04/11/17 労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会第9回議事録          第9回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会 1 日時 平成16年11月17日(水)17:15〜 2 場所 厚生労働省 共用第7会議室(5階) 3 出席者  〔委員〕    公益代表  保原委員(会長)、石岡委員、稲葉委員、金城委員    労働者代表 佐藤委員、高松委員、寺田委員、内藤委員、真島委員、          中桐氏(須賀委員代理)    使用者代表 紀陸委員、杏委員、久保委員、下永吉委員、早川委員 4 議題  通勤災害保護制度の見直し等に係る論点整理について 5 議事 ○保原部会長  ただいまから第9回労災保険部会を開催いたします。本日は岩村委員、岸委員、須賀 委員、川合委員がご欠席です。なお、須賀委員から、労災保険部会運営規程第2条に基 づき、代理者の出席の申し出がありましたので、本日は中桐孝郎日本労働組合総連合会 雇用法制対策局次長に代理としてご出席をいただいております。  では、本日の議題に入らせていただきます。本日の議題は、「通勤災害保護制度の見 直し等に係る論点整備について」です。最初に、事務局から資料についてご説明をお願 いします。 ○労災管理課長  今回お手元にお配りしております資料は、資料1が通勤災害保護制度の見直し等につ いてという論点、資料2が前回もお配りさせていただきました在り方研究会の中間とり まとめの見直しの方向性に関する抜粋部分、資料3が関連する参考資料です。前回の10 月13日の本部会におきましては、研究会の中間とりまとめに基づいてさまざまなご意見 等をいただきましたが、そのご議論も踏まえて、通勤災害保護制度の見直し等に関して 論点を整理させていただきました。これを基に、さらに議論を深めていただきたいと思 います。  それでは、資料1に基づきましてご説明をさせていただきます。最初の論点ですが、 複数就業者の事業場間の移動を保護の対象にすることについてです。四角の中に書いて あります現行の仕組みとしましては、現行の労災保険制度において、通勤は業務ではあ りませんが、通勤災害保護制度につきまして、労働者が労務の提供を行うために不可欠 の行為であって、通勤に伴う災害については、社会的な危険として労災保護制度の対象 にすることが適当であるという考え方に基づいて設けられているということです。その 際に労務の提供を行うために不可欠の行為である通勤の範囲を限定するために、法律に おいては労働者が就業に関して住居と就業の場所の間を、合理的な経路及び方法により 往復することを、通勤として保護する制度となっています。  研究会におきまして、複数就業者の事業場間の移動については、労働者が第二の事業 場へ労務を提供するために不可欠な行為であって、就業の場所から就業の場所に直接移 動する行為につきましては、私的な行為が介在しないということを前提にして、複数就 業者が増加している中で通勤災害保護制度の対象とすることが、適当であるとされてい るところです。  次の論点ですが、関連して各企業においては、兼業禁止の規定を設けているところが 多いということです。前回の部会の際にもご議論があった論点ですが、この点につきま しては、在り方研究会において、兼業禁止の規定の問題につきましては、兼業について どうするかという民事の問題について、公的な保険である労災保険の保険給付にあたっ て考慮することについては疑問があるとされています。また、兼業禁止の効力について は、最終的には裁判所で争われます。その際には、確定するまでに相当な期間を要す る。その判断を待っていたのでは、迅速な保護に支障を来たすおそれがあるといったこ とを踏まえて、兼業禁止規定の在り方の如何によって、取扱いを異にすることについて は、適当ではないという整理がされています。  大きく2つ目の論点として、単身赴任者の赴任先と帰省先の2つの住居間を移動する 際の、移動を通勤災害保護制度の対象にすることについて、どう考えるかという論点で す。これについても研究会におきましては、現行の通勤災害保護制度の趣旨を踏まえた 上で、単身赴任というのは事業主の必要と労働者の家庭生活上の必要という2つの必要 の中で、単身赴任という形態を余儀なくされるものである、そういったことを踏まえる と、単身赴任者が家族の住む住居である帰省先住居と、本人の赴任先住居との間を定期 的に移動することについては、そういった立場にある単身赴任者にとっては不可避な移 動ということで、この移動に伴う危険については、社会的な危険として通勤災害保護制 度の対象とすることが適当であるとしています。これが大きな論点ですが、これに派生 する次の段階での論点として、4頁に2つほど掲げさせていただいています。  1つは、保護の対象となる単身赴任者の範囲をどう考えるかという論点です。これに つきましては、法律の中では国家公務員に関する給与法、あるいは所得税法での特定支 出控除という制度の中で、単身赴任者について定義がされています。まず一定の要件を 付しながら、配偶者と別居することになった職員等という形の定義がされています。  一方、私ども行政の扱いの中では、通勤災害の保護の対象として、帰省先住居と直行 直帰の形で就業先と移動する形については、一定のルールのもとに保護の対象にすると いう考え方で従来から扱ってきています。その際には、「配偶者と別居することとなっ た職員」等ということに加えて、「家庭生活の維持という観点から自宅を本人の生活の 本拠地とみなし得る合理的な理由のある独身者」についても対象としているということ です。こういった状況を踏まえて単身赴任者の範囲については、どういった考え方で合 理的な範囲として限定していくかという論点があります。  次に、時間的にどの範囲の移動を保護の対象にすべきかという論点もあります。これ も前回の部会の際の議論の中で出たところですが、通勤災害保護制度の対象になる通勤 につきましては、通勤災害制度ですから就業に関して行われる移動でなければならない という考え方があります。そうしますと就業に関する移動ということで、就業と一定の 時間的な関連性を持って行われることが、必要ではないかという論点です。これについ て研究会では、赴任先住居から帰省先住居への移動につきましては、勤務における業務 の終了時間、あるいは交通機関の運行状況といった関係で、勤務日当日の移動ができな い場合がある。実態としても勤務日当日、または翌日に移動が行われることが大半であ るといったことを踏まえて、原則として勤務日の当日、または翌日に行われる移動を保 護の対象にすることが適当であると整理されています。逆に帰省先住居から赴任先住居 へ戻って来る際の移動につきましては、いろいろな状況によって勤務日の前日に赴任先 の住居に戻って翌日の勤務に備えるという場合が一般に多く行われているといったこと で、そういった前日に帰って翌日の勤務に備えるという行為には、合理性があると考え られるということです。そういったことから原則として勤務日当日、またはその前日に 行われる移動を保護の対象にすることが適当であるという考え方が示されています。  なお、(3)に書いてありますように、急な天候の変化によって、交通機関が運行停止 になるといったような外的な要因によって翌日や前日に移動ができない場合には、例外 的な取扱いを検討することが必要とされています。  5頁で大きな3点目の論点としまして、複数就業者に係る給付基礎日額についてどう 考えるかということで、これも研究会におきましては、複数就業者に係る給付基礎日額 については、労災保険制度の目的は、労働者が被災したことによって喪失した稼得能力 を填補することにある、こういった目的からは、労災保険の給付額の算定は、被災労働 者の稼得能力をできるだけ的確に反映させることが適当であると考えられることから、 業務災害、通勤災害の場合を問わず、複数事業場から支払われていた賃金を合算した額 を基礎として定めることが適当であるとされています。論点は以上です。  参考資料3ですが、ただいま申しました論点に関係しまして、かいつまんで説明をさ せていただきたいと思います。まず1頁の通勤災害保護制度の概要につきましては、説 明を省略させていただきまして、3頁の複数就業者の数及び実態ということで、「就業 構造基本調査」に基づく数字については前回も資料として説明させていただきました が、その態様についても前回お話が出ました。「就業構造基本調査」の中では、本業が 雇用者でかつ副業が雇用者である数が81万5,000人という数字ですが、この方々のうち 本業がどういった従業上の地位にあるかということについて調べていまして、正規の職 員・従業員という方々が21万9,000人。そのほかパート、アルバイト、契約社員といっ たような方々が記載内容の数値ということで、大きく複数就業の形態、両方が雇用のケ ースにつきましては、正社員・パート型とパート・パート型があると思いますが、こう いった中でいうと正社員が22万人で、パート等の方々のほうが合計するともう少し多い 数字になっているという状況であると把握しているところです。  5頁ですが、私どもとして平成13年に三和総研に委託して、二重就職に係る調査研究 を、特にやっていただきました。サンプル数の制約があるので、そういった制約のもと に考えなければなりませんが、複数就業している方について、本業と副業の職業につい て、どういった職業に就いている人が多いかを調べたところ、教員や一般事務従事者、 副業のほうも教員や接客・給仕職業従事者といったようなものが並んでおります。ちな みに本業と副業でクロス集計してみたところで特に多かったケースとしては、本業が教 員で副業が教員という方々、あるいは医師、薬剤師といったような仕事を両方兼ねてい る。あるいは本業が一般事務で副業が接客・給仕の仕事といった方々、というケースが 数としては多かった状況があります。  6頁はいまの調査で聞いている中身ですが、「副業やアルバイトをしている時」とい う資料について見ていただきますと、本業の仕事がある日の就業時間後に副業している 方が45.2%、本業の仕事のない日にやっている方が41.9%ということで、同一の日に本 業と副業をやっている形態の方々もかなりいることが窺われる資料になっています。  8頁の複数就業者の取扱いですが、これは企業について調査した数字ですが、禁止し ているという企業が約5割、あとの半分は許可制であるとか届出制、あるいはそもそも 禁止規定を設けていないといった形になっているところです。その下の届出とか許可に ついての基準ということですが、本業に影響を与えない、あるいは会社の機密をもらさ ないといったものが、許可等の基準になっているという例が多くなっているところで す。9頁の二重就業に取扱い規制をかける理由として企業が挙げている理由の中では、 業務に専念してもらいたいという理由が多くなっているところです。その下にあります のが「副業解禁」の動きということで、いくつか平成14年から15年の辺りの新聞や週刊 誌に報道された事例といったものを含めていまして、副業について、いわゆる解禁と言 うか、容認に向けて動いている企業の例もあるということの資料です。  12頁は裁判例です。就業規則の上でいまご覧いただきましたように、会社の許可なく 他人に雇い入れられることを禁止や許可制といった企業が多く、それに対する就業規則 違反を懲戒事由として解雇等のケースが争われる事案、というのが裁判になっているの も相当数に及んでいます。裁判例としてはいろいろありますが、一般的には就業規則上 の兼業禁止ないし許可規定につきまして、禁止の目的に即して限定的な解釈を施して、 その適用を認めていくというものが多数であると承知しています。裁判例については、 こういった兼職禁止ないし許可制の違反については、会社の職場秩序に影響しているか どうか、会社に対する労務の提供に格別の支障を生じさせているかといった観点から、 判断をしているケースが多いということです。  ここに掲げている判例は2つありますが、1つは会社代表者の実弟が設立した競争会 社の取締役に従業員が就任したケースについて、企業秩序をみだすおそれが大きいの で、これを理由とした解雇は有効であるという判断がされたケースです。もう1つの福 岡地裁の事件は、タクシーの運転手が、父親が経営する新聞配達店で新聞配達等の業務 を手伝ったという事案について、会社の労務の提供に格別支障を生じないから兼職禁止 規定に違反するものではない、という判断が示された事案ということです。  15頁は複数就業者についてこれまで指摘があった経緯ということで、平成12年1月に 当時の労災保険審議会の労災保険制度検討小委員会が、その当時におきましてさまざま な労災保険制度上の問題について一通りの検討をして、また労使各側から要望事項の提 出を求めて検討した中で、いくつかの事項についてさらに検討を深めて、あるいは運用 上の対応を諮るべきであると考えられるというように整理した中に、複数就業、二重就 職の問題についても行政当局において実態を把握することが望まれる、という整理がさ れているところです。行政としてはこういった指摘を受けて、その後実態把握、あるい は平成14年から研究会を開催し検討して、今日に至っている状況です。  16頁の外国法制における取扱いですが、ここに掲げている中で、イギリスについてだ けは通勤災害保護制度を設けていませんが、ほかの国は設けているということです。ド イツについては法律の中で業務に関連して、業務の場所との間を往復する道での災害 は、労働災害として補償になるということで、この中には事業場間の移動も保護が及ぶ と条文上解釈されているということです。また単身赴任者が、赴任先住居と帰省先住居 間の移動をすることについても、法律上保護が及ぶとされています。またフランスにお いて労働法典の定義上、単身赴任者の家族が住む住居というのも住居として見られてい るので、その2つの場所の間の往復は、通勤とされるということです。複数就業の場合 の事業場間移動につきましては、判例において通勤として保護範囲に入るというように 見られています。イタリア、スウェーデンにおきましても、通勤災害保護制度を法律で 設けておりますが、2つの職場を結ぶ通路といったものは、法律上保護の対象になると 整理されています。  17頁以降が単身赴任関係ですが、17頁の単身赴任者数につきましては、前回紹介した 数字です。18頁は、私どものほうで委託調査を行ったものをとりまとめた結果です。単 身赴任の方々がどの程度帰省するかという帰省頻度ですが、大半の方々が月1回以上 は、家族のもとに帰省しているという資料です。  19頁は、帰省する際の経路ですが、赴任先住居を一旦経由した上で、移動する人が相 当程度いるということで、特に勤務に戻る際には大半の人が、一旦赴任先住居に戻って いるという数字になっています。21頁ですが、帰省する際の所要時間で、短期休暇の場 合について見ますと、8割以上の方が2時間を超える所要時間がかかっているというこ とです。  21頁の下のほうの赴任先住居での滞在期間ですが、帰省する場合に短期休暇の場合 は、赴任先住居に寄っている時間が2時間以内や2〜6時間という方が多いので、当日 出発している方が多いのかもしれませんが、翌日帰省する方々も一定程度いるという数 字です。22頁のいちばん上の図ですが、短期休暇で戻って来る場合に、前日に戻って翌 日の勤務に備えるという方が多数を占めているという状況です。  24頁は、行政の通達です。行政としては従来から単身赴任者が週末帰宅するという形 の移動については、就業の場所と家族が住む帰宅先との間の往復が反復・継続性がある という場合にあって、社会通念上労災の通勤と認められるか否かを個別の事案ごとに判 断して認めてきたところですが、基準の明確化を図るという観点から通達を定めて、平 成3年、平成7年というように通達を定めてきました。平成7年の通達におきまして は、単身赴任者が「就業の場所」と家族が住む家屋との間を往復する場合において、そ の往復行為に反復・継続性がある場合には、当該自宅を「住居」として取り扱うことに しているところです。  ここで「単身赴任者等」というのは、転勤等のやむを得ない事情のために同居してい た配偶者と別居して単身で生活する者、これが単身赴任者です。そのほかに単身赴任者 と同様に、家庭生活の維持という観点から、自宅を本人の生活の本拠地とみなし得る合 理的な理由のある独身者ということで、先ほど申し上げました親御さんの介護などの事 情がある方については、一定程度認めている状況です。しかしながらこういった通達に おいても保護の対象になりますのは、直接就業の場所と帰宅先の住居を直行直帰するケ ースでありますので、帰宅先と赴任先住居の間の経路、それ自体が保護の対象になるわ けではないということです。  25頁ですが、前回の部会でも紹介させていただきました秋田地裁の判決は、こういっ た2つの住居間の移動についての判決です。こういった判決についても今回、研究会で 制度的な見直しを含めて対応を検討する契機となったものです。26頁からの単身赴任者 に関連する政策ということでいくつか資料を掲げてありますが、1つは先ほども申し上 げました国家公務員の給与法で単身赴任者について単身赴任手当を支給するということ で、定義も含めて書いているところです。また所得税法の特定支出控除につきまして も、一定の要件のもとに特定支出控除の対象にするということです。  28頁が企業の対応状況ですが、「平成16年就労条件総合調査結果」に基づくものです が、いちばん上の表ですが、転居を必要とする人事異動がある事業場が29.2%、有配偶 の単身赴任者がいる事業場が19.6%で、その中で転居を必要とする人事異動がある企業 の中で、何らかの援助制度があるかという問いに対して、有配偶の単身赴任者に対する 援助制度があるとした所が92.7%で、下にグラフがありますように住宅等に関する援助 施策のほかに、別居手当の支給を設けている所が61.4%、一時帰宅旅費の支給を設けて いる所が61.3%といった状況になっているところです。  最後に29頁に、給付基礎日額の概要という資料を掲げています。給付基礎日額と申し ますのは、労災保険に基づく現金給付の算定の基礎になるものでありまして、労災保険 法の第8条で定められているところです。給付基礎日額の算定につきましては、原則と して労働基準法第12条の平均賃金相当額によるということにされていて、平均賃金とし て算定事由が発生する日以前3カ月間に支払われた賃金の総額を、3カ月間の総日数で 割ったものが平均賃金ということですが、いくつか例外的な計算の仕方がありまして、 算定期間中に業務上の負傷や、産前産後の休業、育児休業といったような事由で休業し ている期間がある場合については、その間の日数を賃金の総額、分子分母から除外する という形で計算することになっています。また日給制、時間給制である場合には、賃金 の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60に満たない場合には、こ の100分の60の額を平均賃金とするという形にされています。  給付基礎日額の制度におきましては、平均賃金相当額を給付基礎日額とすることが適 当でないと認められるときには、給付基礎日額を独自に特例として定めることができる ことになっています。例えば算定期間中に私傷病による休業期間があった場合には、そ の期間について先ほども分子分母から除外して算定したもの、それを給付基礎日額にす るという扱い、あるいは以上によって算定された額が最低保障額に満たない場合には、 現行では4,160円とされている最低保障額をもって給付基礎日額にするという取扱いが されているところです。以上、かいつまんで参考資料を説明させていただきました。 ○保原部会長  ありがとうございました。ただいま、労災管理課長から2つの点についてご説明をい ただきました。1つは、通勤災害保護制度の見直し等について、在り方研究会の報告を 中心にお話をしていただきました。もう1つは、参考資料です。  1番目の通勤災害保護制度の見直し等については、繰り返しになりますが、論点が3 つあります。1つは、複数就業者の場合、第一の事業場と第二の事業場の間の移動の途 中の災害を通勤災害と認めるかという問題です。2番目は、単身赴任者の問題で、従来 は直行型、原則として直接赴任先と帰省の間、直接の移動に限って認めていたものを、 もう少し緩めた形で認めるかという問題があります。3番目は、複数就業者の給付基礎 日額の判定の問題です。  論点は以上の3つでありますので、最初に複数就業者について、第一の事業場と第二 の事業場の間の途中の災害を通勤災害と認めるか、という問題からご議論いただきたい と思います。 ○紀陸委員  前回も申し上げましたが、この兼業禁止というのは、先ほどの説明ではありません が、かなりの企業で、会社と従業員の間で取り交わされたり、あるいは就業規則上定め られております。  資料1の2頁目の四角の中に、民事上の問題を公的な労災保険の給付に当たって考慮 するのは疑問があると書かれておりますが、それは公的保険のほうから見れば、疑問が あるという表現になるのでしょうが、会社に入るに当たってそういう約束をすることは 多くの企業であることで、そういう信頼関係の下に労使の間の運用がいろいろな面でな されているわけであります。  確かに趣旨としては、働きに行かれる方の保護という面では無視をできないという点 は理解できますが、会社が知らないうちに仕事に行き、その途中で事故に遭われた場 合、問題が起こった場合、会社としてはそういうことが起って、それが保険給付の対象 になるかどうかという問題も然る事ながら、二重就業したこと自体に何らかの懲戒的な 処分を取らなければいけないこともあり得るわけです。そういうことがありながら、公 的給付の世界だとこれは出るというのは、なんか釈然とした感じをなかなか持てないで すね。そこは多くの企業の方に、私どもはそういう就業形態を取られる方々が多い業種 に対してアンケートでご意見を伺ったのですが、やはりちょっとおかしいのではないか という答えが非常に多く、少なくともこういう「二重就業禁止」という約束事は、何ら か考慮すべきではないかという意見が非常に多いですね。  災害が発生した場合、現実には書類を出さなければいけない場合に、第一の事業主が 書類作成の面で当然関与せざるを得なくなると思います。そうすると、第一の事業場と 第二の事業場でいろいろ問題が起きないだろうか。いまの給付基礎日額は別にご意見を 申し上げたいと思いますが、入り口のところで、そういった懸念が事業主としてはなか なか抜けないということだけは申し上げたいと思います。 ○保原部会長  ただいま紀陸委員から、事業主としては第一の事業場と第二の事業場の間の災害を通 勤災害として認めることに賛成できない、というお話をいただきましたが、そのほかの 方のご意見を伺いたいと思います。 ○中桐氏(須賀委員代理)  いろいろと考えてみたのですが、おっしゃっている趣旨は、例えば不法就業の外国人 労働者が不幸にして労災があった場合、保障するということは、不法就労を助長するの ではないか、だから保障すべきでないと言っている論理とよく似ているのではないかと 思います。労災保険というのは、雇用形態に関わらず一人でも事業場にいれば処理する 関係です。合法か不法かは、別の法律、入関法で裁かれるわけです。そして、国外退去 処分になるはずです。それでも労災保障は支払われますし、支払ってきました。そうい った意味で、兼業禁止規定の問題は、就業規則上の問題ですので、労基法や民法の中で 裁かれる問題で、労災保障は必要であり、別問題だと私は思います。 ○佐藤委員  前回も申し上げましたが、現在の雇用形態、就業形態というのは大きく変化をし、正 規労働者が非常に減少している状況です。より多様化した就労に対してこういう保護を 与えるというのは、当然だろうと思われます。  兼業の禁止については、今日欠席の岩村委員がそれなりの見解と言いますか、法的な 解釈も含めておっしゃられました。私どもも顧問弁護士にこのことを照会いたしました が、岩村委員のおっしゃったのと同じような見解であり、就業規則に兼業禁止と書くこ とは、現状ほとんど意味のないことだとおっしゃっていました。そういう意味合いから 言いまして、2箇所なりで働かざるを得ないパート労働者であるとか、そういうのはど んどん増える傾向にあるわけです。この際、こういう問題が提起されたので、前回の議 論で尽きたものと思っていたのですが、これは当然認めるという結論でまとめてほしい と思います。 ○保原部会長  ありがとうございました。そのほか、ご意見ございますでしょうか。公益委員の方、 よろしいですか。それでは、事務局からお願いします。 ○労災管理課長  兼業禁止規定の問題については前回もご指摘があったわけですが、研究会のとりまと めを踏まえ、私どもとしては行政の立場で研究会報告の趣旨に対して制度見直しをして いく場合、どう考えていくべきかということを考えてみました。  いま紀陸委員から兼業禁止、信頼関係というお話がありましたが、企業において、労 使の間で兼業禁止をどう扱うかについては、基本的に労働契約に伴う問題ということ で、労使間で適切に対応されるべき問題であろうと思います。  ただ、研究会の趣旨を踏まえて制度を見ていく場合、現在の社会状況なり政策的な必 要性を踏まえ、通勤災害保護制度における取扱いとして必要な対応をしていくことが、 基本的な考え方になろうかと思います。  したがって、それによって労使の間で適切に話し合われ、解決されるべき問題につい て、これは政策的にいずれかの方向に誘導していく、促進していくというものではない という位置づけのもとに、整理をしていくという考え方が適当ではないかということで す。  他方で政策的な観点から見た場合、就業形態が多様化をし、進展しているという中 で、社会的にいろいろな形で、複数就業については相当程度行われているという実態も ありますし、社会的に認知すべきものもあるという状況の中で、働く方々のニーズと企 業のニーズが適合した形で、労使が納得をして働くという選択肢が増えるということ は、労働政策の観点からも望ましいだろうということです。また、企業の側から見た場 合には、多様な形態の労働者を必要に応じて適切に雇用していける環境が整備されると いうことは、これもまた1つの望ましい形ではないかと思います。  そういったことを踏まえ、いずれの企業、事業主の方々も複数就業の場面で、第一の 事業主、第二の事業主になる可能性があるといったことを踏まえて考えると、通勤災害 保護制度の保護の対象とすることが適当という形で、政策的には整理していく方向で考 えていけないだろうかということです。 ○石岡委員  あとの給付基礎日額の問題になるのかもしれませんが、紀陸委員が第一事業主の手続 負担の問題などを述べましたので、関連して発言させていただきます。仮にこの制度を 認めるとすると、両事業場における賃金が合算され、給付が払われることになります。 そうすると、給付の増という負担が生じてきます。このときにおいて、事業主が負担さ れるのは諸外国の例から見てもいいと思いますが、その場合においても、被災を行った 事業場が属する業種が負担をしていくのか。あるいは、全産業でそれを負担していくの か。この制度を認めた場合の負担増について、誰が負担をするのかという議論が、ここ にははっきり出ておりませんが1つあるような気がするので、その辺の合意形成をこれ からやっていくべきではないのかなと考えております。 ○保原部会長  その問題は2つあると思います。1つは、通勤災害として認める場合はどの業種かは 関係ない、フラット制ですから。もう1つの問題は、例えば第二の事業場で業務災害が あった場合、給付基礎日額の算定をどうするかという問題があると、いま石岡委員がお っしゃったようなことが出てくるということですね。 ○紀陸委員  ここに業務災害の場合と、通勤災害の場合の両方一緒に入っているわけですよね。通 勤災害の適用範囲を拡大するという話でしたが、業務災害が入ってきています。給付基 礎日額に関しては両方の論議があると思います。  ちょっと確認をしたいのですが、1枚紙の絵に書いた図がありますが、論点は第一の 事業場から第二の事業場への通勤災害を適用拡大するかという話と、給付日額の算定の 場合に第一と第二の所を合算してやるかという話があります。ここにある(1)(3)という のは、第一の事業場、あるいは第二の事業場の行きとか帰り、ここの部分に日額の合算 という話はあるのですか。これは関係ないのですか。どちらも含めて通災と業務災害と いうことですか。 ○労災管理課長  (1)と(3)は現行のケースにおいても通勤災害として保護される部分ですが、今回研究 会報告で言っている複数就業所の賃金の合算に関しては、複数就業者のケースですか ら、この(1)と(3)のケースについても合算したものをベースにして給付基礎日額を算定 していくという考え方になるかと思います。 ○金城委員  参考資料の6頁の調査によりますと、本業の仕事がない日にやっているという方がい るわけですよね。その場合も、例えば(3)だけでこちらはアルバイトで非常にお給料が 安い。しかし、(3)の場合に労働災害に遭ったとき、第一の事業場の賃金も合算しても らえるということですね。それも同じように考えていいわけですね。 ○労災管理課長  研究会報告の考え方は、複数就業者の稼得能力というのは、それを合算したものがそ の方の稼得能力ということですから、適格に補填するという考えからは、それを合算し たものという考え方です。そういったケースについても、そのようになるという結論で す。 ○紀陸委員  ますます変な感じになりますよね。事業主の知らない間にこうなるとね。やはり適用 範囲をきちんと絞るべきではないでしょうかね。 ○金城委員  私は本業が大学で教えていて、非常勤講師ということで行く。その場合に同じ日に行 けばいいけれども、別の日に行ったら合算ではないなんてことになると、それは大変お かしいですからね。いまお答えになったことで、私は合理的だと思います。 ○紀陸委員  特に第二の事業場で業務災害に遭った場合、第一の事業場も日額を合算されるという のは、なんか変な感じがしますよね。 ○保原部会長  念のためメリット制というのは一応外してあります。 ○紀陸委員  それはわかりますけどね。この論理は、働く人の保護という1点ですよね。その場合 にそういう支障があるにしても、やはり納得が得られる形で対象範囲を限定する必要が あるのではないかという感じがしますけどね。 ○保原部会長  対象範囲の限定と言うと。 ○紀陸委員  対象範囲を拡大すれば、第一の事業場は違和感と言うのですか。冒頭に申し上げたよ うに、結局、事業主の方がめんどうくさがっているのは、労基署との関係で、第二の事 業場に行かれて何か仕事をやっていると、第一と第二の事業場の間でトラブルみたいな ことが起こらないかという実務上の懸念があるわけです。実際に書類上のやりとりや事 情聴取などいろいろありますよね。大体、そういうトラブルに巻き込まれるのはいやだ なとか、そういう懸念が事業主にあるわけです。そこの部分は第二の事業場だけでやっ てくれとか、実務上の処理の問題です。そういうことを懸念される事業主の方が多いの です。 ○佐藤委員  おっしゃっていることはよくわかるのですが、この制度が保護の拡大として、社会一 般の通念的なものになれば、隠れて仕事をしているという問題は、自然と解消していく と思います。そのとき初めて生ずる問題ではなく、こういう公の場で議論をされ、一定 の保護を与えることが社会的に明らかになってくるわけですから、そんなに心配する必 要はないのではないかと思います。 ○労災補償部長  だいぶ議論が錯綜している感じなのですが、第1の通勤災害の対象をどうするかとい う問題と、第3の給付基礎日額を合算するかという問題は基本的に違う問題です。第1 の通勤災害を広げれば、当然第3の給付日額合算という話が連動する話ではありませ ん。そこは問題としては別々に設定しているということです。おっしゃったように事業 主の方がいろいろな証明、事務処理については、制度設計をどうしていくか。もし、こ の拡大をお認めいただいた場合、第一の事業場と第二の事業場の場合、どちらが保険事 務のいろいろな処理をするのか。それは制度設計としてあり得ることですので、いまで も通勤災害の場合は、当然事業場は1つですのでその事業場が処理をするわけですが、 第一事業場と第二事業場があった場合、第二事業場で事務の証明などをするという設定 をすれば、いま紀陸委員がご心配されているようなことはないと思います。そのとき に、どのように賃金を計算していくかということは、第3の問題に関連しますが、事務 処理については二重就業の場合は、第二の事業場で処理をしていくという考え方も取る ことができます。必然的に第3の問題が絡んでくるということは、整理してご検討いた だきたい。 ○紀陸委員  実際上、実務上の処理というのは可能なのですか。 ○労災補償部長  それは基本的に第二の事業場がいろいろな証明をさせるということで、そこの証明 を、そういう手続をしていくことは可能だと思います。 ○金城委員  いまのは本業でやるのではなく、副業で処分をしていくということですか。 ○労災補償部長  どちらが副業、本業かということがあるわけですが、これを第一の事業場、第二の事 業場と言った場合、例えば第一の事業場から第二の事業場に移動していくとき、そこで 労災があった場合には第二の事業場でやる。来るほうの事業場でそういう手続をするよ うに制度設計を行うということです。 ○金城委員  そうすると、1番の所で起った場合には、もちろん第一の事業場ですね。 ○労災補償部長  業務上の場合ですか。 ○金城委員  通勤災害です。 ○労災補償部長  それはもちろん第一の事業場が行う。来る所の事業場が証明等をするという制度設計 をしていくということで、紀陸委員がご心配のような事務手続のことは解決するのでは ないかと思います。 ○金城委員  第3番はどこがやるのですか。 ○労災補償部長  それはもう第二の事業場からということで、いまでもそれは第二の事業場がやってい ます。 ○金城委員  わかりました。 ○紀陸委員  移動の場合は第二の所がやると書いてあるのですが、業務上災害はどうなるのです か。 ○労災補償部長  紀陸委員がご心配されて、ご議論がいま錯綜しているところですが、給付基礎日額を 合算するかどうかということですね。これは報告書どおり合算ということになると、第 一の事業場、第二の事業場のそれぞれで平均賃金のいろいろな書類を出していただかな いと、第二の事業場だけでやるということはできないと思います。 ○紀陸委員  本来、この論議は通勤災害という形で受け止める方が多いんですよね。第一から第二 の過程で事故が起きるというのは、確率において乏しいですよね。ところが、業務上災 害というと論理の広がりとして話が違ってくると思います。 ○労災補償部長  論点の整理としては、先ほどご紹介したように、第3のほうは業務災害と通勤災害の 両方に絡んでくる形ですので、ここは論点としては違う観点が入ってまいります。 ○紀陸委員  いまのお話のように、この報告書でも問題提起をし、見直しの方向性の論議をし、事 業場間の移動の場合は第二でやれよという話は出ているのですが、業務上の話は後のほ うでいきなり出てくるわけです。だから、この報告書を読んでいる方は、業務災害が後 のほうに出てきて、流れとしては非常に奇異な感じがします。最初から業務上災害の論 議も表に立ててやるべきだということが、フェアーではないかという感じがします。 ○保原部会長  問題が錯綜しておりますが、ちょっと整理をさせていただきます。給付基礎日額の問 題は切り離して、第一の事業場と第二の事業場の間の通勤災害を認めるかということだ けでお話をいただきたいと思います。給付基礎日額は差し当たり切り離すということで 後から議論をしたいと思います。この点はいかがでしょうか。第一の事業場と第二の事 業場の間の移動の災害は、通勤災害と認める。基礎給付日額の問題は別ということで、 もしご意見がまとまれば次回に向けてその作業をしたいと思います。 ○稲葉委員  端的に申し上げれば、基本的な考え方は労働者保護の観点から認めるべきだと思いま す。ただ、先ほど紀陸委員からのご指摘もありましたが、就業規則で禁止しているもの が半数ありまして、残る半数は届出等を出していますので会社は認識している。ただ、 会社が認識していないところをどうするかの問題が残ると思います。そこは何らかの規 定を設けるか、あるいは労働者からそういう申出を予めしておくみたいな担保を付ける かという技術的な問題は残ると思いますが、基本的にはそういう方向です。  もう一つの問題点としては、第二の事業場の概念です。勤務実態がどうなっている か。先ほど、正社員とパートの組合せ、あるいはパートとパートの組合せがありまし て、いろいろと違うと思いますが、この辺の整理をどうするかが次に残っていると思い ます。パートとパートの場合はごく自然に労働者保護の観点から認めればいいのでしょ うが、正社員とパートで賃金が相当違う場合にこれをどう考えるかの問題がないわけで はないので、少し緻密に何らかの目安というか基準を出せる気もします。いずれにして も基本的な流れは、通勤労災を認める方向でいいのではないかと思います。 ○保原部会長  ありがとうございます。大体、そういう線でよろしいですか。それでは、一応そうい う線でこれから整理をします。したがいまして、給付基礎日額の問題についてはまだ決 まっていないというか、結論に至っていません。今日は、そのほかに単身赴任者の問題 がありますので、それについてご意見を伺いたいと思います。従来は、赴任先住居と帰 省先住居の間の直行型の場合に限って通勤災害と認めていたわけですが、これを若干緩 和しよう。前の日や翌日まで認めるべきではないかというのが、あり方研究会の報告の 趣旨です。これについてご議論をいただきたいと思います。基本的に、あり方研究会の 報告の方向で考えていいということでよろしいですか。 ○紀陸委員  いま、二重就職者の場合で稲葉委員からもご指摘がありましたように、会社が制度上 あるいは合意で認めている場合とそうでない場合を全部ゴッチャにして、適用対象を二 重就職と単身赴任に広げていいかというと、そうでもないと思います。確かに保護の重 要性は決して否定するものではありませんが、原則的に拡大は絶対ノーだとは言いませ んが、全然会社が関知しないとか、帰るのであればちゃんと会社も帰る手当を出して日 を決めてという制度をやっているのが普通ですよね。そういう場合と、二重就職の場合 も知らない場合と、ここは「ただし」という形で適用の対象の限定を補足的にやってい ただくことがないと、労使で合意したことが結局そんなものは公的にはどうでもいいこ とになってしまうのが本当にいいかというと釈然としない感じがどうしても残って、そ ういう意味で一種の除外規定等を付けていただけると筋が通る感じがします。 ○保原部会長  この単身赴任者の問題について、紀陸委員のお考えですと具体的にどういう条件を付 けますか。 ○紀陸委員  会社が月に一遍とか、帰任手当を出している場合がありますよね。そういう場合のこ と。それ以外に、個人的に毎週帰るとかがありますよね。そういうのは対象から外して いいのではないか。会社が認知している場合です。二重就職の場合は、そういうのは必 要だと思います。当事者の合意あるいは事業主の認知というか。 ○保原部会長  私から申し上げるのも恐縮ですが、労災保険は公的な保険ですので、企業が認知する かしないかを条件にするのは難しいと思います。 ○紀陸委員  そういう理屈であれば本来こういうのを論議しなくても、当初から制度をそういうふ うに運用されればよかったとすら言いたいです。就業形態が変わってきたからという論 議ではなくて、私的な合意がそもそもこれは保護の間違いですよというのであれば何を か言わんやという話になります。だから、すべてそうだということであれば、そういう ものなのか。これは釈然としない感が残ってもやむを得ないことになってしまいます ね。 ○労災管理課長  ご指摘ですが、単身赴任の場合は、複数就業の場合とは少し状況が違う面もあるので はないかという感じがして、あくまでも単身赴任の定義の問題になってくるのでしょう が、転勤に伴って転居を余儀無くされるのが要件になってくると思います。転勤は業務 命令ですから、そのことに関しては事業主が知らないことはないだろうと思います。そ の中で企業の施策として、さっきの資料の中でも何らかの援助施策をやっている所が多 いというデータがありましたが、援助施策をされるかされないか自体は法律の問題では ないですし、企業のいろいろな状況によって労使の間で決まっていく面があると思いま す。  その中で単身赴任ですから、やむを得ない仕事上の必要と家庭生活の必要ということ で一定の頻度で帰られるというケースですから、それが単身赴任手当の範囲内で帰られ ているか自費で帰るかはご本人の必要に応じてのことですから、そういうところを要件 にしていくのはこの研究会のレポートの趣旨からすると、馴染まないのではないかとい う感じを持ちました。 ○佐藤委員  単身赴任の是非を議論しなければならなくなってくるので、これは提案されていると おり保護の拡大でいいのではないですか。それ以上議論するならば、単身赴任をさせな ければならないような事業場の問題だということになって、そういう議論から始めなけ ればいけないことになります。前にもそれを議論されたと思うから、これでお決めにな ったらいいと思います。 ○金城委員  諸外国の法制なども紹介してありますよね。それを見ても、日本はある程度文明国に なってきたわけですので、働く人たちの人権から考えればこれは当然だと思います。し かも事故ということですから、非常にまれなことで起こるわけですよね。それを予想し ていちいち届出をしておかなければいけないとか、帰るときには帰るのだと言わなけれ ばいけないとか、そんなことはおかしいのではないかと思います。ですから、この点に ついては今日のご提案どおりに認めるのが必要だと思います。  この労災保険制度ができたときは私もよくわからないのですが、いまとはずいぶん状 況が違っていたと思います。みんな1つの職業で、パートはない時代。転勤も、家族同 伴で行く時代に制度ができていると思います。ところが、いまは本当に状況が変わって いるわけですから、今回のご提案はむしろ遅かったぐらいではないかと思います。です から、このご提案どおりに認めていくことに賛成です。 ○保原部会長  通勤災害保護制度を作るときに、通勤途上災害調査会というのが当時、労災保険審議 会の中に設けられまして、私もそのときに初めて委員になりまして立法をするときにも 参加しましたが、そのときはいま金城委員がおっしゃいましたように単身赴任は全く考 えていない。それから諸外国の法制を検討しましたが、諸外国では日本のように頻繁に 単身赴任という制度が活用されている国はないですから、主として大体日本の問題だ と。そのあと年月が経つにつれて、通勤の距離はどこからどこまでを通勤と認めるかで も、静岡あたりまではいいかとかいろいろと考えて、だんだん広がってきたのは確かで す。直行型になったのも、そんなに昔ではない。今度はもう少し、前日まで広げる必要 があるのではないかというのがいまの議論です。 ○稲葉委員  「原則として」とありますが、これはどういう原則をお考えになっているのでしょう か。つまり、適用しない場合もありますよというものをいくつか書くのでしょうか。勤 務当日あるいはその前日とありますが、2日前や3日前はどうなのかとか、そういう問 題については。 ○労災管理課長  前回の部会でもご議論があったかもしれませんが、就業に関しての移動ということに なりますので、考え方としては勤務日から何日も離れた移動が就業に関して移動してい るかどうかの点については、大量処理する通勤災害の認定の場面ではなかなか難しい問 題があるのではないかと考えられます。したがいまして研究会の報告の中では、就業に 関する移動に関してご説明しましたいろいろな交通事情などを勘案して、例えば帰省先 からの復帰ですと前日には戻って翌日に備えて体調を整えるといった方が多い。これは 合理的な行動だろうということを踏まえて考えると、ある面では割切りになるのでしょ うが、前日や翌日といったものを保護の対象にしていくのが、通勤災害の制度としては 適当ではないかという考え方でまとめられていると承知しています。  原則と書いているのは例外との関係でいうと、そうはいっても本人に由来しない事情 の外在的な要因で、ここに「急な天候の変化」と書いてありますが、そういった要素。 あるいは最近でも震災がありましたが、そういうようなケースを想定した場合には原則 どおりの移動が難しいケース、それについては何らかのことを考える必要があるのでは ないかという意味であると理解しています。 ○保原部会長  思い付きですが、「原則として」というのは例えば赴任先と帰省先の間の往復途中 で、たまたま親戚の法事があるのでかなり遠回りするというのは駄目ですよとか、そう いうのも含まれていると思います。原則としては真っすぐに行きなさいと。 ○内藤委員  いまの関連で、真っすぐに帰ることについては異論はないですが、前日または翌日に 限定することに対する原則は、いい例がなかなか思い浮かばないのですが、例えば赴任 先の住居において、職場をあげて何か行事がありますと。それは就労日の前日ですと。 したがって、その前日の前日に移動しないと、そういった集会やイベントに出られませ んと。したがって、就労日の前々日に移動しましたと。この部分については、原則の中 に入るのか入らないのか。とにかく前日でなければならないのか。もし、そうであると するならば赴任先住居における生活ということも考えると、家庭生活や住居内の生活だ けではなくて職場も含めて全体を生活と考えると、そういうことに参加ができないケー スもあるわけです。レアなケースかもしれませんが、そういう部分もこの原則の中で救 えるのでしょうか。そういう意味の原則でしょうか。 ○保原部会長  私が答えていいのかがわかりませんが、職場で催し物をする場合は業務かという問題 がありまして、現行法の解釈では雇い主の指揮命令の下にあって、しかもその日につい て賃金が支払われているのが原則です。賃金が支払われていない日曜日に会社の運動会 をやる場合は、業務に入ってこないことになりますから、いまの解釈をそのまま適用す れば内藤委員がおっしゃったような場合は、単身赴任者の通勤と認められないことも出 てくると思います。 ○高松委員  いまの原則ですが、短期間の帰郷の場合はほぼこれで問題ないと思いますが、長期の 場合の特に日本の独特の習慣というか、盆暮れで、交通の集中化の緩和も含めて若干ず れる場合が想定されるのではないかと思います。当然それは直行直帰は当たり前のこと だと思うし、先ほどの平成7年の通達にあるとおり反復・継続性がありながら、片道は その対象になるけれども片道は対象にならないという、これもまた少し腑に落ちないよ うなケースもあり得ると思いますが、その辺はどうでしょうか。 ○保原部会長  例えば、盆暮れでこれからはみ出すというのは、どういう場合が考えられますか。 ○高松委員  結局前日、翌日が対象ですよね。 ○保原部会長  前日に帰ると込むから、前々日に移動して。 ○高松委員  結局集中化の緩和を含めて、前々日になる場合もあると思いますが、その辺も原則の 部分に当てはまってくるのかどうかです。 ○保原部会長  帰省先からですと、少なくともこの案では前の日に帰らないといけない。けれども前 の日は込むから、その2日前という場合はどうするのだということですね。特別な交通 事情をどの程度見るかですね。 ○労災管理課長  予め制度設計をこれから詰めていく段階で、いまの時点でいろいろなケースを想定し て、どうこうと申し上げるのは適当ではないのかもしれませんが、根っこにあるのは通 勤災害保護制度というのは、発足当初から労働に伴う不可欠な危険である通勤というも のを保護していくときに、業務上ではないけれども労務提供に伴う危険として保護する 必要があることから、一定の範囲を限定してやっていく。一定の範囲を限定するのは、 かなり働く方々も個人としていろいろな生活領域を持っておられるので、本来難しいも のを限定するという考え方でやっていくときに、住居と就業に関してと限定してきた。 ですから、いろいろなケースを想定して広げていくと、どんどん通勤災害の認定が難し くなっていく面が出てきますので、基本的には就業に関してということで限定的に見て いるという制度の考え方、枠組は維持しながら、制度を引き続き運用をしていく必要が あるだろうと考えられると思います。 ○内藤委員  ただ、赴任先住居と帰省先住居あるいは事業場と帰省先住居も含めて、この移動が発 生する原因は単身赴任ということになるわけですよね。そして単身赴任ということを前 提に、生活を組み立てている労働者がいるわけです。確かに就業との密接な関係でいえ ば、時系列的に前日あるいは翌日を設けるのは全く不合理だとは思いませんが、1日前 だろうと2日前だろうと3日前だろうと、移動そのものは次の労務を提供するために移 動していることは間違いないわけです。その移動したあとに何をするから駄目だ。寝れ ばいいけれども別のことをしては駄目だとか、そういうことまで制限をしないとほぼで きない、ということではないような気もします。その辺はこれを見ると「原則として」 と書いてあるので、合理的な理由があるのであればいま言った帰省の交通集中により切 符が取れなかったということも含めて、合理的な理由があるのであればそれは移動とし て認める、通勤必要な移動として認めるという意味で「原則として」と書いてあるのか なと理解をしたので、あえて質問をさせていただきました。実際に適用する場合は、そ の辺は労働者保護の観点で少し緩和されたほうがいいような感じがします。 ○保原部会長  そのほか、ご意見はありますか。いままでのご意見を伺っていますと、単身赴任者に ついては、基本的にあり方研究会の報告のとおりで考えよう。ただ、若干の微調整を必 要とするかもしれないということだと思いますが、そういうまとめでよろしいですか。                  (異議なし) ○保原部会長  それでは、そういう方向で事務局で整理をしたいと思います。  いちばん大きな問題は、今日に結論を出すところまではいかないかもしれませんが、 複数就業者の給付基礎日額について、まだ少し時間がありますので、ご議論をお願いし ます。 ○中桐氏(須賀委員代理)  現在の制度でも、毎日働く場所が違うような日雇いの労働者でも、月単位の就労日数 なり賃金なりを合算して平均賃金を算定しているわけです。そういった意味で、労災に 遭った労働者が安心して治療に専念して早く職場復帰できるようにというのがこの制度 の趣旨ですので、安心して生活できるだけのいままで自分が得ていた賃金並みを確保す ることができませんので、そういう考え方に立てば、今回の二重就労の方々についても そういう措置を取るのは妥当なことではないか。現在でもあるような形の処理ではない かと思いますので、提案されているような内容でやっていただければありがたいと思い ます。 ○保原部会長  そのほか、ご意見を承りたいと思います。先ほど、紀陸委員からはこういう考え方に は難色があるというお話を伺いましたが、そのほかの委員はいかがでしょうか。 ○稲葉委員  私も、基本的には給付基礎日額については賛成です。ただ、業務災害がここに突然出 てくるのは確かに紀陸委員が言われるとおりで、これは別途に立てて議論をする問題で はないかというご主張はそれなりにわかりますし、業務災害まで両方の会社が持たなけ ればいけないかという議論については、少し時間を持って議論したほうがいいのではな いかという気がします。通勤災害については、それでいいと思います。 ○保原部会長  通勤災害だと合算になって、業務災害ではならないというのは、まだアンバランスで すね。 ○稲葉委員  確かにアンバランスです。ただ、問題は二重就職の形態が両方とも正社員・正社員 で、それぞれに相当の金額の賃金をもらっている場合はどうするかとか、いまの説明で もありましたが正社員とパートの組合せやパートとパートの組合せとか、いろいろと形 態がありますよね。例が少ないかもしれませんが、そこは両方の会社で合わせて2,000 万円ぐらいもらっている人が合算して払ってもいいかどうかという話にもなるでしょう から、ここは通勤災害ともう少し別のところで議論したほうがいいのではないかという 気がします。 ○保原部会長  念のために恐縮ですが、労災保険の給付基礎日額計算には上限がありまして下限もあ ります。 ○稲葉委員  ということは、1つの会社で上限にいっている人については、この問題は適用されな いことになりますか。 ○保原部会長  はい。普通の企業でフルタイムで働いている人ですと、それよりプラスアルファーと いうのはあまりないのではないか。年齢とか何かにもよりますが。 ○稲葉委員  ただし年齢が若い方で、400万とか300万とか、そういうケースはありますよね。 ○久保委員  通勤災害ということでいえば、確かにこういう整理も1つの整理かなと思いますが、 結果的に紀陸委員と同じですが、これまでの議論の中で業務災害というのがあまり言わ れていなかった中で、こういうのが出されてきていることについての違和感は同じで す。そのときに、もし通勤災害の問題がなかったら、業務災害の二重の問題というのは 問題提起されていたのでしょうか。通勤災害の整合性から業務災害も第一事業、第二次 事業を合算しなくてはいけないのでしょうか。 ○保原部会長  私の記憶では、通勤災害の問題が出てきたからだと思います。 ○久保委員  通常の業務災害ですと、頻度からいってもメインの第一の事業場で起こるケースが通 勤災害より、はるかに多いわけですよね。そうすると、ここで急にそこを通勤災害の延 長で当然一緒であるべきだという議論については、その面だけではわかりますが、本当 にそういう整理でいいのか。もうちょっと詰めるべきところがないのかなという感じが します。現実に我々の会社もそうですが、兼業は認めていないわけですよね。兼業を認 めていない中で、例えば我々の事業場で災害があった。よく調べてみたら兼業があっ た。そこですぐに合算なのかについては、非常に問題があるというか違和感が当然あり ます。 ○保原部会長  そのほか、ご意見はいかがでしょうか。特にありませんか。 ○内藤委員  1つだけ単純な質問です。こういう質問の仕方が許されるかどうかはわかりません が、使用者側の方々で兼業禁止の話が出ていますが、兼業禁止をしていなかったら合算 で払うことについては異論はないという認識ですか。それがちょっとよくわからないの です。 ○久保委員  いろいろなパターンがあります。禁止をしている。結果的にそれに反した場合は、会 社で届出をしていない場合は懲戒しますという規定になっているわけです。ですから、 ある意味では結果として、会社側の知らないところで第二事業場があって兼業していた ことについては、そこで合算というのは理屈が合わない感じがします。会社が認めてい た、承知していたのであれば合算でもいいだろうと思います。 ○保原部会長  そうすると、ケース・バイ・ケースになってくると。 ○久保委員  それは違う問題ではないかという気がします。保険が払われるという問題と、結果的 に保険を払ったことによって兼業が明らかになったと。それに対して会社とその労働者 がどうするかという問題とはちょっと違う感じがします。 ○保原部会長  わかりました。今日は、3つの点についてご議論をいただきました。1つ目の二重就 職者の通勤災害について、第一の事業場と第二の事業場との間の災害を通勤災害と認め るかは、その方向で考えていいというご回答をいただいたと思います。2つ目の単身赴 任者の場合について、赴任先住居と帰省先住居との間の災害も直行型でない場合でも、 前日あるいは翌日について通勤災害の範囲を拡大するという方向で考えていいというお 話をいただきました。3つ目の二重就職者の給付基礎日額の算定については、いろいろ とご議論があった。まだ、なかなか結論に行くにはちょっと遠い感じがありますので、 引き続き私と事務局で論点を整理したいと思います。そういうまとめで大体よろしいで しょうか。 ○佐藤委員  給付基礎日額の3頁に書いてある賃金の高い本業と賃金の低い副業と、いま論議して いる概念は大方においてそういうものを想定していると思います。正規労働者であれば 通常8時間労働をするわけであって、そのために通勤の時間も必要だし、いま移動する 問題については入りましたが、スーパーマンでない限り1日に10何時間も働けるわけな いですから、それはそれなりに妥当なものとしてちゃんと出されていると思います。だ から合算するというのも、そんなに異論のある問題ではないと思います。 ○保原部会長  佐藤委員はそうだと思いますが、そうでないというご意見もあるわけですから。 ○佐藤委員  会社は、個人をそんなに縛ることはできないです。 ○久保委員  別の観点からいきますと、ある意味では労働行政において長時間労働等については、 いろいろなご指導をいただこうとしているわけです。会社が関知していないところでプ ラスアルファの作業をしている。そのことが健康被害や健康問題についてあった場合に は、メインとなる第一の事業場の責任がいま非常に問われつつあるわけです。あるいは 管理体制の強化ということがありますので、結果として会社が関知しないところでそう いう副業をなされたことについては、相当問題視せざるを得ないわけです。そういう点 もありますので、知らないところで合算なんていう話が、そこだけ捉えればそうなので しょうが、もう少し議論させていただきたいという思いです。 ○保原部会長  確かに、2つの労働事業場の労働時間は通算して法律上は8時間になっていますか ら、おっしゃるとおりです。これについてはいろいろとご議論があると思いますので、 こちらで論点を整理して次回にまたご議論をお願いしたいと思います。それでは、事務 局からお願いします。 ○労災管理課長  次回の日程は、12月1日の午後4時から6時を予定しています。17階の専用第21会議 室で開きますので、どうぞよろしくお願いします。 ○保原部会長  どうもありがとうございました。                照会先:労働基準局労災補償部労災管理課企画調整係                    電話03-5253-1111(内線5436)