審議会における利害関係についての整理について(諸外国の事例)


 事務局において、英国(MHRA)、欧州医薬品庁(EMEA)、米国(FDA)の医薬品関係審議会の利害関係に関する取扱の事例についての情報を調査した。なお、その他の欧州諸国については、現在のところ有益な情報は得られていない。

(1) 利害関係の対象
(1) 対象となる審議事項
米国及び英国は、個別の承認等の行政判断を行うための審議会における委員
欧州医薬品庁は、個別の承認等の判断及びガイドライン等の作成に関する審議会の委員
(2) 対象となる関係者
米国は、本人、配偶者及び扶養する子等の個人的利害並びに本人の属する組織の組織的利害
英国、欧州は、本人の個人的利害及び属する組織の組織的利害
(3) 関与の特定性
英国、欧州、米国いずれも、利害関係のある企業及びその製品に係る関与(特定の利害)
英国、欧州、米国いずれも、利害関係のある製品以外の関与(非特定の利害)
欧州、米国は、審議に係る品目の競合製品に関する関与も特定の利害として対象化
(4) 対象となる行為
米国、英国は、主として経済的利害が伴う行為を規制
欧州は、経済的利害以外にも業務関与に関する利害も明確に規制
個人的利害は、共通して、株、報酬、研究費、コンサルタント。欧州は、治験への関与の行為を含む。米国においては、さらに、企業・製品関連する講演・著作、特許の保有を含む。
組織的利害は、共通して、組織及び監督下の職員及び上司に対する研究費等に関するもの。

(2) 判定
(1) 判定については、いずれも、特定の利害/非特定の利害、個人的利害/組織的利害の二つの側面から判定している。
(2) 欧州及び米国は、経済的な金銭の額において一定のクライテリアを置いているが、英国は特段の額の基準はない。
(3) 判定の種類
利害がない場合の審議への参加は可能
個人・組織の利害が合っても個別品目の関与の低度が比較的低いものについては、審議会座長の了解(英国)又は行政庁の判定(欧州、米国)により、採決に加わらない等の方法で審議への参加又は意見聴取が可能(欧州、英国)
当該委員の代わりがいない等の特定の専門分野等においては、関与の度合いにかかわらず、採決を伴わない質疑に参加することができる(英国、欧州、米国)。
ガイドライン等の一般審議については、欧州のみ規定が存在するが、その場合は、関与の低度が比較的低い場合でも、議長に選出されない他制限は特にない。

(3) 手続き
(1) 手続きとして、各行政庁に、委員は利害関係の申し出を行う。通常、選任時、1年毎。利害関係に変化が合った場合(ほぼ共通)。
(2) 各審議会の開催前に出席の可否、排除の適用除外等の判定を行う(共通)。
(3) 利害関係については、議事に残す(共通)。
(4) 英国・欧州は細かな経済的な額に関する申し出を行わないので、年次報告、又はネットで委員の利害情報を公開。
(5) 米国は、経済的な額に関する個人情報を含むため、委員の利害情報の書面は、原則非公開。ただし、審議からの排除に関する適用除外の理由については、請求に応じて開示する場合がある。



別添

 英国

 製薬業界は、大学に属する医師・薬剤師等のアドバイスを求めることが多く、商業上の利害が審議会の意見に影響を及ぼす可能性がある国民の懸念を防ぐ目的。
(1) 利害の種類
(1) 個人的利害
  コンサルタント
製薬会社・製薬産業から委託された有償の業務
製薬企業等の株の保有
(2) 非個人的利害
  企業から派遣された研究員
委員個人直接ではないが、委員の属する組織及び地位に金銭上又は物質的な利益を与える金銭その他の支援及びスポンサー(例えば、研究室の運営に対する企業の寄付・補助、委員の監督下の職員に対する研究費等、委員の監督下の職員に対する企業からの研究委託・指導)
(2) 申し出の方法及び内容
 委員は、現在の個人的利害及び非個人的利害について、厚生省に任命の際に申し出なければならない。個人的利害関係に変化が合った際に申し出る。非個人的利害の変化については年次報告(約20万円未満については報告の必要はない)。
(1) 申し出は、個人的利害、非個人的利害について、そして、特定の品目と関係がある特定利害か、又は非特定の非特定利害かの別を申し出る。
(2) 届出事項は、企業名、利害の性質(給与、研究費等の支払い額を明示する必要はない。)
(3) 審議会の長(部会長は含まない。)は、個人的利害を持ってはならない。
(3) 審議会審議への参加の可否の判断
  特定・個人的利害とは、審議品目と関係があるいかなる時点での仕事であって、個人的に当該企業から金銭を受け取った場合であり、その場合は、審議には参加できないが、議長の定めにより、審議会は意見を聞くことができる。
非特定・個人的利害とは、現在審議品目の企業と利害関係はあるが、当該品目とは利害関係がない場合であり、その場合は、審議には参加できないが、議長の定めにより、審議会は意見を聞くことができる。
特定・非個人的利害とは、委員の属する組織及び委員の監督下の組織が当該品目と利害関係にある場合であり、その場合、個人的に当該品目についての知識がない又は直接の監督関係にない場合は審議に参加できる。それ以外の場合は、特定個人的利害と同様。
非特定・非個人的利害とは、当該企業と委員の組織は利害があるが、当該審議品目と関係のない場合であり、議長が特段定める以外は、審議に参加できる。
(4) 公表について
(1) 委員の申し出内容については、厚生省が毎年年次報告として公表する。
(2) 特定の利害については、審議の議事録に記録。

 欧州医薬品庁

 公共の利益の下で委員が公平に活動することを確保するため、欧州医薬品庁に対して委員の利害関係について申し出て、欧州医薬品庁は、利害関係のリスクの基準に従い、3レベルに関する判定を行う。
(1) 利害の種類
(1) 個人的利害 コンサルタントとして給与、株又は報酬を受けること
(2) 組織的利害 委員の属する組織の契約又は研究に対する監督助言に関するもの
(2) 申し出の方法及び内容
(1) 委員は、現在の個人的利害及び非個人的利害について、欧州医薬品庁に任命の前に申し出て、登録しなければならない。利害の変化については年次報告を行うが、利害関係に変化が合った際に速やかに申し出る。
(2) 欧州医薬品庁内に科学専門職員からなる判定委員会をもうけ、そこで事務局の求めに応じて評価を行う。
(3) 届出事項は、(3)に掲げるとおり。
(3) 審議会審議への参加の可否の判断
(1) レベル3
欧州医薬品庁の活動には参加できないが、他に適切な代替できる専門家がいないような特殊な専門性を要する分野の場合は、事務局は庁の判定委員会に適用除外を申し出ることができる。その場合は、レベル2として取扱。
(2) レベル2
審議の内容と当該個人の審議での役割から次のような判断
役割 審議の内容
特定の品目に関連又は薬効群に関連する審議 ガイドライン作成等の一般審議
議長 不許可 不許可
評価 質疑には参加できるが、評価報告書の作成に関与できない。 ガイドラインの起草に関与できる。
ワークショップ及び報告書に関与できる。
採決 特定の最終質疑に応答することはできるが、採決には関与できない(退席)。最終質疑に参加でき、採決にも参加できる。
(3) レベル1
 すべての欧州医薬品庁の活動に参加できる。
(4) 利害の判断の方法
(1) 以下の出身母体と利害の関係によるスコアーを基に、レベル2の者について、(2)の基準で再評価を行う。
  委員の出身
利害の種類 企業関係者 大学等研究者 行政官
個人的利害
組織的利害
利害なし
(2) 再評価において、高次の利害レベルであれは、レベル3に、中等度であれば、レベル2に、さらに、低度であれば、レベル1として判定される。
 高次の利害関係レベル
製薬企業又はその競合企業から約600万円を超える経済的利害がある
過去1年以内に、関与した又は、コンサルタントとして当該品目の開発に関与したか、又は、当該品目に関して当該企業に雇用されていた。
過去1年以内に、当該品目又はその競合品目の治験責任医師として関与していた。
過去1年以内に、当該品目又はその競合品目の製造販売企業の運営委員会、諮問委員会の委員として関与していた。
当該品目又はその競合品目の特許を保有している。
 中程度の利害関係レベル
製薬企業又はその競合企業から約600万円以下の経済的利害がある。
過去1年間以上3年以内に、関与した又は、コンサルタントとして当該品目の開発に関与したか、又は、当該品目に関して当該企業に雇用されていた。
過去1年間以上3年以内に、当該品目又はその競合品目の治験責任医師として関与していた。
過去1年間以上3年以内に、当該品目又はその競合品目の製造販売企業の運営委員会、諮問委員会の委員として関与していた。
過去1年以内に、当該品目又はその競合品目の治験協力医師として関与していた。
過去1年以内に、当該品目と同じ薬効群の開発のコンサルタント又は治験責任医師として関与した。
 低度の利害関係レベル
過去3年以上前に、関与した又は、コンサルタントとして当該品目の開発に関与したか、又は、当該品目に関して当該企業に雇用されていた。
過去3年以上前に、当該品目又はその競合品目の治験責任医師として関与していた。
過去3年以上前に、当該品目又はその競合品目の製造販売企業の運営委員会、諮問委員会の委員として関与していた。
過去1年以上前に、当該品目又はその競合品目の治験協力医師として関与していた。
過去1年以上前に、当該品目と同じ薬効群の開発のコンサルタント又は治験責任医師として関与した。
(3) さらに、その分野が特殊な専門領域で、他に適当な専門家がいないかどうか判断される。
(4)  公表について
(1) 申し出内容については、欧州医薬品庁のホームページで公表する。
(2) 利害については、審議の毎に委員が申し出を行い、審議の議事録に記録。

 米国

 米国においては、経済的な利害の観点から、審議会委員の収入や有価証券の所有について、FDAに対して委員各人が開示(届出)することとされている。それによって、FDAが委員としての審議関与の妥当性を判断する。
(1) 利害の種類
(1) 委員自身、その配偶者、扶養する子供に関する個人的な関与及び個人的な経済的利害
(2) 委員が監督する、属する組織に関する組織的関与及び組織的な経済的利害
(3) 現在及び過去の関係
(2) 申し出の方法及び内容
(1) FDAは、製品の許認可に関連する諮問委員会の前に、委員が何らかの経済的利害に関係するかを決定する。
(2) 委員は、審議品目及びその競合品目に関する利害について以下の内容をFDAに申し出る(機密文書confidential)。
株等の投資(約50万円以下、50万円から250万円以下、250万円から500万円以下、500万円から1000万円以下、1000万円を越える)
正規・臨時雇用(現在、過去及び予定)(配偶者を含む。当該品目、競合品目に係る雇用)
コンサルタント(現在、過去及び予定)(前年の顧問料 100万円以下、100万円から500万円、500万円から)
契約、研究費(現在、過去及び予定)(上司から分担しているものを含む。1000万円未満、1000万円から3000万円以下、3000万円を超える。)
保有する特許等(審議の参加から除外。)
専門的証言(過去1年以内、現在及び予定)(審議の参加から除外。)
講演、著作(過去1年以内、現在及び予定)(約50万円以下、50万円から100万円以下、100万円を越える)
(3) FDAは、それぞれの項目について、倫理職員が、一般的利害(非特異的利害)及び特異的利害(固有の製品や固有の組織に関連するもの)を判定し、審議への参加の可否を決める。
(3) 審議会審議への参加の可否の判断
 (2)の項目それぞれについて、高度の関与、中等度の関与、低度の関与を認定し、その度合い毎に、一般的利害、特異的利害の内容に基づき、審議への参加可能、分野により他の専門家がえられない等の理由による排除の適用除外の手続き、審議からの絶対的排除をFDAが決定する(詳細は省略)。
(1) 低度の関与
 参加可能又は特異的利害がある場合にはその程度に応じて排除の除外手続きが可能
(2) 中等度の関与
 金額等に応じて排除の除外手続きが可能又は排除
(3) 高度の関与
排除又は金額等に応じて排除の除外手続きが可能
(4) 公表について
(1) 委員員の申し出内容については、機密の個人情報であり、裁判や個人情報に関する他の省庁の査察等以外は原則非公開。
(2) 特定の利害については、審議会の審議の際に審議の議事録に記録。
(3) 利害による排除の適応除外とした理由の書面については、公共の利益が個人の利益を上まわる場合等はFDAの裁量として請求により開示される場合がある。

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