遺伝子治療臨床研究に関するフランスの有害事象を踏まえた
国内の取扱いについて(報告)


1.フランスでの有害事象の発生について
 フランスで実施されているX−SCID遺伝子治療(※)において、平成14年の2例の有害事象(白血病)に続き、本年1月下旬、第3例目の有害事象(白血病)の発生が報告された。
 X連鎖性複合免疫不全症(X-SCID)に対し、レトロウイルスベクターにより、γc遺伝子を造血幹細胞に導入する遺伝子治療。

 第3例の白血病発症の原因については、現在フランスにおいて解析中

 フランスはX−SCID遺伝子治療を中断。遺伝子治療の導入に用いるレトロウイルスベクターを使用した遺伝子治療は継続。
 アメリカにおいても、X−SCID遺伝子治療を中断するとともに、その取扱いについて、FDA等で対応を検討中。


2.我が国のレトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療臨床研究の実施状況について
 現在、我が国においては、レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療臨床研究は、4施設:4研究が存在。(詳細は別紙参照)

 平成14年のフランスの有害事象の報告後、がん・小児免疫不全疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会を開催し、国内の取扱いについて審議。
 実施中のレトロウイルスベクターを用いる研究は、全て一時的保留。
 なお、その後の海外での再開等の動きを踏まえつつ、患者へのインフォームドコンセントの徹底や患者への十分なフォローアップの実施等を条件に実施計画変更を行い、15年10月以降、フランスと同じX−SCIDを用いる研究(東北大)以外の研究の再開申請等を認めている。
 なお、東北大は計画策定から今日に至るまで患者への遺伝子導入は行っておらず、自主保留中。

 今般のフランス有害事象の報告を受け、各施設は、患者へのインフォームドやフォローアップを実施。なお、各施設とも本有害事象報告後、新規患者の実施はない。


3.がん・小児免疫不全疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会における国内の取扱いの検討(3/8)
 厚生科学審議会科学技術部会の下に置かれている「がん遺伝子治療臨床研究作業委員会」及び「小児免疫不全疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会」の合同委員会を開催し、国内の現状確認と取扱いについて審議。

【審議結果の概要】

 (1) 東北大学病院において、X−SCIDに対しレトロウイルスベクターによりγc遺伝子を造血幹細胞に導入する遺伝子治療臨床研究(フランスで実施された遺伝子治療臨床研究のベクターを用いたもの)は現在保留中としており、フランスの第3症例の遺伝子組み込み部位の解析結果等が明らかになり次第、対応を検討するとの施設からの報告について、委員会としては妥当と判断するが、さらに、今般のフランスの有害事象を踏まえ、実施計画の再点検を行うべき。

 (2) 免疫不全を引き起こすADA欠損症に対し、レトロウイルスベクターを用いてADA遺伝子を造血幹細胞に導入する北海道大学病院の遺伝子治療臨床研究に関し、委員会としては、現在までに行われた2症例の臨床状況等を調査分析して報告を行うとともに、それを踏まえ、今後の実施計画を検討すべき。

 (3) 進行再発乳癌に対し、レトロウイルスベクターを用いてMDR1遺伝子を造血幹細胞に導入する財団法人癌研究会付属病院の遺伝子治療臨床研究に関し、現在までに行われた3症例の臨床状況等の報告を行った後に4症例以降の検討を行う予定との施設からの報告を受け、委員会としては、その報告内容を検討した上で、さらに議論すべき。

 (4) 再発白血病に対し、レトロウイルスベクターを用いてHSV−TK遺伝子をドナー末梢血Tリンパ球に導入する筑波大学附属病院の遺伝子治療臨床研究に関し、第1症例の投与後の遺伝子導入部位検索を行っているとの施設からの報告を受け、委員会としては、今後その状況を報告するとともに、将来、第2症例についても、患者への導入前に遺伝子導入部位の検索を行うべきとの意見。更に、第1症例の臨床経過や今回のフランスの有害事象を踏まえ、リスク・ベネフィットを考慮して取り扱うべき。

 (5) このほか、フランスの有害事象等について、引き続き情報収集を行うべき。



(別紙)レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療臨床研究実施計画
研究課題名 アデノシンデアミナーゼ欠損症における血液幹細胞を標的とする遺伝子治療臨床研究 X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)に対する遺伝子治療臨床研究
実施機関及び
総括責任者
実施機関:北海道大学病院
総括責任者:北海道大学大学院医学研究科
有賀 正 教授
実施機関:東北大学病院
総括責任者:東北大学病院 小児腫瘍科
土屋 滋 教授
申請年月日 平成14年2月18日
平成14年6月17日 回答
平成14年2月28日
平成14年6月17日 回答
対象疾患 アデノシンデアミナーゼ欠損症 X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)
導入遺伝子 ヒトアデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子 ヒトγc鎖野生型完全長cDNA
ベクター レトロウイルスベクターGCsap M-ADA レトロウイルスベクターMoloney murine leukemia virus(MLV)由来MFGベクター
実施期間・
対象症例数
(予定)
14年6月17日〜17年3月31日
4症例
14年6月17日〜18年6月16日
5症例
実施症例数 2症例 0症例
治療研究の概要 患者骨髄から分離した血液幹細胞であるCD34陽性細胞に、生体外でヒトアデノシンデアミナーゼ遺伝子を含むレトロウイルスベクターを導入し、遺伝子導入CD34陽性細胞を静脈内投与する。 患者の骨髄から細胞を採取し、CD34陽性細胞を分離、サイトカインによる前刺激を加え、これにγc鎖cDNAを組み込んだレトロウイルスベクターMGF/B2-γcを導入。静脈内に遺伝子導入CD34陽性細胞を投与する。
遺伝子を発現させ、γc鎖の発現と機能を維持したまま、T細胞、NK細胞へ分化、免疫機能の回復を図る。


(別紙)レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療臨床研究実施計画
研究課題名 同種造血幹細胞移植後の再発白血病に対するヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ導入ドナーTリンパ球輸注療法の臨床研究 乳癌に対する癌化学療法の有効性と安全性を高めるための耐性遺伝子治療の臨床研究
実施機関及び
総括責任者
実施機関:筑波大学附属病院
総括責任者:筑波大学臨床医学系血液内科 長澤俊郎 教授
実施機関:財団法人癌研究会癌研有明病院
総括責任者:財団法人癌研究会癌研有明病院及び癌化学療法センター臨床部
高橋俊二医長
申請年月日 平成13年9月17日
平成14年3月14日 回答
平成10年7月14日
平成12年2月24日 回答
対象疾患 再発白血病(同種造血幹細胞移植後の再発白血病) 乳がん
導入遺伝子 ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子 ヒト多剤耐性(MDR1)遺伝子
ベクター レトロウイルスベクター SFCMM-3 レトロウイルスベクター
(Harvey murine sarcoma virus(HaMSV)由来HaMDRベクター)
実施期間・
対象症例数
(予定)
14年3月14日〜17年10月1日
10症例
12年2月24日〜18年12月31日
第一段階3症例、第二段階10症例
実施症例数 1症例 3症例
治療研究の
概要
患者の末梢血単核細胞を採取し、前刺激したドナー末梢血リンパ球にHSV-TK遺伝子を導入する。遺伝子導入したリンパ球は凍結保存する。同種造血幹細胞移植後の再発白血病に対して、TKドナーリンパ球輸注療法を行う。重度移植片対宿主病(GVHD)発症の際にはガンシクロビルを投与することでドナーT細胞を死滅させGVHDの沈静化を図る。 患者の末梢血単核細胞を採取し、CD34抗原陽性細胞を分離、これにMDR1遺伝子を導入する。遺伝子導入したCD34抗原陽性細胞は凍結保存する。患者に大量化学療法を施行した後、MDR1遺伝子導入CD34抗原陽性細胞を未処理の末梢血単核細胞とともに移植する。その後骨髄の再構築を確認し、抗ガン剤投与を行う。

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