思います。私も 医療安全の責任者をやっていましたが、きちんと説明をしてやれば訴訟等にはならない ケースがほとんどなのです。そこがきちんと担保されることが大変重要だろうと思いま す。  繰り返し同じような事故が起こらないシステムをどうつくっていくかということが大 変重要だろうと思いますので、分析をきちんとやっていただいて、それをフィードバッ クしていただきたい。どうしても同じような事故が繰り返されるケースが多く、特に医 薬品についての医療事故が大変多いわけですが、それについては、最近は薬剤師が病棟 にかなり行っていると思いますので、薬剤師をチェック機構としてきちんと位置づけ て、報告も含めて医療事故防止という観点から位置づけて、チーム医療の中で使うこと が大変重要ではないかと思っています。 ○高久座長  薬の事故は、入院をしたときに起こりやすいと言われています。いままで外来でもら っていた薬を引き継ぐべきなのですが、それを間違えたりする。そういうことはあり得 るのでしょうね。 ○堀内委員  先日、日本病院薬剤師会が会長名で、全国の医療機関などに、入院してきた患者の持 参薬については薬剤師がチェックすべきである、という提案をしています。確かに、お っしゃるとおりいちばん起こりやすいし、最近は後発品も含めて多様な名称のものが出 ていますので、その辺の認識の問題等もあります。そういう役割を薬剤師が担うという ことが大変重要だと考えています。 ○井上委員  これまでは、劇薬、毒薬、麻薬と薬の作用から分類が行われてきました。私は最近、 安全管理上特に管理が必要な医薬品という分類もある程度必要なのかなと感じています 。例えばKCLなどごく普通の薬で、いままでの分類からいえば毒薬でも劇薬でも何で もないのです。ところが死亡事故が多発している。安全管理という面から見て、管理の 必要な医薬品という新たな分類が必要だと感じています。  医薬品とわざわざ申し上げたのは、注射剤も含んだ内服用医薬品も重要かと思ってい ます。なぜかと申しますと、この前起こりました持参薬での京都大学病院の中での死亡 事例は、あれは内服薬で起きており、名称がリュウマトレックスという名称なものです から、リュウマチの薬だと一般に感じてしまうのですが、あれはメソトレキシレートで して抗癌剤です。ですから、一般に見て取扱いが特に安全管理が必要な医薬品というく くりの分類が必要でして、看護師も薬剤師も医師も、取扱いに関してはこれは注意をし ないといけない医薬品だという医薬品の分類が要るのかと。その分類については生命に 危険が及ぶ薬理作用上等からの分類と、もう1つはアルマールとアマリールというふう に名称類似等で注意が必要と、たとえばその様な分類の1、分類の2として類系分けを して、特に安全管理が必要な医薬品といった分類が必要なのではないかということです 。特に抗癌剤等については、医師、薬剤師、看護師が別々に容量を計算して、付き合わ せたうえで、3つのサインが合ったところで投薬を許可するというシステムが今後必要 かという気がしています。 ○楠本委員  本当に薬剤師たちのご努力でいろいろと現場の薬の問題が解決されつつあるわけです が、ここで1つお願いしたいのは、ヒヤリ・ハット事例を集めるという手法とともに、 リスクアセスメントといいますか事前に危険なリスクを洗い出していくという手法を使 ったり、施設は様々なものに取り組んでいるわけです。ただ、規模別、設置別、ある種 地方別、地域別といいますか、私はそういうところでかなりまだ安全意識、体制づくり にばらつきがあると思っています。  それで、まず先ほどのリスクアセスメントも含めて施設の自己評価といいますか点検 マニュアルみたいなものを、医療機能評価機構や様々な所で質評価も絡めて安全の指標 等が作られていますが、まだ全体的に本当に中小規模の所までが使えるものにはなって いません。そういうものを作って医療監視、検査等のときに自己評価と一緒にすり合わ せをして個別指導していくということをしていかないと。  キシロカインやKCLについても体制の採られている所もありますが、医療機能評価 機構の登録病院の調査では、数字が逆かもしれませんがKCLについてはとりあえずき ちんとした所が40%、キシロカインについては18%、そういう数字が出ていますので、 必ずしも声かけしたことが隅々まで行き渡っている状況ではない。そういうあたりを本 当にどう取り組んでいくかを、私は是非この会議で何か出せるとよいと思っていて、提 案です。 ○高久座長  これから医療機能評価を受ける病院が増えてきますので、評価のときにそういう項目 もチェックにしておくと良いですね。 ○楠本委員  そういうのは9,000病院の1,500病院ですから、もう少し見やすく簡単なもので自己評 価をしていくといったことが必要ではないかと思います。 ○前田委員  私はこのまとめの(4)「医療事故や医療関連死の報告・届出に関する制度」に関し て意見を申し上げたいと思います。私は専門が法律なので少し委員の方と視点が違うと ころがあろうかと思いますが、基本的にはここでまとめていただいたことで先ほどご発 言があったヒヤリ・ハットについて、その評価、分析をさらに押し進めていく、有効活 用していくということは非常にありがたいことで、いつも重要だと思います。法律上の 義務づけに関しても、徐々に議論を煮詰めていっていただくことは重要かと思います。 それは(2)の「原因究明制度」、中立的な機関の問題とも深く結びついております。19 学会の御意見も非常に重いものとして、受け止めています。我々法律家から見ても理解 できるものとしてよく読ませていただきました。  中立的な制度がどう作られるか如何だと思います。警察・検察の側から見ても信頼の できる中立的な機関ができれば、そのようなありがたいことはないわけです。所詮、警 察・検察の側からも医療については素人ですから、グレーゾーンのどこから線を引くか は、専門家の意見が絶対必要だと思います。  ただ、これが下手をしますと、中立的機関が医療の側だけで動かすように、国民に見 えてしまうと非常に不幸な事態になる。国民、警察・検察から見ても、信頼できる制度 をいかに作っていくかが決定的です。先ほど委員の方々からご指摘があったように、医 療の現場で安心して手術などが行われるような事態を取り戻していくことも非常に重要 な使命です。そのための中立的専門機関的なものを模索していく、急ぐということは、 非常に重要な課題です。  ただし、これは一朝一夕にはいかない、かなり困難な作業です。そこで、そこは知恵 をしぼって、医療の側も一歩譲ることも含めてご議論を前に進めていただければと思い ます。  あと、ADLのご指摘もまさにこのとおりで、新しい状況に合わせて紛争解決につい て合理的なものはどんどん検討を進めて使っていっていただきたい。外から見ていれば いろいろな事故があって、制度の改変が遅いといいますか、行きつ戻りつのようにも見 えますが、私はこれを拝見していまして、着実に前に進んでいる。ただ問題は、具体化 するときにどこまでいろいろな意見をうまく汲み上げられるかと考えています。基本的 にはこのまとめで前に進めていただければありがたい、というのが私の意見です。 ○高久座長  おっしゃるとおりで、中立的な機関という事を書くのは簡単ですが、実際に具体的に どういうメンバーでどういう形で行うかという事が、これからの重要な課題だと思いま す。その意味で、先ほど事務局から説明がありましたようにモデル事業から始めて、実 際にやってみて、その結果をみて国民の信頼を得る中立的な機関を考えていくのが良い と思います。 ○黒田委員  私は医者ですが、実は50年間ほかの分野の安全の仕事をずっとやってまいりまして、 その目で見て、どうもそろそろ医療の安全に関する戦略を変えなくてはならない時期か なという感じがするのです。それはヒヤリ・ハットをやれば、事故はうんと減っていく ということでヒヤリ・ハットをやったわけですが、猛然とたくさんのヒヤリ・ハットが 出てくるということは、以前に川村先生がシステムをつくってやったことと、全く同じ 結果が出てきているのです。  ということは、いまの方法ではもう限界に来ているのだということを示しているのだ と思うのです。確かに現場ではものすごく一生懸命医療の安全に関する注意事項とかマ ニュアルをつくるとか、いろいろなことをやっているわけです。しかし、この状態を見 ていますと、いまの方法では限界に来ている。要するに、医者で言うと対症療法はそろ そろ終わりではなかろうか。とすると根治療法という何か発想の転換をしていく必要は ないのかということですが、先ほど細田委員や皆さんからお話があったように、何かい ま持っているいろいろな情報の方法論、そういうことを導入していかないと駄目なのか という感じがするのです。  その1つのいい例は、私が関係している航空機事故関係は、いま不思議なことに医療 事故が非常に多いにもかかわらず、御巣鷹山事故以来20年間、定期航空の事故がないの です。それは1970年ぐらいに大きな発想の転換をやっているのです。一生懸命やらなく ては駄目だ、ということには限界があるのだと。ほかの方法を考えていこうではないか と。クルーの問題や自動化の問題など、そういうところに方向を転換していったこと が、いまから20数年、約30年前にあるのです。そういう1つの例がいくつか産業界にお いてはあるわけで、それを教訓としてそろそろ戦術ではなくて戦略の変更をする時期で はないかという気がします。 ○高久座長  おっしゃることはよくわかります。実は日本医学会で昨年の夏に医療安全ということ でシンポジウムを行いましたときには、工学系の方に随分参加していただき、企業の 方、建設業の方などに参加をしていただき、医療以外の分野での安全対策のお話もお伺 いしました。工学系の方からは、医療安全についてのいろいろな分野の人が集まった学 会をつくってはどうかというお話がありました。  アメリカの医療では、IOMが「To err is human」という報告書を出して評判にな った様に、たくさん事故は起きています。外国でどのような方法を取り入れているかと いうことも真剣に検討する必要があるのではないか。医療安全学という新しい学問を立 ち上げ、この学会では、精神論ではなくて医療安全についての学問、ストラテジーを開 拓していく必要があるのではないかと思います。いま黒田委員のおっしゃったことは、 今後多くの人が考えるべきことではないかと私も思います。 ○寺岡委員  同じ問題に関してですが、いままでに出てきた議論の中で、医療安全を守るための体 系といいますかシステムをつくらなくてはいけない。これは私も同感です。そのシステ ムの中で組織としてのシステムの問題、そこへ電子機器を導入するとか、そういったツ ールを改善していくという方法、いろいろあると思うのです。ただ、そういうことを言 うのであれば1つ申し上げておかないといけないのは、医療の現場において医療従事者 が足りているのか足りていないのかという問題が基本にあると思うのです。  座長のおっしゃった去年の医学会のシンポジウムで永井先生がオーバービューしてい らっしゃいますが、基本的に医師、その他の医療従事者が、アメリカがいいというわけ ではないわけですが、日本は4分の1以下であるという状況です。なおかつ注意力を十 分に利かして、個人の裁量についてもあまりオーバーワークにならないようにやりなが ら、安全な医療、質の高い医療を提供していくということを考えますと、医療従事者の 数の問題、そこに掛けるコストの問題、様々な問題があると思うのです。それを度外視 して論ずることはできないと思います。当然、それは皆さんお考えになっていることだ とは思いますが、ここでいろいろな話題が出ましたので一言申し上げておきたいと思い ます。 ○山崎委員  今日のお話を伺っていましても、医療の安全を守るということでの医療提供側のレベ ルはどんどん上がっていっていると思うのです。資料4の(3)の相談への対応、これ の具体的な形がまだ見えてこない。例えば、患者に医療を提供して医療の積極的な参加 を求めるということが、医療の安全を守っていくためには大変重要なことだ、という認 識はあると思うのです。具体的に医療機関に患者がアプローチしていくときに、どこか ら相談に乗っていただいたらいいか。いま診療科が非常に分かれていますし、各診療科 と薬剤科についても、言葉は悪いのですが一種の縦割りのようなところがあって、自分 の悩みの相談をどこに持ちかけたら、その相談が解決に近づいていくのかというところ の具体的なガイドがまだできてきていないように思うのです。薬1つの相談にしても、 薬剤科で薬の相談をしても、その相談の答えが出てこないことが多くて、それは担当す る複数の診療科が協力しないと患者の相談が解決できない状況があるわけです。ですか ら、そこの相談の体制についてかなり具体的な形が示せるような検討が是非この場でも 行われていくといい、と思って一言申し上げました。 ○高久座長  まだまだご意見があると思いますが、「その他」の項目が残っていますので、皆さん 方からご意見をお伺いするのはこれで終わりにしたいと思います。本日いただいた委員 の方々のご意見を踏まえて、ワーキンググループで今後の安全医療対策について具体的 な方策を練っていただきたい。その結果を報告していただきたいと考えています。それ らの報告を基にして最終的には、社会保障審議会医療部会にこの会議の報告書として出 したいと考えています。  「その他」として事務局から参考資料の説明をよろしくお願いします。 ○事務局  参考資料9、「平成14年全般コード化情報集計結果」です。こちらは先ほどからも議 論に上がっていましたヒヤリ・ハット報告の中で、平成14年1年分の全般コード化情報 をまとめた結果を、先日のヒューマンエラー部会でご報告しています。それをこの検討 会議にもご報告したいと思います。  1頁ですが、平成14年1月から12月までで、3万3,524件の事例が収集されています。 2頁以降、具体的に2頁の4の分析結果から細かな分析結果については記載をしていま す。ただ、時間の関係もありますので、全事例ということで全体の集計の主だった項目 だけ説明をし、報告に代えさせていただきたいと思います。  集計結果ということで、14頁まで報告書であり、そのあとにデータ編が付いています 。データ編の3頁は、発生時間帯ということで、ヒヤリ・ハットの発生時間帯は8時か ら11時までの、処置が行われることが多い時間帯に事例の発生が頻発しているという内 容です。4頁の図1−5になります。患者の性別で男性と女性で言うと男性のほうが多 いという傾向です。5頁の図1−6、患者の年齢ということで、こちらは61歳から80歳 ぐらい、高齢の方に多いという傾向が出ています。7頁の図1−11で、実際にヒヤリ・ ハットを起こしてしまった当事者の経験年数が記載されています。これを見ますと、経 験の浅い方々、0年から1年といった方々がそういった状態、ヒヤリ・ハットを経験す るということが多い傾向が出ています。8頁の図1−12です。どのような場面、状況で のヒヤリ・ハットが多いかということです。「処方・与薬」、「ドレーン・チューブ類 の使用管理」、「その他の療養私生活の場面」、これは具体的には入院生活の中で転 倒、転落とか、そういったことになります。こういったものが主だったものになってい ます。  それ以外、「医療機器等の使用・管理」、「輸血」といったものを含め、このあと図 2以降、それぞれの分野に関して同じような報告があります。詳細については割愛させ ていただきます。  最後、10頁の図1−14です。影響度ということで、ヒヤリ・ハットということで、患 者に実害がなかったというものではあるのですが、間違いが実施されたというものが3 分の2ほどになっている。こういった傾向が平成14年1年度分のデータの集計でわかっ ています。  平成15年のデータについては現在集計中ですので、集計が終わり次第、こういった形 で報告、公表をしようと思っています。説明は以上です。 ○高久座長  いまの参考資料9の説明について、どなたかご質問をどうぞ。 ○寺岡委員  5頁ですが、例えば患者の年齢の統計があります。いまご報告していただきました。 71歳から80歳がいちばん多いわけですが、これは件数の中での頻度はわからないのです か。わかるはずですね。つまり、それが件数、全体の総数、母集団が多ければ多いのは 当たり前ですから、その中で頻度がどうかという集計が要ると思うのです。せっかくた くさんの資料を集めたりしているわけですから、こういう単純な集計だけではなくて、 集計をするときにはクロス計算といいますか、もう少しお互いの単純な個々の集計をク ロスした、いろいろなことを推測させるような集計も是非やっていただきたいと思いま す。 ○高久座長  同じことが図1−10の医師の経験年数も若い人がたくさんいますから、トータルとな ると多くなる可能性があります。そのデータも割合として出していただくほうが良い。 寺岡委員のおっしゃるとおりだと思います。 ○堀内委員  いまのことに関係しますが、これだけたくさんのデータを有効に利用するためにはも う少し、いまクロス統計というお話がありましたが、因子分析をやって、どういう要因 によってこれが引き起こる可能性が高いかというところまで分析できるはずだと思いま すので、是非そういう観点で分析をしていただきたいと思います。 ○望月委員  今回、平成14年の集計結果ですが、先ほどの今後の対策を考えるときにもそうです が、経年的にある程度追いかけられると思いますので、何年間かで定点観測をしている 施設で毎年ヒヤリ・ハット事例などが挙がってくる場合には、経年推移が見られると思 うのです。その場合にいまの堀内委員のおっしゃられていたようないろいろな要因を分 析されて、事例が減っている場合など、そういったものがどのような対策でそうなって いたのかという分析をしていただくと、役に立つのかなという感じがしました。 ○高久座長  おっしゃるとおりだと思います。そろそろ時間になりましたのでこれで終わりたいと 思います。次回の日程については事務局からお願いします。 ○事務局  次回の日程については、新年度、4月下旬から5月中旬の間で委員の皆さまの日程を 確認の上、後日、連絡をしたいと思っています。 ○高久座長  今日はいろいろご意見をいただきましてありがとうございました。これで終わります 。                        (照会先)                       医政局総務課医療安全推進室指導係長                       電話 03-5253-1111 (内線2579)