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2004年11月26日

在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に
関する研究会 関係団体ヒアリング

財団法人 日本訪問看護振興財団

常務理事 佐藤美穂子

 日本訪問看護振興財団は、「よいケアを受けて家で暮らしたい」という在宅療養者の権利を尊重し、ご家族の介護負担軽減を図るために、訪問看護の質的量的拡大をめざして様々な取組を行なってきました。
 介護保険制度がスタートして4年8ヶ月となります。訪問看護サービスは微増傾向にあり、全国で約5,500ヵ所の訪問看護ステーションと、約4,000ヵ所の病院・診療所が訪問看護を実施している状況です。
 今後ますます高齢化が進み、在宅医療を必要とする高齢者も増加する一方です。そのため、治療が目的ではありませんが吸引を必要とする在宅療養者は、訪問看護利用者の約7%(15,000人)と推計されています(平成13年 厚生労働省調査)。
 訪問看護の需要がありながらも十分に供給できない地域などがあり、現状を改善するために、当財団では研修などで訪問看護事業所の開設支援を行っています。
 厚生労働省におかれましても、誰もが安全で良質な在宅医療を利用できるように、訪問看護制度の拡充策を早急に進めていただきたく要望します。
 以下に「たんの吸引を必要とする在宅の療養患者・障害者」への訪問看護の現状及び評価と他職種との連携について述べます。


 訪問看護の現状及び評価について

(1)調査研究から(たんの吸引を行なっているALS患者の現状)
 当財団が行った、ケア提供体制に関する調査研究(調査期間は平成15年9月22日〜9月27日)及び事例から現状を紹介します。

 訪問看護利用者で人工呼吸器を使用している在宅療養者51人の吸引については、約66.7%は家族のみが実施していたが、約31.3%は家族以外の者もせざるを得ない状況であった。その理由は、交替可能な家族介護者がいないこと(62.4%)と家族の希望(31.3%)による。なお、同意書は75.0%が得ていた。
 家族以外の者が吸引をする場合は、訪問看護師が同行訪問(62.5%)、定期的に訪問して状況を確認(25.0%)するなど、連携を図っていた。
 家族以外の者への連携内容では、吸引技術(68.8%)、緊急時の対応方法(56.3%)、観察内容(43.8%)、実施後の報告(18.8%)などであった。
 16ヵ所の訪問看護ステーションのヒアリング調査では、ホームヘルパーとケア計画表の交換による情報の共有が図られたり、合同ケアカンファレンスに出席するなどして連携が強化されている。
 一方、ホームヘルパー個人のレベル差が大きく、担当者が頻回に交代するため、吸引が困難であると判断せざるをえない事業所もあった。
 また、利用者が個人的にホームヘルパーや家政婦を雇用している場合は連携がとりにくいという声もあった。


(2)事例から(吸引を必要とする疾患を持つ利用者への訪問看護)

【事例1】吸引をひかえて呼吸ケアを行なった結果、自力でたんが出せるようになった事例
 交通事故による脳挫傷で、痙攣をともなう遷延性意識障害者に対して、24時間家政婦が付き添って吸引を行なっていた。
 訪問看護師が入って、全身状態をアセスメントし、家族の状況や家政婦の吸引などを確認した結果、吸引の刺激によって分泌物が多くなっていることや唾液の落ち込みも多いこと等がわかった。
 訪問看護師は排たんケア(体位ドレナージ、呼吸訓練など)を行ない、吸引は必要最小限とした。五感刺激などの看護ケアも行なった結果、意識障害が改善しテレビを見て笑うようになった。訪問看護師は日常生活動作(ADL)の改善等から判断して、自力でたんが出せるようになることを目標として設定し呼吸訓練等を行った。およそ1年後に自らたんを出せるまでになり、現在に至っている。
【事例2】長時間訪問看護の導入により、吸引回数が1/3減少した事例
 気管切開をして人工呼吸器を使用している8人のALS患者にモデル事業として、1日4時間以上の訪問看護を週3回〜5回、1ヶ月間実施した。その結果、1日平均32.1回の吸引回数が22.9回にまで減少した。
 訪問看護によって、全身状態の観察、温湿布と清拭、専門的な排たんケアやリハビリを行ない、気管支まであがってきたたんを確実に吸引した。
 吸引の行為は人工呼吸器をはずして行い、終ったら再度適切に装着する行為を繰り返す。ALS患者本人にとっては吸引に伴う苦痛も、器具装着に伴うリスクも1/3減少した。

2.他職種との連携について
 「吸引」は医行為と整理されており、主治医が「治療の必要の程度につき訪問看護を必要と認めた場合」に指示書が交付されて訪問看護師が行う仕組みとなっています。
 訪問看護は在宅で行なう「療養上の世話又は診療の補助」であり、在宅療養者への看護ケアとともにご家族の支援を行なっています。利用者と個別に同意書を交わしている「家族以外の者」との連携についても、支援チームメンバーのひとりとして、訪問看護師が相談助言を行っています。
(1) たんの吸引を必要とする疾患をもつ在宅療養者には、主治医の訪問看護指示のもと訪問看護師が吸引を実施しています。
(2) 在宅療養者及び家族の状態、訪問看護サービスの状況等により、在宅ケア体制が困難をともなう場合には、事例ごとにケアマネジャーをはじめサービス担当者が合同ケアカンファレンスをもっています。各職種が役割分担して、利用者に適切なケアを提供しています。
(理由)
 吸引が必要な疾患をもつ在宅療養者には、様々な病状の変化があり一人ひとり状態が異なる特徴がある。医師や訪問看護師が医学・看護学の知識・技術に基づき、個別に総合的に判断して、家族以外の者との連携方法も判断する必要がある。
 在宅ケアはケアマネジャーの作成したケアプランに基づいて実施されるため、ケアマネジャーは、吸引が必要な利用者には訪問看護の活用をケアプランに入れる必要がある。
 「身体介護を実施する際の医療機関等との連携のあり方に関する調査研究委員会 報告書(平成13年3月 全国社会福祉協議会)」によると、訪問看護を利用していない理由に、(1)家族の了解が得られなかった(23.1%)、(2)ケアマネジャーから必要ないと判断された(17.6%)等があげられた。ケアマネジャーには利用者に対して、訪問看護の活用についての情報提供と十分なアセスメント力が求められる。ケアマネジャーの資質格差が大きいことが課題となっている。


 資料1
「人工呼吸器装着等医療依存度の高い長期療養者のケア提供体制等に関する評価研究(平成16年3月 日本訪問看護振興財団)」
 資料2
「人工呼吸器装着等医療依存度の高い長期療養者への24時間在宅ケア支援システムに関する研究(平成15年3月 日本訪問看護振興財団)」
 資料3
「身体介護を実施する際の医療機関等との連携のあり方に関する調査研究委員会 報告書(平成13年3月 全国社会福祉協議会)」


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