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第7回
資料2

最低賃金の体系のあり方に関するヒアリングでの主な指摘事項


(1) 地域別、産業別、職種別といった設定方式、産業別最低賃金制度のあり方

 《神奈川地方最低賃金審議会松田会長》
  ○ 産業別最低賃金制度については廃止若しくは抜本的見直し。
 団体的交渉活性化はほとんど効果を表していない。
 非典型労働者の増大に伴う矛盾、産業に共通で規制すべき労働者の存在
 審議会の決定手続における軋轢・混乱の増大
  ○ 廃止しない場合においても、公正競争ケースは廃止し、労働協約ケースについて、適用労働者の範囲の拡大(非典型労働者への適用)や適用労働者の割合の引上げといった条件の強化を検討するべき。
  ○ 横断的基幹職種の設定等により職種別最低賃金制の導入の可能性を検討すべき。

 《日本経済団体連合会川本本部長》
  ○ 地域別最低賃金が各都道府県別に設定され、普及している今日、罰則規定を伴う産業別最低賃金を別途二重に設定する必要はない。屋上屋を架して産業別最低賃金を設置することは、グローバル経済化が進展し国際競争が激しさを増す中で、産業活動に支障を来すばかりでなく、雇用にも悪影響を及ぼす。もはや産業別最低賃金制度を維持する時代ではなく、廃止すべき。

 《全国中小企業団体中央会原川部長》
  ○ 産業別最低賃金制度を早急に廃止すべきである。
 地域別最低賃金が全国的に整備・適用され、賃金の最低保障としてのセーフティネットの役割を果たしており、すでに定着しているところである。
 強行法規である最低賃金法で、罰則付き最低基準の二重底の設定を一部の産業に限って認めることは、最低賃金法第1条の趣旨からみても、大いに疑問である。
 地域別最低賃金以上の賃金の設定が必要な場合には、罰則付きの強行法規によるのではなく、個別企業労使間の協約・協定で自主的に定めればよい。

 《連合須賀局長、電機連合加藤部長》
  ○ 産業別最低賃金は必要であって、むしろ継承・発展させるべき。
  ○ 労働協約ケースが望ましいことは当然だが、組織率の現状などからすべてを労働協約ケースで申請するのは非常に困難。新産業別最低賃金については、労働協約もその他の機関協議や個人合意も申出に当たっての必要性の合意形成、合意の役割という意味までは同じ役割。
  ○ 賃金水準は、産業や職種ごとに相場が形成され、結果、明らかな産業間賃金格差が生じている。したがって、最低賃金制度全体としての実効性を確保するためには、地域別最低賃金に加えて産業別最低賃金が必要であり、現行産業別最低賃金が当該産業における事業の公正競争確保と実効ある賃金の底支え機能として果たしている役割は大きい。
  ○ 「わが国唯一の企業の枠を超えた産業別労働条件決定システム」ともいえる産業別最低賃金制度は、労働市場変化の中で、その機能や役割がますます重要になってきている。
  ○ 産業別最低賃金は、こうしたわが国特有の労使関係の土壌の上に、当該産業労使の団体交渉の補完的機能を有した産業ごとの最低賃金決定システムとなっている。地域や当該産業における労使関係の安定や事業の公正競争確保に果たしている役割は大きい。こうした機能と役割の重要性にかんがみ、産業別最低賃金の拡充に向けた政策強化を図るべき。具体的には、高齢化の進展や産業構造の変化を踏まえ、医療、介護などの福祉、自動車運転手などの分野への拡充が求められる。

 《慶應義塾大学清家教授》
  ○ 最低賃金というのは、基本的に労働の需給という観点から言えば、供給側の最低限の生活水準を担保するといった趣旨のものであり、その水準があくまでも供給側にとってそれ以下の賃金は困るというレベルとして決まるとすれば、それが産業別に異なるということについて、経済学的な説明が難しいのではないか。
  ○ 派遣・請負の場合に派遣先、請負先の産業別最低賃金が適用されないと二重構造ができてしまうのではないか。

 《社会経済生産性本部北浦部長》
  ○ 新産業別最低賃金は実態はともかくとして、理想としていたものは、職業別であり、また一人前であり、さらには労使の申出、労使交渉の補完という、いわば現状の賃金の決定機構、メカニズムといったものの中の1つの位置づけを持つといったことが思想的にはあった。
  ○ 実際の賃金決定に及ぼす機能の面では、一人前という18歳で切ったことによって企業内の最低賃金との連動性が出てきた。パートタイム労働者の賃金、下請単価において産業別最低賃金機能がそれなりの標準として機能してきた。
  ○ 産業別最低賃金の意義については、最低賃金法にある労働条件の確保という部分のほか、副次的、二次的なものではあるが、一段、賃金水準の高いところにおいての公正競争、あるいは産業内の賃金格差の是正という機能は、それなりの機能を持っているのではないか。
  ○ 労働組合の組織率が低下している中において、組合がない領域、そこにおいても労使交渉で賃金は決めるのだと、この考え方を貫いていくためには、まさに最低賃金というものが一定の役割を果たしてきたし、日本の現状から考えるとまだそこの機能はあるのではないか。そのことは、より端的には、賃金紛争の防止という観点からもあり得るわけで、まさにそういった賃金決定メカニズムの補完機能、あるいは代替機能といった面から考えると、業種という単位はやはり捨て難い面がある。

 《神代横浜国立大学名誉教授》
  ○ 4割とか5割など明確に差があれば基幹労働者のための最低賃金ということで、別に設定する意味があるかもしれないが、5%の差もないようなものは作っておく必要があるのか。


(2) 審議会方式(最低賃金法第16条、第16条の4)と労働協約拡張方式(最低賃金法第11条)、国の関与のあり方

 《電機連合加藤部長》
  ○ 労働協約の拡張方式がなかなか根付かない背景の一つは、申出要件が厳しいことにあるのではないか。もう一つはヨーロッパは産業別の労使交渉、産業別の労働協約という労働条件決定システムがあるが、日本は企業内労働協約であり、それを地域や産業レベルに広げるという発想、土壌がないことがある。もう一つは、日本の場合、地域単位に業界団体が存在するのはまれであることもある。

 《慶應義塾大学清家教授》
  ○ 産業別の賃金格差というのはあっていいと思うし、またそれぞれの産業ごとの労使関係によって産業別に同じような仕事をしている人であっても、産業が異なることによって賃金が異なるということはあるかと思うが、そういった産業別の賃金格差を、罰金といった刑事罰を持っている強行法規によって、担保する必要があるかどうかということについては、議論の余地があるのではないか。
  ○ 産業別最低賃金に代わる産業別労働協約の拡張適用ルールのようなものを一方で整備しつつ、産業別の最低賃金制度についての見直しを行っていくということができるかどうか、検討していただく必要がある。

 《社会経済生産性本部北浦部長》
  ○ 現実には公正競争ケースが圧倒的多数になっていったわけだが、本来労使交渉とまでいうのなら、最低賃金法第11条の最低賃金が本流になるべきではないかというのがそもそもの議論だと思う。11条の最低賃金をどうしていくか、もう少し要件緩和するか、そういう議論の中で、労組法との兼ね合いの中において、なかなか動かし難い、そういった流れの中で一つの便法というか、審議会方式との妥協の中で16条の4という申出という要件をかませた特殊類型ができあがった。

 《神代横浜国立大学名誉教授》
  ○ 公正競争ベースの産業別最低賃金は、あまり有効ではないのではないか。仮に全廃しないで一部分を残すとしても、刑罰の対象にするのはどうか、産業別最低賃金というのは、もともと協約最低賃金の代替物みたいなものであるから、本来は労働協約で組合が自由にやれるのならやればいいだけの話のものを、あのようにしているわけであるから、刑罰は外したらどうかという議論がある。


最低賃金の体系のあり方に関するこれまでの研究会における主な指摘事項


(1) 地域別、産業別、職種別といった設定方式、産業別最低賃金制度のあり方

  ○ なぜ特定の産業だけがその地域の最低賃金より高く設定され、しかも産業によってばらばらに決まっていくのか。

  ○ 産業がボーダレス化し、労働者が産業によってそれほど特性が違うわけでないにもかかわらず産業別に最低賃金が別になっているときに公正競争が維持できているといえるか。

  ○ 産業別最低賃金の設定は都道府県単位で行われているが、県を越えての公正競争の担保が実は全国一律ではないために、果たしてそれができているのかどうか。県境どころか国境を越えての競争が出てきている中で果たしてどうか。

  ○ 最低賃金法第1条で「賃金の低廉な労働者」という場合、公正な賃金のことまで含んでいるのか。

  ○ 業種転換が頻繁に起こったり、産業のボーダレス化が起こったり、請負や派遣労働者が増えてくると、産業別最低賃金が労働者の姿をうまく反映しているかどうかというのは非常に疑わしくなってくる。

  ○ 請負、派遣が増加するとか、異なる産業でも同じ職種があり、労働市場の広がりは産業を超えていて、産業別最低賃金がそれに適応できていないとなると、もし代わるものをつくろうとしたら職種とかでいくことになるのではないか。

  ○ 生計費を確保するのが地域別最低賃金で、より高いレベルで事業の公正競争を確保するのが産業別最低賃金だという二元的な考え方をずっととってきたと思う。経済環境の変化や雇用状況の変化もあって、伝統的に日本の最低賃金制度がとってきた二元主義的な考え方が正しいのかどうかをもう少し、特に公正競争がよく分からないので、そこのところにメスを入れる必要があるのではないか。

  ○ 公正競争ということでいろいろ議論があるのは賃金格差に着目して決定する公正競争ケースについてであって、労働協約ケースでは労使自治、団体交渉の促進、賃金決定のあり方であり、問題ないのではないか。

  ○ (労使自治とか団体交渉の促進などというとき)そこに国が関与する必要があるのかどうか。労使がやればいいのではないかという考え方もある。

  ○ 労使交渉の促進とかは、経済学では最低賃金の役割としては考えてこなかったのではないか。


(2) 審議会方式(最低賃金法第16条、第16条の4)と労働協約拡張方式(最低賃金法第11条)、国の関与のあり方

  ○ 産業別といっても、協約の拡張適用という労組法の制度ではなくて最低賃金法の制度だとすれば、審議会の意見を聴いて行政機関が決定するシステムを採らざるを得ないのではないか。

  ○ 罰則で確保するのは地域別最低賃金だけでいい。それより高い事業の公正競争という意味での最低賃金を残すならば、それは民事的強行性だけで、刑罰とは引き離した方がいい。

  ○ 最低賃金法第11条の労働協約の拡張方式は、日本の実態に合っていないため制度としては死んでいる。今の第16条の4の審議会方式の中の、いわば要件を緩和した協約の決定による産業別最低賃金方式を独立させて、協約方式とした方がいい。

  ○ 基幹的労働者の最低賃金を最低賃金でしっかり確保していくという理念でいけば、パートタイム労働者の人たちを基幹的労働者に入れるのか、入れないのかがもう1つ大きな議論になってくる。しかも、今度、労働協約を拡大適用という形になってくると、パートタイム労働者、あるいは派遣労働者など、そもそも現在の労働組合の人たちが同じ組合として入れることを望んでいるのかということまで一緒にしなければいけない、という形のものを国として規定した方がいいのかどうかということも議論の対象になる。


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