04/12/22 労働政策審議会安全衛生分科会第１７回議事録


　　　　　　　　　　　第１７回労働政策審議会安全衛生分科会

１　日時　　平成１６年１２月２２日（水）１３：００～１５：００

２　場所　　厚生労働省５階　共用第７会議室

３　出席者
　（委員）公益代表　　櫻井委員、北山委員、内藤委員、平野委員、和田委員
　　　　　労働者代表　高橋委員、中桐委員、徳永委員、仲田委員、眞部委員、
　　　　　　　　　　　芳野委員
　　　　　使用者代表　伊藤委員、加藤委員、金子委員、讃井委員、中田委員、
　　　　　　　　　　　山﨑委員
　（事務局）　　　　　青木労働基準局長、小田安全衛生部長、中沖計画課長、
　　　　　　　　　　　寺岡安全課長、阿部労働衛生課長、古川化学物質対策課長、
　　　　　　　　　　　川島国際室長、高橋建設安全対策室長、中村環境改善室長、
　　　　　　　　　　　角元化学物質評価室長

４　議事録

○分科会長
　ご出席予定の委員の方はおそろいですので、ただいまから第17回「労働政策審議会安
全衛生分科会」を開催いたします。本日は今田委員、名古屋委員、鈴木委員、小島委員
は所用のため欠席しておられます。この結果、労働政策審議会令第９条に規定する定足
数を満たしておりますので、当分科会が成立していることを申し上げます。
　今日の議事に移ります。今日の議題は「今後の労働安全衛生対策について」です。前
回までのご議論を踏まえて、事務局から「今後の労働安全衛生対策について」報告（案
）の資料が提出されています。今日は報告のとりまとめに向けてご議論をいただきたい
と思いますので、よろしくお願いいたします。事務局から説明をお願いします。

○計画課長
　提出いたしました資料は正式な報告の案に当たるものですので、念のために読み上げ
の形をとらせていただきます。

○企画担当課長補佐　私から読み上げたいと思います。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （案）
　今後の労働安全衛生対策について（報告）
　はじめに
　安全衛生分科会では、平成16年９月より、労働安全衛生対策の見直しについて。
　(1)事業者による自主的な安全衛生への取組を促進するための環境整備
　(2)元方等を通じた安全衛生管理体制の実現
　(3)過重労働・メンタルヘルス対策
　(4)労働者の健康情報の保護
　(5)化学物質管理の推進
　(6)その他
に関し、「今後の労働安全衛生対策の在り方に係る検討会報告書」、「過重労働・メン
タルヘルス対策の在り方に係る検討会報告書」、「労働者の健康情報の保護に関する検
討会報告書」、「職場における労働者の健康確保のための化学物質管理のあり方検討会
報告書」等を踏まえ、検討を行い、その結果を下記のとおり取りまとめた。

　第１　労働安全衛生対策をめぐる状況
労働安全衛生をめぐる状況をみると、次のような課題が見られる。
　１　労働災害は、長期的には減少してきているが、今なお、年間53万人の労働者が被
災しており、１度に３人以上が被災した重大災害は、昭和60年以降増大傾向にある。特
に、昨年の夏以降、わが国を代表する企業において爆発・火災等の重大災害が頻発して
いる。これらの要因としては、危険性・有害性の調査とそれに基づく対策の不備、安全
確保面での知識や経験の伝承不足、事業場のトップの取組不足等が指摘されており、こ
れらに対応した仕組みを導入する必要が生じている。
　また、業務請負等のアウトソーシングの増大、合併・分社化の進行、就業形態の多様
化など、企業や労働者を取り巻く社会経済情勢が変化する中で、この変化に対応した安
全衛生管理体制を構築する必要が生じている。

　２　近年、仕事に関して強い不安やストレスを感じている労働者は６割を超えるなど
労働者への負担は拡大する傾向にある。
　一方、一般健康診断結果を見ると、有所見率は年々増加の一途をたどり、平成15年で
は何らかの所見を有する者の割合は47.3％にも達している。その中でも高脂血症、高血
圧症等に関連する所見を有する者の割合が高くなっている。このような状況の下、労働
者に業務による明らかな過重負荷が加わることにより、脳・心臓疾患を発症したとして
平成15年度に労災認定された件数は310件を超え、高止まりしている。このうち過労死
の労災認定件数は157件であり、労働災害死亡件数の約１割相当にまで増加している。
また、業務による心理的負荷を原因として精神障害を発病し、あるいは当該精神障害に
より自殺に至る事案が増加し、平成15年度の労災認定件数は100件を超えている。
　このようなことから、労働者の健康確保とりわけ過重労働による健康障害防止対策や
メンタルヘルス対策をさらに進めていくことが求められている。

　３　情報化社会の急速な進展により、個人情報が大量かつ広範囲に収集・利用される
ようになったことから、個人情報の保護の必要性が高まっている。このため、個人情報
の保護に関する法律（平成15年法律第57号）が制定され、平成17年４月より全面施行さ
れることとなっており、また、同法に基づいて雇用管理の分野についての指針や健康情
報の取扱いについての留意事項が示されたところであるが、労働安全衛生法（昭和47年
法律第57号）においても必要な整備を行うことが求められている。

　４　近年、ダイオキシン類、石綿、いわゆるシックハウス問題など、職場における化
学物質の問題に対する社会的関心が高まっている。
　また、職場における化学物質は、その種類が多様で、かつ取り扱う作業も多岐にわた
る傾向にあり、有機溶剤中毒予防規則等の特別規則によって規制されていない化学物質
による疾病が半数程度を占めるとともに、重篤な障害に結びつく一酸化炭素中毒、化学
物質による爆発・火災等も依然として発生している。
　さらに、化学物質の引火性、発がん性等の危険性及び有害性について、その程度等を
区分し、その程度等に応じて絵表示を付すこと等を内容とする「化学品の分類及び表示
に関する世界調和システムに関する国連勧告」（ＧＨＳ国連勧告）などの国際的な動向
への対応も求められている。

　第２　労働安全衛生対策の見直しの方向
　第１で述べた労働者の安全衛生をめぐる状況に的確に対応するため、次の事項につい
て見直しを行っていく必要がある。

　１　事業者による自主的な安全衛生への取組を促進するための環境整備
　（１）危険・有害要因の特定、低減措置の推進
　近年、重大災害発生件数が増加傾向を示しており、特に、昨年夏以来、大規模製造業
において爆発・火災等の重大災害が頻発しているが、これらの要因の一つとして、事業
場内における設備や作業の危険性・有害性の調査とそれに基づく対策の不十分さがあげ
られている。当該重大災害の頻発を踏まえて、平成15年11月に厚生労働省が行った大規
模製造事業場に対する自主点検結果においても、危険性・有害性の調査とそれに基づく
低減措置の手法を導入している事業場は、導入していない事業場と比較すると、災害の
発生率は相当に低くなっているという結果が得られている。
　特に生産工程の多様化・複雑化が進展するとともに、新たな機械設備・化学物質が導
入されており、事業場内の危険・有害要因が多様化し、その把握が困難になっている現
状においては、従前のように労働安全衛生法令に規定される最低基準としての危害防止
基準を遵守するだけでなく、さらに企業が自主的に安全衛生水準を向上させるため、危
険・有害要因を特定し、それぞれのリスクを評価し、これに基づきリスクの低減措置を
実施するという手法を導入することが必要である。
　このうち、機械に関しては、製造段階でリスクを評価し、低減した上で、残存リスク
の情報を機械の使用者に提供する等の安全対策を一層推進する方策を検討することが必
要である。
　また、これらの対策の推進に当たって、人的、財務的基盤が十分でなく、労働災害の
発生率が高い中小企業に対しては、危険性・有害性の調査等を普及するための支援が求
められる。

〔対策の方向〕
ア　安全管理者を選任しなければならない業種等の事業者は、設備を新設するとき等に
労働災害発生のおそれのある危険性・有害性を調査し、その結果に基づいて、これを除
去・低減する措置を講ずるよう努めなければならないこととすること。
　イ　厚生労働大臣は、アの措置に関してその適切かつ有効な実施を図るため必要な指
針を公表するとともに、当該指針に従い、事業者等に対し、必要な指導、援助等を行う
こと。
　ウ　機械の包括的な安全基準の実効性を高めるための方策について検討すること。
　エ　中小企業において危険性・有害性の調査等を実施する際の支援策として、標準モ
デルの作成、講師派遣等を実施すること。

　（２）自主的取組の推進と普及促進のためのインセンティブ措置
　近年、現場の実態及びこれを踏まえた実践的な安全衛生活動を熟知しているベテラン
労働者が、定年退職、リストラ等により現場を去り、また、今後「団塊の世代」が大量
に退職することを考慮すると、現場における安全衛生担当者のレベル低下による安全衛
生活動の弱体化が予測され、これを未然に防ぐ必要がある。
　このためには、個人の経験と能力のみに依存せず、危険・有害要因を特定し、リスク
の評価及びリスクを低減させる措置を組織的かつ体系的に実施し、安全衛生水準の段階
的な向上を図る仕組みを活用することが効果的であり、その仕組みの一つである労働安
全衛生マネジメントシステムの導入を促進することが望ましい。

〔対策の方向〕
　事業者の自主的取組を促進するため、事業場における危険性・有害性の調査並びに安
全衛生計画の策定及び当該計画の実施・評価・改善など現行の労働安全衛生マネジメン
トシステム指針を踏まえて定める措置を適切に行っており、安全衛生水準が高いと行政
機関が認めた事業者に対しては、労働安全衛生法第88条に規定する機械等の設置、移転
等に関する計画の届出に代えて設置報告とする等の促進策を構じること。
　
（３）安全衛生委員会等の活性化
　労働災害防止においては、事業場のトップの取組が重要であるが、労働災害発生率の
高い事業場においては、その取組不足が指摘されている。
　また、事業場のトップ及び労働災害防止の当事者であり現場を熟知している労働者が
参画する安全衛生委員会等の活用は、労働災害防止のための有効な手段であるが、大規
模製造事業場に対する自主点検結果等によれば、労働災害発生率の高い事業場におい
て、安全衛生委員会等の活動は必ずしも活発でなく、労働安全衛生法上期待されている
機能も十分果たされていない状況にあることから、その活性化を図ることが必要であ
る。

〔対策の方向〕
ア　安全衛生委員会等の機能を強化するため、危険性・有害性の調査及びその結果に基
づく措置に関すること、安全衛生計画の策定及び当該計画の実施・評価・改善に関する
こと等を安全衛生委員会等の調査審議事項に追加すること。
　イ　安全衛生委員会等の透明性を確保するため、労働者に対し安全衛生委員会等の議
事録の概要の周知等を行うこと。
　ウ　事業場のトップである総括安全衛生管理者の取組を促進させるため、安全衛生方
針の表明に関すること、危険性・有害性の調査及びその結果に基づく措置に関するこ
と、安全衛生計画の策定及び当該計画の実施・評価・改善に関すること等を総括安全衛
生管理者の職務として追加すること。

　（４）安全衛生担当者の教育の充実
　安全衛生管理組織の縮小、兼務の拡大、安全衛生管理に関するノウハウの継承不足等
により、安全衛生管理担当者の実務能力の低下が懸念される中、特に、安全管理者につ
いては、実務能力が制度的に担保されている衛生管理者や産業医と異なり、学歴と実務
経験のみで選任できることが問題点として指摘されている。また、現場の長である監督
者（職長）については、危険性・有害性の調査等安全衛生に関する知識の習得等が必要
である。
　このため、これらの者に対する安全衛生教育を充実することが必要である。

〔対策の方向〕
　ア　安全管理者がその職務を的確に遂行する実務能力を担保するため、その選任に当
たっては一定の教育を受けることを要件とするとともに、その教育の内容として、危険
性・有害性の調査等を含めること。
　イ　職長等に対する安全衛生教育の内容を充実させること。

　２　元方事業者等を通じた安全衛生管理体制の実現
　（１）安全管理者等の専属要件の弾力化
　企業の分社化等組織形態の変化が進む中で、企業分割により生じた企業グループにつ
いては、従来の安全衛生管理のシステムやノウハウが活用されるよう安全管理者等の兼
務を認めた方が適当な場合がある。
　また、安全衛生の確保を図っていく上で、必ずしも事業場内の人的資源に限定せず、
外部の人的資源の活用を図っていくことが有効な場合がある。
　このため、上記のような事情がある場合について、一定の要件を満たすときは安全管
理者等の専属要件の弾力化を認めることが必要である。

〔対策の方向〕
ア　分社化して設立された子会社の事業場が親会社と同一の場所にある等一定の要件を
満たす場合は、親会社の安全管理者や衛生管理者が子会社の安全管理者、衛生管理者、
安全衛生推進者等も兼ねることができるようにすること。
　イ　第二種衛生管理者の選任が認められている業種の事業者について、一定の要件を
満たす場合は、自社の労働者でない者を衛生管理者に選任することができるようにする
こと。

　（２）元方事業者による安全衛生管理の実施
　近年、製造業等においては、構内下請の増加により、元方事業者（自らも仕事を行う
最先次の注文者）及び請負人の労働者の混在作業による危険が増大しているが、これに
伴い、元方事業者が元方事業者と請負人との間又は請負人相互間の連絡調整を十分に行
わなかったこと等を原因として、元方事業者及び請負人の労働者が被災するはさまれ、
激突等の労働災害が発生している。
　また、厚生労働省が行った大規模製造事業場に対する自主点検結果においても、作業
間の連絡調整が十分になされていない場合等には災害の発生率が高いことが判明してい
る。
　このため、製造業等の業種に属する事業の元方事業者が、作業間の連絡調整など一定
の措置を講ずることが必要である。
　
〔対策の方向〕
　製造業等の業種に属する事業の元方事業者について、混在作業によって生ずる労働災
害を防止するため、作業間の連絡調整、合図の統一等必要な措置を講じなければならな
いこととすること。

　（３）施設・設備の管理権原に関する安全衛生対策
　近年、事業運営についてアウトソーシングが進行する中で、化学物質を製造し、又は
取り扱う設備の改造、修理、清掃等の仕事の外注も多く行われているが、発注者等が自
ら把握している設備の状況等の情報を請負人に十分に知らせないまま発注したことによ
る一酸化炭素中毒、爆発、火災等の労働災害が発生している。
　このため、一定の危険有害な化学物質を製造し、又は取り扱う設備の改造、修理、清
掃等の仕事の発注者等が、当該仕事による労働災害を防止するため必要な安全衛生に関
する情報を請負人に提供する仕組みが必要である。
　
〔対策の方向〕
　大量漏えいにより急性障害を引き起こす化学物質、引火性の化学物質等を製造し、又
は取り扱う設備の改造、修理、清掃等の仕事で、設備の分解等の作業を伴うものの発注
者等は、労働災害を防止するため、当該化学物質の危険性・有害性、当該作業について
注意すべき事項等の情報を文書等により請負人に提供しなければならないこと。

　３　過重労働・メンタルヘルス対策
（１）過重労働による健康障害防止対策
　現在の医学的知見によれば、長時間の時間外労働など労働者に過重な労働をさせたこ
とにより疲労が蓄積している場合には、脳・心臓疾患発症のリスクが高まるとされてい
ることから、これらの過重労働による健康障害を防止するためには、適正な労働時間管
理と健康管理に加え、長時間の労働による負荷がかかった労働者についてその健康の状
況を把握し、適切な措置を構じることが必要である。これとともに、過重負荷となる要
因の把握と改善に向けて労使が協力して自主的な取組を行うことが期待される。
　また、対策を適切かつ円滑に推進するためには、産業医に対する研修等の支援や中小
企業に対する支援を行うことが必要である。
　
〔対策の方向〕
　ア　事業者は、１週当たり40時間を超えて行う労働が１月当たりで100時間を超え、
疲労の蓄積が認められる者であって、面接指導に係る申出を行った者に対し、医師によ
る面接指導を行うとともに、その結果に応じた措置を構じなければならないこと。ただ
し、前１月以内に医療機関において脳・心臓疾患に係る診察を受けている労働者であっ
て診察結果等から健康上問題がないと医師が認めた労働者等は、面接指導を行わないこ
ととすること。
　イ　労働者は事業者が行う面接指導を受けなければならないこと。ただし、事業者の
指定した医師による面接指導を希望しない場合、他の医師による面接指導を受け、その
結果を事業者に提出できるようにすること。
　ウ　アの面接指導を受けない労働者であっても、事業者は、長時間にわたる労働によ
り疲労の蓄積が認められ又は労働者自身が健康に不安を感じた労働者であって申出を行
った労働者及び事業場で定めた基準に該当する労働者に対して、面接指導に準ずる措置
等必要な措置を行うよう努めることとすること。
　エ　過重労働による健康障害防止対策を衛生委員会の調査審議事項として追加するこ
と。
オ　産業医は、必要があると認めるときは、労働者に対して、アの面接指導の申出を行
うよう勧奨できることを明らかにすること。
カ　面接指導が適切に実施されるよう、産業医に対して研修等の支援を行うとともに、
中小企業に対して地域産業保健センターによる支援等を行うこと。

　（２）メンタルヘルス対策
　メンタルヘルス対策は、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ
等によるケア、事業場外資源によるケアにより進めることが重要であるが、自殺予防と
いった観点からもメンタルヘルス不調となったときに介入が可能となる仕組みづくりが
求められる。事業場においてメンタルヘルス対策を推進するためには、労使が協力して
自主的な取組を行うことが期待されるところである。
　また、対策を適切かつ円滑に推進するためには、産業医に対するメンタルヘルスに係
る研修等の支援や中小企業に対する支援を行うことが必要である。
　
〔対策の方向〕
　ア（１）の面接指導において、メンタルヘルス面にも留意するものとすること。
　イ　「職場における労働者の心の健康づくりのための指針」の内容を踏まえながら、
事業場におけるメンタルヘルス対策の適切かつ有効な実施を図るため、メンタルヘルス
教育の実施、相談体制の整備、外部機関の活用等について、法律に基づく指針で示すこ
と。
　ウ　メンタルヘルス対策を衛生委員会の調査審議事項として追加すること。
　エ　産業医に対して研修等の支援を行うとともに、中小企業に対して地域産業保健セ
ンターによる支援等を行うこと。
　
４　労働者の健康情報の保護
　個人情報が大量かつ広範囲に収集・利用されるようになり、個人情報の保護が求めら
れる中で、平成15年５月に制定された個人情報の保護に関する法律においては、個人情
報は本人の求めに応じて開示しなければならないとされている。
　労働者の個人情報である労働安全衛生法に基づく健康診断の結果は、一般健康診断に
限って本人への通知が事業者に義務付けられているが、個人情報の保護に関する法律の
趣旨も踏まえると、特殊健康診断の結果についても本人に対して通知を行うようにする
ことが必要である。
　
〔対策の方向〕
　特殊健康診断の結果について、現行の一般健康診断の通知と同様、労働者への通知を
義務付けること。

　５　化学物質管理の推進
　職場における化学物質管理の充実を図るためには、事業者に対して個々の化学物質の
危険性・有害性、取扱上の注意事項等の情報がより明確に提供されることが必要である
が、国際的にも、事業場の容器等に危険性・有害性の程度等に基づく絵表示を付すこと
等を内容とするＧＨＳ国連勧告がなされている。また、化学物質を取り扱う事業者は、
交付されたＭＳＤＳ（化学物質等安全データシート）等に基づき自主的に労働災害防止
措置を講ずることが必要である。
　化学物質管理指針に基づく事業者による自律的な化学物質管理を促進するため、有機
溶剤中毒予防規則等の特別規則に基づくばく露防止方法について、一定の条件が満たさ
れる場合、柔軟化、性能要件化を図ることが必要である。
　　中小企業等では自律的な化学物質管理が十分でないことから、国は、未規制の有害
化学物質について、化学物質に係る労働者の作業内容等のばく露関係情報等に基づきリ
スク評価を行い、健康障害発生のリスクが特に高い作業等については、リスクの程度等
に応じて、特別規則による規制を行う等のリスク管理を講じることが必要である。
　
〔対策の方向〕
　（１）労働安全衛生法に基づく表示及びＭＳＤＳについて、ＧＨＳ国連勧告等を踏ま
え、発がん性等の有害性のみならず、引火性等の危険性をも対象とするとともに、化学
物質の危険性及び有害性を容易に認識できる絵表示を導入すること等必要な対応を図る
こと。また、事業場内で取り扱う容器等への表示についても同様の対応を図ること。
　（２）有機溶剤中毒予防規則等の特別規則に基づくばく露防止方法について、定期的
な監査・パトロールによる維持改善等により、気中の化学物質の濃度が継続的に一定以
下となること等の条件の下、柔軟化、性能要件化を図ること。
　（３）国は、リスク評価のための情報収集を目的に、事業場における労働者の作業内
容、従事労働者数、密閉系での使用等のばく露関係情報を収集する仕組みを整えるこ
と。

　６　その他
　労働者が安全衛生に関する多様な知識や技能を取得することは、事業場内における安
全衛生活動にも有効であり、また、安全衛生の確保に問題のない範囲で、事業者や労働
者の負担軽減を図るためにも、幅広い免許・技能講習資格の取得を可能とするなど資格
制度の見直しが必要である。

〔対策の方向〕
　免許・技能講習の資格制度において、以下の見直しを行うこと。
　・地山の掘削作業主任者技能講習と土止め支保工作業主任者技能講習の統合
　・クレーン運転士免許とデリック運転士免許の統合
　・クレーン運転実技教習とデリック運転実技教習の統合
　・特定化学物質等作業主任者技能講習と四アルキル鉛等作業主任者技能講習の統合
　・ボイラー据付け工事作業主任者技能講習の廃止
　・特定化学物質等作業主任者技能講習から石綿関係の作業主任者技能講習の分離
　以上です。

○分科会長
　これについて何か追加の説明がありますか。

○労働衛生課長
　先々回の分科会以来、ずっと過重労働メンタルヘルス対策が審議事項として続いてい
ますので、当初の検討の視点から今回のとりまとめ案につきまして、確認の意味で変っ
た部分について、一応申し上げたいと思います。
　８頁の対策の方向のアの部分です。これは当初の検討の視点においては、事業者が、
１週当たり40時間を超えて行う労働が、１月当たり100時間を超えるというところと、
プラス２ないし６カ月間に月平均80時間を超える時間外労働を行った場合という条件が
付いていました。この分科会のご審議等を踏まえて、２ないし６カ月間、計算方法とか
把握の方法が煩雑になるというご意見等もありまして、１月当たり100時間を超えて、
さらには事業者の負担を考えまして、「疲労の蓄積が認められる者であって、面接に係
る申出を行った者に対し、面接指導を行う」と変えています。当初は100時間又は２な
いし６カ月間に月平均80時間を超える時間外労働を行った方、すべてということでし
た。
　ウの部分、ここは努力義務のところです。ここは考え方としては多く変りはありませ
ん。事業者が長時間にわたる労働により、疲労の蓄積が認められ、又は労働者自身が健
康に不安を感じた労働者であって、申出を行った労働者という書きぶりです。最初の検
討の視点では、労働者自身が健康に不安を感じた場合、それと並列で「周囲の者が労働
者の健康の異常を疑った場合等で、産業医等が必要と認めたとき」というのが条件に入
っていましたが、実行上の問題等を勘案して、このような報告案に変えています。
　もう一つオのところで、産業医から労働者を見ていて必要があったときには、受診で
きるようにする仕組みをしっかりと入れていただきたいというご議論等がありまして、
必要があると認めるときは労働者に対して面接指導の申出を行うよう勧奨できるという
項目が入ったわけです。
　カのところ、これは当初の検討の視点のところにはありませんでしたが、ここでご議
論をいただくうちに、産業医に対して過重労働、これは後ろのメンタルのところでも同
じですが、メンタルヘルス等に関する研修をきちんとやっていただきたいということ
と、特に「産業医の選任義務のない50人未満の事業所等について、強力な支援策が必要
である」というご議論から、「中小企業に対して地域産業保健センターによる支援等を
行うこと」という文言が入っています。
　９頁のメンタルのところですが、もともとの検討の視点の所には、メンタルヘルス対
策を産業医の職務として追加するという項目がありました。ところがいろいろご議論・
協議をしてまいりまして、もともとメンタルヘルスというのは産業医の範疇の中に入っ
ているのではないか。むしろそのための研修システムをきちんと充実させて、さらに先
ほどの過重労働と同じように「中小企業に対する支援策を打ち出したほうがよいのでは
ないか」というご議論を踏まえて、エの部分に変わっています。補足は以上です。

○分科会長
　この報告の案についてのご意見ご質問がありましたらお願いいたします。

○伊藤委員
　いろいろ過去の話し合いの中で、適切な厚労省側の変更等、大変ありがとうございま
す。ただ、我々が危惧している部分だけ申し上げさせていただきます。繰り返しになり
ますが、商工会議所としては、時間外労働100時間といった一律な基準で、面接指導を
義務化することに対しては、やはり反対をさせていただきます。既に前々回、11月10日
の会合に欠席したときから、これは配付されなかったのですが、それから現在に至るま
でこの件に関しては一貫して主張させていただいています。
　それでも何とかならないかということで、昨日、会議所と厚生労働省の方と意見交換
をさせていただきました。２時間半にわたって過重労働と時間外労働100時間の時間規
制の法制化は反対であるという旨を申し上げた次第です。
　少し補足をさせていただきますと、いきなり法制化するのではなく、まず中小企業に
対して過重労働や、現状の従業員の健康管理とか、こういうものの環境の整備等が、ま
ず必要なのではないか。従業員の方は大切な財産ですから、過労で倒れないように、ま
ず事前に手だてを講ずる方法があるのではないのかと思います。従業員がもし仮に倒れ
た場合、その会社は社会的にも大きな信用を失う、もしくは従業員の方が中小企業の場
合いなくなってしまったら廃業をしなければならない可能性がある。そういうことが起
る前に、まず企業は事前にいろいろな対策を講じるはずです。
　もう一つは従業員の数が少ない方のために、地域産業保健センターという話を、この
間も議論させていただきました。まず、我々が調査した限りにおいては、存在すら知ら
ない。これは教えればいいだけのことです。例えば平日の午後だけしか診ていただけな
い、夜間とか休日はどのように開催されるのかということは、我々の事前の調査の段階
で、かなり不透明な部分があります。
　それと大切なこととして近くないと、仮に本人がそういう申出をした場合に、仕事を
長時間休ませなければならない、もしくは丸１日休ませなければならないということ
は、結果的に会社の存在すらが危なくなってくる可能性がある。我々、企業を経営して
いて、従業員の健康管理に無関心な者はおりません。それが過重労働とメンタルヘルス
の関係が時間だけではなくほかの問題が考えられるのではないか。それから、個々の企
業の実情に合わせて、いろいろな策を講じるほうが実効性が上がるのではないかと思い
ます。
　まず過重労働対策として望まれることは、定期健診とか、脳とか心臓疾患とか可能性
が認められる者を、健康管理を徹底させることによって、できることが多いのではない
か。その予防手段として講じるべきではないかと思います。それと管理監督者、裁量労
働制を採用しているものについては、本来時間管理の義務はありません。企業が100時
間を超えたかどうかの判断は非常に難しいということを基にして、私どもは一貫して反
対ということを申し上げさせていただきます。
　働く方というのはとても大切な問題です。いま日本が置かれている状況が、対海外、
特に中国との中で我々は働かなければならない。その中で仮にこういう問題を我々がも
し認めた場合に、総コストが上がっていってしまう可能性がある。調査の範囲では500
人ぐらいの規模の企業であっても、人事・労務に関して専任に行う者がいる会社が、我
々では少なかった結果もあります。総コストが上がってしまうとどうなるのか。その企
業の存在が危なくなってしまう。それは労使ともに築き上げてきた世界が崩れていって
しまうことになりかねないということが、我々の根本的な反対の理論です。

○分科会長
　これについて課長お願いします。

○労働衛生課長
　たくさんの問題点、ご指摘がありましたが、まず最初に前回でも議題に上がったはず
ですが、時間外労働と過重労働と、脳・心疾患等による過労死の関係について、事務局
で資料を準備していますので、配付させていただいてからお話を申し上げたいと思いま
す。
　「時間外労働と脳・心臓疾患」の資料の１のところに労働時間と睡眠時間の関係の表
があります。２、脳・心臓疾患の発症の危険性のところです。もともとの論文がいくつ
かありますが、睡眠時間が６ないし８時間と比較して、睡眠時間が５時間以下になる
と、脳・心臓疾患を発症する危険性が1.8から3.2倍と報告をされています。これは５つ
の疫学研究調査報告ではこうなっていますが、また、別の疫学調査報告では、月に約60
時間以上の時間外労働では、心筋梗塞の発症の危険性が2.4倍になるという報告もあり
ます。これらに類したいろいろな調べ方がありますが、学術的には十いくつもの論文が
全て同じように、過重労働と脳・心疾患の関連性が極めて強いということを表している
わけです。
　次の３で、発症の危険性についての考え方ですが、発症の危険性が３倍というのは、
どういうことを意味しているか申しますと、まず、脳・心疾患発症の危険性が３倍の場
合、仮に発症した方が99人であれば、時間外労働が直接の原因となって発症した人が66
人いらっしゃいます。もともと33人、３分の１の方は時間外労働があってもなくても発
症した可能性はある方々ですが、時間外労働によって３倍に増えたということは、黒枠
の所の６６人分が時間外労働を原因として発症していると考えられるわけです。一般的
に私ども、人の健康確保と予防措置を講ずる上では、危険性が２倍以上になりますと、
強力な対策が必要であると言われています。いろいろな文献によって、危険性が上がる
というものはたくさんあります。例えば有名なタバコなど、少ないものでも３倍から
５、６倍の危険性があるというので、全世界を挙げて対策を講じているものです。
　次に睡眠時間の関係です。いちばん上の所に、基本労働時間８時間として、総務省、
ＮＨＫ放送文化研究所調査で、人間として必要な労働以外の生活時間として６時間取っ
ています。24時間ですから、これで14時間をつぶして、時間外の労働時間が５時間以上
に増えると、自然的に睡眠時間は５時間以下になるということを示すために、これは作
っているものです。
　もう少し詳しい内容の検討として、長時間労働による睡眠時間の減少についての所で
すが、基本的に８時間労働の場合は、仕事の拘束の時間として９時間見られます。食事
等で大体5.3時間。風呂に入ったり服を着たり脱いだり、歯を磨いたりという基本的な
生活部分の時間です。そこに月100時間でいろいろ計算してまいりますと、多少の誤差
はありますが、１日4.7時間ずつの時間外労働をして21.7日になりますと、どうしても
これだけの過重労働をして睡眠時間が削られてしまう。そうしますと、健康に関する危
険率が先ほどのように増してきます。
　さらには定期健康診断ということも言われましたが、定期健康診断においても、平成
２年、何らかの所見を持っている全労働者の比率は、平成２年、23.6％でした。平成15
年には47.3％と、毎年毎年増えています。労働者全体の高齢化も影響していると思いま
すが、基本的には生活習慣病を中心とする、このような過重労働に対する脆い状態の労
働者が増えている。そこに過重労働がありますと、今後さらに健康障害が増加する可能
性が極めて強いと考えられるわけです。
　現に過重労働による心疾患の発症によって、労災認定のある死亡者の数等は、全然、
減少していません。むしろ増える傾向にあります。全労災死亡の１割に達しているわけ
です。死亡例でそのぐらいですから、これはまた後で専門家の先生のご所見とかを賜り
たいわけですが、おそらく死亡しないで発症して、何らかの後遺症等を持たれている方
は、その10倍か20倍ぐらいの数に至っているのではないかと考えています。私どもはこ
のような状態から基本的には過重労働に対して、何らかの健康確保をするためのチェッ
ク機能をきちんと法制化して付けるのは、どうしても必要な施策であると考えていま
す。
　次に義務化しなくても、例えば事業者に対する啓発指導で進めればよいのではない
か。ご意見の答えにもなっていると思いますが、先ほどのように、過労死は減る傾向に
はありません。現在まで通達によって行政指導を行ってまいりました。これはあくまで
も事業場にご理解いただいて自主的に取り組むことを前提としたものです。しかしなが
ら、現行の過労死の傾向、それからすべての事業場に普及させたいというところから、
過重労働対策について、ある程度法的に位置づけていく部分が必要であると考えている
次第です。
　もう一つ、労使の話し合い、総合対策通達の効果を見てからで十分でないかというご
意見もありましたが、ひとまず私の回答を終わりますが、何かご質問やご意見があれ
ば、その時点で承った上で、予防手段の徹底やコストの問題等についてお話したいと思
います。
　裁量労働者と管理監督者については、前回ならびに前々回の分科会でお話を申し上げ
たとおりでして、管理監督者については、基本的には時間管理の必要がないので、本人
が疲労が蓄積していると申出があった場合に、一般の労働者における100時間を超えて
労働を行って、疲労が蓄積して申し出たことと同じとみなして、運用するようにさせて
いただきたいということで、説明いたしました。
　裁量労働者については、健康確保のための一応の時間的なものの把握がなされている
わけなので、それに基づいて各事業所が、それぞれ自主的に決めた計算方法等によって
やっていただくようにということで、考えていると申し上げたとおりです。ひとまずそ
こで終わります。

○安全衛生部長
　定期健診などを徹底することによって防げるのではないか、というご意見でしたが、
既に現在、定期健診は300人以上の事業場ですと、100％実施されています。100人から
299人で、99.4、50から99人で96.1という実施状況です。もちろん全部が100％にはなっ
ていませんが、相当な状況で実施されているわけです。
　過重労働による死亡を防ぐことからすると、それにさらに加えて面接指導によって、
100時間を超える労働の場合のリスクを防ぐことが重要ではないかと考えているわけで
す。これを認めたら総コストが上がるのではないかというご指摘でしたが、健診を全員
に実施するのとは対象者が全然違うわけです。例えば現在、平成14年２月から総合対策
ということで、通知によって100時間超え、あるいは80時間を２～６カ月を超えた場合
には、面接の対象となるという事業所で実施していただいていますが、私が聞いた限り
では対象者の年間を通じて１％というところから、大体１カ月で１％という状況です。
　それにさらに今回は、本人が疲労があるとか、２カ月連続で実施する場合には産業医
の判断によって、１カ月は除くことができるとか、あるいは健診状況がきちんとされて
いて、健康に特に問題がなければ除くことができるとか、そういった除外条件もこれま
での経験を踏まえて入れているので、相当数対象者は減るのではないか。それによって
コストが上がると、しかも企業の存続基盤をおびやかすことにはならなくて、逆に過労
死によって認定されているのだけれども、157名、そのうち９割は100時間を超えている
労働時間。さらにこの認定をされている以外に、多分数倍、おそらく1,000人規模で重
症の障害を負っておられる方がいるということを考えれば、そちらのほうが企業あるい
は労働者の負担は大きいのではないか。それを防ぎたい。これは実証したコストベネフ
ィットの計算はありませんが、そのように私は認識をしているわけです。
　先ほど「地域産業保健センターが近くにないから、休ませなければいけないのではな
いか」といお話がありました。地域産業保健センターの全国の状況をいま調べています
が、中には労働者の利便性を考えて、休日に開けている所もあります。そういった状況
も踏まえて、産業医がいないような事業所ではどうすればいいか。中小ですから非常に
厳しい労働環境にあるということは聞いているので、そういった方に対してどうすれば
きちんとした対応ができるか。それは日本医師会でも地域産保の中で対応されていると
いう状況も一部あるので、そういったものを踏まえて我々としては、日本医師会の協力
を得ながらやっていきたいと思っているわけです。

○労働衛生課長
　補足いたします。ただいま地域産業保健センターの、現行での実績報告の一部をお配
りしています。全センターで健康相談窓口に、例えば労働者の方が医師の前に健康相談
に出かけることが可能なわけですが、実際に全センターの実施回数は全国で２万2,900
という数です。特にこの中でメンタル専門でやっている所が2,000、夜間で2,300、休日
で約1,800、このような数が少ないというご指摘もあろうかと思いますが、私どもこの
動き方、需要がどのぐらいあるのか、例えば法制化のあと、実際に実施になるまでの期
間を使いまして、徹底的に調査をして、中小企業労働者においても、すべての地域産業
保健センターで過不足なく相談、面接指導を受けられる体制を整えていこうと考えてい
るところです。
　この中には全センターでは事業場の指導、これは出向いていくものですが、これらに
ついても１万件、これは医師や保健スタッフが出た分です。これらを全部合わせると、
現在では約４～５万件の中小企業を対象とした健康確保活動をしているわけです。実際
に今回の法制化に当たっては、これがスムーズに、円滑に運用できますようにもう１度
見直しをして、充実策を取っていきたいと考えている次第です。

○安全衛生部長
　それから、ちょっと申し上げます。伊藤委員が昨日、私どもと２時間半にわたって議
論されたという話ですが、現在の審議会の状況について報告書等の内容を説明してほし
いという要請がありましたので、私どもで説明に出向いて、いろいろ質疑等があったの
でそのぐらいの時間になったというものです。そこが交渉する場ではありません。あく
まで、この委員会が議論していただく場ですので、そこのところはそのようにご理解い
ただきたいと思います。

○伊藤委員
　丁寧なご説明、本当にありがとうございました。先ほどの総コストが上がっていくと
いう点、具体的に内容が決まった場合にどのように中小企業で検査をしなければならな
いか。部長の説明では年間を通じて１％程度だと、対象者はすごく減るから大丈夫だ。
確かにそうです。そうですが、毎月これを実際にやらなければならない。ということ
は、仮に500人いたら、その会社がやらなければならないことというのは１％ではなく
て、実はマンスリーの仕事の中では賃金台帳をすべて引っくり返さなければならない。
こういう仕事をもし怠った場合には、問題があった企業に対して多分何らかの形でおと
がめがあると思います。ここのところを私は言っています。
　実際、時間外労働100時間をされる方というのは非常に少ないと思います。少ないの
ですが、やらなければならない仕事量というのは毎月確保されるという意味です。要ら
なかった人間をわざわざ、そのために採用しなければならない可能性がある企業が非常
に多くなるということです。
　地域産業保健センターの件、夜間診療を行っていること、調査の中ではよろしいと思
います。実際には中央地域、千代田区、中央区、文京区とあって、千代田区の事業場数
が３万6,104、中央区が４万4,977、文京区が１万7,548となっています。従業員数にな
ると、88万8,000某がし、その次の中央区が73万3,000、文京区に至っては20万9,000人
という方がいて、この地域が月に６回しかやっていないのです。やはり、ここだけは何
とかしなければならない。これから、もし決まれば皆様のほうでいろいろなことが当然
講じられると思います。ですから、この辺は逆に言うと解決される可能性があるのです
が、あまりお金のかかることというのは増税ですから決めないほうがよろしいのではな
いでしょうか。そのようなことが一応、私どもから申し上げたいと思います。
　先ほど、１日の生活時間の割振りのところがありました。正常な方は5.3時間、仕事
拘束時間９時間、余暇に２～３時間、睡眠が7.4時間が健康だということです。これが
13.7時間に増えてしまうと、食事等が5.3時間にもなってしまう。ここが同じ点がちょ
っと気になります。そういうときは仕事時間が多いのだから、通勤は絶対変わらないで
すけれども、食事時間を１時間にして、身の回りのことを削減して寝てしまうのではな
いかと素人考えで思います。何か、この辺でお互い歩み寄れる話し合いにできないか。
私どもは100時間ははっきり言って反対です。ですが、皆さんが労働者のためを考えて
いる。例えば50人未満の人に関しては、地域産業保健センターを使う。これは産業医が
いる・いないの分岐点と同じです。ここの部分だけは何か排除できないか。皆様の中で
地域産業保健センターのところが充実されているというのは、多分何かの形でお金をか
けていかなければいけないと思うのです。
　従業員が500人規模の企業でも、人事・労務のためだけに専任者がいないと申し上げ
ました。実際におりません。大企業にお勤めの方はそのようなことはないだろうとおっ
しゃるのですが、日本中で中小企業は実は９割あるというのは周知の事実かと思いま
す。雇用は６割、その企業が持っているということも皆さんご存じだろうと思います。
ここが例えば本人からの申出とか、そのように置き換えられないかとか。
　安全衛生委員会の充実は非常に評価すべきだと思います。４頁、「安全衛生委員会等
の活性化」という問題は非常に良いことだと思います。例えば、この中で安全衛生委員
会で定めた認定基準というものを企業独自の考え方の中で、労使ともに話し合わなけれ
ばならないと思います。例えば100時間以上仕事をしたら、その次の月は休日を与えな
ければならないという取決めをする。これは法律とは直接関係ないと思います。このよ
うな策で皆様のおっしゃることも、100時間も消えないし、我々のほうは毎月煩雑な仕
事から逃れていきたいという企業の声の代表です。このようなことを折り込んでいただ
きながら、うまく労働者のための健康管理ができないものか。いかがでしょうか。

○労働衛生課長
　まず事業場で50人以下で、20数名ぐらいだったらいいのでしょうが、300人とか400
人、500人ぐらいになりますと、それぞれに100時間を超えているかどうかということを
事務的にチェックするのが極めて煩雑になるというご指摘でした。義務の部分について
は、基本的に疲れている。疲労が蓄積したという申出があるということがまず条件とし
てあります。
　やり方としては、まず従業員の方々全員に100時間を超えたら医師の面接を受けるこ
とができます、ということをきちんと周知しておいた上で、疲れて、かなりの時間外労
働を自分で自覚があって疲れていたら、例えば私に100時間を超えているか確かめてく
ださい。あるいは、面接をその場で申し出させてしまう。そこで初めてチェックをする
ということをすれば、毎月毎月全員に100時間を超えているか・超えていないかをチェ
ックしなくてもいいのではないか。やり方により、その仕事量が増えることを防ぐこと
ができるのではないかと思います。
　次の点、都内の中央地域で地域産業保健センターが不足している。これは私どもも自
覚をしています。基本的に地域産業保健センターというのは、私ども労働基準監督署の
単位と郡市医師会の単位でできています。確かに都内の事業場の多いところで、区ごと
に医師会等がありますが、こうなっておりません。今後、予算が増えるということでは
なく、例えばある地域では事業場が少なくて活動が低調だというところから、予算的に
は都内中央地域や京浜、関西など、活動量の多い所に人、活動のための資金をシフトし
て十分な対応ができるように取り組んでいきたいと思っています。
　基本的に努力義務の部分については、ほとんど事業場の自主的な取組と衛生委員会の
中での取決めでやっていただくことを私どもも期待しているわけです。ただ、考え方と
して、やり方はいろいろありますけれども、50人以下の事業場のところで例えばこのよ
うな健康チェックをしなくていいというような、完全に除外するというのは他人の健康
を確保するという意味から、原則として管理監督者や裁量労働者も除外できないという
意味で除外すべきではないと考えています。しかし、運用については常勤であれ、非常
勤であれ、産業医が選任されていて、常に事業場にいらっしゃる事業場、月に１回必ず
きちんと来てくれる事業場、それのない事業場については運用の上で何らかの区別、方
策を考える必要はあろうかと考えています。

○安全衛生部長
　ちょっと追加します。いま、地域産業保健センターの実績報告にもありますが、その
いちばん下、拡充センターが84カ所、通常センターが263カ所となっています。これは
平成15年度、全国の地域産業保健センター347カ所が一応そろったわけです。その機能
をある程度地域の大きさ、あるいは役割に応じて、拡充センターの場合はかなり機能を
強化する。先ほど委員がご指摘のような、東京都で１カ所当たりの事業場の数が多いと
いった場合、予算を実際に配分するに当たって、まだ全国的に展開して、いまこのよう
な２つの色分けになっていますが、それをさらにもう少し色分けをして、地域ごとにき
め細かく対応する。そういうようなことで、都市部の事業場のところについては対応し
ていけるのではないかと思っています。

○分科会長
　伊藤委員、いかがでしょうか。

○伊藤委員
　ありがとうございます。１回整理すると、50人のところが産業医を選任する義務がな
い。地域産業保健センターに出向くというところで、もちろんこれからいろいろ決めら
れて充実されるのでしょう。ここのところはある意味で優遇ですが、優遇というのは50
人以下の企業に対して「ここは何もしない、野放し」という意味ではもちろんないのは
おわかりだと思います。先ほどの定期健診の問題もきちんとやっている。ただ、300人
以上という条件が付いてしまっているのかもしれません。ここで50人以下は免除してい
ただいて、50人以上のところは安全衛生委員会がある。ここが分岐点になっている。50
人以下は大胆な言い方をしてしまえばいままでのとおりで、そういうことの義務づけを
なくせないか。それ以上のところは安全衛生委員会に任せる、もしくは本人の面接希望
というのは、先ほど皆様がおっしゃっていることとほぼ一致していると考えてよろしい
のでしょうか。そのようなことを検討いただければいいのではないかと思います。

○分科会長
　いまのご意見はわかりにくいのですが、50人以下の場合にはどうなるのですか。

○伊藤委員
　産業医の選任の義務づけがありません。ないということは、地域産業保健センターに
出向いて何らかの対応をしていただく。でも、いまのところはもちろんいただいている
書類ではそこそこ充実しているのですが、人口が過密している所、企業が過密している
所はどうもないのではないかというのが私どもの指摘です。ここのところ、義務づけを
ある程度柔軟にしていただけないでしょうか。

○分科会長
　それは先ほど衛生課長がお答えになったように。

○労働衛生課長
　「疲れていて医師の面接を受けたい」という申出を、例えば50人以下であるから義務
から外すということになると、そのような労働者の方々から見るとある程度の権利とし
て、過重労働で医師に診てもらいたいというルートを保証しないということになると思
います。だから、私はすべきではないと思います。ただ、実際の運用を考えてみると、
現在産業医がいる企業においてはきちんとチェックした上で、手を挙げたら産業医にい
つでも面接できますよという体制を取っている所がかなりたくさんあります。選任の産
業医でなくても、嘱託などで来るところであっても、月に１回ずつ来るような所では大
体半数弱が面接指導をしているという調査結果が出ています。
　そういうところを考えると、選任しなくてよい小規模な事業場については、頼るとこ
ろは現状では地域産業保健センターぐらいしかない。そこに義務づけをして、実際にこ
の法を施行する時期を例えば産業保健センターその他の体制が整うまで、これについて
は遅らせるということは考えられると思います。考え方として、50人以下の労働者への
面接指導は義務づけから外しますということは、労働者に対して倫理的な問題もあり出
来ないと思います。ただ運用について、１年、２年、あるいは当分の間というような地
産保、中小企業、50人以下の産業医がいないところを支える体制ができるまで延ばして
いくということは考えられると思います。

○安全衛生部長
　付け加えますと、いまの産業医の選任関係で、50人以下は確かに選任義務はありませ
んが、実際上30人から49人の事業場だと20.4％、10人から21人の事業場でも10.7％選任
されています。安全衛生管理体制としては10人から49人、いわゆる衛生委員会等が設置
されていないレベルにおいては、安全衛生推進者の選任といった制度的な対応を取るよ
うになっていることを申し上げておきます。ですから、50人以下は全然産業医がいなく
て、対応は全部地産保だけということではないということを一言申し上げます。

○伊藤委員
　いらっしゃればいいのですけどね。

○加藤委員
　いまの議論で地産保の量が足りない、あるいは先生方が足りないという議論であれば
どうなのか。先回の議論の中で衛生課長から説明がありましたが、いろいろな良い事例
が地域によってはあるという報告がありました。そのような事例をもう少し細かくお話
いただくことが必要ではないか。
　あるいは脳心の２次検診の場合、私の勘違いかもしれませんが、労災指定病院などを
使ってやれるようになっています。あれならば地域に労災指定病院はたくさんあります
ので、そういったところをうまく使う。あるいは、企業が頼みやすいような病院が近く
にあればそういった所でもいい。いま、病院は地域にたくさんありますから、いろいろ
なやり方があるのではないかという気がします。

○労働衛生課長
　確かに、加藤委員がご指摘のとおりでございます。地域産業保健センター自身が非常
にアクティブにやっていらっしゃるところでは、企業の労働者がそこに来なくても、普
段であれば開業していらっしゃる医者、登録している産業医の先生が地域産業保健セン
ターに行って健康相談を待っているわけです。そういう形ではなくて、地域産業保健セ
ンターから委託をされた形で、自分のクリニックにやってきた労働者の方に面接指導を
しているという事例があります。こちらのほうが労働者は自分の近くの医者のところに
面接に行ける。医者のほうはまた、いちいち地域産業保健センターに行って待っている
必要がない。これを是非、普及させてくれというお話がありました。前向きに検討して
いるところです。
　もう１つ、労災病院関係の部分ですが、病院でも実は健康相談をやっており、かなり
たくさん来ています。現在、能力が目一杯のところがあり、これ以上どうやったら増や
せるのかというのも実は検討しております。それと、先ほどの認定産業医の方々が地域
産業保健センターの委託、あるいは依頼を受けて、地域で診療なさる中で面接指導も行
うという形について真剣に検討してまいりたいと思っています。

○分科会長
　いまの点はすべて、地域産業保健センターへ行かなくても済むような形が考えられて
いるわけですか。

○労働衛生課長
　これも１つの事例ですが、特に伊藤委員に申し上げたいのですが、商工会議所で地域
産業保健センターが医師の面接指導、健康診断をやっている事例があります。気仙沼市
医師会館、それから各地の商工会館等に定期的に医師を派遣して、そこで面接指導をや
っています。いままで、拡充地域産業保健センター等を指定したりしていますけれど
も、法律の施行に当たり、強力な見直しを行って、どのようにやっていくのかをもう１
回きちんとやっていかないとならない。これはメンタルも入ってくることですので、そ
れを考え直した上で需要に応えられるように配慮したいと思っています。
　いままで、例えば政策として地域産業保健センターのあり方等も考えていかないとい
けませんので、来年の４月からすぐ出来るかというと、そういうことではございませ
ん。こちらのほうがある程度きちんとなるまで、50人以下の産業医選任義務がないとこ
ろについては施行を遅らせる、ということは取るべき問題として挙げてもいいのではな
いかと思います。

○分科会長
　いかがでしょうか。懸念がいろいろあるところでしょうが、いまのような説明の内容
でよろしいでしょうか。

○伊藤委員
　遅らせていただいても、期間を置いて決まってしまうのですよね。あと、加藤委員が
おっしゃっていた、いろいろな組織があるではないかという部分が無料で使えるのであ
れば、やはりこれも出向く場所が増えるという。

○労働衛生課長
　地域産業保健センターは原則、全部無料でやっています。

○伊藤委員
　もちろんそうです。そうではなくて、仮にいろいろな病院をということになってしま
った場合に、今度は誰かがお金を払わなければならないではないですか。

○労働衛生課長
　これは予算のある話ですので、直ちにコストの計算をして、例えば一部負担をしてい
ただくか、どこまで無料でできるかということは検討させていただかなければなりませ
ん。

○伊藤委員
　予算を使わないで、何かいろいろ決めていくというところはやるべきではないのかな
と思います。

○労働衛生課長
　私どもも予算を増やしていますけれども、いまある枠の中で過重労働が大事な問題だ
から、こちらのほうに予算を割いてきてやっているという現状です。負担を求めて、純
粋にパイを全部膨らませるということではありません。

○安全衛生部長
　実際、予算は減ってきています。その中で重点的にこういうものに配置して、配分し
ているというものです。

○中桐委員
　先ほど労働者の話が出ましたので、改めて私どものいま考えている現状の認識と考え
方について申し上げたいと思います。まず長時間労働、過重労働の実態ですが、最近の
報道で東京労働局管内、４月から９月までの上半期、不払い残業で労基署から是正勧告
を受けた企業が過去最高の29億円を支払ったという報道がありました。その原因という
か、中身を見ると、自己申告制の時間外労働と勤務実態がかけ離れている。それから、
外勤社員の労働時間管理をしていないということが原因だというように指摘されていま
す。最高に支払ったソフトウェアの会社は４億4,000万円だったということです。併せ
て、その報道ではＩＬＯ調査もありました。週に50時間以上働く労働者の割合は、先進
国で日本が最高であるという指摘も報道されています。
　前回も申し上げましたが、実は連合が11月18日から21日まで、不払い残業の相談ダイ
ヤルを行いました。２日だけで423件ありましたが、使用者の意図的な不払いというの
は385件、全体の87％でした。一切の残業を払わないという件数が34％でした。その内
容はタイムレコーダーを定時で刻印を押して、その後に残業させる。次には、残業は労
働者の能力不足だという理由で払わない。契約社員に集中して残業を強制する。権限の
ない管理職にして、残業の対象外に偽装するといったようなものでした。多い業種と事
由としては、販売などの営業関係、製造業の人員削減と納期の厳守、それから医療介護
分野の慢性的な人出不足、運輸関係の競争激化といったものでございます。これについ
て、各地方労働局に連合として対策を用意していますが、具体的に改善がなされない場
合には労基署に告発をするということで対応しています。
　一方でメンタルヘルスについても最近の報道はご案内かと思いますが、昨年度、精神
疾患で病気休職をした全国の公立学校の教員の数が過去最高になった。3,194人という
ことで、この10年間で2.7倍になったということです。民間企業の実態というのは、先
ほどの連合の相談ダイヤルを見てももっと深刻であろうと思います。
　これまで取ってきた対策ですが、先ほどから紹介されていますのでそこは省きます。
労災認定はこの間、３年間の実績があるわけです。45時間、80時間、100時間のライン
で認定が進められているわけです。残念ながら、この認定に届かなくて認められなかっ
た人がたくさんいらっしゃいます。しかしながら、国の基準としては適用され確立され
ているものですので、こういった実績をもとにして、今回過労死等の予防措置として義
務化をする。さらに予算を増やして、労組の取組みを国が支援強化するという施策は政
策の一貫性という意味では当たり前のことです。私どもとしては80時間にしても、45時
間にしても、政策の一貫性としては必要なものと思っています。ただ、これは労使の話
し合いですので本審議会の議論に委ねることになりますが、一貫性は必要であると思っ
ています。
　先ほどの法定基準を見ても、予防の義務化が遅過ぎはしても、早過ぎるということは
まずないと思います。もしそうでなければ、今後も企業は人殺しだということで、安全
配慮義務違反で、もっともっと訴えられるかもしれない。最近は労働組合でさえ訴えら
れるケースもあります。
　少し我々の取組を申し上げます。例えば愛知県の製造業の例ですが、労使が職場をほ
ぼ毎日巡回いたします。届け出なく残業していた労働者がいれば、その本人に退社を命
じます。さらに、その上司に対して事情聴取をして、その結果を安全衛生委員会に報告
をしている。こういうことをやっている事業場がございます。
　また、地域のメンタルサービスを見ると産業別組合、連合の地方組織といったところ
で、産業カウンセラー協会と協力して、月曜日から金曜日まで無料で専門家によるメン
タルヘルスの相談活動を行っています。今年の衛生週間のときには、この電話相談を全
国で行いました。
　使用者の方々を見ても、例えば毎年の中災防の「安全衛生大会」、生産性本部のメン
タルヘルス大会、さらには産業衛生学会等々で企業の取組事例を報告されています。企
業の担当者の方々、産業医の方々が熱心に勉強されているという光景をよく見ます。こ
うした労使の努力を含めて、今回国が支援を強化して、全体の職場別対策を進めるとい
うことは喫緊の課題だと思います。こういう対策がなければ目標達成は大変難しいので
はないか。
　また、「過労死」という言葉自体、日本から出ているわけですが、働き中毒で自殺大
国だと言われている日本の国と企業の汚名を返上する良い機会ではないかと思います。
　これについては政労使一緒になってやることが重要ですので、日本の企業文化、衛生
文化といったものを変えていくことが必要なのではないかと思います。先ほども指摘が
ありましたが、労働者の健康確保というのは労働者の権利の１つでして、企業は法律の
遵守、社会的責任といったことをいま果たす最大の局面ではないかと思います。そのよ
うなスタンスであるということを申し上げたいと思います。以上です。

○徳永委員
　いま中桐委員から、基本的にはそういうことだとご意見がありました。私もそう思っ
ています。角度を変えると、いまの厳しい経済状況の中で中小労使とも頑張っている。
90％以上が中小企業で支えながら頑張っている、という中での具体的な労働者の安全と
健康対策を進める。そういった現実の中でのある意味での苦悩が出されているのだと思
います。
　しかし、いま中桐委員からあったように、労働者を雇用して働かせる。労働者が基本
的に元気でしっかり仕事をやる。家族も養って、自分で生きていく。そういうものを保
証していく場としての職場はやはり健康でなければならない。そういった意味ではおっ
しゃることも非常によくわかるのですが、やはり前向きに、できることはクリアしてい
こうではないか。そういう議論をされていると思っています。
　そのような観点からいくと、今回出されている100時間の問題について、あえて後退
しているという印象を持ちますよということを申し上げました。これを一挙に法制化に
義務づけをしていく、ということにいろいろな意味で議論があったことは私もわかって
います。そういった意味で見ると、面接指導、申出の部分についてはカバーして救って
いこうではないかという、ある意味では一定の合意が出来つつあるのではないかと思っ
ています。できれば、この100時間のところはお互いに確認してクリアしていったらど
うかと思います。
　もう１つ、中小の対策についていまご議論がありました点は実態だろうと思います。
その意味では、今後時間も、コストも、予算も関係ありますけれども確定いただく。課
長がおっしゃったような形でこれを進めていく立場でできるだけ早急に体制を整えてい
くことで進めてもらったらどうかと思っているところです。
　もう１つ、これはちょっと余談になるかもしれないのですが、女性もいま男だけでは
頼りにならないので、女の人も職場進出して頑張っているわけです。ただ、ややもする
と女性の方のメンタルヘルスの関係、職場の環境や仕事の内容によって、女性のうつ病
などが増えているという報告もあります。そういった観点から見ると、これは男だけの
社会の話ではなくて、女性の問題を含めてメンタルヘルス、総合的な健康対策を含めて
進めていく必要があるのではないかという感じがしています。
　もう１つ、今日の資料を見て勉強になったのですが、トータルで１カ月とか、２カ
月、６カ月という目安として過重労働の関係が議論されているわけですが、１日の時間
帯の積み重ねかなという気がします。１日あたりの労働と休息、あるいは睡眠、そうい
うものが非常に大事なのだなと思います。ここのところを毎日毎日、睡眠時間も食事時
間も切り詰めて走り回っているということが進んでくると、こういうことになってく
る。その意味では、100時間というところが１つの線だろうと思いますので、できれば
そういう形でまとめていただいたらどうでしょうかと申し上げたいと思います。

○分科会長
　これについて、公益側で何かご意見があればお願いします。

○和田委員
　労使の方々のご発言には理解できるところがあります。最後にいま、労働者側からの
発言があり、私もそのとおりだと思います。本来、確かに100時間で過労死するのが確
実であるということであれば、これはいちばん厳しい線で100時間以上の残業時間の禁
止ということを是非出してほしかったわけです。
　予防医学の立場から言いますと、これは100％確実というより、平均的に見てこのぐ
らいのリスクがありますということを示しているわけです。ですから、それは予防医学
の立場からいけばいいと思います。したがって、今回、少し後退したなとは思ったので
すが、本来であれば100時間以上の過重労働がある人に対して、本当は全員に対して面
接指導してほしいわけです。それがいちばん、予防対策上は確実であると思うわけで
す。
　予防対策の意味からはそうであるけれども、またそれがレベルダウンして、「訴えの
あるものだけ」ということになったわけです。ややレベルダウンの感じもするわけです
が、そのほか時間にかかわらず、ある程度長時間労働をした者に対して、産業医がそれ
を勧奨できることである程度担保されているなという感じもしますから、この辺がいち
ばんいいのではないのかなと思っています。以上です。

○平野委員
　私はどちらかというと、技術的な面でこの会議にコントリビュートさせてもらってい
ます。技術的な面だと、良い・悪いというのは多少傾斜があるのですが、かなりはっき
りしているわけです。この議論を通じてものすごく勉強させていただいたのですが、医
学というとやはり割り切れないようなところがあります。先生が提案されたような線が
出てきても、皆さん、それで納得というわけではないなということで、本当に勉強させ
ていただいています。また機会がありましたら発言させていただきます。ありがとうこ
ざいました。

○内藤委員
　この数カ月、なるべく出席して議論に参加いたしました。私自身は法律を学ぶ者とし
て、100時間というのは非常に多い残業時間であるという意識は変わらなかったわけで
す。ただ、産業界の動向も理解できないものではありません。ぎりぎりの線、せめてこ
のあたりで労働者の健康被害を最低限食い止めたいという認識はある程度できたのでは
ないかと思います。もし、このあたりで何とかまとめることが出来るならば、将来的に
産業構造等の変化が起きた場合、少しずつでも労働時間を減らす方向に行っていただけ
れば非常にありがたいと感じた次第です。以上です。

○分科会長
　北山委員、いかがですか。

○北山委員
　結構です。

○分科会長
　いまのような状況のご意見と、厚生労働省側からのかなり細部にわたったご説明もあ
りました。いかがでしょうか。

○伊藤委員
　皆様からのお話を聞いて、もっともだと思います。賃金の不払い29億円、自己申告と
勤務のかけ離れ、離れてしまっていて払わないというのは言語道断だと思います。タイ
ムレコーダーは定時に押させて、残業する人は能力不足、製造業の共存云々といろいろ
ありました。私たちはそのようなことを言っているのでなく、100時間まで残業しなさ
いとも言っているわけではありません。こういうことをしたら駄目です、30時間と決ま
っているわけです。
　私たちが言いたいのは、当然皆様の健康も考える。企業にもそういう部分の作業負担
を減らしてくれないか。たまたま、それが100というのはどうもおかしいのではないか
と申し上げただけでございます。予防医学上、そういうことの可能性があるのであれ
ば、それはあるのだろう。厚生労働省がおっしゃるとおり、全体の中で１％の仕事だっ
たらいいわけです。１％だったら100のうちの１つですからちょっとではないですか。
ただ、ルーティーン・ワークが１つ増えてしまうということは我々としてもちょっとき
ついのではないか。それが返ってこないわけです。要するに、コストの増加なのです。
　もう１つ、先ほど50人のところで産業医がいる・いない、地域産業保健センターがあ
る・ないがある。これも仮にいろいろな医者を使って、お金を国から出るようにする。
でも、誰が払わなければいけないのか。我々の所得税から差し引かれる部分が増えてい
くだけではないのか。もしかしたら返ってくるわけです。この辺のバランスの取り合い
だと思います。
　もしご考慮いただけるのであれば、厚生労働省側もその辺を加味していただいて、中
小企業のことを考えていただいて、「やることはやろう」となればと思います。その辺
で落としどころがあれば非常にありがたいと思います。

○分科会長
　そうすると、いまの答申のままでは納得いただけないですか。

○伊藤委員
　はい、もう少しトーンダウンしていただけるとありがたいと思います。決して、我々
はメンタルヘルスに関して無視しようとか、そういう考えは一切ありません。時間外労
働100時間などもってのほかでございます。

○局長
　「もってのほか」というお話なのですが、中小企業は大変コストがアップになって厳
しいというお話でした。労働者にとってみると、別に中小企業に働いている人と普通の
大企業にいる人が体力において頑健さが違うということではありません。先ほど来お話
があるように、100時間の残業を１カ月やるためにはこういったようなことを毎日毎日
やっているということですね。そういうことがコストで言っても１年間続くとは到底思
えませんから、１年のコストで見るとそういう人がたまたまいた。
　なおかつ、ここで言っているところは本来はそこまで長時間してもらっては困るけれ
ども、たまたま禁止はしていないので、なった時にどうするか。そのときに１つ、医者
のところで診てもらいなさい。こういうことを義務づけようとしているわけです。１年
間見た場合にこういうことが毎月あるわけではありませんから、どれだけのコストなの
か、むしろお示しいただきたいぐらいに思います。いかほどになるのかという気がしま
す。

○伊藤委員
　全部の台帳をめくらなければならないという。

○局長
　いや、先ほどお話したように、お聞きになっていたと思いますが、全部めくることは
しなくてもいいというやり方もあるというお話をしましたでしょう。

○伊藤委員
　仮に３人の企業ならわかりますよね。ならば、500人の企業で。

○局長
　500人でも同じことです。自分で申出をしなさいと言っているわけです。なおかつ、
毎日毎日、夜11時まで働いているという人は具体的に帳面を見なくても、それが１カ月
ずっと続いているわけでしょう。そういう状況が全くわからないということはないと思
います。言わば、全然やっていない人まで含めて帳面をめくらなければいけないという
のは、それはどうもためにする議論のように私には思います。そうではないのです。事
業主方がどういう行動を取らなければいけないかということをよくお考えいただいて、
100時間を超えて危険が２倍にも３倍にもなってくる状況を改善するにはどうしたらい
いかという観点から是非、ご議論、ご検討をいただきたいと思います。
　医師による面接指導ということも、我々としては産業医が現実にいる所で、それなり
の知識・経験を持っておられる専門的な方に当たっていただくのが最も望ましいと思っ
ているわけです。したがって、そういった人が選任されていないようなところについて
は産保センターなどを拡大するなどして、できるだけそういうことに対応しようと考え
ているわけです。
　ただ、ここで言っているのは医師による面接指導です。先ほど加藤委員からお話があ
ったように、まず近くの所でもいいから診てもらいなさいというだけの話なのです。し
かも500人いても、500人全員が毎月毎月100時間やっているわけではありません。どれ
ほど、何パーセントのコストアップになるのでしょうか。是非、そういうことをお考え
いただきたいと思います。

○伊藤委員
　そうすると、また100時間の部分の議論からしていかなければならなくなってきます。
先ほどのこの問題がメンタルヘルスで心臓疾患、その話になってしまうと思います。

○局長
　メンタルヘルスは関係ありません。

○伊藤委員
　そこに戻ってよろしいのでしょうか。

○分科会長
　コストがどれぐらい上がるかという点はどうですか。

○伊藤委員
　我々はこれについてアンケートを取っています。500人規模の企業の中で、それを全
部行いました。これはコストが上がりますよねと。技術的にどういうことをやっていく
かというと、やはり全部賃金台帳を見ていかなければならない。

○局長
　全員分についてやれとは言っていません。

○伊藤委員
　やらなくてよろしいのですか、この500人。

○局長
　そういうようにお話しているつもりなのですが、いちいち最初から毎月毎月、500人
全員を誰か係を作って、帳面を見ていかなくてはいけないという必要はありません。し
かし、それと同時に100時間残業させていれば残業代は払っているわけです。本来、管
理しているわけです。それと比べていかほどになるのでしょうか。
　百歩譲って、労力はゼロとはいいません。だけど、そうやらなくてもいい。つまり、
いちばん最初にお示ししたようなものの考え方だと、確かに100時間になったらという
ことですから絶えず見ていなくてはいけないということになるかもしれません。今回の
場合は申出をした者ということですから、そういう人たちについて調べれば足りるわけ
です。どれほど、それがあるのでしょうか。500人の方が毎日、夜の11時まで働いてい
る。月曜日から金曜日まで。しかも、それが全員毎月、そういうことはあり得ないわけ
です。おっしゃるほどのコストアップになるのでしょうかということです。

○伊藤委員
　これはその前の議論からになってしまうのですが、２から６カ月の80時間という問題
がありました。これは今回出てきていません。このときの作業の問題がありましたよ
ね。

○局長
　そういうお話を踏まえてこういう具合に変わっているわけです。その部分は確かに、
おっしゃるように絶えずフィードバックして見ていかなければいけない。それは大変だ
と思います。何はともあれ、100時間のところはいかに何でも、毎日毎日11時までやっ
て。

○伊藤委員
　もちろん、そういう方はすごく少ないのです。皆様の調査の中でも１％以下だと。

○局長
　そのように変えてあるわけです。議論の進展がそのようになっていますので、それを
前提にお話いただきたいと思います。

○伊藤委員
　もう１つ、地域産業保健センターの問題でもどうのこうのという話になってしまう。

○局長
　それはおっしゃる面はあると思います。

○伊藤委員
　この辺で何らかの譲歩をされるという、課長のほうでは時間の問題というお話があり
ました。

○安全衛生部長
　地域産業保健センターのコスト、22億程度は労災の特別会計から出ています。それか
ら、亡くなられた方に対しても労災から出るわけです。亡くなられますと、実際、157
名のうちの９割が100時間超ということでした。150名ぐらい亡くなられると、遺族の方
には年間数百万×150人×その期間ということになります。要するに、予防コストはは
るかに少ないという１つの式の中から引用しているわけです。そういうこともご理解く
ださい。
　いま資料を配っていますが、100時間超は一応、中小も全部入れて1.6％、先ほど来ご
説明させていただいている形で500人だと1.6％出てきて８人となる。ですから、８人の
方に手を挙げていただいて、それをチェックするという感じです。事業所内で実際はこ
れより少ない可能性があります。マックスでこういうものだとご理解いただければと思
います。
　そういう形で、500人だから500人全部台帳をめくるのではなくて、500人のうち該当
された方に申告していただくという形にすれば、台帳を数名めくるのと同じような労力
で済むということを申し上げているわけです。企業、事業所によってやりやすい方法で
工夫していただければいいと申し上げているわけです。きちんと給与等で明細の中に入
っていれば、それを確認した上で労働者が出してくるということも当然１つの方法とい
うことです。

○伊藤委員
　その問題はそれでよろしいということです。

○讃井委員
　中身のことではないのですが、お話の進め方で発言します。やはり、目指しているこ
とはみんな共通だと思います。過重労働による健康障害をどうやって防止するかという
点に否はないわけで、それをいかにやっていくか。特に、どうやって現場で実施できる
形にしていくか。その制度づくりがいちばんの課題になっていると思います。いろいろ
議論をしていますが、形だけ作っても実行されないのであれば、つまり納得できないと
いうことで実行されないのであれば、あまり意味がないことになります。やはり、納得
ができないという方がいる間は議論を尽くして、みんなが十分に納得した上で制度を構
築するのがいいのではないかと思います。そのためには多少、現場でどうやったらこう
いうことが実施できるかというためのイメージが湧くような話、図柄をいただくのがよ
ろしいのではないかと思います。

○徳永委員
　いまご指摘がありましたように、納得できないという点はとことんやればいいと思い
ます。とはいえ、それなりの時間はあるのだと思います。ただ、伊藤委員と議論する気
はないのですが、企業活動、生産活動に劣る労働者の生命というのはないわけです。労
働者の生命はその上にあるわけです。当たり前だとおっしゃると思いますが、そういう
中で具体的にどう進めていくかを労使できちんとやっていかないとこういう課題ですか
ら進まない。
　そういう中での議論だと理解しながらあえて申し上げたいのですが、やはり100時間
という労働をさせている。これは勝手にやっているわけではありません。逆に言うと、
させている状態が許せるのかということです。そう言っても、企業のあり方によっては
大変だと。中小企業は汗水たらして労働時間をしいて、それでも頑張っているというこ
とだと思います。そうであれば、やはり労働者に対する健康管理は最低限事業者の責務
として、歯を食い縛ってもクリアしていこうではないかという姿勢でないと、この議論
は進まないと思います。
　あえて申し上げたいのですが、労働側の立場からすればここはぎりぎり、逆に言うと
これ以上の後退は困るというのが率直な感じなのです。言ってしまいましたが、そのよ
うな議論がありますので控え目に申し上げておきます。できれば、この辺でまとめたら
いかがでしょうか。残りの時間でやるのは結構ですが、まとめる形で進めてほしいと思
います。以上です。

○伊藤委員
　もちろん、ここで無駄な時間を使っても仕方がありません。ただ、議論だけはきちん
としておかないといけないと思います。多分、我々の目標としているところは同じであ
ろう。それは私も同感です。

○分科会長
　まだ時間がありますが、ここでこれ以上議論しても進まない感じがします。今日の議
論はこのあたりまでとします。一応、今日の議論は過重労働対策のところに集中してい
ました。それを除いては了解されていると思いますので、過重労働対策の点だけについ
て、さらに次回、最終的な調整をして、取りまとめまでいきたいと思います。伊藤委員
も全国の中小企業代表として頑張っておられると思うのですが、具体的な中身で、今日
厚生労働省からのご説明を十分お考えいただければ、多分それほど大きな問題はないと
思います。ただ、この場で全体について賛成ということは無理なようですので、次回ま
で是非ご検討いただきたいと思います。最後に、今後のスケジュールについて事務局か
ら説明をお願いします。

○計画課長
　次回ですが、12月27日の午後４時から開催したいと思っています。ご都合はいかがで
しょうか。ご都合の良い方は挙手をお願いしたいと思います。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（挙手）

○分科会長
　大丈夫ということですので、12月27日（月）、午後４時から開催したいと思います。
本日の会議は以上で終了いたします。議事録への署名ですが、芳野委員と中田三郎委員
にお願いいたします。よろしくお願いいたします。皆様、お忙しい中、どうもありがと
うございました。

照会先：労働基準局安全衛生部計画課（内線５４７６）