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血漿分画製剤の製造工程中のプリオン除去等に係る安全性確保について

(H17.1.21 運営委員会資料)

1 経緯

 (1)平成15年3月に血液から血液への羊におけるプリオン病の感染事例を受けて、国内での輸血用血液製剤についての献血者の渡航先についてEUから全欧州に対象地域を拡大する結論(血液製剤安全技術調査会、伝達性海綿状脳症対策調査会)。
 (2)同両調査会の結論に基づき、血漿分画製剤について、製造工程がプリオンの不活化・除去に効果があるという報告もあることから、採血国に制限を行わないが、各製品後の工程について評価を行うよう製造業者等を指導(平成15年4月)。
 (3)同両調査会の結論に基づき、血漿分画製剤原料の血液及び医薬品原料の原料尿については、vCJD発生国(英国、フランス、イタリア)で採血・採取されたものを使用しないよう指導(平成15年4月)。
 (4)平成15年12月に英国で輸血によるvCJDの伝播の疑いのある第1症例の報告。ひきつづき、平成16年6月に第2症例。
 (5)平成16年9月には、英国政府が、過去に英国産の血漿から製造された血漿分画製剤を使用した患者に対して、リスクは低いものの、vCJDに対するリスクがあることを警告することとした。

2 現状について

 (1)日本で現在販売されている血漿分画製剤及び過去に販売していた血漿分画製剤に「英国産血液」が使用されたことはないことの報告を製造業者から受けている。
 (2)平成15年4月の指導に基づき、平成16年9月17日時点で各社から提出された製造工程中の評価については、概ね別表のようである。各工程について、自社試験又は文献により評価が行われているものが報告されている。各製造工程における評価においては、プリオンに関する不活化・除去に一定の効果が期待できる状況である。
(1)エタノール分画
(2)PEG分画
(3)グリシン分画
(4)イオンクロマト処理
(5)ナノフィルトレーション
(6)アフィニティークロマト
 (3)一方、プリオンの製造工程中での不活化・除去についての試験方法・評価方法については、現時点でもコンセンサスの得られた方法はなく、その不活化・除去効果についてvCJD感染の実態を反映したものかの検証が必要であると指摘されている。また、そのような状況も踏まえ、製造工程の評価については容易に製品間の比較等が行われる状況ではない。
(1)現在の工程評価は、vCJDのモデルとして感染動物の脳が使用されているが、調整方法(脳ホモジェナイズ、ミクロソーム分画、Caveolae様部分、精製PrPsc)が統一されていない。
(2)人の血液中での異常プリオンの存在様態(単一分子、重合体、又は他の因子との結合体等)の解明がなされていない。
(3)感染性の実態(感染単位、感染経路)が解明されていない。
 (4)外国当局においては、EUが2004年6月に「CHMP Position Statement on Creutzfeldt-Jakob disease and Plasma-derived and Urine-derived Medicinal Products, EMEA/CPMP/BWP/rev 1」を発表している。ここでは、要約すると次のことが述べられている。
(1)一定期間以上英国に居住した経験のある者を血液製剤のドナーから排除すること、
(2)血漿分画製剤の製造工程はvCJD感染因子が原料血漿中に存在しても、低減させることができることが示されているが、製造業者は各製造工程を調べ、感染性がその固有の工程でどの程度低減されうるか調査するよう求めること、
(3)製造業者は各規制当局と相談し、この勧告を発展し、製造工程の評価に関する指針を作成中であること

3 今後の予定

 (1)これらの情報については、EUのガイドラインの指摘する評価方法の問題も踏まえつつ、伝達性海綿状脳症対策調査会においても評価をいただく予定である。
 (2)各製品において存在する製造工程に対してすべての工程の評価を引き続き行うように指導する。また、その際に可能な限り自社の工程での試験を行い製品に固有の製造工程におけるデータを評価するよう指導する。
 (3)エタノール分画Iから製造される成分については、プリオンの除去に効果があると考えられる精製工程等を追加することにより、さらなる安全性の確保に努めるよう指導する。



血漿分画製剤の製造工程における異常プリオン除去効果の評価状況 (平成16年10月20日現在)

 各工程毎に異常プリオンのクリアランス評価を行った製品の数を記載: 実数は当該製品の工程にクリアランス試験を実施したもの、( )内数は文献から考察したもの
分類 販売名 推定Rf値の範囲(Log) エタノール分画 その他分画
PEG分画
グリシン分画
精製工程
イオン交換、アィフニティー、ナノフィルトレーション
その他の処理
FI FII+III FIII FIV-1 FIV-4
フィブリノゲン フィブリノゲンHT-Wf、ベリプラスト/Pコンビセット、タココンブ、ボルヒール、ティシール-デュオ(未発売)、ティシール 1.6〜4.9 2/6         2/6 1+(1)/6 2/6
            文献5  
トロンビン トロンビン・ヨシトミ、献血トロンビン経口・外用剤、注射用アナクトC、ボルヒール、ベリプラスト/Pコンビセット、ティシール-デュオ(未発売)、ティシール 1.5〜7.2 1+(3)/7           6+(1)/7 1/7
文献2,4,7           文献3,5,8  
血液凝固第VIII因子 コンコエイト-HT、コンファクトF、クロスエイトM 1.7〜10.7 (1)/3         (1)/3 2/3  
文献10         文献2    
血液凝固第IX因子/複合体/迂回活性複合体 PPSB-HT「ニチヤク」、ノバクトM
クリスマシン−M、プロプレックスST、ファイバ
1.5〜8.9 (2)/5 1/5       (1)/5 3+(1)/5  
文献3,4,7         文献7 文献3,5,8  
血液凝固第XIII因子 ボルヒール、ティシール-デュオ(未発売)、ベリプラスト/Pコンビセット、フィブロガミンP 1.8〜8.2 2+(1)/4 2/4       1/4 1/4 2/4
文献2,7              
人アンチトロンビンIII ノイアート、献血ノンスロン注射用、アンスロビンP(献血)、アンスロンビンP-ベーリング、(タココンブ、ベリプラストPコンビセットは製造工程中に使用) 3.9〜15.0 2+(2)/4 2+(1)/4         1+(1)/4 2/4
文献1,2,4 文献1,2,3         文献5  
人免疫グロブリンG グロブリン-Wf、ガンマグロブリン-ニチヤク、ヒスタグロビン
ベリグロビンP
5.0〜13.3 1+(3)/4 1/4 2+(2)/4     1/4 1+(2)/4  
文献1,2,4,7 文献2 文献1,3,4       文献5,8  
ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン 献血グロベニン-I-ニチヤク、献血ヴェノグロブリン-IHヨシトミ、ヴェノグロブリン-IH 5.1〜11.0 (2)/3   (1)/3     (2)/3 2+(1)/3  
文献1,2,4   文献3,4     文献6 文献5,8  
スルホ化/ペプシン処理人免疫グロブリン ベニロン、献血ベニロン-I、献血静注グロブリン“化血研”、ガンマ・ベニンP 5.5〜9.1 1+(3)/4   4/4       3/4  
文献2,7   文献2          
イオン交換樹脂/pH4処理人免疫グロプリン ポリグロビンN、サングロポール、ガンマガード 5.3〜15.2 1/3   2/3       1/3 1/3
文献3   文献3,9       文献9  
抗HB人免疫グロブリン 静注用ヘブスブリン-IH、ヘブスブリン、乾燥HBグロブリン-ニチヤク、ヘパトセーラ、抗HBs人免疫グロブリン「日赤」 5.6〜13.3 (5)/5   1+(3)/5     (1)/5 2+(3)/5  
文献1,2,4,7,10   文献1,3,4     文献6 文献5,8  
抗破傷風人免疫グロブリン/破傷風抗毒素 テタノブリン、破傷風グロブリン-ニチヤク、テタノセーラ、テガタムP、テタノブリン-IH 5.0〜13.3 (3)/5 1/5 2+(2)/5     (1)/5 2+(3)/5  
文献1,2,4,7 文献2 文献1,3,4     文献6 文献5,8  
抗D人免疫グロブリン 抗D人免疫グロブリン-Wf、
抗Dグロブリン-ニチヤク
6.1〜13.3 (2)/2   (2)/2       (2)/2  
文献1,2,4   文献1,3,4       文献5,8  
人血清アルブミン
人血漿たん白
献血アルブミン−Wf、献血アルブミン-ニチヤク、献血アルブミン“化血研”、赤十字アルブミン、ブミネート、アルブミン「バクスター」、アルブミン・カッター、アルブミナー、アルブミン-ベーリング、献血アルブミネート-ニチヤク、プラズマネート・カッター、プラズマ プロティン フラクション 5.0〜15.8 4+(5)/12 8+(4)/12   6+(6)/12 3+(1)/12   1/12  
文献1,2,3,4,7,10 文献1,2,3,11   文献2,3,4,11 文献3      
活性化プロテインC、人C1インアクチベーター、人ハプトグロビン ハブトグロビン注−ヨシトミ、ベリナートP、注射用アナクトC2500単位 3.1〜19.8 1+(2)/3   (1)/3     (1)/3 1+(1)/3 1/3
文献1,2,4,7   文献1,2,3     文献3,7 文献5  

表の見方に関する注意

 販売名欄は、製造工程が同じ、同一販売名・規格違い製剤については、一つの販売名に集約して収載した。
 製造工程中で使用されている血液成分については参考として可能な限り記載したが、添加剤としてのアルブミンについては省略した。それらの成分については、表中の「分母」には含めていない。
 推定Rf値は、プリオンのクリアランス指数(Log)である。
 推定Rf値は、文献調査、予備試験結果を含んでおり、また、様々なプリオン検出方法、添加試料を用いて得られたものであることから、統一された試験方法、評価基準がないため、相互に比較が困難であるり、同一分類内の各製剤毎の推定値の範囲を最大値と最小値を目安として表示することに留めるものであることに注意。
 製品のRf値は各工程の合算値で表しているが、全工程を対象とした実際のRf値は必ずしも工程毎のRf値の合算値と一致しない場合がある。


 文献
1Cai K. et al. Biochimica et Biophysica Acta 2002; 1597: 28-35
2Vey M. et al. Biologicals 2002; 30: 187-196
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