05/03/03 最低賃金制度のあり方に関する研究会第8回議事録          第8回最低賃金制度のあり方に関する研究会議事録                         日時 平成17年3月3日(木)                            10:00〜12:20                         場所 厚生労働省共用第6会議室 ○樋口座長  ただ今から第8回の最低賃金制度のあり方に関する研究会を開催いたします。お忙し い中をお集まりいただきましてありがとうございます。早速、議題に移ります。本日も 論点整理に従って検討を進めていきたいと思います。本日の議題は「安全網としての最 低賃金のあり方」及び「その他」についてです。まず、安全網としての最低賃金のあり 方について検討し、項目別に議論は進めていきたいと思います。では、事務局から資料 の説明をお願いします。 ○前田賃金時間課長  まず、前回、最低賃金に関するアンケート調査をJILPTでやりましたものの結果 をご紹介しましたが、その回収率を規模別、業種別で分析したらどうかというご意見が ありましたので、1枚紙で別途付けています。事業所規模ですと1〜4人の所の回収率 が18.4%で低い。30人以上が50.4%で高くなっている。ただ、配付した枚数は1〜4人 が一番多いので、全体の中のウエイトは若干薄まっていると思います。業種についてみ ますと、特に卸・小売業等が回収率が13.2%で低かったという結果です。  本論ですが、資料1は従来からの論点で、本日は2の各論の(2)安全網としての最 低賃金のあり方、及び(3)その他ということです。安全網としての最低賃金のあり方 についてですが、資料2、これまでのヒアリング等での意見をご覧ください。1頁で す。神奈川地方最低賃金審議会会長の松田会長は、これまで目安を引上げ額で示してき たわけですが、絶対額で示す方向に転換すべきというご意見です。その際に、平均賃金 額との関係や標準生計費、生活保護費との関係、支払能力等を考慮したらどうか。支払 能力の点については類似の労働者の賃金という中に支払能力ということも意味的には含 まれてくるだろうと。また毎年改正というのはかなり意味が薄れており、インデグゼイ ションのような手法も考えられるのではないかということです。日本経済団体連合会の 川本本部長ですが、最低賃金については生計費、類似労働者の賃金、通常の事業の支払 能力という3つの要素を中心に総合的に勘案して、公労使で話合いで決定してきたとい う意味合いがあるということです。影響率について最近低下しているという指摘がある わけですが、影響率というのはあくまでも最低賃金が引き上げられた場合の結果なの で、最近影響率が低いのは、最低賃金の引上げが小さかったためであるということで、 それが直ちに一定の影響率を確保するということはおかしいのではないか。一般労働者 の平均値との比較についても、平均賃金はあくまでも平均賃金なので、最低保障ライン という最低賃金と比べることの意義は薄いというご意見です。  2頁です。全国中小企業団体中央会の原川部長は、特に決定の場面で中小零細企業の 実情や支払能力を重視すべきであるということ。最低賃金の数字については各地域でそ れぞれの特性、実情を踏まえて、これまで積み上げられてきたということで、その事実 を重く受け止めるべきと。改定について毎年改定は必ずしも要らないのではないか。例 えば2年に1度とかでいいのではないか。「引下げ」もあり得るというようなご意見で す。連合の須賀局長及び電機連合の加藤部長は、最低賃金の影響率が1%程度というこ とで、実態賃金と比べても水準が際立だって低いということで水準の改善が必要ではな いか。特にマーケットバスケットの必要最低生活費やパートタイム労働者の実勢賃金と の比較、あるいはヨーロッパの水準と比較ということからも低いということ。  3頁です。慶應義塾大学の清家先生は最低賃金は供給側の最低限の生活水準の担保と いうことで、その意味からすると個々の企業がその賃金を払えるかということは考えな くてもいいのではないか。極端にはそれ以下の賃金しか払えないというような場合に は、労働市場から退出してもらうしかないということ。決め方については合理的な理由 で合理的プロセスで決められているということであれば、それはそれでいいのではない か。最低の生存費というのは個人単位で考えるべきであろうということです。  4頁です。社会経済生産性本部の北浦部長ですが、地域別に見て影響率の違いがあ る。特に大都市部は影響率が低い。そうすると実効性という意味が問題になるというこ とです。最低賃金はあくまでも供給側だけではなく、需要側の要素も入れて賃金という ことなので、生活保護基準や生計費から直ちに外部的に決定していくという性格ではな い。しかしながら、生計費は大きな要素であるので、その辺は一番関心を持ってみて、 注意していかなければならない。神代横浜国立大学名誉教授は生活保護と最低賃金との 関係で最低賃金で働いても生活保護基準に達しないというのが妥当かというのが非常に 厄介な問題であるということですが、仮に生活保護基準を下回るような水準で最低賃金 を設定せざるを得ないとすれば、足りない分は共働きや生活保護でその不足分を補給す ればよいということで、生活保護基準というのは行政的に決まっているので、それと最 低賃金を直ちにリンクさせて考えるのはどうかということです。影響率が低いというと ころもあって、一般的には水準が少し低いのではないかということです。  5頁です。(2)の履行確保の問題については、清家先生は最低賃金法違反の罰則が 安いということで、効果的な抑止力になり得るかという問題がある。北浦部長は履行確 保のやり方として罰金は当然大きな意義を持っているわけですが、さらにいろいろな手 段があるのではないか。(3)の減額措置・適用除外についてですが、松田会長は例え ば学生や年金受給者については、適用除外、あるいは2段階の設定という、減額した設 定も考えられるのではないか。  6頁です。日本経済団体連合会の川本本部長は日本の賃金の場合に需給関係や仕事の 賃金ということだと、必ずしも年齢で一律に切るというのはそぐわない面があるのでは ないかというご意見です。中小企業団体中央会の原川部長もどういう基準でやったらい いのかというのは難しいので、公平性の観点から問題があるのではないか。電機連合の 加藤部長はイギリスなどでは訓練や公的な資格とリンクしていることが前提にあるので はないか。日本の場合に年齢でやるというのはどういう意味があるか、ちょっと難し い。連合の須賀局長はそもそも地域別最低賃金の水準自体が低いという中で、全体とし て有意なものにする方が大事である。さらに、フリーターとかの問題で考えると、賃金 を世帯単位で考えるということについては少し問題があるのではないか。清家先生は高 齢者の問題もあるのですが、例えば主婦を前提に、主婦であれば生計費が低いというよ うなことで考えると、それが一番最低賃金に守られていなければならない人たちの条件 にも影響してしまうというようなことで、個人単位で考えないといけない。神代先生は 未成年や訓練中について減額して、もう少し一人前のところを高めの水準に設定するこ とも考えられるのではないか。  (4)の最低賃金の設定単位のところですが、北浦部長は労働市場の広域化や経済活 動の広域化ということで、都道府県で今決めているわけですが、今のままでいいのか。 特に境界区域というような所の問題がある。ただ、行政区画との問題もあるということ です。神代先生は今は都道府県別の審議会で決めているわけですが、必ずしも都道府県 ごとに決める必要があるかどうか。労働市場や競争圏で考えると南関東、北関東なども う少し広域的なくくり方も考えられるのではないか。  8頁です。(5)就業形態の多様化に対応した最低賃金の適用のあり方については派 遣の問題について、今派遣元で産業別最低賃金及び地域別最低賃金を適用しています が、派遣先で適用すべきというようなご意見です。  9頁からこれまでの研究会での各先生のご意見を記載しています。現在の賃金分布と 最低賃金との水準を考えるとほとんど影響力がなく、支払能力は考える必要がないので はないか。支払能力についてILO条約では生計費的要素とともに経済的要素もあり、 生産性の水準や雇用の確保といったようなものが考慮要素になっている。したがって、 生計費だけではなく、そういう複合的な考慮要素が必要ではないか。支払能力について は特に雇用への影響ということが問題になるので、それは個別企業の支払能力のことで はなく、マクロレベルの支払能力ということで理解すべきということです。現在、事 業、職業又は地域ごとに賃金の低廉な労働者について、最低賃金を設定するとなってい るわけですが、それが絶対的な低廉なのか、相対的な低廉なのかというところが意見が 分かれているところです。  10頁です。3つ目の丸で、最低賃金についてこれまで目安ということで上げ幅につい ての議論がなされてきたわけですが、絶対額にかかわる議論があまりなされてこなかっ たのではないか。生活保護との関係については生活保護と最低賃金が逆転しているとす れば、モラルハザードの問題が起こってくる。生活保護についてもかつては事後的な所 得保障の意味が強かったのですが、むしろ最近はポジティブマンパワーポリシーという 自立支援という方向性が強く出てきており、そういうことからいくと最低賃金とリンク の問題はより問題になってくる。一方、生活保護との比較の中で最低賃金が低いのでは なくて生活保護が高過ぎるというような考え方もあり得る。最低生活水準という意味 で、同じ厚生労働省の中で最低賃金の最低生活水準と生活保護の水準とが違ってくると いうのは難しいのではないか。さらに生活保護についても給付が様々あって、最低賃金 と何を比べるべきなのかというところが技術的に難しいところもある。  11頁については最初は生活保護についてはやはり最低賃金と生活保護で別々の尺度が あっていいのかどうかという議論。さらに、その次からは水準のところの問題で、最低 賃金のところにたくさん人が張り付いているわけではない、あるいは最低賃金があるこ とによって雇用が失われるというところは分布から見てあまりないということで、影響 力がないのではないか。あとは地域別最低賃金の水準がしかるべき水準になれば、産業 別最低賃金はいらないのではないかというご意見。減額措置・適用除外については先ほ どあったような諸外国でも年齢による減額があり、そういう考え方もあり得るのではな いか。設定単位については今行政区画との関係で、都道府県単位となっているがそれを どう考えるかというご意見。  12頁で就業形態の多様化に対応した最低賃金については、基本的に派遣先で決めるべ きというご意見です。  資料3で最低賃金の決定基準ですが、最低賃金法第3条で最低賃金の原則を規定して います。労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力の3つを 考慮して定めなければならないということです。この資料は最低賃金法の解説書にある 中身を書いていますが、「労働者の生計費」については憲法第25条の生存権や労働基準 法第1条の精神が尊重されるということです。ただ、生計費を算定する際に、一定の理 論の下に最低生計費を算定して、絶対的なものとして利用するのは必ずしも適当でない ということで、生活保護基準や標準生計費等も参考とされるわけですが、必ずしもそれ を全面的に用いることはできないということが言われています。生計費については現在 は最低賃金が一律で決まっているので、若年単身労働者の生計費というものを直接に考 慮して決めるべきという解説です。  「類似の労働者の賃金」については産業別に決定されるような産業別最低賃金を決定 する場合には、その類似というのは当該地方における同種ないし類似の事業に従事する 労働者の賃金水準。それがなければ当該地方の労働者全体、あるいは低賃金労働者の賃 金水準ということ。地域別最低賃金を決定する場合には当該地方の労働者全体、あるい は低賃金労働者の賃金水準が類似の労働者の賃金であろうということです。  2頁です。「通常の事業の賃金支払能力」ですが、これは先ほど来議論がありました ように、個々の企業の支払能力のことではなく、当該業種等において正常な経営をして いく場合に、通常の事業に期待することのできる賃金経費の負担能力のことであるとい う解説です。  3頁で、ILO条約の第131号条約で、決定基準を規定しています。国内慣行及び国 内事情との関連において、可能かつ適当である限りということで、かなり弾力的な形で あるわけですが、一応(a)、(b)と大きく2つが決定の基準として書かれていま す。(a)が労働者及びその家族の必要であって、国内の賃金の一般的水準、生計費、 社会保障給付、及び他の社会的集団の相対的な生活水準というものが掲げられていま す。(b)は経済的要素ということで、経済開発上の要請、生産性の水準及び高水準の 雇用を達成し、維持することの望ましさといったことを考慮すべきということです。  4頁以下がILO事務局での決定基準についての整理で、決定基準を明確にすること はなかなか厄介な面がある。一般的に適用できて明快な基準というものを定めるのがか なり難しいということで、ある程度抽象的な概念にならざるを得ない。実例として多く の国では考慮すべき基準を法令の中で明らかにしているということですが、単に最低限 の必要を十分に満たすべきということを規定しているにすぎない事例がいくつかあると いうことです。  5頁で経済的制約を考慮に入れなければならないということを明らかにしているもの もかなりあること。中ほどで産業別最低賃金を規定する場合にはその基準は幾分詳細に 規定されている場合があるということです。  6頁です。一方、基準について全く何も触れていないような国もあるということで、 そのようなときには審議会等で周囲の状況から最も適当と考えられるような基準で決め ているということです。ILOの第30号勧告の中では、適正な生活水準を維持させなけ ればならないという形で、十分に労働者が組織され、効果的な労働協約が締結されてい る業種における類似の労働者に支払われるべき賃金水準等が考慮要素として上げられて いる。  7頁がILOの第131号条約で、社会的配慮と経済的要素の2つを上げています。一 応この整理の中で4つが大体基本的な基準として上げられており、1つ目は労働者の必 要、2つ目が比較可能な賃金と所得、3つ目が支払能力、4つ目が経済開発の要請で す。  8頁で「労働者の必要」ということで、ここは主に生計費になりますが、何が生計費 に含まれるべきかを決定するにあたって、客観的な方法や異論のない方法がなかなか明 らかにできない。1つは食物が必要であるということですが、その際に必要な栄養量も まちまちになってくる。  9頁で食物以外の要素になると何が必要かというものが一層複雑になるということ。 さらに必要というときに、それが独身者なのか世帯主なのかという問題もあるというよ うなこと。  12頁以下が「比較可能な賃金と所得」ということで、この比較可能な賃金と所得が実 際にはかなり重要な事項として扱われています。種々の集団の平均的な所得を労働者及 び家族の必要を満たすための第1の指標として用いているものがあるということ。  16頁以下に「支払能力」がありますが、ここは基本的には生産性、雇用の維持といっ たような一般的な経済的な要素です。  20頁以下に「経済開発上の要請」がありますが、特に第131号条約は開発途上にある 国も考慮に入れているということで、開発途上国が主にここの経済開発上の要請という 意味では関係していると思っています。  23頁以下に「適用手順」とありますが、結局比較可能な賃金と所得というのが一番問 題が少ないということです。ただ、24頁にありますが、結局決定当局はそういう基準の 解釈、あるいは各基準の重要性の程度に関する対立する議論を調整しながら、決定にあ たっているという形です。いずれにしても決定基準について、なかなか明確に基準を定 めることは難しい面があるということです。  資料4が目安制度についてのこれまでの経過です。特に目安制度は昭和53年から、今 は地域別最低賃金についての引上げ額として目安を定めているということです。Iの <目安制度創設まで>というところで、昭和30年代の業者間協定のときにも、その業種 の実態、賃金相場などを基に、地域業種ごとにある程度目安を定めていったということ です。2頁の5、昭和45年の答申があるわけですが、この際に最低賃金は労働市場の実 態に則し、類似労働者の賃金が主たる基準となって決定されるようなあり方が望まし く、それが低賃金労働者の保護を実効的に確保する面でも現実的に適応するものである ということで、このときにやはり類似の労働者の賃金というものを主たる基準として決 定していこうという考え方が、この辺ではっきり言われています。  3頁の8以下、昭和50年に全国一律最低賃金というものを労働団体等が求めて、それ に対して昭和52年に「今後の最低賃金制度のあり方について」ということで答申が出さ れていますが、地域間、産業間の賃金格差がかなり大きく存在するということで、都道 府県ごとの地方最低賃金審議会における決定が低賃金の改善に有効であるということで す。  4頁ですが、しかしながら現行の方式が全国的な整合性を確保する保障に欠ける面が あるということで、全国的な整合性の確保に資する観点から、目安を中央最低賃金審議 会で提示することが決まり、53年から毎年目安を提示していっているということです。  5頁で実際の目安の流れですが、大体毎年5月ごろに厚生労働大臣から中央最低賃金 審議会に対して諮問がなされ、目安制度について小委員会を設けて議論をする。特に6 月から7月にかけて厚生労働省で実施している賃金改定状況調査、小規模企業の賃金改 定率を調査するものですが、そういうものとか、春季賃上げ状況等、各種指標を総合的 に勘案して目安額を提示する。それを受けて、各地方最低賃金審議会において具体的な 金額の審議を行うというものです。  6頁以下が目安制度についての検討状況です。目安制度についてその後、おおむね5 年ごとの見直しの議論がなされているということです。例えば7頁の平成7年の目安制 度のあり方に関する全員協議会の報告では、当時パートタイム労働者が非常に増えてき たということで、そのパートタイム労働者の賃金水準も反映させるべきということで、 一般労働者とパートタイム労働者の全労働者について賃金上昇率を求めた。労働時間短 縮というか、就労日数の減少を賃金上昇率に反映させるべきということで、就労日数の 増減が反映されるような賃金上昇率の算出方式に改めたというような形です。平成11年 においても今ランクがA、B、C、Dの4つに分かれていますが、そのランクへの振分 けの見直しとか、経済情勢等を踏まえた目安の決定ということで、例えば凍結事業所割 合も含めて検討すべきというようなことを言っています。さらに、表示についてその 後、時間額の単独方式への表示ということで、9頁の6、賃金支払形態が異なる労働者 への最低賃金適用上の公平の観点、あるいは就業形態の多様化ということで、時間額単 独表示への移行が決まったということです。  さらに10頁で、昨年の目安制度のあり方に関する全員協議会の中で、パートタイム労 働者の構成比が上がると一般労働者からパートタイム労働者への代替によって賃金上昇 率が抑えられるという問題があり、パートタイム労働者構成比の変化によって賃金上昇 率が影響を受けないようなラスパイレスの方式によって賃金上昇率を計算するとする方 式に改めるという形で、目安制度の改善が行われてきているという経過です。  資料5が目安審議においてどのような資料を基に審議しているかということで、平成 16年に中央最低賃金審議会の目安審議で用いられた資料ということで、全国的な統計と して主要経済指標、有効求人倍率、賃金・労働時間の推移、春季賃上げ妥結状況。2頁 で消費者物価指数の動向、地域別最低賃金額の状況、さらに未満率及び影響率、賃金構 造基本統計調査を用いた未満率と影響率、さらに一般の賃金水準と最低賃金との関係、 企業の業況判断及び収益などです。さらに都道府県の指標として県民所得と生計費等の 指標、有効求人倍率、賃金・労働時間、春季賃上げ妥結状況、消費者物価指数等です。 業務統計として最低賃金の改定状況。3頁は最低賃金の履行確保を主眼として、監督を 行っていますが、その監督指導の結果などです。  IV、賃金改定状況調査ということで、この中の第4表という一般労働者及びパートタ イム労働者の賃金上昇率というものが類似の労働者の賃金という意味で、大きなウエイ トを占めているということです。目安に基づいて地方最低賃金審議会で具体的な金額の 審議を行うわけですが、その際に、地域によって若干違っていますが標準的にどういう 資料を用いるかというのが4頁です。生計費の関係で標準生計費、生活保護基準額。類 似労働者の賃金ということで最低賃金に関する基礎調査、これは厚生労働省でやってい るものです。それから賃金の動き、初任給の動き、賃上げ状況、最低賃金の決定状況、 企業内の最低賃金の協約の状況などです。支払能力ということで粗付加価値額や経営動 向、それからその他の経済指標といったものを総合的にみて、金額を定めているという ことです。  資料6が賃金改定状況調査という、先ほどの目安審議で賃金の引上げの状況を見る際 に用いているものです。調査については各都道府県の県庁所在地及び地方小都市を対象 に、毎年6月1日現在で30人未満の小規模事業所についての賃金の改定の状況を調べる ということで、全国で4,000事業所、約3万3,000人が対象です。毎年6月1日に前年6 月の賃金と当年6月の賃金を比較して、その改定率がどうなっているかを見るというこ とです。調査票はこの3枚目にありますが、これは平成16年の時に、平成15年6月と平 成16年6月の賃金を調べるということです。調査結果がその後ろに付いていますが、第 4表が一般労働者及びパートタイム労働者の賃金上昇率ということで、特にこの平成16 年でいきますと、産業計、男女計でいくと−0.1であったということで、そういうこと を踏まえて目安を決めていっているということです。  資料7は最低賃金の水準についての現状です。1枚目は従来から資料として出してい る地域別最低賃金の時間額の額及びその推移です。2頁が目安についての提示額の推移 です。3頁が賃金改定状況調査の第4表の引上げ率と目安の引上げ率の関係を示してい ますが、目安小委員会における引上げ率がこの賃金改定状況調査の引上げ率の計の欄の 引上げ率に大体リンクして定められてきているという経過です。  4頁が地域別最低賃金の一覧表です。5頁が地域別最低賃金の所定内給与に対する比 率を全国の平均で見たもので、大体36、37%といった辺りで、一般労働者の所定内給与 の平均に対する最低賃金の比率が推移しています。6頁が賃金構造基本統計調査でパー トタイム労働者の平均の所定内給与に対して最低賃金の割合を見たもので、パートタイ ム労働者については最近パートタイム労働者の時間額があまり上がっていないというこ とで、最低賃金の比率が若干上がって7割強というところです。7頁が一般労働者の所 定内給与の比率を都道府県別に見たものです。都道府県別に見ますと、東京都等大都市 部が30%台で低くなっており、最低賃金額の低いDランクの東北、九州辺りだと40%を 超えているという形で、地域によって不均衡が見られるということです。8頁がパート タイム労働者の所定内給与に対する比率を都道府県別に見たものです。パートタイム労 働者の方は都道府県別の所定内給与の格差は少ないようですが、東京都とかが60%台と いうことで低くなっている一方、Dランクが若干高めであるということです。  9頁が昭和53年と平成15年で地域別最低賃金額の所定内給与に対する比率を見たもの ですが、東京都ですと昭和53年は35%あったのが平成15年では31.4%ということで、か なり低下しているということで、最高と最低という意味では格差は拡大しているという ことです。  10頁が低賃金労働者の賃金との比較という意味で、所定内給与の第1・10分位、第1 ・20分位、これは最低賃金に関する基礎調査を基にやっていますが、その都道府県別で 見たものです。それで見た場合でも東京都が第1・20分位で87.2、第1・10分位で82と いうことで低い。一方、Dランクのところでいくと、第1・20分位はかなり100に近い ようなところにくるということで、やはり地域間において不均衡があるということで す。  11頁が高卒初任給ということで企業内で最低賃金の協約を結ぶ場合に、高卒初任給を 前提に結ぶということが一般的であるということで、その高卒初任給と最低賃金との時 間額で比率を見ていますが、大体男子の場合には70%前後、女子についてはそれより若 干高めというようです。13頁以下が未満率、影響率についてです。賃金構造基本統計調 査で未満率、影響率を出すと平成15年は1%です。14頁が最低賃金に関する基礎調査 で、事業所規模30人未満、製造業は100人未満ということで、賃金構造基本統計調査よ りも規模が小さい所が対象です。そうすると、未満率、影響率は平成15年ですと1.6% 程度ということです。15頁はそれを都道府県別に見たもので、これも地域によってかな り差があるということです。16頁が影響率を平成2年と平成15年で比べていますが、平 成2年の方が最低賃金の引上げ額が大きかったということで、影響率は平成2年の方が 高いということです。17頁が未満率を平成2年と平成15年で比べたものです。  18頁以下が生活保護との関係です。生活保護の概要ということで、2の対象者です が、資産、能力等すべてを活用した上でも生活に困窮する者を対象に、生活保護がなさ れるということで、3の保護の内容は健康で文化的な生活水準を維持することができる 最低限度の生活を保障するということです。19頁、6の保護の要否ですが、最低生活費 と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に保護が適用され、その最低生活 費から収入を差し引いた差額が保護費として支給される。収入というのは就労による収 入や社会保障給付等様々なものが収入に入るということです。  20頁が「最低生活費の体系」ということで、扶助が大きく8つになっています。生活 扶助、住宅扶助等です。生活扶助の中で第1類費と第2類費ということで大きく分かれ ており、第1類費は個人単位でかかる食事等の費用で、年齢別に決まっています。第2 類費が光熱水費等世帯単位でかかる費用です。第2類費の中に冬季加算というのがあ り、北海道、東北等冬季に採暖にかかるような特別な需要がある場合に冬季加算が加え られるということです。  実際の保護基準が21頁で、第1類費の生活扶助基準について級地が全部で6つに分か れており、市町村単位で級地の指定がなされています。年齢別に第1類費の1人当たり の基準が決められているということです。1級地−1が一番高く、3級地−2が一番低 いということです。第2類費が世帯単位でかかる経費で、世帯規模によって規模の効果 が働くということで、若干人数比例にはならないということです。加算額として老人、 障害者等一定の場合に加算がなされる。住宅扶助については(4)で実際に支払っている 家賃・地代ということで、級地によって一応1万3,000円、あるいは8,000円と定められ ています。ただ、地域によってはこの額以上の特別基準というのがあり、例えば東京23 区や横浜市であれば、最高が5万3,700円まで扶助がある形になっています。  以上を前提に、最低賃金と生活保護を水準で比較したらどうなるかということです が、22頁が地域別最低賃金を1日8時間で月22日を前提に、つまり月に176時間働くと いうことを前提に、各都道府県別の地域別最低賃金で最低賃金を書いたものが一番上に 出ている実線です。生活扶助については県庁所在地が一番高いということで、県庁所在 地の生活扶助基準の1類費2類費は年齢によって若干違っており、18歳から19歳がこの 中では一番高くなっています。下の方が県内で最下級地の生活扶助の基準で、これも1 類費2類費を加えたものです。冬季加算があるので北海道、東北等が若干高くなってい るということです。  23頁はさらにこれに住宅扶助を加えた場合にどうなるかということで、一番上の四角 の点線が県庁所在地の生活扶助基準の1類費2類費に、その県庁所在地の住宅扶助の特 別基準額、例えば東京や横浜ですと5万3,700円ですが、その最高額を足したものです。 それでいくと、大体最低賃金よりも高いところが出てくるということです。一方、真ん 中辺りにある三角の点線が、生活扶助基準の基準額と県庁所在地で実際に住宅扶助を受 けている人の平均をとったものです。それでいくと、最低賃金よりもおおむね下回って いるところが多い。一番下の実線は県内の最下級地で生活扶助基準とその最下級地の住 宅扶助の特別基準額を用いたもので、それはすべてのところで最低賃金よりも下回って いるということです。  24頁が標準生計費の関係です。人事院で標準生計費を出しています。全国消費実態調 査が5年ごとに出されますが、それを基に1人世帯の標準生計費を出しています。た だ、統計が5年ごとに更新されるということで、若干切れ目のところで連続性がなかっ たりするというところがあります。例えば平成13年に標準生計費はかなり伸びていると いうことです。25頁です。都道府県については人事委員会の方で県庁所在地の標準生計 費を出しています。それと最低賃金とを比べたものですが、これも地域によってかなり 差が出ています。26頁はそれを平成16年と昭和53年で比べているものです。27頁に都道 府県の標準生計費の推移を出しているのですが、どうしても標準生計費のサンプルが少 ないところもあり、年によってかなりブレるということがあり、標準生計費が生計費の 指標としてなかなか使いづらい面があるということです。28頁は産業別最低賃金の水準 で、これは従来から出しているものです。平均額としては758円ぐらいということです。 29頁が産業別最低賃金の地域別最低賃金に対する比率で、大体14%ぐらい高いというこ とです。  30頁が国際比較です。OECDで1997年の賃金に基づいて平均賃金に対する比率を国 際比較しています。一般労働者の平均賃金の基本給で見ると、ベルギー、フランス辺り が50%を超えていて、日本は34.9%、アメリカも34.9%という形になっています。31頁 はEU関係で、EUROSTATの統計で2002年の平均賃金に対する最低賃金の比率を 出していますが、31%から50%ぐらいという中に、EU諸国が大体分布しています。32 頁は最低賃金の水準の中で、アメリカ合衆国の場合に2003年で最低賃金以下が2.9%。 最低賃金額そのものというのが54万5,000人で、最低賃金額未満が155万人で合わせて 210万人くらいということで、時間給労働者の中で2.9%が最低賃金額以下ということで す。  33頁はイギリスで、2003年で最低賃金額未満のものは1%ぐらいです。フランスの場 合には最低賃金額の引上げ率の影響を受けるものは13.4%ということで、かなり最低賃 金そのものの人が多いというのがフランスの特徴です。34頁が最低賃金の改定について のOECD諸国の改定方式ということで、ベルギー、フランスでは一部物価スライドと いうのがあります。ただ自動改定はなくて審議会のような形で決めるという国もかなり 見られるということです。  35頁が生活扶助についての国際比較で、厚生労働省社会・援護局で各国の公的扶助制 度についての比較調査を行ったものです。日本の生活保護、これは生活扶助のみで住宅 扶助等は入っていないものですが、それに相当するものとして考えられる各国の水準を 比較したものです。日本円に為替レートで換算したものがありますが、イギリス、フラ ンス、ドイツ、スウェーデンが大体4、5万円程度、アメリカの場合は州によって独自 に定まっており、これはシカゴを取っているので2万6,000円程度です。為替レートで はなくて価格インデックスで見た場合に、若干主要諸国は高めになりますが、イギリ ス、フランス、ドイツ辺りで5、6万円程度になっています。36頁で、それを最低賃金 と比較するとイギリスの場合に4.3倍、フランスは2.8倍、アメリカは4.3倍となり、日 本の場合には1.4〜1.7倍ぐらいということで、諸外国の公的扶助の水準が日本と比べて 低いというような感じになっています。  資料8です。生活保護のあり方について社会保障審議会の「生活保護制度の在り方に 関する専門委員会」という中で、昨年12月に報告書が取りまとめられています。この中 で、特に2頁の「制度の見直しの基本的視点」ですが、「利用しやすく自立しやすい制 度」ということで、自立・就労を支援する観点から見直すことが大きな考え方の柱で す。具体的には6頁以下に、自立支援のあり方ということで、「自立支援プログラム」 を被保護世帯に策定して、それに基づいた支援を行うということで、その被保護世帯の 問題に対応した支援メニューを整備してプログラムを作る。例えば8頁です。就労支援 についてはハローワーク等と連携して、就労支援を行っていくという形で、生活保護に ついても自立支援を基本的な考え方としてより取り入れていくという考え方が示されて いるということです。  資料9ですが、都道府県別の賃金分布と最低賃金との関係を賃金構造基本統計調査に よってJILPTで集計したものです。2頁が一般労働者について地域別最低賃金と賃 金分布を見たもので、地域別最低賃金額未満、あるいは最低賃金から5%、あるいは最 低賃金から10%、最低賃金から15%というところで見たものです。地域によってかなり 違いがあるということですが、特に東北、九州は地域別最低賃金及びそこから離れてい ないようなところの割合が高い。一方、都市部は非常に低いということです。3頁がそ れをパートタイム労働者について見たもので、パートタイム労働者の場合は一般労働者 と比べると最低賃金近辺の人がかなり多いということです。特に北海道、東北、九州辺 りでいうと、5%、10%のところでもかなりの労働者が見られるということです。後ろ にそれぞれの分布と最低賃金との関係のグラフ等が付いています。  資料10が履行確保ということで、最低賃金法の効力と罰則の関係です。1頁に最低賃 金の効力が最低賃金法第5条で定められており、第1項で最低賃金額以上の賃金を支払 わなければならない。第2項で民事効というのが定められており、最低賃金を下回る契 約を結んでいる場合に、最低賃金に補充的効力として最低賃金と同様の定めをしたもの とみなすということが定められています。それゆえ、民事上最低賃金額をもらう権利が 発生するということです。  2頁に最低賃金法第44条で罰則の規定があるわけですが、先ほどの最低賃金法第5条 第1項ということで、最低賃金未満の金額を支払う場合に1万円以下の罰金に処する。 1万円という金額については解説の1にあるように、臨時措置法で現在2万円になって います。3頁ですが、労働基準法第24条で賃金の支払が定められていて、賃金不払につ いて労働基準法で30万円以下の罰金が定められています。それとの関係で最低賃金法第 5条違反との関係が2頁の3に書いてあり、最低賃金額未満の賃金が約定されていた場 合の賃金支払に係る法違反については、その約定金額の全額が支払われた場合に、最低 賃金法第5条違反として処理して、その約定金額の全額あるいは一部が支払われなかっ た場合には、最低賃金法第5条と労働基準法第24条との観念的競合違反になるというこ とで、結局労働基準法第24条の方が罰金が高いので労働基準法第24条で処理されるとい うことです。最低賃金法違反の罪数については、労働者1人について一罪が成立すると いうことです。  罰則の経緯がその後ろに付いていますが、最低賃金法は昭和34年から1万円以下の罰 金ということで、臨時措置法で2万円ということになっています。労働基準法第24条違 反はかつては5,000円以下の罰金であったということで、最低賃金法第5条違反よりも 低かったということで、その辺では整合性が取れていたわけですが、その後、労働基準 法の改正等で罰金が段階的に引き上げられて、現在30万円以下となっているという状況 です。  その次の頁が最低賃金の履行確保を主眼とする監督指導ということで、最低賃金の履 行について、特に最低賃金違反の多いような業種や規模のところを重点的に、毎年労働 基準監督署において監督を実施しています。平成16年の結果、監督した事業場が1万 2,337で、そのうち最低賃金法第5条違反があったのが678ということで、違反率は5.5 %だったということです。次が過去からの経年的なものを載せていますが、最近最低賃 金の引上げが少ないということで、違反率は若干低下現象にあるということです。  資料11が減額措置・適用除外の関係で、現在最低賃金法第8条で都道府県労働局長の 許可を受けて適用除外があるということです。1つ目が障害者、2つ目が試の使用期間 中の者、3つ目が訓練中の者、4つ目が所定労働時間が特に短い者、軽易な労働に従事 する者その他ということです。2頁で、障害者についてはかえって雇用の機会を奪うと いうこともあり、許可により適用除外を認めているということです。ただ、その際にも 労働能力に応じた金額を支払うという運用を行っているということです。3頁で試の使 用期間中の者については本採用が予定されている試験的な使用期間について、最長6カ 月という形の運用で、許可をしている。職業訓練については訓練中ということで未熟練 であることから適用除外の許可を行っているわけですが、4頁にあるように現在は職業 能力開発促進法の認定を受けて行われている認定職業訓練の普通課程、短期課程等につ いて許可を行っているということです。  所定労働時間の特に短い者については、5頁にあるように、従来日額で定められてい た場合に、所定労働時間が特に短い者について適用除外があり得たのですが、現在地域 別最低賃金は時間額に一本化されているので、実際上ほとんど意味がなくなっていると いうことです。軽易な業務に従事する者についてはその最低賃金の適用を受けるような 者と比較しても、さらに軽易な者について適用除外。断続的労働ということで状態とし て作業が間欠的で待ち時間が長いようなものについて適用除外の許可をしているという ことで、次頁に適用除外許可の人数が載っています。平成15年は5,871人です。障害者 が一番多く3,300人ぐらい、断続的労働が2,000人ぐらいということです。  7頁が諸外国の減額措置・適用除外で、これは第4回のときに出した資料で、アメリ カにおいて若年者、障害者等の減額がなされている。8頁でイギリスについては16〜17 歳、18〜21歳の2段階の減額がある。フランスについては18歳未満等について減額があ るということです。その考え方についても従来出させていただいた資料があります。13 頁以下に、これも第4回に出した、OECDで若年者や訓練中の者について減額がある ものがかなりみられるということで、14頁以下にその各国の状況が付いています。  16頁以下が以前に出した資料で、適用除外と減額についてのILO事務局の説明で す。その後は年齢階級別の所定内給与の差が、ちなみに今どの程度あるかということ で、一般、パートタイム労働者を合計した場合の所定内給与の時間額です。17歳以下が 745円、18〜19歳が883円という形です。次が一般労働者についてみたもの、さらにパー トタイム労働者のみについてみたもので、パートタイム労働者の場合は年齢間の格差は あまりないということです。論点の(2)についての説明は以上です。 ○樋口座長  時間の関係で論点の(3)までいってください。それから戻りましょう。 ○前田賃金時間課長  資料12は地域別最低賃金の設定単位の問題の参考ということで、現在各都道府県別最 低賃金を定めていますが、その水準がどうなっているかということです。地域によって は近隣の所と水準的にそんなに違いがないような所もかなりあるということです。資料 13は「就業形態の多様化に対応した最低賃金の適用について」で、1つは派遣労働者に ついての扱いで、(1)にあるように昭和61年に派遣法ができたのですが、その際に労 働基準法等の適用について通達が出されています。賃金について、派遣元と派遣先が異 なる都道府県にある場合、派遣元と派遣先の事業が異なる産業である場合には、派遣元 と派遣先で適用される最低賃金が異なることがあり得るということですが、いずれの場 合にあっても、派遣中の労働者については派遣元の事業場で適用される最低賃金が適用 されるという整理をこの時点でしているということです。ちなみにその下になります が、平成14年の派遣法改正の際の労働政策審議会の建議の中で、派遣労働者に対する最 低賃金の取扱いについては、別の場で検討することが適当であるということで、労働者 側からは、派遣先の法定最低賃金等を下回ってはならないという措置を検討すべきとい う意見です。  2頁、表示単位ですが、現在法律上は時間、日、週又は月と、そういう定め方が制度 的にはあるということです。ただ、地域別最低賃金については、平成14年度から時間額 表示のみになっています。産業別最低賃金についても、時間額表示への移行が進んでい るということです。実態的には時間額一本化が進んでいるということで、制度的にもそ れに合わせるということが考えられるのではないか。その後に、時間額表示についての 平成14年の報告がなされています。  5頁、昨年「仕事と生活の調和に関する検討会議」という研究会が行われていました が、その中でも制度上も時間額へ一本化する、所定労働時間の短いものについての適用 除外規定は削除するということが考えられる、というような提言がされています。以上 です。 ○樋口座長  膨大な資料ですので、議論も項目別に行っていきたいと思います。今日議論をお願い したいのは、資料1の2の各論の(2)(3)についてです。まず、(2)の「安全網 としての最低賃金のあり方」の中の決定基準についてどう考えるか、という項目につい てお話をいただけたらと思いますが、いかがでしょうか。いただいた資料でいうと、資 料ナンバーはいくつになりますか。 ○前田賃金時間課長  資料3です。 ○石田先生  情報量が多すぎて、ちょっと頭が混乱しているのですが、簡単に言うと、決定基準に ついては、生計費や類似労働者や支払能力があって決め手がないということで、今日の 報告にもありましたように、類似労働者というのが相対的につかまえやすいものではな いか。我が国の場合には、具体的にはそれは目安制度でやってきたということが重要な ポイントだと思うのです。目安制度については、いろいろな統計資料を使うというので すが、それは端的に言えば賃金改定状況調査、しかも第4表と。だから日本の決定基準 というのは、実務的には非常に明らかで、実は第4表の数字で目安が立つということな のです。あとは地方最低賃金審議会で随時自主的に決定してくださいというアドバイス も中央最低賃金審議会からあるのですが、しかし事実上、これは対立する話ですから目 安に縛られる。ですから、観念的にはこれは何百頁も論文が書けるぐらいあるのです が、実は非常に簡単で、第4表で決まると私は理解しています。  では第4表とは何なのかというと、前回も申し上げてきましたように、上げ幅の水準 を示すということなのです。上げ幅を10年、20年続ければ、徐々に絶対額を形成すると いうことでしょうけれども、あえて観念的に分けると、上げ幅しか日本の場合、基準を 持ってこなかったというのが事実だと思います。そういう事実理解でいいのかどうか。 つまり、観念的にはいろいろな議論はあるのですが、実態としてどうやって行政上これ を運用してきたかというと、そういうことになっていて、そういう事実理解でいいのか どうかということと、あとその評価の問題、それをどうするかというように私は考えて いるのですが。 ○樋口座長  事実認識として、事務局も答えにくいでしょうけれど、渡辺先生、どうですか。 ○渡辺先生  おっしゃるとおりだと思うのですが、資料6に賃金改定状況調査の対象が書いてあり ますが、都道府県庁所在地と地方都市を3:1の割合でとる。業種は製造業、卸・小売 業、飲食店、サービス業を6:4:3とするということで、こういう人たちの上げ幅な のです。ですから、一般労働者といっても、既にサンプリングの段階で、賃金の低廉な 労働者という観点から、調査対象をこのように限定した改定状況調査であるというとこ ろから、ここをどう読み取っていくかということだと思うのです。  上げ幅には違いないのですが、上げ幅調査の対象をこのように限定していることの意 味は、所在地や企業規模、事業内容といった点をどう言えばいいのか。少なくとも一般 労働者ではないわけです。特に就業形態が多様化して、パートタイム労働者の3業種と いわれている、いわゆる低賃金労働者の雇用が多い業種を選んで、地方小都市5万人未 満というようにやっているわけですので。 ○石田先生  類似という意味をそういうようにサンプリングでいかしていると私は理解しているの です。つまり、大企業の1,000人以上のような会社の賃金がどうなっているかというよ りも、最低賃金を決めるに当たっての類似労働者というのは、おおむね規模が小さい、 あるいはサービス業が多いのではないかとか、そういう類似をいかしたサンプリングだ と私は理解をしていますけれど。 ○大竹先生  経済学から見ると、最低賃金の必要性の理由として一番重要なのは、需要独占から発 生する賃金の買い叩きを排除するということだと思います。そうすると、どのような賃 金レベルの人にも、そういうことは可能性としてはあるわけです。しかし、一番賃金が 低い人だけ法律で規制するというのは、最低生活水準に引っかかってくる人だけについ ては、その点を法律で守りましょうという精神だと思うのです。ですから最低賃金の存 在理由には両方の条件があります。つまり買い叩きがあって、しかも低賃金というとこ ろだけを法律でみる。そうすると、支払能力によって決まってくるというのは、多分一 番大事な考え方だと思うのです。例えば資料3の2頁に「通常の事業の賃金支払能力」 とありますが、まさにそれが指摘されている点です。買い叩くのではなくて、普通に払 うとしたらいくら払うべきかというのが「生産性に応じた賃金」ということだと思うの です。  そこで関連してくるのが、資料3の5頁に、合衆国の場合には、最低限の生活水準を 保障するときに、経済的制約を入れる。そのときに、合衆国には「雇用と稼得能力を実 質的に減少させることなく」という条件を入れている。雇用を引き下げないというの も、買い叩かれている状態では少々賃金を上げても雇用を下げない、ということを反映 していると思うのです。  そういう意味で、合衆国の基準は経済学そのもので、支払能力が大事だと。ただ、支 払能力だけで決まるのではないというのは、すべての賃金レベルの人に対して独占状態 があったとしても、高い賃金レベルの人については、これは最低賃金法では考えないと いう意味で、生活水準というのがきいてくる、という理解かと私は考えています。 ○古郡先生  個別企業の支払能力ということではなくて、今大竹先生が言われたように、雇用の削 減がないように、雇用も考え、生産性水準なども考え、経済状況も勘案することが必要 であるということからすると、個別企業の賃金支払能力というよりは、マクロ的にみた 経済力といいますか、経済全体でみたときの賃金の負担能力というものとして考えるこ ともできるかと思いますが。 ○樋口座長  石田先生が指摘された点は非常に重要で、法律にどう書いてあるかとは別に、過去何 年かやっているうちに慣習化したというか、制度化した、ある意味での決め方がルーテ ィンワーク化してきているところがあるわけですね。おそらく、これまでの英知を結集 してそういう方法が作られてきて、労使の摩擦を小さくすることでそれが慣習化したの だろう。そういう方法であれば、それほど大きな対立も生むことなしにやってきた。問 題になるのは、それをルーティン化したがゆえに、今度は新たな思い切った改革ができ ないというところが出てくる。おっしゃったように、それが最低賃金の上げ幅という形 で決まってきたために、水準額、絶対額といったものが議論の対象にならなくなってき ている、しにくい運用方法になってきている。それをどう変えるのか、あるいは変えな いで、今までのとおりいくのかというところが、この論点になってくるわけです。  これは地域別最低賃金と産業別最低賃金の議論というのも絡んでくるわけですが、そ れを大きく変えるんだというようなことになれば、当然この決め方についても変えざる を得ない。あるいは、そこでいろいろな議論が必要になるということになってきて、こ れはパッケージとしてやはり考えていく必要があるのではないだろうかと思うのです。 私もまだ最低賃金の審議会を経験したことがないので、具体的にどう決まっていくのか はよくわかりませんが、実態としては何となく、ルーティン化して、それが対立をある 意味では小さくしてきたということがあるわけで、そこにメスを入れるかどうか。研究 会の報告ですから、メスを入れる必要性が生じているのであれば、そのように書くとい うことがあると思うのですが、具体的に今の決め方で、問題点がどこにあるのかという ことを教えていただくと議論がしやすいと思うのですが。 ○石田先生  問題点ですか。 ○樋口座長  ええ。例えば、先ほどので言うと、一般労働者との対比とかいうことになってくると 思うのです。33.7というパーセントでしたか、これが国際的に見て、例えばアメリカと 同程度の水準になっていて、他の国、ヨーロッパと比べればどちらかというと低い水準 になっている、ここを議論するのだということであれば、今までの決め方を変えないと この議論はできないと思うのです。そこをどう考えるかですね。 ○石田先生  これは座長や大竹先生の方が詳しいのですが、技術的によくわからないのは、一般労 働者の時間賃率と最低賃金を比較するときに、一般労働者は所定内給与で、賞与は入っ ていないでしょう。私は、日本の賃金をみるとき、賞与を議論しない賃率の議論は信用 していないのです。パートタイム労働者の賃金もそうなのですが、常に所定内でやる。 しかし、年収で生きているわけですから、特に日本の場合、賞与制度というのは極めて 重要ですね。それをやると、パートタイム労働者の賃金は時間当たりで換算したら2割 ぐらいになってしまう。最低賃金の議論も、30数%と出ているのも、データの問題とし て言えば、本当の時間賃率を表示していないとみているのですが、これは私が勘違いを しているのでしょうか。 ○樋口座長  一般労働者の平均賃金を出すときに、ボーナスが入っているかどうか、事務局で事実 関係はわかりますか。 ○前田賃金時間課長  これは入っていないです。賃金構造基本統計調査でいきますので、6月の所定内賃金 を所定内の労働時間で割った単価ですね。 ○石田先生  それがゆえに、日本の賃金格差は意外と穏当な数に出るのです。 ○前田賃金時間課長  資料7の30頁にOECDの国際比較がありますが、一般労働者の平均賃金の中で、 「基本給」というところが今おっしゃった話だと思うのです。その横に「超過勤務手当 と賞与を含む」というのが別途あります。それでいくと、日本だと27.1とか、そういう 形になります。 ○石田先生  今日本の一般労働者の賃金は、むしろ業績部分を賞与に振るという格好になっていま すので、そこは意外に問題をはらんでいると私はみているのです。 ○渡辺先生  座長がおっしゃったようにルーティン化して、それに慣れてきて、労使が目安賃金に おいてもあまり大きな摩擦がなくやってこられたけれども、そうであるがゆえに改革と いうことができなくなってきているという。例えば、賃金改定状況調査の第4表が中心 になっているというのですが、これは調査対象30人未満で、先ほど言ったような5万人 未満の地域を対象にやる。そこで払われているような賃金ならば、大体他の所でも支払 能力のない企業はない、かなりの程度カバーされるだろうということもあるのですが、 例えばこれを100人未満に調査対象を拡大した場合にはどうかとか、今の手法の枠内で も、もう少し諸外国との影響率や、その比率の観点から、これを引き上げる必要がある ということを考えれば、30人未満から100人未満に上げる、というシミュレーションも やってみる意味があるような気がするのですが。従来の手法の中で、いかせることもあ るような気がするのです。 ○大竹先生  今渡辺先生がおっしゃったことは大事だと思うのです。仮に、5万人以下の都市で、 30人未満の事業所だけだとすると、そういう所で全部買い手独占が起こっていたとし て、全部が買い叩かれているという場合に、その地域の労働者の賃金が変わっていない からといって、最低賃金を引き上げないという決断をするのは、理論的にはおかしいわ けです。本当に買い叩きがなかったときにはいくらであるかということと比較して、最 低賃金を決めていくというのが正しいわけで、全部が買い叩き状態にあったときに、全 員の賃金が変わっていないから最低賃金を変えないということに、今までの方式だとな ってしまう可能性がある。非常に問題だと思います。 ○樋口座長  最低賃金の機能の1つに、賃金格差の是正ということを考慮するかどうかということ もポイントになってくるような気がします。今のところは「類似した労働者」というこ とですから、類似した労働者と高所得の間での格差が拡大していっても、最低賃金には 反映しないという形になる。ルーティン化という言葉が良いかどうかわかりませんが、 そういう結果になるわけですね。もし、そういう機能を期待したいのだと、最低賃金を 引き上げることによって格差是正ということを期待したいのだとすれば、やはり比較す べき対象も違ってくるのではないか。30人未満、5万人以下というような所との比較で はなく、全国の一般労働者も含めた形での比較とか、比較対象はいろいろあり得るかと 思うのです。 ○石田先生  調査表を子細に見なければいけないのですが、調査対象の企業の労働者名を書いて、 この人の昨年6月の給与はいくら、今年いくらとやるでしょう。日本の賃金制度の非常 に重要な特徴ですが、大きくなればなるほど定昇部分が大きくなる。つまり、労働市場 の反映というか、大手になっていけばいくほど年功格差がきついですから、その部分の 反映というのを、つまりミニマムウェージを決める近辺の労働市場を判定するときの要 因にしていいのかどうか。これはかなりテクニカルな議論として、悩ましいと思うので す。一般論として全部みた方がいいというのはわかるのですけれども。 ○樋口座長  議論を複雑にするつもりはないのですが、日本の調査の限界というか問題点なのです ね。本当であれば、同一の個人をずっと追跡して、前の年に比べて何パーセント上がっ たのか、それを平均してどうなるかという話なのですが、サンプル替えを実質的にやっ てしまうわけで、平均の比較しかわからないという問題が出てくる。本当は、日本でも 調査が始まっていますが、パネルデータとかいう形のものを用いて、同一個人で去年に 比べて今年はどうなっているのか、その平均を見るというやり方でやっていくと、そう いう問題は解消できるはずだと思うのですが。毎年違った労働者を比較しているという か、それから出てきた平均値を見て、何パーセント平均値が上がりましたねという議論 になっているから、フォローできないという問題がある。 ○石田先生  今統計の方にちょっとシフトしていますが、座長が言われた今の議論の出発点、もと もとルーティンワーク化したことが何が問題なのですかと問われたと思うのですが、私 の実感で言うと、審議会に参加している労使いずれもそうだと思うのですが、要するに この近年、0にするか1円にするかという議論で何日も費やすわけです。それはお互い に空しさがわかっているわけです。つまり、労働側からすれば、1円をとるのに必死に なって、しかしそれで本当に生活が良くなるのかというのは、にわかに信じ難いのでは ないでしょうか。経営側も、0か1で攻防して、例えば1円を2円に上げないために、 場合によっては1円を防ぐために支払能力論を言うわけです。しかし労働側は思いま す、「1円上げたからといって倒産するようなあなたの経営はおかしいんじゃないです か」と。  そういう空しさがあるということです。その空しさというのは論ずるまでもない。春 闘も隔年春闘とか、デフレ基調になってきたとき、あまり毎年やっても儀式化するの で、実質的にもう少しやった方がいいと鉄とかが動いたわけですが、こういう情勢にな ってきたときに、毎年、しかもルーティン化したルールの中で0か1かで、理屈のため の理屈をこねる空しさみたいなことを痛感しているということです。 ○樋口座長  それは実感している人の言葉ですね。 ○石田先生  やめたらいいんじゃないかということになるのですけれども。でも、私は制度は重要 だと思っていますので。 ○大竹先生  この目安制度がどんな統計を使って目安を決定しているのかというのを見て驚いてい ます。今日配付された資料9の、非常に細かいヒストグラムが書かれたのがあります が、こういう細かな分布統計が目安の決定において使われていないということに、逆に 驚いたのです。例えば、パートタイム労働者で見ると、54頁に「青森」とあるのです が、青森県は最低賃金のところにかなり張りついていて、もしこれが最低賃金がなけれ ば、最低賃金以下で働いていた人が、最低賃金で働けていることを意味します。雇用が 失われているのではなくて、賃金が引き上げられているということの証拠になると思う のです。  細かくは見ていないのですが、他の都道府県でそうでない所もあって、やはり雇用が 失われているような所もないことはないですし、最低賃金があれば、その上の所よりも 最低賃金でたくさん働いているという所も見られる。青森県や沖縄県は、典型的にそう いうのが見られるのですが、そうでない所も結構ある。ですから、こういう統計をちゃ んと使って、ある程度理論を背景にすると、これは雇用を失わないレベルの最低賃金だ とか、ここだったらもう少し上げても大丈夫だという議論ができると思うのですが。経 済学者からすると、こういう統計を使って議論するのが自然のような気がするのですけ れども。 ○石田先生  大竹先生の目から見て、このヒストグラムで雇用が失われているのではないか、とい う雰囲気がただよっている所はあるのですか。 ○大竹先生  きれいな分布で、そこでストンと落ちているような所ですね。集中していないような 所、例えば福島県など、57頁を見ると、これはほとんど最低賃金の周辺にいませんね。 いるのだけれど、きれいな分布の、あるいは最低賃金のところでストンと落ちているだ けですね。ですから、ここはおそらく最低賃金がなければ、もう少し600円以下で雇わ れていたかもしれない。しかし、最低賃金があるせいで、最低賃金より大きくした所は いなくなっているというようにも読みとれますね。もし最低賃金がなければどういう分 布だったかというのを想像しなければ駄目なのですが。 ○石田先生  よくわからないのは、それで言えば青森県などは700円とかこの辺、本当は福島県以 上にドーッと流れていくはずではないですか。 ○大竹先生  ポイントは、600円の所にたくさんいるけれど、その右側にはほとんど人がいない、 かなり少なくなっていますよね。分布の形が、自然な分布がこんなにゆがんでいない限 りは、もう少しなだらかに左側にいたはずの人が、600円の所で働いていると。これは 一時点だからわからないですけれど。 ○石田先生  福島県の方がむしろ自然で、青森県は相当最低賃金で、左側に飛び出す人を最低賃金 で止めたと。だから逆に雇用にも影響したと、経済学的には言えるのではないですか。 むしろ、経済学的には青森県の方が問題があると。 ○大竹先生  いやいや、経済学的には青森県の方が問題がないと思います。もし問題があれば、た だ単に600円の所でこんなにスパイクがなくて、610円や620円ぐらいの所と同じような 人数の人しか雇われていないはずですから、もし雇用が単に失われただけだったら。こ れは一時点だから完全には言えないですが、もう少し複数時点の分布を比較して、どう いう影響があったかというのを見ていけば、判断は完全ではないけれど、ある程度はで きると思いますね。こういう分布統計が詳細に使われていないというのが、私にとって は逆に驚きです。 ○渡辺先生  中央最低賃金審議会で目安を、時間額いくらプラスするということはありますが、そ れは目安で、必ず地方最低賃金審議会において、都道府県労働局が中心になって都道府 県のいろいろな資料を集めてそこで議論されるわけなので、都道府県の地方最低賃金審 議会においてどういう資料が使われているかということについてはよくわからないので すけれども。 ○前田賃金時間課長  目安制度というのは、全国的な引上げ率で出していますので、それは全国の賃金改定 率でやっているということです。地域別最低賃金の金額審議では、資料5にあるような 「最低賃金に関する基礎調査」というのを各地方最低賃金審議会で出すわけですが、そ の際には賃金分布のようなものを元に、資料としては出して金額審議をしていただくと いうことで、全国で今引上げ率を一律で出していますので、各都道府県の分布みたいな ことまでは、中央ではやっていないということです。 ○大竹先生  全国レベルであっても、このぐらい細かいレベルの特別集計をしないと出てこないで すよね。 ○前田賃金時間課長  地方は、最低賃金に関する基礎調査で集計しております。 ○大竹先生  このレベルのものをですか。 ○石田先生  こういうようには絵では示していないのですが、データとしては・・・。 ○前田賃金時間課長  第1・10分位とか第1・20分位とかと最低賃金とか、そういうものは各地方で最低賃 金に関する基礎調査というのをやっておりまして、その分布のようなものを、審議をす るときに資料としては出しています。 ○石田先生  おっしゃるとおりです。出るのですが、問題は、それを経済学的にどう読み解くかを 私も含めて知らないわけです。だから大竹先生に聞いたのですが、まだ納得できていな いのです。データはしっかり出るし、影響率ぐらいはわかりますが。 ○樋口座長  目安なり、対前年に比べて何パーセント上がったということを中心に議論することの 問題点と感じていることは、その年に勝った負けたというのは、次の年にまた影響して くる。ここで1円とっておかないと、来年それに上乗せするところについて議論をする ために、その分だけ毎年毎年累積していくという、まさにそういうプロセスなのです。 絶対水準であればそうではなくて、今年について議論をするのだということになってき ますから、今年いくらもらうかというのが来年以降には、本来は影響しないはずだ、と いう議論になるのです。それがゆえに0円・1円という攻防が激しい。今年だけだとい う話ならいいのですが、その影響が来年以降も表れてくるというところに、みんな固執 していくということだと思うのです。春闘も、見ていると議論がまさにそうですよね。 毎年の額であればそんなに大したことはないのだけれど、ここで譲ってしまうと、来年 またそれが影響してくるということになるというので。どうもそういう感じがするので す。 ○渡辺先生  しかし、生活保護水準のような絶対額を決めるのではなくて、中央最低賃金審議会に おいても地方最低賃金審議会においても団体交渉の1つの形ですから、それはあってい いことで、去年こうだったから今年はどちらかがどうするという、いわばバランス論で すからね。それはあまり気にする必要がないのではないですか。 ○樋口座長  バランス論とおっしゃいますのは。 ○渡辺先生  今年1円積み上げれば、それをまた前提に来年の議論があると。だから今年は絶対に それをとらなければならない、いやそれは困るというやりとりというのは・・・。 ○樋口座長  議論の場でそれがあるということは当然なのですが、それが目安で示されていくとい う形で。例えば、都道府県別に見たときに、東京都が一般賃金に比べて低いということ がありましたよね。ああいうのを見ると、本来、東京都だったら東京都における議論を している分にはこういうことは出てこないと思うのです。累積した結果としてこういっ たものが出てきている。沖縄県の方は、逆に市場賃金に比べて非常に高い最低賃金の結 果になっているというのも、この積み上げの結果ではないかと思っているのですが。 ○石田先生  私もよく分からないのですが、目安制度は昭和53年でしたか、何で都市部と地方と が、今見るような格差があるのか。目安は確かにABCDで分けて、一応階差は設けて いますが、それが積み上がっていくとこういう結果になるのかどうか、最初に階差を作 ったままなのか、よくわからないのです。 ○前田賃金時間課長  資料7の9頁で見ると、昭和53年に目安制度が始まったわけですが、その際既に地域 別最低賃金と、所定内給与については、地域的には絶対水準で見ると差はあったわけで す。引上げについては、目安は当初2年間ぐらいは、ABCDランクが別々に出ていま したが、その後は引上げ率は全国一律で出していますので、引上げ率自体は全国的に整 合性があった。もともとの水準のところは、地域の所定内給与とかと比べるとバラつき はあった。それは、最初に地域別最低賃金を決めたときに、何を基に決めるかというの で、その当時あった産業別最低賃金とか、そういうものがかなりウエイトがあったと思 うのです。 ○樋口座長  そういう問題もあるのですが、このグラフで昭和53年のとき、点線の方が東京都など は明らかに上にきているわけです。この何年間かの間に、逆に東京都はその分だけ低く なっている。沖縄県は逆なのです。 ○前田賃金時間課長  そこは日額と時間額の問題があって、従来日額で目安を出していましたので、日額に ついては全国的整合性が図られていたのですが、時間額を出すときに、その出し方が都 道府県によって違っていた。1日8時間で割ったり、7時間いくらで割ったり、時間額 の出し方が違っていたというところも影響しています。 ○石田先生  テクニックに走るのです。8分の1+5円とかね。そういう世界に入るから、私は空 しいと言っているわけです。これで食えるのか、という話をもっと労働側からすべきだ し、団体交渉であっても、そういうことが議論できる場でないといけないだろう。 ○樋口座長  既に2番目の論点であります最低賃金の水準とその考慮要素について、というところ まで議論は移ってきているのですが、さらにここで特に何 か。 ○渡辺先生  決定基準で、生計費、類似労働者の賃金、事業主の賃金支払能力というのは、どうも 考慮要素としての表現が狭いような気がするのです。先ほど古郡先生もおっしゃったの ですが、もうちょっと広い表現、いろいろな考慮要素、経済的な要素で考える、例えば 雇用の確保、ILOでは「生産性基準」などといっていますが、そういうものをもう少 し広げられるような最低賃金決定基準。そういう概念に変えるということはどうなので しょうか。 ○樋口座長  そうです。 ○大竹先生  私はその方がすっきりすると思います。生産性基準や、あるいは雇用に悪影響を与え ない基準で最低賃金を決めるという方が、誤解を生まないと思います。支払能力基準と いうのは、ここでちゃんと定義してあるとおり、一般的な、まともな独占状態にない企 業が雇用するときの賃金、払える賃金という形で、よく読めば書いてあるのですが、支 払能力基準というのを聞いただけだと、確かに誤解される可能性があります。個別企業 で、非常に経営の仕方が悪いにもかかわらず低い賃金しか払えない企業を守らなければ いけないかどうか、と誤解される可能性は非常に高い。おっしゃるとおり、変えた方が 正確になるのではないかと思います。 ○樋口座長  これも現実的な対応を考えたときに、最低賃金の本来の含意から考えて、雇用を削減 しない範囲でとかということになるのだと思うのです。ところが、議論の段階で支払能 力という話になってしまった結果として、本来これが入ってくるところではないのだけ れど、これはメルクマールとしてとりやすい、そうでないと雇用が増えるのか減るのか というところが議論しにくいというところで、こうなってしまったのかなという気がす るのです。ただ、個別企業のではないということははっきりしていて、「通常の」とこ こにも書いてあるのですが、それは確認しておいた方がいい。だからこれは、それを考 慮するための間接的な指標なのです。雇用の増減にどういう影響を与えるかということ で、これが重要なのですというところが忘れられてしまうとまずい。 ○大竹先生  合衆国の例は、それは明記してあるわけです。日本も、そういう形で明記するとはっ きりすると思います。 ○樋口座長  次の生活保護と地域的なバラつきということについて、既に議論に入っているのです が、さらにしていただきたいと思います。 ○大竹先生  資料について質問があるのです。資料7の23頁は、生活保護と最低賃金を比較すると きに、住宅扶助を入れると生活保護の方が高くなる。しかし、実際に払っている住宅扶 助の平均と比べると、最低賃金は高いというグラフです。ところが、生活保護をもらっ ている人は公営住宅に入っている人がかなり多いです。そうすると、その部分の扶助が もう既に現物支給として入ってしまっている。それであれば公営住宅の家賃と市場家賃 との差を足さないと正当な比較にならない。実質的にどれだけ保護されているか、そこ が比較として難しいかと思ったのですが。 ○樋口座長  どれを入れるかは難しいですよね。 ○前田賃金時間課長  公営住宅に入っているかどうかとか、そういう区分が統計上とれていないので、ちょ っと難しいですね。 ○大竹先生  実態的には、たぶんかなりの部分が公営住宅に入ってしまっているので、支払ってい る住宅扶助額が低くなっているということかと思うのです。 ○渡辺先生  それが三角の点線、実績値ということですね。 ○樋口座長  実は、国際比較も難しいのです。最低限必要なところはみんな国がやっていて、料金 がただとかというのも国によってはあるわけでしょう。もう実物給付がされている。そ れを除いて生活扶助がなされてくるという所があるから、単に生活扶助と最低賃金の比 較というのは、特に国単位で見るときの難しさはあるのではないですか。 ○石田先生  よくわからないのは、生活保護と最低賃金を議論する際の前提は、国相互がどういう 関係にあるのか。日本はかなり生活保護の認定基準は厳しい国だと見ています。ヨーロ ッパのように、あれだけ長い間失業にさいなまれて、失業者を放置したら治安問題も起 きるわけです。そうすると失業保険が切れる、切れたときに「死ね」とは言えない。そ うしたときに扶助せざるを得なくなるでしょう。「あんた元気だから職安に行け」と言 い続けて暴徒化しては困るので、結局どうなるかというと、これは正確にやっている研 究者の方に聞いた方がいいのですが、例えば職安に行ってオファーされる賃率が、従前 賃率の8割を切ったときには、「あなたはそのオファーを受け取らなくていいです」と いうような措置をしながら扶助に切り換えていく。それによってセーフティネットを作 っているというようにヨーロッパを私は見ているのです。  日本はどうか。そこが画然と切れていれば、水準がどうだというような議論は、非常 に観念的な議論になる。つまり、モラルハザードの問題は、行き来できるからどっちを 選択するかという話なので、行けっこない人に、「あなた生活保護の方が高いから」と 言っても意味ないでしょう。その辺のきちんとした制度の比較がないと、これは議論が しにくいと思うのです。 ○樋口座長  去年、いくつかヨーロッパの国を回ってきたのですが、失業保険から失業扶助への移 行が、従来は石田先生がおっしゃったような考え方が強かった。ところが、このところ の例えばドイツのハーツ委員会の今度の変更であるとか、あるいはイギリスのニューデ ィールでは、それが逆にインセンティブを失わせてしまうという形での制度変更をやっ てきて、例えばイギリスですと、若年から始まったのですが、まずは3カ月間給付しま すと。ただし、その段階でいくつかのオファーをハローワークがする。その中の4つチ ョイスが与えられて、その中の1つを選ばないと、もう扶助へは移行できませんよとい うようなもので、モラルハザードを阻止しようとしている。ハーツ委員会もたぶん、最 初の何カ月かは公共でやって、1年かたった段階で扶助に移る段階で、民間の職業紹介 を利用できるようにする。ただし、民間に行くと、「あそこへ行け」「ここへ行け」と やりますから、かなり厳しい。それが最近の流れとしては起こっているという感じがし ています。  ただ、日本の生活保護は認定が相当厳しくなされる。先ほど説明があった、例えば最 低生存費が計算されて、最低生存費が20万円だとする。ところが実際に10万円稼いだら 10万円しかもらえませんという仕組みになっている。その場合、実質的に10万円稼ぐ人 はいない。1銭も稼がなくても20万円もらうし、19万稼いでも20万、1万円だけ補助さ れますという仕組みになってしまっているために、ある意味では自分で稼ぐということ がバカバカしくなる。 ○石田先生  日本の場合は、稼げない人しか生活保護にいかない。だから、そういうモラルハザー ドはないのではないですか。 ○大竹先生  おっしゃるとおり、日本の生活保護の特徴は、ほとんどが高齢者と障害者で、母子家 庭はないことはないですが、アメリカなどに比べると非常に少ない。ですから、母子家 庭のようなところが一番大事で働くか働かないかの選択ができる。そういう人にとって は、今座長が言われたような、全く働かなくても20万円で、働いたからといって、働い たらもらえる補助は1万円とか2万円で、ほとんど変わらない。そういう意味では、そ この部分については問題がある。また、もともとスムーズに行ったり来たりできない制 度になっていることも問題で、生活保護の水準を高いレベルに作りすぎているから、普 通の人が利用できる形になっていないというのも、根本的な問題だと思います。もう少 し、本当のセーフティネットとして機能するようにして、生活保護の水準を低めにして 就業意欲をなくさないような形に、全般的には変えていかないといけない。  大多数の日本の生活保護の人は、全く働けない人、障害者、高齢者で働けない人がか なりいる、という前提は認めなければいけない。でも、行ったり来たりできる人も一部 いる。この制度は、本当は行ったり来たりして、貧困状態に陥らないようにすべき人が 救えていないというのも事実だと思います。 ○渡辺先生  基本的なところで、高齢者、障害者は労働能力が低いから、結局生活保護で補ってや らなければならないということでしょう。しかし、最低賃金というのは、働く能力があ って生活ができない人がいてはいけないという思想ですから、水準としては、少なくと も生活保護基準より上でなくてはいけない。そういう信念を私は持っているのですが、 それは間違いですか。 ○石田先生  それはイギリスの救貧法の大原則ですよね。レス・エレジビリティ、劣等処遇という ことですね。救貧思想の大前提は、働く人よりも保護される方の処遇は、やむを得ず低 いですと、そうしないと世の中の秩序はありませんという。 ○渡辺先生  救貧法の思想を言っているのではなくて、働いたら生活できるだけの賃金は得られな ければならない。しかし、賃金は市場で決まるものだから介入はできないが、せめて最 低賃金でセーフティネットをやるという思想でしょう。だから、生活保護水準というの を考えることはいいけれども、最低賃金というのは、常にそれよりある程度上に、働け ばこれだけとれますよという、上に水準を設けておくべきものだというように、私はず っと考えているのですが、生活保護水準との関係を考える際に。それは間違いではない でしょうね。 ○石田先生  そう思います。 ○渡辺先生  それより下がってはいけないという意味で、ネガティブ・チェック要素だと思うので すけれども、そういう位置づけで議論をすべき問題だと考えています。 ○石田先生  その原則を満たすような最低賃金額となると、相当高い金額になると私は思います よ。 ○大竹先生  最低賃金は国際的に低いわけではなくて、生活保護の水準が高すぎるのが問題だ、と いうことをおっしゃりたいために、事務局はああいう国際比較の資料を出されたと思う のですが、私が言いたかったのは、生活保護の中身に2つの要素があって、日本の生活 保護には特殊性があるということですね。働ける人の場合については、生活保護の水準 を低くして、最低賃金を高くするというのが大前提だと思うのです。そこが一緒になっ ているのが問題だと思いますけれど。 ○石田先生  それが住宅扶助の問題ですね。 ○大竹先生  住宅扶助の問題も大きいと思います。 ○樋口座長  この議論を始めると、どうにもならないところがあるのですが、課税の問題が実はあ るのです。最低賃金についても税引後の所得で議論をするのか、働いて課税最低限を超 えたら税金を払わなくてはいけない。今のところは、最低賃金で22日働いたとして、そ の水準まではいかないわけでしょう。 ○前田賃金時間課長  課税最低限よりは高くなります。 ○樋口座長  そうすると、その場合は税金を払うわけだけれど、生活保護の場合は払わないでしょ う。それは雇用保険でも出てくるのです。雇用保険給付は非課税になりますから。実 は、そこまで議論を始めると、これは日本の社会全体の問題になる。年金給付の問題も あるのです、相当に控除が大きいですから。ここでは、一応そういう問題があるという 指摘だけしておいて、次に移りたいと思います。  次の問題は、履行確保のあり方で問題提起がされているわけです。現行2万円という ことですが、ペナルティが低いのではないか。実質的には2万円となっているわけです が、不払い残業との関連から考えると、片方は30万円で、それに比べて低いのではない かというご指摘が1つあります。もう1つ議論されてきたのは、産業別最低賃金の適用 について、今までと同じような、こういったペナルティをかけるのか、外すのかといっ た議論があるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。 ○渡辺先生  これは、2万円というのは直さなければいけないですよね。国として法的整合性がと れていないわけですから、これはもう、せめて労働基準法なみにやるか、論理的にはも っと重くしてもいい。今の2万円というのは変えなければいけない。それは、もうここ の結論でいいのではないでしょうか。 ○樋口座長  産業別最低賃金の方はいかがでしょうか。 ○石田先生  産業別最低賃金は、またちょっと違った議論ですね。 ○渡辺先生  産業別最低賃金は、民事的強行制だけでいいと思うのです。刑罰で実施すべきもので はないと私はそう思うのです。 ○石田先生  座長が冒頭に言われたように、産業別最低賃金のあり方というのは、一種のこの間の 争点なのですが、私は地域別最低賃金のあり方とセットだと思います。それと全く切り 離して、産業別最低賃金独自に是非は論じられないのではないか、というのが私の見解 です。つまり、もっと端的に言うと、地域別最低賃金のあり方が、今のように上げ幅だ けで、にっちもさっちもいかないような状況を前提にして、さらに産業別最低賃金を屋 上屋を架すというような議論は、労働側に酷なのではないでしょうか。そうだとした ら、ある意味で整合がとれている部分もありますので、そこは派遣元と派遣先のあり方 を変えたり、罰則については緩めながらも、他方、地域別最低賃金についてはもうちょ っとセーフティネットとしての実を上げるような仕掛けにしますというふうになってい ないとまずいのではないかと思います。だから、罰則規定を産業別最低賃金はどうする かと、単独には判断できないと私は思います。 ○大竹先生  私も石田先生と同じ考えです。最低賃金の考え方をしっかりして、今日議論があった ように、上げ幅だけでやっているという、理論的に説明が難しすぎるような話は。 ○石田先生  一般の賃金だって上げ幅だけでやっているわけですから、最低賃金だけが悪いわけで はないのです。 ○大竹先生  わかります。一般賃金は労使交渉ですが、最低賃金は、別に社会保障の側面はなくて 強行規定で決めるわけですから、やはり、きちんとした説明責任があると思うのです。 労使協議で決まるから説明できると言うのは難しいと思うのです。何らかの説明責任が 果たせるような基準でつくっていくということにすれば、それ以上の産業別最低賃金は 必要ないと私は思うのです。きちんとした理屈を基に最低賃金がつくられるのであれ ば、罰則規定も厳しくしてもいい。逆に、罰則規定を厳しくする以上は、どうしてその 最低賃金にするのかということを説明できるようにする必要があると思うのです。 ○樋口座長  労働基準監督署の資料が出されて、この程度の監督指導をしているという説明もあり ましたが、履行確保の所で、他に何かありますか。よろしければ、次のテーマ「減額措 置・適用除外」の議論に移ります。現行制度についてはご説明いただいたとおりです が、その他に識者の方からのヒアリングで出てきたのは、若年層には適用除外を設けて もいいのではないかという意見が一部ございました。 ○古郡先生  若年層については、諸外国でも一般的ですから、取り入れてもいいと思うのですが、 その場合に、年齢を18歳未満にするとか、20歳未満にするとか、そういう検討課題が別 に出てくるかもしれませんね。 ○樋口座長  年齢をどうするかということですが、どうですか。 ○橋本先生  若年層を適用除外するという場合には、現行の最低賃金水準であってもいいというこ とでしょうか。 ○樋口座長  現行制度が低すぎるのに、更にそれより低いものを設ける意味があるのかということ ですが。 ○古郡先生  それはまた別の議論です。水準については議論がそのままになっていますので。 ○樋口座長  橋本先生は、むしろ現行水準の最低賃金だったら、適用除外を設けると相当に低すぎ るから、むしろ設けない方がいいということですか。 ○橋本先生  はい、妥当ではないと思います。 ○樋口座長  逆に、何がゆえに適用除外するのかというところで、コスト・オブ・リビングで親が 面倒をみるというような話があったわけです。そうすると、それを今度は逆に容認しな いと、それをもらわないと生活できないという話が出てきてしまうと思うのです。 ○渡辺先生  通常で言えば未成年者は20歳未満ですが、労働基準法は18歳未満を年少者として、時 間外労働や深夜労働、あるいは危険有害業務について、18歳以上の労働者と画然と区別 しているのです。ですから、そういう観点で業務制限がある、時間帯制限があるという ようなことは、多少は時間賃金の区分けの合理性の根拠にはなると思うのです。ただ、 今橋本先生が言うように、今のままで更に安くていいということには、どうも感覚的に ならないのです。水準論と切り離して議論すべきではないと思います。 ○樋口座長  これもセットとして議論するべきだということですね。 ○渡辺先生  ええ。 ○大竹先生  私も水準論とセットという答えになると思います。やはり基本方針は、雇用に悪影響 を与えないかどうかという判断基準が一番大事だと思うのです。仮にその水準を高く設 定した場合に、若年者の雇用が非常に大きな影響を受けたということになれば、若年者 の最低賃金を引き下げるべきであるという形になると思います。ですから、どこに設定 するべきか、若年者の雇用がどの程度の最低賃金であれば影響を受けるかという判断に よると思います。 ○石田先生  これは高齢者の場合ですが、年齢制限の問題は年金との関係もあると思います。京都 の地方最低賃金審議会の話では、特に産業別最低賃金のときに、経営者団体がしばし ば、年金生活者を雇いたいのだと。ところが、最低賃金の適用があるために。 ○樋口座長  そんなに低く雇いたいのですか。 ○石田先生  年金のベースがあれば、来る人はいると。ところが最低賃金に引っかかってしまうと いうことで縷々苦情を言われたことを覚えています。ですから、若いところと引退過程 と両方あるのではないかと思います。 ○樋口座長  もしよろしければ(3)の「その他」の所で、地域別最低賃金の設定単位について、 資料12を見ながら議論したいと思います。これについて出た意見は、都道府県単位は狭 すぎるのではないかと。こう見ても、わりと近い県で似たような額であるのだったら、 地域ブロックで考える必要があるのではないかという意見がありましたが。 ○渡辺先生  私は賛成ですね。これを見ると、青森県、秋田県、岩手県、山形県、福島県。労働局 が都道府県ごとにあるから、審議会も都道府県ごとにつくるというのはあまり芸のない 話で、実務を持ち回りでやってもいいわけですから、ブロック化ということをもう少し 積極的に考えたらどうかと思うのです。 ○古郡先生  賛成です。 ○大竹先生  労働市場の範囲で決めるというのが自然だと思います。 ○樋口座長  中には逆の意見がありまして、都道府県は広すぎるのではないか。県庁所在地とそれ 以外では全く市場が違っているという意見が出されたのも事実です。 ○大竹先生  地域によるでしょうね。京都府など、まさにそうです。 ○石田先生  北部と京都市ではだいぶ違います。 ○大竹先生  例えば、もう少し広い概念にしておいて、地域ブロックの中で、都道府県とは全く別 に地域を設定するという方が自然です。 ○石田先生  私は思うのですが、もっと大きな絶対額の議論をするときに、今の仕組みを前提にす ればこうなっているのですが、絶対額というものを果たしてどうやって論ずるのか。大 竹提案のように、グラフか何かがあって、中央でもっと計量的にある程度色がつけられ る、ということが前提になった場合の地方での金額審議のあり方ということになるわけ で、どういう仕組みがあるかによって、これは変わるのではないでしょうか。場合によ っては全国一本で行けるかもしれない。それは1つの考え方、エクストリーム・ケース ですが。最低賃金は地域別最低賃金をどうするかということと関係しているので、単独 でブロックがいいのか県がいいのか、私はにわかには言えませんね。いくつかのシナリ オをつくらなければいけないと思います。 ○樋口座長  現行制度であれば、都道府県というのは狭すぎるのではないかと思います。 ○石田先生  いや、私はそんなふうに思ったことはないですね。それ以上やりようがないではない かと。0円か1円かの議論をするわけでしょう。それをブロックでやりましょうと言っ て、どんな意味がありますか。 ○樋口座長  これは両方の意見が出たということにしましょう。 ○大竹先生  基本的には現行のスタイルはあまり意味がないということですね。だから、こういう ことを続けている限りは、続けるという前提のもとでブロックを広くしても狭くしても 関係ない。極端に言えば、そういうご意見だと思います。やはり根本的に最低賃金の決 め方というものを見直していく中で、一番いいブロックの大きさが出てくるのではない かと思います。 ○樋口座長  他にご意見がなければ、最後の「就業形態の多様化に対応した最低賃金の適用のあり 方」の議論に移ります。これについては資料13で、主に派遣労働者についての議論が提 出されています。請負も、ある意味では同じような側面があると思うのです。これにつ いては2つ議論があります。1つは、地域別についても派遣元の事業所の位置している 都道府県の最低賃金が適用されるという問題。もう1つは、産業別最低賃金について、 サービス業の最低賃金が派遣の場合にも適用されるといった問題がありますが、いかが でしょうか。 ○大竹先生  どこで働くかということを基準にするのは自然だと思うのです。ただ、その時にもう 1つ大事になるのは、ブロックがどのくらいの大きさかということにも依存すると思う のです。派遣元と派遣先が隣の都道府県で、すぐに移動できる。労働者が勝手に移動し ているようなときに、地域区分をそこまで厳密にしなければいけないのかと言われる と、確かにそうだという気もするのです。京都府と大阪府の境目にあるような所で、別 にどちらでもいいではないかということもあるのです。ブロックを適切な労働市場の範 囲にするという基だと、基本的には、どこで働くかということで決めるべきだと思うの です。もちろん派遣会社によっては、今の制度の下だと、最低賃金の低い所に本社を置 いておいて全国に派遣するというのが最適なやり方になります。もし低賃金の労働者を 派遣するということを売りにするのであれば、そういう戦略が取れてしまうわけです が、法制度として、それはおかしいと思います。 ○樋口座長  これは事務局にお聞きしたいのですが、実態として、派遣労働者の事業所というの は、登録している所を意味しているのですか。 ○前田賃金時間課長  派遣元の事業所が事業所として成り立っているかどうかということです。必ずしも本 社ではなくて、派遣元の支社でもいいのですが、そこが適用事業単位として認められれ ば、それが所在する所です。だから、一般的には登録している所になります。 ○樋口座長  去年までは事業所単位での認定だったからそうなったわけですが、外されたでしょ う。 ○前田賃金時間課長  許可の単位は本社だと思うのですが、それは派遣法の世界の話ですので、労働基準法 の適用事業場の単位というものをどう見るかという問題は、必ずしもそれとは直接には リンクしないのです。 ○樋口座長  私が知っている例というのは、本社一括の管理をしているわけです。 ○前田賃金時間課長  そういうことであれば本社になります。 ○樋口座長  そうすると、例えば本社が東京都にあれば、東京都の最低賃金が適用されるというこ とですか。 ○前田賃金時間課長  はい。 ○樋口座長  請負も似たようなところがあって、求人広告は本社がハローワークに出すというのが 多いのです。私が知っているのは大阪府の例ですが、大阪府から岩手県に請負何カ月と いう形で出すとかということになるのだけれど、そうすると、現行制度では大阪府の方 が適用になると。 ○前田賃金時間課長  請負の場合に、どこまでその労働者を管理しているかということがあります。採用し ている所がそうなるというわけでは必ずしもなくて、実際は指揮命令する人がどこかに いるはずなので、適用事業としては、管理している人の所在する所ということになると 思います。 ○樋口座長  当然管理は、人数に応じてどこかにいるはずですね。 ○前田賃金時間課長  ええ。 ○渡辺先生  労働基準法では場所的観念を中心に置いて、作業が一体として行われている所を事業 場と言う、ということですから、本社はこちらにあっても、事業としての実態的なこと をやっている所を事業場として、それを単位に義務づけているわけです。まさに最低賃 金もそういうことだと思うのです。 ○樋口座長  議論としては、派遣元の事業所の地域の最低賃金が適用されるのか、派遣先の事業所 の最低賃金が適用されるのかと。 ○渡辺先生  派遣労働者と最低賃金のことは、事業場をどこで捉えるかという話で、今のところは 雇用主のもとでやるということなのです。これは前回議論したような気がするのです が、最低賃金については、どういう仕事をしているかという、派遣先の事業を中心に適 用環境を考えていくべきである、派遣先の事業場の構成員として最低賃金の適用を考え ていくべきだという意見を、他の方も言ったし、私も言ったので、それはこの研究会で は一応解決済みのことかと思っているのですが。 ○古郡先生  前回の議論でそうなりましたね。 ○石田先生  産業別最低賃賃金と地域別最低賃金は違うという感じが私はしました。原理から言え ば、地域別最低賃金はどこに住んでいるかだと思うのです。 ○樋口座長  生活ですから。 ○石田先生  はい。働いている場所が大阪府で、しかし京都府に住んでいるということなら京都府 であると。それが常識に照らして一番わかる説明だと思います。産業別最低賃金の場合 は、サービス業が電気に行ったら、これをどうするかという問題はあるのですが。 ○樋口座長  産業別最低賃金については、逆に派遣先の業種に応じてという考え方でしょうか。 ○石田先生  産業別最低賃金の根拠はスキルだと思っているのです。この産業のスキル、これを買 うに当たっては最低限こうですよと。ではスキルはどこで規定されるかというと、働い ている事業所だと思います。だから、それは派遣先の事業所でいいと思うのですが、地 域は、原理としては区別が要るのではないかと思うのです。 ○大竹先生  私もそのとおりだと思うのです。ただ、通勤する人はいるわけです。それで先ほども 言ったのです。ブロックが狭すぎると、どこに住んでいるかというのと、どこで働いて いるかということが違ってくる可能性があって、同じ事業所内で、どこから通っている かによって最低賃金が違ってくるということが起こるのは問題だと思うのです。ですか ら、その場合には地域別最低賃金も労働市場の範囲で広げていかないと、少し難しい問 題が出てくると思います。 ○樋口座長  同じ事業所で違った最低賃金が適用されることになってしまうということですね。 ○石田先生  ええ、住所でやれば。 ○樋口座長  業種については派遣先事業所の業種を適用するべきだという意見がかなり強くあった ということで、皆さんよろしいですか。 ○大竹先生  ただ、ブロックをどこにするかというのと、地域の分割と密接に関わってきます。 ○古郡先生  先ほど最低賃金と生活保護の議論を皆さんがなさっていた時に思ったのですが、わが 国では、働けるのに働かないというモラルハザード、それはあまり強くないのではない か。日本の国民は全般的に勤労意識が強く、世間体を気にする傾向があります。ですか ら、例えばイギリスのように、若者が、賃金のいい仕事をするということを1つの権利 であると考えるようなお国柄とは状況が異なるかもしれません。社会的風土が基本的に 違うように感じられます。ですから、石田先生が高齢者には最低賃金以下でも働きたい と思っている人がいるといわれましたように、健康上その他の理由で働けない高齢者は 生活保護に頼っているけれども、それ以外に、年金との関係も含めて働きたいと思って いる人はかなりいる、そういう点もあるのではないでしょうか。 ○樋口座長  労働状況の分析をすると、かなり弾力性が大きい。収入制限などを考えたときに、税 制や年金制度が影響を及ぼしているという結果が出ているので、制度によって両面ある のではないでしょうか。他によろしければ、本日の会合はこの辺で終了させていただき ます。貴重なご意見をありがとうございました。次回は本日までのご意見を踏まえて、 報告書の取りまとめに向けて、事務局の方で資料を整理してもらい、それについて意見 交換を行いたいと思います。できる限り次回でご意見を集約する方向に持っていきたい と考えておりますので、ご協力をよろしくお願いいたします。次回についてのアナウン スをお願いします。 ○前田賃金時間課長  次回は3月17日(木)午前10時から、経済産業省別館8階825会議室で開催いたしま す。どうぞよろしくお願いいたします。 ○樋口座長  本日は終了いたします。 (照会先) 厚生労働省労働基準局賃金時間課政策係・最低賃金係(内線5529・5530)