1 | (略) |
2 | 最低賃金は、労働条件を改善し、労働者の生活の安定に資することを目的とするものであるから、その保障する最低賃金額は、労働者の労働した時間に対応して一定額の賃金を保障するものであることが原則でなければならない。ところが、実際の賃金支払形態においては、定額制のみの場合のほかに、定額制にあわせて出来高払制その他の請負制をとっているものがあり、また、定額制はなく出来高払制その他の請負制のみであるものもあるが、いずれにしても、このような出来高払制その他の請負制では、賃金は生産された物品等の一定単位によっていくらと決められており、その一定単位について最低賃金額を定めても、労働者の生産する物品等の量がどれだけになるかは保障されていないので、賃金は不安定に変動し、最低賃金が本来期待しようとする最低の一定額の保障は望めないこととなる。したがって、本法の最低賃金額は、期間的単位によって定めるのを原則としたのである。この場合の期間の単位としては、諸外国においては、時間だけあるいは日だけできめる場合もみられるが、わが国における賃金支払形態の現状においては、それぞれの業種、職種によって時間給制、日給制あるいは月給制等その実態も異なるので、最低賃金が有効に実施されるためにも、単に一時間につきいくらという時間単位のみできめるといった画一的なきめ方をせず、それぞれの業種、職種の賃金慣行に即応して、時間、日、週、月のいずれにもより得ることとしたものである。もっとも、わが国においては、週給制をとっている例はほとんどないので、最低賃金を週によってきめることは現在のところまずあり得ないと考えられる。従来我が国の最低賃金のほとんどは時間額および日額を併用していたが、賃金支払形態、所定労働時間などの異なる労働者についての最低賃金適用上の公平の観点や就業形態の多様化への対応の観点などから、平成14年4月2日に中央最低賃金審議会で了承された時間額表示問題全員協議会報告において、地域別最低賃金額の表示単位期間について時間額単位方式への移行を図ることとされ、すべての地域別最低賃金について平成14年度の改正から時間額表示のみとなり、産業別最低賃金についても時間額単独表示への移行が進んでいる。 最低賃金額が一定の期間によって定められた場合には、賃金支払形態のいかんを問わず、その期間中の所定労働時間の労働に対してその金額以上の賃金を支払えば足りるのであって、例えば、最低賃金が1時間につきいくらというように時間単位できめられたからといってその適用を受ける労働者の賃金支払形態をそれに合致するように時間額に変更するという必要はない。 |
3 | 以上のように、最低賃金額を期間的単位によって定めることが本法の原則であるが、これのみによることは実情に沿わない場合があると予想される。すなわち、業種によっては、労務管理上、定額制をとらず、出来高払制その他の請負制をとっているものがある。「出来高払制その他の請負制」の「請負制」というのは、労働時間によって賃金が支払われる定額制に対する概念であり、一定の労働給付の結果または一定の出来高に対して賃率が決められるものである。しかしながら、労働時間の把握、作業の管理監督が可能でありながら、労働者を刺激する意味でこのような賃金制度をとっているものがあり、工場労働における出来高払制その他の請負制は、一般にこのようなものであるが、2に述べた理由により、この場合には第1項の規定による期間的単位で最低賃金を定めることができるのであるからこれによる。しかしながら、出来高払制その他の請負制の賃金形態をとっているもののうち、林業、漁業等におけるように、作業の態様から労働時間の把握その他作業の管理監督が困難であり、そのために、通常出来高払制その他の請負制をとっている場合がある。このような場合には、最低賃金額も期間的単位以外の単位によって定めざるをえないと考えられる。第2項はこのことを規定したものである。 |
4 | このように、労働時間が把握しがたい場合、その他第1項の規定によって最低賃金額を定めることが不適当である場合の取扱いについては、厚生労働省令である最低賃金法施行規則(以下「則」という。)の規定にゆだねられている。すなわち、この場合は、当該労働者の出来高または業績の一定の単位によって最低賃金額を定めることとなる(則第1条)。なお、現在決定されている最低賃金額では、労働者の出来高または業績の一定の単位によって定められたものはない。 |