戻る

第8回
資料10

履行確保について


1 最低賃金の効力と罰則
最低賃金法第5条(最低賃金の効力)
 1 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
 2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
 3 次に掲げる賃金は、前2項に規定する賃金に算入しない。
 1月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
 4 第1項及び第2項の規定は、労働者がその都合により所定労働時間若しくは所定労働日の労働をしなかった場合又は使用者が正当な理由により労働者に所定労働時間若しくは所定労働日の労働をさせなかった場合において、労働しなかった時間又は日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げるものではない。
〔趣旨〕
 第1項は、使用者は、その使用する労働者であって最低賃金の適用を受けるものに対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないという最低賃金の効力を規定し、違反した使用者は、第44条の規定により1万円(罰金等臨時措置法(昭和23年法律第251号)第2条第1項により、実際には2万円)以下の罰金に処することとして、最低賃金の有効な実施を確保している。
 また、第2項は、最低賃金額を下回る契約を結んでいる労働者にも最低賃金額の賃金を請求しうる民事上の権利を付与するため、最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間で締結された労働契約であって、最低賃金額に達しない賃金を定めるものについては、その部分のみを無効とし、無効となった部分については、最低賃金に補充的効力を認めることとしている。この規定は、労働基準法第13条および労働組合法第16条と同趣旨のものである。

〔解説〕
 第1項は、最低賃金が決定された場合には、使用者は、その適用を受ける労働者に対して、その最低賃金に定める金額以上の賃金を支払わなければならないことを規定したものである。これは旧労働基準法第31条で「最低賃金の金額に達しない賃金で労働者を使用してはならない。」と規定しているのと法意はまったく同じであるが、本条第1項は、違反した使用者を1万円以下の罰金に処することを定める第44条の構成要件ともなる規定であるから、賃金支払日において最低賃金額に達しない賃金を支払った場合または賃金を全然支払わなかった場合に本法第44条の構成要件を充足することを明らかにするため、本条第1項では、「最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」としたものである。
 最低賃金は、強行性を有するから、これに反する労働契約は当然無効であるが、第5条第2項の規定を設けたのは、1つは、最低賃金に違反する労働契約は、その全体が無効となるのではなく、違反する部分のみが無効となることを明らかにするためであり、2つには、単に無効とするのみでは、労働者にとって、その賃金は不当利得の返還請求の対象となるにすぎず、これのみでは労働者の保護に欠けるので、その部分については、最低賃金と同一の定をしたものとみなすことによって、最低賃金に補充的効力をもたせ、労働者に民事上の賃金請求権を付与するためである。

最低賃金法第44条
 第5条第1項の規定に違反した者は、1万円以下の罰金に処する。
〔趣旨〕
 最低賃金の不払いに対する罰則を規定したものである。

〔解説〕
 使用者が第5条第1項の規定に違反して、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わない場合は、1万円(罰金等臨時措置法昭和23年12月18日法律第251号)第2条により、実際には2万円)以下の罰金に処せられる。
 本法の罰則において体刑をもって臨んでいないのは、罪数論との関係において後に述べるように、体刑よりも罰金の方が、はるかに使用者に対する責任追及が弾力的であり、必要に応じた措置が可能であるからである。
 最低賃金額未満の賃金が約定されていた場合の賃金支払に係る法違反については、約定賃金額の全額が支払われている場合には、最低賃金法第5条第1項違反として処理し、約定賃金額の全額又は一部が支払われなかった場合には、最低賃金法第5条第1項違反及び労働基準法第24条違反の観念的競合として処理し、最低賃金額以上の賃金が約定されていた場合の賃金支払に係る法違反については、全額の不払か一部不払かを問わずすべて労働基準法第24条違反として処理することとされている。(昭和57.2.12基発第102号)
 最低賃金法第5条第1項違反の罪数については、賃金不払いにおける罪数の場合と同様であると解する。労働基準法第24条違反の罪数については、下級審の裁判例は、各支払期ごと及び各労働者ごとに一罪が成立し、それらは併合罪の関係に立つとするもの、同一支払期について各労働者ごとに一罪が成立し、それらは想像的競合の関係に立つとするもの、各支払期ごとに包括的一罪が成立するとするものに分かれていたが、最高裁は、「その犯意が単一であると認め難いときは、支払を受け得なかった労働者各人毎に同条違反の犯意が形成されているものと認められる。」と判示している(第一小法廷決定日本衡器工業事件昭34・3・26)。
 最低賃金法第5条第1項違反についても、賃金不払いと同じく、右の判例の態度が妥当するものと考える。
 なお、労働基準法においては、最低賃金不払いについて6カ月以下の懲役をも科し得ることになっていたが、数人の労働者に対する最低資金の不払いも、併合罪として6カ月の1.5倍である9カ月以下の懲役にしかならないのに対し、本法の場合は、1万円(実際には2万円)に労働者の数を乗じた額の罰金まで科し得るので、罪数論を考慮に入れれば、体刑を落としたのは必ずしも軽い罰としたものとはいいがたいと考えられる。

※労働基準法第24条(賃金の支払)
 1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
 2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

労働基準法第120条
次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
 第14条、第15条第1項若しくは第3項、第18条第7項、第22条第1項から第3項まで、第23条から第27条まで、(中略)の規定に違反した者
〜五 (略)



2 罰則の経緯

労働基準法24条違反の罰則
(賃金の支払)
労働基準法37条違反の罰則
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
労働基準法31条違反の罰則
(最低賃金)
22.4
5千円以下の罰金(120条)
22.4
6箇月以下の懲役又は5千円以下の罰金(119条)
22.4
6箇月以下の懲役又は5千円以下の罰金(119条)
最低賃金法5条違反の罰則
34.4
1万円以下の罰金(44条)
51.5
10万円以下の罰金(119条の2)
51.5
6箇月以下の懲役又は10万円以下の罰金(118条の2)
 
(賃確法制定に伴う改正) (賃確法制定に伴う改正)
60.6
10万円以下の罰金(120条)
60.6
6箇月以下の懲役又は10万円以下の罰金(119条)
(雇用均等整備法による改正) (雇用均等整備法による改正)
   
3.4
2万円以下の罰金
(罰金等臨時措置法の改正による)
5.7
30万円以下の罰金(120条)
5.7
6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金(119条)
 
(労働基準法の一部改正) (労働基準法の一部改正)
労働基準法31条違反については、同法制定当初、付加金の支払に関する規定(同法114条)があった。
(労働基準法37条違反については、付加金の支払に関する規定(同法114条)がある。)
賃確法…賃金の支払の確保等に関する法律、
雇用均等整備法…雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律



3 平成16年 最低賃金の履行確保を主眼とする監督指導結果について

区分



事項
監督実施事業場数 法第5条違反事業場数
( )内は監督実施事業場数に対する違反率
最低賃金額未満の労働者数が監督実施事業場の全労働者数にしめる比率(%)
地域別最低賃金のみの適用事業場で地域別最低賃金違反があったもの 産業別最低賃金適用事業場で産業別最低賃金違反があったもの(地域別最低賃金違反が併せてあったものを含む) 産業別最低賃金適用事業場で地域別最低賃金のみに違反があったもの(注)
合計 12,337 678 532 126 20 1.3
  ( 5.5 ) ( 4.3 ) ( 1.0 ) ( 0.2 )  
地域別最賃のみ適用事業場 10,147 532 532 - - 1.2
  ( 5.2 ) ( 5.2 )      
新産業別最賃適用事業場 2,190 146 - 126 20 1.5
  ( 6.7 )   ( 5.8 ) ( 0.9 )  
  食料品・飲料製造業関係 16 0 - 0 0 0.0
  ( 0.0 )   ( 0.0 ) ( 0.0 )  
繊維工業関係 46 4 - 4 0 0.5
  ( 8.7 )   ( 8.7 ) ( 0.0 )  
木材・木製品・家具・装備品製造業関係 1 0 - 0 0 0.0
  ( 0.0 )   ( 0.0 ) ( 0.0 )  
パルプ・紙・紙加工製造業関係 1 0 - 0 0 0.0
  ( 0.0 )   ( 0.0 ) ( 0.0 )  
出版・印刷・同関連産業関係 35 2 - 2 0 0.6
  ( 5.7 )   ( 5.7 ) ( 0.0 )  
窯業・土石製品製造業関係 10 2 - 2 0 2.6
  ( 20.0 )   ( 20.0 ) ( 0.0 )  
鉄鋼業関係 12 0 - 0 0 0.0
  ( 0.0 )   ( 0.0 ) ( 0.0 )  
非鉄金属製造業関係 8 0 - 0 0 0.0
  ( 0.0 )   ( 0.0 ) ( 0.0 )  
金属製品製造業関係 53 3 - 3 0 1.1
  ( 5.7 )   ( 5.7 ) ( 0.0 )  
一般機械器具製造業関係 321 12 - 12 0 0.8
  ( 3.7 )   ( 3.7 ) ( 0.0 )  
電気機械器具製造業関係 1,179 85 - 69 16 1.7
  ( 7.2 )   ( 5.9 ) ( 1.4 )  
輸送用機械器具製造業関係 265 19 - 18 1 1.6
  ( 7.2 )   ( 6.8 ) ( 0.4 )  
精密機械器具製造業関係 54 4 - 2 2 2.5
  ( 7.4 )   ( 3.7 ) ( 3.7 )  
各種商品小売業関係 67 5 - 5 0 0.8
  ( 7.5 )   ( 7.5 ) ( 0.0 )  
自動車小売業関係 89 4 - 4 0 0.5
  ( 4.5 )   ( 4.5 ) ( 0.0 )  
その他 33 6 - 5 1 2.9
  ( 18.2 )   ( 15.2 ) ( 3.0 )  
(注)年齢、業務等の適用除外者について、地域別最低賃金違反があったもの



4 最低賃金の履行確保を主眼とする監督指導結果の推移(平成7〜16年、全国計)

事項別


法違反の状況 最賃未満労働者の状況
監督実施
事業場数
法第5条違反
事業場数
違反率
(%)
監督実施
事業場の
労働者数
最低賃金未満
労働者数
最低賃金
未満労働者数の
比率(%)
7 18,068 1,843 10.2 299,275 6,126 2.0
8 16,940 1,682 9.9 265,217 5,531 2.1
9 15,499 1,578 10.2 269,758 5,750 2.1
10 17,068 1,771 10.4 306,847 6,504 2.1
11 15,869 1,580 10.0 257,801 5,743 2.2
12 15,295 1,447 9.5 229,893 5,248 2.3
13 14,688 1,363 9.3 230,519 5,213 2.3
14 14,016 1,283 9.2 204,208 4,363 2.1
15 13,080 860 6.6 197,402 2,723 1.4
16 12,337 678 5.5 178,757 2,321 1.3
(注) 各年とも1〜12月の間の結果である。


トップへ
戻る