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結核の入院と退院の基準に関する見解   (重藤作成原案)


結核のため入院が必要である要件は次の2つである
 結核としての感染性が高い状態
 適切かつ確実な医療提供のために入院が必要な場合


 感染性が高いと考えるべき状態とは
(1)肺結核または喉頭、気管支結核で喀痰抗酸菌塗抹陽性 注1
かつ
(2)未治療 注2
であって、その生活環境、行動から他者に結核を感染させるおそれが高い場合

注1 塗抹陰性であっても菌陽性の可能性が高く、気管内挿管、気管内吸引処置など結核の感染性が高くなるような処置を要する場合には、塗抹陽性の場合と同様の扱いが必要である。
注2 適切な治療開始2週間後には感染性は、治療開始前と比較すれば無視できる程度に低下する。ただし、既治療であって、薬剤耐性であったことがわかっているか、または、過去に治療中断歴がある場合には感染性の低下は確保されない。また初発であっても多剤耐性結核患者からの感染が疑われる場合もこれに準じる。



 適切かつ確実な医療提供のために入院が必要な場合とは
(1)結核の病態から特に結核の専門的医療が必要であり入院治療が適切である状態
たとえば 粟粒結核などの重症結核、コントロール不良の糖尿病や免疫不全など結核の治療経過に影響を与える合併症があり一般医療における治療が困難な場合、抗結核剤による副作用のため入院治療が必要な状態 など。
または
(2)治療の継続性が入院治療でなければ確保できず、治療の中断、不規則服薬により、結核の再燃、薬剤耐性化を来たす可能性が高い場合
治療の必要性が理解できず、他者による服薬確認も外来治療では確保できない(たとえば、住所不定者、独居痴呆高齢者など)場合。原則として、外来治療において適切な服薬確認治療(DOT)が提供されるべきであるが、提供の努力によっても患者の治療継続性が確保できないと判断される場合には入院治療を行うこともやむをえない。


上記 1 感染性がある状態、および2−(2) 退院後に治療の継続性が保証されず当該患者に適切な外来DOTを提供できるまでの間 は 必要であれば強制力をもって入院治療を実施すべきである。


感染性の消失* と退院後の治療の継続性が確保できれば、結核としての入院の必要性はなくなる。結核の治癒にとってのみならず感染性を考える上でも、適切な治療が確実に実施されていることが最も重要である。治療が必要とされる期間、それぞれの患者に適切なDOTが実施されるべきである。

 *標準治療開始後は、感染性は速やかに低下する。ただし、個々の患者でその経過には差がある。また、薬剤耐性、特に多剤耐性であった場合には、感染性低下は保証されない。喀痰抗酸菌検査で塗抹陰性化、または菌量の減少と自覚症状(発熱、咳)のほぼ消失、その他の検査所見の改善を目安として、標準治療の有効性を総合的に評価する。塗抹陽性であっても培養陰性、または薬剤感受性であることが確認されていればよい。
 *上記の治療の有効性を判断するためには、患者の病態により2週間から2ヶ月程度を要する。
 *退院後の生活の場が、病院、施設など集団生活である場合、また新たに乳幼児、免疫不全状態の者と同居する場合には、2週間に1回以上の喀痰抗酸菌塗抹検査で連続2回以上陰性、または培養連続2回以上陰性であることを確認することが望ましい。
 *多剤耐性結核の場合には、治療効果を判断するために培養検査における菌陰性化の確認を必要とする。目安としては、8週(液体培地を利用した場合は6週)培養2回陰性、検査の頻度は2週間に1回以上とする。


補足;本文には明記しないが意図している事項、また議論が必要な点

結核の感染防止と、患者の人権(行動の自由と適切な医療を提供される権利)の両者を考慮して、医学的に適切と考えられるラインを示す

不必要な入院の減少(また、そのために必須であると考えられる「必要病床数」の削減)をひとつの目標とする一方、入院中に十分な治療の方向付けを行う必要性を示す

菌陰性化しても、治療脱落の可能性が極めて高い場合には、現在の命令入所に準じて全額公費負担を適用すべきである。(多剤耐性化防止を言うなら必須)

条件1のうち 「その生活環境、行動から他者に結核を感染させるおそれが高い場合」 に該当しなければ、菌陰性化の見込みがない多剤耐性結核持続排菌者も合法的に自宅での生活が可能


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