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「在宅及び養護学校における日常的医療の医学的・法律学的整理に関する研究会」
委員の皆様

全国遷延性意識障害者・家族の会 代表 桑山雄次

(1) 在宅生活の現状(主として吸引を中心に)
 事故や病気で意識障害が発生したとき、病院での急性期の治療を受けますが、不幸にも障害が遷延化したときは、現行の医療保険点数下では転院を促され、病院を転々とせざるを得なくなり、しかも一般的にはリハビリなどが行われない病院に転院していきます。まだまだ医療域にあると考えられる場合も、家族はしかたなく在宅を決意します。家族なりの介護を暗中模索しながらも行っていきますが、往診や訪問リハは制度としてはあるものの、実質的には往診の医師は地元の内科医であり、訪問リハに来て下さる療法士は皆無に近いのが現状です。
 また、在宅福祉サービスの3本柱のホームヘルプ、デイサービス、ショートステイについても痰の吸引が必要な場合は、福祉施設ではデイサービスやショートステイは断られるケースがほとんどです。重心施設に併設されている事業所なら可能性はありますが、絶対数が少なくまた満杯状態であり、18歳以上の発症の場合では療育手帳がないため、事実上使えない制度となっています。
 ホームヘルプでも日常的に一番困るのが、痰の吸引であり、一晩に何度も家族が起き出して吸引をせねばならない場合も少なくありません。ヘルパーさんにお願いできれば家族は最低限夜に眠ることもできますが、現状のままではそれもできません。
 このように医療からも福祉からも見捨てられ、家族のみがこのような障害者の生活を支えていると言っても過言ではありませんが、家族は回復の道を信じ自らの生命をすり減らしながら日常生活を送っています。

(2) 医療職や家族以外が吸引を行うことについて
 私たちは日常生活の中で、痰の吸引を行ってきました。私自身も息子が入院中のときに手技について理解はしており、外泊許可をもらったときに10分間ほど看護師さんから研修を受けました。他の会員の方々も程度の差はあれ同様です。また在宅においては家族の一員である小学生が吸引している、あるいはせざるを得ない厳しい現実があります。
 痰の吸引については、口腔内か否か、カニューレの有無を問わず該当の障害者の状態を熟知し、どのような状態なら吸引が必要なのか、喘鳴の程度や体調などを判断し、吸引チューブをどこまで入れれば良いのかとか、これ以上挿入すると嘔吐してしまうとか、などを総合判断して吸引することが必要です。
 従って、今回の議論になっている介護職の吸引については、何らかの形での研修制度が必須です。以下のように考えます。
 (1) その障害者の日常生活を良く知り、吸引についての総合判断が可能であると家族が判断した介護福祉士あるいはホームヘルパー(以下ヘルパー等)に対し家族が吸引の依頼をすること。
 (2) 依頼されたヘルパー等に対して、主治医から該当の障害者についての吸引の注意すべき点、配慮事項に関して実技を含めた一定の研修を行うこと。
 これは家族とヘルパー等との信頼関係に基づくものであり、「業」として行う場合はまた別の問題であるかもしれません。しかし、その問題について新たな制度設計もない現状では、痰の吸引をヘルパー等に依頼することは本人及び家族にとって在宅生活を支える大きな力となることは明らかです。
 またいつも不整合が指摘される事柄ですが、医療職のみに許可されている吸引行為が、家族には黙認されているのは如何なものか、この機会ですから一定程度の見解を出していただければ幸いです。

(3) その他
 私たちの家族は人生の半ばで重度の障害を負いました。交通事故、労働災害、医療過誤、犯罪被害など「人災」の面も強くあります。障害を負った本人のみならず、家族の無念さは本当に深いものがあります。しかも残念ながらこのような事例は毎日「再生産」されている現状があり、誰にでも起こりうる可能性があります。
 貴研究会のこの度の議論は痰の吸引が焦点になっているのは熟知しておりますが、委員の皆様にはそのことに限らず、遷延性意識障害者に対する「医療行為」の整理についても是非して頂きたいと思います。先般の答申で一定程度の条件の下ですが、養護学校では「咽頭前吸引」、「経管栄養」、「導尿の補助」を、非医療職である教員にも可能という方向に緩和され、そのことは地域生活を支える上で非常に大事なことで、否定するものではありませんが、ALS患者の方には「咽頭前」という記述はありません。
 また「在宅」という視点では、私たちが求めているのは、在宅で精一杯生きるための条件造りです。在宅を支える柱の一つであるショートステイ事業で、例えば浣腸が必要な障害者は「医療行為」が必要な障害者として受け入れてくれないケースもあります。
 「医療行為とは何か」についての出版物も増え、書店で手にすることも多くなりました。吸引のみならず、通常の一般市民が幼い子供たちにしていると考えられる、前述の浣腸、座薬の挿入、服薬管理、外用薬の塗布、点眼、つめ切りなども「医療行為」なのか、という素朴な実感がありますし、その理由により私たちの家族が結果として福祉施設の利用を断られるのはどうしても納得ができません。吸引が話題になる以前の問題と考えます。
 私たち遷延性意識障害者の実態としては、その他にも、経管栄養、口腔内の痰の掻き出し、摘便、ジョクソウの処置、更に書けば人工呼吸器の管理、IVHの管理も含め、今後の検討課題として是非議論していただきたい、と思います。医療と福祉の狭間にあるため、家族の「自己責任」に全てのその行為を任せてしまうのが現状であり、その議論も皆様方に求めさせて頂きたいと思います。



「在宅及び養護学校における日常的医療の医学的・法律学的整理に関する研究会」

委員の皆様
全国意識障害者・家族の会 手塚幸子

家族会の要望は、代表の桑山が述べたとおりですが、もう少し具体的に在宅の現状を委員の皆様に知っていただきたいと思います。

睡眠不足の危険性
吸引が日常的の場合、少しの体調の変化でも吸引回数が異常に増え、万年睡眠不足と疲労の上に徹夜が重なります。仮眠さえ取れない状態が何日も続くと日常的に意識が朦朧としたまま介護をします。私自身何度も経験した事でありますが、カニューレ上部の吸引口に経管栄養をつないだり、気管ではなく、開いた眼にそのまま吸引しょうとして、カテーテルが眼球に当たりハッと気がついたり、呼吸器を外したまま鼻を吸引したりと、気がつかなければ、命に係わることばかりです。当然ですが呼吸器が外れてアラーム音が鳴っているのにそれでもウトウトしていたこともあります。風邪で熱が出て清拭を省略したとしても、吸引、導尿、ガーゼ交換、加湿器の水の補給、ウォータートラップの水捨て、水分補給に、栄養と待ったなしに続きます。おむつ交換も熱のある時は辛いものです。こういう時に10分、15分吸引が重なると最悪です。当然意識が朦朧としたままの介護です。
一人での介護から、3年前から家族が午前3時より交代してくれるようになりました。このままではいけないと昨年より引越しを機会に居宅介護を利用することにしました。
幻覚をみながらの介護はなくなり、多少ではあるが改善されたものの「医療行為」の壁が相変わらず寝不足の原因として立ちはだかっています。家族も常に健康とは限らず、最近では体調を崩しております。
在宅当初は日々の生活に追われて、その危険性さえ訴える術もありませんでした。現在も危険な介護を続けられている家族が大勢いる事をご承知ください。

高度医療を必要とする在宅患者が年々増えています。
当然ながら、訪問看護をお頼みするのですが、看護師の技術に個人差があまりにあり、1時間半を有効に使えないのも現状としてお伝えいたします。
これは、我が家で気がついた点だけです。
吸引に対しての手洗の徹底さえ出来ない看護師には、さすがに驚きましたが、吸引後の呼吸器装着の際に、カニューレ位置が変わるほど押し込み気管出血させてしまう方は、複数いました。
聴診器を当てる際に呼吸器回路をそのままグット上に持ち上げた方も複数いました。
ガーゼ交換の際のカニューレの角度による出血。カニューレ交換の補助でカニューレの位置が変わるほど押さえて気管を傷つけてしまう。吸引自体の危険より、呼吸器をつなぐ時に傷つける事が多かった様に思われます。在宅になりカニューレ交換を適時自分でする様になりわかった点です。
その他、導尿の際に何度も失敗しカテーテルを何本も使用したり(これも複数)膀胱に空気をいれてしまう等。呼吸器の確認を怠り加湿器の水がなくなっていた等。
マーゲンチューブの確認が甘く誤燕を見落とす。
清拭の際の衣類の巻き込みにはじまり、シーツ交換時、シーツを一気に引き抜き完全に腕が巻き込まれかけた。入浴補助でビニール浴槽に足を引っ掛けたまま持ち上げようとした。(後に骨折がわかる)
医師の指示に従わない等。
一番困るのが緊急時の対応が出来ない看護師です。その場で怒鳴ってしまう場面も過去何度かありました。有資格者でさえ、週1度の訪問では慣れるまでに時間がかかり、慣れないと大きな事故につながる危険性があります。短時間の外出もままならないという現状があることもご理解ください。
訪問看護の在宅における吸引の再指導も重ねてお願いいたします。
ヘルパー吸引も研修と訓練によりある程度まで可能かと思います。後は慣れ、私は看護資格はもちろん、ヘルパーの資格さえもっていませんが、カニューレ交換、吸引、導尿一連の行為はとても上手です。10年以上の呼吸器装着ですが、気道内は異常な位きれいだそうです。

これも高度医療を家に持ち帰り在宅なさっている方の意見ですが、
「吸引は高度な技術を要する」と、言うことで、ヘルパー吸引を認めないとの事ですが、おっしゃるとおり、それ相当の技術がいると認識します。特に、我が家では呼吸器使用の吸引行為の場合アンビューを使用します。自発のない患者とって、呼吸器回路を外しての吸引は確かに危険を要します。
そして、訪問看護師に、お任せしたいのですが、それが一人できる方はほとんど居ません。<経験上>
介護人としては、せめて看護師の来ている時に、仮眠・買い物などをすませたくても、吸引のたびに、「お母さん、バックを押してくだい。」または「私がバックを押します。吸引してください」では、何の役にも立ちません。結局、介護人はベットのそばから離れられず、「それならば、全部私がします」と言うのが現状です。はじめてくる看護師は、「おかあさん、いつもどうやって一人で吸引するのですか?みせてください」「は・・・そうやるんだ・・・私できるかな・・」と、驚かれたこともあります。
また、そんな状況の大きな原因となっているのは、「慣れ」の問題です。
1週間に3日の訪問・1時間〜1時間半の訪問、しかも、同じ人間が訪問するとは限らない。1時間では、バイタル・検温・申し送り・清拭なので吸引まで、満足にできません。
「慣れ」ろと言っても、不可能に近いと思います。その点、ヘルパーなどは、長時間の介護援助に携われます。もともと、素人の「親」が、「慣れ」で習得した技術です。「慣れ」てさえいただけば、資格など関係ないと思っています。距離で言えば、看護師より、ヘルパーさんの方が患者にとっては「家族」に「近い」のです。
訪問看護の、内容に、「家族指導」と言うのがありますが、家族に吸引の仕方を聞くのも、不思議でありますが、なによりも、指導的立場がお仕事ならば、吸引できる人間」として、介護人=ヘルパーの指導・支持にふみこまないのは、不思議です。一人で吸引ができないのなら、ヘルパーをアシストとして使って、2人で仲良く吸引する方法もあるのではないかと思うのですが責任の所在を意識しすぎてか、ヘルパーに手を出させまいとする態度が目立つように思います。
今の、状況では、アンビューも医療行為・吸引も医療行為で、壁を作ってしまい、結局は「親」「家族」をがんじがらめにしているのが現状だと思います。看護師のお仕事は、吸引のみならず、沢山あります。
それはとても高度で医療であると思います。ならば、「吸引」に関しては、可能性・親の要望の高い、ヘルパーに指導し、認める方がいいのではないでしょうか。
吸引要員として、ヘルパーをぜひ認めてほしい。
数多くの医療が、役割分担も無く全て家族にのしかかっている現在の在宅現場は、想像をはるかに超える過酷さと、危険性を伴っています。訪問看護、訪問介護がともに、うまく回っていかない現状をわかっていただきたいと思います。


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