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第7回
資料6

最低賃金法第11条(労働協約拡張方式)の解釈
と労働組合法第18条との関係


第11条(労働協約に基づく地域的最低賃金)
 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域内の事業場で使用される同種の労働者及びこれを使用する使用者の大部分が賃金の最低額に関する定めを含む一の労働協約の適用を受ける場合又は賃金の最低額について実質的に内容を同じくする定めを含む二以上の労働協約のいずれかの適用を受ける場合において、当該労働協約の当事者である労働組合又は使用者(使用者の団体を含む。)の全部の合意による申請があつたときは、これらの賃金の最低額に関する定めに基づき、その一定の地域内の事業場で使用される同種の労働者及びこれを使用する使用者の全部に適用する最低賃金の決定をすることができる。

〔趣旨〕
(前略)
 本条は、一定の地域の同種の労使の大部分に賃金の最低額に関する労働協約が適用されている場合について、その労働協約の締結当事者である労働組合又は使用者の申請により、アウトサイダーをも含めた同種の労働者及びその使用者の全部に適用する最低賃金を決定し得ることとし、これによって公正な競争を確保するとともに、アウトサイダーの労働者の労働条件の改善を図ろうとするものである。
(中略)
 本条に類似するものに労働協約の地域的一般的拘束力を規定する労働組合法第18条の規定があるが、本条は、労働協約そのものに一般的拘束力を与えるものではなく、労働協約における賃金の最低額に関する定めに基づいて、当該労働協約とは別個に、最低賃金を決定するのであって、この点が労働組合法第18条とは基本的に異なるのであるが、労働組合法第18条に第4項を加え、この両制度の間の連絡を図ることとしている。
(以下略)

〔解説〕
 「一定の地域内の事業場で使用される……」の「一定の地域」とは、結局、社会的経済的に地域的まとまりを持っていることを要するのであって、都道府県単位とかいうような行政区画に限定されるものではない(昭34.9.16発基第114号)。また、この地域は、法的には、第一義的には申請者の申請において定められることとなる。したがって、決定権者は、それによって本条の要件の充足及び決定をすることの当否を判断することとなるが、申請に係る地域の範囲が妥当性を欠く場合には、事実上当事者に対し申請の変更を勧告し得ることはともかく、法的には、職権をもって申請とは異なる地域を確定してこれによって本条の決定を行うのではなく、その場合には、決定をしないということになる。
 また、「事業場で使用される……」とは、その労働者に対する労務管理がその事業場を本拠として行われていることの意であり、具体的な個々の指示、作業が事業場外で行われていても事業場で使用される者であることに変わりはない。したがって、タクシーの運転手、電車の運転手、車掌等は、それぞれ営業所、運転区、車掌区等を事業場として、そこで使用されるものとしてとらえるのである。これは、労働組合法第18条の「一の地域において従業する……」と解釈的には同一となるが、より明確に規定したものである。
 「同種の労働者及びこれを使用する使用者の大部分」の「同種の労働者」とは、当該最低賃金の適用を受ける労働者と同じ種類の労働者ということであり、何が同種であるかは、たとえば、その最低賃金の適用を受けている労働者が旋盤工であれば、ここにいう同種とは旋盤工という職種において同種であるということであり、金属製品製造業における旋盤工であれば、その同一業種の同一職種に従事するという二つのことが同種であるための要件である。その他、個々具体的な場合について判断すべきものである。
 「大部分」とは大多数の意であり、一般には「三分の二程度」と考えられるが、単に形式的に理解すべきものではなく、具体的には、それぞれの業種、職種、地域の実態に応じ、最低賃金審議会の意見を尊重して判断すべきである(昭46.12.23発基第134号)。しかしながら、60パーセント未満の場合には、「大部分」という本条の要件を充足しないものとされている。
 労働協約の賃金の最低額に関する定めが労使双方の大部分に適用されることを要件としたのは、本条の趣旨は、労使の自主的な労働協約に基づく最低賃金を遵守していく場合に、そのような労働協約を締結していない労使がその賃金の最低額に関する定めの拘束を受けないために、不公正な競争が行われ、そのために適用を受けている労使自体の遵守が困難である場合に、これらのアウトサイダーにも当該最低賃金を適用することによって公正な競争を確保するとともに、従来最低賃金による保護を受けていない労働者の労働条件の改善を図ろうとするものであるから、この二面の目的から、労使双方の大部分が適用を受けていることが必要なのである。また、本条は、概して同業種の規模的にも似通った業者に対して競争条件を平等化すべく決定するのであるが、労使の過半数に適用されていればよいとするときは、規模が似通った同士に適用するということにならず、相当の規模格差のあるものに拡張適用される余地が生じ、その場合、アウトサイダーである零細企業に不可能を強いるような決定が行われ得ることとなり適当でないからである。
(中略)
 「賃金の最低額について実質的に内容を同じくする定め」とは、たとえば、一の地域の同種の労使が賃金の最低額についての定めのある労働協約を事業所ごとに締結しており、したがって各々の労働協約ごとに別個に賃金の最低額についての定めが適用されているが、その賃金の最低額の内容が同一であるというような事情があるときに、このような場合にも、アウトサイダーの労使についても第11条の申請をなし得ることを明らかにしたものである。
(中略)
 本条による申請は、一の労働協約である場合は、その当事者である労働組合又は使用者(使用者の団体を含む。)のいずれか一方又は双方の申請をもって足りるわけであるが、二以上の労働協約である場合は、その当事者のうち労使いずれか一方又は双方の側の全部の合意によるものであることが必要である。このことは、元来、労(使)の大部分が一の労働協約の適用を受けている場合にその定めに基づいて最低賃金を決定するのが、諸外国における労働協約の拡張適用方式の例であるのであるが、わが国の労働組合が企業別組織であることと関連して、わが国の労働協約も企業別に締結され、産業別に統一的に団体交渉をした結果締結される労働協約も、その内容が同一であっても形式的には各企業別に複数の労働協約となるという実態にかんがみ、これらを一の労働協約と同一に取り扱って本条の要件を充足するものとしようとするのが本条の規定の趣旨であるので、この場合の申請は、その当事者のうち労使いずれか一方又は双方の側の全部の合意によることを必要としたものである。
 ここで、「全部の合意」とは、たとえば、労働協約が一定の地域内の同種の労使の80パーセントに適用されている場合であっても、必ずしもその80パーセントの全部の合意が必要なのではなく、少なくとも同種の労使のいずれか一方の3分の2程度以上80パーセントまでの間の労働協約当事者の合意があれば足りるものとされている。
(以下略)


労働組合法第18条との関係について


  労働協約拡張方式(最低賃金法第11条) 労働組合法第18条
目的 その地域における賃金の最低額を保障することにより公正な競争を確保するとともに労働条件の改善を図ること。 労働協約の実効の確保を通じて労働組合の団結の擁護に資すること。
対象 労働協約における賃金の最低額に関する条項のみ。 労働協約の諸条項を総合的に対象。
法律構成 労働協約の賃金の最低額に関する定めに基づいて、当事者およびアウトサイダーの双方を含めた当該地域の労使の全部に適用する最低賃金を決定する。 アウトサイダーの労使にその労働協約の適用を拡張する。
効力 当該規定に基づく最低賃金の決定は、その決定の基礎となった労働協約とは別個の独立したものであることから、当該労働協約の解消、消滅とは関係なく効力を存続する。(安定性) 当該規定に基づく決定は、拡張適用した労働協約の解約、消滅とともに失効する。(不安定性)
アウトサイダーへの適用 最低賃金(最低賃金法第5条1項違反) 労働協約
発動要件 (1)労使双方の大部分(概ね2/3以上)に適用されていること。
(2)2以上の労働協約であっても賃金の最低額について実質的に内容を同じくしていることをもって足りる。
(1)労働者の大部分(3/4以上)に適用されていること。
(2)1の労働協約
決定機関等 厚生労働大臣又は都道府県労働局長が最低賃金審議会の意見を聴いて決定。 厚生労働大臣又は都道府県知事が労働委員会の決議により決定。


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