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2004年12月

「在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究会」


今後の論点についての私見


伊藤道哉(東北大学大学院医学系研究科医療管理学分野)


1.在宅ALS患者のたんの吸引に関連して

 「業として行わない」とは、吸引は医行為であるが故に、医業としてヘルパー等家族以外の者が行うわけではないということ、及び、ヘルパーの業務時間内に身体介護の一部として行って差し支えないが、吸引を実施したからといって、新たな介護報酬は生じない、という意味であると理解している。
 今回、ALS以外の在宅療養者に、たんの吸引を家族以外の者が実施できるようになった場合でも、同様であると考える。

 ヘルパーは、事業所に所属するが、療養者から個別具体的に、たんの吸引の依頼があり、それに応じようとする場合に、「単に個人が取り交わしたことであるから、事業所としてあずかり知らぬことであり、事業所が業務上の責任を負うことはない」とすることはできないこと。および、在宅ALS患者のたんの吸引に関しては、損害保険の対象となる旨を、周知していただく必要がある。

 参考  損保ジャパン ウォームハート :居宅サービス事業者・居宅介護支援事業者向け賠償責任保険。

 http://www.sompo-japan.co.jp/hinsurance/hins/warm001.html

 ALS以外の在宅療養者に、たんの吸引を家族以外の者が実施できるようになった場合でも、同様な保証が得られるようにすべきであろう。


2.在宅医療提供体制の整備について

 「医療法」

 「第1条の2 医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。
2 医療は、国民自らの健康の保持のための努力を基礎として、病院、診療所、介護老人保健施設その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等において、医療提供施設の機能に応じ効率的に提供されなければならない。」


「当該指導管理が必要かつ適切であると医師が判断した患者について、患者又は患者の看護に当たる者に対して、当該医師が療養上必要な事項について適正な注意及び指導を行った上で、当該患者の医学管理を十分に行い、かつ、各在宅療養の方法、注意点、緊急時の措置に関する指導等を行い、併せて必要かつ十分な量の衛生材料又は保険医療材料を支給した場合に算定する。」
「在宅療養を実施する保険医療機関においては、緊急事態に対処できるよう施設の体制、患者の選定等に十分留意すること。特に、入院施設を有しない診療所が在宅療養指導管理料を算定するに当たっては、緊急時に必要かつ密接な連携を取り得る入院施設を有する他の保険医療機関において、緊急入院ができる病床が常に確保されていることが必要である。」
(平成14.3.8 保医発0308001)

「医療提供体制の改革のビジョン」(平成15年8月 厚生労働省)


 今後の医療提供体制の改革は、患者と医療人との信頼関係の下に、患者が健康に対する自覚を高め、医療への参加意識をもつとともに、予防から治療までのニーズに応じた医療サービスが提供される患者本位の医療を確立することを基本として進めるべきである。具体的には、
 患者の選択のための情報提供の推進
 質の高い医療を効率的に提供するための医療機関の機能分化・連携の推進と地域医療の確保
 医療を担う人材の確保と資質の向上
 生命の世紀の医療を支える基盤の整備
などの分野で改革を進めることが必要であり、以下に、それぞれの分野ごとに将来像のイメージを示し、それに続いて、その実現に向けて当面進めるべき施策を掲げた。

(かかりつけ医等の役割と在宅医療の充実)
(カ)かかりつけ医(歯科医、薬剤師)について、地域における第一線の機関として、その普及・定着を図る。
(キ)今後の需要の拡大に対応し、適切な在宅医療が提供できるよう、医師等との連携の下に、訪問看護ステーションの充実・普及を図る。

 (病診連携・地域医療連携等の推進)
  (6) 地域医療支援病院の承認要件の見直しを行い、その普及促進を図ることにより、診療所を支援し、病診連携を推進する。
  (7) 紹介率・逆紹介率の向上を図るとともに、入院診療計画(いわゆるクリティカルパス等)における適切な退院計画の作成、退院に向けた情報提供やサービス調整による、適切な入院医療やリハビリテーション、退院後の療養生活の確保や社会復帰の支援を行うなど、地域における医療連携、医療機関と薬局の連携、更に保健・福祉との連携を推進する。
  (8) 訪問看護を担う人材の育成を支援し、訪問看護ステーションについて、看護技術の質の向上を図るとともに、その普及を促進する。在宅ALS患者について訪問看護等による支援策の充実に努め、安心して療養生活を送ることができる環境整備を図る。

 このような法規・法令に定められた「支援策の充実に努め、安心して療養生活を送ることができる環境整備を図る」努力を続けること、ビジョンを描いたら、それの実現に邁進することが重要であり、往診をになう医師、訪問看護師等の人材の育成が急務であると考える。
 とりわけ、訪問看護に関する新たなモデル事業については、実現可能性、継続可能性の観点から、通所型、滞在型、収容型等、従来のサービス提供とは異なるモデルについてアウトカムを評価しようとするものである。したがって、既存の制度をすべて使い切った上でしかモデル事業を実施できないようでは、新たな展開は望めないと考える。夜間滞在の場合の加算のあり方についても検討を要する。さらに、交通費は、患家の負担が原則ではあるが、頻回訪問による負担の増大に関して今後配慮を要する。
 また、大阪府箕面市が、構造改革特区(第6次)「生活福祉関連」に「医師等による研修を受けた教職員と訪問看護師が公立小中学校で医療的ケアを行う特区」を申請した。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kouzou2/kouhyou/041124/siryou1.html
(この資料の18ページ、一番下。)

 このような新たな取り組みについてもご配慮いただきたい。


3.ALS「以外」の範囲について

 常時吸引を必要とするALS以外の在宅療養者はすべからく検討の対象とすべきか、重症度を加味した制限を加えるべきか、議論を深める必要がある。

 現在、介護保険の見直しの議論の中で、「常時医療ニーズの高い」「極めて重度の障害者」として「身体:ALS等の極めて重度の障害者であって専門機関が判定した者」(厚生労働省障害保険福祉部「今後の障害保健福祉施策について」(改革のグランドデザイン案)平成16年10月12日 本文の19ページ、説明資料の16ページ)、あるいは、「見直し後の下記類型と別に設けるALS等極めて重度の身体障害者」(第20回社会保障審議会介護保険部会資料3−1、平成16年11月29日)
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb01Mhlw.nsf/vAdmPBigcategory10/314DA8FE8128EFB149256F5D000DDA5A?OpenDocument
等の議論が行われている。
 このような、「専門機関が判定した重度の障害者」を対象とするなど、本研究会としての見解を纏める必要がある。


以上

参考

極めて重度の障害者に対するサービスの確保

 <基本的な考え方>
 ○一定の要件を満たす者が、自立支援計画に基づき、複数のサービスを適切に確保する仕組み(必要なサービス提供事業者の確保・調整等を利用者が行わなくとも事業者によって行われる仕組み)。
 ○緊急のニーズに際して、その都度、支給決定を経ることなく臨機応変に対応が可能となる。
 ○サービスの種類や量にかかわらず、一定額の報酬を支払う仕組みとし、各種サービスの単価の設定や利用サービスの種類や量を自由に設定できる仕組みとする。

 <対象者のイメージ>
  身体:ALS等の極めて重度の障害者であって専門機関が判定した者
  知的:強度行動障害のある極めて重度の障害者であって専門機関が判定した者
  精神:極めて重度の障害者であって専門機関が判定した者



2000年8月実施 日本ALS協会企画調査部調査

2000年8月実施 日本ALS協会企画調査部調査
JALSA 52号


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