04/11/16「第8回医療安全検討会議事例検討作業部会」議事録               第8回 事例検討作業部会                       日時 平成16年11月16日(火)                          13:30〜                       場所 厚生労働省専用第15会議室 ○橋本部会長  定刻になりましたので、ただいまから第8回の「事例検討作業部会」を開催いたしま す。委員の皆様におかれましては、お忙しい中をご出席いただきましてありがとうござ います。本日はフルメンバーでして17人、全員の出席です。本日の議事の関係により参 考人としまして、北海道大学医学部予防医学老年保健医学分野の小橋先生に出席いただ いております。後でお話をいただきますのでどうぞよろしくお願いします。  事務局の人事異動がございまして、構成に変更があるということです。ご紹介をいた だきたいと思います。 ○総務課長  7月の人事異動によりまして事務局に一部変更がありましたので、変更のあったメン バーのみを紹介いたします。医政局総務課医療安全推進室長の北島です。医薬食品局安 全対策課安全使用推進室長の森口です。私、医政局総務課長の原です。どうぞよろしく お願いいたします。  議事に入ります前に一言ご挨拶を申し上げたいと存じます。本日はご多忙の中ご参集 いただきまして誠にありがとうございます。委員の皆様には日ごろより医療安全対策の 推進にご理解とご協力を賜りまして、深く感謝を申し上げる次第でございます。  医療安全の推進は、医療政策の最優先課題であり、厚生労働省におきましては平成 14年4月にとりまとめられた「医療安全推進総合対策」及び、昨年12月に出されまし た「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」等を踏まえまして、各般の施策に取り組 んでいるところでございます。  本部会においてご議論いただいておりますヒヤリ・ハット事例については、平成13年 10月から収集事業を開始してまいりましたが、本年4月より対象機関を全医療機関に拡 大し、今般、約1,300の医療機関の参加を得ることとなりました。さらにこの10月から は事故等事案の報告事業を開始したところです。これらの事例の解析、評価を実施し、 その結果を広く情報提供をすることによりまして、医療事故の再発防止と発生予防対策 の一層の強化を図ることとしています。また、平成17年度の概算要求では、「診療行為 に関連した死亡の調査分析に係るモデル事業」や、「周産期医療施設のオープン病院化 モデル事業」など、医療安全にかかる新たな施策を進めていくための経費を要求してい るところです。  本日は医療安全対策ネットワーク整備事業・第11回の集計結果等が議題となっており ます。委員の皆様におかれましては、それぞれのご専門のお立場から忌憚のないご意見 やご助言をお願い申し上げますとともに、今後とも医療安全対策の推進に向けまして格 別のご配慮を賜りますようお願いを申し上げる次第であります。 ○橋本部会長  それでは、議事に入らせていただきます。まず、資料の確認をお願いします。 ○永田専門官  資料の確認をさせていただきます。お手元に議事次第、座席表、出席者名簿がそれぞ れ1枚紙です。それ以降、資料1として第11回の集計結果、資料2として平成14年の全 般コード化情報の集計結果、別冊1、2として、別冊1が第11回、2つに分かれていて コード化情報と記述情報の集計結果です。別冊2、平成14年の全般コード化情報のデー タ編。参考資料1として、医療安全対策検討会議、本部会の開催要綱。参考資料の2と して平成16年度の「医療安全推進週間」の実施要綱を付けています。最後にカラー刷り の安全な医療を提供するための10の要点が付いています。  参考資料の2を簡単に説明させていただきます。医療安全推進週間は、毎年11月25日 を含む1週間ということで、本年度は11月の21日から27日の1週間に該当いたします。 目的にありますように、医療の安全対策に関し、医療関係者の意識向上、医療機関等に おける組織的取組の促進、医療関係団体における取組の促進等を図るとともに、国民の 理解と認識を深めることを目的としています。主催は厚生労働省で、多くの後援をいた だいております。  次頁、本年度の事業予定です。1、医療安全に関するワークショップ、これは特定機 能病院対象です。11月25日(木)千代田区の一ツ橋ホールで、特定機能病院の管理者及 び安全管理担当者向けにあります。3、医療安全に関する研究発表会ということで、同 日午後から一ツ橋ホールで、一般の医療従事者あるいは国民の方々を対象とした、医療 安全に関する研究発表会が催される予定です。また、各地区、地域においては、一般病 院向けの医療安全に関するワークショップということで、厚生労働省の地方厚生局ブロ ックごとにワークショップを開催していただく予定となっています。日時については10 月〜12月の間に、それぞれ各厚生局ごとで、受講者の募集等については各都道府県あて 別途通知がされています。参考資料2の説明は以上です。 ○橋本部会長  議事次第にしたがって進めたいと思います。議事の1番目、医療安全対策ネットワー ク整備事業の第11回の集計結果についてです。全般コード化情報、記述情報の集計と 分析、それらについて事務局から報告をしていただきます。記述情報は、今回はチュー ブ・カテーテル事例に焦点を当てて分析をしていただいています。小橋先生にはその時 にお話をいただけるということです。よろしくお願いいたします。第11回の集計結果 の全体概要と全般コード化情報の分析についてお願いします。 ○永田専門官  資料1(ヒヤリ・ハット事例収集等事業)、第11回の集計結果になります。1頁目 集計結果の概要です。平成16年1月1日から3月31日までの3ヶ月間が、報告対象期 間、全般コード化の集収対象期間になっています。記述情報に関しては当該ヒヤリ・ハ ット事例が発生した時期にかかわらず報告可能となっています。報告期間は2月25日 から5月24日までに報告をいただきまして、その後、集計・分析、本日の報告という ことになります。  参加登録施設及び報告施設数は、登録施設が249施設、報告施設数が84となっていま す。報告数は下に掲げるごとくですが、全般コード化情報が1万3,390事例、記述情報 が1,914事例(うち医薬品・医療用具・諸物品等情報が31事例)となっています。  第11回の全般コード化情報の分析について報告いたします。2頁以降になります。全 般コード化情報の収集状況ですが、登録施設数あるいは報告施設数は同じです。コード 化情報の事例数が1万3,390件ということで、前回の1万3,443件より若干少なくなって います。分析については毎回、同じような形での方針で分析をしています。  4頁、11回目の分析結果です。総論的に申しますと、第11回も10回と基本的には同じ ような傾向でした。発生時間帯で申しますと、似たような日内変動を示していました。 また、患者の性別、これも前回からずっと指摘されているところですが、男性患者が女 性患者よりも多く、11回では約1.3倍となっています。患者年齢も中高齢者及び小児が 若干多い形になっています。職種経験年数、部署配属年数を見ると、ともに年数0年に よるヒヤリ・ハット事例が最も多いということで、新人職員及び部署異動後の教育・指 導体制の充実が求められているという指摘になっています。  5頁、処方・与薬等それぞれの多い分野を5つほど掲げています。処方・与薬に関し ては、○の3つ目、発見者、図の2−8になりますが、従来同様、当事者本人による発 見よりも、同職種者が発見するケースが多く、全事例では当事者本人が多かったことか ら、処方・与薬のひとつの特徴になっています。影響度ですが、間違いが実施された事 例が86%ということで、未然に防止しにくい分野です。  3)ドレーン・チューブの使用管理。患者の性別が全体では1.3倍ということですが、 ドレーン・チューブ類では、男性のほうが約1.7倍になっています。  6頁、影響度、間違いになりますが、間違い実施が85%で、実際に起こってしまって いるという例も多いということになっています。  4)医療機器の使用・管理です。火曜日、金曜日の発生頻度がなぜか多いということ が指摘されています。患者の性別でも男性が54%、女性が35%と、男性のほうが多いと いう指摘です。  7頁、輸血に関してです。輸血に関しては週日中の曜日による発生頻度の差はあまり 見られない状況です。今回、輸血に関しては男女差はほとんど見られていませんでし た。  6)療養上の世話等。こちらも患者性別では、男性のほうがやや多く発生していま す。 ○の3つ目になりますが、発生要因・詳細ということで、発生要因として「患者・家族 への説明」を報告する事例が799例あって、十分な説明と患者の理解促進が、療養上の 世話の点では期待されているといった指摘がありました。  この後は記述情報の話になります。別冊1の分厚いデータ編の58頁までが、いま報告 させていただいた実際のグラフ・データ等になります。コード化情報については以上で す。 ○橋本部会長  記述情報のうちの医薬品、医療用具、諸物品等の情報の分析について、説明をお願い します。 ○後藤専門官  医薬品・医療用具・諸物品関連情報収集結果について報告します。資料1の26頁、第 11回の集計では、総分析事例数31件のうち、医薬品事例数17、医療用具事例数14、諸物 品事例数0です。報告された事例のうちいくつかを説明いたします。  別冊1の314頁、事例の5です。事例の5番、名称類似の事例です。プロスタール錠 を調剤するところ、間違ってプロタノールS錠を調剤した事例です。このプロスタール とプロタノールは、以前から名称類似薬剤ということで、注意を要するものとして言わ れているものです。このケースを含めて、名称の類似している薬剤に関しては、必要に 応じて後発品の採用などの対策を構じることが望ましいと思われます。  事例8は勘違いの事例です。これは返却されたカイトリル注を間違ってサクシゾンの 場所に戻したために、サクシゾンを払い出しの際に、サクシゾンの溶解液として間違っ てカイトリルをつけてしまった事例です。改善手段としては、注射剤の払い出しの際の 確認は必須として、そのほかに調剤中に返却処理を行わないとか、もしくは返却を処理 する人を調剤者とは別にするなど、返却に関するルールを各病院内で確立していく必要 があると考えています。  事例の16は規格違いの事例です。ベイスン錠0.2mgを調剤するところ、0.3mg調剤した 事例です。なお、糖尿病薬に関しては、患者への病名確認や薬歴の確認などの特別な過 誤防止対策が必要と考えます。なお、これについては、本年の6月2日付の医政局長及 び、医薬食品局長の連名通知により、周知徹底を図ったところです。  事例17です、その他となっている事例で、麻薬であるオキシコンチン錠の準備中に一 時、業務が中断されたことにより、与薬忘れの事例です。麻薬に関しては準備から与 薬、記録の記載までの手順の徹底とともに、与薬に関しては患者が確実に服用したこと の確認と、各勤務時間帯での残数チェックが重要であると思われます。  医療用具の説明をします。318頁、事例1です。人工呼吸器の気道内圧チューブと温 度プローブの差し込み部位の誤接続事例です。本来、気道内圧チューブと温度プローブ の差し込み部位は径が異なっていて、接続できない構造になっています。当該機器に関 しても企業による接続試験が行われて、2mmほどの差があるので誤接続状態での固定が 不可能という結果が出ています。しかしながら、報告のとおり接続が可能だったとする ならば、気道内圧チューブが本来の製品ではなく、他の機種用のものを転用した疑いが あると考えています。  320頁、事例5です。こちらは機械が誤作動した事例です。この事例は医療機器不具 合・感染症症例報告書にて報告されている事例です。早送りスイッチに触れて、ONの 信号が表示制御部のCPUが認識した後に、静電気によってリセットがかかり、そのリ セット中に早送りスイッチを放したために、表示制御部のCPUがOFFの信号を認識 できなかった。そのため、再起動後に薬液が最初から早送りで注入されてしまった事例 です。なお、本事例に限らず、電子機器を使用している医療機器は、静電気によって機 器の設定がリセットされてしまう可能性がどうしても避けられないことです。こういう 機器の接触後の動作確認、監視が必要になってくると思います。また、静電気の発生や 停電時等により、突然機器が停止しても、患者に致命的な健康被害を及ぼすことのない ように、フェイルセーフシステムを取り入れた機器を選択し、使用することが推奨され ると考えています。  322頁、事例8です。こちらは配置が悪かった事例で、医療機器安全性情報報告書に て報告されている事例です。人工呼吸器の加湿器チェンバーにひびが入って、そのひび から液漏れを起こした事例です。なお、企業による調査の結果、ひび割れの入ったチェ ンバーすべての外壁表面に白点状の汚れがあること、その汚れがキシロカインスプレー によるものであることが確認されています。なお、キシロカインにはプラスチックに対 する悪影響、腐蝕性が確認されて記載されています。今後こういう加湿器チェンバーの 付近でキシロカインを含むほかの薬液等を付着させないよう、注意する必要があると考 えています。  323頁、事例10です。この事例は、三方活栓の中に脳圧センサーを通していたが、伝 達が不十分であったために、三方活栓を閉めようとしてしまった事例です。モニタリン グ・カテーテル製品には、三方活栓の中をセンサーが通っている構造のものはなく、ま た、三方活栓の中に通して使用するものはないと考えています。これは使い方及び情報 伝達の不徹底が原因と考えています。以上、代表的なものを説明しましたが、必要な対 策については、今後とりたいと思っています。 ○橋本部会長  なかなか面白い事例というか、興味深い事例があります。続きまして第11回の「記述 情報の分析」について説明をお願いします。 ○来生専門官  資料1の14頁です、全体については事務局から報告いたします。「記述情報の収集の 概要についてです。1)は先ほど説明したとおりです。3)収集件数ですが、総収集件 数は1,914件でしたが、空白や重複等があった事例が328件と、今回は少し多かったため に、有効件数は1,586件となりました。分析の概要については、前回同様、今年度から テーマを7つに分けて、その1つのテーマについて集中的に分析を行っています。今回 はチューブ・カテーテル類の事例に焦点を当てました。  15頁、事例の選択方法及び分析の方法、事例選定の考え方等は前回と同様になりま す。また、キーワードについて16頁に記載しています。17頁、分析結果及び考察です が、全体の概要としては、前回に比べて報告件数は23件ほどの増加でしたが、削除事例 が増加したために有効事例としては293例の減少となりました。報告の記述については 情報量・内容量ともに充実した事例が増加しており、報告についての組織的な定着・浸 透がうかがえます。  発生件数については下の表のとおりですが、今回は与薬のうち、(点滴・注射・輸血 )に関する事例が335例、21.1%と最も多く、それについで4つ目の今回のテーマであ るチューブ・カテーテル類に関する事例が288例、18.2%とついでいます。それについ で与薬の(内服・外用・麻薬)277例、17.5%です。その次が転倒・転落、抑制に関す る事例で241例、15.2%と上位を占める内容は前回同様になっています。  上記の分類のほか、「その他」の中には処置に関連した事例や、外傷を起こした事 例、離院・離棟、安静度が守れない事例や、職員の対応に関した事例などが含まれてい ました。別冊1の135頁から312頁までが、1,586事例の全事例のリストになっています。 事務局からは以上です。 ○橋本部会長  「記述情報の分析」の概要を報告していただきましたが、今回のテーマとして、チュ ーブ・カテーテル事例の分析結果について、詳しくお話をいただきます。テーマ別の検 討を前回から進めていますので、今回もそのようにしたいと思います。北海道大学の小 橋先生にご報告をお願いします。 ○小橋参考人  チューブカテーテル類の分析について報告させていただきます。資料1の17頁、18頁 の辺りからになるのですが、全体の概要については、17頁に書いてあります。チューブ の事例が中ほどの表にありますが、288例で、18.2%を占めていることになっています。 事例の分析を288例のうち19例を選択して、その19例の事例についてグループの先生方 に分担をして詳しいコメントを付けていただきました。それについては別冊の1の60頁 以降に事例番号順に並べてあります。  実際にこの事例のコメントですが、ヒヤリ・ハットの具体的内容とか、発生要因と か、改善策ということで、報告が上がってきているのですが、その情報自体があまり多 いものではなかったものですから、メンバーの先生方もご苦労をしていただきながら、 一生懸命コメントを書いてくださいました。一応、全体の総括ということで、18頁から 多少まとめを書かせていただきました、これに従ってまとめを報告させていただきま す。  18頁、チューブ・カテーテル類(以下チューブ類という)、中心静脈カテーテルやス ワンガンツカテーテル等の循環動態をモニターするためのものであるとか、あるいは気 管内挿管チューブであるとか、気管カニューレなどの気道確保をし、呼吸を補助するた めのもの、胸腹腔ドレーンや脳室ドレナージチューブ、腸管減圧のためのカテーテル や、膀胱留置カテーテルなどの浸出液や老廃物などを排出するためのもの、栄養及び水 分などを注入するために消化管内に留置するためのもの等、その目的によってさまざま で、チューブ・カテーテルといってもたくさんあります。  今回報告された記述情報におけるヒヤリ・ハットの傾向は、従来報告されているチュ ーブ類に関するエラー及びヒヤリ・ハットの実態とほぼ同様ということでした。記述情 報として報告された事例の中でも、与薬関連、転倒・転落関連に次いで(17頁中ほどの 表)チューブ類のヒヤリ・ハットが多い状況にありました。エラーの発生状況について は、チューブ類の抜去、接続部分のはずれ、閉塞の順で多く、チューブの種類別では、 中心静脈カテーテルがもっとも多く、以下ドレーン類・気管内チューブ・気管カニュー レ、膀胱留置カテーテル、胃チューブの順でした。検討班では、今回報告された288例 のチューブの中から、19例を抽出してコメントを付すことにいたしました。  今回、分析する視点、あるいは19例選択していく視点ということで、いくつかまとめ たのですが、それに従って話させていただきます。  1)チューブ類に関する業務プロセスのアルゴリズムから見た分類で、医療現場で使 用されるチューブ類には、さまざまなものがあります。しかし、それらのチューブ類の 挿入目的は、“必要なものを体内に取り入れて、不要なものを排出する”ということに なります。従って、この目的達成のために適切にチューブ類の管理を行って、エラーの 発生を防ぐことが必要です。  この“取り入れる”又は“排出する”目標を達成するためのチューブ類の管理業務の プロセスのアルゴリズムを25頁、図1のように作りました。このような形でアルゴリズ ムということになってくるかと思います。  その図はどのような形になっているかといいますと、その下に書いているようにチュ ーブ類の管理業務のプロセスは、(1)医師の的確な指示がありまして、(2)その後 の患者の現在の状態把握があります。それから、(3)その現状に合わせた行動計画の 立案と修正、(4)そして実際の行動の確認を行いまして、(5)行動を実施、(6) 実施した結果がきちんと行われているかを確認するという6段階に分かれます。この各 段階で目標達成に向けて、適切に管理されているかどうかをしていくことが、エラーを 防ぐことで考えています。ヒヤリ・ハットを予防するためには、それぞれの段階におい て行われる業務を的確に実施し、さらにそれを確認することが重要です。また、目標達 成に向けて適切に管理されていないと判断される場合は、前段階に戻るということで、 このようなアルゴリズムに戻って確認する、あるいは修正をしなければいけない。看護 師の立場では場合によっては医師との協議によって、チューブ類の挿入の判断そのもの を検討することも必要だろうと考えます。  2)事例の発生に関与した職種です。チューブ類の管理のプロセスの各段階におい て、事例の発生に関与したと考えられる職種は、主に看護師と医師になります。看護師 のみが関わった事例の場合でも、当事者である看護師個人の問題だけでなく、看護師間 の業務分担やルールの不明確さ、あるいはお互いのコミュニケーションの不適切さによ るものが、その背景要因として見られました。また、看護師と医師が関わった事例で は、医師と看護師、あるいはその他の職種間のコミュニケーションということもありま すが、コミュニケーションが不十分、あるいは、もともとのルールが不備であったこと によって、エラーが発生したと考えられる事例も見られました。  これは時間の関係で詳しくは申しませんが、事例番号214、234に見られます。別冊1 でいいますと、60頁に事例番号の後にタイトルのようなものを付けているので、大まか なところを見ていただければよろしいかと思います。例えば、214のせん妄による胃管 の自己抜去だとか、234の抑制不足による自己抜去のような事例の辺りに、コミュニケ ーションエラーが含まれたりしていました。エラー発生の要因としては、担当者個人の 問題というよりも、病院の設備やマンパワーの不足、あるいは機器が緩みやすいとか、 コネクターが間違いやすいという問題がある事例も見られました。  事例の137、84頁(新生児の酸素吸入のチューブを吸引側に誤接続した)という事例 もありますが、報告された情報からだけ見ますと、どこの機器がどうだということがわ からなかったのですが、このようなことが起こることもあります。それに対して、忙し いから間違えたとかいろいろなことを書いていますが、応援を要請するとか、当たりま えの確認をすることが必要だろう、というコメントが書いてあります。  本文に戻りますが、特に産科及び新生児の領域においては、帝王切開であるとか、切 迫早産などの緊急入院とか、緊急の事態が発生する可能性が昼夜を問わず存在している ことから、マンパワーがどの程度必要かということが予測困難で、不足する事態が起こ り得ます。そういう意味では、ヒヤリ・ハット発生のリスクが高いだろうと考えられま した。いまの事例で、新生児に酸素を補給しようとして、チューブを吸引側に接続した 事例が発生しています。  このようにリスクの高い現場で使用する機器については、酸素と吸引の接続部の形状 を変えて、接続できないようにすることが原則です。ただ、機器の買い替えというか、 もともと導入しているものが接続可能な状況になっているということ、買い替えがすぐ にできないということであれば、色を変えるとか、タグを付けるとか、そのような対処 をする、二重三重の防護策が必要になると思います。  そのほか、業務開始前に機器の点検を業務に組み込むとか、使用直前にチューブの先 端に手を当てて酸素が出ていることを確認するなど、当たり前といえば当たり前なので すが、「確実な実施手順」の明確化と、そういう「手順を遵守する」ことをきちんとや らなければいけないだろうということが考えられます。  3)侵襲が起きた報告件数の問題です。気管内挿管のチューブのエラーは、チューブ 類に関する事例の中でも、直接患者の生命に関わる可能性が高いということがありま す。胸腹腔ドレーンや消化管減圧チューブなども、抜去された場合の侵襲が大きいとい うことがあります。このような事例でエラーが発生した場合は、迅速で適切な対応が求 められることになります。また、これらの事例は事故として取り扱われることが多い。 実際にヒヤリ・ハットのレベルでは済まないということです。そのようなことで、ここ にヒヤリ・ハットの記述情報として報告される事例は、実際に起こっているものより も、もしかすると少ない。ヒヤリ・ハットの段階で止まっていないものもあるかもしれ ないと考えます。  今回の事例の中ではわずかではありますが、小児科の領域で報告された事例もありま す。現場においてもアクシデントの事例として、深刻なものが存在する可能性があり、 頻度的に少ない事例であっても、十分検討をして重大な結果に至らないように、情報を 共有することが重要であろうと考えました。  これは今回の事例の中には入っていなかったのですが、胃チューブが気管に誤挿入さ れているにもかかわらず、確認せずに栄養剤を注入してしまう場合や、あるいは経管栄 養物を静脈ラインに誤って注入してしまったような、事故事例としてマスコミに報道さ れる事例もあるのですが、これらも、今回の「ヒヤリ・ハット」の中には、ヒヤリ・ハ ットでおさまっていないので報告されてはいません。  疾患別で申しますと、頭頚部外科の手術、特に頚部、口、顎とかの辺りの手術後に留 置されたチューブなどが自己抜去された場合は、周辺の組織に与える侵襲が大きいとい うことで、特別な注意が必要だろうという意見も出ていました。  一方 意識レベルの低下やせん妄のあるケースでの自己抜去例も非常に多くて、これ らの中には抑制していたにもかかわらず自己抜去されてしまった事例、91番のような事 例もあります。報告された事例の中には抑制の方法や実施基準が、きちんと決まってい なかったのではないかと推察されるような事例もありました。  急性期の患者で生命の危機にかかわるチューブ類を挿入している場合、抑制が必要に なる場合が当然あり得ます。その場合、患者や家族へのインフォームドコンセントにつ いての基準や、抑制の実施基準及び抑制した場合の管理基準の設定が必要と考えられま す。この基準に従って適切に管理することにより、自己抜去による事故と抑制による事 故の防止に努める必要があります。今後は特に急性期の病院において、適切なチューブ 類の管理に関する基準や手順の作成が必要と考えられます。  4)事前の予測可能性についてです。チューブ管理上のトラブルが起こる可能性を予 測できたにもかかわらず、気付かないままに自己抜去されてしまった事例や、気づいて いながら適切な対応を行わなかったために、自己抜去に至ってしまったものなど、予測 していながらトラブルが起きている事例も多く見られました。  例えば患者が睡眠中であったので緩んでいた抑制帯をそのまま放置した事例です。事 例番号102ですが、まさにタイトルに眠っているのでかわいそうと抑制の緩みを放置し て自己抜去してしまった事例と書いていますが、そのような事例です。この報告事例の 中にはないのですが、モニターのアラーム音量を、おそらく他患者の迷惑になるという ことだろうと思いますが、多少下げていたことによって、患者の状態変化に気がつくの が遅れたという事例もありました。当該患者や周辺の患者への気遣いの結果であると考 えられますが、チューブ類挿入の目的を理解し、事前に事故によって生じる最悪の結果 を予測すれば、このような安易な対処は行われなかったであろうと考えます。  特に後者は非常に危険な事例で、離床センサーをPHSと連動させるアラームシステ ムを導入している場合などは、音量を下げないことは原則とする必要があると思いま す。本来の目的は、これによって危険な状態をすぐに察知することなので、もし、どう しても音量を下げるとかいうことが必要な場合は、これに応じた他の対策をきちんとと っておく必要があると考えます。  一方、全く予測しないままトラブルを生じている事例もあります。多くは夜間や勤務 の交替時間におけるトラブルなどが多いのですが、人的要因が背後にあると考えられま す。また、予測された事例でも、人的要因があるにもかかわらず、改善策のところに“ 頻回に病室を訪問する”とか、“十分な観察を行う”のような、実現不可能な現実性の ないというか、いかにも決まり文句のような文言で、予測どおり抜去されてしまった、 ヒヤリ・ハットが起こるという事例も見られていました。これは事例116になります。  別冊1の80頁、人工呼吸器のアラームが鳴っているので、看護師が駆けつけると、カ ニューレとフレックスチューブが外れ、患者がチアノーゼを呈し、ぐったりとしている のを発見したなどという、非常に危ないヒヤリ・ハット症例でした。そういう状況が起 こっていまして、それにしても「考えられる改善策」の所に、「対策を行う」とか、 「ルールを守る」のような、漠然とした書き方しかしていないということがあります。 このようにヒヤリ・ハットの中にも非常に危険な事例もありました。  文献からですが、河野氏は表の2、戦略的エラー対策という、ヒューマンファクター とか、工学的な視点から、危険を伴う作業の遭遇数自体を減らすとか、各作業における エラーの確率自体を減らすとか、多重の確認ステップを設ける、不測のエラー発生に備 えておくということでまとめているのですが、このような戦略的なエラー対策が必要と 述べています。  21頁、チューブ抜去が直接生命にかかわる重大事故につながる事例がある一方で、 “患者が抜去したときが抜去時期”という考えで、抜去の判断をしないまま挿入をし続 けるチューブもあります。これらのチューブの管理を行う看護師や医師自らがチューブ 抜去の危険性の認識が薄れたり、あるいはそれぞれのチューブの目的や危険性の判断を する余裕のないまま、ほとんど問題のないチューブの管理に気をとられて、逆に別な症 例の重大なチューブ類でエラーが起こるという、本末転倒の現象が起こり得る可能性も あります。  従って、最初の業務プロセスのアルゴリズムで、いちばん最初に「医師の判断」とい う所があったかと思いますが、いちばん最初の段階である医師のチューブ類の挿入の必 要性に対する、的確な判断が最も重要だと考えられます。“抜去してもよいから放って おいてよい”というチューブのために、看護師のエネルギーを使わない。抜去してもよ いチューブであっても、医療者の誰もいないところでの自己抜去による危険性を常に認 識して、医師が適切な判断と指示を下すことが最も重要だろうと考えます。  また、発生頻度の少ない事例についても、記述情報として本事業へ報告するなど、情 報の共有化をきっちり推進する。これらの情報を活用してトラブルが発生した際の対処 方法について、基準を定めるなどの準備も必要だろうと考えられます。  5)痴呆・せん妄患者の自己抜去事例についてです。意識レベルの低下やせん妄のあ る患者、痴呆のある患者の事例など、患者の認知レベルに問題があるケースです。自己 抜去事例が非常に多いのです。分析をした事例の中でも159、178、208、214というふう に、ここでも4つぐらいあるのですが、288例の中ではこれは非常に多かったのです。 それをできるだけ絞り込んでこのぐらいのところにしたのですが、せん妄患者の方々の 自己抜去事例が多いということがあります。  これらのケースでは、患者に説明をして理解を得ることは当然、困難なので、危険な チューブ類を抜去するか、それとも適切な薬剤を用いた鎮静あるいは抑制帯の使用によ って、患者の自由を制限することで自己抜去を防ぐという選択が重要と考えられます。 方法はこの二者択一というわけではなくて、同じ患者であっても、これらの方法を状況 に応じて臨機応変に使い分けることが必要だろうと考えられます。抑制が必要な場合に は、この判断を現場に任せるのではなくて、家族へのインフォームドコンセントや管理 の手順について、病院のガイドラインをきちんと作成しておいて、適正に管理できるシ ステムをあらかじめ作っておくことが必要だろうと考えられます。  このような患者の場合は、重要なことは状況の変化に即した臨機応変な対応が必要で す。特にヒヤリ・ハットが起きているのは、引継ぎの時間帯とか、夜間の業務が集中す るような忙しいときに起きているということがあるので、そういう要員が少なくなっ て、手が回らなくなる時間帯において、状況変化が生じる場合をあらかじめ想定して、 適切に管理できる体制を組織としてきちんと作り上げることが重要と考えられます。  また、抑制の成否ですが、これは事例に応じた適切な処方や指示にかかっているわけ です。これらは現状として、まだまだ医師の専門や経験により左右される部分が大きい と考えられます。ある病院とか病棟には名人芸のように達者な先生がいるので、うまく いっているけれども、そうではない所では危ういとかいうことは起こるようなので、今 後は適切な抑制方法や術後のせん妄期間をいかに短縮するかがより一層の検討と、マニ ュアルの整備ができれば望ましいと考えられます。  6)留置の適応の見直しの必要性です。「気管内挿管チューブの留置を不十分な抑制 で継続」し、自己抜去に至った事例がいくつかあります。今回の情報のみからは、詳細 不明な部分もあります。  186番、気管内挿管チューブの自己抜去後に、SPO2がほとんど低下していなかった りなどです。自己抜去後は、そのまま様子を見るという指示が出ていたりする事例もあ ります。実際に現場の医療スタッフ、医師の立場からすれば、気管内挿管チューブの抜 去を行った後は、しばらくの間サチュレーションとか、患者の状態変化を慎重に観察す る必要が当然あります。例えば医療スタッフの数が少なくなるような週末だとか夜勤帯 にかけて、そのような指示は避けたいということは当然考え得ることなのですが、逆に 夜間や週末のスタッフの少ない中で必要性の明確でないチューブ類を、自己抜去とか、 事故によって外れるとも取れますが、チューブ類の抜去を防ぐためのケアを強いられる ことを考えると、ひとりひとりの医師が的確な判断を今後、下していけるような形にな ることが望ましいと考えられます。実際に報告された事例の中でも、おそらく適応がな いのかもしれないというチューブを、自己抜去すらできないまま挿入されて、非常に苦 痛な日々を送っているであろう患者がちらちらと散見されました。そのようなことか ら、患者のクォリティという面から考えても、今後の課題とされるところです。  これもよくある話ですが、術後に動脈ラインを「とりあえずヘパリンロックして留置 しておきましょう」という事例があります。これは「とりあえず」ということであった り、半ば約束指示的になっていたりする場合もあるのかもしれませんが、直接動脈にカ テーテルを挿入しているという危険性を考えると、事例ごとに使用の可能性と抜去の危 険性を天秤にかけてというか、利害を考えて医師が一つひとつ適切に判断をして、指示 を出していくべきではなかろうかと考えられます。  7)小児患者における特殊性もあります。小児患者においては年齢によっては認知レ ベルが低くて、治療への協力が得られづらいということ、スキントラブル、皮膚のトラ ブルを避けるために強固な固定をしないということがあります。発達上のデメリットか らあえて抑制をしないとか、気管カニューレに、特に新生児の場合であるのですが、カ フのないものを使用しているという、ほかの領域に比べて特殊な事情があります。  気管カニューレはもちろん、輸液のラインの自己抜去であっても、現場では最初から 想定をしてやっているという報告というか意見もありました。実際に抜去されても「ヒ ヤリ・ハット」事例として認識されていないので、カウントされてこない場合も多いと いうことがあります。しかしながら、成人と同様に重大な結果を招く事例も中には存在 します。ですから小児患者における上記のような特殊性を踏まえながら、小児に特化し た適切な基準を作成していく必要があるかと存じます。  22頁の最後、まとめです。これらは今までのところ、まとめて次のことが必要だろう と考えられました。(1)医師がチューブ類の挿入と管理にかかわる適切な判断と指示 をきちんと行うことが必要だろうと考えます。具体的には(1)チューブ留置の適応や、 適応の再検討と約束指示の見直し。(2)として、適切な抑制や術後せん妄のコントロー ルによって、チューブトラブルの頻度を下げることが必要だろうと考えます。これは私 も勉強不足でどの程度のことがいまの段階で行われているかが、あまりわからないので すが、例えば医師を中心とした研究会であるとか、勉強会のようなものがあってもいい のかなと思います。  23頁、(2)です。チューブ類の管理にかかわる基準や手順の整備をすること。具体 的には(1)チューブの種類・目的などに応じた管理基準や手順を整備し、看護スタッフ が誰でも適切に管理できるようにしておく。(2)小児患者における管理の基準、手順を 別に整備しておく。(3)意識レベルに問題のある患者に対しての基準と手順。(4)にチュ ーブ類の管理の安全性を保つために必要な場合の抑制とこれに関する患者・家族へのイ ンフォームドコンセントに関する基準や手順を作成しておくことが必要になろうかと考 えられます。これは特に看護サイドの話が中心になると思うのですが、そういう基準あ るいはマニュアルだとか、誰でもできるようにということであれば、教育ツールなどが あったらいいのかなと考えられました。 (3)医療従事者、特に医師と看護師間のチューブ類の管理に関連する適切な情報交換 とコミュニケーションを、きちんと見直しておくことが必要だろうと思います。(1)カ ンファレンス、相談、記録の確認、約束指示、連絡体制の整備などによって、情報の共 有を図れるような体制をつくる。(2)円滑なコミュニケーションが行えるようなチーム の風土の育成が必要になろうかと思います。これもどの程度、どこで進んでいるか私は よくわからない部分があるのですが、例えば医師、看護師などの卒前、卒後教育など で、コミュニケーション技術だとか、チームづくりの細かい実習であるとか学習のよう なものも、あってもいいのかなと思ったりもしました。 (4)「珍しい」事例の報告です。これはまさに本事業ということになるのですが、逆 にエラー防止のために、ヒヤリ・ハットだけではなくて、「独自の工夫」、例えばうち の病院ではこういうことをやっているとか、うちの病棟ではこういう良いことをやって いますというような、良いことも出していただいて、そういうものを共有していくこと も非常に重要なのではないかと思いました。  以上に加えて、人的要因が背後にある事例も多いことから、夜間の要員数も含めて、 組織的に体制整備を行うことが必要と考えられました。ドクター、ナースの数もさるこ とながら、望ましい体制に必要な基準など、このようなヒヤリ・ハットの状況から見直 していくことも必要と考えます。また、今後、説得力のある疫学研究、この段階ではひ とつひとつの事例の検討ということですが、さらにその後に記述疫学的研究も始まって いると思いますし、さらに次の段階として分析疫学的研究、例えば関連するような職場 環境とか労働条件のような、具体的なエラーの発生に関連するような要因を、いくつか 挙げていったり、絞り込んでいったりするような研究も必要だろうと考えられます。以 上です。 ○橋本部会長  ありがとうございました。詳細なご発表と広いご提案もいただいたような気がいたし ております。これまでネットワーク整備事業自体の全般についてお話をいただきました ので、それらについての質問、意見交換をしたいと思います。資料1の2ページ目から です。性質が異なりますので、ヒヤリ・ハットの中のまず全般コード化情報の分析につ いてのご意見、ご質問をいただければと思います。 ○山口委員  入院患者は男性のほうが少なかったのに、ヒヤリハットは男性が多かったとのことで すが、具体的に何人と何人ぐらいですか。 ○橋本部会長  その辺は前からやっています武藤委員、ご説明いただけますか。 ○武藤委員  患者調査で見ますと、入院患者は男性のほうが少なく女性のほうが多いということで すが、ヒヤリ・ハットに関しては、全般的に1.3倍ぐらい男性のほうが多い。チューブ トラブルに関しては大体1.7倍ぐらい男性に有位ということなのです。逆に質問ですが、 ドレーン・チューブで男性が多い理由が、何かありましたら教えてください。 ○小橋参考人  この報告された事例を見ただけでは、その要因のはっきりしたことはわかりません。 ○橋本部会長  これまでも男性が多いという話題はずっとあって、その分析に関してはかなりきちん とやらなければいけないのでしょうが、推測があります。基本的には武藤先生が言われ たように、日本全体の病院の入院患者の性別を見ると女性が多い、そこからサンプリン グされたようなこの結果について、むしろ男性の患者にヒヤリ・ハット事例が多いのは 要因があるのだろうという推測が成り立つ。ただ、日本全体が多いが、統計的なサンプ リングではないので、そういう意味では偏る可能性は否定はできない。  疾患によっては、例えば国立病院の神経系のことをやっておられる病院から、たくさ ん出ているような場合は、疾患によっては男性の患者のほうが多い可能性があります。 ただ全体的な興味として見てみると、患者が関われるようなものについて、つまりチュ ーブとかその他の機器が関係するようなものについては、今回の事例でもそうですが、 男性の率がより高く、1.7倍ぐらいあります。しかし、それほど高頻度ではないけれど、 ある意味で患者が受身の状況が多いというのも、やはり男性が多いという、なかなか説 明が難しいことが、実際のデータとしては出てきています。あとは今までも聞いたこと があるような話が多かったと思いますが、コード化情報の全般についてはどうですか。 ○武藤委員  せっかく、いまのテーマがドレーン・チューブだったので、ドレーン・チューブに関 して、コード化から見るとどうなるかという話をします。別冊1の31頁の表3−3は、 チューブ・ドレーンを発生場面と発生内容に分けました。この表の上段を見ていただき ますと、自己抜去が断トツに多く、2番目が接続外れ、3番目が自然抜去、4番目が閉 塞、5番目が破損・切断です。縦軸を見ていただきますと、いちばん多いのが栄養チュ ーブ、2番目が末梢静脈ライン、3番目が中心静脈、4番目が気管チューブという順番 になっています。ですからクロスしている所を見ますと、栄養チューブの自己抜去がい ちばん多いと思います。それから末梢静脈、中心静脈ラインの自己抜去という頻度にな っております。  26頁の図3−7ですが、患者の心身状態は、やはり床上安静を除きますと、意識障 害、痴呆・健忘、せん妄状態のほかに、歩行障害という状態です。性差によるものは25 頁の図3−5にありますように、やはり男性が1.7倍ほど多いということが、コード化 からは見えてきます。  24頁のドレーン・チューブの発生時間帯ですが、深夜帯の22、23時にピークがあっ て、起床時の6時、7時、8時、9時のところに、また緩やかなピークがあるという状 況です。それが第11回の集計から見えてきます。 ○橋本部会長  よろしいですか。それでは戻ってもいいということですので、進めていきたいと思い ます。記述情報の医薬品と医療用具のご説明については、いかがだったでしょうか。先 ほども興味深いとか面白いなどと言ってしまいましたが、内容の濃いものが出始めてい るという感じが随分しております。まず薬のほうで、いくつか説明がありました。例え ば8番の返納処理のときの間違いというのは、今までなかなか出てこなかったような気 がしています。ですから返却に関するルールというものが、きちんと見えているかどう かということだろうと思います。あと、薬についてはいかがでしょうか。 ○中村委員  315頁の7番です。問題はラシックス云々なのですが、薬剤がその施設では採用され ていなかったことで規格間違いがあって、ヒヤリ・ハット事例が起こったということが あります。これからは患者の持参薬の管理をきちんとしておくこと、特に歯科や眼科で は、結構患者の持参薬が多いと思いますので、管理が必要だと思います。 ○橋本部会長  持参薬は結構難しいですね。経済的な問題が絡んできます。大学病院ではDPCがあ って、眼科の患者で糖尿病の薬を持参薬としてお持ちの方とか、その逆もあるわけで す。そのときにどうするかという問題があって、管理の二重性みたいなことが現実に起 こっているわけです。つまり病院から出される薬というのは、基本的には薬剤師の目を 通って、いろいろなチェックを通って安全に渡ってくるけれど、患者が持ってこられた ものについては、病棟で管理することが多いのです。そうでない病院もありますが、そ のときの管理の二重性というのが、大きな問題ではないかと思います。これが病院の経 済の問題と関係が出てくると、結構厄介な問題です。しかし我々の所の一部の科は、絶 対に使わないということでやっています。いま提起された問題、使わないのはいいけれ ど、その薬がその病院にあるのかという話は、違った局面の問題として出てきますね。 どこかできちんと議論しなければいけない問題ではないかと、私も思っております。  そのほかにいかがでしょうか。機器に関することも、結構出ていますね。違うメーカ ーのものを使ったために、やや不完全ながらも繋ぐことができたという事例です。実 は、小児のための人工呼吸器の導入で、メーカーの異なったものの安全徹底というとこ ろまでは、目が行き届かなかったためにということを、大きな問題として経験している わけです。そういう場面でなくても起こっているということでしょうか。これはやはり 始業点検と言うのですか、最初がきちんと出来ているかどうかというのが、いちばん身 近で防止できるというご指摘をいただきました。  あと、320頁の事例の5番でお話いただいた、電子的な制御、微量の電流で動くよう な設計がされているものについての静電気の問題というのがあります。これは難しいで すね。たくさんは起こっていないのでしょうけれど、誤操作が起こるということですよ ね。業界のほうでは、この辺はどういう流れになっているのですか。 ○山本委員  具体的に工業会のほうで受けていないので、内容がまだ正しくつかめていないところ があるのです。もう少し詳しく説明していただけますか。 ○後藤専門官  こちらの事例ですが、配置がかなり立て込んでおります。まず機械を設定しようとし たのではなく、機械を動かそうとしたみたいです。この機械は何かを動かそうとしたと きに、スイッチが触れてしまうような所にボタンがあって、今までも意識しないで触れ てしまうような報告があったらしいのです。ただ、ここの病院の室内はかなり乾燥して いて、静電気が非常に起こりやすい状態であったことは確認されています。多分、意識 して触ったのではなく、動かそうとしてうっかり触れてしまったときに、一緒に静電気 が流れて、表示制御部に一瞬リセットがかかった状態になったのではないでしょうか。 これについては再現性もあったようです。ですので原因としては、静電気が原因という ことが確定している事例になっています。  OFFになっている状態のときに触れているボタンから指を離してしまったせいで、 機械のほうがOFFになったと認識できず、そのまま再起動して早送りで入ってしまっ たということです。薬が予定時間より早く落ちていたので、早く入ってしまったと気が 付いた事例ですが、場合によっては気が付かないことも考えられたと思います。一応途 中で終了のブザーというか、警告音が早めに鳴ったので、原因としては記録を遡ると、 ちょうど機械を動かしたというか、機械を触った時間帯に早送りが始まったらしいとい うところから、これが原因と考えております。 ○山本委員  どの程度こういう事故が発生しているのか、業界のほうではまだ調査していないので すが、少なくともスイッチが簡単に触れないように改良しようという話はしているので す。ただ、この機械についてということではありません。そのほかについては、もう少 し事情を調べて検討したいと考えております。 ○那須野委員  この事例だけに限らず、例えば電源電圧が低かったり、静電気がかかったりして、C PUが誤動作しかけたときに、通常は暴走防止のためにリセットをかけるのですが、リ セットがかかったときの対応というか、どういう形で機械が静止するのか。たしか以前 にも似たような例で、CPUのリセットがかかってしまうために、警報も鳴らずに一瞬 ピッといっただけで止まってしまったという例があります。これは今後、暴走防止のC PUのリセットが起きたときにどうするかというのを、業界のほうでも検討していただ く必要があるのではないかと思います。 ○石川委員  同じことをちょっとだけ検討されたことがあるのですが、そのときは何が起きたかと 言いますと、いま那須野委員がおっしゃったとおりで、電気現象としてはそういうこと が起き得るということも分かっております。使用環境上、そんなに乾燥した場所で使わ れるということは、想定されておらず、ある程度の空調がある中で機械が動かされてい るということが書かれておりますので、機械はそういう異常な環境まで耐えろという と、また相当コストがかかってくるのではないかと思うのです。やはりお使いになる場 所の環境というのは、ある程度空調が整えられている所で使用するということもお考え いただかないと、機器だけの対応と一方通行になるのではないかと思います。 ○橋本部会長  とりあえず、そういうことになるのでしょうけれど、よりタフなものが作られてもい いですよね。 ○後藤専門官  この事例の製品については、すでにメーカーのほうで回収して直しをしております。 順次作業を終えていると聞いておりますので、この機種に関しての静電気に関する対策 は取られてきているということです。 ○橋本部会長  多分、番号か何かで管理をしていて、全部わかるのだろうと思いますが、リコールで はないけれど、メーカー側が進んで回収して、終わりましたとか、まだ残っていますと いう報告は、厚生労働省のほうにはくるのですか。 ○後藤専門官  メーカー側が全部引き上げてということであれば、最終的にくるのですが、今回はこ の報告からメーカー側のほうに聞いて、現在修理をしている最中と聞いておりますの で、最終的な報告はまだ受けておりません。一応メーカーのほうには報告をお願いしよ うかと思っております。 ○橋本部会長  人工呼吸器のCPU絡みのことは、私たちの所でも起こって、全国的な対応がされた ようですが、そういうものの最終的な確認は、やはり厚生労働省が期待されていると思 いますので、よろしくお願いします。  それではチューブ・カテーテルの事例を、かなり詳しくお話いただきましたが、そこ に行きたいと思います。質問からでも結構ですが、ご意見をお願いしたいと思います。 ○武藤委員  ご指摘のように、チューブ・カテーテルのガイドラインと言いますか、マニュアル作 成が必要だと思います。我々はクリティカルパスを使って、パス上でやっています。パ スにはチューブ・カテーテルのいろいろな処置の基準が載っているものですから、例え ば気管チューブの抜去時期、術後点滴・胃管の抜去時期、そのほかにいろいろなタイプ のドレーンの抜去時期、尿道カテーテルの抜去時期などをパス上で決めていくというや り方がいいのではないかと思ってやっています。 ○橋本部会長  つまり日程を決めてしまうということですか。 ○武藤委員  日程を決めて、不要なカテーテルは挿入しないという抜去基準を、パス上で明確にし ていくというのが、一つの手立てだと思います。 ○橋本部会長  ここでは、感染のことが事例として出てこなかったからかもしれませんが、カテーテ ル類を使ったときの感染の問題は、結構大きいのではないかと思うのです。事故例をい くつかずっと見ていると、敗血症で亡くなっていくというケースが結構多いのです。ガ イドラインかどうかは知りませんが、アメリカのJCHOが来年4月あたりから、感染 に対してかなり厳しい考え方を示すそうです。感染はかなり防げるはずだというスタン スに立つそうです。その基準に照らすと日本の状況というのは、かなりまずいというこ とが、案外明らかになってくるかもしれません。 ○山口委員  いまのお話とちょっと関係があるのですが、私が4年前に癌研に来たら、食道がんの 患者は全員気管内挿管をして、1週間近く診ていました。胃がんの患者や腹部手術の患 者は、全員胃管が入っていました。また、お腹には全員ドレーンが入っていました。私 は10年前から、胃管を術後は入れません。アメリカではエビデンスが随分あって、大腸 の手術や胃の手術でも入れないほうがいいとあります。少なくとも入れるメリットはな いとのことでした。  癌研でパスを作ったときに議論になりまして、そのときに実際に術後胃管から何が出 ているのかを調べてみたのです。胃管を入れる目的というのは、出血がないか調べるた めとか、胃液がたくさん溜まって縫合不全が起こるのを防止するためということでし た。そこで調べてみたら、ほとんどの患者では、飲み込んだ空気とか、唾液しか出てき ていないのです。胃の全摘などはほとんど出てこないことが分かったので、もう要らな いということにしました。食道のグループもヘッドが代わって、原則として挿管しない ことになりました。手術室で麻酔科の先生と相談して挿管管理の基準を決めて、こうい う症例には挿管したまま帰そうということを決めたら、驚いたことに感染、特にMRS A感染がものすごく減って、大変いい効果がありました。  私がこれを読ませてもらって非常に感心したのは、6)の適応です。私もそうです が、日本は先輩から教わってきたことを、そのままいろいろな理屈を付けられて納得し てやってきている部分があります。しかし、そこはパスで洗い直したりするなど、いろ いろなエビデンスを作り上げて改善することで、いろいろな事故がなくなるのではない かと思いました。大変参考になりました。 ○橋本部会長  そのほかにいかがでしょうか。ちょっと気になった記述があります。19頁の真ん中よ りちょっと下に、「チューブを吸引側に接続した事例が発生している」という所から、 「このようなリスクの高い現場で使用する機器については、酸素と吸引の接続部の形状 を変えて、接続できないようにすることが原則である。機器の買い替えは直ちにできな いこともあり」と書いてありますが、個人的にこの辺は、ちょっと表現が弱いかなとい う気がしました。学会発表ではないからいいのですが、もっと強く言って、原則ではな く鉄則ではないですか。 ○小橋参考人  本来はそうだったと思います。我々の中でも議論になったのですが、百歩譲って、も し買い替えできないにしても、これだけのことをやれば防げたのではないかという議論 になったものですから、このような弱い記述になりました。 ○橋本部会長  そういうことは指摘されたわけですが、平成14年4月のグランドデザインにおける医 療安全というのは、医療側と患者側も含めて、その周辺の業界も含めて取り組まなけれ ばいけないということを考えれば、やはり外側で支えてくれているサポーティングシス テム、つまり業界のほうが対応にきちんと努力すべき事項だろうと、私は思います。 ○小橋参考人  わかりました。ありがとうございます。 ○宮本委員  いまのに関連してですが、河野先生の参考資料の24頁の「戦略的エラー対策」でも書 かれているように、事故を防ぐためには、いろいろな作業の数を減らすことと、作業に おけるエラーの発生確率を下げることが必要なわけです。あと、できる限りいくつもの 防御対策を取ることが必要なわけです。そういう観点から考えると、やはり基本的にも 繋ぐ所はエラープルーフという考え方で、間違ったものは繋がらないという形にしてし まうと、もうエラーは発生しないわけですから、発生の確率を減らす中のひとつですよ ね。ここは非常に効果が出るのではないかと思います。 ○橋本部会長  エラープルーフとか、フールプルーフと言われていることで、要するに根本的な対処 だと思います。あとはよろしいですか。かなり重要なご指摘もいただいたと思います。 やはり適応の問題というのが、かなり大きいですね。安全だけでなく、いろいろな問題 があると思いますが、そこをきちんと整備していくことが重要と思います。山口委員、 癌研のことは分かりましたが、我々も自分の所を見ていると分かるのですが、そのほか の一般的な高機能の病院ではどうですか。 ○山口委員  そこが非常に問題なのです。消化器外科学会などの話を聞くと、大体半分ぐらいはわ りとそういう先進的な考え方で、残りの半分の先生は、今までもこれでうまくやってい るのだから、ということです。自分は患者にチューブを入れていても、痛くも痒くもな いわけです。ところがチューブを入れられた人はわかりますが、苦しくてしようがな い。何の役にも立っていないとしたら、やはりこれはかわいそうだと思います。私自身 にもそういうことを広く啓蒙する責任があると思いますので、また主張したいと思いま す。 ○橋本部会長  医学教育の問題がここには関わってきますね。高機能の病院だと、例えば気管カニュ ーレなどを入れる機会が相当多いと思うのですが、その職員に対する教育などはどうで すか。我々の所では、1回だけやったことがあります。それは耳鼻科の講師がやってく れたのですが、カニューレにはどんなものがあって、外国のものを使うと日本人のサイ ズには合っていないために、気道の向こう側にぶつかってしまって、こんなことが起こ りますということを説明されて、聞いていた職員はよく分かったと言っていました。そ ういう教育をやっているのです。その他の所でもそういうことをやっているとは思うの ですが、先ほど小橋参考人からも指摘されたように、教育の素材としてそういうものが あってもいいのではないかと思います。川村委員は最近、医療安全ワークブックを出し ましたね。あの中に多分あるのだろうと思いますが、川村委員の構想を教えてくださ い。 ○川村委員  危険な医療行為が介在する事故というのは、看護で言えば診療の補助業務の事故とい うことになるわけですが、注射などの事故と違うところは、チューブ留置が生体にとっ て非常に危険な医療行為でありながら、患者さんは動きたいし、苦痛なものは抜きたい し、繋がれている状況というのは患者さんにとって、本能的に大変厳しい状態だという ことです。患者さんの判断力の有無にかかわらず、外れ、抜け、閉塞といったチューブ にかかわるトラブルは、つきものだと思います。そこに医療的な侵襲行為が絡むこと が、他の医療事故と違って非常に難しい局面をつくり出していると思っているのです。  そうしたら、2つのステップで考えないといけないと思うのです。人間に持続的にチ ューブを挿入して繋ぐこと自体、トラブルの発生はなかなか防げないです。ただ事象は 発生しても、それが事故に繋がるかどうかというのは、患者さんの状態とチューブトラ ブルによる危険性、つまり、抜けたことが病態にどれほど悪い影響を及ぼすか、再挿入 がどれほど患者に負担を与えるかといった、患者さんの背景の危険性と絡んで、事象が 事故につながっていくわけです。自己抜去を防ぐために、抑制云々という話もあります が、片方で看護側は、葛藤状況に置かれるわけです。緩めに抑制しておいたりというの は、その現れだろうと思います。患者のチューブをどう管理しなければならないかとい うのは、チューブと患者の危険病態との組み合わせによって異なります。  手順やマニュアルなど、いろいろな話が出てきましたが、ICUという現場と一般病 室とでは違います。まず、適用の問題は除いて、適用しなければならないチューブ患者 に対して、どういう管理をするかというのは、ケース・バイ・ケースです。看護側の人 的資源と、患者さんを把握しやすい病室構造か否か、もしトラブルが起こったときに、 いかにその発生を早期発見できる環境にあるか否かなど、いろいろな要素が絡むもので すから、チューブ抜去の事故防止というのは大変難しいのです。  こういった会議のワーキンググループが、チューブの種類別にある程度の基準、患者 の病態に応じたリスクを想定したマトリックス的なもので方針を示していくとよいので はと思います。ここでは拘束ということに対して、意外といいのかなという雰囲気での お話ですが、現場では大変葛藤があります。そういうことに対して、やるべきことはや ってくださいという形で、お墨付きも与えないといけないし、そういう基準をつくるこ とが、このワーキングチームの使命ではないかと思うのです。 ○橋本部会長  それがワーキンググループの使命か、役割か、責任の範囲かというのは、かなり微妙 だとは思いますね。ただ世の中には必要だということで、それはまた別の形で考えない といけないですね。 ○川村委員  いずれにしても、医療事故の中でいちばん防止が難しい領域ではないかと思います。 患者要因が絡むことが、非常に難しくしているいと思います。何度も言いますが、チュ ーブの抜けという事象防止と事故防止という2段階で考えていかないといけない問題で はないかと感じています。 ○橋本部会長  そろそろ時間が押してきましたので、今回の議事1についてのご意見は、これまでに したいと思います。  議事2は、平成14年全般コード化情報の集計結果です。これまで3カ月ごとに報告し てきましたが、1年分のものが集計できましたので、1年を通して見たらということ で、報告させていただきたいと思います。事務局、お願いします。 ○永田専門官  資料2、平成14年の全般コード化情報の集計結果です。収集期間は平成14年1月1日 から12月31日までで、全事例数が3万3,524件ありました。2頁の下の「分析結果」にま いりますので、適宜別冊2の表、あるいはグラフもご覧いただきたいと思います。  まず発生月ですが、別のデータで新人が多いというデータがありますように、大体5 月にいちばん多く、その後10月ぐらいにちょっとピークがあるという状況です。  3頁ですが、土日が少し少ないです。発生時間帯で申しますと、8〜11時までという ことで、日勤の午前中にいちばんピークがあります。日内変動としては、従来からご報 告しているものと同じようです。  グラフの4頁の下ですが、先ほどから何度か討論にも出ている患者の性別では、1年 間を通して約1.3倍男性のほうが多いという結果になっております。  資料2では3頁、グラフでは5頁になりますが、患者の年齢も11回の報告と同じで、 71〜80歳、61〜70歳、51〜60歳の順に多くなっております。この3区分で約半数、また 0〜10歳も7%発生しており、中高齢者と小児に関して、リスク要因を有する可能性が あるのではないかということになっております。  グラフの6頁の図1−8になりますが、発見者は当事者本人が多い。職種では看護師 がやはりいちばん多かったです。  グラフの7頁、図1−10と11ですが、経験年数0年の方がいちばん多い結果となりま した。  8頁の図1−12ですが、従来は処方・与薬、ドレーン・チューブ、医療機器等の使用 管理、その他療養関係といったものが、頻度としては多くなっております。  また図1−13の発生要因では、確認、観察、判断、勤務状況が多い。  10頁の図1−14の影響度(全事例)では、間違いが実施されたが、患者に影響がなか ったというのがいちばん多い。10頁の下段の表1−2は、発生場面×発生内容というこ とで、中項目ぐらいのものになりますが、全事例の分布が出ております。  これ以降は従来からご報告している内容とほぼ同じですので、大きく割愛して、報告 集計結果の7頁をご覧ください。別冊の63頁です。従来の5つの分野以外に今回はその 他ということで、発生場面×発生内容、どんなときにどんな内容のヒヤリ・ハットが報 告されているかについて、再検も含めて掲げております。まず1番目は、オーダー・指 示出し、情報伝達過程です。オーダー・指示出し、文章による指示受け、口頭による指 示受けが、全体の67%を占めております。  表7−2になりますが、与薬準備、処方・与薬ということで、こちらは一部(再掲) という形になっております。無投薬の中では内服が1,473件で、全体の50%を占めてい ます。末梢静脈点滴の投与速度の速すぎが587件で20%、内服の与薬時間・日付間違い が455件というのが、比較的多い事例となっております。  表7−3は、調剤・製剤管理等です。報告書では8頁になります。内服薬数量・間違 い調剤が224件で14%、内服薬の薬剤取り違え調剤が210件で13%、注射薬の取違い調剤 が134件で8%という形で多くなっております。  次の頁の表7−4は、手術等の場面と内容のクロス集計です。診療・治療等のその他 のエラーが、全体の50%を占めています。その後の発生場面としては術後処理、リハビ リ、術前準備の順で多かったわけです。  表7−5は、処置に関してです。その他の処置の未実施・忘れが24件、尿道カテーテ ル・末梢静脈ラインの方法(手技)の誤りが、それぞれ15件、8件でこういったものが 多いわけです。  表7−6は、今回ご報告のあったドレーン・チューブ類の使用・管理についての内容 です。こちらも先ほど武藤委員からお話がありましたが、栄養チューブが658件という のが最多です。次に末梢静脈ラインが457件等々となっております。医療機器等の使用 ・管理は、人工呼吸器の組み立て、あるいは点検管理ミス、その他の使用管理エラー が、合計332件、33%となっております。  次の頁の表7−8は、輸血です。その他のエラーの108件を除いて、輸血検査のエラ ーが31件、輸血検査の結果入力、クロスマッチの間違いがそれぞれ20件です。検査につ いては採血検査が34%、内訳やその他の検査エラーが202件、検体採取時のミスが193 件、患者取り違いが119件となっております。  表7−10は、療養上の世話です。こちらはやはり転倒が最多で48%となっておりま す。次の転落が15%です。  最後に、表7−11は物品搬送等です。こちらは検査・処置・与薬指示表の管理ミスが 21%、次が検査データ関係の管理ミスが19件、患者・家族への説明不十分が9.5%とい うことで、いま申し上げたようなものが、それぞれの項目で比較的多い項目になってお ります。 ○橋本部会長  ただいまの報告は、平成14年の1年分が示されたわけですが、ご質問やご意見があり ましたら伺いたいと思います。全体的な傾向と、どう分析するかということについて は、議題3ともかかわりますので、そのときにまた触れてもよろしいかと思いますが、 いかがでしょうか。 ○門林委員  ヒヤリ・ハットの発生時間帯のことです。やはり業務が始まった直後の8〜11時ぐら いに大きな山がありますが、重大な事故ということで考えますと、どうなのでしょう か。事故のグレード別のことで考えますと、このグラフは少し動くのかなと思うのです が、その辺がわかったらお教えいただきたいと思います。 ○永田専門官  個別のデータについては、また詳細に集計してみないとわからないのです。 ○山口委員  今回のチューブのことと関係あるのですが、チューブの自然抜去がかなりあります ね。自然に抜去するはずがないので、止め方が悪いとかないのでしょうか。これが500 件以上あるので、この原因をはっきりさせて、そこをゼロに近づけるようなことをすれ ば、もう少しよくなるのではないかと思います。というのは、現場の人はわかると思う のですが、自分で抜くのを止めるには、相当な人手や努力が要ります。自然に抜けてし まったというのは、止め方が悪いとか、そういう基本的なところではないのでしょう か。それがわかるようでしたら教えてください。 ○橋本部会長  わからないのを自然抜去としているかもしれないですね。 ○山口委員  こういうクロス集計だけやっていても、そこに踏み込まないと結局、本当の解決はな かなか出ないのではないかと思って聞きました。 ○橋本部会長  それが多分、議事3にもかかわるのかと思うのです。議事3の中でそういう中身にか かわることがあれば、お話いただくことにいたします。  それでは議事3の「その他」に移ります。ここからはフリーディスカッションです。 平成15年もまた出てくると思いますが、平成14年の1年間を通した報告については、そ れなりにやってきたわけです。ご存じのように、今年度から第三者機関である財団法人 日本医療機能評価機構が、収集と集計を行っております。来年度からは事例の分析につ いても、評価機構が行うことになっております。そういう予定があるのですが、フリー ディスカッションでお話いただきたいのは、全国展開して施設も広がってきて、それに 伴い、収集事例件数が増えてきたことに対する対応には、いろいろな対応があると思い ますので、それに引き続いて分析方法をどうしたらいいのかということです。今ちょっ と議論があったような気もしますが、さらに分析だけしていてもしょうがないので、そ れをどのように情報提供していくかというあり方を、ここらでもう1回考えてみたらど うかというのが、事務局側の提案です。ほかの検討部会でもそのお話があったらしいの で、そのフリーディスカッションに移りたいと思います。それではまず資料について、 事務局からご説明をお願いします。 ○永田専門官  参考資料「事例検討作業部会の開催要綱」は、本作業部会でどのようなことをしてい ただいているかという内容の再確認になります。文中2の「検討事項」をご覧くださ い。(1)の医療事故情報収集等事業(医療安全対策ネットワーク整備事業含む)によ り収集された事例の分析及び改善方策の検討に関する事項、(2)その他、医療事故情 報収集等事業(医療安全対策ネットワーク整備事業含む)の活用等に関する事項という のが、本部会の検討事項となっております。  いま部会長からご案内のあったように、第10回ヒューマンエラー部会でも、今後のヒ ヤリ・ハットの収集事例についてのあり方等の意見が寄せられております。これをいく つかご紹介したいと思います。参加することで医療安全に対する医意識が向上するの で、この制度自体は継続する必要があるだろうというご意見がある一方、報告記述方法 の見直し、あるいはいろいろなものをすべて集めるのではなく、収集する事例のターゲ ットを絞る、特定項目に関するサーベイランス的なものを収集することも可能ではない かといったご意見が出ております。  分析方法についても、報告数が増えていることから類似事例を整理して、本当に分析 が必要なものだけ拾い上げる必要があるのではないか、本年度から分析方法を工夫して いるけれど、現場へのフィードバックが足りない、パターン分析や病院の機能等による 傾向分析等も必要ではないかということで、この部会でもご議論がありますように、バ ックグラウンドである医療機能の基礎データがなく、数だけ議論するのもちょっと上滑 りになるのではないかといったご指摘もあります。  ヒューマンエラー部会は、こちらの検討作業部会の上位の部会になるのですが、ヒュ ーマンエラーについても指摘のみに留まるだけでなく、具体的な改善策を示していく必 要があるのではないか、制度の改革に繋げられないと非常にもどかしいといったご意見 が寄せられております。我々はこういったご意見を頂いている中で、先ほど部会長から ご紹介がありましたように、ヒヤリ・ハットの事例収集、あるいは事故の事例収集等を どのように活用していくかについて、検討したいと考えております。委員の先生方から のご意見を、頂ければと思っております。 ○橋本部会長  ということでフリーディスカッションですので、よろしくお願いします。いかがでし ょうか。 ○山本委員  誤接続等については先ほど、企業側が努力してというお話がありました。実は、これ はかなり大きな問題であります。ご存じのように、日本では栄養ラインと輸液ラインの 誤接続があって、2000年に新しい対策が施されたわけです。ところが私たちがそれをヨ ーロッパに持って行ったところ、誤接続についてはいろいろな医療機器の誤接続があっ て、全部を一度に解決しなければならないというのが彼らの主張です。同じような問題 が起こっているにもかかわらず、今のところ向こうではまだできていないという現状で す。  私は、問題が大きなところから解決していくのが、現実的ではないかと思っているの です。ヒヤリ・ハット事例を何年かやって、何が重要な問題か分かるのではないかとい う気持ちでいたのですが、現状はなかなか出てきていない。それを評価機構でやるの か、ここでやるのかは分かりませんが、もし続けるのでしたら、重要度をはっきりさせ ること。これは企業側だけでなく、医療機関や行政も含めて、大きな問題の所からはっ きり順位付けをしてやっていただくのが、解決の道ではないかと考えています。 ○橋本部会長  今おっしゃっているのは、例えば大きな問題だろうというものを、サーベイランスと いう形でやってみて、どのぐらい問題なのかという現実の姿を見て対策を立てていくと いうことと、それとも、むしろ問題はある程度出てきているのだから、その中で問題点 のより大きなものをどこかの場所で検討して、集中的に対策を考えていくような方向に 進んだほうがいいのではないかということですか。 ○山本委員  先ほどのチューブ・カテーテル類でも、誤接続とか外れるという問題があると思うの ですが、どれとの誤接続なのかが、もうひとつ見えないのです。例えばある病院が企業 に「ここを直しなさい」と言うと、企業ではそれを一生懸命直すのです。しかし、それ がほかの病院では新たな誤接続の原因になっている可能性もあるわけです。それはやは り個々の企業や病院に任せるのではなく、どこかで企業側、医療側、行政の三者で統一 的に解決しないと駄目ではないかと考えております。 ○橋本部会長  わかりました。病院で実際に安全管理をされている方が何人かおられますので、お話 を伺ってみたいと思います。浦澤委員、いかがですか。ヒヤリ・ハットなり重要事例と いう、いま我々がやっている情報を集めてきて分析をしてという、国としての大きな流 れと、病院としての2つの局面で考えないといけないと思うのです。その辺からご意見 を伺えますか。 ○浦澤委員  病院は背景がよくわかっていますので、集めた事例をもうちょっと突っ込んで考えら れると思うのです。そうすると重要度から対策を立てていくというところで、次に周知 徹底というのがいちばん大事なのですが、ここだと全国になりますから、背景がよくわ からない状況もあると思うのです。定点病院みたいな所でサーベイランス的に選んで、 その中でどういう環境の中、どういう管理上の中で起きていることかというところで、 もう少し踏み込んでやるという方法もひとつではないかと考えます。 ○橋本部会長  門林委員はいかがですか。 ○門林委員  チューブのことになりますが、使用目的と表示、コネクターの形状、色といったもの が非常にバラバラという現状なのです。しかも輸入品があるし、新しい形状のもの、新 しい製品がどんどん出てくる。病院ではこういったものの一覧表を作ってやるといって も、ドクターの個性が出てきて、自分はこういうものを使いたいとか、いろいろなもの をおっしゃいます。こういったところである一定のガイドラインを作っていかないと、 いまの病院の中で、これはこういう形状だから、こういう色だからというのは、なかな か統一が取れないし、情報が共有化できていない部分があります。ですから、こういっ たことのガイドライン、あるいは方向性を示していくのがいいのではないかと私は思い ます。 ○橋本部会長  集めたその次の段階が大事だということですね。いろいろなものがあるのを整理し て、ガイドラインを作っていくというお話でしたね。それでは進藤委員。 ○進藤委員  実際的に現場でナースとドクターの話合いというのは、なかなか難しいのです。ナー スが抱えている問題とドクターが抱えている問題は、だいぶ違ってきていて、そこのと ころでバランスを取っていくのが難しいので、やはりこういう所でガイドラインを作っ ていただいて、こういうことがあるからというものを示していただかないと、病院とし て、ではそういう方向にいこうというものを個々の病院で決めるのは、大変難しい作業 になると思います。ですから、この場でガイドラインを示して、こういう方向があるの でこの方向で検討していくというのを示していただいたほうが、現場ではやりやすいと 思うのです。 ○橋本部会長  今のはちょっと外圧にもなるというイメージですね。では田中委員お願いします。 ○田中(基)委員  私たちの病院は、主に産科や小児の専門病院です。今日はそういう特殊性の話も出て いましたね。数がうちの病院はわりとたくさんあるのですが、全国には結構散らばって いて、成人の片隅で子供が診られている代償などもあるわけです。そういうことで成人 と共に小児や産科、新生児領域のお話も、同様に続けていただきたいと思っておりま す。 ○橋本部会長  それでは那須野委員お願いします。 ○那須野委員  私は臨床工学技士なので、どちらかというと機械関係ですが、自分の病院ですと、ど ういう使い方がされているかというのが、比較的はっきり分かっているのですがこちら だとある程度の概要で、こんな使い方がされているのかと驚くこともあるのです。逆に もうちょっと詳しく知りたい。どこに改善点を考えたらいいかというのがはっきりしな いので、そこの部分がもうちょっとはっきり分かるような収集方法があればいいのでは ないかと思います。 ○橋本部会長  隔靴掻痒のデータであり、データ分析であるということですね。中村委員、お願いし ます。 ○中村委員  私のほうは診療所なので、ドクターやナースから相談があった場合はします。しか し、我々がそういう所へ行くチャンスはあるのですが、場所的になかなかないものです から、そういうことはあまりしておりません。その代わり、リスト等を作成して各ブー スに配布しています。  これに関して私は、いかに改善策を考えても、それをどうやって検証するかというの が、すごく問題になると思うのです。私も点眼剤と水虫の薬とのヒヤリ・ハットをやっ たことがあります。例えばこういうキャップがいいなどという話はありますが、ではそ れをどうやって作るのか。例えば業者の方に「作ってください」と言っても、なかなか 作れないとか、値段があまりにも高すぎるとか、いろいろな障害が多すぎて、なかなか うまくいかないのが現状です。皆さん「検証しなさい、検証しなさい」と言うけれど、 医療の場ではそんなに簡単には検証できないと思うのです。例えば点眼剤の場合、キャ ップを変えるということは、院内製剤ならいいのですが、市販のもののキャップを変え るというのは、非常に難しいと思うので、ある程度院内製剤から事を運んでいかなくて はいけないのではないかと考えております。 ○橋本部会長  では、宮本委員お願いします。 ○宮本委員  まず事業としての情報収集ということでいきますと、やはりもう少しバックグラウン ド、例えば病院のバックグラウンドなどが分かるような形で、病院の数を絞って定点を 決めてしまって、精度の高い情報を集めて集計するということがあってもいいのではな いかと思います。集めた情報の活用ということでいきますと、やはりこれだけ分析して もらっていても、なかなか現場の方が知らないという状況もまだまだありますので、こ ういうものがありますというところを、もう少しアピールしていくといいと思います。 併せてガイドラインとまでいかなくても、集めたところから推奨されるようなこと、こ うしたらどうでしょうかという形のものでも出せればいいのではないでしょうか。それ が分析の次のステップではないかと思います。 ○橋本部会長  かなりまとめていただいて、ありがとうございます。次に武藤委員お願いします。 ○武藤委員  1つは、3年間これを集めて、7万件以上のヒヤリ・ハットのデータが集まりました ので、やはり一度データマイニングのような手法を使って、まずひとまとめする。次の 段階では、より改善の提案を引き出させるような収集法を。それにはターゲットを決め て、例えば3大ヒヤリ・ハットの処方、チューブドレーン、転倒といった窓口から、デ ータを収集していくというやり方が、必要ではないかと思います。  あと、だんだん増えてはきたのですが、医師のヒヤリ・ハットの報告がまだまだ少な い状況です。例えば医師がかかわる手術室とか、ハイリスク検査とか、抗がん剤とか、 そうしたもののヒヤリ・ハット事例を集めるような、入力構造になっていないというこ ともあるのです。ここで集まってくるのは、どうしても看護師の事例が多いものですか ら、医師に対して入力しやすい方式を。もう1つは、入力方法をもう少し簡素化しない と、現場では入力負荷があるものですから、なかなか大変だという話もあります。その ようなことから、やはり見直しは必要だと思います。 ○橋本部会長  次に、山口委員お願いします。 ○山口委員  こういう膨大なデータを集めて、解析していろいろな問題点が浮彫りになったのはい いと思うのです。私も4年前から癌研のリスクマネージメントをやっていますが、 1,000、2,000と集まってくると、ここは問題だなということは分かってきます。しか し、それをみんなに「ここは危ないよ」と言っても、問題は解決しないのです。  そこで私たちは、例えば転倒に焦点を当てて、若手の看護師にチームをつくらせ、転 倒が起きたときには100項目ぐらいの項目を細かく調べさせました。例えばドレーンが 入っていたとか何を飲んでいたなどということを、ずっと調べて対策を立てさせまし た。具体的には入院のときに患者をよく教育すること、そのためのパンフレットを作る ことが要求されました。またハイリスクの患者というのは決まっています。高齢者や睡 眠薬を飲んでいる人は、申し送りのときにマークを付けて、その人を徹底して監視す る。それでも落ちますから、下にマットを敷こうとか、そういう対策をやって、実際に 転倒の件数が減ったのです。  もし、ここでそういうことが出来るとしたら、参加している施設に具体的な対策をや らせて、次の3カ月、次の6カ月と経過を見て、事例が減ればそれは非常にいい成果だ と思うのです。ここでやるべきかどうかは分かりませんが、そこまで踏み込めばいいの ではないでしょうか。ただ、今のこのデータはこれが最大限の努力で、この会の役割は それでいいのではないかと私は思います。 ○橋本部会長  一応現場の方という意味でお聞きしましたが、そのほかにも専門家の方がおられます ので、自由にご発言いただければと思います。いかがでしょうか。いくつか今後の改善 みたいなことが出てきたと思います。対象集団をもう少しはっきりさせて、バックグラ ウンドがわかるようなデータの押さえ方、つまり定点化という方法ですね。これは数年 前から言われています。  もう1つは、データそのものが隔靴掻痒の感があるので、ものによってはもうちょっ と個別性まで含めた、データの収集方法があってもいいのではないかということが出て きたと思います。  さらにもう1つ重要なのは、今のままだと医師があまり書いていないという状況があ って、ハイリスクのものが本当に出ているかどうかということです。これは事故事例の 収集が始まりますので、そことの見合いで考えていかなければいけないかと思います。 それにしてもかなりヒヤリ・ハットなものもあるでしょう。そこをもう少し収集するよ うな仕組みは、アメリカにはありますし、日本のいくつかの所でもありますが、そうい うことが考慮されてもいいのではないかというのがあったと思います。  それから先ほど小橋参考人から話があったのですが、要するにヒヤリ・ハット事例と いうのは失敗事例ですよね。成功事例というやり方もあるのではないかという気がしま す。山口委員がおっしゃったように、例えばある種の対策をしたときに、これがどう変 わってきたかが弁別して収集できるような仕組みが要るのではないかということです。 つまりやっていることの効果ですよね。数が増えているのはいいけれど、後発の人たち が病院にあふれてくると、全体として見るとあまり変わっていないようにしか見えな い。しかし、どこか変わっている可能性があるというのは、どうも引き出せていない可 能性があるということですね。そういった分析があってもいいのではないか、というこ とだったと私は一応押さえましたが、いかがでしょうか。まだほかにあればどうぞ。 ○小橋参考人  今回まとめてみて思ったのは、おそらく最終的に何かしら対策を打っていくために は、どういう要因で起こったのか、どういう原因で起こったのかということを、もう少 し詳細に分析していく必要があろうということです。今の段階では、私たちがやったも のですら、チューブ・カテーテルという非常に大きな範疇です。回り道のようですが、 その中でこういう事例があったというのが折角出てきたのですから、今回分類したサブ グループごとにその原因を分析したほうが、おそらく早いのではないかと思います。  例えて言うと、いまの段階は自動車事故をひとまとめにしての原因を探しているとい うレベルです。「自動車事故」といっても、ものすごくたくさんあります。自動車と自 動車の事故もあれば、自動車が人を跳ねる場合もあります。例えば横断歩道での事故と かバックでひいてしまった事故とか、もっと細かいところで交通事故は発生していま す。普通の自動車事故で考えていただくと分かると思いますが、バックで人を跳ねるの と高速道路での正面衝突とでは、全然要因が違うはずだと思います。  このように今回は、ヒヤリ・ハットの中でもチューブ・カテーテルということで、か なり絞り込んではいるのですが、せっかく事例報告である程度いくつかの典型的な事例 が出てきたわけですから、その典型的な事例のサブグループごとに、とにかくその数を 集めて、どのようなバックグラウンドがあったのかを掘り下げてみると、もう少し細か いことがわかると思うのです。そして先ほど山本委員がおっしゃったように、その中で プライオリティを決める必要があると思います。例えばその中で頻度が高く、なおかつ 起こった場合に侵襲が大きいものを、1番から順番にプライオリティを付けて、対策は その順番でやっていくと、非常に役に立っていくのではないかと思います。 ○橋本部会長  多分、個別のサーベイランスみたいなことだろうと思います。田中委員、どうぞ。 ○田中(健)委員  いまのお話にあった個別に考えるというのは、すごく大事だと思います。しかしそれ と同時に、あまり個別に入ってしまうと、これはうちの病院とは関係ないという話にな ってしまいますので、その中から一般的なものというか、普遍性のあるようなメカニズ ムを探し出すというのも必要だと思います。それをどういうバランスで取るかです。 ○小橋参考人  個別というのは、1つ2つをやるという意味ではありません。サブグループに分けて やることによって、各病院に必要なものをチョイスしてもらうこともできると思うので す。 ○田中(健)委員  おそらく先ほどの標準化ガイドラインというのは、どこの病院でも起こりそうなも の、あるいは人間の特性として、こういう時にはこういうことがあるというものです。 今日、チューブのお話がいろいろあった中でも、一般的な話がすごくいっぱいあって、 チューブにかかわらない、例えば少ない事例でも情報共有をすることが必要だというの があったわけです。個別に必要になってくるものは何かというと、チューブのときはど ういう情報共有が必要ですかということを示していかないと、多分病院の人たちは何を 共有したらいいのかが分かりません。「適切な判断が必要」という言葉が、たくさん出 てきますが、では適切な判断というのは、どうするのかというところを示していかなけ ればいけないという話です。 ○小橋参考人  全体の集計としては、きっとそうなると思いますが、その前の段階として、もっと細 かい分析をしなければいけないということを、私は申し上げているのです。 ○田中(健)委員  それは必要だと思います。ただ、それをどのくらい集めて、どのくらいで一般的なも のを導いていくか、どのように決めていくかというのも、また検討会の中で考えていか なければいけないと思います。 ○小橋参考人  ある程度対象が決まってしまえば、例えば疫学的な話をしますと、各サブグループの 対象がそれぞれ100例、200例と集まってくれば、その要因はある程度明らかにできると 思います。そういうものがそれぞれの所で上がってきたところで、それを合わせて、全 体のまとめとして示すという形にしていけば、ある程度の結果は示せるのではないかと 思うのです。 ○橋本部会長  残念ですが、もう時間がきてしまいました。個別にご意見があれば、事務局にお聞か せいただければと思います。これから厚生労働省、あるいは他の団体がやることも含め て、どういうように整理をしていくかというのは、もうちょっと議論を煮詰める必要が あると思います。いま議論が個別の疫学的な方向へ行きましたが、もうひとつの大きな 議論としては、大体もうわかったよという言い方があります。ですから、もう対策に行 くべきではないかという意見も、大きな流れとしてあるわけです。それもまたひとつ聞 くべきことではないかと思います。  今日は長時間にわたり、ありがとうございました。最後ですが、事務局から今後の日 程等について、ご連絡いただければと思います。 ○永田専門官  次回の日程については、委員の皆様方のご都合を調整したいと思っております。な お、第11回集計結果については、今週中に厚生労働省のホームページに掲載される予定 です。また今年度から事例の収集機関となった、財団法人日本医療機能評価機構のホー ムページにおいて、ヒヤリ・ハット事例情報公開事業を開始いたしました。記述情報の うち、専門家のコメントを付した事例をデータベース化し、キーワードなどによる検索 ができますので、是非ご活用ください。事務局からは以上です。 ○橋本部会長  本日はこれで閉会いたします。お忙しい中ご出席いただきまして、ありがとうござい ました。                      (照会先)                       医政局総務課医療安全推進室指導係長                        電話 03-5253-1111 (内線2579)