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第7回
資料3

最低賃金法第1条、第7条、第16条、第16条の4の解釈


第1条(目的)
 この法律は、賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

〔趣旨〕
 本条は、最低賃金法の目的を規定したものであるが、同時に、同法の最低賃金制の基本的なあり方をも明らかにしている。最低賃金制の目的は、第一義的には、低賃金労働者に賃金の最低額を保障し、その労働条件の改善を図ることにあるのはいうまでもない。したがって、本条においても、これを本法の第一義的目的として掲げているが、最低賃金制実施の効果は社会政策、労働政策、経済政策等の各分野に及ぶものであるから、これらの分野において効果をあげることをも第二義的目的として掲げ、究極的には国民経済の健全な発展に寄与しようとするものであることを明らかにしている。
 本条は、さらに、最低賃金は事業もしくは職業の種類または地域に応じて定めることを、最低賃金制の基本的なあり方とするとともに、業種別、職種別、地域別にそれぞれの実情に応じた最低賃金を決定する方式をとることを規定した。

〔解説〕
、2(略)
 最低賃金制の対象となるのは、「賃金の低廉な労働者」すなわち賃金が労働者の一般的賃金水準よりは相当低位にある労働者である。最低賃金は、このような労働者について賃金の最低額を保障することによって、その低廉な賃金を上昇せしめ、労働条件を改善するものでなければならない。したがって、一般賃金水準にある労働者を対象として高水準のものを最低賃金として決定することは、原則として本法の趣旨とするところではない。
 本条は、低賃金労働者の労働条件の改善を図り、労働者の生活の安定に資することとともに、労働力の質的向上と事業の公正競争の確保に資することをも最低賃金制の目的としている。
(1) 最低賃金制の実施は、次の理由によって、「労働力の質的向上」、すなわち労働能力のすぐれた労働者を確保することに役立つものと考えられる。
(1)賃金の上昇によって、優秀な労働者を雇い入れることが容易になること。
(2)労働者の生活が安定することによって、労働能率の増進がもたらされること。
(3)労働者の収入の増加によって、労働人口中家計補充的な不完全就業者が減少すること。
(2) 最低賃金制の実施は、「事業の公正な競争の確保」、すなわち、賃金の不当な切下げまたは製品の買叩き等を防止することによって、事業間の過当競争を排除することができ、また、最低賃金制の実施による企業の合理化は、事業間の公正競争を促進するものと考えられる。
 さらに、右のような諸目的を実現することを通じて国民経済の健全な発展に寄与するのが最低賃金制の究極の目的であることが、第1条の結びとして規定されているのである。
 本法による最低賃金制は、低賃金労働者の賃金の最低額を保障するための最低賃金の決定方法として、全国全産業一律方式ではなく、「事業若しくは職業の種類又は地域に応じ」て最低賃金を決定する方式をとっている。
 「事業若しくは職業の種類又は地域に応じ」とは、業種別、職種別、地域別にそれぞれの実情に即した最低賃金を決定することである。この場合、業種別、職種別、地域別のそれぞれの組合せによって最低賃金が決定されることがありうる。わが国で現在決定されている最低賃金は、各都道府県別に決定される地域別最低賃金(各都道府県内の本法の適用労働者すべてを対象とする。)および業種(産業)別に決定される産業別最低賃金(そのほとんどは業種(産業)別かつ地域別に決定される。)であり、今まで職種別に最低賃金が決定されたことはない(なお、ほとんどの産業別最低賃金は、昭和61年の中央最低賃金審議会答申に基づき一定の業務を適用除外としている。)。
 また、改正前の最低賃金法(以下「旧法」という。)では、決定する最低賃金をわが国経済の実情に即したものにするため、業者または労使の自主性を尊重してこれを決定する方針をとり、これによることが困難または不適当な場合にはじめて行政機関が職権で決定することとしていたが、最低賃金制をより効果的なものにするため、昭和43年の改正後の最低賃金法(以下「改正法」という。)では、職権方式を中心とし、これに労使の意見を十分に反映させることとするように改めた。なお、これとならんで、労働協約による地域的最低賃金の決定方式は、従前どおり存続している。
(以下略)



第7条(最低賃金の競合)
 労働者が二以上の最低賃金の適用を受ける場合は、これらにおいて定める最低賃金額のうち最高のものにより第5条の規定を適用する。

〔趣旨〕
 一人の労働者について二以上の最低賃金が競合する場合の最低賃金の効力の優先関係を規定したものである。
 本法は、最低賃金を業種別、職種別、地域別に決定することとしており、先にも述べたように、二つの決定方式を設けているので、業種別の最低賃金と地域別の最低賃金とが決定される場合等二以上の最低賃金が同一労働者について競合する場合が予想されるが、その優先関係は最低賃金額が最も高額なものによるべきことを明らかにしたものである。

〔解説〕
 二以上の最低賃金が同一労働者に競合して適用される場合には、適用対象の一般、特別の関係あるいは最低賃金の決定時期の前後等によって特定の最低賃金が優先的に適用されるものではなく、これらの最低賃金において定める最低賃金額のうち最高のものによって第5条の規定が適用されることとしている。すなわち、使用者は、これらの最低賃金において定められている最低賃金額のうち最高のもの以上の賃金を支払わなければならず、また、その金額に達しない賃金を定める労働契約はその部分について無効とされる。
 最低賃金額のうち、いずれが最高のものであるかは、具体的場合について、競合する最低賃金額のそれぞれによって算出した金額を比較してみて、金額が最も高いものが最高の最低賃金である。
(以下略)



第16条(最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金)
 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の事業、職業又は地域について、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善を図るため必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、最低賃金の決定をすることができる。
 前条第二項の規定は、前項の決定について準用する。

〔趣旨〕
 本条は、最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金の決定の要件、手続等について規定したものである。
 旧法においては、最低賃金の決定をできるだけ当事者の自主性を尊重して行うため、労働協約に基づく地域的最低賃金とともに、旧第9条及び第10条において業者間協定による最低賃金の決定方式を定め、これを中心に最低賃金を決定することとし、これらの方式により最低賃金を決定することが「困難又は不適当」と認められるときに、労働大臣又は都道府県労働基準局長は、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を尊重して、最低賃金を決定することができることとされていた。
 その後、昭和42年5月の中央最低賃金審議会の答申に基づき、昭和43年の法改正において、業者間協定方式を廃止し、あわせて旧第16条第1項における最低賃金の決定要件を改め、他の方式によって最低賃金を決定することが困難又は不適当な場合に限定することなく、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善を図るため必要があると認めるときに、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて最低賃金を決定することができることとしたもので、現行の最低賃金制の中心的な決定方式となっている。
(以下略)

〔解説〕
 本条は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善を図るため必要があると認める場合に、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて最低賃金を決定することができるという、いわゆる審議会方式を規定したものである。
 本条による審議会方式により最低賃金を決定するにあたっては、最低賃金審議会は必ず関係労使の代表者を含む専門部会を設置する(第31条第2項)とともに、関係労使の意見を聴くべきことになっており(第31条第5項)、さらに関係労使は最低賃金審議会の意見に対して異議の申出もできることになっている(第16条の2第2項)。このほか、本方式による最低賃金の決定又は改廃の決定の手続について、関係労使が、厚生労働大臣又は都道府県労働局長による手続の発動を促す申出をすることも認められている(第16条の4)。
 本条第1項の規定による最低賃金は、一定の事業、職業又は地域の、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善を図るために必要と認められるときに決定されることとなる。
 「一定の事業、職業又は地域について」とは、一定の種類の事業(産業)、一定の種類の職業、一定の範囲の地域又はこれらの組合せによって具体的に定められた範囲についての意である。「必要がある」と認める権限を有するのは、厚生労働大臣又は都道府県労働局長である。その判断は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が必要に応じ関係労使の意向をも考慮して行われることとなろうが、第16条の4第1項の規定による関係労使の申出につき、最低賃金審議会から本条の手続の発動を適当と認める意見が提出されたときには、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、これを聴いて、本条第1項の規定により審議会に調査審議を求めることとなる。このことは、とくに産業別最低賃金については、中央最低賃金審議会の昭和61年答申において明確にされている。
(以下略)
 昭和43年の法改正前においては、審議会方式による最低賃金は、業者間協定方式及び労働協約拡張方式による決定が困難又は不適当な場合に決定することができたのであるが、同年の法改正でその要件が除かれたので、労働協約拡張方式による最低賃金が決定されている分野についても、必要があれば本条の規定による最低賃金を決定することができる。ただ、一定の地域において大部分の労使の合意による労働協約を基礎にして決定された最低賃金がすでに存在しているときには、それが金額等の面で不適当になったまま放置されているような場合でない限り、本条第1項の規定による最低賃金を決定することは必ずしも適当であるとはいい得ないことが多いと考えられる。
 「最低賃金の決定をする」とは、もちろん、適正な最低賃金を決定するとの意である。
(以下略)



第16条の4(最低賃金の決定等に関する関係労働者又は関係使用者の申出)
 労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される第16条1項の規定による最低賃金の決定又は当該労働者若しくは使用者に現に適用されている同項の規定による最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができる。
 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前項の規定による申出があった場合において必要があると認めるときは、その申出について最低賃金審議会に意見を求めるものとする。

〔趣旨〕
 最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金の決定又は改廃の決定については、厚生労働大臣又は都道府県労働局長から最低賃金審議会の調査審議を求めることとなっているが、本条は、この手続について関係労使から最低賃金の決定又は改廃の決定の申出ができることとしたものである。
 最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金は、いわば厚生労働大臣又は都道府県労働局長のイニシアティブによって、その決定又は改廃の決定の手続が発動されることとなっているが、本条に規定する関係労使の申出は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長のこの決定手続の発動を促すためのものである。この規定は、昭和43年の法改正において国会修正により加えられたものである。
 現在、産業別最低賃金については、昭和56年の中央最低賃金審議会答申に基づき、第11条の労働協約拡張方式に基づくもののほかは、本条に規定する関係労使の申出があったものについてのみ、その後の所定の手続を経て決定することとされている。

〔解説〕
 最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金の適用を受けるべき又は現に適用を受けている労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者又は使用者に適用されるべき最低賃金の決定又は現に適用されている最低賃金の改廃の決定をするよう申し出ることができる(第1項)。
 この申出をすることができる者は、最低賃金の決定の申出の場合には、その最低賃金の適用を受けるべき労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者であり、最低賃金の改正又は廃止の決定の申出の場合には、現にその最低賃金の適用を受けている労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者であって、個々の労働者又は使用者が単独でこの申出をすることはできない。
(以下略)


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