(1) | 検討の経緯 現行男女雇用機会均等法は、女性に対する差別を禁止することにより、雇用の分野における男女の均等取扱いを確保しようというものである。その背景としては、実態として雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保という観点から問題となっているのは、女性に対する差別であるということがある。このことはひとり我が国だけの事情ではなく、女性が男性に比べ不利な扱いを受ける事例は世界的に見られ、それが故に女性に対する差別を撤廃するために国際連合で採択された女子差別撤廃条約など、歴史的にも国際的にも女性に対する差別を撤廃することにより男女平等の実現を希求する取組が展開されてきた経過がある。 したがって、男女雇用機会均等法の制定当初は、男性と比較して女性により多くの機会が与えられていることや、女性が有利に扱われていることについては、法が直接関与するところではないとしてきたところである。しかし、平成9年の改正により、女性の職域の固定化や男女の職務分離をもたらしているとして、女性に対する優遇措置を原則として禁止し、その結果、反射的効果として男性に対する差別も禁止されることになり、男女平等の徹底に向けた進展が図られている。 一方、海外に目を転じると、本研究会において行った諸外国の調査の結果を見ても、性に基づく差別について法律の規定の仕方としては、イギリスのように女性に対する差別の禁止を男性にも準用するという規定の例を含め、いずれも性差別それ自体を禁止しており、先進諸国では概ね男女双方を対象に差別を禁止している状況にある。また、平成11年に成立した男女共同参画社会基本法や平成14年に通常国会に提出された「人権擁護法案」においては男女双方を対象としており、実態面においても、なお厳しい雇用情勢の下で、募集、採用を中心に男性からの差別の相談が都道府県労働局等に寄せられるようになってきている。 女性に対する差別の禁止にとどまらず男女双方に対する差別を禁止するかどうかという問題は、現行の男女雇用機会均等法が女性に対する差別を禁止することを目的とするものであることから、法の基本理念に直接関係する問題であり、法体系全体に影響を及ぼすものであるが、改正男女雇用機会均等法の施行から5年が経過した現在、改めて、この問題の意義について整理することが必要と考える。 言うまでもなく、現在においてもなお男女の雇用機会均等の確保の観点から見て、より問題であるのは女性に対する差別であるということは変わっていない。仮に女性に対する差別の禁止を男女双方に対する差別の禁止とする場合、これがどのような意義を有するのかについて、特に女性に対する差別問題に関してどのような影響を与えるかという視点で見ていく必要がある。 |
(2) | 女性に対する差別禁止を男女双方に対する差別禁止とする意義 女性に対する差別禁止を男女双方に対する差別禁止とする意義としては、まず、法律上、性差別の理念が明確になることが挙げられよう。 すなわち、女性に対する差別の禁止は、そもそも「女性」という属性に基づく不合理な差別を禁止するものであるところ、女性に対する差別の禁止のみである限り、女性についてのみの保護というような福祉的な色彩をもって受け止められることも避けられないであろう。男女双方に対する差別を禁止することはこうした福祉的な色彩から脱却し、職業上の能力等他の合理性のある根拠に基づき処遇するという考えを明確に打ち出すことを意味しよう。 次に、賃金格差の縮小を始め、実質的な男女平等の推進に資するということも挙げられる。男女双方に対する差別を禁止し、男女双方に等しく性差別に関する法的救済措置が適用されることになれば、女性、男性に偏りのある職種において今よりも双方が参入しやすくなり、その結果、男女間の職域分離の是正が進むとともに、賃金を含む男女間の格差の縮小が図られることが期待される。 この他、男性に対する差別を禁止することが明確化されることにより、性差別の問題が男性の側から共感を得られ易くなり、そのことが女性に対する差別の是正にとり促進的に働くことも期待される。現行男女雇用機会均等法においては、女性に対する優遇措置を原則として禁止し、その結果、反射的効果として男性に対する差別も違法とされるにとどまるが、これが直接的に男性に対する差別を禁止し、男性も女性と同じように救済されるということになれば、男性も性差別の問題を女性だけの問題ではなく、自らの問題として捉え直すきっかけとなることになろう。そしてそのことを通じ、男性の側の理解と共感が得られ易くなることはこの問題の解消に向けた取組の環境としてプラスに働くことが期待される。 |
(3) | 男女双方に対する差別の禁止と女性労働者に係る特例措置との関係 男女雇用機会均等法は原則として「女性のみ」や「女性優遇」を含め、女性に対する差別を禁止しているところであるが、同法第9条は、事業主が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として「女性のみ」や「女性優遇」の措置を行うことは法違反とはならないこととしている。 仮に男女雇用機会均等法において、男女双方に対する差別を禁止することとした場合、同法第9条に規定する特例措置について、職種等に性の偏りがある場合には男性もその対象とするのかどうか、また、男性もその対象とする場合には、特例措置として許容される範囲について現在女性に対して許容しているものと同じ範囲とするのかについても検討を行う必要がある。 すなわち、調査を行った諸外国では、いずれも男女双方に対する差別を禁止した上で性差別に関する過去の経過などを踏まえて暫定的に一方の性に対する他方の性についての優遇措置を規定している、あるいは規定していないまでも裁判では認められているが、例えば、EU、イギリス、スウェーデンでは、男女双方について明文規定でこれを許容しているのに対し、フランスやドイツにおいては、優遇措置は女性についてのみ明文規定で許容している等その在り方は一様ではない。また、男女双方に対して優遇措置を許容する国においても、その内容については、イギリスのように、明文規定で、ある職務について一方の性が皆無か比較的少数の場合に、その仕事に関し、一方の性にのみ訓練において便宜を図ることや応募を奨励することを認める等一定の範囲に限定している国もあれば、EUのように、より広範な取組を許容している例もある(参照:資料1)。 このような特例的な優遇措置は、もともとは、固定的な性別役割分担意識や過去の経緯から女性が男性と均等な取扱いを受けてこなかったという状況の改善を図るために、政策的に暫定的な措置として実施されてきたものである。したがって、男女双方に対する差別の禁止や特例措置の在り方を検討する場合には、我が国の女性の置かれた状況、特に男女間格差の現状に十分留意して検討が進められる必要がある。 |
アメリカ | EU | イギリス | フランス | ドイツ | スウェーデン | 日本 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
雇用における性差別禁止の根拠法 |
公民権法第7編
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雇用、職業教育及び昇進へのアクセス並びに労働条件における男女均等待遇原則の実現のための指令(男女均等待遇指令)(76/207/EEC)
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性差別禁止法
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労働法典
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民法典
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機会均等法
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男女雇用機会均等法
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男女双方に対する禁止規定か | 【男女双方に対する差別禁止型】 | 【男女双方に対する差別禁止型】 | 【女性に対する差別禁止の男性に対する準用型】 | 【男女双方に対する差別禁止型】 | 【男女双方に対する差別禁止型】 | 【男女双方に対する差別禁止型】
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【女性差別のみ禁止型】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
性差別を禁止する根拠規定 | 法703条(a)「以下の行為は、使用者の違法な雇用慣行とする。(1)人種、皮膚の色、宗教、性別、または出身国を理由として、個人を雇用せず、その雇用を拒否し、解雇すること、あるいは雇用に関する報酬、期間、条件または特典について、差別待遇を行うこと。(2)・・性別・・を理由として、個人の雇用機会を奪い、奪う可能性のある方法で被用者または就職応募者を制限、分離、類別すること、あるいは被用者たる地位に不利益を及ぼすこと。」(1964年) | 指令2条1 「以下の条項において、均等待遇の原則とは、・・・直接的または間接的ないかなる性差別もないことを意味する。」(1976年) |
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法123条-1 「・・何者も以下のことを行うことはできない。・・・性別・・に基づいて異なった選択基準に準拠したり、性別・・を考慮することによって、採用を拒否したり、給与生活者に転勤を命じたり、労働契約の更新を拒否したり、取り消したりすること・・。」(1983年) | 法611条a(1)「使用者は・・・雇用契約の設定、昇進、職務上の指示、解雇を行う場合に、性を理由として不利益に扱ってはならない。・・・」(1980年) | 法15条第1項「使用者は、求職者または労働者を、同様の状況にある他方の性別の者よりも不利に取り扱ってはならない。ただし使用者が当該不利益取扱いが性別に関係がないことを証明した場合はこの限りではない。」(2000年) | 法6条他「・・労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。」(1997年) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
性差別の例外を許容する根拠規定 等 |
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