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第4回
資料4
諸外国の最低賃金制度における履行確保について


アメリカ

※アメリカ労働省HPより。

法の施行、調査
 公正労働基準法の施行は、賃金時間部の調査官によって行われる。調査官は、賃金、労働時間その他の雇用条件について調査し、法令違反が見つかった場合、是正を勧告する。
 公正労働基準法の11(a)条によって労働省は臨検、調査、尋問を行う権限が与えられている。
 調査は次のステップからなる。
 ・ 法の適用や適用除外を決定するための記録の調査。記録には、例えば、年間取引高、州際取引をしているかどうかなどが含まれる。
 ・ 給料支払簿、労働時間記録の調査、転写、コピー
 ・ 労働者との面接。この面接の目的は、給料支払簿、労働時間記録の事実確認や、適用除外に該当するかの判断のための職務の特定、未成年者が合法的に雇用されているかの確認である。
 ・ すべての事実確認を終え、もし違反があった場合、調査官は使用者やその代理人に是正措置をとらせる。最低賃金や割増賃金の違反のため労働者に支払うべき未払賃金がある場合、調査官は未払賃金の支払を使用者に命じ、支払うべき額を計算させる。

その他の手続
 行政レベルで法令遵守や未払賃金支払の問題を解決するほか、公正労働基準法は以下の手続を用意している。
 ・ 労働者が未払賃金及びそれと同額の弁済金を求めて訴訟を起こすことができる。
 ・ 労働長官が労働者にかわって未払賃金及びそれと同額の弁済金を求めて訴訟を起こすことができる。
 ・ 労働長官は最低賃金や時間外割増賃金を支払わないといった法律違反を行わないように差止命令を行うことができる。
 ・ 最低賃金の繰返し違反又は故意の違反に対して、行政上の制裁金(civil penalty)が課されることがある。
 ・ 法律を故意に違反した使用者には、罰金や禁固刑を含めた刑事罰が課されることがある。
 ・ 調査時に不服申立てや情報提供をした労働者は法の下に保護される。不服申立て等を行ったという理由で差別されたり、解雇されたりしてはいけない。解雇された場合は、彼ら又は、労働長官が彼らの代わりに、復職や損害賠償を求めて提訴することができる。


※なお、在米日本大使館のアタッシェが、アメリカ労働省賃金時間部のSenior Analystより聴取したところによると、以下のとおり。

 最低賃金に関する履行確保は、使用者に、最低賃金制度を知らせることと、職場に最低賃金に関するポスターを貼ってもらうことが中心。

 全国に50の地方支分部局があり、800人の調査官(Investigator)が調査を行うが、主に労働者からの申立てに基づいて行う。

 調査は、平均で、1人当たり30〜40回/年程度。ただし、この中には、公正労働基準法の規制対象(時間外労働手当、最低賃金等)をすべて含んでおり、最低賃金のみについての調査件数のデータはない。



イギリス

イギリス内国歳入庁HPより。制度は貿易産業省(Department of Trade and Industry)が所管しているが、運用は内国歳入庁(The Inland Revenue)が所管している。

 内国歳入庁は、(1)電話相談(Confidential Helpline)と、(2)最低賃金監督官(National Minimum Wage Compliance Officers)の16チームのネットワーク(Compliance Team)、の2つのアプローチで最低賃金法の履行を確保。

(1)電話相談
 1999年4月1日以来、このhelplineは、320,000件の質問に対応し、最低賃金が支払われていないことについての11,000件の苦情を取り扱った。

(2)監督チーム
 全国に設置され、それぞれのチームは6人までの最低賃金監督官から成っている。これらのチームの仕事は主に下記の5点である。
 ・労働者や第三者からhelplineを通じて寄せられた、最低賃金が支払われていないという苦情への対応
 ・使用者が最低賃金支払義務を果たしているかをチェックするための記録(employer records)の調査
 ・使用者が最低賃金法の義務を理解するのを助けること
 ・未払金の確保
 ・労働者に代わって雇用審判所に告発すること
 最低賃金の導入以来、内国歳入庁の監督官は、1300万ポンド(約26億円)以上の未払金を確認した。


日本労働研究機構 「諸外国における最低賃金制度 第3章 イギリスの最低賃金制度」(2003年)より

《最低賃金の遵守及び賃金支払の記録》
 ○最低賃金の違反
 全国最低賃金を払わないことは、故意であるか否かによらず、法的に罰せられることになる。最低賃金を支払わなかった場合、それぞれのケースについて5000ポンド以下の罰金を課せられることになる。内国歳入庁(Inland Revenue)の実施係官(enforcement officer)は雇主の事務所に立ち入り、賃金の記録を検査することができる。賃金の記録を適切な形で保存していない場合、また、係官の検査を妨害しようとした場合も同様に、5000ポンド以下の罰金を課せられることになる。雇主が最低賃金を支払わないことに対して従業員が質問したり、最低賃金を支払うように要求したり、また法的な手続をとることによって、従業員が解雇などの不利な扱いを受けた場合、その従業員は保障を受けることができる。
 自分の賃金が最低賃金に達しているかどうか疑問を持つ従業員は雇主に対して賃金の記録を閲覧できるよう書面で問い合わせることができる。この場合、雇主は14日以内に該当する賃金の記録を見せなければいけない。従業員からのこのような問い合わせに対して定められた返答をしなかった場合、雇主はその従業員に288ポンド(最低賃金の80時間分)支払わなければならない。また、もし当該従業員の賃金が最低賃金以下であった場合、その差額も支払わなければならない。

 ○賃金支払記録について
 1998年の最低賃金規則の規則38によると、雇主は、それぞれの労働者が最低賃金以上の賃金を受け取っていることを証明するような記録を保存する義務がある。このような記録はそれぞれの労働者について、すべての支払期間に関する記録を一つの文書にまとめて保存されなければならない。また、これらの記録は3年分、保存されている必要がある。さらに、従業員に求められた場合や、内国歳入庁の実施係官に要求された場合、これらの記録は従業員や実施係官に提出される必要がある。雇主がこれらの記録の保存を怠った場合、犯罪となり、さらにそれぞれのケースについて5000ポンド以下の罰金を受けることになる。

 ○最低賃金を守らなかった場合の、遵守促進及び罰則
 1998年の最低賃金法及びそれに付随する規則の遵守に関しては、内国歳入庁の実施係官が責任を負っている。1998年最低賃金法のセクション14によると、実施係官は雇主の施設に立ち入り、支払記録を検査・コピーし、説明を求め、質問をし、さらに従業員と話し合うことができる。また、実施係官は、雇主に対して、ある特定の労働者が全国最低賃金を支払われることを要求する文書を発行することができる。同様に、過去に最低賃金未満の賃金を受け取っている労働者に関して、その雇主に差額を支払うよう要求する文書を発行することもできる。これらの文書に従わなかった場合、該当する労働者一人当たり一日7.2ポンドの罰金を命じる文書を発行できる。

 ○最低賃金法を守らないことが刑事罰になるケース
 1998年の最低賃金法のいくつかの規定に関しては、その規定を守らない場合、犯罪(criminal offence)となるケースがありうる。その場合、5000ポンド以下の罰金となる。このようなケースにあたるのは次のような場合である。
最低賃金を支払うことを拒否した場合。
賃金の支払記録や労働時間の記録を適切な形で保存していなかった場合。
誤った記録を保存していた場合。
内国歳入庁の実施係官の検査を故意に妨害した場合。
内国歳入庁の実施係官に適切な情報を提供しなかった場合。

 ○労働者からの苦情申立て
 労働者は、自分が全国最低賃金以下の賃金しか支払われていないのではないかと疑問を持った際には、自己の賃金支払記録を調べることができる。このような申立ては書面でなされる必要がある。このような書面による問い合わせを従業員から受けた雇主は、14日以内にそれらの記録を提供する必要がある。もし、雇主がこのような記録を14日以内に提供しなかったならば、雇用審判所(Employment Tribunal)は雇主に、該当する最低賃金の80時間分の支払を命じることになる。また、自分の賃金が全国最低賃金に満たないと感じる労働者は審判所(Tribunal)や県裁判所(County court)に直接申し立てることもできる。このような申立ては、そのような支払があった3ヶ月以内に、ET1フォームによって、雇用審判所の地域事務所に申し立てることになる。
 労働者が雇用審判所に最低賃金に関する申立てをする際に、会社を辞める必要はない。上に述べたように、賃金が全国最低賃金に満たない労働者は、雇用審判所や内国歳入庁の実施係官に申し立てることができる。このような申立てをしたことで、雇主がその労働者を解雇したり、降格、転勤、昇給の停止、超過勤務の禁止などの行為を行ったりした場合、雇主は労働者に相当の額の保障を支払わなければならない。



フランス

日本労働研究機構 「諸外国における最低賃金制度 第4章 フランスの最低賃金制度」(2003年)より

最低賃金の履行確保
 SMICの履行監督は、主に労働省労働監督課に所属する労働監督官によって行われる。このinspecteur又はcontroleurと称される労働省の監督官約1150人に農業省及び運輸省の監督官数百人を加えると計約1500人となる。この三省の監督官が海外県を含むフランス全土の約144万の企業(労働者数約1350万人)を監督している。大まかな見方をすれば労働者一万人に対して監督官一名が割り当てられていることになる。(1998年度労働省資料による)
 監督の方法としては、労働者からの申告に基づいて職場を訪問する場合と、監督官が任意に企業や職場を選定する場合の二つが一般的であるが、政府各省庁が重点を置いている政策や方針がある時期にはそれに関連した業種に的が絞られる場合も多い。手順としては、監督官は監督しようとする企業を選択し、予告なしにその現場を訪れる。雇用者の義務、労働基準、賃金、安全、衛生管理等、主に9項目について労働法規違反がないかを確認する。賃金の項目に限って言えば、まず給与支給明細書、雇用契約書、タイムカードの提示を雇用主に求める。すべての項目についての調査の結果は後日文書で雇用主に伝えられるが、違反が確認された場合には監督官はまずこの書面で改善を忠告する(observation)。その後改善が見られない場合、監督官は調書(process-verbal)を作成し雇用主に対する刑法上の処罰を請求することができる。しかし、この刑事手続には1年から1年半もの時間がかかることから、裁判所が訴追を決定するまでに雇用主は違反行為を改善するケースがほとんどである。そのため実際には監督官からこうした請求が成されるのはまれである。一方、違反行為の被害者となった雇用者は監督官の介入を待たずとも雇用主の遵法行為を直接労働裁判所に訴えることができる。労働法典に収められている行政制定法はSMIC額違反に対する罰金を最高1,500ユーロと決めているが、これは違法賃金を支給された雇用者一人についての罰金額である。したがって雇用者が数人に及ぶ場合にはこの額にその人数を掛けることになる。ちなみに、1998年度の労働省労働監督課の介入件数を見ると、調書作成が総数30316件、うち最低賃金(SMICと業種別労働協議による最低賃金)に関する違反は60件であった。忠告の件数は全体で744243件であったのに対して最低賃金に関するそれは2271件であると報告されている。


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