04/11/30 労災保険料率の設定に関する検討会  第10回議事録           第10回労災保険料率の設定に関する検討会                     日時 平成16年11月30日(火)                        15:00〜                     場所 厚生労働省13階専用第16会議室 ○岩村座長  ただいまから第10回「労災保険料率の設定に関する検討会」を開催いたします。今日 の検討会においては、獨協大学の阿部先生と北海道大学の倉田先生がご欠席ですので、 報告させていただきます。  それでは本日の議事に入りたいと思います。本題の「メリット制」について早速議事 に入ることにいたします。「メリット制」については、去る6月14日の第3回の検討会 でもご議論をいただき、他のテーマと同様に、論点を中間とりまとめとして整理させて いただきました。  今日は、この「メリット制」という論点に関して、いままでの意見を集約する形で、 具体的にどのような方向性としていくかということについて、ご議論いただきたいと思 います。前々回の「労災保険率」、前回の「業種区分」というテーマと同様に、議論に 資するために、論点を書き出したレジュメのようなものを資料として事務局にご用意い ただきました。  それではその資料について、事務局から簡単にご説明をいただきます。よろしくお願 いします。 ○数理室長  お手元に資料と参考資料をお配りしておりますので、それについてご説明申し上げま す。まず横長の資料です。これは「労災保険率」「業種区分」と同じような形で、中間 とりまとめで出された課題、及び検討会で出された意見について、項目ごとに整理した ものです。  「基本的な考え方」の所ですが、一応課題として「メリット制」について、業種区分 が同一であっても、無災害の事業場と労働災害を発生させる事業場との間に、保険料率 に差を設けることは、労災防止のインセンティブを促進する点で必要な制度と考えたら どうかという整理です。  2番目は、全般的に災害率が低下している中で、労働災害防止のインセンティブをよ り高めるという観点から、メリット制がどのような役割を果たし得るかについては、ど う考えるかという課題として、論点整理したものです。  大きな2番目として、「メリット制の適用要件」ということで、課題としては適用事 業場の要件をどのように設定するか。適用要件の緩和については、財政面では保険料収 入が減少する効果をもたらすことになるので、その減少分を確保するためには全体の保 険料が引き上がり、メリット制が適用されない事業場にとっては不利になることについ てはどうかという整理をしました。  右側が検討会で出された意見です。1点目は、メリット制適用事業場の割合が低いと いうことで、インセンティブを促進するために適用事業の要件を緩和し、適用対象の事 業場数を拡大することを検討すべきである。たとえ災害防止努力によることなく保険料 負担が軽減される事業場が現れても、努力した事業場が必ず評価される制度にすべきで あって、インセンティブ促進の観点から、メリット制適用対象は拡大する価値があるの ではないかというご意見がありました。  以下の要因から、適用事業の要件緩和は難しいのではないかということで、小規模事 業場の災害発生割合は、全産業平均の半分以下ということで、大半の事業場が無災害で あるが、その無災害が安全対策をとった結果によるものか、たまたま無災害であったの かは、現行の収支率の計算に用いる給付データからは判断は難しいのではないか。適用 要件の緩和については、適用拡大される小規模事業場の多くが無災害であることから、 単なる保険料引下げの措置と同じような効果で、全体の保険率が引き上げられるのでは ないか。小規模事業場においては労働災害が一旦発生した場合には、メリット収支率が 急激に悪化するというようなことも考えられるのではないかということです。  2枚目です。大きな項目として、「メリットの増減幅」という項目です。課題として はメリット増減幅の幅をどのように設定するか。2つ目として、増減率の拡大は財政面 では保険収入の減少する効果をもたらすことから、その減少分を確保するために全体の 保険料が引き上がり、メリット制が適用されない事業にとっては不利になることについ てはどうか。3つ目として、継続事業と有期事業の間にメリット増減幅に差があること についてはどうか。それに対するご意見としては、労働災害防止のインセンティブを促 進するため、メリット増減幅を拡大すべきではないか。2番目として、メリット増減幅 の拡大又は縮小等の見直しの必要性については、以下に留意して慎重に検討すべきであ るというご意見です。メリット増減幅の拡大は、保険料収入の減少を伴うことが予想さ れるけれども、その減少に見合う保険給付の減少がない限り、保険料の減少分は全産業 が負担することから、メリット制の適用がない小規模事業場においては、保険料負担が 増加する恐れがあるのではないか。  過去の高度経済成長期において労働災害が多発していたために、メリット増減幅の拡 大は、結果として労働災害防止の効果があったと言えるけれども、近年のように災害の 発生件数が下降している状況では、メリット制の要件緩和と増減拡大により事業主の労 働災害防止の努力を向上させる効果を予測することは難しいのではないか。また、災害 発生件数の減少の効果が現れるのは疑問ではないかというようなご意見がありました。 継続事業と有期事業のメリット増減幅については、その差を設けるべきではない、とい うご意見がありました。  「特例メリット制」に関しては充分活用されていない現状を踏まえ、中小企業の安全 衛生水準の向上等に資する有効な政策として活用を推進する方策についてはどうかとい うことで、これに対しては、特例メリット制について申請実績が少ないことから、その 要因について検証が必要ではないかというご意見でした。  「その他」ですが、これは労災保険部会に「中間とりまとめ」を報告した段階で出さ れた意見を整理したものです。ご意見としては、メリット増減幅の拡大が労災防止イン センティブを推進することは証明できず、逆に労災隠しを招きかねないため、メリット の増減幅を拡大すべきではないというご意見がありました。メリット制の問題について は、増減幅の拡大が労災防止インセンティブを推進することは否定できないけれども、 別途、労災隠し対策をとる必要があるというご意見がありました。そういう形で課題と して、メリット増減幅の拡大に伴う労災防止インセンティブの効果についてはどうか。 また、労災隠しを招きかねないという意見についてはどうか、ということで整理をした ということです。  労災保険部会のほうではそのようなご意見が出たわけですが、メリット制についての 行政に対する要望をご紹介します。第1回目の検討会のときにもご紹介したと思います が、昨年の10月に日本経団連から規制改革要望の1つとして、継続事業のメリットの増 減幅の拡大の要望がありました。今年の3月には建設業関係の団体から、メリット増減 幅の拡大について継続事業と同じにしてもらいたいという旨の要望がありました。さら に今年の4月及び11月には建設関係の労働組合側からですが、労災隠しを助長する恐れ があるためにメリット制の増減幅の拡大には反対であるという趣旨の要望があったこと を申し添えておきます。  次に参考資料1−1です。継続事業について、メリット増減幅を拡大したときの影響 について推計したものです。1枚目が「メリット収支率と増減率の推計条件」というこ とで、「昭和55年度」と書いてある所が現行の増減率の設定状況で、0%から±40%ま で設定されています。推計1というのは、−40%を−45%とそれぞれ増減率の幅をプラ スでもマイナスでも大きくした場合で推計したものです。  推計2というのは、0から±35%までは現行をそのままにして、+40%及び−40%の ところは、例えば−40%であれば10%未満の収支率のときに−40%ですが、それを5% で区切り、5%以下のときに−45%、5%から10%のときには−40%とした場合が推計 2です。プラスのほうは150%以上を超えた場合には現行+40%ですが、160%を超える 部分を±45%にしたときを推計したものです。そのときに現行−40%を5%で区切っ て、−45%にどれくらいいくのかというのが、すぐにはデータからわからないわけです が、端に寄るほうが多いだろうということで、(8割)(2割)で分けられると仮定し て推計したものが推計2です。  推計1に基づく推計結果が参考資料1−2です。継続事業だけなので建設業等は入っ ていませんが、13年度からの表で見ると、「現行・保険料」が現行の保険料で、収支率 区分をそれぞれ変えたときに、どれぐらいの影響が出るかを計算したものが右側の「影 響額」です。全業種トータルで13年度の数字を見ますと、247億ぐらいの影響が出てい て、それだけ保険料収入が減るということです。次の0.17というのは料率に与える影響 で、料率に直すと0.17の影響があるということです。同じくそれを縦に見たのが業種別 の影響額と、料率の影響です。それを13年度、14年度、15年度と計算し推計したもので す。  これでいくと、トータルで0.17ですが、業種を見ると、例えば「石灰石・ドロマイト 」であれば1,000分の2ぐらいの影響が出てくるところもあるし、下から7つ目の港湾 荷役業では1,000分の1ぐらいの影響が出てくるような推計になっています。  次に推計2での結果が参考資料1−3です。これでいくと、いちばん端の区分だけを 分けたもので影響額としては推計1より小さくなるということで、大体全業種トータル で100億円ベースぐらいです。全業種平均での料率の影響としては1,000分の0.07という ような数値となっています。概して基本的に料率が高い所については、料率換算の影響 の数値は大きくなるという傾向が見えるという感じです。例えば「石灰石・ドロマイト 」であれば、1,000分の1くらいの影響として出てくるのではないかという推計です。  次に参考資料2です。これは第7回の検討会でお配りした参考資料の訂正版です。前 回出したときには建設業におけるメリット増減幅の拡大の影響の表でしたが、実は確定 保険料の所の数字を業通計の数字と思っていたのを、調べ直したところ業災分だけのデ ータでしたので、保険料増減の影響額を計算し直して整理したものです。前回お出しし たものより、保険増減額が少し増えているという状況になっていると思います。一応訂 正版です。  参考資料3−1、3−2ですが、これは第3回検討会のときに、災害の状況がどう変 化したかというグラフを出したと思うのですが、そのときの統計表です。第3回提出資 料の4−1から4−3のグラフで、災害率なり災害度数率、強度率、3−2が新規受給 者割合で、その推移をグラフとして提供させていただいたわけですが、それを統計表に したものです。いちばん右には、「メリット増減幅の改定経緯」を一緒に併せて掲載し ているものです。グラフでも同じですが、全般的に長期にわたって災害の度数率なり強 度率、新規受給者割合は長期的に見ると低下傾向にあるということで、グラフと当然同 じことですが、そのような状況になっています。  参考資料4です。「有期事業へのメリット制の適用とメリット増減幅について」とい う経緯について、第1回では口頭で説明したものですが、文献にあたり、こういった経 緯でメリット制の適用なり増減幅が導入されたという文献がありましたのでご紹介しま す。  建設事業の適用が昭和30年の改正で行われたわけですが、当初はメリット制の適用は 除外されていました。昭和30年以降適用されたということで、そのときに適用増減幅の 範囲について、下線を引きました所ですが、他の事業については100分の30の範囲内で 適用されていたわけですが、建設については100分の20の範囲内とされたということで、 これは当時の災害発生状況に照らして、増減幅を100分の30の範囲内とすると、事業主 の大幅な負担増になるのではないかという懸念から、100分の20の範囲とされたもので す。ということで紹介されているのを整理したものです。  下段は「メリット増減幅の拡大」で、継続事業と有期事業のメリット増減幅の差は上 記の経緯により設けられましたが、有期事業における災害減少を踏まえ、継続事業と同 様、災害防止インセンティブを高めるため、増減率は順次各引き上げられたということ で、昭和51年に±20〜±25%、昭和55年には±25〜±30%ということです。  平成13年度には、有期事業(建設業)における災害発生状況が、継続事業のメリット 増減幅を±35%に拡大した昭和51年当時の全産業平均の水準よりも改善してきているこ とを踏まえ、事業主の災害防止努力のさらなる促進効果を勘案して、有期事業にかかる メリットの増減幅を±35%に改定したということです。  参考資料5です。継続事業の適用要件の関係で、メリット制について、災害度係数と いう概念を入れており、それについて詳しい説明もしていなかったので、改めて資料の 形でまとめました。メリット制については、事業主の災害防止努力の結果を評価して、 災害に応じ保険料率を増減させる制度ですので、事業主の災害防止努力の結果を保険数 理的に評価できる範囲でメリット制を適用しています。現行は、メリット制の対象とし て継続事業においては年平均1件以上の災害が予想される事業を念頭に置いており、そ のような事業場についての「労働者数」と「労災保険率」との関係式を設定して、法律 上は(5)の式、(労働者数)×(非業務災害を除く保険率)≧0.409≒0.4、この式で各 事業の各業種ごとの最低の労働者数の規模を設定しています。こういう形でその関係式 を導いていて、継続事業について、保険給付額はそれぞれ(1)の式、(2)の式、いわゆる 保険料であれば、(労働者数)×(平均賃金)×(事務費・非業務災害を除く保険率) で計算される。保険給付額としては、(労働者数)×(被災率)×(平均給付額)とい う形で表される。保険の収支均衡の原則から(1)と(2)が等しいとすると、被災率は(3) という式で得られる。(被災率)×(労働者数)で(被災者数)という形で表されるの で、これが1年間の被災者数が1人以上という前提におくと、(4)の式が出てくる。こ の(4)式を変形すると、以下の関係式が得られるわけですが、ここで最近の給付状況か ら、平均給付額なり平均賃金の額、(事務費・非業務災害を除く保険率)分の(非業務 災害を除く保険率)という数字が、最近であれば1.42。また、86万円、299万円という 数字があるので、それを入れると、(労働者数)×(非業務災害を除く保険率≧0.4と いう数字が出てくるという関係式が導かれるということで、現在この関係式において、 業種別のメリット制の適用範囲を定めているということです。  これは上記の年平均1件の災害が予想される事業を考えた場合に、平均的に年1件と 言っても、1年間に災害が0の所もあるし、1件、2件、それ以上の所もありますが、 統計の理論からいくと、年災害1件以上の事業割合は約63%と推計予想されるところ で、同時に災害が0件の事業割合は約37%というような形で予想されます。メリット制 の給付は3年間の状況で見ているので、3年間で災害が1件以上発生する事業割合は、 これで経過数を見ると95%と予想される。偶然、無災害である事業割合は約5%にすぎ ないような状況です。このため、メリット制においては3年間の災害防止努力の成果を 評価するというところで、この状況において(5)式を満たす労働者数の事業場において は、災害防止努力による結果が適切に評価されると考えているため、こういった設定を しているということです。 ○岩村座長  議論を少し整理させていただくために、最初に参考資料についてご質問、ご意見があ りましたら、お伺いしたいと思います。 ○高梨委員  参考資料1−2の平成13年度の所で、1カ所だけ、「金属又は非金属鉱業」の所が、 マイナスではなくプラスで出ているのですが、この業種がどうしてそういう動きになる のか、何か特別な事情があるのかどうかという点です。 ○数理室長  いま即座にはわからないところです。 ○数理室長補佐  少なくともこの算定は10年、11年、12年の結果がここに反映されていますから、この 間に大きな事故があれば、こういうこともあり得るかと思いますが、その辺は詳細を調 べてみないとわかりません。 ○岩村座長  そうですね、14年度、15年度と、13年度を比べると突出して保険料が多いですね。何 かあったのかもしれません。それから説明が抜けていたかもしれませんが、このシュミ レーションは継続事業にかかるものだけということですね。ですから、有期が入ってい る、水力発電施設から設備工事業までの所が0ということで抜けているのですね。 ○数理室長補佐  そうです。あとは木材伐出業です。 ○岩村座長  木材も抜けているということで、その点のご説明が資料2から先という、2は建設だ けですね。 ○数理室長補佐  建設だけですが、これと同じような形に書いています。 ○岩村座長  しかし、例えば推計1で見たときに、単純に45%にもっていったわけですから、デフ ォルトが1,000分の0.17、全業種の平均で見たときには13年度だと上に上がる。そうす ると、それがデフォルトになって、そこからメリットで下げるということになるわけで すね。 ○数理室長  そうですね。 ○岩村座長  そうすると、仮に45%にしたときに、現実にはデフォルトが上がる分と、45%に広が る分とで事業場によってはあまり変わらないということが出てきますね。 ○数理室長  事業場によってはそれは出てくると思います。 ○岩村座長  逆にデフォルトの大きく上がる所は、かえって負担が増えるかもしれないです。 ○数理室長  それは現実に計算してみないとわからないです。 ○数理室長補佐  それは推計1よりも推計2のほうが明らかです。推計1のほうは各収支率の所を全部 5%上げていますから、そういう意味ではデフォルトが5%以内の変化であれば損はし ない。ところが、推計2では40%の所が40%と45%の2つに分かれますから、40%の所 から45%になった人は得をするけれども、それ以外の人はほとんど変わらない。デフォ ルトが上がった分だけ損をするということです。 ○高梨委員  参考資料5ですが、ここで前提というとちょっと語弊があるかもしれませんが、「継 続事業で年平均1件以上」ということで考えていけばということで、これはメリット制 を設けたときから、こういう考え方なのだろうと思うのです。その当時の日本の産業構 造は製造業のウエイトがまだ結構高かった時代ですし、一次産業というか、石炭・鉱業 などもまだウエイトの高かった時代だと思うのです。そういう時代での継続事業で考え て、年平均1件ということだと思うのです。いまは第三次産業のウエイトが非常に高く なってきている中で、「年平均1件以上」という考え方を継続することに、どれだけの 意味があるのかどうか、その辺について考え方を教えていただきたい。 ○数理室長補佐  1件以上というのは、1件を0件にした、また2件を1件にしたということが努力さ れたという評価になり得る。だから、0件というのは0件のままキープするというの は、努力をされたのかもしれないけれども、労災保険の収支の中では評価しづらいとい う、そういう中で数理的に1件を前提に置いて、評価できるという分岐点を探したとい う理解です。 ○高梨委員  でも、災害が発生する頻度は何でとるかというのはいろいろあるのでしょうけれど も、産業構造が変わってくれば、リスクそのものも変わってきているわけです。結局、 最後の所で出てくる0.4という災害度係数というもの自身はどういうように変化してき ているのですか。 ○岩村座長  これは何か経年別の変化はわかるのですか。 ○数理室長  経年別というふうに毎年検証しているわけではないのですが、最近の数字であれば、 0.409という数字です。平成7、8年くらいですと、0.396という数字です。 ○数理室長補佐  ですから、前提として災害率が低下してきていると、この災害度係数というのはジワ ッと上がってくるということです。 ○岩村座長  つまり年平均0件の事業場が増えてくるので、逆にいまのメリット制のシステムで は、災害防止努力をしたかどうかは0件の事業場の数が増えると測れないということ で、したがって、この数値がむしろ上がる方向に動いていくという構造だということで す。 ○数理室長補佐  はい、そうですね。 ○高梨委員  この0.4というのは、メリット制の適用になる事業場の規模を計算するときに使われ ている係数ですね。これが動かなければ、いままでの発想でいけば、適用される事業場 の規模は変わらないということになるのです。そうではなくて、産業構造が変わればリ スクが変わってくるわけですから、そういう意味ではリスクが生ずる対象がもっと規模 の小さい所まで対象にしても、収支への影響度合いは少なくなるということだろうと思 うのです。ここの災害度係数が一定であるとすれば、メリット制の適用事業場は役所の 理屈では変えられないということになるわけですね。 ○岩村座長  でも、産業構造の変化によってリスク構造が変わるというのは、結局今度どのように 業種区分を切るかということに依存しますが、デフォルトの保険料率が下がっていくこ とによって見るということではないかと思うのです。メリット制というのは、あくまで も制度設計の限界だと思うので、給付の支払状況を指標として、事業主の災害防止努力 を評価しましょうという仕組みですから、そういう仕組みをとる以上、前提としては、 適用対象となる事業場というのは、年平均1件以上の災害が予想される事業場を想定せ ざるを得ないのではないか。つまり、年平均0だという事業場について、何か別の指標 を使って、災害防止努力を評価しましょう、それで保険料率に反映させましょうという 別の哲学をとるのであれば、ほかに考えようがあるのかもしれませんが、それをどう考 えるかということ自体が難しいでしょうし、労災保険制度の枠の中で事業主の災害防止 努力を評価することを考えると、この年平均1件以上の災害が予想される事業場という のは、ちょっと動かしようがないのではないかという気がするのです。これは産業構造 の変化によってリスク構造が変わったこととは直接的には結び付かないのではないかと 思うので、むしろそれは先ほど申し上げたように、デフォルトの保険料率が動くことに よって、評価されるということなのではないかと思います。 ○高梨委員  その理論だと、結局中小企業はメリット制は適用にならないというのは当然で、いま の基準を変えることは理屈上、全くできないというご主張になりますね。 ○岩村座長  もし、それを変えようとすると、メリット制自体の基本的な考え方そのものをどう考 え直すのか、ということから出発しないと、議論が組み立たないのではないかという気 がします。 ○高梨委員  それはどうかと思います。メリット制が先にあって、物事を考えるのではなく、災害 防止のインセンティブをどういうように与えるかということで、その仕組みの1つとし てメリット制があるわけなので、インセンティブをどうするかということをまず基本に 置いて、物事の仕組みを考えていくべきなのではないでしょうか。 ○岩村座長  ちょっとそこのところがよくわからないのです。もともと小規模事業場の場合は、デ ータからいくと、非常に事故発生率はそもそも低いです。無事故の事業場数は多いとい うことですから。 ○高梨委員  そんなことはないと思います。中小企業のほうが、災害率は実態としては多いと思い ます。ただ、実際に保険申請をすることはしないかも知れない。 ○労災部長  災害度係数は20人から100人のときに使っています。ですから、20人より下の所にメ リット制を適用することは、また別に非常に少人数の場合にはどうするかという議論が あるわけです。要するに20人から100人のときに災害度係数を使っているのは、大体年 平均1件以上ということなので、1件以上の災害が予想される事業場を念頭に置いてや っているわけですから、それは1にするか、2にするか、0にするかという議論はある わけです。その20人を下げるかどうかは別な議論で、20人を下げてどこまで適用させる かという議論はあると思いますが、いまのところは20人未満は、1件の災害が起こった ときの影響力は出てくるところで、そこで20人という最低限を持ってきているというこ とです。だから、この考え方は1ということで、それとまた小規模の所についてはまた 別の議論になるということです。 ○高梨委員  質問でなくなってしまうのでどうかと思うのですが、災害度係数というものが20人か ら100人の間で、労災保険率にこれを掛けてみて、人数を逆算して何人以上ということ にしている、そのときのこの0.4という係数を固定的に考えるのはおかしいのだろうと 思うのです。 ○労災部長  それは計算でいくと、今回の場合は0.4ということです。この前にやりました0.39と いう場合もありますし、そこは0.4と固定的でなく、計算していくと、現在としては0.4 が妥当だということになっています。そのいちばんの前提として、年平均1件以上の災 害を想定してやるかどうかということはあると思いますが、それを前提に式を作ってい って、現在のいろいろな平均賃金、平均給与を当てはめていくと、0.4という感じにな ってくるということで、0.4ありきでやっているわけでもないということです。 ○高梨委員  0.4ありきではないと思うのです。収支率が先にあるのではなくて、どうやってイン センティブを与えるかというところから出発しないといけないと。若干意見になってし まいましたが。 ○労災部長  現在もう1回計算し直すと、0.4という数字で、いま使っている0.4と、たまたま同じ 災害度係数でこれがあったということです。 ○岩村座長  いかがでしょうか。特にほかになければ、今日の横書きの「資料」に沿いながら、順 次議論を進めていきたいと思います。前回と同じような進め方で、項目の番号の順で進 めていきたいと思います。  まず、「メリット制に関する基本的な考え方」で、第1点がメリット制が労災保険の 中で必要な制度であるかどうかということと、もう1つはいまも議論がありましたが、 全体として災害率が下がっている中で、メリット制の役割がどうなのかという論点があ ります。この点について、何かご意見はございますでしょうか。前段の1番目の黒ポツ で、メリット制が労働災害防止のインセンティブを促進する、労災保険において必要な 制度だと考えるという点については、(ご意見があるとすれば、)「いや、そうではな い、こういう方法がある」ということになるのだろうと思いますが、総論的にはこの見 方でよろしいかと思いますが、いかがでしょうか。  もう1つは、今後、全体的に災害率が低下している状況の中で、これからメリット制 がどういう役割を果たし得るかということについて、どう考えるかということだろうと 思います。これは総論的にはインセンティブを働かせるということについて、この前段 についてはご異論はないと思いますが、どういう役割を果たし得るかということについ ては、先ほどの議論にも示されているように、見方がいろいろあろうかと思います。い まの段階で特段ご意見がなければ、これはとりあえず置いておいて、次の議論の各論に 移らせていただいて、最後にもう一度考えることにさせていただければと思います。そ れでよろしゅうございましょうか。  続いて2番ですが、いま早速議論になっていたメリット制にかかわる適用事業場の要 件をどのように設定するかということですが、先ほどの議論にもありましたように、20 人未満についてはいまのところメリット制の適用がないということと、20人から100人 については災害度係数を掛けることによって、適用事業場か否かが決まるということで すが、要はそれを動かすか、具体的には右側の意見のように適用要件を緩和して、適用 対象事業場数を拡大する方向をとるのかどうかということだと思います。この点につい てのご意見が伺えればと思います。 ○高梨委員  いままで発言してきたことの繰り返しになるので、重ねては申し上げたくはないので すが、全体の労災保険適用事業場の中で、いま5.7%しか適用になっていないわけです。 もともとのメリット制そのものについて否定するのであれば別ですが、メリット制その ものについて、一定の役割、災害防止のインセンティブを与えるという、程度の問題に ついてはいろいろな意見があり得るとしても、そういう役割があり得ることを前提にし たとすれば、そのときに全体の5.7%しか、そもそも適用にならないという制度でいい のかどうかということなのです。もっと規模の小さな所まで適用になってもいいのでは ないだろうか。もちろんそういうことをすることによって、逆のデメリットが出てくる ことがあるので、際限なく適用の対象を拡大することはいかがかとは思っていますが、 5.7%にとどまることよりはもっと適用の対象が拡大になる、一言で言えば、中小企業 にもより適用になるという制度に向けての検討があってもいいのではないかと思いま す。 ○岩村座長  適用の拡大についての積極的なご意見ですが、何かこの点についてほかにご意見はご ざいましょうか。 ○大沢委員  意見というより質問なのですが、いちばん下の黒ポツで、最大引下げか最大引上げに なるケースが多いことが、要件緩和が難しい要因として挙げられていることの意味をも う少し説明していただけますか。つまり、予測が立てにくくなるということで、余計緩 和が難しい要因の1つとして挙げられていると理解してよろしいのでしょうか。 ○数理室長  割合としては小規模であれば、どうしても分母が小さいがために大きくぶれてしまう ことです。要するに−40%の適用になっていたところが一旦事故があると、+40%にな るということで、非常に保険料負担としての変動が大きくなる恐れがあるので、こうい うのはどちらかと言うと、望ましくないという趣旨だったかと思います。 ○大沢委員  高梨委員の趣旨からすれば、こういうふうにメリハリが効いているほうがいいのでは ないかというご意見に、これはつながり得る要因でしょうか。 ○高梨委員  変動が大きくなることを目的にするのではなくて、インセンティブを与えるための対 象を増やすべきであると、私は言っているつもりです。ただ、いまの制度からすると、 そういうことで、より小規模の所でメリット制が適用になったときに、こういうことが 起こり得る。−40%の所が災害が起きたために+40%になる、保険料率が大幅なアップ になるということが出てくると思います。それがどのくらいの割合で、出てくるかは別 として出てくると思います。そういうことはある程度やむを得ないのかな、制度として はやむを得ないのですが、それを避けるためには、災害防止活動に力を入れることによ って防げることになってくるので、ある程度こういう保険料の激増ということもやむを 得ないのではないかと、私はある意味で割り切っています。 ○岩村座長  恐らくここは議論になって考え方が分かれるところだと思います。災害防止努力自体 が全体として向上していて、産業全体をとってみても、災害発生率が下がってきている ので、どちらも実証データは結局、労災保険の中でとれていないので何とも言いようが ないのですが、事業主の災害防止努力と関係なく、偶発的に重大事故が発生することも 逆に出てくるわけで、メリット制の適用を拡大したときに、そういった事業主の災害防 止努力によるのかどうかがよくわからないような状況の下で、重大事故が発生したとき に非常に大きくメリット率がぶれることが起きてしまう。  もう1つの側面は結局労災保険の中で災害防止努力の評価が、非常に変数が限られた 形で評価していることの帰結だと思いますが、これだけ災害率が下がってきてしまう と、事業主の災害防止努力効果と、どこが結び付いているのかがよくわからなくなると いうのも、もうひとつ問題なのだろうと思います。高梨委員のおっしゃるように、イン センティブを高めることも充分わかるのですが、いまの段階では多分その適用の範囲を 拡大するというように議論を展開するだけの充分なデータは、我々としても持ち合わせ ていないのではないかという気がします。  いまのメリット制というものの労災保険の枠の中で、給付の額をベースにして、基本 的に見ていることからくる限界点なのだろうと思います。先ほど議論になったように、 何か別な発想を持ち込めば別なのかもしれませんが、現段階で大きく発想を展開するだ けのデータは持ち合わせていないし、何かここについてより積極的に議論するようにな るのかどうかですね。あと、適用を拡大すると、先ほどの資料もありますが、デフォル トに反映するのです。そうすると、適用拡大の対象にならなかった所はデフォルトが引 き上がってしまうという、もう1つそちらの問題も出てきてしまうことになります。  特段ほかにご意見がなければ、次の頁にいかせていただきます。3番目の項目とし て、「メリットの増減幅」です。ここでも先ほどの議論と若干つながりますが、メリッ トの増減率の幅をどう設定するか。先ほどのシュミレーションにもあったように、増減 率を動かすとデフォルトの保険料率が動くという問題をどう考えるか。あとは継続事業 と有期事業でメリット増減率が違うことについてどう考えるか。この3つの論点がこれ までに議論されてきました。最初の2つの論点は基本的には同じようなことだと思いま すので、こちらについてご意見を承りたいと思います。これも従来の意見の展開からす ると、積極的に広げたほうがいいということと、もう少し慎重に考えてはどうかという 2つの立場に分かれていると思いますが、なお、追加のご意見を承りたいと思います。 今日シュミレーションも出していただいたので、それに基づいてご議論いただければと 思います。 ○高梨委員  今回参考資料として1−1から1−3までということで、推計1、推計2という形 で、仮に一定の条件で動かしたときにどれだけ減収になるかという試算をしたことは、 役所以外に誰もできる人はいないので、こういうデータを見ながら検討ができるという のは非常にいいことだと思います。事務局には大変ご苦労が多かったのではないかと思 いますが、いろいろな試算、推計をしてみて物事を判断していかなければならないので すが、このように、実態面でいろいろな影響が出てきますので、こういう試算をしてい ただいたことには感謝しています。  ただ、これは半歩変わった考え方で、もっと増減幅を拡大するということが考えられ てもいいと私は思っております。今回の推計では±45%までの、一定の条件での推計を しているわけですが、率直な私見では、±60%程度までこの増減幅を拡大する仕組みが あってもいいのかなと。もちろん直ちに±60%にするということではないのですが、最 大限それぐらいの所まで、時の経過を追いながら考えていくようなことがあってもいい と、こんなふうに思っているのです。  そういうことからすれば、±45%にとどまった試算であることについては、何かもっ と工夫ができないかなと思っているのです。それによって全体の減収額も出てくるし、 それぞれの業種での影響額も出てきます。それによって影響度もそれぞれの業界によっ て違ってきますので、こういう試算をすることは非常に大切なことだと思っておりま す。ちょっと別の考え方もあるのではないかと思っているのですが、それはまた後で述 べたいと思います。 ○岩村座長  技術的には±60%まで広げたときの試算というのはたぶん難しい。刻みが違ってきま すから、それを変えないといけないのです。ただ、直感的には、従来の傾向からする と、何年か経てば−60%の所に張りつく事業場が多くなる。 ○数理室長  そうです、無災害であれば−60%の所に張りつくような傾向になるのかもしれませ ん。要するに、災害率が低下すると、当然無災害事業場が増えていく話になりますの で、そこに張りついていくということは予想されます。 ○岩村座長  変えてすぐはともかくとしても、いままでの傾向と変わらないとすると、しばらくす ると、−60%の所に多くが張りつくことになって、階層づけをどうするかによるけれど も、いちばん極端な例で挙げた推計1のパターンで行ったとすると、たぶん影響額がこ れより大きく増えてくることになるでしょうね。 ○数理室長  推計値はちょうど5%上げただけですので、±60%ですと4倍、単純に4倍していい のかどうかというのも、計算してみないと分からないのですが。 ○岩村座長  ±60%までするとなると、この階層の切り方を変えないと入らなくなってしまう。 ○高梨委員  そういう議論が出たので、こういう見直しというか、検討をしてみたらどうかと思っ ているのです。いまは基準となる収支率について、「75%を超え85%まで」の10%の所 を基準にしているわけですが、この10%の範囲そのものの幅をもう少し拡大するという ことを検討するという点が1つです。  収支率の幅の取り方ですが、現在は最初が5%幅で、それを超えると10%幅の区分と して、上下それぞれ9区分にしているわけです。この区分を細分化して、現状よりは小 刻みな幅にして、その中で増減率の上限を、現在は±40%になっているものを±60%ま で拡大する、一挙にするかどうかは別なのですが。そうしたときに、努力をしないで収 支率が低いというケースも出てくるのでしょうから、その点をある意味で防ぐというと あれなのですが、現状よりも増減幅が大幅に拡大する部分については、単に収支率だけ で適用をするのではなくて、当該事業場においての労働安全衛生マネジメントシステム の実施が定着しているかどうか。1つの例として、災害防止活動が組織的、計画的に実 施されていることを適用要件にするというようなことも検討をしてみていいのではない だろうかと思っているのです。ですから、最初からすぐに±60%にするのではなくて、 ±40%になっているものを徐々に拡大していくという、段階的であっていいとは思いま す。 ○大沢委員  それは何か第三者認証制度のようなものを導入するというお考えでしょうか。つま り、やっているかどうかをチェックする機関がないといけないと思うのですが。 ○高梨委員  制度としては違いますが、いま特例メリットということで±45%まで拡大している、 中小企業だけに適用される制度があります。それは労働局長の認定のある事業場で行う ことになっておりますので、今の制度と絡めるわけではないのですが、±40%を超えて 拡大する部分については、労働局長の一定の認定があるということの中で、認定のある 所でのメリットの適用ということは考えられるのかなと思います。 ○岩村座長  特例メリットのもう1つ別バージョンみたいなものを少し考えてみるということです ね。 ○高梨委員  ええ、大企業にも適用できるものを。 ○岩村座長  それは興味深いアイディアだという気はしますが、他方で、さっきの問題に戻ってし まうのですが、デフォルトの保険料へのはね返りがどのぐらい大きくなるのかというこ と。あとは、適用の拡張の問題とも関係しますが、±60%にすると、特に小規模事業場 になると非常にブレが大きくなる。その問題があって、どうなのですかね。特例メリッ トのほうは後で議論するにしても、いまのところ実績が少ない。逆に、だから動いてい るという面もあるのでしょうが、他方で労働局長の認定なり何なりを得るというのは、 事業場数が多くなったときにうまく行政活動として動くのかどうかというのも、もう1 つの論点として考えなくてはいけないことになるのかと思うのですが。 ○小畑委員  労災かくしの問題をどう考えるかというのがあるのです。データの取りようもないで すし、どうすればいいのかというのは難しい面があると思うのです。隠す人は、どんな に幅が狭くても隠すものだということなのか。それとも増減幅が極端であると、労災を 隠そうというインセンティブが大きく働いてしまうというふうに考えられるのかという 点がちょっと。 ○岩村座長  増減幅を広げたときには、その問題が出てきますね。 ○岡村委員  直感的には、いま話があったように、例えば−40%から+40%に上がるというときに は労災かくしが出る確率は高まります。だから、−60%から+60%になると、更に高ま る可能性があることは確かだと思います。それから、特例メリットに類するようなシス テムを考えるという問題も別にありましたが、現行の特例メリットの申請件数が少ない ということの分析をまず行わないといけない。要するに、門戸を開いても申請する意識 が働かないのはなぜかということです。これは前にも少し説明していただいたところが あると思いますが、もう一度それも併せて考える。いくら制度があっても、申請する側 がノーという意思表示をしているような状況がなぜ起こっているのかというのを考える 必要があるのです。 ○岩村座長  メリットの増減幅との関係では、いま継続事業と有期事業の間で増減率の幅に差があ るわけですが、この点についてどう考えるか、もう1つの論点として、それがありま す。そこで、参考資料3−1、3−2と照らし合わせる形で、この差が出来た経緯をも う一度ご説明いただきます。 ○数理室長  参考資料4が経緯を簡単に記載したものです。建設事業について、昭和30年からメリ ット制が導入されました。このときには災害率がかなり高いような状況であったと承っ ており、建設事業においてもメリット制度を適用して災害防止を行うという考えが強く 出されていたという経緯が背景としてあります。  その観点で、昭和30年以降建設業について、メリット制度が導入されたわけです。す でにあったメリット制では、継続事業については100分の30の範囲内での増減をしてい たわけですが、建設業導入に当たっては100分の10の差をつけて、100分の20の範囲内で 増減幅が決められました。これは当時の災害状況に照らして、100分の30となると、よ り保険料の負担が大きくなる事業場が多くなるのではないかという懸念から、増減幅に 10の差をつけて100分の20にしたという状況です。 ○岩村座長  参考資料3−1は「災害度数率と災害強度率の推移及びメリット増減幅の改定の変遷 」が書かれたものです。これは前に出していただいた統計表とメリット増減幅の改定経 緯とを組み合わせる形でつくっていただいたわけですが、昭和51年から継続が±35%、 昭和55年に±40%となった。そして有期が昭和51年に±25%から、昭和55年に±30%、 平成13年に±35%になりました。継続の±35%と有期の±35%との平仄を合わせるとい うときに使った論理というのは、どこを照らし合わせて見ていたのですか。 ○数理室長  継続事業が+30%から+35%にされた昭和55年ごろの状況は、度数率が4.3とか4.7と いう数字だったのです。有期についての平成13年ごろの度数率は1.6とか1.1です。継続 事業について、±30%から±35%にされた状況と比べても災害の発生状況が低い、改善 しているということで、差をつける理由が薄れているのではないかというようなこと で、±30%から±35%にされたというような状況でした。 ○岩村座長  参考資料3−2も同じようなことですか。 ○数理室長  それは同じようなことを新規受給者割合で見たものです。昭和55年ごろは、全産業だ と4%近くの新規受給者割合でしたが、建設業では現状でも1%強、全業種でも1.1%ぐ らいで、平成13年ごろの建設業の状況と、昭和51年は継続事業が±30%から±35%にさ れたときの災害発生状況を見ると、それよりも改善しているということです。これは参 考資料3−1と同じような資料になると思いますが、そういうことで±30%が±35%に されたということです。 ○岩村座長  それで建設業というか、有期事業のほうからは±35%を±40%までという要望がいま 来ているということですか。 ○数理室長  そうです。 ○岩村座長  いままでの議論の流れと比較したときに、災害の度数率が継続事業との関係で、±40 以内になっているかどうかというのが判断の1つのポイントなのかもしれないと思いま す。この辺、何かご意見はあるでしょうか。 ○高梨委員  先ほど1つの考え方を述べたのですが、こういうデータを見ても、継続事業と建設業 とに大きな格差があるわけではないと思います。業界からも継続事業並みにしてくれと いう要請書も来ていると先ほど伺ったわけで、できるだけ早く揃えるという政策をとっ てもいいと思います。 ○岩村座長  ただ、組合のほうからは反対だという声が他方で出ていて、先日の労災保険部会で も、かなり強硬な反対意見が述べられていたところです。なかなか微妙な話なものです が、これは結局、労災かくしを招くということについてどう考えるかという話なのかな と思っているのです。 ○大沢委員  従来の経緯や現在のものを横並びで見たときに、統計的に有意な差が消滅したと言え るのかどうかなのですが、その辺のご判断はいかがなのでしょうか。 ○岩村座長  事務局で実際に労災の行政事務を担当していて、いかがですか。 ○数理室長  度数率や新規受給者割合から見ますと、林業はいろいろ判断の難しいところがあるか と思いますが、建設業については、あまり差は無くなってきているのかなという感じは いたします。差を設けてきた理由としての、災害が多いがためにプラスになる、事業主 負担が増えるという懸念は、もう薄れてきているのかなという感じはいたします。 ○岩村座長  たぶん、これは業態の変化、それから建設業には、括弧付きかもしれないけれども、 自営業者が多いとか、そういうことが影響しているのだろうとは思いますが。 ○数理室長  そうですね。 ○岩村座長  メリット増減幅の議論では、幅の設定について、高梨委員から興味深いサジェスチョ ンがありましたが、それをどう考えるかということはあると思います。それから、有期 事業のメリット増減幅については、少なくとも数字的に見ると、継続事業との間で差を つけるというのは、いまの段階ではあまり強力に主張できないのかなと思います。  次に4番目の「特例メリット制」ですが、これについては、かねてからこの検討会で も皆様から指摘があったように、充分活用されていないということで、むしろこれを積 極的に活用する方策を考えるというのはどうだろうかというご意見が出ていたように思 います。この点についてのもう1つの意見としては、申請実績が少ないので、有効性が 測れないということで、なぜ申請件数が少ないのかということの検証が必要ではないか ということも出されています。いままでの議論からすると、この特例メリットがもっと 有効に使われるように考えるべきではないかということについては、委員の皆様方の考 え方に差はないのかなと思います。問題は、なぜ使われないのかということですが、既 に検討会でお話があったと思いますが、これは事務局のほうで何か少し分析しているの でしょうか。 ○数理室長  対象となる所にアンケート調査か何かをすれば、もう少し明確にわかるのかもしれま せんが、そういうことはやっていないので、推測ですが、1つは、無災害であれば−45 %ですが、ひとたび災害が起きると+45%。現状40%より5%割増になってしまうとい うことで、事業主に躊躇があるのではないかと思います。あとは、適用対象となる条件 として、「快適職場」ということの1点しかないという現状が1つあるのかなと思いま す。それと、自動的に適用がされない、申請をしないと適用されないということもあり ます。手間とは言いませんが、申請しなくてはいけないというのが必要条件になってい るということです。さらにPRが若干不足しているようなところもあり、必ずしもこの 制度について充分周知されているとは言いがたいのかな、というようなことが理由とし てあるのではないかと思っています。 ○岩村座長  その辺の問題点をどういうふうに解消していくかということだと思うのです。 ○数理室長  適用されても、3年間の限定であるということ。それだからこそ特例メリットなので すが、そのことも1つの理由として考えられるかもしれません。 ○岩村座長  最後の点は、特例メリットが一定の政策的な要請を持ったものだということを考える と、3年という期間が適当かどうかはともかくとしても、恒久的にという制度趣旨には やや馴染まないのかもしれません。そうすると、その前までに述べられた問題点につい てどういう対策を講じるかということで、特例メリットがより利用される方向で考えて いくということなのかと思うのです。この点について、いまの段階で事務局のほうで、 今後の検討として、こんなのがあるのではないかというお考えをお持ちでしょうか。 ○数理室長  行政内部の1つのアイディアとして、現状では±45%にしていますが、プラスは40% に抑えるとか、非対称型にするというのも1つあるのです。要するに、マイナスだけを 大きくして、プラスについては現状のメリット制の範囲内でという手も1つあるのかな ということもあるかと思います。  それから、適用条件として「快適職場」しかないのですが、それを広げることも考え られるかと思います。中小企業を対象としていますので、中小企業で安全衛生政策が進 んでいないような項目があれば、それを取り入れて、中小企業の災害防止を進めて、そ れをメリット制とリンクさせるという趣旨ですので、中小企業の導入状況が低い項目を 特例メリットの要件として入れることも、当然考えていいのかなと思っています。 ○岡村委員  メリットに関しては増減幅を改定しようが、適用枠を拡大しようが、実質的には、メ リットに見合うだけの災害防止努力をしているかどうかということの判定が難しい。事 故率が下がっているかどうかを結果で表すことが難しいということです。  そういうことであれば、これは1つのアイディアにすぎないのでしょうけれど、高梨 委員が非常にいいコメントをしてくださいました。第三者機関にせよ何にせよ、自己抑 制的保険料率あるいは保険料というのはどういうものかと考えてみますと、例えば物理 的な対策を行う。損害保険でいうと、火災に対してスプリンクラーを付けるというのは 物理的なことですが、保険料が安くなります。あるいは労働安全講習を実施していると か、そういうことを確実に行っている事業場については、一定の保険料の引下げとか割 引きをする。そういうものと組み合わせてはいかがでしょうか。早急にそれを導入する というのは無理だとしても、将来的なものとして考えておいても悪くはないかなと思う のですが、その辺はいかがでしょうか。 ○数理室長  そういった施策をやっているかどうかをどういうふうに確認するかという問題もある かと思うのですが。 ○岡村委員  だから、それらも含めてです。いまの技術でいきますと、大体は人間にやさしいと言 いましょうか、機械にせよ何にせよ、安全面を重視した設計になっています。そういう 意味では、それを導入した段階で、すでに目に見えない安全策を講じているのと同格に なるような気がするのです。そうすると、事業場自体が意識しなくても、実際として事 故率が下がってくるということがあり得ます。それがいま話題になっている、メリット を導入したから事故率が下がったのか、それとも自然に下がっているのかという判定が 難しいということにもつながってくるのではないかと思います。目に見える努力をすれ ば、それだけの見返りがあるというような制度を導入したほうが、もう一段確かな制度 になるのではないかという気がするのです。 ○岩村座長  先ほどの高梨委員のご示唆と同じように、非常に興味のあるご示唆だと思いますが、 火災保険と違って難しいのは、パターン化されていないので、業種によって千差万別な ものですから、何を取って括り出すかというところが非常に難しいのかなと思います。 ○岡村委員  いくら事業場が注意し努力しても、例えば作業員が自分の持っている鋸で自分の乗っ ているところを切ってしまうとかいう問題が起こるわけで、それは企業努力の範疇外で す。そういう場合には、例えば従業員に対して安全講習をきちんと必ず実施するとか、 そういう形で多少はモラルがアップするようなことも考えられます。 ○岩村座長  そういったものを少し洗い出してみる作業が必要でしょうし、場合によっては、この 特例メリットも、ある意味ではややパイロット的な意味があるのだと思いますが、少し エクスペリメンタルなものを考えてみるというのもあり得るのかもしれません。 ○岡村委員  少し要望をしてよろしいでしょうか。今日の印象として、メリットの幅の拡大にせ よ、適用幅の拡大にせよ、基本的な問題点としてはデフォルトの料率が上がるというこ とです。その幅を拡大しすぎると、更に問題点が出るとすれば、強制保険でありなが ら、保険料の変動が大きくなってしまって、場合によっては労災隠しが頻発する可能性 がある。そちらのほうも問題として出てくるということで、一種の隘路に入ってしまっ ているのです。だから、どうしても全体的な考え方が幅の拡大にせよ、適用の拡大にせ よ、保守的にならざるを得ない。だから、それとは別にほかの、外側からのアイディア を入れなければ動かない状況になっているのではないかという印象を受けました。それ で先ほどの私の話が出たわけです。 ○岩村座長  ありがとうございます。貴重なご指摘だと思います。ほかにご発言がなければ、5の 「その他」ということで少し議論いたします。これは労災保険部会で出たものですが、 主として労災かくしの問題に帰着するのだと思うのです。インセンティブの問題は先ほ どすでに議論しましたので、ここでそれを繰り返すことは避けて、労災隠しの問題につ いて、どのような考え方があるのかということについて意見を出していただければと思 います。私の記憶では、労災隠しの問題は労災保険部会で話題になって、何か一定の対 応をするという話になっていたのではないかという気がするのですが、いかがでした か。私も記憶が定かではないのですが。 ○数理室長  たしか労災かくしに関する懇談会が設けられて、その中で、どういった対策をとるの かということがまとめられたと思います。基本的にそれは基準法や安衛法の違反事案に なりますので、メリット増減幅の大きさに関係なく、違反は違反なので、それはちゃん と厳正にやっていかなければいけないということ。あとは「労災かくしは犯罪です」と いうようなPRをいろいろやっているというところです。 ○岡村委員  現状でいちばん労災かくしが発覚する理由というのは何でしょうか。 ○数理室長  被災した労働者が、初めは事業主からある程度給付を受けているのでしょうけれど も、監督署に相談に行って発覚するとか、そういう事例が多いのではないかという気が します。例えば重い労災であれば、年金などがあります。事業主が払っていければ、そ れはそれで相談には来ないのかもしれませんが、重度の災害になってしまうと、病院に かかってちゃんとやったほうが被災労働者にとってはいいはずですので、それで発覚す るという事例なのかなと思います。 ○岩村座長  健保の一部負担率が高くなって7割給付になってしまったので、労災との差が非常に 大きくなったのです。重度災害の場合はもちろんなのでしょうけれど、療養期間が長引 く場合に、その問題が出てくるだろうと思います。たぶん、事業主が3割分を払って も、どこかで打ち切るという話になったときに、それではかなわんということで労基署 に来るということがあり得るだろうと思います。  もう1つは、前に私がちょっと聴き取りをしたときに、なるほどと思ったのですが、 建設業関係は事故を起こすと、入札ができなくなってしまうのです。それが実は大きな インパクトを持っていて、どうも労災を隠すという動機の大きなものは、公共工事関係 で入札ができなくなってしまうというのが、かなり大きく効いているのかなという印象 は持っています。ただ、これはあくまで印象論なので、統計的に何か裏付けがあるか、 と言われると困るのですが。 ○岡村委員  それは理由の如何を問わず、事故が発生したという事実でそうなるということです か。 ○岩村座長  公共工事の入札は厳しいようです。結果だけですからね、あれは。 ○岡村委員  安全対策をいくら練っても発生するから保険が必要なのであって、その辺が難しいで すね。結果だけを見てしまってペナルティーが付くということであれば、やはり、労災 隠しは発生する可能性は高まりますよね。 ○大沢委員  メリット増減幅の大小とは関わりなく、インセンティブは別にあるということです ね。 ○岩村座長  そうです。どちらがより大きく作用しているかということ自体については、私も具体 的なデータを何も持ち合わせていないので、何とも確言はできないのですが、印象論と して、実際の感覚としては、この点については公共工事の入札が非常に大きな影響を与 えているという感じです。 ○岡村委員  むしろそれは保険料がアップするよりも大きなインパクトがあります。 ○岩村座長  ええ、大きい。商売が来なくなってしまいます。ビジネス自体が行き詰まってしまい ますので、非常に大きな影響を持つのです。 ○大沢委員  それなら事後チェックで済むわけですから、怠ったから起こった事故なのか、充分良 好な配慮、対策をとっていたにもかかわらず起こった事故なのかということを、事後的 に証明するようなことで、「入札からの排除」を防ぐようなことはできないのですか。 つまり、非常に広範囲の事業場に対して、事前指導的に目に見える対策をしているか、 していないかと言っても、誰が見るのかという問題がある。それを当局がやるとなる と、何倍にも係員を増やさないとできないというような話になるので、むしろ事後的に 数字で後腐れなく出てくるいまの制度は、過剰な行政指導的なものを招かないという意 味では評価できるシステムだと思います。第三者認証機関のようなものが出来て、それ が充分リライアブルであればまた別なのですが。例えば保育園なんかにしてもそういう 話は以前からありつつも、なかなか導入されないということもあります。いまのような お話で、すでに発生してしまった事故について、原因をある程度の確率、蓋然性でどち らなのかというのをやることはできるのではないかという気がするのですが。 ○岩村座長  ただ、そこは所轄官庁が違うので、こちらとしては対応がなかなか難しいところがあ るのです。  それでは最後にもう一度全体の議論の取りまとめということで最初の「基本的な考え 方」に戻ります。今日は高梨委員や岡村委員から示唆していただいた点もありますし、 メリット制のあり方については、別の角度から考える可能性もあるのかもしれないとい うことだろうと思います。特に、災害率が全般的に下がっている中で、メリット制をど う活かしていくかということを考える意味では、検討に値する論点だろうと思います。 また、先ほど事務局からもあったように、特例メリット制をもう少し有効に活用すると いうことも検討に値することなのだろうと思います。それによって、全体として労災防 止のインセンティブが高まるような方向での制度設計を考えていくことが必要だろうと 思います。  これで3つの論点を一渡り検討したことになりますので、この後報告書の取りまとめ という段階に入るわけですが、メリット制については、今日のご議論でもわかるよう に、まだ充分に検討できていない論点も残っています。とりわけ、別の角度からの考え 方もあり得るのではないかというご示唆もありました。また、従来必ずしもなかったデ ータを集めるとか分析するとか、実現可能性の問題も含めて、新たな角度から考え得る ことを検討する必要性も、今日の議論から浮かび上がってきたように思います。メリッ ト制については、意見書の中でどう書くかということもありますが、他方で、今後この 問題をどう検討していくかということも重要なのではないかと思います。したがって、 今後のメリット制の問題についての検討体制も事務局のほうで検討していただければと 思います。大体議論は出尽くしたと思います。特にご発言がないようでしたら、今日は これで議論を終了したいと思います。  これまで3回にわたって、中間まとめをベースにしてご議論をいただきましたが、そ の結果も踏まえて、私のほうで事務局と相談しながら報告書案を作成して、次回この場 でその案を委員の先生方に提示するということにさせていただければと思います。場合 によっては少し積み残す部分もあるかもしれませんが、それについても、報告書の中で どういう書きぶりをするかという意見を伺って進めてまいりたいと思っております。今 後のスケジュールについて事務局のほうからご説明をいただきたいと思います。 ○数理室長  次回が第11回になるわけですが、ただいま座長から説明のあった報告書(案)を座長 と相談しながら作成して、次回は報告書案を議題として行いたいと思います。日程につ いては12月20日(月)の午後5時から開催したいと思っておりますので、よろしくお願 いいたします。場所はこの建物の中の会議室を予定しておりますので、決まりましたら 連絡いたします。 ○岩村座長  次回の検討会は12月20日の17時からの開催ということにさせていただきたいと思いま す。今日の検討会はこれをもって終了いたしたいと存じます。お忙しいところ、ご参集 いただきましてどうもありがとうございました。 照会先  労働基準局労災補償部労災管理課労災保険財政数理室  電話:03−5253−1111(代表) (内線5454,5455)