04/10/14 第36回労働政策審議会労働条件分科会            第36回労働政策審議会労働条件分科会                   議事録                       日時 平成16年10月14日(木)                          15:00〜                       場所 経済産業省別館825号会議室 ○西村分科会長  第36回労働政策審議会労働条件分科会を開催いたします。本日は石塚委員、奥谷委 員、佐藤みどり委員が欠席されています。  本日の議題に入りたいと思います。本日の議題は、前回に引き続いて「時短促進法に ついて」です。引き続き議論を深めていただきたいと思いますが、初めに事務局より資 料について説明をお願いいたします。 ○勤労者生活部企画課長  資料にしたがいまして説明させていただきます。お手元に本日の資料として平成16年 10月14日付の資料を配付しています。別途、前回9月28日に配付しました資料も改めて お手元に配付しております。今日は10月14日分の資料につきまして順次説明をさせてい ただきます。  10月14日分の資料1、「議論の整理(案)」というペーパーですが、これは前回9月 28日にご議論をいただきました事項について、事務局で整理をさせていただいたもので す。1点目として、「労働時間の現状及び動向について」です。近年、労働時間の「長 短二極化」が進展していることに留意すべきという点については、委員の皆様のおおむ ねの一致を見ました。その中で使用者代表委員からは、「こうした二極化について近年 の経営を取り巻く環境の変化の中で、長時間労働者と短時間労働者を組み合わせること は必然性があり、これを否定的に捉えるべきではない」という意見が出されました。労 働者代表委員からは、「近年所定外労働時間が増加していることに特に留意すべきであ る」という意見が示されました。これに加えて、公労使各側の委員からは、「業種別・ 職種別の労働時間の現状及び動向について、より詳細に見ていくことが必要である」と いう意見が示されました。  2点目、時短促進法及び「年間総実労働時間1,800時間」の取扱い等についてです。 「平成18年3月31日までに廃止するものとする」とされている時短促進法、この法律第 4条の規定に基づいて閣議決定をされている労働時間短縮推進計画において、目標とさ れている「年間総実労働時間1,800時間」の取扱いについて、前回労使双方から様々な 意見が示されたところです。  労働者代表委員からは、(1)法に基づく施策が講じられてきたが、目標とされてきた 年間総実労働時間1,800時間は、未だ達成されていないこと、(2)週40時間労働制への移 行後における時短の要因として大きかったのは、短時間労働者の増加であり、一般労働 者の労働時間は近年むしろ増加していること、(3)労働者の心身の健康はもとより、育 児・介護、自己啓発及び地域活動等に要する時間が確保できる働き方が求められている こと等の理由から、数値目標を掲げつつ、労働時間に関する労使の自主的な取組を国や 地方公共団体が支援するという法の枠組を堅持するべきであるという意見が示されまし た。併せて、この法に基づく目標については、基本的に1,800時間を活かすべきである という意見や就業形態の多様化を踏まえた新しい目標を掲げることを含めて検討すべき であるという意見が示されたところです。  これに対して使用者代表委員からは、(1)法制定時と比べれば、相当程度時短が進み、 年間総実労働時間1,850時間前後で定着をしてきていること、(2)労働者の意識やニーズ が多様化し、労働時間の「長短二極化」が進展する中で、一律の労働時間目標を掲げる ことは時宜に合わなくなっていること、(3)知的集約労働は我が国の経済社会にとって、 不可欠な労働形態となってきているが、労働時間が成果に直結しない、こうした知的集 約型の働き方が自由に選択できる余地を残すことが重要であると考えられること、(4) 1,800時間という画一的な目標により、却って働き方の選択肢が狭められてしまうこと 等の理由から、1,800時間という目標については見直すべきであるという意見が示され、 さらに法の存廃について十分検討をすべきであるという意見も出されました。  同時に、(1)健康障害や仕事と生活の調和など、労働時間をめぐり新たに発生してい る課題への対応が必要であるという意見、(2)業種や企業規模により、労働時間に偏り がある現状の下では、時短に取り組む企業への支援策について、その効率性に配慮した 上で、存続させる必要があるといった意見も示されました。  これに関連して、今後こうした支援策を実施するために必要な予算を、如何なる財源 から拠出するのが適当かについては、別途整理すべきであるという意見がありました。 なお、労使双方から言及のありました、健康確保対策の今後の労働基準行政における進 め方については、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」など、労働衛生対 策と労働時間対策の総合的な展開を一層推進すべきであるという意見が労働者代表委員 から示されました。  3つ目、その他として、労働者代表委員から、(1)労働基準法の週労働時間の特例措 置について、労働基準法の平等な適用等の観点から、40時間とする方向で検討すべきで あるという意見、(2)法定時間外労働の限度基準等についても検討をすべきであるとい う意見が示されました。これが前回の議論の整理です。  続きまして資料2ですが、前回さらに詳細な資料の提出を求められた事項などについ て説明いたします。  1頁、産業別に見た総実労働時間、毎月勤労統計調査の産業別の総実労働時間の状況 について、より細かな資料を配付していますので説明をいたします。  上の表が30人以上規模の事業所について産業別に分類して、平成5年度から時系列的 に年間総実労働時間を並べた資料です。平成15年度については、前回(9月28日)に説 明しましたように、産業計では総実労働時間は1,853時間となっていますが、これを産 業別に見ますと、例えば建設業2,060時間、製造業2,000時間、運輸・通信業2,052時間、 卸売・小売業、飲食店1,618時間、金融・保険業1,796時間、サービス業1,780時間等と なっています。平成15年度の産業別年間総実労働時間について一般とパートに区分した ものを下に併せて掲げています。  1頁目の下の表が毎月勤労統計調査の産業別の総実労働時間を、事業所規模5人以上 で見た数字です。調査産業計では、平成15年度で見ると1,832時間になっています。  説明をしました毎月勤労統計調査に基づく産業別の年間総実労働時間について、1頁 目は産業大分類で見たものでしたが、2頁から7頁は中分類で見たものです。  8頁、週労働時間が35時間未満及び60時間以上の雇用者の割合、これは「労働力調査 」による労働時間の35時間未満、60時間以上の雇用者の割合を、産業別で見たもので す。8頁の真ん中の表に示している週35時間未満及び60時間以上の雇用者の割合が、平 成15年の「労働力調査」による産業別の35時間未満の雇用者及び60時間以上の雇用者の 割合です。  非農林業雇用者計で週60時間以上の雇用者の割合を見ると、雇用者全体の12.2%とな っていますが、これを産業別に見ると、運輸業では雇用者の23.4%が週の労働時間が60 時間以上です。これに次いで飲食店、宿泊業が15.4%、建設業が14.9%、情報通信業 14.6%、卸売・小売業14.5%などとなっています。  8頁の下の表ですが、週60時間以上労働している雇用者の割合を時系列で見たもので す。非農林業雇用者計の割合が平成5年には10.6%であったものが、平成14年には12.1 %、平成15年には12.2%と時系列的に上昇しています。  9頁は、「労働力調査」による週労働時間が、35時間未満及び60時間以上の者の割合 を職業別に見たものです。9頁の表の右側が60時間以上となっているわけですが、この 中で比較的その割合が高くなっているのが、運輸・通信従事者で平成15年には25.2%と 高くなっています。続いて販売従事者であるとか、技術者、管理的職業従事者などで高 くなっている状況です。  11頁の資料は、脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況を、業種別・職種別 に見たものです。脳・心臓疾患についての労災補償の業種別構成比を見ると、運輸業が 26.0%となっています。右側に雇用者数の業種別の比率を掲げていますが、運輸業は雇 用者数で見ると全体の5.7%ですが、脳・心臓疾患の労災補償件数は、全体の26%を占 めるというデータになっています。職種別に見ると、運輸・通信職であるとか、管理職 の脳・心臓疾患の労災補償件数の割合が高い状況になっています。  資料3は、先月発表されました「平成16年の就労条件総合調査」の結果の概要です。 2枚目にその概要があります。1つは年次有給休暇です。年次有給休暇については詳し くは調査結果の10頁にありますが、取得日数、取得率のいずれも対前年で低下をしてお り、取得日数が8.5日、取得率が47.4%となったところです。  変形労働時間制の採用状況ですが、対前年で若干減少して2.3ポイント減で、54.8% の企業で変形労働時間制が採用されております。その中で1年単位の変形労働時間制を 採用している企業が最も多く36.9%になっており、従来の状況と変わらないところで す。  3つ目がみなし労働時間制の採用状況です。みなし労働時間制を採用している企業の 割合は前年より若干増えて9.8%となっています。  4つ目ですが、今回の調査では単身赴任の状況を調べています。転居を必要とする人 事異動がある企業の割合は29.2%です。前回は平成10年に同様の調査を行っています が、その時より1.1ポイント増加しています。その中で有配偶単身赴任者がいる企業の 割合は19.6%となっております。資料についての説明は以上です。 ○西村分科会長  今回、原川委員から参考資料として、全国中小企業団体中央会で実施された「平成15 年中小企業労働事情実態調査結果報告」の抜粋が提出されています。原川委員、この参 考資料について何かあれば述べていただきたいと思います。 ○原川委員  全国中小企業団体中央会が毎年、広く中小企業の労働実態を調べるということで実施 している調査です。調査対象は300人以下の事業所を約5万事業所。平成15年度の回答 数は2万1,081事業所、回答率42.1%です。この調査の特徴は、製造業と非製造業の抽 出比率がそれぞれ55%、45%となるようにするとともに、従業員規模29人以下の事業所 が製造業のうち55%を、非製造業のうち70%を占めるように抽出した点です。回答事業 所の67.6%を従業員規模29人以下の事業所が占めています。このように、中小企業の実 態を色濃く反映した調査ということで、今日提出させていただきました。  1頁が有給休暇の付与日数、2頁が取得日数、3頁が取得率です。付与日数は平成15 年は15.08日で分布は15〜20日未満が半分以上を占めています。規模別に見ると、1〜 9人の13.65日に対して、100〜300人は16.31日で、中小企業においても規模の大きい所 の方が、有給休暇の付与日数は多いことが見てとれます。  2頁、取得日数を見ると、平成15年は平均7.49日です。平成14年あるいは平成13年に 比べて、少し減少しています。分布で見ると5〜10日未満が約4割です。規模別では1 〜9人が7.44日であるのに対して、100〜300人は7.71日で、これもやや規模が大きい所 の方が取得日数が若干多いことが見てとれます。  3頁、取得率を見ると、平成15年は49.68%です。50〜70%未満が26.2%で分布とし ては一番多いということです。規模別に見ると付与日数との関係、あるいは取得日数と の関係がありますが、規模の小さい方が取得率は高くなっており、例えば1〜4人の規 模では59.98%と、約6割に上っているのに対して、100〜300人は47.32%で5割を切っ ているという状況です。説明は以上です。 ○西村分科会長  ただいま説明いただいた資料を基に意見交換を行いますので、ご質問を含めてご自由 にご発言ください。前回は年間総労働時間1,800時間という目標設定のあり方について、 比較的集中的にご議論をいただいたわけですが、今回は今後の労働時間対策の方向性で あるとか、具体的な内容を含めてご議論をいただければと思っています。 ○田島委員  この「議論の整理(案)」のところで意味が分からないので質問します。1の3行 目、長時間労働者と短時間労働者を効果的に組み合わせることには必然性があり、とい う意見があったと書いていますが、いろいろなデータを見てみると、一般労働者とパー ト若しくは短時間労働者、いわゆる長時間労働者と短時間労働者という区分けなどとい うのは、実際にはほとんどないと思うのです。使用者委員の人たちは、長時間労働者と いう意味ではなくて、一般労働者と短時間労働者という意味で主張していたのではない かと私は理解をするのです。ところが今日的な問題は、労働時間の長短二極化が進展し ていることであり、長時間労働者も短時間労働者もそれはそれでいいのだという見解だ としたら、議論の噛み合わせが全く違ってしまうので、ここは正確には一般の労働者と 短時間労働者の組み合わせということではないかと思うのですが、事務方といいますか 厚生労働省はどう考えておられるのか。あるいは発言をされた使用者側委員はどう考え ているのか、確認をしたいと思います。 ○勤労者生活部企画課長  前回、私どもから提出した資料において「長短二極化」という表現で、労働時間が比 較的長い人と短い人に二極化をしているという説明をする中で、使用者代表委員から 「そういったことはある意味で、いまの経済の事情からすれば、必然性があるのだ」と いう御指摘がありましたので、その御指摘を踏まえて、こういった整理をさせていただ きました。 ○田島委員  すると1行目の「長短二極化に留意すべきであるという点については、ほぼ全員意見 の一致を見た」というのが否定されることになりませんか。短時間労働はいいのだけれ ども、長時間労働についてはやはり問題があるというのが共通認識だったと理解をして いるのですが、そうではないのですか。 ○勤労者生活部企画課長  これは使用者側代表の意見なので、もし間違っていましたらご訂正いただければと思 いますが、ここで整理しているのは、実情として労働時間の長い方、短い方に別れてい るという現象があることは使用者側委員も含めて、一定の意見の一致を見たということ ですが、使用者側の委員から出された意見の中に、こうした長い方と短い方に別れてい くことについては、現在の経営環境を取り巻く様々な環境の中では、必然性があるとい う意見が出されましたので、その旨をここで書いたということです。 ○田島委員  自分の理解が、ちょっと誤解をしていたということですね。 ○西村分科会長  事務方で何か修文をしたということではないと思います。 ○小山委員  今の長時間労働に関わる問題なのですが、資料にもありますとおり、非常に長い時間 外労働が増えているということで、時間外労働の限度基準について、いわゆる特別条項 における特別の事情は、臨時的なものに限ることを明記する改正が行われ、本年4月1 日から施行されているわけですが、それによって長時間にわたる時間外労働を減少させ る効果が現れているかどうかについて、現状をお聞きしたいと思います。 ○賃金時間課長  ご案内のように限度基準の改正については、今年4月から施行されています。リーフ レット等で周知していますが、どういう効果が出ているかについては、現時点ではまだ 実態が把握できていません。施行から1年ぐらい経過した来年4月時点を目途に、その 実態調査を予定していますが、いまの時点では数字が把握できておりません。 ○小山委員  労働組合のある職場でも、この特別条項の問題を取り上げて、取組をずっと進めてい るのですが、実態としてはなかなか長時間にわたる時間外労働がなくならない。むしろ 今仕事量がかなり増えている状況の中で、特定の人についてかなり長時間の時間外労働 が行われているというのが、現実的にはかなり多いわけです。これを削減をしていくた めには一体どうしたらいいのかという意味で、限度基準の特別条項の見直しもされたの だろうと思います。  特に、健康にも問題をもたらすような長時間の時間外労働について、どう規制してい くのかという観点から、一つは時間外労働の割増賃金率を引き上げていくという考え方 が従来から言われてきたわけです。時間外労働の限度基準の特別条項に係る改正では効 果があまり上がらないのではないかと心配されるものですから、時間外労働の割増率を 上げていく、例えば、50%にまで引き上げるべきであると考えます。更には私は時間外 労働の限度基準を上回るような時間外労働については、50%の割増率に更に50%プラス するような施策が必要ではないかと思うのですが、厚生労働省としてそうした長時間の 時間外労働の規制をどうしていくのかという観点で、先日の限度基準の特別条項に係る 改正のほかに更にお考えなり見通しなりをもっておられるかどうか、お聞きしたいと思 います。 ○勤労者生活部企画課長  時間外労働の問題につきましては、今御議論がありました時間外の限度基準の問題と ともに、御承知のように所定外労働の削減要綱を定めて、その周知を図る形で、こうい った時間外労働の削減に努めているというのが、私どものいまの立場です。 ○小山委員 その割増率の引上げということについて、お考えはございませんか。 ○勤労者生活部企画課長  私どもとして、いま特にこうだという考え方をもっているわけではありません。時間 外労働については、景気の状況によって長くなったりするものですし、割増賃金率の問 題については、労働基準法上労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情 を考慮して定められることとなっています。そうした中で実情を踏まえ、休日労働の割 増率については御承知のように、平成6年に引上げが行われました。そういった状況で すので、いま言われました時間外労働の割増賃金率の問題について、特段こうするとい う考え方を私どもは持っておりません。 ○小山委員  先ほど、施行から1年間経ってみないと、特別条項についての改正の効果は分からな いという話でしたが、仮に一定の効果が上がらないとすれば、限度基準を超える時間外 労働には更なる割増率を付加えていくということが最も効果的な方法と考えられるので はないかと思います。是非、時間外労働の割増率の引上げ全般と同時に、更に限度基準 を上回る時間外労働についてはそれに倍する50%の割増率とすることを考えていただき たい。我々の主張は50%、さらにプラスして50%という考え方で、割増率を引き上げて いく施策が必要ではないかということですので、申し上げておきます。 ○須賀委員  割増の概念なのですが、先ほど労働者福祉ということで御紹介されましたが、通常決 められた所定労働時間に対して余分に働くわけですから、私どもはそれに対するペナル ティーだという発想があってもいいのではないかと考えております。小山委員が言われ た割増率の50%への引上げということに加えて、これも意見として追加しておきたいと 思います。 ○田島委員  私はペナルティーだけではなくて、いわゆるいろいろなデータを重視したいですね。 新しい者を採用するよりは25%の割増だったら、25%の割増賃金を払って残業させた方 が断然企業にとっては割安になるわけです。これは「仕事と生活の調和に関する検討会 議」の報告書の資料でも、均衡割増賃金率は52.2%だという資料が公表されておりま す。すると割増率を50%にしてほぼ、新しい者を入れるのと残業をさせるのとが均衡が とれるということです。割増率が25%だったら残業をさせた方が企業にとっては割安で あり、全くペナルティーにはなっていないということだろうと思います。そういう意味 ではこの割増率を引き上げるということを真剣に考えないと長時間労働はなくならない と思います。  もう1点、これは監督課長にお聞きしたいのですが、「賃金不払残業」が最近大変問 題になっていますが、各種統計において不払残業の問題はデータとして入っていないと 思うのです。割増率を引き上げたら不払残業が増えたということでは困ってしまうわけ です。最近の不払残業の動向や摘発のデータなどがあったらお示しいただければと思い ます。そこを絶っていかないと労働時間に関する統計そのものも信用性が失われてしま うと思いますので、是非お願いしたいと思います。 ○監督課長  賃金不払残業についての現在の是正状況につきまして、本年9月27日に発表いたしま した「賃金不払残業の是正結果」について御説明いたします。平成15年度の1年間で1 企業当たり100万円以上の割増賃金が支払われた事案の状況をまとめたものですが、そ れを見ますと総額で約239億円の不払であった割増賃金の支払いを行わせていただきま した。是正企業数は1,184企業、対象労働者数は19万4,653人で、支払われた割増賃金の 合計は238億7,466万円です。企業平均では2,016万円、労働者平均では12万円となって います。今後とも引き続き賃金不払残業を是正するために、いろいろな施策をとってま いりたいと思います。 ○渡辺(章)委員  今日の資料1の「時短促進法及び『年間総実労働時間1,800時間』の取扱い等につい て」においては、労働者代表委員からの3つの意見が紹介してある後ろに、労働時間に 関する労使の自主的な取組を、国や地方公共団体が支援するという法律の枠組は堅持す るべきという意見が示されたということですが、前回出された資料3−1の35頁「過重 労働・メンタルヘルスの対策の在り方に係る検討会報告書」の抜粋にもあるように、過 重労働による健康障害防止対策にしても、職場における負荷要因の把握に関しても、ま たメンタルヘルスの不調について早期に対応する方策についても、すべて労使の自主的 な取組を行うことを前提として、有効な方策について国やその他の機関が支援を検討す るという枠組になっているのです。割増賃金の割増率とか、不払残業への法的規制とい う国の立場からの対応ももちろん大いに議論されるべきことなのですが、今申し上げた ような具体的な労使の自主的な取組があって、それを国や地方公共団体が支援するとい う枠組については、今現在どういう取組が実際になされているのか、そういう現状を数 値統計だけではなくて、きっちり把握をした上で、それをどういうふうに支援をし、促 進していくかという視点も併せて議論をしないと、法律上こうすべきだということだけ では、少し議論の内実が不足するのではないかという気がします。前回の意見要旨の趣 旨から見て、自主的な取組の実質といいますか、そういうものをまず私自身としては知 りたいと思います。それに対して国や地方行政がどう支援できるかという枠組で議論し ていくべき問題だと思うのですが、その点いかがでしょうか。労使の方にお聞きしま す。無理に発言は結構ですが、私の意見としてお聞きいただければ結構です。 ○新田委員  言われているのは、職場でというか企業内でどのようなことをやっているかというこ とですね。 ○渡辺(章)委員  はい、そういうことです。 ○新田委員  NHKの中でいえば、例えば昔の中央放送局単位みたいなものがあるわけですが、そ こに組合の関東支部、関西支部のようなものがありますが、そこの労使で時短推進委員 会を作るとか、それはきちんとチェックをしています。何よりも三六協定の更改の時 に、全部労働時間のデータを出して、それでどうするのかを議論して目標を定めながら 進めております。その中にはもちろん休暇の取得の問題も出しています。  例えばオリンピックのような4年に1回の大イベントではなくても、地域的なイベン トの時にどうなるのかということも含めて議論をして、その時間の対応をやるとか。あ るいは長期の仕事のスパンがあれば、休めないときがありますから、この仕事の後どう いうふうな形で休みを取れるかというところも含めて議論をしていくとか、そのような ことを積み重ねています。その背景としては、法的にそれが努力義務という書き方であ ったとしても、法律上明示されますと経営はどう向き合うのか、どう実現するのかにつ いて、責任を感じますし、組合もそういうことの実現を求めますから、例えばそういう 委員会を設置するとか、具体的にメンタルヘルスの施策を作っていくとかいうことにな っていきます。そういう意味では、そうした枠組が法律などで決められていなければ、 なかなか進まないのではないか、責任を感じてもらえるのかなというところはやはりあ ります。そのように思っています。 ○須賀委員  別の視点で、割増率の関係で私も先ほど発言しましたので、その関係の実態を紹介し ておきます。私どもの努力が足りないのも事実ではありますが、組織率がご承知のよう な状況です。その中で労使が自主的に割増率を高めて、超過労働を抑制的にしていこう という努力はしているのですが、いかせんそれは20%の組織でしかやられていない。労 働組合がある所はよろしいのでしょうが、それ以外の8割の所はやはり法規制をベース において割増率が決められているのではないかと思います。  先ほど紹介をしました「仕事と生活の調和に関する検討会議」の報告にもあります が、均衡割増率は50%少しぐらいであるということが平成14年の数値で出ています。そ うしますと、新しい人を雇うよりも、超過労働をさせた方が経営側にとっては楽なので す。したがって、それが法定の下限である25%の割増率にどうしても引きずられるのが 現実ではないでしょうかと、私どもは考えています。そういう意味で法定の水準の引上 げが、一定の長時間労働を、特に超過勤務を減らしていく意味では重要なのではないか と考えるわけです。 ○谷川委員  企業側から言いますと、私どもの事例が必ずしも普遍性があるとも思っていません が、やはりメンタルヘルスの問題は近年の労使間の中では、かなり大きなウエイトを占 めている問題ではないかと認識をしています。会社としては経営ビジョンの中に、従業 員の幸福や、あるいは自己実現ということを掲げているわけですが、労使間では中央に おいては「環境安全フォーラム」という極めてフランクに意見交換をできる場をもって います。工場ごとには「労働安全衛生委員会」も定期的に行っています。  特にメンタルヘルスが何に起因をするのかは、特定は難しいわけですが、万が一、長 時間の労働時間によるという部分があれば、そこである程度「気づきと早期チェック」 ができるということであるなら、その段階でお互いにチェックをして、早期治療、早期 回復をしたいと考えております。長時間労働については、定期的に、個人のプライバシ ーの問題もありますが、産業医からこういうデータが上がれば連絡を行って、本人が問 診をしたり面接を受けるということはしています。これの効果がどの程度出ていますか と言われると、なかなか難しいのですが、メンタルヘルスというのは社員の健康管理 上、極めて重要なウエイトを占めているということは、私は否めないのではないかと思 っています。もっと良い方法があるのなら、そういう時間だけの問題なのか、あるいは もっと違う因子があるのか、あるいは複合的な要素によって起きているということであ るなら、そういう部分を少しでも早く方策を見出しながら、健康的で生きがい、働きが いのある会社生活ができるような状況をつくっていくべきではないかとは思っていま す。 ○紀陸委員  私どもの基本的な認識を含めてなのですが、労働時間の問題を考える場合には、時間 の長短だけに焦点を当てて論議をして良いのかという点を冒頭に申し上げたいと思いま す。  労使のいちばんの目的は、長期的に皆さんが働ける場を確保していくということだと 思うのです。その場合に日本の賃金水準が結構高いとか、これだけの国際競争の中で企 業が何とかして生き延びていくためには、その高い賃金水準を前提に、賃金は簡単に下 げられないという前提の下で、いろいろな雇用の組み合わせをしていくことになるわけ です。その雇用の組み合わせの中で、労働時間の長い人も短い人も出てくる。それをま た調整するために裁量労働を使ったり、いろいろなみなしの形態を工夫するわけです。 そうしたことを個別の企業の労使の中でいかに納得ずくでうまくやっていくか、そうい う点が非常に大事だと思うのです。  だから個別企業の事業主に対して割増賃金を25%から50%に上げてくれとか、そんな ことは容易に労使の交渉の中でも出てこないのではないでしょうか。極めて賃金水準が 低いからトータルで上げてくれというのはあるかもしれないが、個別企業の中ではそう いう話よりも、大きな関心事はどうやって雇用の安定に寄与していくか、その点に大き な関心があるのだと思うのです。須賀委員が言われたように、労使で何をするか、そこ は個別企業の中でいろいろな手立てをやっていて、そこはなかなか見えにくい面がある わけです。制度改定の場合にどこに着目をするかというと、いろいろな企業でさまざま な事情があるでしょうけれども、これから労使が望むところをいかに実現していくかと いう手立てを、いかに法制度の面でやっていくかという点だと思うのです。  資料1の2頁目の(2)(3)の所に使側の見解が端的に要約されていますが、「長短二極 化」というだけに止まらず、働く人のニーズもさまざまですし、企業の仕事の仕方もさ まざまになってきておりますので、雇用の多様化に合わせた労働時間の運用の仕組みが 必要なわけです。私どもは制度面ではもう少し裁量が効く制度とか、もっと進んでエグ ゼンプションといった制度の導入とかいう点に目を向けて論議してほしいと思うので す。いつまでも労働時間の目標が1,800時間でいいとかいう論議をしていても、実はあ まり意味がないので、制度改正を急がないと部分的には技能レベルの高い労働者の確保 すらままならないという企業も多いわけで、そういう柔軟な働き方という点にも目を向 けてほしいと思うのです。(2)と(3)の所には経営側の大きな意見が集約されています。 この下に既に個別経営でこんなことをやっているという点は、改めて組合の方々にご認 識をいただきたいと思うのです。 ○山口委員  前回も申し上げたのですが、使用者の方が言われている資料1の2頁目の(2)と(3)の 部分について、否定するものではなくて、私たちは各企業内労組が多く、そういう所が きちんと対応していることやいろいろな知恵を使っていることは認識しています。  実際に私も企業内の労働組合を抱えていますから、労働時間の短縮については大変な エネルギーを労使ともに使っています。そこから例えば要員計画を変えたりとか、仕事 そのものを大幅にカットするとかいうことをしながら、労働時間の短縮を進めていくと か、あるいは労働者の労働時間は無限ではなくて有限ですから、働いていればいいのか というと、やはり睡眠時間、生理的な時間も確保するし、家庭の中での、あるいは自分 自身のリプロダクト的なところも使わなくてはいけないということで、有限である労働 時間を、どう効率よくしていくか、もう大変なエネルギーを使っているのが実態です。  それは先ほど須賀委員からあったように、労使できちんと議論ができるところは知恵 を出しながら、あるいはいろいろなことを一つひとつ合意に基づいてしているのです。 そういう実態の部分で私たちが議論をするのではなくて、これは法律といってすべての 労働者をカバーする時点で、何を議論しなくてはいけないかというレベルで考えると、 インテリジェンスを主とした労働をしているという人たち、そういうところの方向性は 見つめながらも、今、だからといって長時間労働で精神を病んでいるとか、家族も振り 返ることができないような人たちを放置して、そこに向かうということではないのでは ないか。そういうことをここで議論したいのです。  むしろ組織化して労使がきちんと議論しているような所ではどんな議論をしているか というのは大体分かります。みんな共有していたり、新たな知恵がないかということで 情報交換をしています。そういう組織がない所では、この労働時間について企業は、労 働者代表とどういう議論をしているのか、どういう努力をしているのかということを、 私は逆にお伺いしたいと思います。時間の長短だけで言っているのではなくて、現状あ ることをいろいろ集約すると時間が長いということで表現しているのですが、それだけ に拘って議論をしているわけではないということはご理解いただきたいと思うのです。 労働組合がない中小企業の中では、どういうふうに時間短縮を進める議論を社内でして おられるのかを、もしお聞かせいただければと思います。 ○原川委員  私も詳しい具体的な例というのは、たくさん持っているわけではないのですが、中小 企業では組合のないところでも労使委員会みたいなもの、いろいろな何々会といった名 前をつけておりますが、そういう所で定期的に労使が懇談をして、その時その時のいろ いろな課題について、どうしたら解決できるかという話し合いはしています。もちろん これは全部がやっているわけではないと思います。数字は分かりませんが、そういうこ とをやっている所も多いと聞いています。  先ほど労働組合のない未組織の所について残業が多い、あるいは取締まりのないとい うようなご意見がありましたが、これは法律で取り締まるしかないというご意見もあり ましたが、本日私が提出した「労働事情実態調査」の平成16年版、今年の7月に行った 調査ですが、残業時間のデータについて、労働組合と労働組合がない所を比較して調べ ているのがあるのです。2万769の事業所のうち、労働組合があるのが1,646で、1割ま ではいっていないのですが、労働組合のない所が1万9,123ということで、これらを比 較しますと、労働組合のない所は平均で月の1人当たりの残業時間は8.84時間です。労 働組合がある所は14.13時間というふうに、労働組合のない所の方がもちろんサンプル は多いわけですが、それでも8.84時間となっております。全体で労働組合のある所は約 1,600事業所ですが、それほどサンプルも少なくはない。そういう調査の結果を見ると、 必ずしも労働組合が組織されていないからといっていい加減なことをしているというこ とではないので、これははっきり申し上げておきます。 ○山口委員  組織化していない、労働組合がない所が長時間労働であるとか、いい加減なコントロ ールをしているということで言っているわけではなくて、実態を把握できないので、ど のような形でしているのかをお伺いしたかっただけなのです。  一方では、労働組合がある所であっても不払残業が実際に起こっていることが残念な がらあるわけなので、これは完璧ではないのです。一方では労働時間短縮推進委員会を 設置してくださいと言っても、実際、多いのか少ないのか分かりませんが、581件しか ないということからすると、今言われている所がすべて浸透しているわけではない。言 い過ぎかもしれませんが、放置されている所もあるのではないかということで、実態を 知りたかったのです。中小企業とか未組織の所が長時間労働の温床であるとかいう決め つけはしていませんので、それだけは訂正をしておきたいと思います。 ○田島委員  長時間労働の問題、先ほどの不払残業の問題に加えて、過労死の問題やうつ病の者が 増えているという問題がありますが、これは労働時間だけが原因ではないと思うが、こ れは労働時間で一定の制限をかけるしかない。長時間労働も認めるということではなく て、一般労働者についても1,800時間に近づけていくという施策に継続的に取り組まな ければならないと思います。  中小企業の現実では、実は私どもは中小企業の組合ではないのですが、時間外労働の 限度基準について特別条項に係る改正が行われたときに組合から「困ったな」という声 が出たことがあります。これはどういうことかというと、時間外労働の手当が生活費に なっているという現実があるということです。先ほど、紀陸委員が「日本はもう高賃金 だ」と言われましたが、地方や中小企業、あるいは非正規の人たちを見ると、日本は高 賃金などと言っていられるような現実はなくて、やはりどう時間外労働で生活費を稼ぐ かといった現実がまだまだあります。そういう意味では、労働時間についてやはり1つ の目標値は掲げていくべきだろうと思います。  使用者側の主張の(2)、(3)が強調されましたが、例えば(2)の「一律の労働時間目標 」は今まで1,800時間、一般労働者もパートも1,800時間ですが、一般労働者は長くな り、短時間労働者は短時間労働者でまた長くなっていく。そうすると、一般労働者の目 標値はいくらにするべきか。使用者側としては、一般労働者と短時間労働者について明 確に区分けする中で、一般労働者の労働時間について目標値を定めることについてはど ういう見解なのか。私などは定めた方がいいだろうと思うのですが、どうなのでしょう か。 ○西村分科会長  今回の検討課題がまさに時短促進法をどうするか、特に1,800時間という目標をどう するかということでした。使用者側の方、いまの件についてご意見があればお願いしま す。 ○平山委員  時短促進法で1,800時間という目標を掲げた。この意味は現実に現れているという点 が相当あると思います。我々の産業でいえば、とにかく時短の議論をどうするか。それ を現実に制度化していくにはどうすべきか。このようなものは一発ではできませんか ら、徐々にやっていく。そういう取組があって、現実に時短を進めてきた。  先ほどから法定で縛るような感じがありますが、あくまでもこれは国としての運動と いうような目標値で、これに向けてそれぞれの労使、あるいは国がいろいろな支援をし ながら、総合的にどこまで目標に到達するかということで区切りを付けたということだ と思います。国の支援を受けて、労使関係がないところでも現実的にこの議論をやって きていたという成果があると思います。  そういう意味で、あの当時、平成の初めのころの国際関係、労働生活環境や国際関係 を見て、今後国としての明確な教育ビジョンを持って取り組むべきではないかというこ とでやってきた。これについて言えば前進したということをかなりの部分は認めていい のだろうと思います。今、ここまで来て1,800時間を当時のように目標時間のような感 覚で考え、さらに先ほどからお話が出ているようにある種「規制値」的に捉えて、長時 間労働をさせないためにどうするのかという議論をしなければならないものでしょう か。先ほどの議論は「規制値」的なものを入れるか否か選択をしなくてはいけないとい う議論になっているのではないでしょうか。選択をして、1,800時間に新しい意味合い を持たせて継続しようではないかということでしょうか。そういうことになると、当時 の目標ビジョンとはまた違う意味合いでの議論が当然必要になるかと思います。  私は紀陸委員が言われた点がいちばん根っこにあると思いますが、この国のいろいろ な産業の中で雇用者をたくさん抱えている産業群がグローバル化してきています。その 市場の中で、日本で働く場所を確保するために努力する。これは経営がというよりは、 労使が間違いなく努力しながらやってきている。こういった活動をすることと、労働者 の生活とのバランスをどう取っていくかという中で決まっていくのでしょうし、議論が 収斂していくのだと思います。そういうときに、例えば一律の尺度で労働時間というも のをいろいろな業種、いろいろな職種、それからいろいろな国際的な競争条件、マーケ ット条件といったものが、かつてよりは広がりや多様性を持つようになってきている中 で、いちばん根っこにある大事なものを労使で確保していこうというとき、労働時間の 問題というのは現実に言うと労働条件問題も、賃金問題もそうですし、時短問題もそう ですが、非常に大きな点になります。そういう意味で競争条件などが多様化している中 での労働時間に対する見方が非常に大事になるのだろうと思います。その意味で一律と いうのは非常に難しいと考えます。  先ほどの(3)のところに「知的集約労働」と書いてあります。私も製造業にいますけ れども、例えば大量に作って、コストを安く、良い品物を供給をしていきましょうとい う時代から明らかに変わってきていると思います。それだけであれば、中国等の方がは るかに強い。コストだけではなくて、やはり商品とか先端技術、マーケット戦略など、 「知的集約労働」という言葉が合っているのかどうかは知りませんが、ただ、こうした 人たちの成果がこの国の働く場所を獲得しているというのは、いまも相当はっきりして きているし、これからますますそうなるのだろうと思います。そういったことまで含め て、一律の時短を従来のように目標値とするだけではなく、規制値的にも捉えていくと いうのは、日本の労働環境を本当に考えたときには問題があるのではないかと思いま す。 ○和田委員  過重労働やメンタルヘルスの話が出たので、過重労働・メンタルヘルスの検討会を取 りまとめた者としてコメントしたいと思います。過重労働とメンタルヘルスを一緒に取 り扱いましたが、内容はかなり違います。過重労働による脳・心臓疾患というのは、睡 眠時間から逆算した時間外労働の長さというのがかなり効いてくるわけです。今までの 例だと、大体、月の残業時間が100時間相当以上になると急速に発症数が増える。その ようなデータはどこでも出るわけです。すなわち、時間外労働の量である程度規制がで きるわけです。  メンタルヘルス、過労自殺の場合は、普通の人が睡眠時間が5時間以下、すなわち、 時間外労働が大体100時間から120時間以上という場合に少し増えるというデータしかな いわけです。過労自殺の場合は感受性、あるいは業種、仕事の内容、ストレスなどの方 が大きく効いているというデータが出ているわけです。それにより、時間だけで制約し て決めてしまうというのはちょっと無理があると思います。  したがって、過重労働に対しては100時間以上のものに対してきちんと管理しなさい ということを提言しました。メンタルヘルスに関してはもちろん労働時間も関係するけ れども、労働時間を少なくして予防できるというのは一次予防ですが、それは難しい面 が非常に多いわけです。非常に短い残業時間の人でも自殺しているわけですから労働時 間を制約することだけでは予防できない。むしろ二次予防を中心にしたらどうかという ことで、早期発見、早期治療対策という線を一応出しているわけです。したがって、メ ンタルヘルスに関しては、政府に対して、一応必ずチェックしてくださいと言っていま す。あとはどのように早期発見をするかが重要で、家族が早く知ることが多くなるよう に、家族を重視しなさい、とにかく、早く見つけてすぐ対処できるようなシステムを作 ってくださいということを提言しています。メンタルヘルスに関しては、時間では括れ ないということです。企業の中での各々の人間関係のあり方やストレスの感じ方も違う ことから、各々の企業できちんと労使で話し合うことが重要であるため、国としては、 全体としてそういう枠組を作るという方向しか出せなかったということです。 ○小山委員  先ほど、紀陸委員からも割増率の引上げの問題について、個別の労使関係ではそのよ うな要求は出てこないというお話がありました。状況がいまどうなっているかという と、大きな企業はそのようなことはないのですが、中小企業では法定の25%よりも協約 で30%から35%を取っているところも多くあったわけです。中小ではそこを法定の25% に下げるという会社からの提案があって、労働組合も呑まざるを得ないというケースが ずいぶん増えています。これはもちろん、そのような経済環境の中で企業間競争が厳し く、コスト競争がある。これ以上労務費コストは上げられない、どこを下げるのか。賃 金をそのまま下げるということも緊急避難的にやってきましたし、時間外労働の割増率 も下げるということでやってきました。これは結局、労務費コストを下げるという、1 つの目的に時間外労働の割増率を下げることを個別の労使の中では行わざるを得なかっ た。  これは個々の労使の中でいくらやっても、どうしても解決がつかない問題なのです。 ですから、法的な規制ということがないと、そこで社会的に公正な競争も確保できなく なるわけです。私は特に個別の労使の積み上げではなくて、法的な規制できちんと割増 率をアップするという取組をしていかないと、長過ぎる労働時間を短くすることができ なくなるのではないかと思っています。  日本が他国よりも高い割増率の設定になっているというならば分かるのですが、他国 よりも逆に例外的に低い割増率になっているのが実態です。そうした観点で考えると、 長さを制限していくというところはおっしゃる点が分からなくもないのですが、どこが 問題かというと働き過ぎていること、労働時間が長過ぎることをどのように規制してい くのか。そういうことをしていかないとならないのではないか。先ほどの過重労働の問 題も問題がどんどん拡大しているのが現状ですから、どこかで歯止めをかけるというこ とをやらないと、それが時短促進法の議論をする場においてまさにいちばん議論しなけ ればいけない点ではないかと思います。  もう1つ、先ほど渡辺(章)委員のお話になった労使の努力の点ですが、やはり労使 で努力してやってきたことというのはずいぶんあったわけです。決して多くはないので すが、私どものある職場で「有給休暇を完全取得しましょう」ということを労使の目標 に掲げて、年間の計画をきちんと立てて、職場では職場委員が巡回し、あるいは会社は 管理職にきちんと、計画的に有給休暇を取得するようにということで、100%有給休暇 を取得しようということで達成してきている職場もあるのです。  これはやはり労使でしなければならない。組合が強ければできるという問題ではなく て、労使の協力があって初めてできることだと思います。ですから、使用者側の皆さん も労働時間のあり方、あるいは有給休暇の取得ということについて、コストだけではな くて、今の働き過ぎ等の問題を含めて、社会的な責任においてきちんと労使で取り組む という姿勢を見せていただかないと、コスト論だけで議論されたらそれこそ安く、長く 働けばいいということになってしまいます。是非、そういうご議論をお願いしたいと思 います。 ○西村分科会長  いま小山委員のおっしゃった論点というのは、労働時間政策に関わる重要な論点だろ うと思います。誰も多分否定しないだろうと思います。他方、紀陸委員が「それだった ら裁量労働やエグゼブションの問題もある」という話になってくると、議論はずいぶん 拡散してしまう。放っておけば、平成18年3月31日で時短促進法というのは切れるわけ です。それでいいのかということに、少し御議論を集約していただきたいと思います。 多分いろいろな論点があって、確かに大事なのでしょうが、ここで1度には議論できな いので、また別の機会を設ける必要があろうかと思います。ちょっと、整理をさせてい ただいて恐縮です。  時短促進法が平成18年3月31日で廃止されることをにらんで、それならばそれでいい ではないかということになるのか。いや、やはり労働時間政策というのはこの法律に関 連して重要であり、いろいろな可能性がある。その点について、少し具体的に議論をし ていただければありがたいという気がします。 ○今田委員  確認をしておきたいと思うのですが、長時間労働の人たちが増えているということ は、今日お示しいただいたデータではっきり出ているわけです。年々、長時間労働者の 層が拡大している。  そういう意味で、長時間労働についての認識は労働側はもちろんでしょうが、使用者 側においてもきちんと事実として確認をしておかなければいけないのではないか。そこ が出発点になるのだろうと思います。  さらに昨日、私どもの研究所で研究会があって、長時間労働やサービス残業について の発表などがありました。要するに長時間労働者が増えているのですが、さらに不払の 部分が増えているというデータが出されました。つまり、事業所を対象にした調査で従 業員が何時間働いているかというデータと労働者個人が個人的に申告した労働時間との 間に乖離があって、かなりそれが拡大している。つまり、それは事業所が確認して回答 した労働時間よりも、働いている人たちが申告している時間のほうがはるかに上回って いるということです。それが年々拡大をしているという状況を、我々はしっかり受け止 めなければいけないのではないか。多様化が進行して、その結果、労働時間が短い人も いれば長い人もいる。いろいろ増えてきているということです。  一方、最初の問題、長時間労働の人たちが増えて、さらにそれがもっと長時間化して いるという現実についてはごまかせない事実だと思います。先ほど和田委員がおっしゃ った精神疾患は長時間労働だけが問題ではないというのは、長時間労働が問題ではない という意味ではなく、もちろん長時間労働は過重労働に結びつくけれども、メンタルな 部分は長時間労働だけでなく、その要因はもっと複合的であるという意味であり、やは り長時間労働は問題であるということだと思います。  長時間労働が肉体的な病気、事故というものに結びついているという実例が現実にあ るわけです。それは労働者側だけではなくて、使用者側においても大きな課題であるわ けです。企業の効率性からいっても、そうしたことに対して十分対応することはまず重 要な課題として位置づけられると思います。多様化が進んでいる、その中で二極化が進 んでいる。そこでの問題というのは、長時間労働に対する何らかの枠組というか、それ をうまくコントロールできる枠組を労使で考えていかなければいけないということだろ うと思います。それが1つです。  もう1つ、多様化ということは取りも直さず、長時間労働が可能な人もいれば、短時 間労働の人もいるといったように、いろいろな働き方をする人が増えているということ です。ゆえに労働時間についての柔軟な対応、柔軟な労働時間管理の枠組も同時に大き な課題として生まれています。こうした中で、画一的な1,800時間というスローガンに 基づいて、平均値を下げるというような枠組は、ある意味では適合的でない側面を今日 では持っているのかもしれませんが、労働時間管理をきっちり行うということは今日に おいて、さらに重要性を増していると思います。示されたデータや御議論を総合する と、労働時間管理について労使が十全に取り組めるような仕組みが今日において重要で あるということなのだろうと思います。  和田委員も関わっておられますが、安全衛生分科会でも今述べた問題について議論が 始まっています。ここでの議論を煮詰めていくうちに、安全衛生分科会の議論も煮詰ま ってくるでしょうから、相互の情報交換を図ることにより、より労使にとって良いもの を見つけていくことができるのではないかと思います。経営側にとっても極めて重要な 課題であると思いますので、労使にとって効果的な、意義がある労働時間管理の枠組を 新たに構想することが是非必要なのだろうと思います。 ○佐藤(雅)委員  長時間労働の話が出ましたが、今日の資料の中で、先ほど説明があったように産業別 ・業種別で長い業種、あるいは職種が出されました。その辺の背景というか、原因につ いて押さえていることがあるのかどうかお聞きしたいのが1つです。  それから、先ほどの1,800時間の目標の問題なのですが、これまでの間、目標設定を されて、企業労使でそれに向かって相当なエネルギーを使って、実際に先ほどから出て いるように一定の効果はあったと思います。これは多分、日本全体でやったときに、日 本の社会を変えるという意味が非常に強く、働きバチの世界からは変わっていくのでは ないかということでやってきたのだと思います。  確かに、数値的にはいろいろデータがありますが、現在の日本を見たときに使側も、 労側も、全国民の意識としてですが、労働時間の見方が変わったのかどうか。  変わっていないのではないでしょうか。1,800時間という数値目標がなくなったとき に長時間労働の問題など、個別に分析は当然必要ですが、その辺の意識が結局薄くなる のではないかという非常に強い危機感を持っています。閣議決定により政府経済計画の 中では数値目標は消滅したそうですが、そういった数値目標は何らかの形で必要ではな いかと思います。  もう1つ質問なのですが、前回のデータで諸外国の労働時間の実態が出ています。日 本、アメリカ、ヨーロッパと数値が二極化しているように思いますので、その辺の原因 や理由等があれば教えてください。以上です。 ○労働者生活部企画課長  今日提出した資料の中で、産業別の総実労働時間のデータがあります。それぞれの産 業によって若干のバラつきがあるわけですが、それはそれぞれの産業の事情に対応する 面がおそらくあるのではないかというのが1つです。もう1つ、全体の合計の下に一般 とパートを区分けしています。総実労働時間は一般とパートを足し合わせたものです が、それぞれの産業でパート比率が違っています。パート比率が高いところもあれば、 低いところもあるということが全体としての産業別の総実労働時間の差異に影響してい るのではないかと考えています。2点目は必ずしも、質問の趣旨に十分答えていないか もしれませんが。 ○佐藤(雅)委員  前回の資料の中に、日本、アメリカ、ドイツ、フランス等を比較したデータがありま した。日本とアメリカがほぼ一緒ぐらいで、ドイツ、フランス等は1,500時間台という データだったと思います。その違いというか、実際本当に労働時間が少ないということ なのでしょうか。データの取り方がちょっと違うのではないかと思うのですが。 ○勤労者生活部企画課長  これはデータを出来るだけそろえるという意味で、全労働者の平均ではなく、製造業 ・生産労働者であれば各国のデータから推計できるということで、比較ができるように 定義をそろえて取っています。そういった意味での差はないのではないかと思っていま す。 ○荒木委員  アメリカは要するに時間外労働の規制がないわけです。50%の割増賃金を払えば、長 時間労働者であってもかまわないという国なのです。イギリスは、成人については労働 時間の規制を行ってこなかった。これは現在のEU指令を国内法化するために、対応に 苦慮しているという状況ですが、もともと労働時間を規制してこなかった。このため、 アメリカ、イギリスは長時間労働なのです。  フランス、ドイツは労働時間の長さ自体を直接法律で規制してきた。時間外労働につ いても年間の上限を決め、割増賃金と同時に時間外労働の時間数自体も規制してきまし た。ただ、ドイツは1994年以降法律を改正し、割増賃金という規制をやめて、全部、代 償的な休日で対処することとしたのですが、社会実態から言うと、そういった規制はす べて協約でやっているから法律による規制がなくなっても状況は変わらないという実態 があります。そういう経緯から、フランス、ドイツは労働時間が少なく、かつバカンス を取るという文化的な背景もあってしっかり休んでいます。統計の取り方ではなくて、 やはり現に少ないのだと思います。  アメリカは最近、『働き過ぎのアメリカ人』とか、いろいろ本なども出ていますが、 やはり競争が激しくなると働くし、高い割増賃金も両方に作用する面があるわけです。 高い割増賃金であればペナルティーともなりますが、より高い賃金を求めて残業をどん どんやるという場合もあります。こうしたこともあって、アメリカは時間が長いという ことになっているのではないかと思います。 ○田島委員  今の御説明に関連して、日本の場合、有給休暇の取得率があまりにも低いと思いま す。どんどん下がっていますし、5割にも到達しない。これはやはり労働者の権利意識 が低いからなのか、あるいは前回も前々回も出ていますが、「休めば周りに迷惑がかか る」とか「要員不足」といった理由からでしょうか。この理由も複合的だと思います が、そういうところがやはり長時間労働の1つの要因になっていると思います。  有給休暇の取得率がこれほど低い、あるいは最近また下がっている傾向について、厚 生労働省としてどのように分析しているのかをお聞かせいただきたいと思います。 ○労働者生活部企画課長  これは前回の資料3−1、10頁をご覧いただきたいと思います。年次有給休暇の取得 について、どう考えているかということを労働者に聞いた資料です。この中で「ためら いを感じる」方が23.4%、「ややためらいを感じる」方が45.2%となっています。ため らいを感じる理由としては、「みんなに迷惑がかかる」という方が58.7%、「後で多忙 になる」が42.3%などとなっています。こういった状況が、年次有給休暇の取得が必ず しも進んでいないことに影響しているのではないかと考えているところです。 ○岩出委員  私自身は年休の取得促進のためには、計画年休がいちばんいいと思っています。普及 率などの資料はありますか。 ○労働者生活部企画課長  年休の計画的付与のある企業割合は、平成14年度で12.7%となっています。 ○荒木委員  ヨーロッパでバカンスをきちんと取れているのは、法制度が日本と全く逆だからだと 思います。日本は労働者が年休の時季指定権を持っています。非常に労働者に都合が良 いようなのですが、結局のところ周りに気がねして言い出せないわけです。  ヨーロッパは使用者のほうに時季を特定する権利があるし、一種義務もある。したが って、年間カレンダーで最初にどの人がどこでバカンスを取るかを決めてしまうわけで す。労働者の意見を聞きながら決めてしまう。それにより、この人は夏の8月1カ月は いないということで操業計画を立てます。  日本はそうではなくて、労働者が言ってこない限り、使用者は何もしなくていい。言 い出すかどうかは労働者が周りの顔を見て決める、というシステムだからうまくいかな い。ということで、計画年休制度というものを入れてあるわけです。いまの話だと12.7 %ということで、本当に日本で年休を取らせようと思えば計画年休制度をきちんとやっ ていかないと、個人に「いつでも好きなときに取っていい」と言っているだけでは結局 今までと変わらないのではないか。そういう構造的な点がヨーロッパと日本の違いでは ないかと思います。 ○田島委員  その場合、いわゆる使用者側が権限を持っているのだったら、取得率が低ければ罰則 やペナルティーのような制度はあるわけですか。 ○荒木委員  ありません。 ○田島委員  それはどうしてでしょうか。 ○新田委員  どうして、そのような経営者の意識があるのですか。歴史的に積み上がったものなの でしょうが、何なのでしょうか。 ○荒木委員  そこは哲学的な話になります。もともと、労働というのが苦役だと思えばそうしなく ていいという法律に変えたり、そうしないのが当たり前だということになるのでしょ う。日本には、働くことが一種、自己実現的なものがある。その辺が関係しているのか もしれません。 ○新田委員  私などもそうなのですが、いろいろなことが言われているのですが、仕事をやはり第 一にしてしまうのです。そのことが結局、労働時間に反映してしまう。遠慮して、休暇 も取らないという意識も仕事をするところや、あるいは自分の仕事というものを大事に 考えているということだと思います。  そのような意識はものすごく大事なのですが、先ほども私たちの側が言っています が、1,800時間というものを掲げて進もうではないかと言って進んできた。そのことが 実は、いろいろな考え方を変化させ始めていると思っています。今回、1,800時間をな くすとどういうことが起こるのか。働くこと、あるいは自分の時間、自己啓発、いろい ろなことに目を向けて取り組もう、やってみようという意識は、例えば1,800時間とい うこの法律がきれいさっぱりなくなったとき、また元へ戻るのか。いや、これだけの土 台が意識の面にもあるからより変化は進むのだ、働く場だけを大事にするのではなく て、自分たちの生活全体を見渡しながら大事にしていくという方向に行くのだという考 え方については、私はなかなかそういかないのではないかと思います。  この先も、やはり働くことが中心になると思いますし、そうでないと多分生きていけ ないのだろうと思います。その中で、いま現実に起こっている長時間労働は何をもたら しているのかを考えれば、1,800時間というこの法律を守っていくべきではないか。も ちろん、ここまで来たのは社会的な合意というか、企業経営の中で言えば労使の合意の 中でやろうではないかという一定の意思確認みたいなものがそこはかとなくというか、 暗黙というか、そういうものがあって来た。会社の外へ出れば、時短をやらなければ恥 ずかしいということもあったのだと思います。  ある先生が哲学という言い方をされました。これから我々はどのような世の中に住ん でいくのかということから言えば、1,800時間を掲げてどうこうという部分がないほう がもっといいのです。どういう世の中を作ろうかと言えばやはり働くことが中心であ り、現に長時間労働がいろいろな影響を及ぼしています。そういうことを少なくしてい こうということになれば、やはり目標を持たざるを得ない時期ではないかと思っていま す。「ここまで来ています、どうするのですか」という意味ではやはりきちんとした目 標を持って、日本社会が進んでいくのは方向性を持ちながら課題として確認していくこ とは大変大事ではないかと強く思っています。 ○廣見委員  今、いろいろな形で議論が出されています。考えてみると、基本的に私たちに与えら れた課題というか、この場で一定の結論を得るべく努力しようとしている課題は、中心 的には時短促進法が間もなく期限切れを迎える。これをどうするか。結局、時間短縮と いうことに向かって中心は労使の努力、その核を持ちながらそれを国、ないし自治体等 が援助していく。こういう仕組がいまの時短促進法だろうと思います。  これをどのようにするのかということですので、今の議論をお聞きしていても確かに 一足飛びに、「なくす」のがいいのかとなると、折角ここまで進んできたわけですし、 さらに今労働時間をめぐって今縷々問題が出ているような現状ですので、そのような問 題をどう対応していくのかということになります。私はやはり、基本的にはそういった 枠組は維持していくことを考えたほうがいいのではないかと思います。  ただ、会長からご提示いただいたように、時間短縮だけの問題でいえばその他の手法 もいろいろありますが、そこまで議論が発展すると、労働基準法制の問題などの議論に なってまいります。これはまた別の大きな問題として置いておくとして、今の法律の仕 組ということを考えれば、今申し上げたようなことから基本的には維持したほうがいい のではないか。  ただ、そこで目標の1,800時間だけでいいのか。それはまた1つの課題になっている のだろうと思います。これについてはいろいろご意見があるのだろうと思いますが、や はり少し画一的過ぎるのではないか。この10年なら10年ぐらいの動きを見ても、大変に 多様化してきています。そういう中で、これからも労働時間短縮に向かって努力をして いこう。労使がお互いに思いを新たにしながら取り組んでいくとしたとき、そこにどの ような目標を掲げながら、どのような考え方を決めながら進んでいくのかというのは現 実に即して議論されるべきである。  そのときに、もう既にいろいろ出されているわけですが、やはり1つはあまりに働き 過ぎることの健康障害の問題、具体的には過重労働に伴う問題、あるいはメンタルヘル ス等、長時間労働の絡んでいる問題があります。ですから、長時間労働というものにつ いてどのように対応していくのか。あるいは、これもいま具体的に議論に出ていたよう に年休の取得の問題をどのように考えるのか。こういうものももう少し具体的に取り組 んでいくことで、目標を持ちながらやっていく。そういう仕組をきちんと持ちながらや っていこうではないかとなれば、そういう問題に対するもう少し具体的な進め方、目標 の考え方、あるいは国としての支援の仕方といったものをここで議論して、一定の合意 を得ていくことになっていけばいいのかなという思いがするわけです。  いずれにしても、基本的には何らかの時間短縮をさらに進めるという目標を持ちなが らも、それをどうやって進めるのか、それは何が問題なのか。あまりにも多様化してい るし、二極化しているという現状で言えば、そこから生じてくる個々の問題にどのよう に対応していくのか。それを国がどのように支援していくのかという具体的な問題をい くつか、主要な問題点について整理していくことができれば、それがまた今後の枠組に なっていけばという感じがしています。そういう形で整理ができないものか、個人的に はそのように思っています。 ○荒木委員  廣見委員の意見に賛同するところが多いです。要するに、時短促進法というのは労働 基準法などと全く違うシステムなのです。労働基準法は罰則付き、行政監督付きで、最 低基準を守りなさいという法律です。それに対して、時短促進法というのはほとんどの 規定が努力義務規定からできている。その中で「時短促進委員会」という労使同数から なる委員会が1つ特徴的なのですが、基本的には努力義務の体系であります。努力義務 によって、一定の雇用システムを誘導していくのが有効か、有効ではないかというのは 大変議論があります。  先ほど新田委員からもご指摘があったように、そのような枠組や努力目標が設定され ていて、そこで労使がターゲット、ターゲットというのは最低基準で守られているもの ではなくて国の方向、あるいは働き方の方向をどうしていくというターゲットを掲げる ことは有効だと思っています。これはいろいろな日本の労働行政でやってきた、雇用平 等でももともとは努力義務だったものが時間を経て禁止規定になったということがあり ます。そのような政策の一手法として、「ソフトロー」という言葉がありますが、ヨー ロッパなどのように何でも罰則で禁止して「するな」ではなく、もっと誘導的な、ソフ トローという手法を使って誘導するほうがいいのではないか。こと雇用関係については その国の文化、働き方に対する意識というものがありますから、日本では、その方がう まくいく可能性が高い。  この時短促進法というのはまさにソフトローの1つの体系である。これがもうすぐ廃 止されようとしているわけですから、折角のシステムであるならばより現実に、いま何 がシステムとして問題なのか。  年間実労働時間1,800時間というのは、パートタイムをどんどん増やしていけば平均 では1,800時間になってしまうわけです。これだとあまり意味がないという議論がされ たのだと思います。そうではなくてより具体的に、働いている方が「そうだ、そういう 方向にいかないといけないな」という新しいスローガンに掛け換える。そして、新しい 目標として設定する。そういう枠組として使えたら非常に有効ではないかという気がし ます。  前回、今回と議論がされたのは、働くということ、これは自己実現でもありますから 良いことでもあるのですが、それが健康の障害となっては本末転倒で、とんでもないこ とであるということです。それから、非常に多様化してくると仕事というのは人生の一 部であって、自分の暮らし、社会の中でのあり方、仕事と生活をどう調和させるか。こ ういったことは、おそらくどなたも否定されない目標だろうと思います。 労働時間を1,800時間と設定したときは歴史的にも日本が非常にコスト削減を図って、 安い製品を集中豪雨的に外国に輸出する。そうすると為替で調整され、その結果、もっ と安くしようとなる。やってもやっても為替で調整され、これだけ働いても全く意味が なかったではないか。結局、何かというと、日本は長時間働いて安い製品を作ってけし からんということだったわけです。それであれば、国として労働時間を短縮して、欧米 と同じような働き方をしようということで1,800時間という目標が設定されたという経 緯があります。そういう観点から見ると、今は総実労働時間はアメリカと変わらないも のとなった。ですから1,800という数値自体が、そういう意味から言うと平均で達成し ていてもあまり意味がない。もっと我々に切実な問題として、働き手にアピールするよ うなものを新たに議論する方向があり得るのかなと思っています。 ○渡辺(章)委員  先ほど私が発言したのは、前回配付された資料3−1で「仕事と生活の調和に関する 検討会議報告書」の抜粋が19頁以下にあります。それに続く資料を見て、ある意味で非 常に「なるほど」と思ったのは、育児休業や介護休業、妊産婦等に対する勤務時間短縮 の措置について、労働組合の有無別の具体的措置を講じている企業の割合の調査があり ました。やはり、労働組合がある事業所とない事業所を比較するとさまざまな措置の取 られ方に格段の差がある。労使交渉の結果、そういうものがよく話し合われていろいろ な措置が具体的に取られている。非常に努力がなされていることがこの調査から分かる わけです。  したがって、時短促進法がいま荒木委員の言われたように基準法と違い、法的な制裁 の裏づけのない、言わば国民運動の目標を掲げるという性質ならば、労働組合と使用者 が実際に必要に応じて取り組まれている課題を調査結果から見る限りは、やはり育児や 介護といった家庭生活へのニーズに対応して、組合がきちんとある所ではない所に比べ てはるかに高い比率で具体的措置が話し合われている。あるいは、母性保護のための勤 務時間短縮措置についても、調査の結果を見れば労働組合があるところのほうが格段に 雇用労働者のためになる措置を講じている。  メンタルヘルスについても、さまざまな衛生委員会の設置状況も調査が出ています。 これもまた組合が真剣に取り組んで、ない所よりもはるかにそういうものが充実してい るという一面の調査結果もあるわけです。仮に数値目標に変わるものとすれば、先ほど 出た「哲学」などという抽象的な言葉しかないのですが、家庭生活との両立、少子高齢 化の問題も含めて社会的なニーズに労働時間の仕組がどう適合していくか。そこのとこ ろを具体的な目標として、そういうものと両立するような方向に労働時間全体のあり方 を向けていくことが大切なのだと表現し切ることができるかが今後の課題かなという感 じがします。もちろん今田委員の言われた、現実にある長時間労働の問題もさることな がら、労働時間管理のあり方についてある意味できちんとしたものを出すということは 大切だと思います。 ○勤労者生活部長  今までのお話で、法律の条文を整理するということで申し上げますと、現行の時短法 は目的規定からしてストレートに労働時間を縮めることが具体的な行為として書かれて います。  最終目標はゆとりある生活の実現と国民経済の健全な発展ということでした。これに 向かうために、定量的に労使の枠組を利用して迫るというスタイルになっています。そ の際、この法律には1,800時間とは書いてありませんが、計画レベルで1,800時間を入れ たのは、実は1,800という数字は何か医学的な見地から積み上げているといった数字では なくて、前に、ちらっと申し上げた数字を換算していただくと分かるのですが、完全週 休2日制、さらにいわゆる休日以外の国民の休日が15日ぐらいあります。さらに、年次 有給休暇20日を完全に使う。これだけで365日のうち、働ける日が226日になります。そ れに所定労働時間8時間を掛けると1,808時間となります。  そういうことを頭に置きながら、モデルケースとしての1,800時間を考えていただく と分かりやすいと思います。そして、いま言った点はゆとりある生活を実現するために 定量的にはいま言った数値、1,800時間を表に出しましたが、定型的な働き方もいま言 った説明で同時にしています。すなわち、完全週休2日制といったスタイルにしていこ うということがここでは言われています。年次有給休暇もしっかり取得しよう。それが 駄目な場合も恒常的な残業はやめよう。お休みの日、国民の休日をしっかり休もう。そ のうち、定量的な部分だけを取り上げて法律化し、計画などでその裏づけをし、まさに 今議論されている年休の方はどうか、産業別ではどうかといった個別の議論をしながら 定型的な部分を直そう。そのような仕組でいままでやってきました。  現状ですけれども、定量モデルになった典型的なパターンはまさに一般の労働者の方 でして、パートの方などあまり念頭に置いていなかったのは事実であります。ここまで やってきて、当時は2,000時間を超えていたので1,800時間を掲げることは非常にインパ クトがあり、定量を掲げることで定型の部分を具体的に直せばということでここまで来 たわけです。仮に今、この1,800時間がなくなったからといって、定着した週休2日制 が後退するとは考えられません。ですから、この1,800時間がなくなるから、今言った 労働時間が逆に戻るということはまずないと考えていいのではないかと思います。そう いった場合に数値の扱いをどうするかということが論点になるのだろうと思います。  もう1つ、労使の自主的な集まりの中でこういうものを議論していく際、罰則規定を 伴わない中で今まではどちらかというと職場の時間管理をどう設定するか。先ほど言い ましたように完全週休2日制で休んだ、恒常的残業をしないということがありました。 ところが、今、渡辺(章)委員が言われましたように、今後は職場以外のところで使う 時間帯にもう少し重きを置いて職場の時間管理にフィードバックさせる。育児、介護と いった社会的に重要なものも企業社会の中で考えて労働時間をどのように設定していく か。そして、働き方に合わせて時間を設定していくという、むしろ定量より定型の部分 が今後時間短縮を進める上で重要になってくるのではないか。そういう意味では一般労 働者、短時間労働者の割合が1,800時間を掲げたころとうんと変わってきているという 現実をとらまえて、定量・定型のどちらを重視した形で今後の自主的な対応をしていく かに少し重きを置いていただければと思います。  その大前提として、そういった枠組を議論するためにも、基準法に関わるような基本 的な議論も今紹介していただいたようにいろいろご意見があります。そういったものも 当然頭に置きながら、この基本的な部分については当初、立上げのときに申し上げたよ うに、別途しっかりとした議論をするということで、今言った時短の推進の枠組の定量 化、あるいは定型化かといった整理をしながら議論を詰めていただければ助かります。  さらに先ほど言われた過重労働、メンタルヘルスの点について、労働時間というもの が重要だというメルクマールはあるけれども、メンタルな場合は時間だけではなくてほ かの要素ということもあります。そういった意味で、職場における時間設定をどうする かということが重要な課題になっているという捉え方ができないかと思います。 ○小山委員  「定型化」というのは具体的にどういう意味合いを指すのですか。定量というのは数 値だということは分かりますが、定型といったときはどうなるのですか。 ○勤労者生活部長  例えば、働く時間をどう設定するか。育児や介護をされている方などについて、こう いう方々の労働時間をどうするか、家庭に帰す時間をどうするか。そういった時間管理 の設定をしてあげないと、有給休暇の請求権のように権利だけあるということになる。 請求権というのはなかなか発動しにくいという風土があります。ヨーロッパの場合は使 用者の義務とされていますから、義務を履行しないということ自体に相当抵抗があっ て、不履行ということになると困るから使用者は必ず有給休暇を取らせます。それぐら いの観念になっています。その間を取って計画付与という日本的な仕組みでどうかとい うのが先生方の提案であるし、努力はしているという状況です。 ○小山委員  そういうことを「定型化」というのですね。 ○勤労者生活部長  はい、そういう意味です。 ○和田委員  医学的に見て、例えば過労死とか過労自殺というのは定義はしやすい。しかし、医学 的に見た場合にレベルはかなり高いところにあるわけです。時間外労働100時間とか、 そういったところが今問題になっているのであり、現在の会社の労働時間を対象にする 場合は特殊な人をつかまえてきちんと面接しなさいという枠組になっているわけです。 むしろ、今おっしゃったように、ゆとりある人間生活や介護、育児のためにということ を目標にするべきであり、過重労働や過労死を理由づけに労働時間の問題を論ずること にはあまり賛成しません。 ○岩出委員  実際、健康診断で有所見率が6割ぐらいになっているという実態があるわけで、過労 死、過労自殺の問題だけではないと思います。全労働者の問題になっていると思うの で、やはり労働時間を論ずる際に健康の問題にも配慮するという位置づけは必要だと思 います。 ○須賀委員  これまで、時短法に基づいて設定されていた1,800時間というのは、非常に大きな役 割を果たしてきたと思います。それぞれおっしゃっておられたように、「社会法理」と いう言い方をしたり、あるいはシンボリックなものとしてこれがやられてきて、それに 向かって緩やかな枠組の中で労使が努力してきたのは事実です。今、現実に確かに1,853 時間という数字が出ていますが、この1,853時間の中身に私どもは問題意識を持ってい ます。一方で、総実労働時間がだんだん短くなってきたのも事実です。  先ほど部長がおっしゃったように、だからといってこの枠組を外してもおそらく元に は戻らないと思います。でも、国民合意的な中身で「よし、やっていこうではないか」 という目標のようなものがこれからも必要だと思います。それが先ほど部長がおっしゃ ったような、「定型」という言葉がいいのかどうかも含めてこれからよく議論をさせて いただきたいと思います。  そのときに非常に大事になってくるのは、労働時間の概念がかつてと比べて非常に変 わってきたのではないかと思います。何時間働いたらこれだけの成果が出るという形で はなくて、何時間働いてもゼロの成果の場合もあるという働き方も含めて、いまいろい ろなパターンが出てきた。その労働時間をどのように管理をするのか。これは当然、管 理の結果として先ほどから議論になっている「賃金不払」の問題、あるいはそれに対す るペナルティーをどうするかということも含めて、働く時間をどのように捉えるかがこ れから議論をしていく上でのポイントになってくるのではないかと思っています。ここ についても、是非議論をいただきたいと思います。  そのときに、経営側からいくとどうしてもコスト意識に走ってまいります。労働側か ら言うと権利意識に走っていく部分があるのですが、これをいかにマッチングさせるか というのがこれから新しい局面での労働時間を検討していく上でのある意味でのポイン トになってくるのではないかと思っています。この点も含めて議論させていただければ ありがたいと思います。 ○西村分科会長  そろそろ時間がまいりました。本日の分科会は特にご意見、ご質問がなければ以上で 終了させていただきたいと思います。事務局には本日いただいたご意見を十分整理し て、次回の審議につなげていただくようによろしくお願いしたいと思います。特に何か 新しい目標というか、新しいターゲットという議論がずいぶん出ていました。その点に 少し焦点を移したような論点の整理をお願いしたいと思います。  それでは、本日の分科会はこれで終わりたいと思います。最後に、次回の日程のご案 内をお願いします。 ○労働者生活部企画課長  次回の「労働条件分科会」ですが、11月16日(火)、午後1時から、場所は厚生労働 省17階専用第21会議室において開催する予定です。よろしくお願いいたします。 ○西村分科会長  本日の分科会は以上で終了します。なお、前回の議事録署名を山口委員と原川委員に お願いしたいと思います。今回の議事録署名は佐藤雅是委員、渡邊佳英委員にお願いし ます。どうもありがとうございました。                (照会先)                  労働基準局勤労者生活部企画課(内線5349)