第1回院内感染対策中央会議の提言
(医療機関における集団院内感染の発生に際しての対応)


 院内感染対策については、通常時の院内感染予防(Prevention)のみならず、集団院内感染の発症時における制圧(Control)が重要であることから、全ての医療関係者は以下の事項を参考として、集団院内感染の発生時における対応のあり方について日頃より心がけておくことが望まれる。


医療機関における集団院内感染発生の判断について

 ある感染症の発生が通常レベルのものであるか、又は異常な集団院内感染によるものであるかを判断するために、自施設等の平常時の感染発生率をベースラインとして把握するとともに、異常発生か否かを判断するための目安をあらかじめ検討することは有用である。

 集団院内感染の判断に際して、原因として疑われる微生物の特性や、保菌者の重症度、発生時期、発生人数、発生診療部門等の状況についても参考にする。

 院内各部門が十分な連携を図ることにより、感染症の発生状況等がいち早く診療部門や院内感染対策委員会の構成員に情報伝達され、感染拡大を未然に防止するような体制を構築することが重要である。  (なお、血流感染症がほぼ同時期に複数の患者において発生した場合には、特に迅速な対応が求められる。)


医療機関から患者への適切な説明について

 患者等に対して、集団院内感染に関する説明を適時適切に行うとともに、患者等が不要な混乱をきたさないよう、正確な情報を平易な言葉で説明することが重要である


医療機関から自治体への情報提供について

 VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)等の院内感染対策上で重要な感染症の保菌者が集団発生した場合など、法令に基づく都道府県等への届出義務の生じない場合であっても、必要に応じて保健所に情報提供することが重要である。

 院内感染対策地域支援ネットワーク等の既存の院内感染に関する相談体制が敷かれている場合には、積極的な活用を行う。


自治体から医療機関への対応のあり方について

 都道府県等は、医療機関からの情報提供に基づき、集団院内感染の発生が重大であると判断された場合は、必要に応じて、関係者、専門家等により構成される対策委員会等の設置を検討する。

 都道府県等は、集団感染等の発生時に医療機関から相談を受け、問題点を共有できるような信頼関係を常日頃から構築するよう心がけることが重要である。

 都道府県等は、必要に応じて職員を医療機関に派遣し、聞き取り、記録の確認、医療行為の観察、拭き取り検査の実施等により、集団院内感染発生の実態把握を行うとともに、感染拡大の防止に向けた対応を迅速に行うことが重要である。  (なお、職員による調査の前に医療機関が環境消毒を行うと、具体的な感染源や感染経路の把握が困難になる恐れがあるため、医療機関と事前に十分な打合せを行う。

 都道府県等は、保健所や地方衛生研究所等の活用により、感染拡大の防止に向けた技術的助言を医療機関に対し積極的に行うとともに、場合によっては、感染制御に関する専門家の仲介を行うことが有用である。


医療機関から外部への公表について

 地域住民等に対して、集団院内感染に関する説明を適時適切に行うとともに、地域住民等が不要な混乱をきたさないよう、正確な情報を平易な言葉で説明することが重要である。

 公表に先立ち、都道府県等と必要な情報交換を行い、事前に十分な打合せを行う等、都道府県等と十分な連携を図る。


医療機関内における原因究明のあり方について

 感染経路を把握するのため情報として、感染の判明した日時・場所・症状等のほか、発症患者同士のベッドの位置関係、発症患者のベッド移動の状況、医療従事者の勤務状況等のデータを収集・分析することがが有用である。

 平常時より、各施設の診療機能等の特性に応じた、集団感染事例への対応方針を含めた危機管理体制をあらかじめ検討しておくことが重要である。

 自施設の院内感染対策委員会のみでは原因究明や集団感染防止体制の改善が困難な場合には、必要に応じて、関係者、専門家等により構成される検討会に外部評価を委ねることも有用である。


その他

 集団院内感染の発生の判断や事後対策を含め、技術面で主導的立場を担える人材を、各医療機関の判断で養成・確保することが重要である。

 集団感染の原因究明や集団感染防止体制の改善の経過は、他施設においても院内感染対策に取り組む上で十分参考となるものであるから、地域や学会等の場を活用し(場合によっては報告書等の形で取りまとめるなど)、集団院内感染事例の情報を共有していくことが有用である。

 院内感染対策について、医療安全対策の一環として総合的に取り組んでいくことも重要である。

トップへ