はじめに
健康食品に係る今後の制度のあり方については、平成15年4月から「『健康食品』に係る制度のあり方に関する検討会」において検討が進められ、本年6月に「「健康食品」に係る今後の制度のあり方について(提言)」(以下「提言」という。)が示されたところである。
「提言」においては、国民が健やかで心豊かな生活を送るためには、一人一人がバランスの取れた食生活を送ることが重要であるとともに、国民が日常の食生活で不足する栄養素を補給する食品や特定の保健の効果を有する食品を適切に利用することのできる環境整備を行うことが重要であるとされている。そのためには、国民が様々な食品の機能を十分に理解できるよう、正確で十分な情報提供が行われることが必要であり、健康食品において表示できる内容を充実させることがその主要な柱の一つとして提言されている。
具体的には、現行の特定保健用食品の許可制度を維持した上で、科学的根拠に基づく表示内容の一層の充実を図ることとし、以下の(1)〜(4)の見直しを行うこととした。なお、これらについては、具体的な基準等を策定するにあたって、関係分野の専門家の意見を聞く場を設け、有効性の評価方法等について検討するべきであるとされている。
(1) | 条件付き特定保健用食品(仮称)の導入 |
(2) | 規格基準型特定保健用食品の創設 |
(3) | 疾病リスク低減表示の容認 |
(4) | 特定保健用食品の審査基準の見直し |
これを受け、新特定保健用食品制度に関する基準等策定のための行政的研究班(以下「研究班」という。)では、(1)〜(4)について、特に有効性の考え方を中心に検討を行い、今般、以下の通り中間的にとりまとめを行った。
なお、上の(1)〜(3)は以下【課題1】〜【課題3】に対応しているが、(4)については、(1)と重複する論点も多かったことから、【課題1】において検討を行った。
【課題1】条件付き特定保健用食品について
1 制度の枠組み |
(参考)「提言」より
条件付き特保の考え方について、
○ | 現行の特定保健用食品制度では、身体に対する特定の効果に関する「身体の構造/機能表示」を十分認めることができていないため、消費者にとって曖昧な表示を増加させているおそれがあり、国民に対する情報提供が十分でない。 |
○ | このため、国民に対する食品機能についての正確で十分な情報提供を確保する観点から、食品機能の表示の科学的根拠が現行の審査基準を完全には満たしていないものであっても、一定の科学的根拠が存在すれば、効果の根拠が確立されていない旨の表示を付けることを条件として、「身体の構造/機能表示」を広く許可するべきである。 |
なお、特保の審査基準の見直しについては、
○ | 以上とは別途、現在の特定保健用食品の審査基準について、関与成分の作用機序や体内動態の明確化を重視する医薬品的な考えに準じた審査を行う仕組みを改め、実際に効果があることが科学的に確認される食品について、必ずしも作用機序が明確化されなくても許可できるよう改めるべきである。 |
○ | また、審査基準の見直しにあたっては、申請者側の負担、既許可品も含めた再評価や市販後調査の必要性等も考慮して、その明確化を図るべきである。 |
2 許可の基準 |
|
以上のような意見を踏まえ、作用機序と試験デザインの2つの要素について、現行の審査基準を緩和したマトリクスを作成し、条件付き特保を認める部分を以下の通りに整理した。
試験 作用機序 |
RCT(無作為化比較試験) | 非無作為化 比較試験 (同5%以下) |
対照群のない 介入試験 (同5%以下) |
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有意差あり (有意水準 5%以下) |
有意傾向あり (5%を超え 10%以下) |
|||
明確 | 現行特保 | 条件付き特保 | 条件付き特保 | × |
不明確 | 条件付き特保 | 条件付き特保 (※) |
× | × |
比較試験の実施に当たっては、以下の点に留意することが必要である。
・ | 研究対象者を明確にしておかなければならない。すなわち、対象者の性、年齢、指標(例えば血圧の場合、軽症高血圧、正常高値血圧等、収縮期血圧と拡張期血圧の数値)を記載する。 |
・ | プラセボ食品を摂取する対照群の設置は必須である。 |
・ | マスク化については、ダブルブラインドが望ましいが試験の性質によってはシングルブラインドでもよい。非マスク化は、心理的効果などのバイアスの混入を否定できないので適当でない。 |
・ | 割付については、試験開始時に、全対象者を無作為に当該健康食品摂取群とプラセボ食品摂取群とに配置する方法(非逐次実験法)だけでなく、一時に多数の対象者を得ることができない場合、得られてくる対象者を一人、二人と順次無作為に割り付け、必要な大きさの標本数に達するまで試験を続けていく方法(逐次実験法)も許容される。なお、割付の開鍵は、全ての試験を終了した後行うことが必要である。 |
・ | 非無作為化比較試験であっても、当該健康食品摂取群とプラセボ食品摂取群との間で、性、年齢、指標等の比較性がある程度担保されなければならない。比較可能性の観点から、当該健康食品摂取群と性、年齢、指標等を、ある程度マッチさせた対照者にプラセボ食品を摂取させるというような研究デザインも考えられる。 |
対照群のない介入試験については、平均回帰や経時的変動を除外できないことから、有効性を判断する試験デザインとしては不適切であると考えられ、条件付き特保のエビデンスとしても認められないと判断した。
試験の質については、様々な観点からの総合評価となるため、個別の審査時に判断することとするが、判断のために以下の事項について明確な記載がされているべきである。
・ | エントリー時、介入途中における研究対象者の選択や除外に関する基準 |
・ | 対象人数(研究の検出力と有意水準の設定) |
・ | 観察期間 |
・ | 比較可能性について(性別・年齢・指標等) |
・ | エンドポイントの測定条件(精度管理を含む) |
3 表示について |
【課題2】規格基準型特定保健用食品について
1 制度の枠組み |
(参考)「提言」より
○ | 現行の特定保健用食品制度において許可されている食品の中でも、難消化性デキストリン、オリゴ糖など(いわゆるプレバイオティクス)、乳酸菌、ビフィズス菌など(いわゆるプロバイオティクス)の中には、既に特定保健用食品の表示の許可件数が多い成分がある。 |
○ | こうした成分や、又は、その食品と「身体の構造/機能表示」との関係に関する科学的根拠が高い成分等については、その他とは分けて、規格基準型とし、表示を迅速に行えるようにするべきである。 |
2 規格基準策定の対象選定の基準 |
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規格基準型への移行については、科学的根拠の蓄積の度合い、他の食品成分との相互作用等について、専門的観点から検討が必要と考えられる。したがって、一定のルールによりスクリーニングをした関与成分について、専門家による検討(研究班等)を行った上で、薬事・食品衛生審議会において規格基準作成の可否及び規格基準の内容について審議することとする。
一定のルールとしては、以下の2つの条件をともに満たすこととする。
・ | 許可件数が100件を超えている保健の用途に係る関与成分であること |
・ | 当該関与成分が最初に許可されてから6年以上経過しており、その6年間に特段の健康障害が出ておらず、かつ複数の企業(※)が許可を取得していること |
これらを満たす関与成分について、薬事・食品衛生審議会における審議に先立ち、専門家による検討を行い、必要な情報を整理するものとする。
規格基準の設定に当たっては、類似した関与成分をグループ化し、そのグループ内にある関与成分を含むことにより既に許可されている食品の形態であれば、当該関与成分が当該食品形態において許可されていなくても、当該食品形態での規格基準型特保として、上記の条件を満たすものについて、認めることとする。個々のグルーピングの仕方については、専門家による検討を行うこととする。
3 今回規格基準を作成する関与成分とその内容について |
難消化性デキストリン、ポリデキストロース、小麦ふすま、グァーガム分解物、大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖
(なお、生菌については、現時点でスクリーニング基準を満たすものはない。)
今後、当研究班において、規格基準の作成が可能かどうかの議論及び個別の規格基準の作成を行う。
当該関与成分で許可実績のない食品形態でも規格基準型特保として認めることのできるグループとしては、食物繊維、オリゴ糖、生菌と分けた。これについては、当該グループごとの食品形態であれば、どの関与成分も機能を減弱されることはないと解され、適当であると判断される。
4 表示について |
5 個別品目の申請について |
また、規格基準型特保の許可に当たっては、制度の濫用を防ぐため、許可に当たっては、食品中の他の成分等を関与成分とする特保であるとの誤解を招かない表示がなされているかどうかについて、表示見本を厳正にチェックする。既許可品に含まれていない副原材料等が使われている等、有効性・安全性について事務局で判断できないものについては、通常の個別審査へ移行させることとする。
【課題3】疾病リスク低減表示について
1 制度の枠組み |
(参考)「提言」より
○ | 疾病リスク低減表示については、アメリカで既に認められているほか、コーデックス、EUにおいても認められる方向にあることから、表示の選択肢を拡げ消費者に対して明確な情報を提供する観点から、わが国においても認めるべきである。 | ||||
○ | ただし、認めるにあたっては、疾病には多くの危険因子があることや十分な運動も必要であることなどを表示すること、過剰摂取に十分配慮した表示をつけることを条件とし、さらに、認める表示内容についても、
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2 カルシウム・葉酸以外について求めるエビデンスの考え方 |
・ | 国際的または国内において、複数の疫学的研究があること。疫学的研究については、試験デザイン、研究の質等から見て、十分な科学的根拠であると判断されるものであること。また、介入研究だけでなく、観察研究も存在すること。 |
・ | 原則として、コクランデータベースに収載されている等、複数の疫学的研究をメタアナリシスした論文があること。例外となるのは、既に多くの諸外国において一致した公衆衛生政策がとられており、その根拠となる疫学的研究が共通していることが示された場合等が考えられる。 |
・ | 当該関与成分と疾病の関係が、諸外国で疾病リスク低減表示の対象となっている場合は、その表示が限定的(条件付き)でないこと。 |
これらの評価のための方法論については、アメリカの疾病リスク低減表示制度(Health Claim)等で用いられている、複数の科学的根拠を総合的に評価する考え方を参考とした。
また、関与成分の疾病リスク低減効果を十分に示すことのほか、以下のような事項について、データを付した説明が必要である。
・ | 日本国民の疾病の罹患状況等に照らして、当該疾病リスクについての注意喚起が必要であるか。 |
・ | 注意喚起が必要である場合、一般的な勧告や食生活指針等による普及啓発では足りず、個々の食品に対する表示許可という形で行わなければならない合理性はあるか。 |
3 カルシウム・葉酸についての考え方 |
4 表示について |
許可マークについては、現行のマークと差別化を図る必要性がないため、現行と同じものとする。
5 個別品目の申請について |
なお、カルシウム・葉酸以外の関与成分については、上述「2 葉酸・カルシウム以外について求めるエビデンスの考え方」に沿って十分なエビデンスを揃えた申請があった場合に、専門家による検討(研究班等)を行った上で、審議会にて決定することとする。
おわりに
当研究班では、医薬品的な考えによるとされてきた特保の審査を、食品としての有効性の評価に改めるにはどのようにすればよいか、という観点を中心に据えて検討してきた。これについて、作用機序が明確でない場合、試験結果で有意差が出ない場合、科学的根拠が蓄積している場合等について有効性の根拠として認めることで、食品としての評価方法の考え方を示したものである。
今後は、規格基準型特保の個別の規格基準の作成等、残された課題についての研究を進めることとする。