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第7回
資料4

産業別最低賃金の経緯


 旧産業別最低賃金と新産業別最低賃金の対比

  旧産業別最低賃金 新産業別最低賃金
基本的な性格 行政のイニシアティブにより設定 労使のイニシアティブにより設定
(団体交渉の補完的役割)
産業の範囲 大くくり
(産業大分類、複数の中分類)
小くくり
(小分類又は必要に応じ細分類)
転換の場合の経過措置
 適用除外の実施状況、労使団体の組織状況、基幹的な業務の共通性等を勘案して決定
対象労働者 全労働者に適用 基幹的労働者に適用
転換の場合の経過措置
 
 年齢、業務等を適用除外とする措置が適切に行われているものは、基幹的労働者を対象とした産業別最低賃金として取り扱う。
 1,000人程度に適用が見込まれるもの
諮問 大臣、都道府県労働基準局長の判断により諮問 最低賃金法第16条の4の規定により労使から申出のあったものについて、最低賃金審議会で設定の必要性の有無を審議し、設定の必要性ありとされたものについて、大臣、都道府県労働局長が諮問
申出等の要件(決定)  
(1) 同種の基幹的労働者の相当数(適用率2分の1以上)について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合
(2) 事業の公正競争を確保する観点からの必要性を理由とする場合
転換の場合の経過措置
 
a 労働協約の適用率の要件を3分の1以上とする
b 労使のいずれか一方の3分の1以上の合意に基づく申出があったものは、公正競争上必要性がある場合に該当する
(改正又は廃止)  
(1) 同種の基幹的労働者の相当数(適用率概ね3分の1以上)について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合
(2) 事業の公正競争を確保する観点からの必要性を理由とする申出(労又は使の概ね3分の1以上の合意がある場合を含む)
最低賃金の決定等の手続 大臣又は局長が必要と認めたとき決定等の諮問手続 関係労使の申出に基づき、大臣又は局長が最低賃金審議会に必要性の諮問を行い必要性ありとの答申を経た後、決定等の諮問手続



 旧産業別最低賃金の転換の過程

昭和61年2月中央最低賃金審議会答申「現行産業別最低賃金の廃止及び新産業別最低賃金への転換等について」
昭和60年度
年齢(18歳未満及び65歳以上の者)に関する適用除外
地域別最低
賃金へ
18歳未満又は65歳以上の者
旧産業別
最低賃金
同上
昭和61年度
業務(清掃、片付け、技能習得中の者)に関する適用除外
地域別最低
賃金へ
清掃、片付け、技能習得中
昭和62年度
業種(低賃金業種)に関する適用除外
  ※当該業種の労働者の賃金水準が当該都道府県の労働者の平均的な賃金水準(指数100)に比べ低位(指数95未満)にある業種
地域別最低
賃金へ
指数95未満
昭和63年度
業種(低賃金業種)に関する適用除外
  ※当該業種の労働者の賃金水準が当該都道府県の労働者の平均的な賃金水準(指数100)に比べ低位(指数100未満)にある業種
地域別最低
賃金へ
指数100未満
転換に必要な準備・調整転換等に関する検討
平成元年度
 ○関係労使から新産業別最低賃金への転換又は新設の申出
 ○必要性の有無の審議
 ○必要性有とされたものを新産業別最低賃金として設定する。
新産業別
最低賃金
転換 凍結



 産業別最低賃金の経緯

昭和46年5月
最低賃金の年次推進計画」の策定
 地域別の最低賃金が設定され、当該地域のすべての労働者に最低賃金の適用が及んだ場合は、当該地域における産業別又は職業別の最低賃金については、職種、年齢の区分を設けるなどの工夫を加え、基幹的労働者、一人前の労働者などについても、より実効性のある最低賃金が設定されるよう努めるものとする。

昭和52年12月15日
央最低賃金審議会「今後の最低賃金制のあり方について」答申
 最低賃金額の決定の前提となる基本的事項である、(1)地域別最低賃金と産業別最低賃金のそれぞれの性格と機能分担、(2)高齢者の扱いその他適用労働者の範囲、(3)最低賃金額の表示単位期間のとり方などについて、中央最低賃金審議会がその考え方を整理し、これを地方最低賃金審議会に提示する。

昭和56年7月29日
中央最低賃金審議会「最低賃金額の決定の前提となる基本的事項に関する考え方について」答申
(1)基本的考え方
(1) 「大くくり産業別最低賃金」が果たしてきた、「最低賃金の効率的適用拡大」を図るという「経過措置的役割・機能」は見直す必要がある。
(2) 今後、産業別最低賃金は、最低賃金法第11条の規定に基づくもののほか、関係労使が労働条件の向上又は事業の公正競争の確保の観点から地域別最低賃金より高い最低賃金を必要と認めるものに限定して設定すべき。
(2)具体的手法
以下の条件に適合するもの。
 「くくり方」は、「小くくり」。
 対象は、「基幹的労働者」。
 契機は、「関係労使の申出」。
 設定産業は、次のいずれか。
a.同種の基幹的労働者の相当数に、最低賃金協約が適用されている産業(労働協約ケース)
b.事業の公正競争の確保の観点から、同種の基幹的労働者に最低賃金を設定する必要が認められる産業(公正競争ケース)
(3)「大くくり産業別最低賃金」の改善
(1) 大くくり産業別最低賃金は、
 低賃金業種・業務は適用除外
 18歳未満65歳以上は最低賃金額との関連において、必要に応じ適用除外する等の改善をすることができる。
(2) 大くくり産業別最低賃金の廃止の時期と方法は、新産業別最低賃金の設定状況・(1)の改善実績を勘案し、昭和60年度に決定する。

昭和57年1月14日
中央最低賃金審議会「新しい産業別最低賃金の運用指針について」
(1) くくり方
 原則として、日本標準産業分類の小分類、必要に応じ細分類。2以上の産業を併せて設定することも可。
(2) 基幹的労働者
(1) 当該産業に特有の又は主要な業務に従事する者。当該産業の生産工程・労働態様に即して決める。
(2) 基幹的労働者の規定方法には、2方法ある。
 ポジティブリスト方式(該当する職種・業務を規定する)
 ネガティブリスト方式(該当しない職種・業務を規定する)
(3) 申出要件
(1) 申出のケースは、労働協約・公正競争ケースの2タイプ。
 労働協約ケース:同種の基幹的労働者の概ね1/2以上に協約が適用されており、協約締結当事者である労又は使の全部の合意による申出。
 公正競争ケース:公正競争確保を理由とする申出であって、当該産業別最低賃金が適用される労又は使の全部又は一部を代表する者による申出。
(2) 申出書には、必要事項(代表する範囲、適用範囲、件名、申出内容、公正競争確保上最低賃金が必要な理由など申出理由)を記載。
(4) 必要性の決定等
(1) 必要性の有無の決定は以下による。
 形式的要件〔(イ)適用範囲が明確、(ロ)協約が1/2以上に適用(労働協約ケース)、(ハ)労又は使の全部の合意による申出(労働協約ケース)等々〕を満たした申出は、決定等の必要性を原則諮問
 公正競争ケースは、関連する諸条件を勘案の上、企業間、地域間、組織・未組織間に産業別最低賃金の設定を必要とする程度の賃金格差が存在する場合に設定
(2) 必要性ありの場合に金額諮問。専門部会労使委員各3名のうち2名は、当該産業に直接関係する労使を代表する者。
(5) 了解事項
(1) 必要性の有無は、新産業別最低賃金の設定の趣旨にかんがみ、全会一致の議決に至るよう努力。
(2) 本運用方針は、新産業別最低賃金の設定状況等をみて昭和60年度に再検討。

昭和61年2月14日
中央最低賃金審議会「現行産業別最低賃金の廃止及び新産業別最低賃金への転換等について」答申
(1) 基本的考え方
(1) 新産業別最低賃金の考え方については、昭和56年答申を踏襲する。
(2) 旧産業別最低賃金は速やかに整理する。しかし、賃金秩序に対する急激な変化を回避し、業種によっては新産業別最低賃金への転換の準備期間を考慮する必要がある。このため、整理にあたっては、次の方針の下に行う。
(2) 整理にあたっての方針と具体的手法
(1) 旧産業別最低賃金は、年齢(18歳未満、65歳以上)・業務(a清掃・片付け、b雇入れ後一定期間以内の者で技能修得中のもの、c産業特有の経緯業務)・業種(当該業種の第1・10分位数が調査産業計のそれより低く、他の特性値も同様の傾向にあるなど平均的な賃金分布より低位な業種)の適用除外を計画的・段階的(年齢=60年度、業務=61年度、業種=62・63年度)に行う
(2) (1)の計画的・段階的な適用除外(適用除外の方針決定でも可。業種は検討中でも可)が行われないものは、改正諮問を行わない。
(3) 新産業別最低賃金へ転換することが適当なものは、転換のために必要な準備・調整作業等(他の業種が適用除外され例外的に残る業種の適用除外の適否や、適用除外対象業種であるが主要産業であるものの取扱いなどを含む「くくり方」等の工夫)を行っておく
(4) 計画的・段階的適用除外や転換のための準備・調整を円滑に行うため、地方最低賃金審議会に意見調整の場(小委員会等)を設ける。
(5) 計画的・段階的適用除外、準備・調整を終えた旧産業別最低賃金のうち、申出があり新運用方針に適合する場合には新産業別最低賃金としての合理的理由があるものとして、関係者は昭和64年度中に転換できるよう努力する。
(6) 転換できなかった旧産業別最低賃金は、昭和64年度以降凍結する。
(3) 運用方針の一部改正  新産業別最低賃金の運用方針は、転換の場合の経過措置を設けるなどの一部改正を行う。
(1) 新産業別最低賃金の決定に関する申出等の要件についての経過措置
 労働協約の適用率の要件を3分の1以上とする。
 労使のいずれか一方の3分の1以上の合意に基づく申出があったものは、公正競争上必要性がある場合に該当するものとして取り扱う。
(2) 「小くくり産業」の範囲に関する経過措置
 適用除外の実施状況、労使団体の組織状況、基幹的な業務の共通性等を勘案して決定。
(3) 「基幹的労働者」の意義に関する経過措置
 年齢、業務等を適用除外とする措置が適切に行われているものは、基幹的労働者を対象とした産業別最低賃金として取り扱う。
 1,000人程度に適用が見込まれるもの。

平成4年3月30日
中央最低賃金審議会「公正競争ケース」検討小委員会報告検討の過程において
 (1) 61年答申は慎重な審議を経て出されたものであり、現在は、61年答申を尊重し、その適切な運用により新産業別最低賃金の定着に向け関係者は努力が必要であること
 (2) 新産業別最低賃金は61年答申の趣旨に鑑みれば、「同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用される場合」(以下「労働協約ケース」という。)を中心に想定していたものと理解することが適当であることに加え、特に、61年答申前文にあるとおり「関係労使が労働条件の向上又は事業の公正競争の確保の観点から地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めるものに限定して設定すべき」とされていること
の2点を基本的前提とし、諸点を整備。

 「公正競争」の概念と「公正競争ケース」に対する考え方
 種々の法律においていわゆる公正競争の規定がみられるが、公正競争の概念は幅の広いものであり、それぞれの法律の目的等によりその意味するところは当然に異なり、事業法等他の法律における公正競争概念と最低賃金法上のものは必ずしも同一概念ではない。
 公正競争の確保は「労働条件の改善を図る」という第一義的な目的とは異なり、最低賃金の設定により達成される副次的な目的。
 法における公正競争の確保とは賃金の不当な切下げの防止によって達成されるものであり、地域別最低賃金が全都道府県において設定されている現在、賃金の不当な切下げの防止は一定の水準ですでに措置されており、“一定の公正競争”は確保
 新産業別最低賃金は、目的を限定し、かつ、関係労使の合意を前提に、主として「労働協約ケース」は61年答申前文の「労働条件の向上」を、また「公正競争ケース」は「事業の公正競争の確保」を受けて設定されていると理解することが適当。とりわけ、「公正競争ケース」で申出される新産業別最低賃金は“より高いレベルでの公正競争”の確保を主たる目的とすると理解することが適当

 公正競争ケースの取扱い
(1) 申出の要件
 「公正競争ケース」は、申出の内容は個別の事案により種々異なることが想定され、また賃金格差の程度についてもその生ずる要因は多様であり、申出の要件として定量的要件を一律に付すことは適当でない
 申出者は申出に当たって、賃金格差の存在等個別具体的な疎明が不可欠。申出の受理に当たっては特に申出の背景も含め疎明の内容について十分審査すること。
 また、申出者は関係労使の合意が得られるよう労働協約の締結・機関決定等に努めることが重要である。
 なお、当該最低賃金の適用を受けるべき労働者又は使用者の概ね1/3以上のものの合意による申出があったものについては受理・審議会への諮問が円滑に行われることが望ましい。
(2) 原則諮問
 少なくとも必要性の諮問は「原則的」に行うことが適当である。
 しかし、法及び61年答申の趣旨から、競争関係が認められない事業等明らかに新産業別最低賃金の設定に無理があると判断でき得るものは原則諮問の対象外とすることが妥当。
(3) 決定の必要性に関する要件(「賃金格差が存在する場合」の考え方)
 一般の産業では企業間等に賃金格差は通常存在しており、またその生ずる要因は多様である。どの程度の賃金格差があれば、賃金の不当な切下げの防止のため新たに産別最賃の設定が必要であるかを明らかにすることは事実上不可能であり、賃金格差の程度について一定基準を定めることは適当でない
 最低賃金の決定の審議に当たっては61年答申の趣旨を踏まえ当該事案について「産業別最低賃金の設定を必要とする程度の賃金格差が存在する場合」に該当するかどうか、すなわち競争関係の存在を前提にして“より高いレベルでの公正競争”確保の必要性について、疎明の内容、関係労使間の合意形成の状況等を踏まえ審議会において適切な判断がなされることを期待。
(4) 特記事項
(1) 使側は、経済構造の急速な変化等もあり、産業別最低賃金と地域別最低賃金の役割分担について、なお、議論が必要との見解を表明。
(2) 基幹的労働者の範囲は、業種・規模・地域で多種多様であり、審議会における適切な審議を期待する。
(3) 労側は、申出手続を簡略化(合意署名は3年に1度等)すべきとの見解を表明。

平成10年12月10日
中央最低賃金審議会 産業別最低賃金に関する全員協議会報告
(1) 基本的な考え方
(1) 産業別最低賃金のあり方については今後時機を見てさらなる議論を深め、審議していくことが適当
(2) 産業別最低賃金の運用面について一定の改善が図られることが適当
(2) 個々の産業別最低賃金についての審議促進等
(1) 「産業別最低賃金(公正競争ケース)の審議に当たっての視点」「産業別最低賃金(公正競争ケース)の審議に当たっての審議参考資料」を参考として個々の産業別最低賃金について十分な審議を行うこと。
(2) 必要に応じ、適用除外業務及び業種のくくり方について見直しを行うこと。
(3) 公正競争ケースから労働協約ケースによる申出に向けての関係労使の努力を期待。
(3) 産業別最低賃金の審議手続上の取扱いの改善
(1) 中小企業関係労使の意見の反映
 中小企業関係労使からの選任や当該産業の中小企業関係労使からの意見聴取に配慮すること。
 合意の当事者に中小企業関係労使がより含まれるように努めることが望ましいこと。
(2) 賃金格差疎明資料添付の徹底及び審議会の効率的運営
 申出者は公正競争ケースによる産業別最低賃金の決定等の申出の際の個別具体的な疎明に当たっては、賃金格差の存在の疎明のための資料の添付を徹底すること。
 改正の必要性の審議に当たって、制度の趣旨を逸脱することがないと認められる場合には、一括して審議を行うこととする等、審議会の効率的運営に配慮すること。

平成14年12月6日
中央最低賃金審議会 産業別最低賃金制度全員協議会報告
(1) 基本的な考え方
(1) 産業別最低賃金設定の趣旨である関係労使のイニシアティブ発揮を中心とした改善の在り方について検討。
(2) 法改正を伴う事項も含めた産業別最低賃金の在り方については、時機を見て新たに検討の場を設け、中長期的な視点から更なる議論を深めることが適当
(2) 関係労使のイニシアティブ発揮による改善
(1) 申出の意向表明後速やかに、関係労使当事者間の意思疎通を図ること。
(2) 「必要性審議」について、従来どおりの方法で行うか、当該産業の労使が入った場で行うかを、地域、産業の実情を踏まえつつ検討すること。
(3) 「金額審議」については、全会一致の議決に至るよう努力することが望ましいこと。
(4) 行政の役割とあいまって、当該産業別最低賃金が適用される関係労使がその自主的な努力により、産業別最低賃金の周知及び履行確保に努めることが望ましいこと。
(3) その他の改善
(1) 公正競争ケースから労働協約ケースによる申出に向けて一層努めること。賃金格差の存在を疎明するための資料の一層の充実を図ること。
(2) 産業別最低賃金における「相当数の労働者」の範囲についても、原則として1,000人程度とし、地域、産業の実情を踏まえ、1,000人程度を下回ったものについては、申出を受けて廃止等について調査審議を行うこと。
(3) 申出の意向表明後速やかに、事務局から当該産業別最低賃金の基幹的労働者である適用労働者数等を明示し、関係労使に通知すること。
(4) 産業別最低賃金の表示単位期間の時間額単独方式への移行についても、地域、産業の実情を踏まえつつ検討すること。


《参考:中央最低賃金審議会答申等》
 昭和52年12月15日中央最低賃金審議会答申(今後の最低賃金制のあり方について)

 本審議会は、昭和50年5月30日労働大臣から今後の最低賃金制のあり方について諮問を受け、以来、総会を12回、小委員会を15回開催して慎重に審議を重ねてきたが、別紙のとおりの結論に達したので答申する。

(別紙)
 わが国の最低賃金制は、これまでわが国の社会経済情勢に即しつつ推進が図られてきた。とくに昭和46年度以降は、昭和45年9月8日の本審議会の答申に基づいて「最低賃金の年次推進計画」が策定され、全ての労働者に最低賃金の適用を及ぼすことを目標とし、都道府県ごとに地域内の全労働者に包括的に適用される地域別最低賃金の決定がすすめられた結果、最低賃金の適用は飛躍的に拡大した。昭和50年度には、この地域別最低賃金が全都道府県において決定をみることとなったことにより、同計画の所期の目標は達成され、全国全産業の労働者に対しあまねく最低賃金の適用が及ぶこととなった。また、それとともに、賃金、物価等の動向を考慮し、最低賃金の迅速な改定が行われるようになり、いまや、最低賃金制はわが国経済社会に定着し、労使をはじめ社会一般の最低賃金制に対する関心と理解も従来に比し著しく高まった。
 近年、わが国経済は安定成長へと大きく基調転換を遂げつつあり、最低賃金制をとりまく労働諸事情も変化してきている。過去の高度成長下においては、労働力需給の緊張を反映し、賃金水準も大幅に上昇し、なかでも若年労働者や中小企業労働者等従来賃金の低かった層における賃金上昇には著しいものがあった。しかしながら、今後は、労働力需給が緩和気味に推移することが予想され、立ち遅れた分野の労働条件の維持、向上が需給関係を通じ自律的に行われることを期待することは従来に比し困難となりつつあり、このような情勢のもとで、最低賃金制が低賃金労働者の労働条件の改善に果す役割はさらに重要性を増してくるものと考えられる。
 このような段階において、わが国の今後の最低賃金制のあり方についての検討が本審議会に付託されたところである。

 審議の経過
(1) 本審議会における最低賃金制のあり方についての今回の審議においては、労働大臣から諮問のあった際重要参考資料として提出された労働4団体(日本労働組合総評議会、全日本労働総同盟、中立労働組合連絡会議、全国産業別労働組合連合)の全国一律最低賃金制についての統一要求および4政党(日本社会党、日本共産党、公明党、民社党)共同提案の最低賃金法案に留意しつつ、最低賃金の中央決定方式を中心として審議をすすめた。
(2) 今後の最低賃金制のあり方について、中央決定方式を根幹とする制度を確立すべきであるとする考え方は、次のような基本的な見解と展望とに立つものである。
(@) 本来、最低賃金は、労働条件に関するナショナル・ミニマムの重要な一環をなすものとして、中央で決定すべきものである。
(A) 今後のわが国においては、労働力の需給緩和にともない労働条件の自律的な平準化の動きにはあまり多くを期待しえない事情にあるので、最低賃金の全国的基準の必要性はますます高まる。
(3) このような見解をめぐっては、次のような論議が行われた。
(@) わが国の最低賃金制の実績は、地方最低賃金審議会の調査審議に基づく決定を原則としつつ発展をとげてきたものであるので、一挙に中央決定へ転換をはかっても円滑な運用が可能かどうか疑問である。
(A) ナショナル・ミニマムの設定は、中央決定に限定されるものではなく、全国的な整合性を確保することが重要である。
(B) わが国の現実の状況の下では、すくなくとも賃金実態に即した地域別決定を考慮する必要がある。
(4) 他方、地方最低賃金審議会を中心とするこれまでの制度運用の実績については、次のような論議が行われた。
(@) 都道府県ごとに、最低賃金を独自に決定するものであるため、
(1) 最低賃金の決定における全国的な整合性を常に確保する保障に欠ける。
(2) 各都道府県においては、それぞれ相互間の比較を重視するなどの事情により、改定作業が遅延するおそれがある。
(A) 地域別最低賃金と産業別最低賃金のそれぞれの性格と機能分担、高齢者の扱い、その他適用労働者の範囲などの点について、都道府県ごとにその理解と取扱いが区々になるおそれがあり、このことは地域別最低賃金が全国的に定着した現段階においては、とくに問題である。
(B) これらの現状から、地域別最低賃金の決定方式について何らかの改善の必要がある。
(5) 以上の論議の結果、本審議会は、当面、最低賃金の決定において中央最低賃金審議会の積極的機能を発揮する方向について検討することを適当と認めた。
(6) 本審議会は、前述のような検討の方向に沿って論議をすすめ、次のような案について検討を行った。
(@) 全国的な最低賃金を中央最低賃金審議会で決定し、これをもとに上積みが必要な地域については、中央最低賃金審議会が上積みの基準を提案するか、あるいは各ランクごとの上積みの最低額を決定するものとすること。
(A) 最低賃金の調査、審議は、地方最低賃金審議会を主体とし、その自主性を尊重する方式が最善であり、中央最低賃金審議会の積極的機能の発揮は、地方最低賃金審議会のより一層の機能発揮に資する方向を基本とすること。
 上記の案をめぐる論議においては、(A)の案をとる立場においても、最低賃金の決定にあたって全国的に統一的な処理を行う必要がある事項については、中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会に対して援助、助言を行うことの必要性を否定するものではないとの見解が明らかにされ、また、(@)の案をとる立場からも、地域的特殊性をもって存在する低賃金の改善にあたっては、地域の実態を配慮しうる地方最低賃金審議会の機能を評価する見解が示された。
 また、地域別最低賃金の決定実績については、最近の状況が従来に比し円滑であったことは評価されたが、今後とも同様な状況が期待できるかについては、問題があるという見解も表明された。
 なお、全国最低賃金審議会会長会議で表明された種々の意見も参考とした。
 以上の審議の結果、労働者側委員の一部の反対はあったが、次の結論が得られた。

2 得られた結論
 都道府県ごとの地方最低賃金審議会において、最低賃金を審議決定することを原則とする現行の最低賃金の決定方式は、今日なお地域間、産業間等の賃金格差がかなり大きく存在し、したがって依然として地域特殊性を濃厚に持つ低賃金の改善に有効である。
 しかしながら、現行方式は、最低賃金の決定について全国的な整合性を常に確保する保障に欠けるうらみがあることも否定しえない。したがって、当面の最低賃金制のあり方としては、地方最低賃金審議会が審議決定する方式によることを基本としつつ、その一層適切な機能発揮を図るため、全国的な整合性の確保に資する見地から、中央最低賃金審議会の指導性を強化する次のような措置を講ずる必要がある。
(1) 最低賃金額の決定の前提となる基本的事項((1)地域別最低賃金と産業別最低賃金のそれぞれの性格と機能分担、(2)高齢者の扱いその他適用労働者の範囲、(3)最低賃金額の表示単位期間のとり方など)について、できるだけ全国的に統一的な処理が行われるよう、中央最低賃金審議会がその考え方を整理し、これを地方最低賃金審議会に提示する。
(2) 最低賃金額の改定については、できるだけ全国的に整合性ある決定が行われるよう、中央最低賃金審議会は、次により目安を作成し、これを地方最低賃金審議会に提示するものとする。
(@) 地域別最低賃金について、中央最低賃金審議会は、毎年、47都道府県を数等のランクに分け、最低賃金額の改定についての目安を提示するものとする。
(A) 目安は、一定時期までに示すものとする。
(B) 目安提示については、昭和53年度より行うものとする。


 昭和56年7月29日中央最低賃金審議会答申(最低賃金額の決定の前提となる基本的事項に関する考え方について)

 本審議会は、昭和50年5月30日の労働大臣からの諮問(「今後の最低賃金制のあり方について」)に対する昭和52年12月15日の答申において、最低賃金額の決定の前提となる基本的事項について、できるだけ全国的に統一的な処理が行われるよう、その考え方を整理し、これを地方最低賃金審議会に提示することとしたところである。
 本審議会は、昭和55年5月15日に全員協議会を設け、この問題について鋭意審議を重ねてきたが、今般、別紙のとおりの結論を得たので答申する。
 なお、本答申中、今後の検討課題とされたものについては、引き続き検討を行うこととする。

(別紙)

最低賃金額の決定の前提となる基本的事項に関する考え方について

 産業別最低賃金のあり方
(1) 基本的考え方
(1) 現行の大くくりの産業別最低賃金は、最低賃金の適用の効率的拡大を図るという役割を果してきたが、地域のすべての労働者に適用される最低賃金である地域別最低賃金が定着し、低賃金労働者の労働条件の向上に実効をもつようになってきた現在においては、現行産業別最低賃金のこうした経過措置的な役割・機能の見直しを行うことが必要である。
 今後の産業別最低賃金は、最低賃金法第11条の規定に基づくもののほか、関係労使が労働条件の向上又は事業の公正競争の確保の観点から地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めるものに限定して設定すべきものと考える。この考え方に則り、今後、産業別最低賃金は、最低賃金法第11条の規定に基づくもののほか、次のいずれかの基準を満たす小くくりの産業であって、同法第16条の4の規定に基づき、関係労使の申出があったものに設定するものとする。
(イ) 同種の基幹的労働者の相当数について、最低賃金に関する労働協約が適用されている産業
(ロ) 事業の公正競争を確保する観点から、同種の基幹的労働者について最低賃金を設定する必要の認められる産業
(2) 上記の考え方に基づく産業別最低賃金の設定については、今後、本審議会において、昭和56年度中に成案を得ることを目途に、その具体的な運用方針を検討し、昭和57年度から着手するものとする。
(2) 現行の産業別最低賃金の改善
 今後の産業別最低賃金は、上記(1)の考え方に基づき設定することとするが、現行の産業別最低賃金については、それぞれの都道府県の実情を踏まえ、地方最低賃金審議会は次のような運用を図るものとする。
(1) 地域別最低賃金の対象とすることを適当と認めた業種及び業務については、当該産業別最低賃金は適用除外とすることができる。
(2) 当該産業に従事する労働者のうち、18歳未満及び65歳以上の者については、当該産業別最低賃金の金額との関連において必要と認めるときにこれを適用除外とすることかできる。
(3) 現行の大くくり産業別最低賃金の廃止の時期及び方法の検討
 現行の大くくり産業別最低賃金を廃止する時期及び方法については、上記(1)の考え方に基づく産業別最低賃金の設定状況及び(2)の改善の実積を勘案し、昭和60年度において決定するものとする。
 高齢者の扱いその他適用労働者の範囲
(1) 上記1の(1)の考え方に基づく産業別最低賃金においては、その性格・機能にかんがみ18歳未満及び65歳以上の労働者は適用除外とすることができる。
(2) 地域別最低賃金は、高齢労働者、若年労働者を含むすべての労働者に適用する。
 最低賃金額の表示単位期間のとり方
 表示単位としては、賃金支払形態、所定労働時間などの異なる労働者についての最低賃金適用上の公平の点から、将来の方向としては時間額のみの表示が望ましいが、当面は、現行の日額、時間額併設方式を継続する。


 昭和57年1月14日中央最低賃金審議会答申(新しい産業別最低賃金の運用方針について)

 本審議会は、昭和56年7月29日「最低賃金額の決定の前提となる基本的事項に関する考え方について」の答申を提出したが、その後引き続いて、新しい産業別最低賃金の運用方針について鋭意審議を重ねた結果、別紙のとおりの結論に達したので答申する。

(別紙)

新しい産業別最低賃金の運用方針について

 新しい産業別最低賃金の決定等の要件、手続等について
(1) 新しい産業別最低賃金の決定等に関する申出の要件
 同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合
 一定の地域内の事業場で使用される同種の基幹的労働者の2分の1以上のものが賃金の最低額に関する定を含む一の労働協約の適用を受ける場合又は賃金の最低額について実質的に内容を同じくする定を含む二以上の労働協約のいずれかの適用を受ける場合において、当該労働協約の当事者である労働組合又は使用者(使用者の団体を含む。)の全部の合意により行われる申出であること。
 事業の公正競争を確保する観点から設定される産業別最低賃金の場合
 事業の公正競争を確保する観点から同種の基幹的労働者について最低賃金を設定することが必要であることを理由とする申出であって、最低賃金の決定の申出の場合にあっては当該最低賃金の適用を受けるべき労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者、最低賃金の改正又は廃止の決定の申出の場合にあっては当該最低賃金の適用を受けている労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者により行われるものであること。
(2) 申出書の記載事項 申出は、次の事項を記載した申出書を提出することによって行うものとする。
(1) 申出をする者が代表する基幹的労働者又は使用者の範囲
(2) 最低賃金の決定に関する申出にあっては、当該最低賃金の適用を受けるべき基幹的労働者又は使用者の範囲
(3) 最低賃金の改正又は廃止の決定に関する申出にあっては、当該最低賃金の件名
(4) 上記(2)及び(3)のほか、申出の内容
(5) 申出の理由(事業の公正競争を確保する観点から設定される産業別最低賃金に係る申出の場合にあっては、事業の公正競争を確保する観点から同種の基幹的労働者について最低賃金を設定することが必要である理由)
(3) 申出に係る産業別最低賃金の決定等の必要性の有無の決定
 労働大臣又は都道府県労働基準局長は、最低賃金の決定等に関する申出を受けた場合には、原則として当該決定等の必要性の有無について最低賃金審議会に意見を求めるものとする。
 ただし、最低賃金の決定等のために必要な要件(最低賃金の適用を受けるべき基幹的労働者又は使用者の範囲が明確なこと、労働協約に基づく産業別最低賃金に係る申出については当該労働協約が同種の基幹的労働者の2分の1以上のものに適用されていること及び当該申出が当該労働協約の当事者である労働組合又は使用者の全部の合意によるものであること等の形式的要件)に該当していないものはこの限りでない。
 なお、事業の公正競争を確保する観点からの産業別最低賃金は、同種の基幹的労働者について、関連する諸条件の勘案の上、企業間、地域間又は組織労働者と未組織労働者の間等に産業別最低賃金の設定を必要とする程度の賃金格差が存在する場合に設定するものとする。
(4) 最低賃金の決定等
 最低賃金審議会が当該最低賃金の決定等が必要である旨の意見を提出した場合には、労働大臣又は都道府県労働基準局長は、最低賃金法第16条第1項の規定に基づき最低賃金審議会の調査審議を求めるものとする。
 新しい産業別最低賃金の決定等について調査審議を行う専門部会は、労働者を代表する委員及び使用者を代表する委員の各3名のうち原則として少なくとも各2名は当該最低賃金を決定しようとする産業に直接関係する労働者及び使用者をそれぞれ代表するものをもって充てなければならない。

 「小くくりの産業」の範囲について
 原則として日本標準産業分類の小分類、又は必要に応じ細分類によるものとする。 ただし、同種の基幹的労働者をそれぞれ含む二以上の産業を併せて一の産業別最低賃金を設定することができるものとする。

 「基幹的労働者」の意義について
(1) 基幹的労働者は、一般的には当該産業に特有の又は主要な業務に従事する労働者であるが、具体的には当該産業の生産工程、労働態様などに即して個別に考えられるものである。
 また、最低賃金設定の目的にかんがみ、相当数の労働者に当該最低賃金の適用が見込まれるものでなければならない。
(2) 基幹的労働者の規定の仕方としては、次の方法がある。
(1) 基幹的労働者の職種、業務を規定する方法
(2) 基幹的労働者とみなされない労働者の職種、業務を規定する方法

了解事項

 前述の答申をとりまとめるに当たり、次の事項を了解した。
 最低賃金法第16条の4の規定による関係労使の申出に基づく最低賃金の決定、改正又は廃止の必要性について労働大臣又は都道府県労働基準局長から意見を求められた場合は、新しい産業別最低賃金の設定の趣旨にかんがみ、最低賃金審議会は全会一致の議決に至るよう努力するものとする。
 この運用方針については、新しい産業別最低賃金の設定状況等をみて昭和60年度に再検討を行うものとする。


 昭和61年2月14日中央最低賃金審議会答申(現行産業別最低賃金の廃止及び新産業別最低賃金への転換等について)

 本審議会は、昭和50年5月30日に労働大臣から「今後の最低賃金制のあり方について」の諮問を受けて検討を行ってきた。産業別最低賃金の在り方についても、その重要な一環として検討を進め、昭和52年12月15日の答申においては、地域別最低賃金と産業別最低賃金のそれぞれの性格と機能分担等について、その考え方の整理に取り組むこととしたところである。これを受けて、本審議会は、具体的な検討を進め、昭和56年7月29日及び昭和57年1月14日の答申において、今後の産業別最低賃金は、最低賃金法第11条の規定に基づくもののほか、関係労使が労働条件の向上又は事業の公正競争の確保の観点から地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めるものに限定して設定すべきものであるという基本的な考え方を示し、その新産業別最低賃金の運用方針を明らかにするとともに、現行の大くくり産業別最低賃金を廃止する時期及び方法については、昭和60年度において決定することとした。
 本審議会は、以上の経過を踏まえ、昭和60年1月18日に全員協議会を設け、この問題について鋭意審議を重ねてきた。この結果、別紙のとおりの結論に達したので答申する。
 なお、本答申をもって、産業別最低賃金の在り方に関する本審議会の一連の検討は一応完了するが、我が国の最低賃金制度の発展のために、本答申の着実な実施を強く望むものであり、行政当局をはじめ関係労使の積極的な努力を期待する。

別紙

現行産業別最低賃金の廃止及び新産業別最低賃金への転換等について

   基本的な考え方
 今後の産業別最低賃金については、昭和56年7月29日の本審議会の答申「最低賃金額の決定の前提となる基本的事項に関する考え方について」に示された考え方に則り、最低賃金法(以下「法」という。)第11条の規定に基づくもののほか、法第16条の4の規定の手続による関係労使の申出を経て最低賃金審議会が地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めたものについて、新しい産業別最低賃金として設定することを基本とするものである。このため、現行の産業別最低賃金(以下「現行産業別最低賃金」という。)については、速やかに整理するものとするが、現在の賃金秩序に急激な変化を与えることを避けるとともに、業種によっては上記の新しい産業別最低賃金(以下「新産業別最低賃金」という。)への転換の準備期間を考慮する必要があることから、その整理に当たっては次のような方針によって行うこととする。
(1) 現行産業別最低賃金について、地域別最低賃金の対象とすることが適当と認められる年齢、業務及び業種に関し、当該産業別最低賃金は適用除外とする措置を計画的、段階的に行いつつ、昭和63年度までの間は、金額の改定を行うとともに、新産業別最低賃金へ転換することが適当なものについては、当該転換のために必要な準備又は調整を進めるものとする。
(2) 上記(1)に示した措置か行われ、かつ、地域別最低賃金よりも高い最低賃金を設定することについて合理的な理由かあると認められるものの新産業別最低賃金への転換については、関係者は積極的に努力するものとする。
 なお、昭和57年1月14日の本審議会の答申「新しい産業別最低賃金の運用方針について」(以下「新産業別最低賃金の運用方針」という。)は、経過措置として必要な見直しを行い、これに合致する場合は、ここでいう「合理的な理由」があるものとして取り扱うものとする。
(3) 昭和64年度においては、現行産業別最低賃金から新産業別最低賃金へ転換するものについて所要の手続を終了することとし、同年度以降は現行産業別最低賃金の改正諮問を行わないものとする。
2 現行産業別最低賃金の整理等
 現行産業別最低賃金については、昭和61年度及び昭和62年度において、既に一部実施されている年齢に関する適用除外の措置のほか、業務及び業種に関する適用除外の措置を計画的、段階的に行うとともに、昭和63年度までの間において、見直し後の新産業別最低賃金の運用方針に照らし、必要な設定様式の変更等新産業別最低賃金への転換に向けての必要な準備又は調整を行うものとする。
(1) 現行産業別最低賃金についての適用除外の措置
 年齢に関する適用除外の措置
 18歳未満及び65歳以上の者について、適用除外(適用除外の対象者を地域別最低賃金の適用とすることをいう。以下同じ。)とする措置が実施されていない現行産業別最低賃金に関する昭和61年度以後の改正諮問は、当該適用除外の措置を実施するという地方最低賃金審議会における方針の決定を待って、行うものとする。
 業務に関する適用除外の措置
(イ) 昭和61年度において、地域別最低賃金の対象とすることが適当な業務に主として従事する者について、現行産業別最低賃金は適用除外とする措置を実施する。この場合、地域別最低賃金の対象とすることが適当な業務等に従事する者として、次のa及びbに掲げる基準(以下「一般的基準」という。)に該当する者について、当該適用除外の措置を実施するものとする。
a 次に強げる業務に主として従事する者
(a) 清掃の業務
(b) 片付けの業務
b 雇入れ後一定期間未満の者であって技能習得中のもの(この場合の一定期間の長さについては、地方最低賃金審議会において、業種ごとに決定するものとする。)
 また、各産業に特有の軽易業務に従事する者についても、現に業務に関する適用除外の措置が実施されている産業別最低賃金の例を参考として、地方最低賃金審議会において地域の実情に応じて検討を進め、速やかに適用除外とする措置を実施するものとする。
(ロ) 一般的基準に基づく適用除外の措置が実施されていない現行産業別最低賃金に関する昭和62年度以後の改正諮問は、当該適用除外の措置を実施するという地方最低賃金審議会における方針の決定を待って、行うものとする。
 業種に関する適用除外の措置
 昭和62年度において、現行産業別最低賃金の適用される業種(原則として日本標準産業分類の小分類を単位とする。以下同じ。)のうち、各都道府県労働基準局が実施する小規模企業の賃金実態調査の結果に基づき、当該業種の労働者の賃金分布が当該都道府県の労働者の平均的な賃金分布に比べて低位にあると認められる業種(以下「適用除外対象業種」という。)について、現行産業別最低賃金は適用除外とする措置を実施するものとする。この場合、上記調査の結果における賃金に関する特性値のうち、第1・十分位数について、全調査産業計の数値を100として当該業種の数値を指数化したときに、当該業種の指数が100未満となる業種であって、第1・十分位数以外の賃金に関する特性値についても同様な傾向があると認められるものを適用除外対象業種とするものとする。
 なお、現行産業別最低賃金に関する昭和62年度における改正諮問は、業種に関する適用除外について検討中のものについても行うものとする。
(2) 新産業別最低賃金への転換に向けての措置
 昭和63年度までの間において、上記(1)による適用除外の措置を実施した現行産業別最低賃金のうち、下記4の(2)による見直し後の新産業別最低賃金の運用方針等に照らし、新産業別最低賃金への転換を図るため、更に業種に関する通用除外、適用対象業種の範囲(くくり方)等に工夫が必要であるものについては、所要の設定様式の変更の検討等当該転換のために必要な準備又は調整を行っておくものとする。
 また、類似の業種の大部分が適用除外されるにもかかわらず例外的に残される業種、適用除外される業種であって当該地域における主要産業であるもの等について、地方最低賃金審議会において、地域の実情や当該都道府県における今後の最低賃金の在り方等を勘案しつつ、新産業別最低賃金として設定することの是非等を検討するものとする。
(3) 検討体制の整備
 地方最低賃金審議会においては、上記(1)及び(2)の措置を円滑に実施するため、小委員会等の意見調整の場を設置する等必要な体制整備を図るものとする。
3 新産業別最低賃金への転換及び現行産業別最低賃金の廃止に向けての措置
(1) 新産業別最低賃金への転換
 上記2の(1)及び(2)の措置を実施した現行産業別最低賃金については、法第16条の4の規定の手続による関係労使の申出があり、かつ下記4の(2)による見直し後の新産業別最低賃金の運用方針に合致する場合には、地域別最低賃金とは別に産業別最低賃金を設定することについて合理的理由があるものとして、新産業別最低賃金への転換が図られるよう関係者は積極的に審議し、昭和64年度中に当該転換が実施されるよう努力するものとする。
(2) 現行産業別最低賃金の廃止に向けての措置
 上記(1)により新産業別最低賃金への転換が実施されない現行産業別最低賃金については、昭和64年度以後の改正諮問を行わないものとする。
4 新産業別最低賃金の運用方針の改正等
(1) 新産業別最低賃金の運用方針の一部改正 新産業別最低賃金の運用方針については、下記(2)の経過措置及び次の事項を除き、昭和57年1月14日の本審議会の答申に付された了解事項の1を含めて、現行どおりとする。 なお、改正後の新産業別最低賃金の運用方針の全文は別添のとおりである。
 別添「新産業別最低賃金の運用方針」の1の(1)のイの(イ)又はロの(イ)に掲げる場合の当該新産業別最低賃金の適用対象とする基幹的労働者は、当該労働協約の適用対象とされている労働者がこれに当たるものとして取り扱うことができること。
 新産業別最低賃金の改正又は廃止に関する申出の要件を次のとおりとすること。
(イ) 当該新産業別最低賃金の適用を受ける労働者の概ね3分の1以上のものに賃金の最低額に関する労働協約が適用されている場合に行われるものであること。
(ロ) 公正競争を確保する観点から当該新産業別最低賃金の改正等が必要と認められる場合(当該新産業別最低賃金の適用を受ける労働者又は使用者の概ね3分の1以上の合意かある場合を含む。)に行われるものであること。
(2) 現行産業別最低賃金の転換に係る経過措置
 上記3により、現行産業別最低賃金が新産業別最低賃金へ転換する場合には、経過措置として新産業別最低賃金の運用方針の一部について次のような取扱いをする。
 なお、現行産業別最低賃金の適用対象業種について昭和64年度前に法第16条の4の規定により新産業別最低賃金の決定に関する申出があった場合においても同様の取扱いをする。
 新産業別最低賃金の決定に関する申出等の要件についての経過措置
(イ) 最低賃金に関する労働協約が適用されている場合の要件
 同種の基幹的労働者の概ね3分の1以上のものが賃金の最低額に関する労働協約の適用を受け、かつ、当該労働協約による賃金の最低額が当該産業に現に適用されている産業別最低賃金額より高いときには、同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合に該当するものとして取り扱う。
(ロ) 事業の公正競争を確保する観点からの必要性に関する要件
 事業の公正競争を確保する観点から、同種の基幹的労働者について最低賃金を設定する必要が認められるか否かの判断に当たっては、別添「新産業別最低賃金の運用方針」の1の(2)のなお書きに加え、当該産業別最低賃金と当該都道府県における地域別最低賃金との金額水準の差が大きいこと等の事情からみて、当該産業別最低賃金の廃止により、各種の賃金格差の拡大等が予想されるものであるかどうか等も参考とするものとする。
 また、事業の公正競争を確保する観点から同種の基幹的労働者について最低賃金を設定することが必要であるとして、当該最低賃金の適用を受けるべき労働者又は使用者の概ね3分の1以上のものの合意による申出があったものは、この要件に該当するものとして取り扱う。
 「小くくり産業」の範囲に関する経過措置
 日本標準産業分類の小分類又は必要に応じ細分類によること(同種の基幹的労働者をそれぞれ含む2以上の産業を併せて1の産業別最低賃金として設定する場合を含む。)を原則とするが、現在、中分類以上の単位で設定されているものについては、上記2の(1)の適用除外の措置の実施状況、関係労使団体の組織状況、基幹的な業務の共通性等を勘案しつつ、地方最低賃金審議会において、適用対象業種の合理的な範囲(くくり方)を決定するものとする。
 「基幹的労働者」の意義に関する経過措置
(イ) 当該産業の生産工程、労働態様などに即して、
a 基幹的労働者の職種、業務を規定する方法又は、
b 基幹的労働者とみなされない労働者の職種、業務を規定する方法
によって規定することを原則とするが、地域別最低賃金の対象とすることが適当と認められる年齢、業務等を適用除外とする措置が適切に行われているものについては、基幹的労働者を対象とした産業別最低賃金として取り扱うこととして差し支えないものとする。
(ロ) 新産業別最低賃金は、相当数の労働者に適用が見込まれるものでなければならないとされているが、その「相当数の労働者」の範囲こついては、地方最低賃金審議会において、原則として1,000人程度を基準として、地域の実情に応じ決定するものとする。

別添

新産業別最低賃金の運用方針

 新産業別最低賃金の決定等の要件、手続等について
(1) 新産業別最低賃金の決定等に関する申出の要件等
 新産業別最低賃金の決定に関する申出の要件は次のとおりとする。
(イ) 同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合
 一定の地域内の事業所で使用される同種の基幹的労働者の2分の1以上のものが賃金の最低額に関する定めを含む1の労働協約の適用を受ける場合又は賃金の最低額について実質的に内容を同じくする定めを含む2以上の労働協約のいずれかの適用を受ける場合において、当該労働協約の当事者である労働組合又は使用者(使用者の団体を含む。)の全部の合意により行われる申出であること。
(ロ) 事業の公正競争を確保する観点からの必要性を理由とする場合
 事業の公正競争を確保する観点から同種の基幹的労働者について最低賃金を設定することが必要であることを理由とする申出であって、当該最低賃金の適用を受けるべき労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者により行われるものであること。
 新産業別最低賃金の改正又は廃止に関する申出の要件は次のとおりとする。
(イ) 同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合一定の地域内の事業所で使用される同種の基幹的労働者の概ね3分の1以上のものか賃金の最低額に関する定めを含む1の労働協約の適用を受ける場合又は賃金の最低額について実質的に内容を同じくする定めを含む2以上の労働協約のいずれかの適用を受ける場合において、当該労働協約の当事者である労働組合又は使用者(使用者の団体を含む。)の全部の合意により行われる申出であること。
(ロ) 事業の公正競争を確保する観点からの必要性を理由とする場合
 事業の公正競争を確保する観点から同種の基幹的労働者について最低賃金を改正することが必要であること又は当該最低賃金を設定することが必要でなくなったことを理由とする申出(同種の基幹的労働者について最低賃金を改正又は廃止することが必要であることを理由とする申出であって、当該最低賃金の適用を受ける労働者又は使用者の概ね3分の1以上のものの合意により行われるものを含む。)であって、当該最低賃金の適用を受ける労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者により行われるものであること。
 上記イ及びロの申出は、次に掲げる事項を記載した申出書を提出することによって行うものとする。
(イ) 申出を行う者が代表する基幹的労働者又は使用者の範囲
(ロ) 新産業別最低賃金の決定に関する申出にあっては、当該新産業別最低賃金の適用を受けるべき基幹的労働者又は使用者の範囲
(ハ) 新産業別最低賃金の改正又は廃止の決定に関する申出にあっては、当該新産業別最低賃金の件名
(ニ) 上記(ロ)及び(ハ)のほか、申出の内容
(ホ) 申出の理由(事業の公正競争を確保する観点から設定される新産業別最低賃金に係る申出の場合にあっては、事業の公正競争を確保する観点から同種の基幹的労働者について新産業別最低賃金を設定することが必要である理由)
(2) 申出に係る新産業別最低賃金の決定等の必要性の有無の決定
 労働大臣又は都道府県労働基準局長は、新産業別最低賃金の決定、改正又は廃止(以下「決定等」という。)に関する申出を受けた場合には、原則として当該決定等の必要性の有無について最低賃金審議会に意見を求めるものとする。ただし、新産業別最低賃金の決定等のために必要な要件(新産業別最低賃金の適用を受けるべき基幹的労働者又は使用者の範囲が明確なこと、最低賃金に関する労働協約が適用されている場合の新産業別最低賃金に係る申出については当該労働協約が同種の基幹的労働者の2分の1(新産業別最低賃金の改正又は廃止に関する申出の場合にあっては概ね3分の1)以上のものに適用されていること及び当該申出が当該労働協約の当事者である労働組合又は使用者の全部の合意によるものであること等の形式的要件)に該当していないものはこの限りではない。
なお、事業の公正競争を確保する観点から設定される新産業別最低賃金は、同種の基幹的労働者について、関連する諸条件を勘案の上、企業間、地域間又は組織労働者と未組織労働者の間等に産業別最低賃金の設定を必要とする程度の賃金格差か存在する場合に設定するものとする。
(3) 新産業別最低賃金
 最低賃金審議会が新産業別最低賃金の決定等が必要である旨の意見を提出した場合には、労働大臣又は都道府県労働基準局長は、最低賃金法第16条第1項の規定に基づき最低賃金審議会の調査審議を求めるものとする。
 新産業別最低賃金の決定等について調査審議を行う専門部会は、労働者を代表する委員及び使用者を代表する委員の各3名のうち原則として少なくとも各2名は当該決定等を行おうとする産業に直接関係する労働者及び使用者をそれぞれ代表するものをもって充てなければならないものとする。
2 「小くくりの産業」の範囲について
 新産業別最低賃金の適用対象業種の範囲は、原則として日本標準産業分類の小分類又は必要こ応じ細分類によるものとする。ただし、同種の基幹的労働者をそれぞれ含む2以上の産業を併せて1の産業別最低賃金を詳定することができるものとする。
3 「基幹的労働者」の意義について
 基幹的労働者は、一般的には当該産業に特有の又は主要な業務に従事する労働者であるが、具体的には当該産業の生産工程、労働態様などに即して個別に考えられるものである。
 また、最低賃金設定の目的にかんがみ、相当数の労働者に当該新産業別最低賃金の適用が見込まれるものでなければならない。
 なお、基幹的労働者の規定の仕方としては、次に掲げる方法があるが、上記1の(1)のイの(イ)又はロの(イ)に掲げる同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合においては、当該労働協約の適用対象とされている労働者を当該新産業別最低賃金の適用対象とする基幹的労働者として取り扱うことができるものとする。
(1) 基幹的労働者の職種、業務を規定する方法
(2) 基幹的労働者とみなされない労働者の職種、業務を規定する方法
4 現行産業別最低賃金の転換に係る経過措置
 昭和61年2月14日の中央最低賃金審議会答申本文(以下「本文」という。)3により、現行産業別最低賃金が新産業別最低賃金へ転換する場合には、経過措置として新産業別最低賃金の運用方針の一部について次のような取扱いをする。
 なお、現行産業別最低賃金の適用対象業種について、昭和64年度前に最低賃金法第16条の4の規定により新産業別最低賃金の決定に関する申出があった場合においても同様の取扱いをする。
(1) 新産業別最低賃金の決定に関する申出等の要件についての経過措置
 同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合の要件
 同種の基幹的労働者の概ね3分の1以上のものが賃金の最低額に関する労働協約の適用を受け、かつ、当該協約による賃金の最低額が当該産業に現に適用されている産業別最低賃金額より高いときには、同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用されている場合に該当するものとして取り扱う。
 事業の公正競争を確保する観点からの必要性に関する要件
 事業の公正競争を確保する観点から同種の基幹的労働者について最低賃金を設定する必要が認められるか否かの判断に当たっては、上記1の(2)のなお書きに加え、産業別最低賃金と当該都道府県における地域別最低賃金との金額水準の差が大きいこと等の事情からみて、当該産業別最低賃金の廃止により、各種の賃金格差の拡大等が予想されるものであるかどうか等も参考とするものとする。
 また、事業の公正競争を確保する観点から同種の基幹的労働者について最低賃金を設定することが必要であるとして、当該最低賃金の適用を受けるべき労働者又は使用者の概ね3分の1以上のものの合意による申出があったものは、この要件1に該当するものとして取り扱う。
(2) 「小くくり産業」の範囲に関する経過措置
 新産業別最低賃金の適用対象業種の範囲は、上記2を原則とするが、現在、中分類以上の単位で設定されているものについては、本文2の(1)の適用除外の実施状況、関係労使団体の組織状況、基幹的な業務の共通性等を勘案しつつ、最低賃金審議会において、適用対象業種の合理的な範囲(くくり方)を決定するものとする。
(3) 「基幹的労働着」の意義に関する経過措置
 「基幹的労働者」の意義は、上記3を原則とするが、地域別最低賃金の対象とすることが適当と認められる年齢、業務等を適用除外とする措置が適切に行われているものについては、基幹的労働者を対象とした産業別最低債金として取り扱うこととして差し支えないものとする。
 新産業別最低賃金は、相当数の労働者に適用が見込まれるものでなければならないとされているが、その「相当数の労働者」の範囲については、最低賃金審議会において、原則として1,000人程度を基準として、地域の実情に応じ決定するものとする。
 参考
 昭和57年1月14日中央最低賃金審議会答申「新しい産業別最低賃金の運用方針について」了解事項
 最低賃金法第16条の4の規定による関係労使の申出に基づく最低賃金の決定、改正又は廃止の必要性について労働大臣又は都道府県労働基準局長から意見を求められた場合は、新しい産業別最低賃金の設定の趣旨にかんがみ、最低賃金審議会は全会一致の議決に至るよう努力するものとする。


 平成4年5月15日中央最低賃金審議会「公正競争ケース」検討小委員会報告

 本小委員会は中央最低賃金審議会から「公正競争ケースの申出要件の意味するところ及びその取扱い方等」について検討する旨の付託を受け、平成3年4月12日から平成4年3月30日までの間計5回にわたり鋭意審議を重ね、公労使委員全員一致で下記のとおり報告を取りまとめた。

 本小委員会では、「現行産業別最低賃金の廃止及び新産業別最低賃金への転換等について(昭和61年2月14日中央最低賃金審議会答申)」(以下「61年答申」という。)における「事業の公正競争を確保する観点からの必要性を理由とする場合」(以下「公正競争ケース」という。)に関して、一層明確な解釈が求められている。
 (1)最低賃金法(以下「法」という。)等における「公正競争」の概念について
 (2)「公正競争ケース」による申出の要件について
 (3)原則諮問について
 (4)決定の必要性に関する要件について
の4点を中心に検討を行い、以下のとおり結論を得た。
 なお、検討の過程において
 (1) 61年答申は慎重な審議を経て出されたものであり、現在は、61年答申を尊重し、その適切な運用により新産業別最低賃金の定着に向け関係者は努力が必要であること
 (2) 新産業別最低賃金は61年答申の趣旨に鑑みれば、「同種の基幹的労働者の相当数について最低賃金に関する労働協約が適用される場合」(以下「労働協約ケース」という。)を中心に想定していたものと理解することが適当であることに加え、特に、61年答申前文にあるとおり「関係労使が労働条件の向上又は事業の公正競争の確保の観点から地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めるものに限定して設定すべき」とされていること
の2点を基本的前提とし、諸点を整備することとなった。

 「公正競争」の概念と「公正競争ケース」に対する考え方
 種々の法律においていわゆる公正競争の規定がみられるが、公正競争の概念は幅の広いものであり、それぞれの法律の目的等によりその意味するところは当然に異なる。すなわち事業法等他の法律における公正競争概念と最低賃金法上のものは必ずしも同一概念ではない。
 最低賃金の目的は、法第1条にあるとおり「労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」であり、公正競争の確保は「労働条件の改善を図る」という第一義的な目的とは異なり、最低賃金の設定により達成される副次的な目的である。
 また、法における公正競争の確保とは賃金の不当な切下げの防止によって達成されるものであり、地域別最低賃金が全都道府県において設定されている現在、賃金の不当な切下げの防止は一定の水準ですでに措置されており、“一定の公正競争”は確保されている。
 新産業別最低賃金は、61年答申前文に「関係労使が労働条件の向上又は事業の公正競争の確保の観点から地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めるものに限定して設定すべき」とあるとおり、目的を限定し、かつ、関係労使の合意を前提に、主として「労働協約ケース」は61年答申前文の「労働条件の向上」を、また「公正競争ケース」は「事業の公正競争の確保」を受けて設定されていると理解することが適当である。とりわけ、「公正競争ケース」で申出される新産業別最低賃金は“より高いレベルでの公正競争”の確保を主たる目的とすると理解することが適当である。
2 公正競争ケースの取扱い
(1) 申出の要件
 「公正競争ケース」は、設定方式として一定の定量的要件を付した「労働協約ケース」とは異なり、申出の内容は個別の事案により種々異なることが想定され、また賃金格差の程度についてもその生ずる要因は多様であり、申出の要件として定量的要件を一律に付すことは適当でない。
 定量的要件を付せないこともあり、審議会では地域別最低賃金がある以上“より高いレベルでの公正競争”の確保の必要性について、個別具体的な検討がなされることとなるが、申出者は申出に当たって、賃金格差の存在等個別具体的な疎明が不可欠な要件となる。したがって申出の受理に当たっては特に申出の背景も含め疎明の内容について十分審査すること。
 また、申出者は関係労使の合意が得られるよう労働協約の締結・機関決定等に努めることが重要である。
 なお、当該最低賃金の適用を受けるべき労働者又は使用者の概ね1/3以上のものの合意による申出があったものについては受理・審議会への諮問が円滑に行われることが望ましい。
(2) 原則諮問
 61年答申が原則諮問の例外を既に明記していることから、さらに例外を設けるのは適当ではない。また、61年答申により新産業別最低賃金の決定等の契機が法第16条の4に基づく申出に限定され、それに伴い申出の要件も示されており、法第16条の4に基づく申出はその重要性を増している。したがって、少なくとも必要性の諮問は「原則的」に行うことが適当である。
 しかし、法及び61年答申の趣旨から、競争関係が認められない事業等明らかに新産業別最低賃金の設定に無理があると判断でき得るものは原則諮問の対象外とすることが妥当である。
 その場合、個別の事案ごとにその理由を明らかにし直近の審議会に報告、了承を得ること。
(3) 決定の必要性に関する要件(「賃金格差が存在する場合」の考え方)
 61年答申に「企業間、地域間又は組織労働者と未組織労働者の間等に産業別最低賃金の設定を必要とする程度の賃金格差が存在する場合に設定するものとする」とあるが、一般の産業では企業間等に賃金格差は通常存在しており、またその生ずる要因は多様である。どの程度の賃金格差があれば、賃金の不当な切下げの防止のため新たに産別最賃の設定が必要であるかを明らかにすることは事実上不可能であり、賃金格差の程度について一定基準を定めることは適当でない。
 最低賃金の決定の審議に当たっては61年答申の趣旨を踏まえ当該事案について「産業別最低賃金の設定を必要とする程度の賃金格差が存在する場合」に該当するかどうか、すなわち競争関係の存在を前提にして“より高いレベルでの公正競争”確保の必要性について、疎明の内容、関係労使間の合意形成の状況等を踏まえ審議会において適切な判断がなされることを期待する。
 なお、最低賃金の必要性の決定に当たっては「昭和57年1月14日中央最低賃金審議会答申(新しい産業別最低賃金の運用方針について)了解事項1」を改めてここに確認する。
(4) 今後の取扱い
(1) 本報告による取扱いは平成4年度以降の新設申出事案から実施することとする。
 なお、改正の申出事案についても本報告の趣旨を十分踏まえた対応がなされることが望まれる。事務局はもとより関係者は本報告を踏まえ適切な運営に努めることがなによりも重要である。
(2) 本報告を中央最低賃金審議会に報告し、了承を求めることとする。なお、了承が得られれば中央最低賃金審議会の会長から地方最低賃金審議会会長に文書で伝達されることを要望する。
(参考)
 なお、本小委員会の報告を取りまとめるに当たり、次の3項目を特記する。
1. 61年答申で一定の結論は出されているものの、使用者側から経済構造等の急速な変化の中で中長期的な観点にも立って地域別最低賃金と新産業別最低賃金の役割分担等の問題について現段階においてもなお議論が必要であり、その結論を得て「公正競争ケース」についての検討をすべきとの意見が出されたこと。
2. 基幹的労働者については種々の議論があったが、基幹的労働者の範囲は業種間及び規模、地域間等で多種多様であり、一律にその範囲を示すことは適当でなく、審議会における適切な審議に期待することとされたこと。
3. 新産業別最低賃金の申出について、労働者側から新設を含め、手続き(例えば合意署名等については3年に一度とするなど)を簡略化すべきであるとの考え方が示されたこと。


 平成10年12月10日中央最低賃金審議会産業別最低賃金に関する全員協議会報告

 本全員協議会は、中央最低賃金審議会から産業別最低賃金について検討する旨の付託を受け、平成8年10月4日から平成10年2月12日まで計9回にわたり審議を行った後、運用上の具体的問題点を含めさらに詳しく審議するため、平成10年2月24日に産業別最低賃金とその運用上の問題点等に関する検討部会(以下「問題点等検討部会」という。)を設置することとし、以後7回にわたり鋭意審議を重ねてきたが、本日問題点検討部会より別添報告書が全員協議会に提出されたので、これを受け審議した結果、この問題点等検討部会報告を本全員協議会報告とすることとした。

産業別最低賃金制度とその運用上の問題点等に関する検討部会報告

 基本的な考え方
(1) 産業別最低賃金制度のあり方について
 産業別最低賃金については、「最低賃金額の決定の前提となる具体的事項に関する考え方について(昭和56年7月29日中央最低賃金審議会答申)」及び「現行産業別最低賃金の廃止及び新産業別最低賃金への転換等について(昭和61年2月14日中央最低賃金審議会答申)」の考え方にのっとり、関係労使のイニシアティブにより地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めたものについて設定することを基本としてきているものである。こうした中で、産業別最低賃金制度の見直しに関する使用者側からの問題提起を踏まえ、平成8年10月より産業別最低賃金制度について、その必要性等を含め、累次にわたり審議が行われてきたところであるが、付記にあるように労使の意見には大きな隔たりがあり、現時点では現行の基本的考え方の変更に至るような一定の結論を得るには至らず、取りあえず今回の検討はいったん終了させることとするものである。
 しかしながら、最低賃金制度を取り巻く環境を見ると、経済の国際化等に伴う競争の激化、情報化・技術革新の進展等に伴う産業構造の変化、バブル崩壊後の長期にわたる経済の深刻化等の変化が進み、諸外国においても最低賃金制度につき新たな動きが見られるなど、大きく変化しつつある。最低賃金制度の運営に当たっては、関係者の合意を前提として、より望ましい最低賃金制度を目指していくことは当然のことであり、こうした環境変化等を踏まえ、今後の最低賃金制度のあり方について模索すべき時期が到来しつつあると考える。このため、産業別最低賃金制度のあり方については今後時機を見てさらなる議論を深め、審議していくことが適当である。

(2) 現行の産業別最低賃金制度の運用について
 上記により、中央最低賃金審議会での産業別最低賃金制度のあり方についてのさらなる議論は、今後の機会にゆだねることとするが、それまでの間、各地方最低賃金審議会(以下「審議会」という。)においては、産業別最低賃金制度の運用面について一定の改善が図られることが適当である。すなわち、
(1) 現行の産業別最低賃金を取り巻く環境や、とりわけ公正競争ケースの運用の実態をみると、旧産業別最低賃金からの転換時から10年が経過し、その間産業構造、就業構造等の変化やバブル崩壊後の厳しい経済情勢等の変化が顕著になっている。こうした中で産業や企業の実態を十分に踏まえた対応が求められていること、審議会での賃金格差の疎明状況にばらつきが見られるなど審議状況に改善すべき面も見られること等から、審議会の関係者において、新たな分野に関する申出がなされる場合を含め、個々の産業別最低賃金について現行の運用方針に基づいた一層の審議が行われることが必要である。
(2) また、審議会における産業別最低賃金制度の運用に当たっては、労使の自主性発揮、審議会の効率的運営等の観点から審議手続面等についても所要の改善が図られることが必要である。

 運用面の改善についての具体的な対応
 運用方針を踏まえた産業別最低賃金制度の運用については、関係労使の自主的努力と審議会の関係者による適切な運営にゆだねられるべきことは当然であるが、上記1の(2)の基本的考え方を踏まえ、次によりその改善が図られることを強く期待するものである。
(1) 個々の産業別最低賃金についての審議の促進等
 審議会においては、個々の産業別最低賃金について、次により一層の審議が行われるように努めることとする。
(1) 審議会での審議に資するため、「産業別最低賃金(公正競争ケース)の審議に当たっての視点」(別紙1)及び「産業別最低賃金(公正競争ケース)の審議に当たっての審議参考資料」(別紙2)を提示するので、これを参考として個々の産業別最低賃金について十分な審議を行うこと。この場合、新分野における産業別最低賃金の設定に関する審議についても同様とすること。
(2) 産業構造の変化等に的確に対応するため、必要に応じ、適用除外業務及び業種のくくり方について見直しを行うこと。
 公正競争ケースの場合においても、申出者は関係労使の合意が得られるよう労働協約の締結・機関決定等に努めることとされていることを踏まえ、公正競争ケースから労働協約ケースによる申出に向けての関係労使の努力を期待する。
(2) 産業別最低賃金の審議手続上の取扱いの改善
 審議会での産業別最低賃金の審議(申出を含む。)の手続において、次の事項の改善が図られるように努めることとする。
(1) 中小企業関係労使の意見の反映
 産業別最低賃金の設定による影響を受けやすい中小企業関係労使の意見が十分に反映されるようにするため、審議会委員の選任や参考人の意見聴取に当たって、中小企業関係労使からの選任や当該産業の中小企業関係労使からの意見聴取に配慮すること。
 また、申出者は産業別最低賃金の決定等の申出に当たっても、合意の当事者に中小企業関係労使がより多く含まれるように努めることが望ましいこと。
(2) 賃金格差疎明資料添付の徹底及び審議会の効率的運営
 審議会での適切な審議が行われるようにするため、申出者は公正競争ケースによる産業別最低賃金の決定等の申出の際の個別具体的な疎明に当たっては、賃金格差の存在の疎明のための資料の添付を徹底すること。
 また、産業別最低賃金の改正の必要性の審議に当たっては、上記(1)のイの(1)の審議が十分に行われており、かつ、特に事業の競争関係、賃金格差の存在の疎明の内容等の状況に変化がなく、制度の趣旨を逸脱することがないと認められる場合には、一括して審議を行うこととする等、審議会の効率的運営に配慮すること。
 付記事項
 今回の検討の過程で、労使各側から提出された主要な意見を次のとおり付記する。
 使用者側からは、以下の意見が表明された。
 地域別最低賃金が47都道府県のすべてに設定され、その機能・役割を十分果たしてきている今日、屋上屋でかつ設定趣旨が極めて不透明な産業別最低賃金は廃止すべきである。現行産業別最低賃金の設定は56年、61年答申を踏まえ実施に移されたものであるが、従来から屋上屋の最低賃金は不必要である旨繰り返し主張してきたところである。
 現在の経済情勢を見ると、低成長、グローバル経済化等による大競争時代の到来により、産業活動面や雇用創出面等から、規制の緩和、労使の自主性発揮が強く求められており、活力ある経済・経営システムをいかに導入するかが問われている。
 産業別最低賃金は、これらの基本的な諸問題を抱えているとともに、地方最低賃金審議会における審議の内容も曖昧かつ不透明な部分が多く、使用者側委員からも不満の声が出ている中で、法律をもって強制的に適用させることは問題である。
 産業別最低賃金の廃止に向けての議論は、当然今後とも継続するべきである。

 これに対し、労働者側からは、以下の意見が表明された。
 我が国の最低賃金制度は、その歴史的土壌、風土を踏まえ、労使関係や労働運動の歴史的な発展との関係で、公労使の合意の下で形成されてきたものである。
 また、産業別最低賃金は労働条件の向上や事業の公正競争確保の観点から、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金の必要性が認められた産業について基幹的労働者を対象に設定されてきたものであり、社会的なナショナルミニマムとしての地域別最低賃金とは性格を異にしており、最低賃金制度として屋上屋を重ねるものではない。
 さらに、産業別最低賃金は低賃金労働者の労働条件の確保や地域における産業別労使協議の進展に大きく寄与してきており、産業構造の転換の中で経済の低迷が継続し、不安定雇用の労働者が増加していること等からも、今後とも継続・発展させていくべきものであり、その立場から運用に関する改善に前向きに対応していくものである。

(別紙1)産業別最低賃金(公正競争ケース)の審議に当たっての視点

 (1) 産業別最低賃金適用産業内において事業競争関係にあるか
産業別最低賃金適用産業の産品、生産態様、サービス等が類似しているか
産業別最低賃金適用産業の企業間競争はどうか
産業別最低賃金適用産業の労働市場における需給関係はどうか
 (2) 産業別最低賃金適用労働者数及び増減状況等はどうか
 (3) 産業別最低賃金適用産業の企業数、規模別構成、増減状況等はどうか
 (4) 産業別最低賃金適用労働者の企業間、地域間又は組織労働者未組織労働者の間等にどの程度の賃金格差があるか
 (5) 産業別最低賃金が廃止された場合に適用労働者間の賃金格差が拡大する可能性があるか


(別紙2)産業別最低賃金(公正競争ケース)の審議に当たっての参考資料

   (1) 事業の動向関係
事業所・企業統計調査(総務庁)
サービス業基本調査(総務庁)
通商産業省企業活動基本調査(通商産業省)
工業統計調査(通商産業省)
商業統計(通商産業省)
工業実態基本調査(通商産業省)
商業実態基本調査(通商産業省)
生産、出荷集中度調査(公正取引委員会)
その他関係機関等が実施する調査

   (2) 賃金関係
賃金構造基本統計調査(労働省)
毎月勤労統計調査(労働省)
最低賃金に関する実態調査(労働省)
賃金引上げ等の実態に関する調査(労働省)
その他関係機関等が実施する調査

   (3) その他労働関係(賃金関係を除く)
産業労働事情調査(労働省)
労働経済動向調査(労働省)
雇用動向調査(労働省)
専門職種別労働力需給状況調査(労働省)
その他関係機関が実施する調査


 平成14年12月6日中央最低賃金審議会産業別最低賃金に関する全員協議会報告

 本全員協議会は、平成13年4月20日に中央最低賃金審議会から付託を受け、同年5月29日から平成14年12月6日までの間、計12回にわたり鋭意審議を重ねた結果、全会一致で別添のとおり報告を取りまとめた。
 本全員協議会は、地方最低賃金審議会がその自主性を発揮しつつ、今般の結論に沿った改善を行うことを期待する。

(別添)

産業別最低賃金制度の改善について

 基本的な考え方
 産業別最低賃金については、「現行産業別最低賃金の廃止及び新産業別最低賃金への転換等について(昭和61年2月14日中央最低賃金審議会答申)」(以下「昭和61年答申」という。)に基づき、旧産業別最低賃金から現行の産業別最低賃金への転換がなされ、その後、「中央最低賃金審議会「公正競争ケース」検討小委員会報告(平成4年5月15日中央最低賃金審議会了承)」及び「中央最低賃金審議会産業別最低賃金に関する全員協議会報告(平成10年12月10日中央最低賃金審議会了承)」(以下「平成10年報告」という。)等により逐次改善されてきたところである。
 一方、我が国の経済社会は、長引く景気の低迷、国際競争の激化、産業の空洞化、サービス産業化の動きが進展する中で産業構造が変化するとともに、パートタイム労働者、派遣労働者等の増加など雇用形態や就業形態も多様化し、産業別最低賃金を取り巻く環境は大きく変化しているところである。
 こうした中で、平成10年報告において、「産業別最低賃金制度のあり方については今後時機を見てさらなる議論を深め、審議していくことが適当である」とされたことを踏まえ、使用者側からの問題提起により、平成13年4月に中央最低賃金審議会に産業別最低賃金制度全員協議会が設置され、同年5月から産業別最低賃金制度の在り方について累次にわたり審議を行ってきたところである。
 審議においては、使用者側は廃止論を主張する一方、労働者側が継承・発展論を主張し、付記にあるように労使の意見には大きな隔たりがあった。
 しかしながら、産業別最低賃金が現実に制度として存在し、実際に関係者から運用面の課題に関する様々な指摘があることを踏まえると、労使それぞれの立場はあるものの、産業別最低賃金制度を改善することは重要であることから、産業別最低賃金設定の趣旨である関係労使のイニシアティブ発揮を中心とした改善の在り方について検討を行った結果、今般の結論に達したものである。
 今後、法改正を伴う事項も含めた産業別最低賃金制度の在り方については、時機を見て新たに検討の場を設け、中長期的な視点から更なる議論を深めることが適当である。

 関係労使のイニシアティブの一層の発揮を中心とした改善
 産業別最低賃金は、関係労使のイニシアティブにより地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めたものについて設定することを基本としていることから、関係労使のイニシアティブをより発揮させるという観点を中心に、以下の改善が図られることが必要である。
 地方最低賃金審議会においては、関係労使がイニシアティブを十分に発揮することにより、一層円滑な審議と運用がなされることを期待するものである。
(1) 関係労使のイニシアティブ発揮による改善
(1) 関係労使当事者間の意思疎通
 産業別最低賃金の決定、改正又は廃止(以下「決定等」という。)に関する申出について、関係労使が双方の意向を了知しておくことは、その後の円滑な審議にとって重要であるため、当該申出の意向表明後速やかに、関係労使当事者間の意思疎通を図ることとする。この場合の意思疎通としては、関係労使当事者間において話合いを持つことが望ましい。
 なお、関係労使当事者とは、主として、労働協約締結当事者の使用者(使用者団体を含む。)又は労働組合、都道府県内における当該産業の関係労使団体などを指すものである。
(2) 関係労使の参加による必要性審議
 産業別最低賃金の決定等の必要性の有無に関する調査審議(以下「必要性審議」という。)について、従来どおりの方法で行うか、当該産業の労使が入った場で行うかを、地方最低賃金審議会において、地域、産業の実情を踏まえつつ、検討することとする。
 なお、必要性審議において、当該産業別最低賃金が適用される中小企業を含めた関係労使が参加することにより、より実質的な審議が行われることを期待するものである。
(3) 金額審議における全会一致の議決に向けた努力
 関係労使のイニシアティブ発揮により設定されるという産業別最低賃金の性格から、産業別最低賃金の決定又は改正の金額に関する調査審議については、全会一致の議決に至るよう努力することが望ましい。
(4) 関係労使の自主的な努力による周知及び履行確保
 産業別最低賃金の周知及び履行確保について、関係労使のイニシアティブ発揮により設定されるという産業別最低賃金の性格にかんがみ、行政の役割とあいまって、当該産業別最低賃金が適用される関係労使がその自主的な努力により、産業別最低賃金の周知及び履行確保に努めることが望ましい。
(2) その他の改善
(1) 労働協約ケースによる申出に向けた努力 平成10年報告を踏まえ、関係労使の努力により労働協約ケースが増加してきているところであるが、今後においても平成10年報告の再確認を通じ、公正競争ケースから労働協約ケースによる申出に向けて一層努めることとする。
 なお、公正競争ケースによる申出において、申出者は平成10年報告を踏まえ、賃金格差の存在を疎明するための資料の一層の充実を図ることとする。
(2) 適用労働者数の要件
 「新しい産業別最低賃金の運用方針(昭和57年1月14日中央最低賃金審議会答申)」において、新しい産業別最低賃金については「相当数の労働者に当該最低賃金の適用が見込まれるものでなければならない」とされていること、また、昭和61年答申における新産業別最低賃金への転換に係る経過措置として「「相当数の労働者」の範囲については、地方最低賃金審議会において、原則として1,000人程度を基準として、地域の実情に応じ決定するものとする」とされていることを考慮し、産業別最低賃金における「相当数の労働者」の範囲についても、原則として1,000人程度とし、地域、産業の実情を踏まえ、1,000人程度を下回ったものについては、申出を受けて、地方最低賃金審議会において、廃止等について調査審議を行うこととする。
(3) 適用労働者数等の通知
 産業別最低賃金の決定等に関する申出の意向表明があった場合には、適用労働者数等を労使双方で確認できるようにするため、当該申出の意向表明後速やかに、最低賃金審議会事務局から当該産業別最低賃金の基幹的労働者である適用労働者数等を明示し、関係労使に通知することとする。
(4) 産業別最低賃金の表示単位期間の時間額単独方式の検討
 地域別最低賃金の表示単位期間については、平成14年度からすべての都道府県で時間額単独方式に移行したところであり、産業別最低賃金の表示単位期間の時間額単独方式への移行についても、地方最低賃金審議会において、地域、産業の実情を踏まえつつ、検討することとする。

 付記事項
 今回の検討の過程で、労使各側からの主要な意見を次のとおり付記する。
(1) 使用者側意見
 産業別最低賃金は、「労働条件の向上又は公正競争の確保の観点から、その産業の基幹的労働者につき地域別最低賃金より高い最低賃金を必要と認めるときに設定」するものとされているが、「労働条件の向上」については、我が国の賃金水準は先進諸国の中でトップクラスであり、第三者の関与の下に継続すべき理由は乏しい。また、「公正競争の確保」についても経済のグローバル化が進展する中、国内における事業の公正競争の確保はほとんど意味を失っており、「基幹的労働者」について普通の労働者以上の最低賃金を設定することは地域別最低賃金がある以上、最低賃金法第1条に照らしてそぐわない。
 とりわけ、経済のグローバル化による産業空洞化が進む中で、産業別最低賃金が数多く設定されている「ものづくり産業」は、極めて厳しい状況にあり、国内における公正競争の確保の意義が薄らいでいるとともに、早急に産業別最低賃金を含めた既存のシステムを見直す構造改革を行わないと世界の中で取り残される状況にある。また、雇用・失業情勢への影響も極めて大きい。もはや産業別最低賃金は企業内労使以外の場で決定すべき必要性が高いものとして維持する時代ではない。
 さらに、地域別最低賃金において賃金の低廉な労働者の最低額は保障されており、産業別最低賃金は屋上屋を重ねるものであるとともに、セーフティネットの確保については、地域別最低賃金のみで最低保障を決める方が分かりやすい。
 したがって、産業別最低賃金制度は廃止すべきである。
 また、制度が廃止されない段階においては、地域、産業の実情を踏まえ、必要性の乏しい個別の産業別最低賃金については廃止、その他については引下げ又は凍結を含め柔軟に対応すべきである。
(2) 労働者側意見
 地域別最低賃金はすべての労働者に適用される賃金の最低基準を、産業別最低賃金は産業別の基幹的労働者に適用される賃金の最低基準をそれぞれ決定するものであり、二つの制度が相互に補完しあいながら存在することで、最低賃金の実効性を高め賃金の下落の防止を図るとともに、賃金格差の是正を果たす役割を担っている。特に、最低賃金の対象者の賃金水準は、先進諸国の中でも決して十分ではないことを認識すべきである。
 また、産業間格差がある以上、産業ごとの賃金実態を踏まえたセーフティネットとして産業別最低賃金の設定の意義があるほか、産業別最低賃金は、労働組合の組織化の進んでいない産業の中小企業の労働者にもその適用が及ぶなど、団体交渉の補完的な役割を果たしており、賃金の低廉な労働者の労働条件の向上に寄与しているところである。
 さらに、経済のグローバル化の進展の下、国内における企業間競争は激化し、企業はコスト削減策の一つとして賃金引下げを始めとする人件費削減を行っており、賃金の下落の動きが拡大するとともに、パートタイム労働者等の増加などにみられるように、雇用形態が多様化しており、働き方の多様化に対応した公正処遇を確保する必要がある。特に、一般労働者とパートタイム労働者等との賃金格差が拡大しており、賃金の不当な引下げを防止し、事業の公正競争の確保を図る観点から、産業別最低賃金の機能強化が求められる。
 このため、産業別最低賃金として現行申出要件を維持し、今後は介護・福祉や医療の分野、交通運輸分野など第三次産業分野へ拡大するとともに、労働力の流動化や雇用形態・就労形態の多様化に対応できるよう、現行制度の機能強化の視点に立って、産業別最低賃金を更に発展させるべきである。


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