資料2 |
目次 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
|
I 医療計画制度を取り巻く環境の変化 |
医療計画制度が1986年8月に施行されて以来、47都道府県における医療計画の作成は、1989年3月までに一巡した。その後、5年以内の期間ごとに改定を重ね、全ての都道府県において医療計画の改定が行われている。 医療計画の内容は、医療圏を設定し、基準病床数を算定することにより適切な病床数を確保すること、救急医療等の記載事項に基づき二次医療圏に必要な医療機能等を確保するため関係者間での調整を行うこと等で構成されているが、基準病床数の算定に係るもの以外、現行制度の下では具体的な目標となる数値がなく、都道府県が実効性をもって医療計画の内容の実現に向け推進でき、住民等がその内容を客観的に評価できる事項が少ない。 また、医療計画の内容の実現に向けて、政策目的達成の有効な手段の一つである補助金については、現状では、都道府県における医療計画の作成のための「医療計画推進事業」や医療施設の機能分化を推進するための「医療機能分化推進事業」に係る補助金があるが、これらによって二次医療圏ごとの医療施設の機能分化や連携が図られているとは言えず、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」に基づく国庫補助負担金の改革(いわゆる三位一体改革)を通じ、保健医療提供体制に関係する各種の国庫補助負担金と医療計画制度を密接に関連させ、都道府県が自らその裁量性を発揮し、医療計画に定めた医療提供体制の確保に向けた実効性のある補助金制度に改革する必要がある。 そのほか、医療計画を取り巻く環境としては、以下のことがあげられる。こうした環境にあることを踏まえ、今後の医療計画制度のあり方については、最終利用者である住民や患者の声が、医療計画にうまく反映されるよう、更なる工夫が望まれる。また、保健、健康増進、福祉、介護など関連した計画との整合についても重要な課題である。 |
1. | 国の役割及び都道府県の役割 国及び都道府県の役割としては、医療サービスに係るルールを明確にし、モニタリング、評価などを行うことを通して、質の高い医療サービスが患者に提供されるようにすることが期待されている。 また、医療サービスの安全性や医療サービスのアクセスの公平性、必要なときに誰でも医療サービスを受けることができる、いわゆるセーフティー・ネットの確保といったことが一層期待される傾向にあることを踏まえると、国及び都道府県の役割としては、直接医療サービスを提供する機能(役割)よりも、医療サービスに係るルールを調整する機能(役割)、医療サービスの安全性や医療サービスのアクセスの公平性を監視する機能(役割)等を果たすことへの期待が高まっている。 さらに、国と地方に関する「いわゆる三位一体の改革」の推進により、今後は都道府県の権限と責任が大幅に拡大され、歳入・歳出両面での都道府県の自由度が高まることで、真に住民に必要な行政サービスを都道府県が自らの責任で自主的・効率的に選択できることになる。このため、医療提供体制の整備においても、国民皆保険の下で、国民がどの地域においても、安全・安心で一定水準の医療を受けられることを前提とした上で、都道府県が地域保健・健康増進体制と医療提供体制との連携を充実・強化し、限りある保健医療資源の有効な活用に向けて都道府県が主体的に取り組めるようにすることが重要である。これらを踏まえ、厚生労働省においては平成18年度から、保健医療体制関係の補助金を一本化し、透明性の高い客観的指標に基づく交付額算定が可能となるよう改めることとしている。 こうした補助金制度の見直しも併せて進めながら、生活習慣病の予防に始まって、医療機能の分化・連携そして介護サービスの提供につながる一体的な保健医療提供体制を都道府県において構築できるようにし、もって、良質かつ効率的で患者・住民の視点に立った医療提供体制が整備されるよう医療計画制度を見直す必要がある。 |
2. | 医療制度改革の方向性に沿った医療計画の在り方 今後のわが国の医療提供体制の改革については、患者と医療人との信頼関係の下に、患者が健康に対する自覚を高め、医療への参加意識を持つとともに、予防から治療までの医療ニーズに応じた多様なサービスが地域において一貫して提供される患者本位の医療を確立することを基本とすべきである。このためには、患者が地域の医療サービスを客観的に選択できるための情報提供の推進、質の高い医療を効率的に提供するための医療機関間の機能分化・連携の推進と医療機関を支える医療法人をはじめとした開設主体ごとの経営効率の向上と透明性の確保、医療を担う人材の確保と資質の向上、生命の世紀の医療を支える基盤整備などの分野での改革が必要とされている。 このような状況の中で、医療計画がこれらの改革に資するための都道府県段階における実行計画としての機能をより発揮するため、医療計画制度そのものの積極的な見直しが求められている。 |
3. | 医療に関する規制改革と医療計画 2004年12月に規制改革・民間開放推進会議が提言した第1次答申では、医療計画におけるいわゆる病床規制について以下のことが指摘されている。
これらの指摘を踏まえ、医療計画制度の見直しを行う必要がある。 |
4. | 我が国の今後の医療需要の変化等への対応 今後の疾病構造については、早期の退行性病変、がん及び循環器疾患から、後期の退行性病変、すなわち老人性痴呆や寝たきりに移行してくると考えられる。また、これから10年後には人口の4分の1が65歳以上に、さらに30年後には3分の1が65歳以上という社会を迎えるわが国の高齢者についていえば、一般に多種の慢性疾患を抱え、増悪と軽快を繰り返すことから、医療サービスを提供する側は、このように慢性化し、かつ、急変する1人1人の医療需要への適切な対応が求められ、医療機能の分化と連携の推進が不可欠となる。 また、近年の医療事故の多発によって国民の医療に対する不信感が高まり、安全で良質な医療サービスの提供が強く求められていることなど、大きな課題が存在する。 このような課題に対応するため、医療計画制度を見直すことによって、医療提供体制に係るシステムの再構築を図ることにより、国民の医療に対する信頼を回復するための重要な手法とすることが期待される。 |
5. | 患者の視点の尊重 厚生労働省が2003年8月に公表した「医療提供体制の改革のビジョン」における大きな柱は患者の視点の尊重であり、
等を通じ、患者が望む医療を実現していくこと、そして、こうした患者の選択を通じて医療の質の向上と効率化が図られることが期待されており、医療計画制度においても患者の視点に沿った見直しが求められている。 |
II 今後の医療計画制度のあり方について |
1. | 医療計画制度のあるべき姿 医療計画制度については、先に述べたとおり、具体的な数値目標が示されていないことや、これまではとりわけ病床数の適正化を目的とし、特に制度発足当初は、必要病床数の算定による病床規制に主眼が置かれる傾向にあったことが指摘できる。近年では、医療資源の量的な充実に伴い、質の高い医療の確保に加え、医療機能の分化と連携の推進等が求められる傾向にあり、医療計画制度のあるべき姿も見直される必要がある。 また、「いわゆる三位一体の改革」の推進を踏まえ、医療提供体制の整備においても、国民皆保険の下で、国民がどの地域においても、安全・安心で一定水準の医療を受けられることを前提とした上で、都道府県が地域保健・健康増進体制と医療提供体制との連携を充実・強化するとともに、介護サービス提供体制とも密接に連携をとることが重要である。生活習慣病の予防、医療機能の分化・連携そして介護サービスの提供につながる保健医療提供体制の構築が都道府県で実施できるよう医療計画制度のあるべき姿を見直す必要がある。 医療を取り巻く状況、現行の医療計画制度の問題点等を踏まえると、医療計画制度が今後目指すべき方向、すなわち、医療計画制度のあるべき姿について、次のとおり提言したい。
|
2. | 医療計画に盛り込まれるべき内容 |
(1) | 目的 わが国の患者の医療需要の変化等に対応した医療提供体制を実現するための手法として医療計画が実効性のあるものとなるためには、都道府県が具体的な数値目標を掲げて医療計画を作成するよう、医療法等においてその考え方を明確に定める必要がある。 このため、これまで医療計画制度の目的であった「地域における適切な医療の確保」と「医療提供体制に係る地域格差の是正」に加え、医療計画制度において「患者の望む医療の実現」と「質が高く効率的かつ検証可能な医療提供体制の構築」をその目的に新しく位置づけるべきである。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
(2) | 圏域
| ||||||||||||||||||||||||||||||||
(3) | 基準病床数
| ||||||||||||||||||||||||||||||||
(4) | 記載事項
| ||||||||||||||||||||||||||||||||
(5) | 病床の特例
| ||||||||||||||||||||||||||||||||
(6) | 既存病床数の補正
|
3. | 作成手続き |
(1) | 医療計画を有効に機能させるための情報収集等 医療計画が有効に機能し実施されていくためには、地域の実情を踏まえた具体的な数値目標の設定、設定した数値目標に向けて現実に実行に移すための医療計画の作成そして数値目標の定期的な評価と医療計画の見直しという一連の政策の流れを確立することが必要である。 このような一連の政策の流れを実効性あるものにするためには、医療計画の作成と実施に必要な時間、予算及び地域の医療機能を把握するための調査手法の3つが重要な要件となる。特に、地域の医療機能を把握するための調査手法については、これまでの国や都道府県、あるいは市町村で行った調査内容をまず分析し、それをもとに必要な部分を補うための費用対効果の高い調査を行うようにすべきではないか。そしてこれらの調査の過程において医療計画を点検し、評価できるような仕組みを当初から考えておくと効率的である。 一方で、現在、都道府県においては、医療機関の施設、設備、症例数、平均在院日数、紹介先とその件数及び専門職員数等に関する調査(医療機能調査)を行い、調査に基づき医療機能の整備の必要性を検証し、不足している医療機能については、その整備の方法及び整備の目標等について医療計画に記載しているところであり、今後とも、医療計画の数値目標の設定と評価を行う際の基礎資料として、医療機能調査を充実し、有効に活用すべきである。 |
(2) | 関係者等の意見調整(関連する他の計画との調整) 医療計画の作成に当たっては、医療計画に関係する部局との連携を図り、数値目標の設定を適切に行うのみならず、執行管理、評価そして医療計画の見直しを含めて効率的・効果的に実施できるような組織横断的な体制づくりが不可欠ではないか。その際、健康づくり対策、介護保険、母子保健等、関連のある他の計画等との調整を行う必要がある。 また、市町村、関係団体、学識経験者、健康増進事業実施者等の意見を反映しながら計画を策定する必要がある。 |
(3) | 住民参加を求める仕組み 医療計画を通じて患者の視点を尊重した医療提供体制を実現するためには、情報の発信者(専門家、行政機関、医療機関、健康増進事業実施者等)と、患者や住民との間の情報量の格差を是正する仕組みが必要である。 住民が計画作成に積極的に参加し、住民の医療ニーズを反映した医療計画を作成するためには、住民が有する情報量を増大させ、医療機関、医師会、健康増進事業実施者等の関係団体及び都道府県が有している情報量との格差を可能な限り是正していく必要がある。 また、情報の格差の是正については量的なものに限らず、解釈するための能力の格差を克服する必要がある。情報量の格差の克服は、情報公開による対応が必要であり、解釈するための能力の格差の克服のためには、都道府県又は専門家側が住民に対して、わかりやすい言葉で説明し十分かつ対等な立場で議論できる環境を整備する必要がある。 具体的な住民参加の手法としては、積極的な参加を拡充する方策として、パブリックコメント、アンケートなどが制度的に用いられているが、実際に住民の意向がどの程度反映されるかについては保障され得ない。現実には、専門性の高い分野ほど住民側の持つ情報の量が乏しいと考えられ、その意向が反映される程度は制限されることに配慮すべきであり、積極的に住民が参加できるシステムを構築する必要がある。 さらに、都道府県においては、各医療機関が設備、提供する医療サービスの内容、症例数、平均在院日数、専門職員数など医療機能調査によって把握した結果の情報整備及び公開を積極的に推進することによって、住民をはじめとする利用者や各医療機関、その他の関係者が当該情報を活用できるよう環境整備に取り組み、医療機関の機能分化と連携、患者の選択を通じた医療の質の向上を推進すべきである。 |
4. | 医療計画に基づいた都道府県の執行管理と推進の方策 |
(1) | 医療計画に基づいた都道府県の執行管理の方策 医療計画が有効に機能し実施されていくためには、地域の実情を踏まえた具体的な数値目標の設定、目標に向けて実施するための医療計画の作成、定期的な評価とそれに伴う医療計画の見直しが必要である。 例えば、住民の視点に立った評価手法として、後述する「ライフコースアプローチ」(主要な疾患・健康問題について、患者の病態に応じて必要となる医療サービスごとの供給量や質に係る指標を用いて、地域ごとの医療サービスの現状を把握し、整備・改善のための数値目標を設定することにより地域医療水準の定量的評価を行う方法。)を用いる場合には、まず、(1)地域の医療機能をはじめとする実情を把握した上で、(2)当該地域における確保すべき医療提供体制についての指標を設定し、(3)設定された指標について具体的な数値目標を定める。そして(4)この数値目標を達成するための活動計画としての医療計画を作成し、(5)一定期間の後に、数値目標と現実の達成度とを比較して評価を行い、(6)評価結果のフィードバックにより医療計画の見直しを行う、という過程を経て医療計画の執行管理を行うこととなる。指標の設定については、原則として、都道府県が地域の保健医療に関して抱えている課題の実情に即して決定する必要があるが、全国的な課題については、都道府県間の比較ができるよう、国において共通の指標を導入することも検討する必要がある。 このように、医療計画の進捗状況を逐次把握し、定期的な評価を行うことにより、医療計画の推進に関して関係者の動機付けを図るとともに、評価結果に基づき、執行方法や医療計画の内容を見直すことが可能となる。 都道府県における行政の透明性の確保と説明責任を果たすためにも、医療計画の作成プロセスの明確化と評価結果の住民への公表など積極的な情報公開が必要ではある。 | ||||||||||
(2) | 都道府県の医療計画推進の方策 都道府県の医療計画担当者に対し、医療計画を推進する際に有効な方法について、アンケート調査(「医療計画策定のための調査」(2001年3月))を行った結果、有効とされたものは次のとおりであった。
医療計画の推進方策として、都道府県の担当者は「計画推進のための委員会の設置・開催」が最も有効であると考えている。市民へのPRも4番目に入っているが、委員会の開催や医師会、病院協会の会合に出席すること等に比べると順位が低い。先に述べたように、従来の医療計画は、医療提供側の視点を中心に作成される傾向が強く、患者や住民等、消費者側の視点が反映されにくいものとなっていることが推測される。 このため、今後は医療計画の具体的な数値目標や評価結果等について、都道府県が住民に対し積極的に情報公開することにより、住民の意見が反映され、都道府県や医療提供側が住民等、消費者側のニーズに即した医療サービスの提供を実施していくインセンティブを働かせることが重要である。 また、アンケート調査によると、医療計画の推進方策として「補助金を出す」ことが有効である。国や都道府県においても、医療提供体制の整備に関する国庫補助負担金は種々あるが、医療計画とこれら医療提供に係る各々の国庫補助負担金との整合性が十分図られていないのが現状である。今後、医療提供体制の充実を図るための総合的な計画として医療計画を位置づけ、推進するためにも、都道府県における国庫補助負担金等関連制度の運用に当たっては、医療計画と有機的関連づけを図り、もって国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保する必要がある。 |
5. | 医療計画に関する評価とその結果の都道府県行政への反映 |
(1) | 評価の重要性と評価方法 医療計画の実効性を上げるためには、具体的な数値目標の設定と評価を行い、医療計画の推進に関して関係者の動機付けを図るとともに、評価結果に基づき、執行方法や医療計画の内容を見直すことが重要である。 都道府県における行政の透明性の確保と住民に対する説明責任を果たすためにも、医療計画の作成プロセスの透明性の確保と評価結果の公表が必要である。 評価を行う時期については、事前・中間・事後の3種類があり、評価方法も定性的な方法又は定量的な方法の両方がある。評価を効率的・効果的に行うためには、医療計画を作成する際に、同時に評価方法等についても検討し、でき得る限り定量的な方法で実施することが必要である。そのためにも、評価の手法、着眼点等については、あらかじめこれを明らかにしておくことが重要ではないか。あわせて、これらを補強するためにも医療機能調査の充実が有効である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(2) | 目的の明確化 評価を行うためには、医療計画の目的が明確化されていることが必要である。なぜなら評価というのは目的の達成度を測定することだからである。しかし、目的は階層構造をなしており、一つの要因のみで目的を達成しうることは一般的に少ない。その要因が目的達成にどのくらい影響を与えたかを明らかにするためには、目的の階層と因果の構造を明らかにし、影響する他の要因を同定する必要がある。
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(3) | 住民の視点に立った評価方法(ライフコースアプローチ)の提案
|
III 当面取り組むべき課題 |
IIの今後の医療計画のあり方を展望しつつ、第4次医療法改正の趣旨を踏まえ、また、規制改革・民間開放推進会議第1次答申において平成17年度早期に措置することが求められていることを考慮すれば、当面取り組むべき課題として、以下のとおり、基準病床数の算定式を作成する必要がある。その際、社会経済状況の変化等に対応した同じ医療圏内において一般病床から療養病床、あるいは療養病床から一般病床への転換が硬直し妨げられることに対し配慮することが必要である。 |
○ | 基準病床数の算定式
|