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「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書




平成16年12月24日

「痴呆」に替わる用語に関する検討会



「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」報告書

 本検討会は、従来から一般的に使用されている「痴呆」という用語に替わる用語について検討を行うため、本年6月以降4回にわたって論議を行った。

 その中で、本件に関する問題の所在や「痴呆」という言葉の来歴等を整理するとともに、「痴呆」に替わる用語が備えるべき要件や新しい用語の選定等について議論した。
 また、検討の過程において、関係団体や有識者からヒアリングを行うとともに、「痴呆」に替わる用語として選定した複数の候補例等について広く国民の考えを問うため、厚生労働省のホームページ等を通じて意見の募集を行った。

 こうした論議の結果、本検討会としては、一般的な用語や行政用語と しての「痴呆」について、次のような結論に至った。
(1)  「痴呆」という用語は、侮蔑的な表現である上に、「痴呆」の実態を 正確に表しておらず、早期発見・早期診断等の取り組みの支障となっ ていることから、できるだけ速やかに変更すべきである。
(2)  「痴呆」に替わる新たな用語としては、「認知症」が最も適当である。
(3)  「認知症」に変更するにあたっては、単に用語を変更する旨の広報 を行うだけではなく、これに併せて、「認知症」に対する誤解や偏見 の解消等に努める必要がある。加えて、そもそもこの分野における 各般の施策を一層強力にかつ総合的に推進していく必要がある。

 本検討会における詳細な検討状況については、別添のとおりである。



(別添)

「痴呆」に替わる用語に関する検討について

I. 問題の所在

 1. 「痴呆」とは何か

 痴呆とは、成人に起こる認知(知能)障害である。記憶、判断、言語、感情などの精神機能が減退し、その減退が一過性でなく慢性に持続することによって日常生活に支障をきたした状態をいう。

 痴呆を起こす原因の多くは病気によるものであり、代表的なものとしては、脳の血管が詰まったり出血したりして痴呆になる「血管性痴呆」と、アルツハイマー病という脳が萎縮する病気で痴呆になる「アルツハイマー型痴呆」がある。

 現在、我が国では、要介護認定者の2人に1人について痴呆の影響(「痴呆性老人自立度II」以上に該当)が見られ、その数は約150万人(2002年)にのぼっている(厚生労働省調べ)。高齢化の進展に伴って、このまま推移するとこうした痴呆性高齢者の数は、2015年には約250万人に、2025年には約320万人に増加すると予測されている。

 こうした将来予測を踏まえると、これからの高齢者介護における中心的な課題は、痴呆性高齢者への対応であり、ケアのあり方そのものも痴呆の特性に適した形に改めていくことが必要となる。
 痴呆性高齢者は、記憶障害が進行していく一方で、感情やプライドは保持されるため、外界に対して強い不安を抱くと同時に、周りの対応によっては、焦燥感、喪失感、怒り等を感じやすくなる。このため、痴呆性高齢者にこそ、その人の人格やそれまでの生活を尊重するという「尊厳の保持」の姿勢をケアの基本とする必要がある。

 現時点ではまだ痴呆そのものを治療する方法は確立していないが、近年、次のような理由から、早期発見・早期診断の重要性が指摘されている。

(1)  血管性痴呆の場合には、薬物療法やリハビリテーション等により、血行障害の改善や進行の抑制を図ることができる。また、近年、アルツハイマー病についても薬剤が開発され、早期であれば、一定期間、進行の抑制や症状の改善が見られるようになった。

(2)  痴呆に類似した症状として、脱水症状や心筋梗塞その他の原因による「意識混濁」や、うつ病があり、また、「正常圧水頭症」等の疾患により痴呆症状が現れることもある。こうした場合については、治療の可能性があることから、早期の対応が必要となる。

(3)  本人の社会的なつながりを増すような介入を早期に行えば、痴呆の発症を遅延させること(痴呆予防)ができる可能性がある。(現在、検証のための研究が行われている。)

(4)  診断を受けることにより、家族等は、その後の経過を含めて痴呆という病気に対する心構えを持つことができる。また、本人に対する適切な接し方や外部の介護サービスの利用等に関する各種の情報を得る機会が増える。

 2. 「痴呆」という用語の問題点

 このように、痴呆対策は、高齢化が進むこれからの我が国にとって喫緊の課題であるが、その推進にあたり、「痴呆」という用語について、次のような問題点が指摘されてきた。

(1)  侮蔑感を感じさせる表現であること
 急速な高齢化の進展に伴って、我が国の痴呆性高齢者は、今後20年間で倍増すると予想され、より多くの家族が痴呆に関わるようになる。また、痴呆になっても住み慣れた地域で暮らし続けられるようにするためには、「地域づくり」が進展し、地域の中で、住民やボランティア、専門機関等が連携して高齢者本人や家族を支える体制が出来ているかどうかが重要な鍵となる。
 こうしたことの前提として、痴呆に対する国民的な理解と支援が不可欠と考えられる。
 一方、「痴呆」という用語は、後述するとおり、「あほう・ばか」と通ずるものであり、侮蔑的な意味合いのある表現である。痴呆性高齢者と接する際の基本である「尊厳の保持」の姿勢と、「痴呆」という表現とは相 容れないものと言わざるを得ない。
 また、現実に、「痴呆」と呼ばれることにより、高齢者の感情やプライドが傷つけられる場面が日々生じていると思われる。家族にとっても、親しみと愛情のある肉親をこう呼んだり、呼ばれたりすることには、苦痛や違和感を感じる場合も多いと思われる。

(2)  痴呆の実態を正確に表していないこと
 痴呆について、一般に、「痴呆になると何もわからなくなってしまう」というイメージで捉えられる場合があるが、近年、国内外で痴呆の当事者が自らの体験や気持ちを発言され始めており、こうしたイメージが全くの誤りであることが明らかになってきた。
 認知障害の出方や程度は、人によってもまた病状の段階によっても様々に異なる。特に感情の働きは、痴呆のかなり末期まで保持される。
 痴呆の実態について誤ったイメージが広く存在している原因の一つ が、「痴呆」という表現にあると考えられる。

(3)  早期発見・早期診断等の取り組みの支障になること
 前述のとおり、最近では、痴呆の早期発見・早期診断の重要性が指摘されている。しかし、実際には、痴呆になることは怖いことであり、恥ずかしいことであるという認識が広く存在し、「痴呆」に関するものであるとわかると、診断の受診や早期対応プログラムへの参加が拒否されるなど、施策を実施する際の支障となっているとの指摘がなされている。
 「痴呆」という表現が、こうした恐怖心や羞恥心を増幅していると考えられる。

 このような「痴呆」という用語の持つ問題点を更に明らかにするため、「痴呆」という言葉そのものについて分析を行うとともに、これも踏まえて、新たな用語に替えることの是非について検討を行った。


II. 「痴呆」という言葉の分析

 1. 言葉としての意味はどうなのか

 「痴呆」という言葉は、広辞苑では、「いったん個人が獲得した知的精神的能力が失われて、元に戻らない状態」とされており、日常生活においても普通に用いられている。

 また、「痴呆」は、診断や療養の場面で用いられる医学上の用語でもある。診断名としては、現在では、「アルツハイマー型痴呆」や「血管性痴呆」などのように用いられている。
 医学的な定義としては、次のように示されている。
 発育過程で獲得した知能、記憶、判断力、理解力、抽象能力、言語、行為能力、認識、見当識、感情、意欲、性格などの諸々の精神機能が、脳の器質的障害によって障害され、そのことによって独立した日常生活・社会生活や円滑な人間関係を営めなくなった状態をいう。多くの場合、非可逆性で改善が困難であるが、ときに治癒可能なこともある。
(南山堂「医学大事典」による)

 生後の発達の過程で獲得された、認知、記憶、判断、言語、感情、性格などの種々の精神機能が減退、または消失し、さらにその減退または消失が一過性でなく慢性に持続することによって日常生活や社会生活を営めなくなった状態をいう。痴呆は、脳損傷によって生じることが多く、改善することはきわめて困難であるが、場合によっては治癒しうることもある。
(都立松沢病院 松下正明病院長による)

 行政面では、昭和50年代後半あたりから「痴呆」の用語が用いられ始めており、昭和61年には当時の厚生省に、「痴呆性老人対策本部」が設置されている。法律上の用例としては、おそらく平成3年の老人保健法等の改正が初出であるが、現在では、介護保険法、社会福祉法等の法律を始めとする多くの法令で使用されている。

 2. どういう来歴なのか

 江戸末期から明治の初頭にかけて、西洋医学の様々な言葉が日本語に訳された。医学上の「痴呆」は「Dementia」の訳語であるが、明治5年の「医語類聚」では「狂ノ一種」と訳されていた。
 その後、医学用語として、「痴狂」や「瘋癲」、「痴呆」等々と訳され一定していなかったが、明治の末期に、我が国の精神医学の権威であった呉 秀三氏が「狂」の文字を避ける観点から「痴呆」を提唱され、それが徐々に一般化していった。なお、「Dementia(英)」や「Demenz(独)」自体の語源は、ラテン語の「de-mens」に由来するが、このラテン語の語源も「正気からはずれる」という意味である。

 日常的な用語としては、大正時代頃から用いられ始めたようであり、昭和9年の国語辞典(広辞林(新訂版))には、「ちほう(癡呆)あほう・ばか」と記載されている。
 その後、医学用語としての用法も広がり、国語辞典には、「あほう・ばか」としての意味と、医学的な「痴呆」を表す意味の2つが記載されるようになった。昭和30年(1955年)の広辞苑(第一版)には、「ちほう(痴呆)脳の障害のため、精神作用が一部或は全部崩壊・滅失した状態。ばか。あほう。」と登載されている。ただし、広辞苑においては、昭和44年の第二版以後は「あほう・ばか」の記載は無くなり、医学的な意味での「痴呆」のみが記載されている。

 なお、「痴」、「呆」それぞれの文字についてみてみると、「痴」は「おろか」、「くるう」という意味であり、「痴漢」、「白痴」等の熟語の用例がある。
 「呆」は「ぼんやり」とか「魂の抜けた」という意味であり「呆気」、「阿呆」等の熟語の用例がある。「呆」については由来を含めよくわからないところもあるとされているが、少なくとも「痴」に関しては、侮蔑的な意味を表す文字である。


III. 「痴呆」に替わる用語の検討

 ○  言葉の分析により、「痴呆」は「あほう・ばか」と通ずるものであり、侮蔑的な表現であることが確認できた。
 また、有識者や関係団体からのヒアリングを行った際に、「痴呆」という用語は広く国民に知られているが、「痴呆」の言葉から受ける「あほう・ばか」の印象があるために実態がどういうものであるかが正確に理解されておらず、国民への普及啓発を進める上で逆にわかりにくい用語となっており、問題であるという指摘があった。

 ○  こうしたことから、「痴呆」という用語は替えるべきであるとの立場を基本として、以下のとおり検討を進めた。

 1. 新しい用語が備えるべき要件は何か

 本検討会では、「精神薄弱」を「知的障害」に変更した際に検討された要件等も参考にしつつ、次の3点を新たな用語が備えるべき要件として位置づけることとした。

(1)  一般の人々にわかりやすく、できれば短いこと。

(2)  不快感や侮蔑感を感じさせたり、気持ちを暗くさせたりしないこと。

(3)  「痴呆」と同一の概念をあらわすものであることについて疑義を生じさせず、混乱なく通用すること。
 なお、「痴呆」の内容を正確にあらわし、他の疾病や状態と明確に区別できることは望ましいことではあるが、(1)ないし(2)のメリットのためには、正確性はある程度犠牲にされてもやむを得ないこと。

  (参考)

「精神薄弱」を「知的障害」に変更した際の代替用語の要件

 ・  概念を変えないこと。
 ・  疾病名、障害の種類のいずれとしても適切に通用すること。
 ・  不快語、差別語でないこと、かつ、価値中立的に表現するものであること。

 2. 検討の経過

(国民からの意見募集)
 新しい用語は、1.の各要件を満たすとともに、国民に広く受け入れられるものでなければならない。このため、本検討会において、複数の候補例を示した上で、広く国民や関係団体から意見募集を行うこととした。

 意見募集に際して例示する新しい用語の候補は、検討の結果、(1)「認知症」、(2)「認知障害」、(3)「もの忘れ症」、(4)「記憶症」、(5)「記憶障害」、(6)「アルツハイマー(症)」の6つとした。それぞれについて、候補とした考え方は次のとおりである。

(1)  「認知症」
 痴呆の本質を端的に表現すると、「認知障害により、社会生活や職業上の機能に支障をきたす状態・症状」ということになる。ここで、「認知」とは、覚える、見る、聞く、話す、考えるなどの知的機能を総称する概念であり、痴呆に関しては記憶機能の低下のほか、失語(言語障害)、失行(運動機能が正常にもかかわらず、運動活動を遂行することができない)、失認(感覚機能が正常にもかかわらず、物体を認知同定することができない)、実行機能障害(計画を立てて、それを実行することができない)などの症状が見られる。こうした「痴呆」の本質に着目し、「認知」を用いることとした案。語尾を病気の状態を示す「症」とするのは、「痴呆」の中には一部治癒若しくは症状が安定するものがある一方、他の多くの場合は進行性であり状態が固定していないため。

(2)  「認知障害」
 (1)と同様に痴呆の本質(認知障害)に着目し、「認知」を用いることとした案。語尾を「障害」とするのは、「病気の状態」であることを示す表現よりも、単に「機能低下の状態」であることを示す表現の方が、中立的であると考えられるため。

(3)  「もの忘れ症」
 痴呆の本質は認知障害であるが、その際に記憶障害を必ず伴うことを特徴としており、この点に着目した案。記憶機能が低下した状態を和語(やまと言葉)を用いて表現した。語尾を「症」とするのは、(1)と同様の考え。

(4)  「記憶症」
 (3)と同様に、記憶障害を必ず伴うという痴呆の症状の特徴に着目し、「記憶」を用いることとした案。語尾を「症」とするのは、(1)と同様の考え。

(5)  「記憶障害」
 (3)と同様に、記憶障害を必ず伴うという痴呆の症状の特徴に着目し、「記憶」を用いることとした案。語尾を「障害」とするのは(2)と同様の考え。

(6)  「アルツハイマー(症)」
 痴呆は、その原因によりいくつかのタイプに分類できるが、最も多いタイプは「アルツハイマー型痴呆」である。「アルツハイマー」とは、この病気を発見・報告したドイツの学者の名前であり、この人名をそのまま用語として用いる案。例えば、米国では、痴呆(Dementia)のことを総称してアルツハイマー症(Alzheimer Disease)と呼ぶことがあるなど、国際的に通用しやすい。語尾に「症」をつける案もありうる。

 国民からの意見募集においては、「痴呆」に替わる用語として6つの候補の中から選ぶとしたらどれが一番良いかということのほか、次の事項について尋ねることとした。
 一般的な用語や行政用語として使用される場合に、「痴呆」という言葉に不快感や軽蔑した感じが伴うかどうか。
 病院等で診断名や疾病名として使用される場合に、「痴呆」という言葉に不快感や軽蔑した感じが伴うかどうか。
 6つの候補以外に適当と思われる用語は何か(自由記載)。

(意見募集の結果)
 意見募集(有効回答数6,333件)の結果は、まず、「痴呆」という用語に不快感や侮蔑感を感じるかどうかについては、
(1)  一般的な用語や行政用語として用いられる場合に、不快感や軽蔑した感じを「感じる」56.2%、「感じない」36.8%、
(2)  病院等で診断名や疾病名として使用される場合に、不快感や軽蔑した感じを「感じる」48.9%、「感じない」43.5%であった。
 (1)、(2)どちらの場合も不快感や侮蔑感を「感じる」方が「感じない」方より多く、特に(1)の一般的な用語や行政用語の場合については、「感じる」という回答が過半数を超えていた。

 次に、新しい用語の候補については、次のような回答結果であった。
 認知障害  1,118人 (22.6%)
 認知症 913人 (18.4%)
 記憶障害 674人 (13.6%)
 アルツハイマー(症) 567人 (11.4%)
 もの忘れ症 562人 (11.3%)
 記憶症 370人 (7.5%)
 また、自由記載については、全530種類に及ぶさまざまな案が寄せられた。ただし、最も件数が多かったもの(「認知記憶障害」)でも15件であり、全体としてばらついていた。これらを分類すると、「認知失調症」や「認知低下症」など「認知」を用いた提案が最も多かった。

(学会における取り組み)
 一方、この間、医学上の用語としての「痴呆」に関して、約2,500人の会員(主として精神科医)で構成される「日本老年精神医学会」(松下正明理事長)において、以下のとおり、見直しを検討する取り組みが開始されている。

 行政用語と医学用語は別個のものであるとして、同学会内部に、医学用語についての検討を行う「痴呆名称に関する検討委員会」が設置され、双方の用語は別個ではあるが全く無関係というのは良くないのではないかとの観点から議論がなされている。

 検討委員会での議論に先立って会員に対するアンケート調査が行われ、「痴呆」という用語に関して偏見や差別感を持たないという意見が多数を占めるという結果が得られたが、検討委員会においては、「職能集団によるアンケート結果はそれとして、患者や家族が受ける印象は別であり、医学的病名であるとしても「痴呆」という言葉は偏見や差別を招く用語であると思われ、検討が必要である」と考えられている。

 今後、来年(平成17年)6月の理事会までに検討委員会としての意見をまとめ、その結果をそのときの総会に提案し、会員の間での議論を経て、再来年(平成18年)の6月の総会で学会としての結論を出す予定とされている。

 議論の途上ではあるが、
ア)  「痴呆」の替わりに新しい用語を提唱するならば、従来の精神医学の世界では使われていなかった言葉を採用するのが望ましい。

イ)  候補の一つである「認知障害」は、精神医学の領域ではこれまで多様に使われていることから、これを採用すると、従来の意味と新たに付け加わった「痴呆」としての意味が混同して、精神医学全体に混乱を引き起こすおそれがある。一方、「認知症」であればこうしたことはない。 という考え方が出されている。

 「痴呆」に替わる新しい用語が国民に広く受け入れられるためには、医学上の用語との関連も重要であり、可能であるならば相互に一致することが望ましい。
 このため、関係学会における用語の見直しに向けた取り組みの状況や、候補にあがった各用語の医学領域での使用例等について十分に留意する必要がある。


IV. 新用語の提唱

 ○  以上のような検討経過をたどり、「痴呆」に替わる新しい用語としては、「認知症」が最も適当であると考える。その理由は、次のとおりである。

(1)  「認知障害」は国民からの意見募集で一番高い得票数であったが、一方で、次点の「認知症」とあまり大きな差はなく、また、自由記載で「認知」を含む用語の提案が多かったことも勘案すると、「認知」系の用語の支持が最も高かったと考えることができる。

(2)  「認知障害」については精神医学の分野でこれまで多様に使われており、これを新用語とした場合には、「痴呆」としての意味が混同して混乱を招くおそれがある。一方、「認知症」は新たな語であるので、こうした混乱のおそれはない。

(3)  一般的な用語や行政用語と医学用語は別個のものとして存在しうるが、できれば同一であることが望まれる。医学用語として採用される蓋然性は「認知障害」より「認知症」の方が高いと考えられる。

(4)  「〜障害」とした場合には症状が固定している印象を伴うが、痴呆については、一部治癒若しくは症状が安定する場合がある一方で、多くの場合は進行性であることから症状は固定しておらず、こうした実態に合わない面がある。


V. 用語変更の実施にあたって

 (実施の時期)
 ○  新しい用語への変更は、できる限り速やかに実施されるべきと考える。
 また、法律上の用語についても早急に変更されるべきであり、次期通常国会に提出予定の介護保険制度改革関連法案において改正されることが望まれる。

 (広報)
 ○  用語の変更に伴って、現場の関係者や国民の間で混乱が生じないよう、十分な広報を行う必要がある。

 ○  こうした広報に併せて、「認知症」の症状や特性(例えば、「何もわからない」状態になってしまうのではないこと等)について正しい情報を伝え、誤解や偏見をなくしていくようにすることが重要である。
 特に近年、痴呆の当事者から発信されている自らの体験や気持ちを伝える言葉は、痴呆や痴呆になった人を正しく知る上で極めて貴重な情報であり、積極的な広報が望まれる。
  ※  例えば、46歳でアルツハイマー型痴呆と診断されたオーストラリアのクリスティーン・ブライデンさんは、
  「私たちに希望を下さい。私たち一人ひとりが、自分の内なる豊かさを持ったかけがえのない存在であることをわかってください。」
「私たちに耳を傾け、きめ細かく対応をし、私たちの気持ちを認めて、価値ある人間として敬意を示してくれることが、何よりも助けになります。」
等と、語っている。
 さらにまた、家族の関わり方や地域住民の接し方、早期発見・早期診断の重要性、外部の介護サービス活用の効果等についても、わかりやすく情報を届ける必要がある。

 ○  こうしたことから、厚生労働省においては、地方自治体や関係機関・団体等と協力して、例えば、来年4月からの1年間をキャンペーンイヤー(例:「認知症を知る1年」)と位置づけるなどして、効果的な広報・情報提供が行われることを要望する。

 (認知症対策の推進)
 ○  用語を替え、偏見や誤解をなくしていくことは重要なことである。しかし、この分野における施策そのものを推進させていくことが、それと同等以上に重要なことである。

 ○  具体的には、発生機序や診断法、予防・治療法等の研究開発、早期発見・早期診断や発症遅延(認知症予防)対策の推進、地域生活継続の支援策、ケアの質の向上、医療と介護の連携、人材養成、家族支援、権利擁護等の各般の施策を一層強力かつ総合的に推進していく必要がある。
 こうした取り組みが進展し、「認知症」になっても、その人らしく、安心して暮らし続けられる社会が一日も早く実現することを願って、本検討会の報告とする。



「痴呆」に替わる用語に関する検討会員名簿


(五十音順・敬称略)
  氏名 役職
  いべ としこ
井部 俊子
聖路加看護大学長
たかく ふみまろ
高久 史麿
自治医科大学長・日本医学会長
  たかしま としお
高島 俊男
エッセイスト
  たつの かずお
辰濃 和男
日本エッセイスト・クラブ専務理事
  のなか ひろし
野中 博
日本医師会常任理事
  はせがわ かずお
長谷川 和夫
高齢者痴呆介護研究・研修東京センター長
聖マリアンナ医科大学理事長
  ほった つとむ
堀田 力
さわやか福祉財団理事長
(注)◎:座長



「痴呆」に替わる用語に関する検討会検討経過

事項 時期
第1回検討会開催


痴呆の状態・心理・定義、痴呆性高齢者の現状、痴呆性高齢者のケア、これまでの用語変更事例など

6月21日
第2回検討会開催


痴呆という用語の来歴、関係団体等からのヒアリング、用語変更の必要性、代替用語の要件、複数案の検討など

9月1日
 パブリックコメント(国民の意見募集)、自治体、学会、家族会、医療・福祉関係者等の意見集約
9月13日〜
 10月29日
第3回検討会開催


国民・関係団体・医療福祉関係者等からの意見集約、新しい用語の検討など

11月19日
第4回検討会開催


新しい用語の決定、報告書とりまとめ

12月24日


照会先 老健局計画課痴呆対策推進室
痴呆対策係(内)3869


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