戻る

平成17年1月19日

医政発第0717001号(平成15年7月17日)
通知発出以降の状況について


日本ALS協会
会長 橋本 操

 平成15年7月17日通知発出後、家族以外の者による吸引が実施されているが、下記2(2)に示すとおり、その実施率は5割を下回っている。医療・保健・福祉の適切な連携と理解のもと、家族以外の者による吸引実施が円滑に行われている地域がある一方で、地域の理解と支援がなく実施に至らないケースも決して少なくない。通知発出後の現状認識と課題を以下に記す。


1、  療養環境整備について

 当該通知には以下の通り記載されている。
 在宅ALS患者が家族の介護のみに依存しなくても、円滑な在宅療養生活を送ることができるよう、(1)訪問看護サービスの充実と質の向上、(2)医療サービスと福祉サービスの適切な連携確保、(3)在宅療養を支援する機器の開発・普及の促進及び(4)家族の休息(レスパイト)の確保のための施策を総合的に推進するなど、在宅ALS患者の療養環境の向上を図るための措置を講ずることが求められ、その上で、在宅ALS患者に対する家族以外の者(医師及び看護職員を除く。以下同じ。)によるたんの吸引の実施について、一定の条件の下では、当面の措置として行うこともやむを得ないものと考えられると整理されている。
 上記通知において、たんの吸引実施には、施策の推進など療養環境の向上を図る措置が求められると示された。しかし、通知発出後約1年半が経過するが、現状は十分推進されているとは言い難い。責任主体を明確にし、いつまでに、どのような状況にするか等、具体的な数値目標を掲げ、取り組むことが必要である。
参考1
「ALS患者にかかる在宅療養環境の整備状況に関する調査研究(主任研究者川村佐和子)」報告書に吸引実態及び在宅療養環境の整備状況に関する平成15年12月1日時点でのデータが記載されている。


2、  たんの吸引について

(1) 通知について

 (1) 通知の周知徹底について
 当該通知が都道府県内の区市町村や関係機関に周知徹底されていないケースがある。そのため、患者からたんの吸引実施を要望しても、地域関係機関が十分認識しておらず、地方行政及び地域関係機関により吸引実施が止められていることがある。通知の周知徹底と関係機関への十分な理解と協力を求めたい。

 (2) 文言について
 看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会報告書に「業務として位置づけるものではない」との表現がある。これが地域関係者に様々な解釈を与えており、業務として位置づけるものでないならば、たんの吸引は実施しないとしている地域もある。
 平成16年8月2日民主党難病対策部会により、「業務として位置づけるものではないと記載されているが、業務時間中に行うことについて、厚生労働省関係部署において了承している。」との厚生労働省医政局医事課回答を関係機関に周知願いたい。
 尚、在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究会(第8回)資料3において、介護時間中に関するたんの吸引実施に伴う費用の考え方が示されている。その点については評価できるが、業務時間中に行うことについて厚生労働省が了承していることを周知しなければ、たんの吸引が実施されない地域があるため、周知を強く求めたい。

(2) 吸引の実態

 (1) 家族以外の者による吸引実施状況は下記の通り。
調査名
実施時期 平成15年12月 平成16年10月 平成15年11月
回答者数 683人 151人 141人
家族以外の者に
よる吸引実施率
32% 43%(34%)*1 28%(50%)*2
A: ALS患者にかかる在宅療養環境の整備状況に関する調査
B: 日本ALS協会近畿ブロック調査
C: 侵襲的人工呼吸療法を行うALS患者さんの生活とニーズに関する調査
*1:43%: 介護保険ホームヘルパーによる実施率
34%: 支援費ホームヘルパーによる実施率
*2:28%: ホームヘルパー全員による実施率
50%: ホームヘルパー全員ではないが実施できている率

 (2) 家族以外の者による吸引未実施の理由
日本ALS協会近畿ブロック調査(平成16年10月)において、訪問介護員が吸引しない理由を調査したところ吸引未実施の理由として次の内容が挙がっている。
  ○ 訪問介護事業所責任者が拒否  47%
  ○ ホームヘルパーが拒否  20%
  ○  33%
前述調査以外に、当協会に寄せられている吸引未実施の理由としては以下の通り。
  ○ 訪問介護事業所及びホームヘルパーは吸引実施に同意しているが、在宅かかりつけ医・訪問看護師が指導を引き受けないため実施できない。
  ○ サービス提供者が信頼して任せることができないので実施できていない。信頼できるサービス提供者が居ればお願いしたい。

(3) 事故の有無について
 当協会には、現時点で事故の報告はない。

(4) 当協会での吸引講習会実施
 通知発出により一定条件の下吸引実施ができるようになったと言っても、上記の通り個々の現場の理解はなかなか得られにくい。そこで、吸引実施が安全且つ円滑に進むことを目的として、ALSに関すること、通知に関すること、吸引に関すること等を含めた講習が実施されている。以下、開催時期と実施主体。
 2003年 7月    日本ALS協会福井県支部
  8月 20日  訪問介護事業所(秋田県)
  10月 29日  訪問介護事業所(東京都)
  11月 12日  医療機関(東京都)
 2004年 2月 19日  日本ALS協会東京都・千葉県支部(医療機関共催)
  3月 21日  日本ALS協会本部
  6月 26日  日本ALS協会福岡県支部
  9月 19日  日本ALS協会静岡県支部(保健所共催)
  10月 11日  日本ALS協会本部
  10月 31日  日本ALS協会熊本県支部
  11月 12日  日本ALS協会岩手県支部
  12月 20日  日本ALS協会愛知県支部
 2005年 1月 15日  日本ALS協会秋田県支部

(5) その他
 吸引実態及び在宅療養環境の整備状況に関するデータは、「ALS患者にかかる在宅療養環境の整備状況に関する調査研究(主任研究者川村佐和子)」報告書に掲載されている。

以上


トップへ
戻る