04/10/14 第1回臓器提供意思表示カードに関する作業班議事録           第1回臓器提供意思表示カードに関する作業班              日時 平成16年10月14日(木)              会場 厚生労働省専用第17会議室  永野補佐  定刻になりましたので、ただ今より、第1回臓器提供意思表示カードに関する作業班 を開催いたします。本日は初回の会合ですので、まず、各班員の先生方のご紹介をさせ ていただきます。  東海大学法学部の宇都木先生でいらっしゃいます。  明治大学法学部の新美先生でいらっしゃいます。  上智大学法学研究科の町野先生でいらっしゃいます。  神戸大学法学研究科の丸山先生です。  名古屋大学法学研究科の山本先生です。  また、本日は参考人として社団法人日本臓器移植ネットワークの菊地コーディネータ ーにご出席をいただいております。  次に事務局の紹介をさせていただきます。  臓器移植対策室長の片岡でございます。  臓器移植対策室の斎藤主査でございます。  臓器移植対策室の永野でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  片岡室長  それでは開催にあたりまして、一言ご説明させていただきます。この臓器提供意思表 示カードに関する作業班で、お手元の資料1の開催要領にございますように、厚生労働 省の健康局長の私的懇談会でございますが、その位置づけは厚生科学審議会疾病対策部 会臓器移植委員会の作業班でございます。目的、検討事項などは記載のとおりでござい ますが、今回ご議論をいただきますのは、臓器提供に係る意思表示カードの書面の有効 性などに関しまして、専門的な観点から検討をお願いすることといたしております。  この作業班の班長につきましては、親委員会であります臓器移植委員会の委員長でい らっしゃいます黒川委員長のご指名ということになっておりますので、そのご指名に基 づきまして、新美先生にお願いすることとなっております。それでは、これより議事進 行につきましては、新美班長にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたし ます。  新美班長  それでは、今の目的にしたがって、作業班の作業を進めてまいりたいと思います。本 日が第1回目ということでございますが、資料がお手元に配布されているかと思いま す。まずは事務局から、資料についての確認をさせていただきたいと思います。  永野補佐  お手元の資料の確認をさせていただきます。資料の右上に番号が振ってあります。資 料番号の1番が、「臓器提供意思表示カードに関する作業班開催要領」でございます。 資料2が、「臓器提供意思表示カードによる意思表示について」でございます。資料3 が「臓器提供意思表示カードの個別事例についての論点整理」でございます。資料4が 「臓器提供意思表示カードの変遷」でございます。  新美班長  どうもありがとうございます。お手元に資料はおそろいでしょうか。それでは、確認 していただいたかと思いますので、早速議論に入りたいと思います。本日の作業班の論 点といいますのは、まず第一に、カードの記載について明確でないところを、どう扱う かということですが、具体的には臓器移植法で提供についての意思表示を求めていると いうこと、そして、それまでの提供の意思表示カードについて、必ずしも完備されてお らず記載が不備であるという事例を見まして、これが提供の意思表示と言えるかどうか というようなことを議論しまして、明日の、厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員 会という長い名前の委員会に対して報告することとしたいと思いますので、2時間程度 しかありませんが、既に皆様方、問題点等も認識されていると思いますので、立ち入っ た深い議論をしていただきたいと思います。まず資料についてご説明をさせていただき たいと思いますので、事務局のほうからお願いします。  永野補佐  事務局より、お手元の資料についてご説明をさせていただきます。資料番号、2番の 「臓器提供意思表示カードによる意思表示について」につきまして、まず、ご説明をさ せていただきます。  こちらにつきましては、5月6日の臓器移植委員会でも議論していただいたところで ございますけれども、まず臓器移植法の考え方、1番でございます。臓器移植法の基本 理念といたしまして、第2条第1項および第2項で、臓器提供に関する意思は尊重され なければならない--これは提供する意思、提供しない意思、ともに尊重されなければな らないという意味でございます。それともう一点が、臓器の提供については、決して強 迫されたりしたものではなく、任意にされたものでなければならないというふうに規定 されております。  さらに6条で、臓器の摘出の要件について定めておりまして、6条の1項におきまし て臓器を提供する意思、3項におきまして脳死判定に従う意思を書面により表示してい ることを要件としております。ただ、この6条では書面の詳細について定めておりませ んので、実際にはQ&Aなどの運用レベルで書面の詳細について定めております。もちろん このドナーカードが、今、意思表示を簡便に行うために配布されていますけれども、ド ナーカードに限らず遺言などでも可としているところでございます。  1枚おめくりいただきまして、逐条解説やQ&Aでどういうふうに書かれているかとい うところをご説明します。2ページの参考1のところでございますけれども、まず逐条 解説。これは11年の3月に出たものでございますけれども、ここの6条のところで、 「書面による承諾」の意義というところでございますけれども、この書面がどういうも のを要求するものでなければならないかというふうなところでございます。ここで定め ておりますのは、下線部のところで、基本的には摘出および判定に同意する旨と本人の 署名、および署名年月日の3つが記載されていることが必要最小限の要件であると解さ れるというふうに書いております。  ただ、次のページでございますけれども3ページの質疑応答集のQ2で、現在の意思 表示カードおよびシール以外で意思表示の可能な書面とは具体的にどのような書面であ るかという問いに対しまして、そこの答えでは、記載内容は一般的には、まず第1番 が、提供する意思および提供する臓器の種別を記載しなければいけないというふうに定 めております。ここは、たとえば私どもが考えておりますのが、眼球は嫌だとか心臓は 嫌だというふうな意思表示をしたいという人に対する配慮というふうに理解しておりま す。続きまして2番目で、本人の意思表示であることを確認できる記述、通常は自筆署 名。3番目で署名年月日。この3点が必要であるというふうにしております。  続きましてQ3でございますけれども、これは実際、ドナーカードで、たとえばこの 黄色いドナーカードをお手元に配布させていただいておりますけれども、1番、2番、 3番というふうな数字がつけられていないけれども、他の記載が適正に行われているよ うなケースについてはどう扱うか、というふうな問いに対しまして、1枚おめくりいた だきまして4ページのアンサーでは、提供に関する意思表示は家族の忖度により補完す ることはできず、書面に記載されている事項のみをもって判断するというふうな扱いと しております。  これらの運用につきましては、今まで行政レベルでやってきたものでございますけれ ども、今回、ご検討いただきたいと思っているポイントといたしまして、大きく分け て、意思表示カードの記載不備の事例として1番目が、まず意思表示の内容が不明確で あるというふうに判断された事例について、その記載内容から意思表示を汲み取ること ができないか、というふうなことでございます。2番目といたしまして、書面の有効性 が確認できないと判断された事例について、本人が生存中に行った意思表示であるとい うふうに取り扱うことが適切な事例はないか、というふうなことでございます。  ここで別添1をご覧ください。次の5ページになりますけれども、当時、立法時に国 会でどのような審議がされたかというふうなところを記述しております。5ページの下 のほうの平成9年6月11日の参議院臓器の移植に関する特別委員会での答弁でございま すけれども、下のほうの福島豊先生の答弁の下線部分で、これはもともとの問いが、対 案で金田案あるいは猪熊案というふうな案が出ておりましたけれども、そちらで記載し なければいけない事項として、署名年月日と本人の署名が必要であるというふうなこと を法律で書いていましたが、この当時、福島先生が提案者であった中山案のほうで、そ の署名年月日と署名を要件に加えるというふうなことは考えていないのか、というふう な問いに対しまして、5ページの下の部分、下から3行目ぐらいのところでございます けれども、この法案の提案者の考えといたしましては、仮に作成年月日の記載がなくて も本人の瑕疵のない真正な意思表示に基づく書面であれば有効であるというふうに、ま た、本人の瑕疵のない真正な意思表示であるかどうかを個々具体的に判断することが重 要である、というふうに考えていると述べられております。  続きまして6ページ、7ページ、別添2のところは、前回の臓器移植委員会で議論し ていただきました内容を抜粋させていただいております。  続きまして8ページでございますけれども、こちらは参考といたしまして、民法は署 名と署名年月日を必要としておりますけれども、ここの部分について瑕疵がある事例に ついてどういうふうな判例を出しているかというふうなところを資料でつけさせていた だいております。  続きまして別添4、9ページの横のグラフをご覧ください。これはネットワークのほ うに、臓器移植法が施行されてから寄せられた情報でございますけれども、その情報の 内訳がどうなっているかというところでございます。これまでに820件の情報が寄せら れ、うち、脳死下臓器提供は502件の意思表示をしていただいているというところでご ざいます。ただ、いちばん上の棒の右のほうにあります記載不備というところが105件 あるというふうになっております。ここのところを後ほど議論していただければという ふうに考えております。  続きまして、お手元の資料3をご覧ください。今の105件の記載不備につきまして、 内訳がどういうふうになっているかという資料でございます。お手元の資料3の1ペー ジ目のところでございますけれども、まず、大きく分類いたしまして意思表示の内容が 不明確であるというふうに判断されたものでございます。これは法律で脳死判定に従う 意思と臓器を提供する意思を要件としておりますので、ここを満たすことが絶対条件と いうふうに考えて運用してきたものでございますけれども、実際、どういう事例が生じ たかというふうなものでございます。  まず1ページのA−1で、番号に○がなくて、臓器には○をしていただいて、あとの 署名年月日、本人署名などはきちんと記載されていた事例が、記載不備105件のうち65 件、パーセンテージで61.9%ございました。この点につきまして、これまでの私どもの 解釈が、1ページの下の論点1のところでございますけれども、番号1に○がないこと から、他の記載は正しくされているけれども脳死判定に従う意思と臓器提供を行う意思 が書面により表示されていないというふうに判断してまいりました。ただ、これをまた 別の視点から見ますと、これだけ臓器に○をしていただいて、他の記載もちゃんとされ ているので、1番のところは単に番号のつけ忘れであって、脳死判定に従う、臓器を提 供するというふうな前提のもとで、提供したい意思を明確に示していただいているのだ から、本人の生存中の意思は十分汲み取れるのではないかというご意見もあると考えて おります。  続きまして2ページでございます。A−2ですが、こちらは今のとちょっと変形みた いなバージョンになっておりますが、番号と臓器に○がなくて、その他の括弧内に「全 部」でありますとか「全臓器提供」といったことを記入していただいた事例が3件ござ いました。こちらの解釈も、前と同じように、番号に○がないということから脳死判定 に従う意思や臓器を提供する意思が明確にされていないというふうに判断してきたこと と、それから、提供したい臓器がすべてというふうなことを書いていただいているんで すけれども、同じカードの中で×をつけた臓器は提供しませんというふうなことがあり ますので、たとえば○という意思表示ではなくて、×という意思表示であるのかもしれ ないというふうな考え方もしてまいりました。ただ、こちらも、先ほどの1ページのA −1と同じように、提供したいという意思を持っていらっしゃるという前提、あるいは 脳死判定に従うという意思表示を持っていらっしゃるという前提のもとで、「全部」と 書いていただいたという解釈もできると思います。  続きまして3ページでございます。Bで、番号1および3の両方に○をしていただい た事例が8件ございました。こちらの解釈といたしましては、提供したいという意思と 提供したくないという意思が、両方示されていることになりますので、意思表示の内容 として不明確だというふうに判断してまいりました。  続きまして4ページ、Cでございます。番号3に○と×の両方を記載していただいた 事例が、これまでに1件ございました。この点についての私どものこれまでの解釈が、 論点の1番の、番号1に記載があって、提供の臓器も明確にされていますけれども、3 に○と×がありますので、たとえばですけれども、○を先にしたのか×を先にしたの か、○が最後だったのか×が最後だったのかというふうな、いわゆる最終的な意思表示 がどちらだったのかというふうなことが明確でないというふうに判断してまいりまし た。ただ、これをまた別の視点から考えますと、1番に○があって提供したい臓器も表 示されておりますので、普通に考えると3番に○と×が両方記載されているというの は、番号3に○をつけたものの、勘違いをしていたので×をつけたというふうに考える ことが適当なのではないかというふうに考えられます。  ここで想定例としまして、こちらは実際には起こっておりませんけれども、たとえば 1番に○と×の両方を記載していただいたような事例でございますけれども、これは臓 器を提供したいのか提供したくないのかというふうなことが不明確だというふうに判断 されると思います。  続きまして5ページでございます。(2)の提供する臓器が明らかになっていないと いうふうなものでございまして、これは提供する臓器についてまで必ずしも法律で意思 表示を求めているわけではございませんけれども、運用上、臓器の種類も明らかにして いただくこととしてまいりました。ここで生じてきましたのが、5ページのDの、番号 1に○があるけれども、臓器に○をしていただいていない事例が20件ございました。こ の点につきましては、これまでの私どもの解釈が、論点の1番の、提供する臓器につい て何を提供したいかということを明確に示していただいておりませんので、意思表示の 内容として不明確だというふうに考えております。  ただ、これは2つほど、違った視点からの解釈が考えられると思いますけれども、1 番に○がしてありますので、論点の2番でございますけれども、提供したい臓器は明ら かでないけれども、たとえば家族などの身近な方の証言によって、提供したい臓器が明 らかになっているような場合だけ、提供という取り扱いもできるのではないかというと ころでございます。ただ、こちらは、これまでの運用ですとか立法趣旨を踏まえまし て、本人の忖度というものはまったく考えられておらず、書面上明らかな意思表示のみ を採用するというふうなことを運用でしてまいりましたので、ここのところとの兼ね合 いがどうなるのかというところでございます。  3番目でございますけれども、こちらは1番に○をしていただいておりますので、こ れは当然にすべての臓器を提供するという意思表示ではないかというふうなことでござ いますけれども、ただ、×のつけ忘れという可能性もあるかと思います。  続きまして6ページでございます。2番の、書面の有効性が確認できないというふう に判断したものでございます。6ページのEの、本人の署名と家族の署名の記載を逆に していただいたような事例で、こちらは外見上はその本人の意思表示であるか家族の意 思表示であるか、まったくわからないので、これまで本人の意思表示であると判断でき ないとしてきたところでございますけれども、たとえばこの記載されている家族の方以 外の第三者の方の証言などによって、本人の意思表示が明らかというときには有効なカ ードとして取り扱ってもいいのではないか、という解釈もできるかと思います。ただこ こも、第三者の証言について「本人意思の忖度」に該当しないか、という可能性は考え られると思います。  続きまして7ページの想定例でございますけれども、こちらは2番が署名の年月日と 本人署名がない場合、3番が署名年月日があり本人署名がない場合で、どちらも署名年 月日がない場合は本人の生存中の意思表示であることを確認できないというふうに判断 してまいりました。  続きまして1枚おめくりいただきまして、8ページでございます。こちらは、(2) といたしまして意思表示カード自体が矛盾のある書面になっていると判断したものでご ざいます。大きく分類しまして、Fで署名年月日があり得ない日付になっているという ものが5件ありました。その内訳でございますけれども、F−1が、署名年月日が法律 施行前で、うち1件は生年月日を記載していただいたような事例でございました。ここ につきまして、これまでの私どもの解釈が、論点の1番の、法律施行前に行われた臓器 提供の意思表示は有効なものとは言えないというふうにしてまいりましたけれども、た だ、別の視点から申しますと、カードの発行年月日について、だいたい、いつのときの カードかというのは、これまでのカードの発行の様式の変遷などを見てまいりますとわ かりますので、そのカードの発行日以降に意思表示の記入が行われたということは自明 であるというふうな解釈のもとで、最新の意思表示かどうかということを確認すればい いのではないかという解釈もできるかと思います。  次のページでございますけれども、F−2で、こちらは実際にこういう事例もあった けれども別の理由で結局、臓器提供に至らなかったというふうにうかがっております。 新様式のカードに、新様式のカードが発行される以前の記述を記載していただいたよう な場合で、この事例の場合は、新様式のカードに古いカードの日付を転写してしまった ような場合、というふうにうかがっております。こちらも、このカードは意思表示とし て他の点は満たしているんですけれども、ただ、あり得ない日付になっているというこ とで、これまで私どもは有効な書面として扱ってこなかったところでございますけれど も、こちらも先ほどの事例と同じように、カードの発行日以降に意思表示の記入が行わ れたのは自明なことであるというふうな解釈もできます。  続きまして9ページの下のほうの想定例で、署名年月日がない場合をどう扱うかとい うことも考えていきたいと思います。こちらは今までの解釈でいきますと、たとえば、 こういうカードが出た場合は、署名年月日がないので有効な書面ではないというふうに 判断してきたと思いますけれども、ただ、先ほどの2例と同じような解釈もできるかと 思います。  続きまして1枚おめくりいただきまして10ページ、いちばん最後のページでございま すけれども、これは本人の署名のみ記載していただいたような事例で、こちらは意思表 示が不明というふうに解釈されるかと思います。  また、資料4といたしまして、これまでの意思表示カードの変遷というものをつけて おります。以上で事務局の説明を終わらせていただきます。  新美班長  どうもありがとうございました。ただ今の説明をうかがいながら、資料をご覧になっ ていただいたと思いますが、ご質問、ご意見等がありましたら、お願いいたします。順 序としましては、資料2の臓器移植法の考え方等、それから検討のポイント、これをま ずご議論いただいて、そのあと別紙の個別事例ごとにご検討をいただきたい。そして、 それを終わったあと、全体にわたってご議論をいただくということにしたいと思いま す。それでは、どうぞご遠慮なくコメントをお願いします。  宇都木委員  表題全体としては、カードによる意思表示ということになっているわけですが、これ はカードを扱うのか、それとも意思表示全体を扱うのか。今まで、このカードでない意 思表示によって移植された例というのはあるんですか。  菊地参考人  ございません。  宇都木委員  ないんですか。そうすると、実質的にはカードの扱いということですね。  片岡室長  今日は書面全般ということではなく、このカードについてお願いしたいと考えており ます。  町野委員  だけどカードのことを議論すれば、当然、全体に及ぶということは、避けられないで すよね。このカードのことを議論するということは、書面による意思表示全体のことを 考えながら議論しなければいけないということですから、これだけを個別的に切り離し てやるという問題ではないだろうと思います。  片岡室長  はい、そうです。  新美班長  そういう意味ではカードが当面の検討対象ですけれども、もっと奧にある、基本的な 意思表示をどうするかということでしょうからね。  それでは、私のほうからひとつうかがいたいんですが、町野先生も、親委員会のほう で議論されていますけれども、かなり形式主義を採用しているわけですね。その経緯 は、どういうところにあるんでしょうか。というのは、これは手形、小切手と同じくら いの厳格さ、あるいは遺言そのものと言ってもいいくらい厳格なんですが、経緯からい って、そこまで要求した理由は何なんでしょうか。  永野補佐  古くからの経緯までは把握しておりませんけれども、ただ、この臓器移植法が施行さ れまして非常に世間の注目もありましたし、情報公開などもすべてすることとなってお りますので、書面の形式的な部分について非常に厚生労働省のほうとして厳格な運用を してきたというふうな経緯があるかと思います。  丸山委員  施行の際の室長が、朝浦さんでしたでしょうか、あるいはあと一代前かもしれません けれど、そのご講演をうかがって、非常に成立の際にもめたというか困難な法律、法案 だったので、透明の上にも透明な運用を、慎重の上にも慎重な運用を、行政としてした いというようなことを講演でおっしゃっていたのを聞いた記憶があります。ですからい ちばん手堅いところということで、そういう解釈をなさったのではないかというふうに 思います。  新美班長  それとの絡みですけれど、資料2の4ページで、家族の忖度で意思を推し量ることを しないということをやっているんですが、意思表示というのは必ず解釈するわけですよ ね。忖度と解釈とは、どう違うんでしょうか。  丸山委員  私も同じようなことを考えて、やはり民法ですと意思表示の解釈で書面に書かれてい ることから本人の意思を確認する、確定する、ということが、この問題を取り扱う基本 的な観点かと思うんですけれど、今の永野さんのご説明を聞いても、家族の人が発言す るのを参考にする際は、忖度という扱いに飛んでしまうというか、家族の意向を尊重す ると、本人の意思を忖度しているというふうな理解がなされ、これまでもそういう見方 が強かったと思うんですけれども、書面で表された意思表示を、その内容を確認すると いうことであれば、家族の意見を聞く際にもその意思表示の真意は何であったかという ことを確認する、家族の証言を求めるというような見方もあっていいんじゃないか、 と。契約書の解釈などでしたら、書面だけで意思が確定できないことについては、書面 に限ってその証拠を認めるとか、あるいは書面外の口頭証拠も認めるとか、そういった 議論がありますので、そのあたりの見方も取り入れていただければと思います。  町野委員  4ページのこれは、行政解釈だったわけですよね。そのときの意図は、わかりません ので、推察するしかないのですが、臓器移植法ができるまでの議論で、本人の明示の意 思表示はいらない、家族が忖度すればそれで足りるという議論があったので、これは、 それを否定したものだというコンテクストで書かれたということだろうと思います。書 面による意思表示が必要だということは、既に法律によって確定しているわけですか ら、その意思表示の内容を確定するのとこれは別の問題なんですよね。それをかなり混 同されたのではないかというふうに私は思います。書かれた人が誰かは、ちょっと知り ませんけれど、そういうことではないかと思います。  新美班長  今の町野先生のご発言は非常に大きなポイントだと思いますけれど、他にいかがでし ょうか。今、丸山さんと町野さんがおっしゃったように、この意思表示というのは書面 だけで全部表せといっても、必ず解釈が入るわけですので、その解釈にあたって家族の 証言を参考にできないというのは、ある意味で非常に、きわめて形式主義の最たるもの ということになってしまうわけですね。そのへんが、不明確なカードという扱いを多く しているんじゃないかという気がします。他の論点でも結構ですが、いかがでしょう か。  丸山委員  もうひとつ、これも押さえておいてほしいんですが、遺言というのは様式がもう規定 されているものです。この資料の別添3にもありますように、法律に定める方式に従わ なければならないというのが、もう、法律、民法で規定されているのに対して、臓器提 供意思表示のほうは、このカードであってもいいし、まあこれまでに例がなかったんで すが、要件さえ満たしていれば、様式は自由というところがありますから、ですから、 この遺言に関する判決を参照なさるのはいいんですけれど、これより厳しくなるのはな いんでしょうけれども、だけど、これより緩く書面を解釈するというのは、臓器提供意 思表示カードについては認められてもいいというのは言えると思いますね。  新美班長  これは臓器提供の問題ではありませんが、契約書面をどう解釈するかということで書 面のバトルというのは、英米法ではよく言われることですよね。ですから、それに近い ことまでやってしまうのかどうかですね。どこまで書面としての意味を持たせるのか。 これは、あとでまた丸山先生に説明してもらうといいと思いますけれど、書面を要求し たということが、どこまでのことなのかというのは、やはり、きちんと押さえておくほ うがいいんじゃないかと思います。他にいかがでしょうか。論点は他でも構いません が。  山本委員  結局、法律でも生前の意思を尊重するということですので、意思が尊重されればいい ということであって、書面はあくまでもそれを確認するための手段にすぎない。書面が 完全でなければ意思が確認できないということではなくて、その書面から意思が確認で きればいいのであって、完全にこれが全部満たされていなければその意思が無効だとい うことにはならないというふうに思いますけれど。  新美班長  おっしゃるとおりだと思いますが、今の関連でいきますと、たとえば日付というの は、提案者は日付はとくに要求しないと言っていたわけですが、それを書面の中で日付 を要求した。これはいったい、どういうことなのか。たしかに問題事例で、判断能力が あるかどうかわからないというようなときにつくられたのかどうかということが確認で きないときには、それは日付というのは大きな意味がありますけれども、それだって先 程来議論がありますように、このカードがいつ頃つくられたのかというのは、いろんな 人の証言を聞いていけばわかるわけですよね。そうすれば、だいたいこのあたりでご自 身がつくったんだということがわかりますので、そういう補助的な証拠でもって、書面 に書かれた意思の効力を確定していくというのは、これは通常、民法なんかではあたり まえの作業なんですね。それを全部書面上のことでやってしまおうというのは、ある意 味で、たいへん厳格な、厳格このうえないやり方をやっているなあという気はいたしま す。  丸山委員  日付なしのドナーカード、今はドナーカードとは言わずに提供意思表示カードですけ れど、これはどうでしょうか。今、そういう事例が出てくれば、有効と認めるのかどう か、そのあたりになると、私もちょっと、日付がないのはどうかなあ、と。せっかく書 く欄があるのに……。だから決心したとき、すなわち意思表示を固めたときに日付を入 れようと思って、入れないままになっていたカードかなあというような理解もできると 思うんですけれど、どうでしょうか。  新美班長  それはあり得ますね。  丸山委員  ええ。今日来るまでは、日付はやっぱり、この中山案のほうでも、いるんじゃないか と思っていたんですけれど、今日の、先ほどのご説明で、中山案提案者の1人の福島議 員が、こういうことをおっしゃっているのであれば、日付なしでも有効な可能性がかな りあるんでしょうか……よくわからないですね。  町野委員  日付を要求する意味が、どこにあるのかということです。最後まで完成させたところ で提供の意思を最終的に確認するという意味があるということだったら、日付だけでは なくて他のところもみんな同じことがあてはまらなければいけない。日付だけを重視す る意味はないと思います。考え方として、山本委員が言われたような考え方をとるか、 それとも書面のバトルをやるかという問題だろうと思うんです。これはかなり、考え方 の大きな相違だろうと思います。私は山本委員が言われたように、これができたときの 経緯は、おそらくその前からの精神保健福祉法でしょうか、あれに精神衛生法が変わっ たときに、入院について書面を要求したときがありますよね。あのときもかなり大きな 問題だったんですよ。つまり形式的なものを持ち込むのがいいのか、ということです。 しかし、やはりいろんなトラブルが起こるということがあるので、何か残っていなけれ ば具合が悪いだろうというのが行政側の考えだったわけです。臓器移植法のほうも、お そらくそれがかなり強いだろうと思います。つまり、書面を要求したことの意味は、本 当に意思表示があったということの証拠があったということを追認させるものであっ て、意思表示に表れたものからみんな問題にしろということではないだろうと思いま す。後者のようなことなら、それはいくらでも考えられます。たとえば○と×があった 場合、実はあとから○をつけたんだということもあるし、それはいろいろあり得るわけ です。だけどそのときに、やはり本人はどういうつもりだったかということが推認でき れば足りるという基本でなければいけないだろうと思うんです。ああも解釈できる、こ うも解釈できる、それはたくさんあり得るだろうと思います。  新美班長  今の問題に加えまして、署名の年月日の点ですけれど、署名の年月日は、いったいど ういう法的な意味を持つのかというのを考える必要があるわけです。これが遺言だった ら、その意思表示の先後によって、相続の中身が変わってしまいますけれど、この臓器 提供意思表示カードにおいていちばん大事なのは、直前にどういう意思だったかという ことなんですよね。ですから、10年前か5年前につくったものでも、それを一応よしと して、直前まで持ち続けたんだろうというふうに読むわけですよ。どの時点かというの は、そういう意味ではあまり意味がないわけです。言い方を換えれば、直前に臓器提供 の意思表示があった、と。それが自発的であり、かつ誤解などをしておらず、意思表示 として大丈夫だということが認定できれば十分なわけで、問題はだから、このカードに おける署名の年月日というのは、どういう意味があるのかということだと思うんです。 宿題をいただいて私も考えたんですけれど、署名の年月日というものには、どういう意 味があるんだろうか、と。たしかに書いたときに、どういう状況で書いたということの 意味はあるけれども、そのことが臓器提供の意思表示にとって、どれくらいの意味があ るのかと考えると、この、署名をした年月日というのは、いかほどかという気もするん ですよね。  町野委員  ひとつは、やはり複数のカードが表れたということでしょうね。だからあとのほうが 優先するということだろうと思います。もうひとつは、やはり署名の年月日として全然 滅茶苦茶なものが書いてあったり、あるいはあり得ない日だったり、本人が書けないよ うな場合は、これは偽造ではないかという問題はたしかに生じる。それからもうひとつ あり得るのは、臓器移植法の施行前の署名になっていた場合。もし、そのときの意思表 示だったとしたら、これを有効なものとして扱うかどうかという問題はありますよね。 この臓器移植法をさかのぼって適用するか、あるいは臓器移植法を当然の前提でやった ので問題なく適用できるかという問題がある。おそらくあとのほうで、事実上、さかの ぼって適用といいますか、皆さん、そういうお考えだろうと思いますから、そうなって くると、ほとんど意味がないということではないかと思いますけれども、あとは要する に偽造かどうかというような問題しか残らないだろうと思います。  宇都木委員  今は少なくとも、つねに携帯してくださいと書いてあるんですが、もちろん本人の身 体に携帯していない場合、つまり家にあったとか、そういうことも今までにありました よね。  菊地参考人  はい、ございます。机の中に入れておいたりであるとか……。  宇都木委員  わかりました。  新美班長  では、またあとで出てくることもあり得るとして、次に資料3のほうの個別事例につ いてご議論いただきましょうか。  宇都木委員  ちょっとその前に、今日は個別事例について、われわれの意見を書くということなの か、何かガイドラインのようなものを、最終的に文書としてルールをつくるということ なのか、そのへんについてはどうでしょうか。  新美班長  そのあたり、今日のアウトプットの想定としてはいかがでしょうか。  永野補佐  ガイドラインのようなものまでは、今日は想定しておりません。まず、個別事例につ いてご議論をいただきたいと思います。  新美班長  個別事例を参考にして、だいたいの方向性をということですね。  丸山委員  スケジュールとして、これはあと何回ぐらいあるんですか。もう今日で一応、方向性 をつけるということですか。  片岡室長  先生方にご判断いただければよろしいかと思いますけれど、今日、もしもこの個別事 例について、この作業班としての何らかの結論をまとめていただければ、明日、報告し たいと思いますし、まだ今日は途中であれば、明日は中間報告というような形にさせて いただきたいと思っております。  新美班長  それで、間違いなくこれはこうでしょうというのができれば、とりあえずこの事例に ついてこうなっていますという報告にはなるということですね。  片岡室長  はい。  新美班長  それではどうぞ、個別事例についてご意見をいただきたいと思います。かなり判断も 分かれるかもしれませんが。  丸山委員  最初から見ていくんですか。  新美班長  ええ、最初から見ていきましょう。まずは番号に○なしというものですが、それはい かがでしょうか。  丸山委員  法律が制定されたあとで、町野先生が司会をなさって「ジュリスト」で座談会をやり ましたよね。あのときに、移植学会の理事長の野本先生が、カードの見本だというの で、ご自身が署名されたカードを写真で掲載されておりますけれど、番号に○はなかっ たですね。だから、あれほど積極的な方でもつけないということがあるというので、こ のあたりは少し緩く考えてもいいんじゃないかというふうに思いますけれど。  新美班長  番号に○なしだけれども、そのあと提供する臓器については囲んでいるじゃないかと いうことだと思いますが、その点についてはいかがですか。その他ご意見がございまし たら。  山本委員  これは1997年の12月か何かに起こった事件と同じパターンだと思うんです。  町野委員  ただ、ここに書いてあるのは、そのときのカードではありませんね。新バージョンで すからね。  山本委員  ええ。  町野委員  そのときの報告書がこれですので、先ほど山本先生は、それに沿って言われたのだろ うと思いますが。  山本委員  私がこの報告書を書いたんですが、この場合には、やはり臓器について○をすべてつ けているわけですから、しかも1のところに臓器のところで○をつけているわけですか ら、この書面から判断すれば、当然これは脳死判定に従って臓器を提供するという意思 がここから当然読み取ることができるというふうに思いますので、これは当然、有効と してよかった事例ではないだろうかというふうに思いますが。  新美班長  この、山本先生が報告されたケースについて、このカードの有効性について、家族か 何かから証言は得たんでしょうか。  菊地参考人  証言を得た事例もありますし、得なかった事例もあります。ご家族から臓器提供の話 をしていたので、本人の意思に間違いないというような証言を得た事例も、少数ですけ れども、ございます。  新美班長  先ほどの議論でも出てきましたように、通常の書面の解釈だったら、他の証拠があれ ば○がついていなくても、これは明らかに意思表示があるというふうに扱うわけですけ れどね。いちばん堅いところを言うならば、そういう資料で確認していくということが できればいいと思うんですけれどね。理論的にいくと山本先生のお話があったように、 基本的にはこれは有効な意思表示があったと見ていい、と。実務上、少しでも補強する としたら、家族なり友人なりに、本当に作成したのかどうかという証言を得ておけば、 これは十分、安定した有効性が認められるんじゃないかという気がしますけれど。この ケースについて、その点はどうでしょうか。  丸山委員  私もその意見なんですが、このカードの文言だけをとらえると、これまで厚生省、厚 労省とネットワークが運用されてきたのは、○をつけてくださいと書いてあるのに○が ついていないというのは効力がないんじゃないかというふうに言われかねないというこ ともあったんでしょうね。だからこれは、丁寧に指示をすればするほど、その指示につ いてうっかりミスしてしまった場合、救うのが難しくなるという、ジレンマを抱えます ね。  新美班長  おっしゃるとおりですね。わかりやすく細かく書けば書くほど、はずれたらたいへん なことになる。とくに形式主義を採用すると、そういうおそれは強くなるということで すね。ですから先ほど言ったように、忖度ではなくて意思表示の解釈のためにいろんな 補助的な証拠を集めるということであるならば、そんなに難しくはないだろうという気 がしますけれど。他にいかがでしょうか。A−1については、だいたい皆さん、よろし いでしょうか。  町野委員  この、矢印がついたのは新バージョンですよね。山本君が書かれたときは、この矢印 がなかったんですね。それでそのあと、矢印をつけるようにしたんですよ。だからその ために、ますます深みにはまっていったというのが先ほどのお話なんです。  片岡室長  そうしますと他の資料といいますか補強資料がない場合でも、先生のお考えですと、 これは十分に意思表示の意思が明白であるとして取り扱うべきなのか。あくまでやはり 補強資料が必要だということでしょうか。そのへんのお考えをお聞かせいただけません でしょうか。  宇都木委員  補強資料にも積極的なのと消極的なのとがあると思うんです。ですから○を1につけ なかったことについて、ともかく僕は聞くべきだとは思うんですが、それについて積極 的に○を1につけなかったんだという証拠があったとすると、問題だと思うんですが、 そうでない限りは認めていいんじゃないでしょうか。  町野委員  最終的には本人の意思だけではなくて、もちろん遺族の意思表示というものがありま すので、ひとつはもう、本人の意思をオーバーライドすることだってできるわけです。 これは固有のものです。しかし同時に、本人が本当にその意思を持っているかというこ とを確認するということもありますから、現行法ではこういうセーフガードが存在する わけですから、今の宇都木さんのような解釈でよろしいだろうと思います。  新美班長  私もその意見でいいんじゃないかと思います。要するに入口のところで最初からはね てしまう必要はないんじゃないかということですね。このカードを無効だとして、その 後は一切やらないという必要はない。先ほど言ったみたいに本人の意思について家族か らいろんな情報を得るわけですし、それが曖昧だったら家族はノーと言うだろうし、そ ういうことになるんじゃないかと思いますけれどね。入口で締め出すとなると、逆に問 題が大きいのかなあという気はします。他にいかがでしょうか。  町野委員  全部の事例をやるとなると、こればかりやっているわけにはいきませんよね。  新美班長  そうですね、たいへんですからね。じゃあ、1番については、だいたい今言った方向 でまとまったということにさせていただきます。次に、A−2についてはいかがでしょ うか。  片岡室長  補足いたしますと、基本的に「その他」の欄というのは、記載要領では、骨とか皮膚 とか、そういうものを書いてくださいということで、設けている欄でございます。  宇都木委員  ただ、これは解釈の仕方によっては、「その他」のところに「全部を」というのを意 図して記載するということも、解釈としてはあり得ますよね。  新美班長  1個1個ではなくて何でもいいよという意思ですね。  宇都木委員  ええ。  丸山委員  日本の法律だと「全部」というのはないんですね。列挙された臓器に限るので。です けれど、多くのドナーというか、臓器を提供してもよいというふうに考えられる方は、 どれでも構わないということがあると思うんです。そのあたりが、やはりあの法律の制 限というか、やるせないところがありますね。  宇都木委員  ただ、法律に定められているものを全部ということも--もちろん、法律に定められて いないものについてまでは、そんなことはあり得ないという解釈もあり得るとは思うん ですけれどね。  新美班長  今の話で、基本的には法が許していないものは、そもそも提供できないわけですし、 そんなのはいかに本人が言っても公序良俗に反するわけで、法的な意味はないと、そう いうことですよね。  丸山委員  お言葉ですけれど、公序良俗に反するとまでは……。たとえば大腸の移植をやっても らいたいから、私の死体から摘出してもらっても構わないというのは、あり得ること で、公序良俗に反するとまでは言えないんじゃないでしょうか。  新美班長  臓器移植法でそれ以外もやって構わないという理解ですか。  丸山委員  いえ、それはガイドラインで、それ以外はだめというのが……施行規則でしたでしょ うか、どちらかで定められていたと思うんですけれど。  町野委員  いえ、施行規則で定められてはいません。  片岡室長  小腸が施行規則で……。  町野委員  だめというのはないでしょう。  片岡室長  はい、だめというのはありません。  丸山委員  いえ、列挙されたもの以外については認めないというのはありましたけれど。  町野委員  なかったと思うんですけれどね。  宇都木委員  法文は……。  町野委員  規則のほうは、だから臓器の内容として小腸を加えるというのがあるだけであって… …。  宇都木委員  ただ、その根拠の法文の規定というのは、僕はちょっと忘れてしまったんですが… …。  町野委員  臓器についての定義規定はあがっています。  宇都木委員  定義ですか。  町野委員  および規則で定める、そうではありませんか。  片岡室長  はい。  町野委員  そうですよね。ですから、だめというのは法令にはないんですよ。ただ、やはり、そ れは議論として、たとえば脳の移植に同意するとか、あるいは生殖器の移植をどうのこ うのとあったとき、そのときに考えるというだけの話でしょうね。だけど、それについ て公序良俗と言えるかどうかは別として、そういうときは、やはりそれに従わないとい う結論ができるわけでしょうから。  永野補佐  今の点につきましてはガイドラインのほうで、法令に規定されていない臓器の取り扱 いは、「臓器移植を目的として、法および施行規則に規定されていない臓器を死体(脳 死体、脳死した者の身体を含む)から摘出することは、行ってはならない」というふう に規定しております。  丸山委員  なるほど、指針のほうですね。  永野補佐  はい。  町野委員  それは指針であって、法律ではないんですね。  永野補佐  はい。  丸山委員  わが国の場合、指針がもう、規則ぐらいの効果を持っていますからね。  町野委員  ちょっと考えものですね。あまり健全な事態ではない。  新美班長  いずれにしても、「全部」と書いてあっても、許されるものだけだという趣旨ですよ ね。  片岡室長  はい。ただ、こちらは先ほどのA−1と違って、番号にも○がないし臓器にも○がな いので、先程よりも根拠として積極的にとらえるのは難しいのではないかということ で、いろいろ批判が出るのかと考えるのですけれど。  新美班長  いえ、今の点は解釈論として言うならば、○をつけるのと、わざわざ手書きするの と、どちらが意思を明確にするかという点からいくと、「全部」と書くほうが、やはり 本人の意思としてはより積極的ではないかという議論もあり得ますよね、書面の書き方 としては。  山本委員  しかも他の書面で書いた場合だって、いいわけですよね。その場合、べつに○をつけ なくてもいいわけですから、必ずしもそうならないんじゃないだろうかと思いますが。  新美班長  おっしゃるとおりだと思いますね。しかも、仮に意思表示カードに書いていなくて日 記か何かに、意思表示カードを作成したんだ、と。自分はこれとこれとこれを提供した いんだというのを、どこかでわかるように書いてあったら、それだって、あわせてひと つの「書面」ですよね。  片岡室長  ちょっと議論からはずれるかもしれませんけれど、日記は単にそのときの思いを書い ただけということもありますので、必ずしもきちっとした書面としてとらえていいかど うか。というのは、日記に関してはその人の性格にもよるでしょうけれど、恒常的な意 思かどうかというのがわかりませんし、そのとき、その日の思いかもしれないという扱 いになって、日記はだめということになっています。  新美班長  単独の書面としてはそうですが、意思表示カードの中身を確定する補強資料としては 使えるだろうということです。先程来の議論ですけれど、書面というとカードだけとい う意識が強すぎるような気もするんですよね。A−2の扱い方について、他にいかがで しょうか。  丸山委員  議論を進展させるものではないんですけれど、書式としてこのカードを提示する前 に、実際に使うことは少ないかもしれませんが、書面のひな形をつくっておいたほうが よかったかもしれませんね。こういうのもあり得るんだ、と。それで実際、便利なもの としてはカード様式のものがある、と。遺言書がそれ以外の書面の例として出てくるん ですけれども、やはり検認の手続きなどを考えると、遺言書ではちょっと難しいという ことはあるので、やはり別のものを考える必要があるんじゃないかと思います。  町野委員  それをつくると、また、いろいろ、それのことからはずれたらどうなるかということ が必ず出ます。このカードをつくったときを私は覚えていますが、この小さいスペース の中に、どれだけ誤解を避けるように書くかということで、しかも携帯できるようにす るということのご苦労があったと思います。ただ、この文言だけをずっと読んでいく と、明らかにこれは全部だめですよね、この文言だけから見たら。だって、提供しない ものについてはどれかと書いてあって、「全部」と書いたら全部やらないということに なるんじゃないかということになります。しかし、私も言われて初めて気がついたんで すが、「全部」だったら全部提供するつもりじゃないかと、誰でも思うわけです。書き 方が、やはりわかりづらいものであったということは、たしかにあると思います。だか ら全部有効だという議論にはならないけれど、これを見たときに、やはり本人が書いた 以上はこういう意思を持っていたと見るのが通例だろうということはいえるでしょう。 ただ、それを覆すような、そうじゃなかったというようなことがあったときは話は別だ ということになるのでしょう。だからむしろ新美さんとは逆で、新美さんの場合は他の 補強資料があれば認めていいだろうということだったんですけれど、そうじゃなくて、 反対の補強資料がない以上は認めていいということではないでしょうか。先ほどの新美 さんの議論を借りると、入口ではねることはないだろうということになる。あとのとこ ろで家族のほうがいろいろ判断して決めるということになるんじゃないかということで 結構だろうと思いますけれど。  新美班長  これは実態ですけれど、通常、カードが出てきたときに、どういう経緯かというのは 必ず聞くわけですよね。  菊地参考人  はい。  新美班長  それでノーというか、こんなことはあり得ないというような事例が出てきたことはあ りますか。  菊地参考人  はい、完璧なカードであってもご家族が断られる場合がありますので。  新美班長  それはご家族の意思として断られるのか、このカードを作成された……。  菊地参考人  ご家族の意思です。最終的にはご家族の意思になりますので。  新美班長  このカードは偽造であるとか、そんなものが作成されたことはないはずだとか、そう いうような、カードそのものの有効性を否定するようなご発言やご意見などが家族から 出てきたことはありますか。  菊地参考人  このカードが本人のものではないというような話が出てきたことはありません。  宇都木委員  議論を混乱させてしまうかもしれませんが、この、A−2については、たしかにここ に「全部」と書いてあって、それが同時に脳死判定に従うということの承諾にもなるわ けですね。○がなくてね……。そこのところが、やっぱりちょっと、あれなのかなあ… …。  丸山委員  私は、A−2の右は認めたいですね、「提供」というのをわざわざ書いてあるので。  新美班長  「全臓器提供」というのは、これは積極的ですね。  丸山委員  ただし左のほうは迷いますね。  町野委員  どうして迷われるんですか。  新美班長  迷いは誰でもあるんですよ。  丸山委員  だから迷う際に、町野先生はおそらく、こういうカードに何か文字を書くような人、 名前を書くような人であれば、提供意思があったというふうに推定していいんじゃない かというご意見ではないかと思うんですけれど、その推定をどの程度働かせていいかと いうあたりが……。  町野委員  そうですね、どの程度まで働かせていいんでしょうね。やはり、疑わしきはだめだと いう考え方をとるかですね。それが、山本先生の書かれた考え方との相違なので、もし これが「私を殺してもいい」という意思ということで脳死判定に従うという言い方をす るならば、私は生か死を選択しますという、非常に重い決定だとするならば、これは非 常に厳しくなるので、もしかしたらこれは全部だめかもしれないという議論もあり得る だろうと思うんです。しかし、そうではないんだろうということだと思うのです。  宇都木委員  やはり、ひとつ気になってしまうのは、これを丁寧に読めば必ず○をつけるわけです よね。だからやはり、あまり丁寧に読んでいないという証拠になってしまう。そうだと すると、1番と2番の差というのを、きちんと認識していたのかということがある。そ れはA−1についても同じようなことになってしまうのかもしれませんけれど。  丸山委員  丁寧に読むことが臓器提供の意思の堅さというか確実さとパラレルに考えられるかど うかなんですね。  宇都木委員  逆かもしれませんからね。  丸山委員  さっきの話の、野本先生のような方は提供意思が強いと思うんです。だから読まない ということもあり得るんじゃないかと思うんです。  新美班長  山本さんの報告なんかを重ね合わせると、ある意味で、意思表示カードを持っている ということは、かなり大きな意味を持っているんですよね。提供する意思が初めからな い人が持つということは、まず少ない。仮にそういう人が持ったとしたら、まず「提供 しない」というところに○をつけるだろう、と。そういう経験則をたどっていくと、こ れはもう、基本的には提供意思があると見ていいのではないかと思うんですけれどね。  片岡室長  世論調査からいきますと、10%弱の人がカードを持っていて、そのうち記入している 人が6割、あとの4割はまだ考え中だとか考えがまとまらないとか、あとで書くとかと いうふうになっていまして、6%の中のだいたいはちゃんと書いているという状況で す。ですから、必ずしも持っているだけで……。つまり全体の中の4%といいますか、 10%のうち4割の人は、ただ持っているだけで、まだ迷っているというケースもあるこ とはあります。  新美班長  ええ。だから、持っていて、しかも何らかの記入をしているということですね。しか も署名まであるということですよね。そういう意味では、かなり、臓器提供について態 度決定を明確にしている。そうだとすると、ノーと言うかイエスと言うかというのは、 明確にどちらかにつけるだろうと思うんです。両方つけてある例は、あとになると悩む ところですけれどね。そうでない、こういう場合に、1または2の選択をしている、あ るいは1のところに書いてあるというのは、有効であると認めてもいいような気がしま すけれどね。その点、いかがでしょうか。先ほど悩みがあるとおっしゃいましたが。  丸山委員  私はひねくれ者ですから、やはり迷いに迷って、最後に何を入れたら有効だというふ うに所持者が認識していたかですね。だから名前を書いたらもう有効になるというふう なところで、だいたい共通の認識があるのであれば、そういう扱いかなあと思いますけ れど。  町野委員  要するに先ほどの話のように、遺族の同意というセーフガードはあるんですが、法文 上は、遺族がいないときはその意思表明もいらないんですよね。今までに遺族がなく て、本人のカードだけでやったという例はありますか。  菊地参考人  ございません。  町野委員  ないですよね。おそらくこれからもそのような例が出てきたとしても、運用ではやら ないんじゃないでしょうか、やっぱり不安ですから。  菊地参考人  そのとおりです。  町野委員  だから、そういうような限定がありますから、私は、いいんじゃないかというふうに 思いますけれど。  丸山委員  ちょっとそれますけれど、遺族がいない場合に移植をしないというのは、逆の意味で 法的責任等が出てきませんか。本人が意思表示をしていながら、遺族がないという法的 要件を満たしているのに、行政が、あるいはネットワークが、その意思を実現させなか ったということは……。  新美班長  明確な意思表示があるにもかかわらず、ということですね。  菊地参考人  すみません、説明不足でした。遺族が存在しないということを証明できなかったとい うのが正しいと思います。いろいろ調べてみたのですが、戸籍上はご遺族がいるのです が、その方を見つけることができない、そういったことで断念をしています。完全に遺 族がいないということを証明することは非常に難しいのです。  新美班長  そうですね、無の証明はできないですからね。  丸山委員  やはり、ある程度は常識的な判断で、ひととおり探して見つからなかったら、ゴーと いうのが……。手堅い運用というのもわかるんですけれど、将来的にはそちらを考える べきではないでしょうか。こういう規定をわざわざ以前から、角腎法のときから置いて いるんですから。  新美班長  それは必要だと思うんです。そうだとすると、遺族という定義を明確にしないとでき ませんよね。どこの範囲までがなかったらということを明確にしなくてはいけない。今 みたいに「遺族」というふうに漠としたしばりだと、ほとんど、ないという証明はでき ないんですよね。  菊地参考人  現在でもガイドラインに、配偶者、子、父母、孫、祖父母及び同居の親族と書かれて はいるんですけれど。  新美班長  法律上は決めていませんよね。  菊地参考人  はい。その方々を探すのもたいへんです。  新美班長  いずれにしても、今の実務の扱いからいくと、町野先生は、いずれも有効としていい んじゃないかということですが、私も、その理由づけなどのところでは少し違いますけ れども、A−2も有効でいいんじゃないかと思うんです。しかし丸山先生のように、少 しためらいを示される方もおられる。宇都木先生はどうですか。  宇都木委員  町野先生がおっしゃった、脳死を死と認めるかどうかによって、1番と2番の○の問 題がということですが、私は比較的認めないほうですので、そこの点だけですね。で も、これはちょっと、どうしたもんでしょうか……。  町野委員  別にこの場で全部、多数決での強行採決ということは必要ないのだと思います。皆さ んご議論があることは承知しておりますから。  新美班長  はい、この場の雰囲気がどうだったかというのがわかればいいと思いますので。山本 先生はどうですか。  山本委員  私も、これは当然、全臓器を提供するという意思表示だというふうに考えていいだろ うと思いますし、先ほど町野先生が言われたように、やはり脳死判定というのは死と生 を区別するものではなくて、単に臓器提供のための脳死判定に従うということですの で、これは明らかにそれが推認できるわけですから、したがって、この意思は有効だと いうふうに考えていいだろうと思います。  新美班長  では、このA−2について、またあとで確認する時間があればやるということにし て、とりあえずここでは、有効にしてもいいんじゃないかという雰囲気はあったけれど も、慎重論というのも相当程度強かったということを……。  丸山委員  私も、右はいいと思うんですが。  新美班長  右はいいだろう、と……。  町野委員  右のほうは、だいたいいいんですが、左のほうについては少し疑問視する見解もあっ たということですね。  山本委員  右と左でどう違うんでしょうか。  新美班長  「提供」という言葉が入っているかどうかですね。  山本委員  しかし、これは1のところに書いてあるわけですよね。  新美班長  そう、そこに入っているんですよ。  丸山委員  たしかにそれはそうなんですけれど、わざわざ「提供」と書いたら、ここだけで、単 独で提供意思が表示されているという感じがしますので。  町野委員  そのようにも見える、と……。  新美班長  わかりました。では、今のような議論で、A−2の事例のうち右側はまずまずという ことですが、宇都木先生はまだこれについても態度として少し消極派というか疑問を提 示されるということですね。そういう雰囲気だったということで次に進みたいと思いま す。Bの事例ですが、これは1と3に両方ともつけてあるということです。これについ ては、どうでしょうか。この点について山本先生のご見解では、どうなんでしょうか。 この、両方ついているというのは。  山本委員  これはかなり難しいですね。やはりこの場合は、ちょっと難しいんだろうと思うんで す。  新美班長  これは矛盾の記載ですからね。どちらをとるというわけにはいかないんじゃないかと 思うんですが、皆さん、いかがですか。  丸山委員  矛盾していますし、書面以外の意思表示は臓器移植法は認めていませんから、これは やはり無理ではないでしょうか。  新美班長  Bについて他にどうですか。これは難しいだろうということでよろしいですか。  町野委員  私も、それは難しいだろうと思いますけれど、1に○をつけて、これだけ臓器に○が つけてあるところを見ると、どちらかというと、それは、こっちかなあという感じはし ますよね。だけど、それでは、やはりできないということではないでしょうか。あとか ら考えて、やっぱり3番だと思って○をつけたのかもしれないし、それはわからないと いうことですから、これはしょうがないでしょうね。  新美班長  それでは次に、Cの問題です。先ほどの、少し応用問題で、3のほうに○がついてい るけれど、また×もついている。このケースは、どういうふうに扱ったらいいでしょう か。これは私のほうから先に、議論のきっかけをつくりたいと思いますが、私はこれ は、3を消したというふうに見たほうがいいんじゃないかと思うんです。というのは、 もしも本当にあるとしたら、1のほうにも何らかの記載をするんじゃないかと思うんで す。ですから、3のほうだけ×をつけたというのを、むしろ推論するほうがいいんじゃ ないかと思うんです。本当に提供する意思がないという場合、ですから×をつけておい て、あとで○をつけたというと、上のほうにも×をつけるんじゃないかと思うんです。 提供しないという意思決定をしたならば。ですから、これはむしろ、いろんな推論をし ていっても、提供する意思があるという方向の書き方ではないかというふうに解釈しま すけれど、いかがでしょうか。きっかけということで、私の考え方を示しましたが。  山本委員  私も新美先生の見解に賛成ですが、つまり町野先生が先ほど言われたように、疑わし い場合、どうするのかということだろうと思うんです。この場合、やはり、打ち消した ということが推認できるわけですから、やはりこのような場合には、提供意思を認めて いいんじゃないだろうかというふうに思いますけれど。  新美班長  他にいかがでしょうか。宇都木先生、いかがですか。  宇都木委員  同じ意見です。  新美班長  同じですか。丸山先生、いかがですか。  丸山委員  これは3のところに、当初、○をつけて、間違いだったから×をつけたというふうに 推定するんだろうと思うんですが、それだけで終わっているんですね。だから、あんま り慎重に文書を作成されていないような印象を受けて、そういう場合であっても、提供 の意思であれば効果を認めていいという考え−これは町野先生の人間観に基づくと、こ れで有効ということになるかと思うんですけれど、私はやはり、臓器提供あるいは死体 提供ということであれば、ちょっと慎重に考えた結果である意思が望ましいと思うんで すね。だから、○としたのを上に×を書いただけで訂正できるんだというような認識で つくられた文章だと、ちょっと認めたくないなあという感じがいたします。だけど多 分、どういうタイプの意思決定であれ、意思決定したらそれに従って扱うべきだという 考え方もあり得ると思いますので、やはり迷いますね。  町野委員  どういう態度で決めたかという問題と本当に決めたかということは別でしょう。たと えばビールを飲みながら書くのはけしからんということはないわけですから、やはり本 人の意思がどこにあったかということが問題なので、軽率に決めたかとか態度が悪いと か、そういうことではないだろうと思います。  新美班長  私もそれに近い考えで、書面作成に慣れていない人が作成するということは、考えな ければいけませんね。熟慮したけれども書面をどうつくっていいかというのには慣れて いないわけですよね。そうすると、こういう、○はつけたけれども×を打つということ は、それでもいいだろうということで、意思表示としては本当に真剣に考えたというこ とを否定するものではないと思いますね。われわれだって、よく間違える。文章をつく るのに慣れているわれわれですら間違えるわけですから。  丸山委員  間違えるのは、よくあると思うんですけれど、だけど、その際に、じゃあ訂正印でも 押しておこうかとか、訂正の署名でもしておこうかとか、ちょっと思いますよね。その あたりがどうかなあと思うんですが。先ほど町野先生がおっしゃった、意思決定の態様 によって効力を左右させないというのも、十分、説得的ですね。  町野委員  ちょっと別の件ですけれど、先ほどの山本先生の発言で、少し誤解があったかと思い ますので申し上げます。私は、疑わしき場合はどうするかと言ったんだけれど、少しで も臓器提供の意思があると見る根拠があれば、全部、提供の意思と見ろというつもりは なくて、つまり、もしかしたら違うんじゃないかという、若干の疑いがある場合につい ては、やはり提供意思を認めていいということです。だから先ほどのように、両方、相 矛盾する記載がありましたよね。それは両方ともに疑わしいわけですよね。しかし、や はり提供を認めないというのは、そういうことだと思います。  山本委員  しかし、今の、両方ある場合は、どちらかわからないということですよね。  町野委員  どちらかわからないんだけれど、どちらとも疑わしいわけですよね。ですから、疑わ しいほうで、提供の意思があるということも、また疑われるから、だから提供していい という理屈にはならないということです。  山本委員  はい、わかりました。  新美班長  では、Cの1の上にあるやつ、これについては有効であると認める方向でという意見 が強かったということでよろしいでしょうか。それでは次に、下の想定例ですが、これ についてまた今のことでいくと、提供すると言ったのを、また×で否定したから、これ は無効にせざるを得ないのかなあというのが私の意見ですが、いかがでしょうか。これ も議論のきっかけとして提示させていただきますが。先ほどの矛盾記載と似たような印 象を持っているんですが、どうぞご意見をお願いします。これは、丸山先生、いかがで すか。  丸山委員  私は、やはりこれはちょっとすくえないですね。先ほどの、前のページと同じで、意 味をなしていないと思います。  新美班長  この点は、宇都木先生、いかがですか。  宇都木委員  私も同意見です。ただこれは×だからいいんですが、チェックの場合はちょっと悩ま しいですね。これでしたら、僕はだめだと思います。  新美班長  町野先生、いかがですか。  町野委員  これはやはり、ちょっと難しいだろうと思いますね。もちろん、本人の意思としては あるんじゃないかということは、かなりの程度で強いですよね。もし、あとから×をつ けたとしたら、下のほうにも全部、線を引くだろう、と。  新美班長  本来はね。  町野委員  ええ、本来は。そういうことは言えますけれど、やはりこの程度のことで、これで遺 族がいいと言ったとしても、やはり認めるわけにはいかないだろうということで、やは りだめではないかと思います。ただ、もしかしたら山本先生は別のご意見かもしれない ので、コメントをお聞かせいただければと思います。  山本委員  いえ、べつにありません。これはちょっと、難しいだろうと思いますけれど、ただ、 今、町野先生が言われたように、下は残っているわけですよね。これは最初に×をつけ た可能性もあるわけです。ですから、それですと、ちょっと迷いますが、しかしやは り、これはちょっと難しいかなあというふうな判断です。  新美班長  想定例のほうは無理だろうということで、だいたい皆さんの意見が一致しているかと 思います。続いてDのケースですが、1に○がつけてあるけれども、提供臓器について 何の明示もない。先ほどの「全部」という例とは、またちょっと違っているというケー スですが、これについてはいかがでしょうか。  町野委員  よろしいのではないかと思いますけれど、やはり普通は、何も書かないのは全部とい うことではないでしょうか。  新美班長  私もそういう方向で考えてきたんですけれど、書いてあるのと書いていないのとの差 というのは、どれくらいあるんだろうかということで、来る途中で悩み始めたのが実際 のところですが、基本的にはこれはもう、1に○をつけているので、提供の意思があ る。あとは臓器の確定についてどうしたらいいかというのが悩ましいところだというこ とですが、先ほど話がありましたように、どの臓器を提供するかということについて は、ある意味で、遺族に任せたというふうにも考えられますし、そのへんは、この1に ○をつけたということを重視すべきではないかというふうに考えています。他にご意見 がございましたら。  宇都木委員  同じです。19%というと、かなりの数がこういうことをやっているんですね。常識的 にそういうふうに思うんですが。それで、家族が臓器を制限することはできるわけです ね。  新美班長  可能です。この臓器はいい、この臓器はだめ、ということはできます。山本先生、い かがですか。  山本委員  私もやはり、これはいいだろうと思います。やはりこの1に○をつけて、しかも×を つけていないところを見ると、全部の臓器の提供というふうに見ることができるのでは ないかと思いますけれど。  新美班長  丸山先生は、いかがですか。  丸山委員  認めたいんですけれど、どうも、どこまで範囲が及ぶかで……そうですね、これは… …小腸が入っていなかった時期がありますから、ここに列挙されるようになったら、そ の提供臓器に含められて、それまでは違うというのでカードのひな形によって提供対象 になるものが異なってくるのが、理屈のうえでは気持ち悪いなあというところはありま すけれど、まあ、提供意思は明確ではないかと思いますね。また、脳死の判定も問題な いですし。  新美班長  では、Dについては、だいたいこの席では、ほぼ効力を認めていいだろうという方向 で。  片岡室長  すみません、3番については……。  宇都木委員  2番ではなくて……。  片岡室長  ええ、2番ではなくてという……。  新美班長  許されているものについて全部提供するということですね。  宇都木委員  3番がですね。  新美班長  ええ、3番ということで。ですから先程来出ている、家族等の証言というのは、本人 の意思の忖度というのではなくて家族の意思として、どの臓器について拒むかという判 断がありますね。それから先ほど言ったように、意思表示をどう解釈したらいいかとい うときの補強資料というのは、これは家族の証言であり得るわけで、この忖度という表 現にあまり惑わされるべきではないだろう、と。これは町野先生がおっしゃったとおり だと思います。このDのケースについて、他にご意見がないようでしたら、今言ったよ うな形で、この件についてはまとめておきたいと思います。  次にEのケースですが、本人の署名と家族の署名の記載が逆であるというケースで す。これについては、どのように考えたらよろしいでしょうか。  宇都木委員  これは誰が持っていたかにもよるんですが、場合によっては本当に花子さんのもので あったという可能性も、なくはないですよね。だから、ちょっと……。  町野委員  だけど逆に言えば、それが確認できれば問題ないわけですよね。  宇都木委員  確認はしかし、おそらく花子さんがすることになりますよね。  町野委員  それはまあ、署名ぐらいは見るんでしょうけれどね。本人の署名であるかどうか。  宇都木委員  まあ、自筆の署名であればね。  丸山委員  もう少し上のほうに書く欄があれば、その筆跡で花子さんのものか太郎さんのものか ということを確認することができるかと思うんですが、本当に、今、宇都木先生がおっ しゃったように、○をつけるだけですから、○のつけ方でどっちの方が書かれたかとい うのは、ちょっと難しいかなあというところはありますね。  新美班長  ただ、これも今、町野先生がおっしゃったように、どちらが本当にこの表示をした人 なのかというのを確定するのは、これは、この書面で逆だったから認めないということ にはならないと思うんです。  宇都木委員  確定できればね。  新美班長  ええ、意思表示の確認が他のものでできればね。  宇都木委員  はい、そう思います。  新美班長  ですから、これでただちにノーということにはならない。ですから花子さんだけでい いのか、あるいはもう少し他の人にも確認をとるのか。ここでは家族以外の第三者の証 言というんですけれど、第三者の証言をつねに要求する必要があるかどうかという問題 もありますよね。家族だけで構わないときもあると思うんです。  町野委員  法文には、やはり本人の意思ということしか書かれていないわけですからね。これは 要するに補強といいますか、偽造ではないということを確認するためにこれを書いてい るわけですから、欄の相違というのは、それほど大きな問題ではないように思います。 そして、先ほどの話にありましたとおり、偽造かどうかという問題、本人のものかどう かということとは、明らかにこれは別の問題でしょうね。ただ、本人のものだとわかっ ても別のところに書いてあるからだめだという理屈はないだろうと思います。  宇都木委員  本人のものであるということは、ちょっと、このカードだけでは……。  新美班長  ええ、このカードだけでは難しいかもしれませんね。  町野委員  しかし本人のものかどうかというのは、このケースだけではなくて他のところでも起 こるわけですよね。  宇都木委員  そうなんです。  町野委員  だから全然別の問題だということですよね。  宇都木委員  そうなんですよね。実質性というのを、どういうふうに担保しているのかというの は、全体にある問題ではありますね。  新美班長  そこは遺言と違うところですね。  宇都木委員  ええ、全然違うところですね。  新美班長  だから、先程来言っていますように、これが本当に太郎さんのものかどうかというの は、最後にまた家族の拒絶というようなことでチェックされることに、なることはなる んですよね。ですから本人の意思表示であるということが、この書面から、そしてその 他の資料からわかれば、それはそれでいいんじゃないかという気がしますけれど、山本 先生、そのへんはいかがでしょうか。  山本委員  私もそのように思います。  新美班長  他に、このEのケースについていかがでしょうか。  片岡室長  そうしますと、この場合は、やはり何らかの補強資料が必要ということでしょうか。 花子さんの証言も含めて、この記載が間違いであるということが何らかの形で……。  新美班長  ええ。このままだと、形式論だけでいくと本当に太郎さんのものか花子さんのものか わからないですよね。むしろカードからいくと花子さんだということになってしまいま すので、それが明らかに太郎さんのものであるということが、やはり何らかの形で示さ れる必要はあるだろうと思いますね。  町野委員  要するに本人の意思表示であるということがわかれば、それでいいということだろう と思いますけれど。  新美班長  ただそれは、実務の段階では、やはりどこかで証言を得るしかないでしょうね。  片岡室長  そうですね。  新美班長  だからそれで、本人のものであるというふうに確認できれば、それはそれで十分だろ うということだと思います。  菊地参考人  たとえば例にあるように花子さんから、太郎さんが記載したものであるというふうに 明確に言っていただければいいということですか。  町野委員  そうでしょうね。ここでの議論というのは、このことだけを理由として無効だという ことにはならないということだと思います。  新美班長  では、これをもとに、今度は想定例というのがあります。想定例の※2です。署名年 月日と本人署名がない場合。これは書面による意思表示を要求しておいて、にもかかわ らず署名がないわけですから、本人が書いたということがわからないと難しいんじゃな いかというふうに私は思いますけれど、いかがでしょうか。  町野委員  私もこれは、もしこれを有効と認めるなら、やはり立法の範囲の問題だろうと思いま す。書面による意思表示ということを要求していることを、これでは超えてしまいま す。  新美班長  ※3も同じようなところですので、これも含めてやりましょうか。今、一応、本人署 名は必要だというところで議論が出ているんですが、他にご意見がございましたら。  丸山委員  私も同じです。これが認められると、逆に、不当に臓器を摘出されたというような例 が出てきそうで、やはり同じ考えですね。認められないと思います。  山本委員  やはりこれは無理だろうと思いますね。  新美班長  それでは、Eについては、ちょっと効力を認めるわけにいかないだろうということ で、まとめさせていただきます。Fについてですが、署名年月日があり得ない日付にな っているということについて、ご意見をいただきたいと思います。これは最初の総論的 なところでも議論がありましたが、署名年月日というのは、いったいどういう意味を持 つのか。複数出てきたとき、片一方は提供するということで年月日があった、片一方は しないということで書いていなかったといったら、やはりこれは両方とも先後が決まら ないから、だめということになるんでしょうけれど、これだけだというときに、日付と いうのはどれくらい意味があるのかというと、ここからは私の意見ですけれど、本人の 署名があって、それで脳死の状態になる前まで、ずっと保有し続けていたというなら ば、直前の意思として本人の意思表示はあったということになると思いますので、この 署名の年月日がないことによって効力を否定するという必要性はないんじゃないかと私 は考えますが、これをたたき台として、どうぞご意見をお願いします。山本先生、いか がですか。  山本委員  これ1枚しか出てこなかったという場合ですね。  新美班長  ええ。  山本委員  年月日というのはやはり生前の意思表示であったかどうかということが、要するにこ れで確定できればいい。死んだあとの日付が書いてあったというのは、これは本人のも のではないということになるんでしょうけれど、生前の意思表示であるということがこ れで認定できればいいだろうと思いますけれど。  町野委員  死んだあとの日付が書いてあっても間違いかもしれないんですから、それは本人とい うこともあり得ますよね。  山本委員  といいますと……。  町野委員  死後の日付が書かれていたとき、たとえば私が2008年とかというふうに間違えて書い た場合、それがあとから出てきたときに、それはいいわけですよね。  山本委員  要するに、先生が生前に書いたということが明らかであればということですか。  町野委員  ええ。だから、日付はそれだけの意味しかないということではないんでしょうか。  新美班長  偽造であればともかく……。  山本委員  ええ、偽造の可能性があるということですよね。  新美班長  ただ、署名が本人のものであるということが確認されれば、日付はそんなに気にする 必要はないですよね。  山本委員  そうですね。  町野委員  やはりひとつの問題は、非常に古い日付だった場合に、これをどう扱うかですね。 今、この臓器移植法は基本的には、いつの意思表示であるかということは問わないとい うことになっていますけれど、現実に今までの例で、非常に古い意思表示をもとに何か やったということはありますか。  菊地参考人  よくありますのが、以前にありました腎臓バンクのカードを持っていて、意思表示カ ードに書き写すときに、その日付を書くことがあります。現在は、そういった場合はす べて記載不備という扱いをしています。  町野委員  今の場合は、やはり書き写したことによって、新たな意思表示があったということだ ろうと思うから、古い意思表示ではないということは言えるだろうと思うんです。当 然、そうすると、昔の腎臓バンクのときのカードを使ったということはないということ ですか。提供意思を古いやつでやったということは。それは今までにないんですか。  菊地参考人  すみません、もう一度お願いします。  新美班長  古い書式で脳死下の移植をやった例というのはあるわけですか。  菊地参考人  ございません。  新美班長  全部、このカードに基づいてやっているわけですね。  菊地参考人  はい。1997年10月以降のカードです。  宇都木委員  脳死下でなければ……。  菊地参考人  失礼しました、10月ではなくて意思表示カードが発行された以降のカードということ になります。  宇都木委員  腎臓ならばあり得るんですか。  菊地参考人  はい、腎臓はあり得ます。  新美班長  前のカードで……。  町野委員  あり得ますけれど、やったことはありますか。  菊地参考人  腎臓の……。  町野委員  はい。  新美班長  死体腎から……。  菊地参考人  心停止後でカードが以前のぶんというものは経験がありません。  町野委員  ああ、そうか……。ないんですか。もしあったとしたら、これは遺族の承諾だけでで きることになっているから、本人が拒絶しなければできることになっていますからね。  菊地参考人  はい。  町野委員  はい、わかりました。  新美班長  他にいかがでしょうか。  丸山委員  ご本人が生まれる前の年月日が書かれているとか、そういうあたりになると、やはり 悩ましいんじゃないかと思うんですが。それから移植医療が実現する以前の時代の日付 が書かれているというようなことになると、まず、書面だけに拘泥される必要はないん ですけれど、まず書面を見ようというのは言えると思いますので、そのあたりで、私は ちょっと躊躇するということがありますね。  それから、今、菊地さんのほうでおっしゃった、この臓器移植法の施行日以降という ほど狭く考えずに、少なくともこの7月に法律ができて8月ぐらいでいろいろなバージ ョンの提案が報道されたと思うんです。ですから、そのあたりでつくられたカード--ま あ短期間ですから、実際、そういうものを入手されて署名されたという人は多くないと 思うんですが、理屈のうえではそのあたりは認めていいんじゃないか、と。  それから、さらにさかのぼって、角膜腎臓移植法のもとでのカードであれば、腎臓と 角膜について、脳死下であっても認めていいんじゃないかとは思うんですが、それ以前 にさかのぼる、あるいは未来の日付がうたわれているということについて、それが真正 であれば日付は署名の真正さの証明以上の機能を果たすものでないということで認める のは、私は、かなりためらうというところはございます。  新美班長  最初の議論ですけれど、このカードに記載しているというのは、このカードがこの世 に現存していなければ記載できないので、少なくともカード発行の日以降に署名したと いうことは明らかです。ですから誕生日を書いても、それはおよそあり得ないし、単な る誤記だということになりますよね。  宇都木委員  丸山先生が心配しておられるのは、むしろ、ふざけて書いたということですか。たと えば1900年と書いてあるとか。  丸山委員  そういうのもありますね。契約法の授業でふざけて契約書を書いた場合は無効である というようなことを言ったりしますので、そのあたりも懸念されますね。  町野委員  ということは、ふざけて書いていなければ、いいということですか。たとえば「天保 元年」とかと書かれたら、これは真面目ではないなあ、と。おそらく心裡留保だとか、 そういうことがあることが明らかなときに認めないのは、これは当然のことですよね。  新美班長  それはもう、意思表示としては大原則ですね。  町野委員  ええ。強迫されたことが明らかであるときは認めない。だから、そういう場合だった ら、それはもちろんそうなんでしょうけれど、そうでなければ、どうして日付にこだわ るのかよくわからない。それからもうひとつ別のことを言われたんだけれど、施行の前 に本当に意思表示があったときにどうかという問題です。日付がどうだという問題では なくて、本当にそのときに意思表示があって、そのときに書かれたというとき、これ は、この臓器移植法に基づいた法の適用ですから、やはり、その法が前にさかのぼるか ということは議論しなければいけない。これは明らかに違う問題です。  丸山委員  ですから法を知らずになされた意思表示を有効と扱うかどうかで、これは法の不知は 罰せず(注記:後にあるように「罰す」が正しい)で、法は知らなくても有効というこ とになるんでしょうか。  新美班長  それはやはり、法制局的な考え方をすると、基本的に原則は法の遡及効を認めないで すよね。本来、遡及させたり何かするときには経過規定を置いてどうするかというんで すけれど、この法律は経過規定を用意していない。あとはだから解釈で、どこかで意思 決定していくしかないと思うんですよね。  丸山委員  この法律ができたことによって初めて提供が有効なものと、法的にも扱われるべしと いうことであれば、それはそうなんですかねえ。  新美班長  どうでしょうか、前であったとしても、それは法的な効力について法が何も言ってい なかっただけであって、意思表示そのものについては、少なくとも民法上の効力は認め られますよね。  丸山委員  ええ。  町野委員  「法の不知は罰せず」というのは、あれは刑法の原則で、しかも違法性の錯誤の問題 です。  丸山委員  罰するということでしたね。  町野委員  ええ、「恕せず」ということです。整理しますと、ひとつは脳死の問題については、 明らかに実務上はさかのぼっています。このあいだの不起訴処分がそうです。筑波大学 のその事件とは、この臓器移植法の施行の前の事件です。それについて検察庁は、臓器 移植法ができた以上は、脳死が人の死であることは確定したから不起訴にするとした と、新聞報道がありました。しかし今、新美さんが言われたように、移植の手続き等に ついては、さかのぼらないというのが普通の考え方だろうと思います。だからといっ て、今はそういう例がないから、これは完全に机上の問題ですが、そういうものが出て きたときに、じゃあ、できないのかというと、それはまた別の問題であって、超法規的 な問題ということになるだろうと思います。だけど、これは現実には今はないわけです から、私が問題にしたのは、日付が前であったときにどうなのか、施行日前だったとき にどうなるのか。だからもし、本当にそうだったとしたら問題があるということだとす るならば、今のような議論があり得るということであって、だから施行日前で、たとえ ば誕生日を書いてしまったというようなときについて、じゃあ、そのとおりであって法 の遡及適用はありませんというふうに言うべきではないだろうということなんです。2 つはやはり問題が別なんですよね。  新美班長  そうですね、別ですね。だから過去のものについてあったとしても、先ほどありまし たように、カードに書いてあればカードの発行日よりも前というのは現実にはあり得な いので、それは明らかに誤記か、あるいは、はたまたふざけて書いたかのどちらかの認 定になるので、それは効力を認めてもいいのではないか、と。  町野委員  ふざけて書いたときはだめですよ。  新美班長  ええ、ふざけて書いたときは、もちろん意思表示としては効力がないから、それはだ めとして、単なる誤記であって、あり得ない日付を書いてしまったというのは、これは すくっていいのではないかというか、だめと言う必要はないんじゃないかと思います ね。  菊地参考人  それから、このカードが新たにできたときに、やはり新しいカードのほうがいいのか なあということで、新しいカードに記載されるんですけれど、その記載も、以前のカー ドの記載年月日を書かれる方がおられるんですね。それで実際に、ご家族は提供を望ん でいたんだけれども提供できなかったという事例がありますので、そのあたりをなんと か……。  宇都木委員  F−2ですね。  新美班長  F−1、F−2、両方ですね。  菊地参考人  はい。  新美班長  これは同じロジックでいいんじゃないかと思いますけれど、いかがですか。  丸山委員  この場合は、私は認めてあげたいと思いますね。  新美班長  じゃあF−1のほうもですか。  丸山委員  とくに過去のカードがまだ残っていれば、角腎法のもとで、何年でしょうか、平成7 年に提供の意思表示をしたカードがあり、今度、平成10年か11年かに新しいカードでま た脳死下の提供の意思表示もなされた、と。それで以前の平成7年の日付が付されてい るというのは、一貫して提供意思が自分にはあったということを示したい意向だろうと 思いますから、私は認めたいと思いますね。  新美班長  F−1のほうは、どうですか。これは悩ましいですか。施行日前……。  宇都木委員  今の話はむしろF−1になりますよね。角腎法のもとでのとおっしゃいましたから。 F−2のほうは脳死下での、97年以降のカードの更新の際の問題なんですよね。  新美班長  じゃあF−1、F−2ともに効力を認めてもいい、と……。  宇都木委員  そういう意見になると思うんですが。  丸山委員  F−1は、これはだけど、先行する法律に基づくカードがつくられている人とは限ら ないんですよね。  新美班長  限らないですね。  宇都木委員  それはそうです。  丸山委員  私はちょっと迷いますね。  新美班長  F−1は迷われる、と……。  丸山委員  ええ。  新美班長  それを迷われるというのは、いつつくったかがわからない、いつ署名したかがわから ない、という……。  丸山委員  ええ。  新美班長  山本先生、どうですか。  山本委員  私は日付というのは、要するに、先ほどちょっと私が言いましたように、偽造かどう かというのが疑わしくなるかどうかというだけの問題であって、それが要するに生前に 書かれたものであるということであれば、日付はそれほど問題なく認めていいと思いま すが。  新美班長  私も、基本的には山本さんと同じ意見で、日付というのは、それくらいの意味しかな いんじゃないかという気がするんですが、これが先程来言っている、遺書と違うでしょ うということなんですけれどね。  町野委員  おそらくそういう場合は、いつ書かれたかということも意味がないんでしょうね。  新美班長  そうですね。  町野委員  だから日付はなくても、これはいいということになるわけでしょうね。  新美班長  ええ、要するにいつ書かれたかという、そのポイントが必要ではないということです ね。  町野委員  そうですね。いつ書かれたかというのは、あとから調べてもなかなかわからないです よね。日付は今のような意味しかないだろうと思います。問題があるとしたら、非常に 古い意思表示カードの有効性に関してです。まだ現実の問題にはなっていないけれど、 18、19歳のときに書いたのを、80歳ぐらいで死亡したときも、有効と扱っていいかとい う問題です。まあ、そのような高齢者からはもう移植できないんでしょうけれど。しか し、そのときでも構わないかという議論はあり得るだろうと思います。その点での問題 が起こるならわかりますけれど、そうでなければ、あまりこだわる必要はないと思いま す。  新美班長  今の議論はこれだけではなくてリビングウィルのときに、ものすごく問題になった議 論ですよね。いったい、いつ作成したものが、いつまでリビングウィルとして効力があ るのか。非常に悩ましい問題ですよね。ただ、ここでは、その問題ではないだろうとい うふうに思いますので。  片岡室長  法律の施行日前の日付の場合で、たとえばカードの変遷の2番のものですと、これは 法律施行前につくられたカードですので、これに前の日付が書かれたものも、やはり難 しいということでしょうか。3以降であれば、これは法律施行後のカードですので、仮 に昔のカードの日付を書いたりということをやっても、それは明らかに法律施行後に書 き写したものということになると思いますけれど、そういう議論だったかと思うのです が、2番の場合ですと法律施行前に書かれた……。  町野委員  2番というのは、下の論点の2番ですか。  片岡室長  カードの変遷の、2番のカードというのは、これは法律施行前に……。  宇都木委員  法の施行前に「脳死判定に従い」というのがあったんですか。  片岡室長  はい。  菊池参考人  6月に可決されましたので。  宇都木委員  ああ、そうか。可決されてからすぐにつくったんですね。  片岡室長  はい。そこから3ヵ月ありましたので。  宇都木委員  なるほど。  町野委員  すみません、もう一度教えていただけますか。  片岡室長  はい。2番のカードで、要するにこれに法律施行前の日付が書いてあった場合は、や はり法律施行後に効力が発しますので、それはやはり難しいということでしょうか。  新美班長  これは先ほど言ったように、意思表示として否定しなければいけないのかどうかとい うことであって、まあ、否定する必要はないということだと思いますね。意思表示とし てはなされていた、と。  町野委員  片岡室長の質問の趣旨というのは、法施行前に意思表示がなされていたときはどう か、ということですか。  片岡室長  はい。  町野委員  このときも、法施行後の手段に従って実行して構わないか、そういう趣旨ですね。  片岡室長  はい。  町野委員  私は、それは構わないと思います。意思表示をいつしたかということではなくて、そ のときの意思が継続していたかという問題ですから、前に表示してもそれは構わないだ ろうと思います。  新美班長  それは私も同じ意見です。他にご意見はありますか。  丸山委員  先ほどの私の言い方からはつじつまが合わないんですけれど……ああ、これは9年で すか。8年の6月に心停止の腎臓移植ですね。失礼しました。  宇都木委員  脳死か脳死でないかというところが、ひとつ問題ではあると思うんですが、少なくと もこれは成立以降から実施までの間だけなんですね。9年の6月のものというのはね。  片岡室長  はい。  宇都木委員  でしたら、それは認めていいと思いますが。  新美班長  とくに提供の意思表示を否定することにはならないと思うんですよね。意思表示とし ては、あったわけですし。  町野委員  繰り返しになりますが、意思表示があとからされなければいけない、法の施行後にさ れなければいけない、という趣旨ではないということです。その意思が法の施行後にも あったということです。実際に適用されたときに、移植がなされたときに、その意思が 継続していたということですから、意思表示があったということが問題であって、犯罪 行為を法施行前に行ったという問題ではありませんからね。  新美班長  ある時点の意思ではなくて、それを最後まで、すなわち提供の直前まで持っていたと いう、ひとつの--フィクションかもしれませんが、そういう取り決めで動いているわけ ですので、基本的にはどの時点かというのは、先ほど言ったように、本当に本人がなし た意思表示かどうか、任意にやったかどうかの認定のためだけに必要だということだと 思います。  宇都木委員  全然異論はないんですが、ただ、脳死下での移植というのを、たとえば1995年にとい うような意思表示だとすると、それはやはり問題だとは思うんですが。そういう意味で す。  町野委員  問題ないように思いますけれど……。  新美班長  僕も問題ないと思うんですけれど。ただ、それに基づいて移植ができなかったという だけであって。  宇都木委員  その当時はね。  新美班長  ええ、その当時は。  町野委員  要するに施行後に意思が継続しているかどうかの問題です。  宇都木委員  ただ、脳死下というのがどういう状況かということの理解において、違いがあると思 うんです。いずれにしろ、97年の6月以降であれば問題ないんでしょうけれど。  新美班長  この点について、他にいかがでしょうか。丸山さんのほうで、まだ少しご意見がおあ りでしたら。  丸山委員  この、9年6月に作成という、カードの変遷の2番ですけれど、それ以前に--法律が 施行されたのは8年10月ですよね。  菊地参考人  いえ、9年10月です。  丸山委員  ああ、そうか……。9年10月で、この9年6月のこのカードは、実際に配布されたん ですか。  菊地参考人  配布されています。  丸山委員  それで、これに署名された方というのも、いらっしゃるはずなんですね。  菊地参考人  おられると思います。現実に提供いただいた方はおられませんけれども。  丸山委員  出くわしてはいないんですね。  菊地参考人  出くわした場面はありません。  丸山委員  これは、私は認めていいと思いますね。たとえば9年7月1日と書かれていて、施行 前であっても。  新美班長  じゃあ、このF−1、F−2は、いずれも認める方向でいいということでよろしいで しょうか。あとは、そうすると想定例で、これは今の議論ですが、署名年月日がまった くない場合にどうするか。先ほど言ったようなロジックでいくと、私は、これも認めて いいんじゃないかと思うんですが、この点についてご意見がありましたら。歯止めとし てはカード発行の時点よりも以後であることはたしかである、と。  宇都木委員  そうですね。  新美班長  それが歯止めですよね。  丸山委員  書面の有効性の条件として日付が必要というような議論というのはないんですか。  町野委員  今されれば、それは議論としてあがることになりますけれど。  丸山委員  いえ、それは……。勤め先でいろんな文書に署名をする際に、そのときは日付を入れ るなと言われることがある。そういう慣例に基づいて日付を入れないものは別として、 普通、自分の意思を表示したというので署名する際には、日付を入れるのが必要という ような認識が一般にあるんじゃないかと思うんですが。いや、おまえの常識は間違って いるというふうにご指摘いただければ、それでいいんですが。  町野委員  あるかもしれないけれど、それと有効性とは関係ないということではないでしょう か。  丸山委員  いえ、有効性の要件として、日付をというのはないんでしょうか。  町野委員  この臓器移植法については、それはないだろうと思います。本人の意思表示があった ということが要件なんですから。日付がなければ意思表示が無効だという理屈はないだ ろうと思いますけれど。  宇都木委員  やはり丸山先生のご心配は、意思が決定されていなかった、と。まだ、あとで入れよ うと思ったということが、問題だとは思うんですが、それをだから何らかの……。  丸山委員  法的効果を与えるつもりはなかったという……。  宇都木委員  ええ、だから何らかの形でそれが明確になればいいんじゃないでしょうか。  町野委員  意思がなかったということがですか。  宇都木委員  ええ、意思があったということが。  新美班長  ただ、それもやはり、大きな意味を持つのは署名のほうでしょうね。  丸山委員  だから、その署名だけだと、いつ署名したかが……。いつ署名したかということが、 ある程度、有効性の確認に反映されるんじゃないかという気がするんですけれど。  山本委員  それは文書の有効性ということで、ご議論されているわけですか。問題は、意思が有 効であるかどうかということですよね。書面がきちんと整っていなければ、それはだめ なんだということにはならないんじゃないでしょうか。  丸山委員  だから書面で表示する意思でないと、この法律は有効と認めないんですね。  山本委員  きちんとした書面として整っていなくても、そこから、要するに意思が有効であると いうことが認められればいいわけですよね。  丸山委員  そうですね……ただ、極端な場合、署名がないというのはだめなんですよね。  新美班長  署名がないのは本人とは言えないですからね。  丸山委員  それは証拠の点でですか。  新美班長  書面として最低限必要でしょう。この書面はこの人が書いたという……。  山本委員  それは、その本人の意思が確認できないから、だめなんじゃないでしょうか。  町野委員  それはそうではなくて、やはり意思表示がないからということでしょう。つまり法律 は書面による意思表示を要求しているんだから、これは最低限の要求ですよね。だから これが有効かどうかの問題は、丸山さんがさかんに問題にされるんだけれど、日付だけ をとらえて言うのはおかしいだろうと思います。全部について、これはあることですか ら。どこの記載がなかったけれどどうかとか、真面目に書いていなかっただろうとか、 それは言い出せばきりがない話ですよね。だからやはり意思表示はなければいけない。 いかに、これは本人が書いたものに間違いないとしても。署名はないけれども○のつけ 方や文字などを見て、これは本人の筆跡に間違いないということであっても、やはりだ めだと言わざるを得ないわけでしょう。これは、法定の要件が備わっていないわけです から。書面による意思表示には、それは必要だということですよね。  山本委員  ただ、書面からその意思が推認できればいいわけですよね。要するに、本人に臓器提 供の意思があったということがわかればいいわけで。  町野委員  そうではなくて、やはり「書面による」意思表示という、形式的なひとつの枠が存在 することは必要だ、ということだと思います。ただ、それがいつ存在するかをめぐって の議論はあり得る。しかし書面による意思表示がないというふうに断定されたら、いか に本人の意思だったとしても、これはだめだということになるわけでしょう。だからそ の意思表示の内容を、やはり署名がなければ意思表示はないと見るかどうかの問題はた しかに残っている。それはあります。だけど、本人の意思さえ確かめられれば、どこか に書面が転がっていれば、いいという問題ではないように思います。その点は、山本先 生と私は違うのかもしれませんね。  新美班長  それはこの臓器移植法でも何も決めていないんですね。民法だと他の書面を引用して も、それは書面による意思表示だということは認めているわけですよね。町野先生は、 その書面に本人の署名がなければいけないという立場をとられる。  町野委員  そうですね。  新美班長  契約的な話からいくと、これは引用しても構わない、と。臓器提供の意思表示を別の 書面でやっておいて、あの書面は私が書きましたという署名入りのものを用意していれ ば、引用しておけば、それはそれで構わない、そういう扱いですよね。  丸山委員  非常に特徴のある筆跡をお持ちの方で、このカードの文言をほぼ正確に書き写して書 面をつくられて、だけど署名がないような場合、有効と認めるかどうかの問題でしょう ね。  町野委員  ですから、山本先生が書かれた、これもかなり昔で、現在まで有効な意思表示が疑わ しいものですけれども、これなどをご覧になると、山本先生のお考えというのは、要す るに刑法上の「修正された意思表示説」というもので、どこかに本人の意思を推認させ るような書面が存在すれば足りるという、そういう考え方ですね。それでやっていく と、そういう考えになると思います。ある場合には、署名もいらないということにもな るだろうと思います。しかし、そこまではやはり、ちょっと行けないんじゃないかとい うのが私の考えです。だからもし山本先生の考え方だと、前のところで、これは難しい んじゃないかと思うというのも、これもいいんだと言っても不思議はないわけですね。  山本委員  それはそうですね。  町野委員  あちらは署名はあるけれども意思表示がないというのが私の解釈なんですけれど。  新美班長  この問題を議論しだすときりがなくなりますので……。  山本委員  署名がないという場合、その場合、私の考えは、やはり要するに本人の意思が確認で きないからだめだというのが私の見解で、それが町野先生とちょっと違うんだろうと思 うんです。先生の場合は意思表示がないからだめだということですよね。  町野委員  だけど、だめだというのは、やはりちょっとおかしいので、それは確認できたらいい と言わざるを得ないでしょう。  山本委員  確認できればいいですけれど……。  町野委員  だから全然違いますよ。  新美班長  今のご議論はたいへん根本的な問題ですけれど、これを臓器移植の現場でやるとした ときにはどうするかという問題を考えなければいけないと思いますので、やはりこのカ ードを本人がつくったかどうかという確認作業を、裁判所がやるなら山本先生のような 議論もあり得ると思うんですが、移植のコーディネーターの人たちがやるということに なると、やはりこれは--これは日付がない場合ですね、今は本人署名がない場合につい ての議論で、本人署名がない場合は、これは確認のしようがないので、それは先ほど言 ったように、だめだ、と。問題は署名の年月日がない場合にどうするかということです が、今、町野先生と私、山本先生も、署名年月日はとくに必要ないだろうということで すが、他のお二方の意見はかなり消極的というか……そうでもないですか。  丸山委員  「かなり」ではありませんけれど、積極的にというほどではないですね。  新美班長  積極ではないということですね。  宇都木委員  私も、要するに書きかけでないということが確認できればいいと思うんです。  新美班長  ただそれは、この書面だけからはわかりませんよね。  町野委員  今おっしゃった「書きかけ」というのはどういう意味ですか。完成しなければだめと いうことですか。  宇都木委員  いえ、そういう意味ではなくて、意思表示として……。  町野委員  要するに意思表示として完結していたかということですね。  宇都木委員  そういう意味です。  町野委員  だから、書面が完結していたというのとは、また別ですよね。  宇都木委員  そうです。  町野委員  それだったらわかります。だから要するに心裡留保であるかとか、そういう問題が生 ずるというだけの話ですね。  宇都木委員  はい。だから何か確認のしようはあるだろうということになります。  町野委員  そうですね、はい。  新美班長  そうすると、この署名年月日がないからといって、そこではねるということはしなく てもいだろうということで、宇都木先生はそうおっしゃっている。丸山先生は、まだそ こは少し留保されるという……。  丸山委員  いえ、宇都木先生のおっしゃったような感じです。  新美班長  要するに、これは意思表示としてきちんとなされているかどうかの確認がとれればよ くて、たとえば詐欺にあったとか脅迫にあったとかという事情がとくにないというのな ら、署名年月日については、なくてもいいんじゃないかということですね。  町野委員  お二人の考えも、だいたい一致しているとは思うんですが、要するにそうすると心裡 留保でないことが確認できればいいということですよね。  宇都木委員  そうです。  町野委員  そうですよね。だからこれだけの……。  宇都木委員  形式の問題ではない。  町野委員  ええ、だから日付がないことによって、ただちにこれはだめだということではないと いうことですね。  宇都木委員  はい。  町野委員  その点は丸山先生と違うんじゃないでしょうか。  丸山委員  いえ、さっきのは、そういうことも考えられるのではないかというので……。  町野委員  じゃあ、そうなると結局、意見の相違はないということじゃないですか。  丸山委員  いえ、いえ、そこまで踏み込むのもちょっと……。  町野委員  結論において相違はない、と……。心情において相違があるにすぎないという……。  新美班長  そういう意味では意思表示として真摯なものであれば、それが確認できればいいとい うことで、日付だけではねる必要はないということだと思いますが。  丸山委員  一言言わせていただくと、その心裡留保であるかないかの確認というのは時間との戦 いのときに、結構、難しい問題になるんじゃないかとは思いますね。  新美班長  それはおっしゃるとおりですね。  菊地参考人  すみません、意思表示カードではなく、署名年月日がない完璧な意思表示が出てきた 場合の有効性というのは、どうとらえればよろしいんでしょうか。署名年月日だけがな いという……。  新美班長  それは先ほどの議論でいいんじゃないでしょうか。  菊地参考人  たとえますと、署名年月日のない意思表示カードが出てきた。「ない」というのは項 目にないものが出てきた場合。  町野委員  もともと書く欄がないということですね。  菊地参考人  はい、書く欄がないものが出てきた場合。  町野委員  それは結構だと私は思いますけれど。  丸山委員  それは私も結構だと思いますね。  新美班長  私もいいと思いますね。とくに今言ったように、意思表示としての効力を妨げるよう な事情がないということであれば、それはそれでよろしいと思いますけれど。  それでは、Fについては想定例も含めて、いいでしょうということになったかと思い ます。それから、本人署名のみの記載ですが、これは私のほうから見ると何の意思表示 かがされていないので、これは効力は認められないだろうと思いますが、皆さん、いか がでしょうか。  町野委員  これがある場合は、山本先生はいいということですよね。これだけではねる理由には ならないということになるんでしょうね。  山本委員  しかしこれは他にあれば……。  新美班長  他にあればね。  山本委員  ええ、他にあれば、また別だろうと思うんですが、しかしこれだけだった場合は、や はり難しいだろうと思いますけれど。  町野委員  難しいけれど不可能ではない、と……。追及するようで申し訳ないけれど。つまり他 の、日記だとかそういうものが出てきたということで見ると、そうすると本人はそのつ もりだったんだなあと言える、そうなったときは、いいということに……。  山本委員  書面として残されていればですね。  町野委員  書面というか日記が残っていた、という場合です。  山本委員  何らかの書面によって、その意思が確認できればいい。  町野委員  その書面というのは、今の解釈では、おそらく意思表示カードと同じような有効性を 持つようなもので……。  山本委員  ええ、同じような有効性を持つようなものでなくてはいけない。  町野委員  持つようなものではないけれども、そういうものが出てきたという場合、そのときに もいいというわけだから、それはやはり、かなり違いますよね。  山本委員  そうですね。それでもいいという……それが他のあれで書面としての意思表示として 有効というか、書面としてその意思が確認できるものであればいいというのが私の見解 です。  町野委員  だから、これだけではねる理由にはならない、ということですね。  山本委員  ただ、この場合、これしかないという想定ですよね。  新美班長  そう、そう。一応、これしかないということですね。  町野委員  これしかないというのは……。  新美班長  あとは遺族の方、ご家族が持ってきたときにどうするかという問題はありますね。  山本委員  ええ。  町野委員  この意思表示カードしかないということですか。  山本委員  いえ、この事例は、これしかなかったという場合ですよね。  町野委員  意思表示カードとしてはこれしかない、しかし日記のほうでは出てきた、そのときは いい、と……。  山本委員  いえ、その日記が意思表示の意思を推認するものとして、いいものであるかどうかと いうのは、またひとつ問題だろうと思うんですが。  新美班長  それが提供の意思表示と言えるかどうかですね。  山本委員  ええ、言えるかどうか。意思を確認できるものとして、いいかどうか、適するものか どうかという点では問題があるだろうと思います。  町野委員  じゃあ、それはあとでやりましょう。その問題は違うと思いますから。  新美班長  では一応、Gについては、とりあえずこれだけが出てきたときには、だめでしょうと いうことで、意見は集約できるかと思います。一応、個別事例を議論する中で、全般的 なものも含めてしまったんですが、全般的なことにわたって、ご議論、ご意見がござい ましたら出していただければと思います。時間もだいぶ超過しましたので、全般的なも のは次回にまわしてもよろしいかと思いますが、どうですか。とりあえず、今日のメイ ンの個別事例をやりましたので、これくらいでとどめておきたいと思いますが、よろし いでしょうか。では最後に、今の皆さんのご意見をまとめて永野さんのほうから、ある いは片岡室長からお願いできますか。  片岡室長  A−1については拾う方向でというご意見だったかと思います。それから2ページ目 のA−2については、全体の方向としては認める方向ですが、とくに左側については慎 重なご意見もあった、右についても少し慎重な意見があったということになろうかと思 います。それから、続きまして4ページのCの場合。これについても本人の意思が認め られるという方向でということが、多数の意見としてあったということで、まとめられ るのかと思います。それから次の5ページですが、これについては3番の考え方という ことで、書面からはすべての臓器ということだったかと思います。それから次の6ペー ジですが、何らかの証言等により、本人の意思だということが確認できれば、これは認 めてもよいということ。それから続きまして8ページ、9ページ。日付につきまして は、基本的には、まずカード発行日以降に記入が行われたということは自明であるの で、そういう方向で取り扱っていくということと、日付がないものについても、その日 付がないことだけをもって有効でないというような取り扱いはしないということであっ たかと思います。いずれにせよ、いずれの場合も家族の証言等で、これを補強するよう な資料については、できるだけ徴収して、マイナス的な材料があれば、それは、それを もって有効性なり意思表示があったかどうかの判断にしていくということであったかと 思います。  新美班長  今、室長のほうから、議論のまとめをしていただきましたが、以上のようなまとめで よろしいでしょうか。では、議論のまとめは以上として、あとは、せっかく個別事例を 検討していただきましたが、提供意思表示カードについての書式の見直しないしは改訂 ということも、あってもいいのではないか、検討してもいいのではないかということ が、議論の中から出てきたと思いますけれど、明日の親委員会のほうに、その旨の検討 をしてはいかがですかという提言をすることについては、どうでしょうか。  町野委員  どのように変えるということですか。  新美班長  いえ、それは、中身はまだブランクですけれど、今のままではこういった状態がまた 続くでしょう、と……。  町野委員  だけど方向がわからない以上は、ちょっと……。  新美班長  いえ、だから検討の作業のため、それをスタートさせてはどうですかということで す。  丸山委員  番号の選択肢を与えて、その選んだものに○をつけさせるというスタイルがいいか悪 いか、そのあたりが、ひとつのポイントになると思いますね。  新美班長  だいたい人間というのは、こういった三択で、しかもそれぞれの選択肢の中にまた、 いろんな選択がありますから、迷って書き間違えることは当然ある、そういう書式なん ですよね。ですからそのへんは検討してもいいんじゃないかという気もするので、せっ かくここでご議論していただいたので、検討の作業をしてはいかがですかという程度の 提案でサウンドしてみるというのは、いかがでしょうか。  町野委員  もちろん結構ですけれど、何かやはり、議論をするたたき台みたいなものを、事務局 あたりで準備していただいて、こういう点で問題があるのでということを言っていただ くとか。たとえば署名年月日の欄をはずしてしまうとかいう試案も考えられます。それ で、かなり問題が起こっているわけですよね。だけど、おそらくそれは、はずさなくて もいいんじゃないかという議論は当然出てきますよね。だから、どの点がポイントかと いうことは、少し詰めていただかないと、私も一応、臓器移植委員会にいますから、そ このところで議論のしようがないですからね。少し言っていただいたほうがよろしいよ うに思います。  新美班長  はい。  山本委員  やはり、変な方向へ行くと、また深みにはまる可能性があるだろうと思いますから ね。  新美班長  それはあるかもしれませんね。そこはちょっと事務局のほうで、そのへんを瀬踏みし ていただきましょう。では、今の議論のまとめについては、明日報告するとなると、皆 さんに再度集まってもらって確認をというわけにもいきませんので、これについては私 にご一任いただければ幸いですが、いかがでしょうか。 (異議なし)  新美班長  それでは、そのようにさせていただきます。今日はどうもありがとうございました。  片岡室長  時間も超過いたしましたが、本日はどうもありがとうございました。今後の予定とし ては、とくに今のところ、いつ何をといったものはございませんが、また必要に応じて ご連絡させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日はどうもあり がとうございました。                                    (終了)                        ┌――――――――――――――┐                        |照会先:健康局臓器移植対策室|                        |担当者:永野(2366)  |                        |代表 :03-3523-1111    |                        |直通 :03-3595-2256    |                        └――――――――――――――┘