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わが国最低賃金制の問題点と改革の方向*
2004.12.17
厚生労働省最低賃金制度のあり方に関する研究会
横浜国立大学名誉教授
神代和俊
1. | 辻村図式は現代労働市場においても有効か?
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2. | 政治的シンボルか、実効的市場介入か?
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3. | 市場介入の政策目的は何か?
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4. | どこまで介入すべきか(適用範囲の問題)
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5. | 現行の最低賃金制は政策手段としてどの程度まで目的合理性があるか? |
* | 2003年10月4日、社会政策学会における報告をベースとしている。学会報告は、神代和欣「わが国最低賃金制の現状と課題」(社会政策学会誌第12号『社会政策学と賃金問題』法律文化社、2004年9月30日)参照。 |
1.辻村図式は現代労働市場においても有効か?
わが国の労働供給曲線も右下がりと推定される
2000年「賃金構造基本統計調査」第4巻データに基づく(神代和欣『産業と労使』放送大学教育振興会、2003年、142頁。)
- 労働供給曲線は右下がりか? 下方発散的労働市場か?
- 右下がりとしても労働需要曲線を上から切ってはいないか?
- 逆S字型の上方部分の右下がりではないのか?
- 最低賃金水準が均衡点の上方に来ていることはないか?
(上方発散的ではない)
- 不熟練労働に対する需要曲線は下方シフトしていないか?
(労働需要の減少及び労働需要の弾力性の増大。)
- 労働供給曲線が逆S字型の上方部分で右下がりでも、労働需要曲線D1を上から切る場合には、均衡点E1の上方では賃金の下方低下圧力が生じるから、政策的配慮(貧困防止、分配の公正など)からMW1の最低賃金が望ましいと判断されれば、それ以下への賃金低下を抑える合理性はある? 安定均衡水準より高い水準を政策的に設定してよいか?
- とくに、労働需要曲線が下方シフトし、しかも弾力性が増しているD2の場合には、均衡点E2が下方へ移動しているので、賃金水準の下方発散をMW2で阻止することは、合理性がある?
2.政治的シンボルか、実効的規制か?
- 最低賃金の引き上げは雇用にマイナスか?
一定限度(需要独占的搾取の幅)内ならマイナスにならない
Card & Kruger vs. Kosters, MaCurdy & O’Brien-Strain
雇用にマイナスでない引き上げの限度は?
- アメリカ政治学の見解
政治的シンボルなら単純明快なほうが良い
Waltman, Levine-Waldeman
- 政策的必要性に基づくシンボル操作としての最低賃金制
単純明快で誰にでも記憶されやすく、履行しやすいこと
3.市場介入の政策目的は何か ?
- 社会的公正、分配の不平等の是正
- 貧困退治との関係
From welfare to work
生活保護基準とのバランス
地域的生活水準をどこまで反映させるべきか
- 労使関係上の配慮
産別組合の存在意義
4.どこまで規制すべきか(適用範囲の問題)
- 過去50年間の職場の変化
Statement of Ronald Bird, Chief Economist, Employment
Policy Foundation before the House Workforce Protections
Subcommittee, March 6, 2002
- White-Collar Exemption Rulesの変更(2004.8.20施行)
過去50年間の職場の変化はFLSAの存在理由を問うものであった。
CCH Employment Law Briefing: White-Collar Exemption Revisions, April
21, 2004
- Salary basis 従来どおり
- Salary floor 1975年以来の週155ドル(時給3.88ドル、年収換算$8,060;連邦最賃ベースは週206ドル、年収換算$10,712)から455ドル(時給$11.375、年収換算$23,660;)へ引き上げ。”well above minimum wages”へ旧基準の3倍。
- Duty test “executive, administrative and professional employees”
executive exemption, administrative exemption, professional exemption
(teachers; journalists?, etc.)
5. 現行の最低賃金制には政策手段として、どこまで目的合理性があるか?
- 都道府県別審議会による決定か、広域か?
- ランク別か? 現行のランク別は合理性がどこまであるか?(下位ランクの県の方が上位ランクの県より高いところもある。20指標の中には相関の高いものがある)
- 全国一律か、地方最賃との併用か? (アメリカ方式)
- 産業別最賃は必要か? 「屋上屋」論、規制の実効性
刑事罰は妥当か?(ドイツ式の協約最賃、拡張適用でよいのではないか?)
地域最賃と大差のない産別最賃の実効性 (10分位、20分位比較)
- 適用範囲 身体障害者・試用期間中の者等(法8条)のみ除外でよいか?
若年賃率(フランス)、訓練生賃率(イギリス)を設ければ、実質的に「基幹労働者」対応の成人賃率を定められるのではないか。
- 影響率、未満率をもう少し引き上げた方が良いのではないか(フランス)。
現在でも地方によっては未満率4〜5%のところもある。
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