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<III.疾病・障害対策研究分野>

 疾病・障害対策研究分野は、個別の疾病・障害や領域に関する治療や対策を研究対象としている。具体的には、「長寿科学総合研究事業」、「子ども家庭総合研究事業」、「第3次対がん総合戦略研究事業」、「循環器疾患等総合研究事業」、「障害関連研究事業」、「エイズ・肝炎・新興再興感染症研究事業」「免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業」、「こころの健康科学研究事業」、及び「難治性疾患克服研究事業」から構成されている(表4)。

表4.「疾患・障害対策研究分野」の概要
研究事業 研究領域
5)長寿科学総合 長寿科学総合、痴呆・骨折臨床
6)子ども家庭総合 6−1)子ども家庭総合
6−2)小児疾患臨床
7)第3次対がん総合戦略 第3次対がん総合戦略、がん臨床
8)循環器疾患等総合
9)障害関連 9−1)障害保健福祉総合
9−2)感覚器障害
10)エイズ・肝炎・新興再興感染症 10−1)新興再興感染症
10−2)エイズ対策
10−3)肝炎等克服緊急対策
11)免疫アレルギー疾患予防・治療
12)こころの健康科学
13)難治性疾患克服


5)長寿科学総合研究事業

事務事業名 長寿科学総合研究事業
担当部局・課主管課 老健局総務課
関係課 老健局内各課

A. 研究事業概要

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(一部新規)
 高齢社会を迎えた今、社会全体で高齢者を支える、国民が安心して生涯を過ごすことができる社会へと転換するため、高齢者に特徴的な疾病・障害の予防、診断及び治療並びにリハビリテーションについて研究を行う。また、高齢者を支える基盤としての介護保険制度にも着目し、介護ケアの確立、介護支援機器の開発、権利擁護等の社会科学的検討及び保健・医療・福祉施策の連携方策に関する研究を行うことにより、総合的な長寿科学研究を積極的に推進する。
 特に、平成18年度を目途とした介護保険制度改革や「健康フロンティア戦略」の趣旨を踏まえ、効果的な介護予防プログラムの開発、痴呆・骨関節疾患の予防・治療・リハビリテーション技術の開発、介護支援機器の開発等に重点的に取り組むこととする。
 主な研究分野は下記の通り。
 ● 老化・老年病等長寿科学技術分野
老化機構の解明に関する研究
主要な老年病の診断治療に関する研究
高齢者リハビリテーションに関する研究
高齢者支援機器及び居住環境に関する研究
技術評価に関する研究
 ● 介護予防・高齢者保健福祉分野
介護予防、介護技術に関する研究
高齢者の健康増進に関する研究
高齢者福祉、社会科学に関する研究
介護及び高齢者保健福祉サービスの評価に関する研究
 ● 痴呆・骨折等総合研究分野
痴呆及び軽度認知障害に関する研究
骨折、骨粗鬆症等の骨関節疾患に関する研究
高齢者医療・介護の総合的な提供体制の確立に関する研究

(3)予算額(単位:百万円)
H13(※) H14(※) H15(※) H16 H17
2,310 2,311 1,972 2,063 2,993
 効果的医療技術の確立推進臨床研究経費を含む。

(4)趣旨
 平成16年度までに長寿科学総合研究事業として、高齢者の保健・医療・福祉に関する総合的な研究を実施し、特に要介護状態の大きな原因である痴呆及び骨折の臨床研究を重点的に進めてきた。
 これらのうち、高齢者に特有の疾患・病態において痴呆や骨折、摂食・排泄障害に関する診断法や治療法に関する研究が進められてきたが、これらの疾患を有する高齢者に対する総合的な医療と介護を提供する体制が十分でない。また、老化のメカニズムや老化予防については、遺伝的要因の解明は進んでいるが、環境要因の解明が途上である。また、これらの基礎研究の成果を臨床応用につなげる研究を推進していく必要がある。
 介護や保健福祉分野では、高齢者に対する看護技術や在宅ケアの質の評価、高齢者の健康増進施策に関する研究が進められてきた。しかし、介護予防サービスの開発と評価、生活機能低下を重視した保健事業のあり方、痴呆性高齢者に対するケアモデルの必要性、介護サービスの評価、高齢者虐待を含めた高齢者の権利擁護、終末期ケアのあり方などといった新たな課題に対応する研究を開拓・刷新していく必要がある。
 これらは、官民の研究機関で鋭意進められてきているが、新しい高齢者介護や高齢者医療制度を検討する上で必要不可欠な政策的研究分野であり、国としてさらに推進していく必要がある。
期待される成果
 医学的分野では老化や老年病発症の機序の解明が進み、また、リハビリテーションに関する諸研究の成果が、国際生活機能分類(ICF)に基づく介護報酬におけるリハビリテーションの評価に反映された。また、介護分野においては、介護予防事業やケアマネジメントの評価、要介護認定や介護サービスの検証、高齢者の権利擁護等に関する科学的根拠の蓄積に大きな成果が見られた。
 痴呆分野においては、新たな治療薬の開発の端緒が築かれ、早期発見のための画像診断や臨床的スクリーニング手法が開発されるとともに、痴呆の進展予防のための介入治療の評価が実施されている。これらは痴呆診療や介護に関するガイドラインや痴呆介護従事者の研修事業にも反映されている。また骨折分野においては、骨粗鬆症の病態解明や早期診断法の開発に加え、骨折や脳卒中に伴う急性期からのリハビリテーションと回復期のリハビリテーションの連携システムに関する研究が進められるとともに、転倒予防方法の開発や転倒時に骨折リスクを軽減させる装具の普及について大きな成果がみられた。
 今後は、老化機構の解明のさらなる進展とともにこれらの成果の臨床応用に関する研究が期待される。また、新たな介護予防サービスの確立とこれらの評価に関するガイドラインの作成が急務であり、本研究事業における成果が期待される。
総合科学技術会議における評価に対する取り組み
 平成16年度の評価において指摘のあった、疾患関連たんぱく質解析研究事業との連携については、当該事業が対象疾患を明示して重点的かつ総合的に研究開発を行っているのに対し、本事業では研究者からの課題提案を評価して研究を実施しているため、原則として研究内容の重複を来さないよう、事業担当課において調整を図っており、今後とも十分連携を図ることとしている。

(5)事業の概略図
事業の概略図


B. 評価結果

(1)必要性
 わが国は世界の最長寿を享受しており、世界保健機関(WHO)が発表している「健康寿命」においても世界最高を維持している。このように世界に類例を見ない超高齢化社会を迎えつつあるわが国にとって、高齢者がその尊厳を維持しつつ、健康で豊かな生活を送ることを可能とするため、老化や老年病に関する基礎、臨床両面からの医学的知見を集積し、疾病の予防及び治療方法を開発するとともに、介護技術、介護予防サービス、リハビリテーションの確立、地域における保健・医療・福祉の連携方策等、老化・加齢に関する研究として、基礎的研究から社会的研究まで広く包含する横断的研究として我が国でも数少ない研究事業である。このため、本研究事業は厚生行政を所管する厚生労働省が主体的に実施する必要がある。また、介護制度改革や老人保健事業の見直しに伴う介護・保健サービスの充実や高齢者医療との連携を促進が喫緊の課題であり、また重点施策として要介護状態の主要な原因である痴呆や骨関節疾患への対策が急務であり、これらについての臨床・行政的研究を緊急に行う必要がある。
 本研究事業では多方面にわたる研究成果が得られ、我が国の高齢者保健福祉の向上に加え科学技術の振興にも大きく寄与してきた。なかでも、平成13年度からの「メディカル・フロンティア戦略」に基づき、痴呆及び骨折に係る臨床研究が重点的に進められてきた。今後は、これらの成果を踏まえ、「健康フロンティア戦略」や介護制度改革、新たな高齢者保健福祉計画や老人保健事業の推進に資する研究を継続し、介護予防や痴呆・骨関節疾患に関する研究を重点的にすすめることにより、尊厳ある健康長寿社会の開拓に資することが期待される。

(2)有効性
 本研究事業の実施にあたっては、基礎・臨床・社会医学及び社会福祉の専門家による事前評価を行った上で採択を決定することとされており、また、中間評価及び事後評価を行うことにより、個別研究課題の継続の必要性が評価されることとなっており、客観的かつ公正な実施が期待できる。

(3)計画性
 研究計画期間を原則2年以内と規定しており、遅滞なく研究成果を見定め、漫然とした研究継続の抑制に努めている。これは、研究者自身の自律的チェックにも繋がるものであり、本研究事業自体の計画的な実施が期待できる。

(4)効率性
 医学的分野では老化や老年病発症の機序の解明、骨折予防やリハビリテーション技術の開発が進み、介護分野においては、介護予防事業やケアマネジメントの評価、要介護認定や介護サービスの検証、高齢者の権利擁護等に関する科学的根拠の蓄積に大きな成果が見られた。また、ゴールドプラン21、対がん10か年戦略、メディカル・フロンティア戦略など、様々な行政計画と連動しつつ研究成果がこれらの施策に反映され、本業の目的が十分達成されつつあるが、高齢者介護やリハビリなど発展途上の分野もあり、今後の研究の促進が期待される。
 また、推進事業や臨床研究事業により、若手研究者の育成、研究者間の連携及び国際交流が図られており、引き続き我が国の長寿科学を担う人材の確保及び育成に寄与して行くことが期待される。

(5)その他
 「高齢者介護研究会報告書」(平成15年6月:老健局長の私的研究会)において、介護予防・リハビリテーション、痴呆ケアモデルの確立、地域包括ケアシステム等介護サービスの見直しに係る研究及び科学的知見の集積を行う必要があると提言がなされており、また、「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」(平成16年1月・高齢者リハビリテーション研究会中間報告)において、高齢者筋力向上トレーニング等の介護予防事業の検証、リハビリテーションに係る科学的根拠の整理、高齢者の生活機能の実態について調査研究等を行う必要があるとの提言がなされている。


C. 総合評価

 本研究事業における基礎・臨床的な研究成果により老年医学及び高齢者医療の進展がみられ、また、介護や看護技術、保健福祉政策及び社会科学的側面においても研究成果がその前進に大きく寄与してきた。今後とも高齢者の保健・医療・福祉の全般にわたり本研究事業が重要な役割を果たすことが期待される。
 また、介護制度改革を含む社会保障制度改革により、今後の高齢者保健福祉に係る制度の見直しが行われることになる。また、「健康フロンティア戦略」において、老化機構の解明、介護予防や痴呆・骨関節疾患、介護支援器機の開発に係る研究開発の推進が提唱されている。これらを円滑に実施するため、行政施策や医療・介護現場のサービス提供への応用が可能な研究に重点投資しつつ、高齢者の保健・医療・福祉に関する研究開発を今後とも推進していく必要がある。



6)子ども家庭総合研究事業

6−1)子ども家庭総合研究領域

事務事業名 子ども家庭総合研究経費
担当部局・課主管課 雇用均等・児童家庭局 母子保健課
関係課 大臣官房厚生科学課

A. 研究事業概要

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 心身ともに健やかな子どもの育ちを支援する社会基盤を整備し、乳幼児および生涯を通じて女性の健康を守るための効果的かつ効率的な母子保健サービスの提供に資する総合的研究を推進する。世界で最も少子化が進んだわが国の最近の社会状況を見据え、児童を取り巻く社会環境の変化やこれらが児童に及ぼす影響について検証し、適切な対応を行うための政策提言型研究に取り組むことにより、次世代育成支援を推進し、子ども家庭福祉の向上に資することを目的として本事業を実施する。
 本事業においては、このような観点から、母子保健・児童福祉施策を講じる上で必要な基盤研究について公募を行い、専門家及び行政官による評価に基づき採択された研究課題に対して補助金を交付している。また、研究により得られた成果については、行政施策に適切に反映されている。平成15年度終了課題の成果の定量的評価においては、本事業の研究あたりの施策への反映件数は、全厚生労働科学研究事業中トップレベルであった。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
648 798 698 738 846

(4)趣旨
施策の必要性と国が関与する理由
 わが国は、先進国の中でも最も少子化の進んだ「超少子化」国であり、急速な少子化の進行が社会や経済、国の持続可能性を基盤から揺るがす事態をもたらしている。このような危機的な状況を克服し、健康で活力ある社会を実現させるためには、わが国の将来を担う子どもの心身の健やかな育ちを支援する社会基盤を早急に強化することが不可欠である。「子どもが健康に育つ社会、子どもを生み、育てることに喜びを感じることができる社会」をつくるために、国が次世代育成支援施策を効果的に推進するための基盤として、子どもの心身の健やかな育ちを継続的に支えるための母子保健・児童家庭施策の基礎となる知見の集積、介入方法の開発やその評価体系の確立を含む、実証的かつ成果の明確な総合研究を推進する必要がある。
期待される成果
 本事業においては、社会的関心及びニーズの高い「子どもの心の問題」、「児童虐待」や「小児医療」などへの取り組みを行っており、母子保健医療や児童家庭福祉における「健やか親子21」や「新エンゼルプラン」などの国の重点課題・施策に応える研究成果が期待されている。次世代育成支援を総合的に推進するため、ライフステージの各段階に応じて必要な施策を組み合わせ、「健やかな子どもの心身の育ち」を支援する家庭機能の形成・回復に向けた施策の推進、小児慢性疾患や乳幼児の障害への適切な医療・福祉的支援、児童家庭福祉サービスの質の向上に資する研究成果が期待される。特に、今後、次のような具体的研究成果が期待される。
(1) 「子どもの多様な心身状態に応じた適切な発達支援」の観点から、子どもの心の健全な発育のための環境整備方策、軽度発達障害児の早期発見と対応システムの開発、胎児期の低栄養状態と児の将来的な生活習慣病発症のリスク解明とリスク低減方策
(2) 「多様な社会的ニーズに対応し、かつ安全で安心できる母子保健医療システムの実現」の観点から、小児科・産科医療の具体的な今後の体制整備計画の基礎
(3) 「子どもの発育・発達や家庭の機能に深刻な影響をもたらす課題への対応」の観点から、虐待を受けた子どもの心身の健康影響を評価する手法や相談・支援システムの開発、ドメスティック・バイオレンス被害者の自立支援のためのガイドライン
(4) 「家庭・養育機能の形成、機能回復の対策の推進」の観点から、産後うつの予防や母子の愛着形成支援のための周産期母子精神保健ケア手法の開発、虐待の起きた家庭の家族再統合に関する支援プログラムの開発
(5) 「新たな社会的ニーズに対応し、子どもの発育・発達を確保できる児童福祉サービスの実現」の観点から、虐待を受けた子どもへの家庭的養護システムの開発や虐待による重症症例に対する総合的治療システムの開発
前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取り組み
 より一層効果的な総合研究事業の確立を目指し、次の領域に重点を置いた課題設定を行うこととしている。
(1) 子どもの多様な心身状態に応じた適切な発達支援
(2) 多様な社会的ニーズに対応し、かつ安全で安心できる母子保健医療システムの実現
(3) 子どもの発育・発達や家庭の機能に深刻な影響をもたらす課題への対応
(4) 家庭・養育機能の形成、機能回復の対策の推進
(5) 新たな社会的ニーズに対応し、子どもの発育・発達を確保できる児童福祉サービスの実現
 また、研究事業の運営に当たっては、評価主義を一層徹底させ、期待される成果の明確化、成果目標の到達度などを考慮して研究継続及び新規課題の採択を実施。

(5)事業の概略図

子ども家庭総合研究事業
健やかな子ども・家庭づくりをサポート
事業の概略図


2. 評価結果

(1)必要性
 本研究事業は、子どもの心身の健康確保、母子保健医療体制の充実、多様な子育てサービスの推進、児童虐待への対応など、多様な社会的課題や新たなニーズに対応する実証的な基盤研究を行い、母子保健医療・児童家庭福祉行政の推進に大きく貢献しており、研究あたりの実際の行政施策への反映件数も非常に高い。少子化対策や次世代育成支援の効果的推進の基盤となる知見を集積し、対応方策を提言することが求められ、今後一層重要な研究事業となるものと認識される。

(2)有効性
 本研究事業においては、研究班を構成する研究者から幅広い全国的及び国際的情報・データが収集されており、これら知識を集約した先導的な研究を効率的に進めることが可能である。研究評価方法については、外部の専門評価委員で構成される評価委員会が多角的な視点から評価を行い、その結果に基づいて研究費の適正な配分が行われており、効率的に事業を進めている。研究事業全般を通じた成果主義の徹底を目指していることも評価に値する。

(3)計画性
 子どもを取り巻く社会、家庭環境の変化により、取り組むべき課題も変化し、多様化してきているが、本研究事業においては、「健やか親子21」、「新エンゼルプラン」、「次世代育成支援対策推進法」などに基づく次世代育成支援の推進をはじめとして、その時代の行政的課題の解決及び新規施策の企画・推進に資する計画的な課題設定が行なわれている。また、行政ニーズに即応した検証研究及び政策提言型研究により汎用性のある成果が得られており、今後の研究成果も期待される。

(4)効率性
 本研究事業においては、子どもの健康確保と母子医療体制等の充実、多様な子育て支援サービスの推進、児童虐待への対応などの要保護児童対策などの充実等、母子医療保健及び児童家庭福祉に係る行政施策の推進に資する基盤的研究を実施しており、新たな社会的課題やニーズに対して、具体的かつ施策への実際的応用が可能な研究成果が得られているところであり、総じて本研究事業の目標達成度は高いものと評価される。

(5)その他
 該当なし


C. 総合評価

 先進国の中でも最も少子化の進んだ「超少子化」国であるわが国においては、急速な少子化の進行が社会や経済、国の持続可能性を基盤から揺るがすことも憂慮されている。このような危機的な状況を克服し、健康で活力ある社会を実現させるためには、「子どもが健康に育つ社会、子どもを生み、育てることに喜びを感じることができる社会」の社会基盤の整備を効果的に推進することが急務であり、子どもの心身の健やかな育ちを継続的に支えるための母子保健・児童家庭施策の基礎となる知見の集積、介入方法の開発やその評価体系の確立を含む、実証的かつ成果の明確な総合研究を推進する子ども家庭総合研究事業の必要性は極めて高い。本事業においては、これまでに、研究成果を継続的に行政施策に適切に反映してきており、平成15年度終了課題の成果の定量的評価においては、本事業の研究あたりの施策への反映件数は、全厚生労働科学研究事業中トップレベルであったことは注目される。
 子どもを取り巻く社会、家庭環境の変化により、取り組むべき課題も急激に変化し、多様化してきているため、本研究事業においては、「健やか親子21」、「新エンゼルプラン」、「次世代育成支援対策推進法」などに基づく次世代育成支援の推進をはじめとして、その時代の行政的課題の解決及び新規施策の企画・推進に資する計画的な課題設定が行なわれている。今後、このような時代のニーズの変遷を先取りした、一層包括的な検証研究及び政策提言型研究により汎用性のある研究成果が期待される。


6−2)小児疾患臨床研究領域

事務事業名 小児疾患臨床研究経費
担当部局・課主管課 医政局研究開発振興課
関係課  

A. 研究事業概要

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要
事業内容(継続)
 現在、小児科領域の現場では、医薬品の7割〜8割が小児に対する適用が確立されていない状況で使用されている。小児疾患のように企業が開発し難い疾患分野にあっては、行政的にその研究を支援していく必要があり、根拠に基づく医療(EBM=Evidence Based Medicine)の推進を図るため、倫理性及び科学性が十分に担保された質の高い臨床試験の実施を目指す必要がある。
 このような状況をふまえ、本研究事業は、小児科領域における倫理性及び科学性が十分に担保された質の高い臨床試験を実施し、根拠に基づく医療(EBM)の推進を目指している。さらに、平成17年度からは、当初からの事業内容に加え、小児への適応が未確立な医薬品について、安全性・有効性の確認、用法・用量の検討・確立等を内容とする研究事業を行うこととし、小児科領域の標準的医療技術の確立及び医薬品の適正使用の推進を目指す。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
  240 199 194(研究費部分) 352(研究費部分)

(4)趣旨
施策の必要性と国が関与する理由
 現在、小児疾患に関しては、医薬品の7割〜8割が小児に対する適用がなく、医療の現場では適応外使用がなされているのが現状である。小児疾患のように企業が開発し難い疾患分野にあっては、行政的にその研究を支援していく必要があり、根拠に基づく医療(EBM=Evidence Based Medicine)の推進を図るため、倫理性及び科学性が十分に担保された質の高い臨床試験の実施を目指す必要がある。
他省との連携
 研究の進捗に応じて、必要があると認められた場合には、関係各省との連携について検討する。
期待される成果
 これまでに、鎮痛・鎮静薬や抗腫瘍薬について用法・用量、有効性、安全性等について評価を行い、医師主導型治験を実施するための標準業務手順書を作成する等の成果が得られ、これにより医師主導による治験の実施が可能となる等の成果を挙げているところである。
 海外に比べ日本の治験環境は、スピード、費用、質の面で劣っているという指摘があるが、本研究事業を実施することにより、臨床試験の成果を評価・蓄積し、小児疾患分野について根拠に基づく医療(EBM)の推進が図られ、小児分野の標準的医療技術の確立及び医薬品の適正使用に貢献することが期待される。
前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取り組み
 本研究事業は、外部委員により構成される評価委員会において、新規採択課題については、研究者への研究課題の周知徹底、適切な事前評価を実施することにより、レベルの高い研究課題を採択するとともに、継続課題に対しては、中間・事後評価を厳正に実施することにより、質の高い研究を継続させることとする。

(5)事業の概略図

小児疾患臨床研究事業

不採算等の理由から医薬品の7割〜8割が小児への適用が未確立。
小児に対する薬剤のように企業が開発し難い分野は、行政としての研究支援が重要

事業の概略図

成果を評価・蓄積し、小児分野の標準的医療技術の確立及び
医薬品の適正使用に貢献


B. 評価結果

(1)必要性
 現在、小児疾患に関しては、医薬品の7割〜8割が小児に対する適用がなく、医療の現場では適応外使用がなされているのが現状である。小児疾患のように企業が開発し難い疾患分野にあっては、行政的にその研究を支援していく必要があり、根拠に基づく医療(EBM=Evidence Based Medicine)の推進を図るため、倫理性及び科学性が十分に担保された質の高い臨床試験の実施を目指す必要がある。

(2)有効性
 厚生労働省においては、本研究事業について、「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」を踏まえ、本研究事業に関する評価指針を策定し、小児疾患に係る根拠に基づく医療(EBM)の実現を図るため、研究課題を専門家等により、厳正に評価(事前評価、中間・事後評価)を実施しているところである。

(3)計画性
 本研究事業は、小児科領域における倫理性及び科学性が十分に担保された質の高い臨床試験を実施し、エビデンスを収集して根拠に基づく医療(EBM)の推進を目指す公募型の研究事業である。
 さらに、平成17年度においては、当初からの事業内容に加え、小児への適応が未確立な医薬品について、安全性・有効性の確認、用法・用量の検討・確立等を内容とする研究を行うことを予定しており、従来から実施している事業と併せて、小児分野の標準的医療技術の確立及び医薬品の適正使用の推進を目指すこととしている。

(4)効率性
 小児領域における倫理性及び科学性が十分に担保された質の高い臨床試験を実施し、エビデンスを収集して根拠に基づく医療(EBM)を推進することによって、患者へのより安全・安心な医療技術の提供に結びつけることを目標としており、これらの目標に対する寄与によって達成度が示される。これにより、効率的な運営がなされていると考えられる。

(5)その他
 特になし


C. 総合評価

 現在、小児科領域の現場では、医薬品の7割〜8割が小児に対する適用が確立されていない状況で使用されている。小児疾患のように企業が開発し難い疾患分野にあっては、行政としてその研究を支援していく必要があり、根拠に基づく医療(EBM=Evidence Based Medicine)の推進を図るため、倫理性及び科学性が十分に担保された質の高い臨床試験の実施を目指す必要がある。
 海外に比べ日本の治験環境は、スピード、費用、質の面で劣っているという指摘があるが、本研究事業を実施することにより、小児疾患分野について根拠に基づく医療(EBM)が推進され、小児分野の標準的医療技術の確立及び医薬品の適正使用、患者へのより安全・安心な医療技術の提供が図られることを強く期待する。



7)第3次対がん総合戦略研究事業

事務事業名 第3次対がん総合戦略研究経費
担当部局・課主管課 厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室
関係課  

A. 研究事業概要

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 これまでの「対がん10カ年総合戦略」及び「がん克服新10か年戦略」の成果として、病態の理解が遺伝子レベルで進む等がんの本態解明は大きく進み、また各種がんの早期発見法・標準的な治療法の確立等、診断・治療技術も目覚ましい進歩を遂げた。その一方で、発がんの要因やがんの生物学的特性等については、不足部分を補完するなどその全貌解明に尚、一層の研究の充実を図ることが求められている。
 このため、我が国の死亡原因の第1位であるがんについて研究、予防及び医療を総合的に推進することにより、がんの罹患率と死亡率の激減を目指した「第3次対がん10か年総合戦略」を策定し、平成16年度からスタートしたところである。
 「第3次対がん10か年総合戦略」に基づく本研究事業においては、がんの臨床的特性の分子基盤等の研究を行うことにより、がんのさらなる本態解明を進めるとともに、その成果を幅広く応用するトランスレーショナル・リサーチを推進する。また臨床研究・疫学研究の新たな展開により革新的な予防、診断、治療法の開発を進めるとともに、根拠に基づく医療の推進を図るため、効果的な医療技術の確立を目指し質の高い大規模な臨床研究を推進する。
 さらにこうした研究事業の基盤整備を進めるため、若手研究者育成活用事業、外国人研究者の招へい、外国への日本人研究者等の派遣、外国への研究委託及び研究成果等の啓発などの推進事業を実施する。また研究補助者を活用することにより研究効率の一層の向上を図るため研究支援者活用事業を実施する。
具体的には、
第3次対がん戦略研究事業
(1) 発がんの分子基盤に関する研究
(2) がんの臨床的特性の分子基盤に関する研究
(3) 革新的ながん予防法の開発に関する研究
(4) 革新的な診断技術の開発に関する研究
(5) 革新的な治療法の開発に関する研究
(6) がん患者のQOLに関する研究
(7) がんの実態把握とがん情報の発信に関する研究
がん臨床研究事業
(1) 政策分野に関する研究
(2) 診断・治療分野に関する研究
 各研究分野につき研究を強力に推進するため、専門家、行政官による事前評価に基づき研究補助金を交付し、厳正な中間・事後評価を行い、得られた成果については適切に予防、医療等の行政施策に反映させる。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
2,185 2,186 1,831 4,633 6,601

(4)趣旨
 昭和56年以来がんは日本人の死亡原因の第1位を占めており現在では死因の約3割、医療費の1割弱を占める我が国最大の健康上の問題となっており、厚生労働省として緊急に研究をさらに充実させなければならない分野である。死亡率については、大腸がん、前立腺がん、乳がんなど多くのがんでは上昇傾向にあり、胃がんや子宮がんが著明に低下しているものの高齢化の進展に伴い適切な研究・支援が実施されない限りがんの死亡数が上昇することが予測され、増加する欧米型のがんや難治がんへの重点対応が望まれている。
 米国においては、国立がん研究所を中心として、ニクソン大統領主導で1971年に策定されたNational Cancer Actにより継続的に大量の資金ががん研究に投入され、欧州においても、EORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)という組織のもとに研究が進められている。このような国際情勢の中で、過去の対がん戦略に基づく我が国のがん研究は高い評価を得ており、我が国の果たすべき役割は年々大きくなってきている。
 このため、我が国の死亡原因の第1位であるがんについて研究、予防及び医療を総合的に推進することにより、がんの罹患率と死亡率の激減を目指した「第3次対がん10か年総合戦略」を策定し、平成16年度からスタートしたところである。
 「第3次対がん10か年総合戦略」に基づく本研究事業の計画は、昨秋の総合科学技術会議が実施する国家的に重要な研究開発の評価において、最高ランクのS評価を得ている。
 また「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中でも平成16年度に引き続き重点事項に位置付けられた。
 さらに先般、閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」に位置付けられた「健康フロンティア戦略」において、がん、心疾患、脳卒中、糖尿病対策の目標値が示され、それを達成するための科学技術の振興が提言されたところである。
 本研究事業の実施に当たっては、総合科学技術会議の指摘を踏まえ、がんの本態解明に迫る基礎研究の充実を目指すとともに、応用・臨床研究に一層の重点をおいた研究を行う。疫学的研究に基づく生活習慣の改善、効果的な予防のための研究や単なる有効性の検討に留まらない医療経済性の観点を含めた革新的な診断・治療法の開発研究に重点をおいて行う。トランスレーショナル・リサーチにおいては、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)等のネットワークを最大限活用し推進することとしている。なお「第3次対がん10か年総合戦略」に基づき実施される本研究事業及び文部科学省の研究事業が整合性をもって推進されるよう両省合同の会議を設けるべく協議を開始している。
 またがんの正確な情報に基づく施策を推進するために、がんの実態把握(がん登録)及びそれを用いた分析研究を一層充実する。
 また全国どこでも質の高いがん医療を受けることができるよう均てん化を図るために、地域がん診療拠点病院を核とした全国的な体制を整え、その機能が十分発揮できるように、均てん化の妨げとなる問題点を明らかにし解決法を提案する研究を進めることとしている。

(5)事業の概略図

がん対策の過去・現在・未来

平成16年度予算:46億円

今までの対がん戦略
 
現状と課題
 
今後の対応
対がん10か年総合戦略(昭和59年〜平成5年)
がん克服新10カ年戦略(平成6年〜平成15年)
     
第3次対がん10か年総合戦略
(平成16年〜平成25年)
発がん機構等の解明が進歩
一部のがん抑制遺伝子の同定
→ がん抑制遺伝子は同定されたが、どう予防や治療に結びつくかは不明 →
ゲノム情報を取り入れたがん予防法の確立
個々人に最適なテーラーメイド医療の確立

早期診断技術の開発
       
ヘリカルCTによる肺がんの早期発見 → 膵がん、スキルス胃がんなど難治がんの早期診断はいまだ困難
また、欧米型のがんは増加傾向
→
難治がんの早期発見法を開発
がん予防の推進(生活習慣改善の推進、検診技術の開発など)

がん治療の進歩
       
非侵襲的手術法の開発 → 技術は一部地域に限局 →
全国的な均てん、若手医師・研究者の育成

研究体制
       
既存の国立がんセンターや大学などで研究 → 研究成果の臨床応用に時間がかかるなどの問題も多い →
がん組織の収集・保存体制の整備
臨床応用研究の推進


B. 評価結果

(1)必要性
 昭和56年以来がんは日本人の死亡原因の第1位を占めており現在では死因の約3割、医療費の1割弱を占める我が国最大の健康上の問題となっており、厚生労働省として緊急に研究をさらに充実させなければならない分野である。死亡率については、大腸がん、前立腺がん、乳がんなど多くのがんでは上昇傾向にあり、胃がんや子宮がんが著明に低下しているものの高齢化の進展に伴い適切な研究・支援が実施されない限りがんの死亡数が上昇することが予測され、増加する欧米型のがんや難治がんへの重点対応が望まれている。
 米国においては、国立がん研究所を中心として、ニクソン大統領主導で1971年に策定されたNational Cancer Actにより継続的に大量の資金ががん研究に投入され、欧州においても、EORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)という組織のもとに研究が進められている。このような国際情勢の中で、過去の対がん戦略に基づく我が国のがん研究は高い評価を得ており、我が国の果たすべき役割は年々大きくなってきている。
 このため、我が国の死亡原因の第1位であるがんについて研究、予防及び医療を総合的に推進することにより、がんの罹患率と死亡率の激減を目指した「第3次対がん10か年総合戦略」が策定され、平成16年度からスタートしたところである。

(2)有効性
 第3次対がん総合戦略研究事業においては1研究課題あたりの金額は10,000千円〜70,000千円程度であり、研究期間は原則として3年程度を限度とし、事前評価委員会、中間・事後評価委員会およびそれらを統括する企画運営会議において外部評価を毎年行う。評価委員会はがんの研究分野の専門家と専門家以外の有識者からなり委員は10名から15名程度で構成する。評価委員会においては以下の評定事項に基づいて厳正な評価を行う。
専門的・学術的観点からの評定事項
研究の厚生労働科学分野における重要性
研究の厚生労働科学分野における発展性
研究の独創性・新規性
研究目標の実現性
研究者の資質・施設の能力
行政的観点からの評定事項
行政課題との関連性
行政的重要性
行政的緊急性
 事前評価委員会では「専門的・学術的観点」と「行政的観点」の両面から総合的な評価を行い、課題の採択をする。採択された課題については印刷物のほか厚生労働省のホームページ等により公表する。中間・事後評価委員会では毎年課題の目標がどの程度達成されたかにつき厳正な評価を行い、評点を考慮に入れた研究費の配分をする。
 このように評価方法についても各評価委員会の評価委員がその分野の最新の知見に照らした評価を行い、研究費は評価結果に基づき配分されることから効率性、妥当性が高いものと考えられる。限られた予算の中で研究課題を公募し研究を実施することにより必要性、緊急性が高く、予算的にも効率的な研究課題が採択されて事業が実施される。また研究期間は原則最長3年であり、研究課題の見直しに反映されるため事業の目的達成に対する有効性が高いと考えられる。

(3)計画性
 「第3次対がん10か年総合戦略」に基づく本研究事業は、10年後の目標を目指して計画的に総合的に実施するべきものである。
 実際の研究の推進に当たっては、目標を達成するために最も必要性の高い課題に対し効率的に資金を配分し、しかも計画的に総合的に推進することが必要なことから、過去の戦略の推進と同様、10年をI期(3年)、II期(3年)、III期(4年)に分け、各期毎に戦略の推進状況を総合的に勘案し、必要な見直しを行いつつ計画的に推進するのが適当と考える。
 また事前評価委員会の業務のひとつとして研究課題案の作成の機能をもたせており、専門的・学術的観点及び行政的観点から、第3次対がん総合戦略研究事業及びがん臨床研究事業における研究として重要性、緊急性及び必要性の高い課題を明らかにし、優先順位をつけて課題案を作成し、親会議にあたる企画運営会議において課題として設定し、プロジェクトを組むないしは公募を行い最も実行可能な班構成によりなされるように工夫されており、計画性が高いと考えられる。

(4)効率性
 事業目標が達成された場合、10年後に実現されるがん研究・がん医療の姿として以下のことが期待される。
がんの本態解明
(1) 個々人の発がんに対する感受性を規定する遺伝的要因が解明される。
ゲノム情報解析、診療情報、および大規模な疫学研究の成果により、発がんの高リスク群の把握が可能になる。
(2) 発がん過程における遺伝子異常の全貌や種々のがん細胞の生物学的特性が明らかにされる。
個々のがん症例に対応した、適切かつ有効で副反応の少ない「テーラーメイド」ながん医療、予防及び検診が実現される。
がんの転移や浸潤の分子機構が解明され、その制御法の開発により、進行がん・末期がん患者の生命予後が改善される。
(3) ヒトがんの多段階的遺伝子異常を再構築した動物モデルが作製される。
複数のがん関連遺伝子の個体内における相互作用の解析が可能になる。
(4) がんの監視機構である宿主の免疫応答のメカニズムが解明される。
トランスレーショナルリサーチの展開
(1) 体制整備や人材育成が進められ、がんの本態解明の基礎研究成果を、新しい予防・診断・治療法の開発と実用化に結びつける研究が推進・展開される。
ゲノム・トランスクリプトーム(転写産物総体)・プロテオーム(たんぱく質総体)研究の成果による分子標的治療法が積極的に導入される。
免疫応答機構の解明による腫瘍免疫療法が確立される。
(2) 厳正な審査・評価を受けて承認される新薬の治験、遺伝子・細胞治療、医療機器などの実験的医療が活性化され、患者自身の自由意志により、それらの臨床研究に参加する機会が増える。
(3) 副作用を最小限に抑え、有効でかつ個人の最適の抗がん剤投与法、放射線療法等の新たな治療法が開発される。
(4) 産官学の連携体制が確立し、薬剤、機器の開発などより有効な研究が可能になる。
がん予防
(1) 発がんの高リスク群に対して、個人に最適ながん予防対策が実現される。
発がんのリスク軽減や生活習慣の改善によるがん予防法が確立される。
遺伝子・ゲノム情報を取り入れて層別化された集団に対するがん予防対策が確立され、全国的に普及される。
がん発生の遅延あるいは生涯的な予防が可能となり、死亡率が減少する。
(2) 感染予防対策の充実により、感染に起因するがんの予防法が確立される。
感染の関与が明らかな、肝臓がんや子宮頸がん、一部の胃がんや白血病の罹患率および死亡率が減少する。
(3) 発がんの動物モデルを用いた研究により、新規のがん化学予防剤の開発が精力的に展開される。
がんの診断
(1) がんの「検査」がより正確に、鋭敏に、かつ簡便にできるようになり、患者の苦痛が軽減される。
新世代のデジタル画像診断や内視鏡診断、分子診断の開発が進む。早期診断率が向上し、治療成績や治療後の生活の質の改善に貢献する。
血液や尿、各種体液の中の腫瘍マーカーおよび極少数のがん細胞を高い精度で検出する検査法が開発される。特に膵がん等の難治がんに対するマーカーの開発が重要である。
画像情報をデーターベース化することで、診断の精度が向上する。
(2) 全国何処でも最高水準のがんの診断が受けられるようになる。
コンピューター技術を駆使した自動診断システムの開発や、ネットワーク技術によるデータベースとの連携、研修等を通して、最先端のがん診断技術が全国に普及する。
(3) 精度の高い検診の有効性が迅速に評価され、適切な間隔で多数の人が受診できるようになる。
最新の診断技術に基づいて、精度の高い新しいがん検診技術が開発される。
死亡率減少効果や延命効果などの予防および治療的有効性に加え、費用対効果などの医療経済学的な観点から検診の有効性を迅速に評価するシステムが構築される。
有効性が確立した検診を、適切な精度管理とともに普及し、効率よく多数の人が受診できるようになる。
がんの治療
(1) 個々人に最も適した治療法を選択する「テーラーメイド医療」が普及する。
遺伝子や遺伝子産物等、分子レベルの解析を取り入れて、個々の症例に最も効果があり、最も副作用の少ない治療法を行う「テーラーメイド医療」を、全国民が受けられるようになる。
(2) 手術療法が進歩し、治療成績が向上して、患者のQOLが改善する。
化学療法・放射線療法の有効な組み合わせや、ロボット外科機器の開発などにより、手術療法の成績と安全性が向上する。
機能温存や機能再建する外科的技術、さらには再生医学・臓器移植の技術の進歩により、手術の後遺症が減り社会復帰が促進される。
(3) 内視鏡を用いた「身体に優しい」手術が広まる。
内視鏡、腹腔鏡、胸腔鏡などを用いた、身体への負担が少なく、生活の質の維持に優れた治療法がより多くのがんについて行われるようになる。
(4) より有効で副作用の少ない新しい治療法が開発される。
がん細胞の特徴を明らかにし、分子レベルの異常を標的とする新しい分子標的薬が開発される。
免疫療法、遺伝子・細胞療法などの新しい治療法が開発される。
(5) 有効な放射線療法の開発・実用化が進む。
重粒子線・陽子線・高エネルギー放射線などの実用化が進み、より高度な放射線の照射法が開発されるとともに、放射線療法の効果や副作用があらかじめ予測できるようになる。
(6) 緩和医療がさらに充実する。
痛みや息苦しさ、倦怠感などを克服する新しい手段が見出されるとともに、精神・心理的な苦悩や負担の軽減が大きく進展する。
(7) 難治がんに対する診断・治療法の開発が大きく進展する。
治療が困難な「難治がん」に対して、画期的な早期診断法、治療法の開発が進み、治癒率が大幅に改善される。
実態把握と情報発信
(1) より正確ながんの実態の把握が可能になる。
地域がん登録・院内がん登録の意味とその重要性を国民に理解してもらい、この事業を国策として強力に推進し、その統合等を通して、我が国のがんの実態を正確に把握する。このデータに基づき、がん対策の正しい方向付けが可能となる。
(2) がんに関する様々な情報が簡単に、全国どこからも取り出せるようになる。
患者やその家族、がん医療や研究の専門家など、それぞれのニーズに応じたがんの最新の情報がインターネット等を介して容易に入手できるようになる。

(5)その他
 「第3次対がん10か年総合戦略」に基づく本研究事業の計画は、昨秋の総合科学技術会議が実施する国家的に重要な研究開発の評価において、最高ランクのS評価を得ている。また「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中でも平成16年度に引き続き重点事項に位置づけられたところである。
 また先般、閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」に位置付けられた「健康フロンティア戦略」において、がん、心疾患、脳卒中、糖尿病対策の目標値が示され、それを達成するための科学技術の振興が提言された。


C. 総合評価

 これまでの研究により、遺伝子レベルで病態の理解が進む等がんの本態解明は大きく進んだ。また、各種がんの早期発見法の確立、標準的な治療法の確立等診断・治療技術も目覚ましい進歩を遂げた。その一方で、発がんの要因やがんの生物学的特性は、がんの多様性と複雑性の故に、世界的にもその全容が依然解明できていない。がん細胞の浸潤能、転移能やがんに対する免疫応答など、生体内でのがんと周囲の細胞との相互作用も、その全貌が十分に解明されていない。今後は、進展がめざましい生命科学の分野との連携を深め、また、ミレニアムゲノム研究で得られた成果を統合させ総合的な基盤研究を推進することにより、がんの本態をより深く解明し、個々のがんの多面的な要因や複雑な病態を掌握し、早期発見のための新しい診断法の開発や有効な腫瘍マーカーの開発、新しい予防法・治療法の開発等のいわゆるトランスレーショナルリサーチを重点的に推し進める必要がある。また、医療技術のさらなる向上を目指すためには先端的な科学技術を積極的に取り入れた研究が必須であり、文部科学省と厚生労働省の連繋のみならず、産学連携の取り組みをさらに強化することが必要である。また先端的研究により開発される新しい治療技術につき大規模な臨床研究を進め、効果的かつ効率的で質の高い標準的な医療として確立したものにつき、全国にあまねく普及する必要がある。これらの取り組みにより、膵がんやスキルス胃がんなどの難治がんを含めたがん治癒率の一層の向上とがん発生率の減少を達成することができ、ひいては国民の医療費負担低下も実現可能となると考えられる。
 疫学的研究に関しては、大規模・長期にわたる疫学研究を実施可能にするための国家的な体制作りを進め、がんの環境要因を把握するのみでなく、遺伝子多型の分布など、遺伝的要因(ゲノム情報)も取り入れた分子疫学的研究を積極的に推進する必要がある。
 がん情報の基盤整備に関しては、診療技術の全国への普及、国民へのがんに関する適切な知識と最新情報の提供、とりわけ、がんの発生・死亡等に関わる情報の一元管理(がん登録)は、まだ十分に行われているとは言えず、今後、さらに整備・充実していく必要がある。
 緩和医療に関しては、痛みや息苦しさ、倦怠感などを克服する新しい手段を見出すとともに、精神・心理的な苦悩や負担の軽減をはかる医療環境を充実する必要がある。
 がん医療の均てん化に関しては、厚生労働省が指定を進めている地域がん診療拠点病院を核とした全国的な体制が整いその機能が十分発揮されるように、均てん化の妨げとなる問題点を明らかにし解決法を提案する研究を進める必要がある。
 以上の観点を踏まえ、本事業をより一層強力に推進していくことにより、がん対策を有効に推進し、「がんの治癒率の向上、がんの罹患率・死亡率の減少、がん患者の苦痛の軽減」に効率よく繋げていくことが重要である。



8)循環器疾患等総合研究事業

事務事業名 循環器疾患等総合研究経費
担当部局・課主管課 厚生労働省健康局生活習慣病対策室
関係課 厚生労働省医政局指導課

A. 研究事業概要

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 活力ある長寿社会の構築は我が国の経済発展の観点からも重要な課題となっており、特に働き盛りの国民にとって脅威となっている心筋梗塞等の「心臓病」や寝たきりの主な原因となる「脳卒中」に対し有効な対策を立てることは極めて重要である。
 これらの疾患に対する治療法には薬物療法、手術療法等があり、さらにその中でも昨今の様々な工夫により多くの薬剤、術式等が存在し、医療現場では、これらの治療法が医師の裁量により組み合わされ、多種多様な治療法が適用されている。しかし、それらの治療法についての効果や効率性等について、科学的な視点からの比較が必ずしも十分には行われておらず、最適な治療法というものが明らかになっていないことが多い。また進歩の著しい画像診断法等についても標準化や精度評価・管理が十分なされないまま臨床応用されていることが多い。そこで、心疾患、脳血管疾患、それらの背景疾患である糖尿病、高血圧、高脂血症等の分野について、効果的な医療技術を確立するために必要な臨床研究を公募型の競争的資金により推進するとともに、これらの臨床研究の実施に関して、多くの研究者・研究施設の参加のもと科学的な視点から厳密に有効性等の評価を行う、質の高い大規模な臨床研究を実施する体制の重点的整備を推進する。
 本研究の成果により、効果的かつ効率的で質の高い治療法等の医療情報が集積され、最善かつ標準的な医療技術が確立されることとなる。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
1,820 2,372 2,023 1,298 4,500

(4)趣旨
 日本人と欧米人は体格や遺伝的背景をはじめいろいろな点で異なるが、我が国の循環器系疾患等の治療において、欧米の臨床研究による科学的根拠に基づく医療(EBM)が有効と思われていた面が多々ある。我が国で真に有効な医療の構築には、我が国におけるエビデンスを是非とも確立する必要がある。しかし従来我が国では、複数の研究者小グループが独自に研究を行っているのが実状であり、臨床的研究において集まるサンプル数等に限界があり、十分な結論が得られないため研究結果の信頼性(バイアス、精度、再現性)が低いことが指摘されていた。
 この要請に応えるため、本研究事業では循環器系疾患等について全国規模で質の高い臨床試験が行える体制を整えることを目標のひとつとしており、実際、大きな研究目的毎に全国規模の臨床研究体制が整いつつあり、この臨床研究体制を基盤として循環器系疾患等について質の高いエビデンスが得られ始めている。
 研究成果の主なものとして、(1)糖尿病、高血圧、高脂血症と生活習慣の関係や合併症予防に関して、大規模多施設共同研究によって、従来の通説とは異なる日本人の新たな知見が明らかとなってきた。(2)虚血性心疾患に対する内科的治療、外科的治療の現状やその治療法の選択に関して、初めて全国規模の二次医療圏レベルの調査研究が行われ、新しい狭心症治療ガイドラインの作成に資する重要な知見が得られた。(3)冠状動脈バイパス手術に関しても、人工心肺非使用心拍動下冠状動脈バイパス手術が虚血性心疾患の外科治療の第一選択になることが期待される重要な知見が得られた。(4)難治性腎疾患のデータベースが構築され、腎疾患対策に活かすための環境が整ってきた。(5)急性期脳梗塞に対する局所血栓溶解療法が患者の社会復帰率を改善する可能性が示唆される結果が得られた。
 このように本研究事業は、循環器系の疾患に関して、厚生労働行政に貢献する多くの成果を上げてきており、今後さらに数多くのエビデンスが蓄積されることにより、日本人のエビデンスに基づいた日本人に最適な治療法等が確立されることが重要である。
 また先般、閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」に位置付けられた「健康フロンティア戦略」において、がん、心疾患、脳卒中、糖尿病対策の目標値が示され、それを達成するための科学技術の振興が提言されたところである。

(5)事業の概略図

事業の概略図


B. 評価結果

(1)必要性
 日本人と欧米人は体格や遺伝的背景をはじめいろいろな点で異なるが、我が国の循環器系疾患等の治療において、欧米の臨床研究による科学的根拠に基づく医療(EBM)が有効と思われていた面が多々ある。我が国で真に有効な医療の構築には、我が国におけるエビデンスを是非とも確立する必要がある。しかし従来我が国では、複数の研究者小グループが独自に研究を行っているのが実状であり、臨床的研究において集まるサンプル数等に限界があり、十分な結論が得られないため研究結果の信頼性(バイアス、精度、再現性)が低いことが指摘されていた。
 この要請に応えるため、本研究事業では循環器系疾患等について全国規模で質の高い臨床試験が行える体制を整えることを目標のひとつとしており、実際、大きな研究目的毎に全国規模の臨床研究体制が整いつつあり、この臨床研究体制を基盤として循環器系疾患等について質の高いエビデンスが得られ始めている。
 今後さらに数多くのエビデンスが蓄積されることにより、日本人のエビデンスに基づいた日本人に最適な治療法等が確立されることが重要である。

(2)有効性
 循環器疾患等総合研究事業においては、課題毎に以下の方針で事業を行っている。
心疾患、脳卒中及びその他の生活習慣病の診断治療技術等を確立するための臨床研究
(我が国におけるエビデンスの確立に資するよう、必要な症例数の集積が可能であり、生物統計学者を含めた班構成により実施される多施設共同研究)
研究費の規模: 1課題あたり10,000千円〜50,000千円程度。
研究期間: 1〜3年
医療手順の研究
(広く医療機関で活用できる具体的な医療手順を作成する研究)
研究費の規模: 1課題あたり5,000千円〜10,000千円程度(1年当たり)
研究期間: 1年(評価により3年まで継続することがあり得る。)
 研究課題及び研究者の選定、研究費の配分、研究課題の評価に当たっては、専門家及び行政官からなる評価委員会(事前、中間・事後)において最新の知見や行政的な重要性の観点から厳正な審議を行い決定される。
 評価委員会(事前、中間・事後)は10名から20名程度の委員で構成され、専門的・学術的観点および行政的観点から評点し、厳正な評価を行う。
 これらの評価結果に基づき、研究課題の採択・継続の可否及び研究費の調整を行っており、評価結果を適切に反映させている。また研究の実施体制についても、広く全国から公募し全国的な臨床研究実施体制の確立に資するように配慮されている。

(3)計画性
 事前評価委員会の業務のひとつとして研究課題案の作成の機能をもたせており、専門的・学術的観点及び行政的観点から、循環器疾患等研究事業における研究として重要性、緊急性及び必要性の高い課題を明らかにし、優先順位をつけて課題として設定する。このようにして設定された課題につき、公募を行い最も実行可能な班構成によりなされるように工夫されており、計画性が高いと考えられる。

(4)効率性
 本研究事業の推進を契機として、循環器系疾患等で効果的な医療技術の確立を推進するため国内外のエビデンスの整理等が行われ詳細なガイドラインが多数公表されるに至った。また各疾患の医療手順は具体的にクリニカルパスの形でまとめられ順次公表が始まっている。これにより病院在院日数の短縮や医療事故の減少にも貢献することが期待されている。
 また従来我が国において循環器系疾患の診断・治療等に関する臨床研究が実施されてきたが、科学的根拠を確立するために必要な医師主導の質の高い比較試験が十分実施されてきたとは言い難い。しかし本研究事業を契機として、EBMの推進に対する研究者の意識が高まると共に臨床研究支援のための人材も育ちつつあり、我が国でも質の高いエビデンスが得られる大規模完全無作為割付試験を行える体制が整いつつある。
 この臨床研究体制をもとに、本研究事業では具体的に以下の様な厚生労働行政に貢献する多くの成果を上げてきている。
研究成果の主な例
 糖尿病と生活習慣に関する研究では、歩行時間の多い者に糖尿病が少ないこと、喫煙・アルコール摂取が糖尿病発症の危険因子であること、禁煙10年で喫煙による糖尿病発症増加効果がほぼ消失すること、コーヒー摂取が耐糖能に良い影響を与える可能性のあることなどを見いだすなど、糖尿病の一時予防に方向性を与える重要な成果をあげた。
 糖尿病の合併症予防に関する研究では、欧米と比較して、日本の糖尿病患者では肥満の合併が少ないこと、心血管合併症が予想以上に多く、虚血性心疾患と脳卒中の発症が同程度であったこと、血圧が網膜症発症に大きく影響していることなど、従来の通説とは異なる事実が次々と明らかにされた。これらは我が国の糖尿病診療に大きなインパクトを与える成果であり、今後、診療ガイドラインにも強い影響を与えるものと考えられる。
 初めて、我が国の冠動脈疾患に対するインターベンション治療の全国規模の二次医療圏レベルでの現状が明らかになった。また、後ろ向き調査と現在進行中の本邦初の大規模無作為割付試験により、低リスク狭心症に対する薬物療法はインターベンションより予後が良好であり、コストも1/4であることが判明した。これにより新しい狭心症治療ガイドラインが作成されることで患者ならびに医療経済にとって福音となることが期待される。
 冠状動脈バイパス手術のクオリティーは人工心肺を使用せずとも保たれ、しかも周術期における脳・心臓に対する低侵襲性が明らかとなった。これにより世界に先駆けて、人工心肺非使用心拍動下冠状動脈バイパス手術が虚血性心疾患の外科治療の第一選択になることが期待され、従来最も医療費が高かった冠状動脈バイパス手術の医療費を大幅に削減することができる。
 透析医療につながる難治性腎疾患(代表疾患として糖尿病性疾患とIgA腎症)のデータベースを構築し、環境因子と遺伝因子の両面からの病態特性を明らかにした。このデータベースの活用により、これまで難治性腎疾患の治療指針・予後を、腎生検による組織像解析や臨床症状のみで決定していたものが、より多面的に治療対応できる可能性があり、疾患に対するテイラーメイド医療と予防が確立でき、コンプライアンスの向上につながると期待される。
 急性期脳梗塞に対して、閉塞した脳血管に直接薬剤を投与することにより治療する局所血栓溶解療法は、患者の社会復帰率を改善することにより、脳梗塞になった場合の後遺症を軽減させ、その後の介護等の費用負担を軽減することにより、全体に係る医療費削減効果の可能性が期待される。
 これらの研究成果を通じて、健康寿命をさらに延伸し、6〜8年ある平均寿命との差を減少することが可能になると期待でき、長寿高齢化の我が国にとって必須の研究分野である。

(5)その他
 先般、閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」に位置付けられた「健康フロンティア戦略」において、がん、心疾患、脳卒中、糖尿病対策の目標値が示され、それを達成するための科学技術の振興が提言された。
 臨床研究の倫理性の確保に関する重要性は論を待たないが、本事業では「疫学研究における倫理指針」(文部科学省、厚生労働省)、「遺伝子解析研究に関する倫理指針」(経済産業省、文部科学省、厚生労働省)、「臨床研究に関する倫理指針」(厚生労働省)等の遵守についても厳正な審査を行い、研究の倫理性の確保に努めている。


C. 総合評価

 心疾患、脳血管疾患は我が国の3大死因のうち2位と3位を占め、総死亡の3割を占める重要な疾患である。近年の診断・治療法の著しい進歩により循環器系疾患等の急性期死亡率は減少してきたが、救命されても再発と後遺症のために生活の質(QOL)が低下することが多いのが現状である。
 近年、これら循環器疾患の原因として重要な「境界型を含めた糖尿病患者」が急速に増加している(平成14年糖尿病実態調査)。糖尿病は自覚症状のないまま発症することが多く、治療することなく放置すると、腎症、網膜症、神経症などの合併症を引き起こし、生活の質(QOL)の低下を余儀なくされることが多い。さらには脳卒中、心筋梗塞といった大血管合併症に進展することが多く、糖尿病予防対策を強化することが喫緊の課題となっている。
 この糖尿病患者の増加傾向を減少に転じ、QOLの低下を余儀なくする合併症を予防するためには、最近、徐々に明らかになりつつある我が国における糖尿病と生活習慣の関係や合併症予防に関する大規模多施設共同研究の成果に基づき糖尿病予防対策を立案実行すると同時に、これらの研究を引き続き推進するとともに、新たに革新的な予防法・診断法・治療法の確立に関する研究を強化推進していく必要がある。
 また脳卒中、心筋梗塞をはじめとする循環器疾患等の研究においては、近年特にメタボリックシンドロームに注目が集まっている。このメタボリックシンドロームにおいては、肥満、高血圧、高脂血症、耐糖能異常といった個々の異常は軽度であっても、これらのリスクが重なることによって脳卒中、心筋梗塞の発症リスクが非常に高まることも明らかになってきている。しかし日本人におけるこれらの実態は未だ明らかになっておらず、一層の研究の強化が求められている。
 また、特に心室細動等の不整脈による突然死について、除細動等による早期の治療が注目されている。今後は、傷病者に居合わせたバイスタンダーによる早期介入・治療のあり方が重要であり、その効果的な介入・治療について一層の研究の推進が必要である。
 このような社会的要請に応えるため本研究事業では、全国規模で質の高い臨床試験が行える体制を整え、この臨床研究体制を基盤として日本人のエビデンスが集積され、日本人に最適な効果的かつ効率的で質の高い治療法等の医療技術が確立されることを目指している。研究の実施体制においても、広く全国から公募し全国的な臨床研究実施体制の確立に資するように配慮しており、厚生労働省の政策医療を推進する上でも貴重な資料を提供するものである。
 高齢者が高血圧、糖尿病をベースとして反復する心筋梗塞などで入退院を繰り返したり、脳梗塞の後遺症で寝たきりになったりすることが、平均寿命と健康寿命の差(6〜8年)を生む大変大きな原因となっている。この循環器疾患に起因する差を小さくすることが高齢化社会を迎える我が国にとって重要な政策医療となり、これに取り組む循環器疾患等総合研究事業は大変重要である。
 以上、本研究事業を一層推進し、これまでに得られた成果の普及・啓発をはかることにより、合理的で患者の満足度が高くしかも医療費の抑制につながる医療が進むものと期待される。



9)障害関連研究事業

9−1)障害保健福祉総合研究領域

事務事業名 障害関連研究経費
担当部局・課主管課 障害保健福祉部企画課
関係課 大臣官房厚生科学課、障害保健福祉部障害福祉課、精神保健福祉課

A. 研究事業概要

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な実施を確保すること

(2)事務事業の概要(新規)
 近年、地域生活支援、自己決定の尊重、利用者本位等をキーワードとして大きく転換しつつある障害者施策の推進の基礎として、(1)障害保健福祉施策の推進のための社会基盤づくり、(2)障害者のケアマネジマント手法の確立、(3)身体障害の予防、治療方法や在宅介護・介助等の支援技術、(4)知的障害者の地域福祉、医療、社会参加、(5)精神障害者の社会復帰、在宅福祉、就労支援、(6)発達障害に対する発達支援、社会参加支援システムに関する研究、(7)高次脳機能障害に対するリハビリテーション、社会参加支援システムに関する研究、(8)再生医療を応用したリハビリテーション技法及び支援機器開発に関する研究を推進する。
 また、視覚、聴覚・平衡覚等の感覚機能の障害について、その病態解明、予防、治療、リハビリテーション、生活支援等に関する研究を推進する。
 これらの実施にあたっては、行政上重要な課題を示して研究を公募し、専門家・行政官による事前評価の結果に基づき採択を行う。研究進捗状況についても適宜評価を加えるととともに、研究の成果は随時適切に行政施策に反映させる。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
(547*1
(680*2
(383*1
(680*2
(337*1
(585*2
853 916
*1 障害保健福祉総合研究分(推進事業費を含む)
障害保健福祉総合研究事業は、平成14年度より一部「こころの健康科学」に移行した。
*2 感覚器障害研究分(推進事業費を含む)

(4)趣旨
施策の必要性と国が関与する理由
 平成15年度からの新障害者基本計画、新障害者プランに基づく施策の開始、措置から契約(支援費制度)への移行など、わが国の障害者施策については、施設処遇を中心とした体系から、地域での自立した生活を支援することを基本にした体系への転換が急速に進んでおり、利用者の自己選択に基づく、ニーズに対応した総合的な支援体制の構築が急務となっている。また、自立支援のための就労対策、住まい対策などの充実・推進、従来のいわゆる三障害の枠組のみでは十分な対応が難しい発達障害や高次脳機能障害への対応など総合的な取組が求められている。さらにこれらの取組を進めるにあたっては、障害全般、とりわけ精神障害に関する正しい知識の普及・啓発をすすめ、広く国民の理解を増すことが必須である。
 また、高齢化社会の中で感覚器障害はますます重要性を増しており、特に糖尿病性網膜内障、突発性難聴等への対応が急務となっている。
 障害者の予防、治療、リハビリテーション、ケアマネジメントに基づく在宅福祉サービスの各般にわたる基盤整備などのためには、施策立案の基礎的資料収集や実態把握、具支援手法の開発等を総合的体系的に進める必要がある。また、障害者施策に関する調査や研究は、民間による自発的な取組を待つのみでは十分な成果が期待できにくい課題であり、国として研究に取組むことが不可欠である。
他省との連携
 人工視覚に関する研究では、主として工学的研究を担う経済産業省と主として臨床的研究を進める厚生労働省との連携のもとに、その推進を図っている。
期待される成果、波及効果、主な成果と目標達成度
<障害保健福祉総合研究>
(予防、治療、リハビリテーション等の適切なサービスに関する研究)
高位頚髄損傷者の座薬挿入動作支援機器の開発
脊髄損傷者の褥創を起こしにくい生活用具の開発
関節拘縮の力学解析に基づく治療機器の開発
肢体不自由者用新移動機器・足漕ぎ車椅子の開発
これらの研究開発成果により、障害者のQOLの向上や就労可能性の拡大、介護負担の軽減等につながっている。
(適切な障害保健福祉サービスの提供体制に関する研究)
身体障害者及び知的障害者更生相談所のあり方に関する研究
 本研究成果をもとに、支援費制度の障害程度区分を決定した。また、本研究で作たマニュアルにより全国の更生相談所で支援費制度の導入準備を行った。
重症心身障害児の呼吸器リハビリテーションマニュアルの作成
身体障害者補助犬の育成・普及のための基盤整備に関する研究
 制度の施行に必要な養成施設の施設基準、普及・啓発の手法、補助犬の評価手法等について、本研究により基礎資料が得られた。
高次脳機能障害者に対する連続したサービスの提供に関する研究
 高次脳機能障害に対応できる医療施設、福祉施設の実態調査及び利用者の満足度評価尺度の作成が行われ、同時に実施されたモデル事業の推進に役立った。
障害者施策の企画・立案に資する研究評価と情報収集に関する調査研究
 欧米の研究開発プロジェクト、関連学会の動向、リハビリテーション体育に関する基礎資料を収集し、リハビリテーション体育に関する資料は研修教材として使用予定。
強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
 強度行動障害に関する支援方法、医療・教育・地域との連携を研究し、福祉施設等と学校との連携マニュアルを作成した。支援費制度において強度行動障害の評価を行う上要な資料となった。
障害当事者参加型の福祉サービス運営・評価のプログラム開発に関する研究
 障害者社会参加総合推進事業等への財源補助モデル活動の提示、クラブハウス活進方策、ガイドヘルプ事業の利用者及び事業者の意向調査等を行い、それぞれの制度の円滑な実施を行う上で重要な資料となった。
都道府県・市町村等における精神保健福祉施策の充実に関する研究
 都道府県、市町村、精神保健福祉センター等の機能等に関する資料を収集し、新たな地域精神保健福祉体制における諸施策推進の重要な資料となった。
措置入院制度の適正な運用に関する研究
 措置入院制度の実態調査を行い、本研究の成果は措置入院制度の運用の改善に資するとともに平成17年度の精神保健福祉法改正の重要な資料となる。
精神障害者の偏見除去等に関する研究
 本研究成果をもとにまとめられた報告書は、「こころの健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会」の資料として活用された。
精神医療の地域化や専門的医療に関する研究
 児童思春期、薬物依存、身体合併症等に対する専門病棟の設備構造、人員配置基準のあり方等について、検討された。
入院中の精神障害者の人権確保に関する研究
 本研究で作成した精神科医療における情報公開ガイドライン試案を精神保健医療福祉推進のための検討会資料として使用した。精神医療審査会の年次報告書モデル、問題事例提示様式等を作成し、自治体に対する全国会議で配布、普及を図った。精神障害離・拘束・移送と人権擁護に関する研究成果は今後の法改正の重要な資料となる。

 など、上記のとおり大きな成果をあげている。

<感覚器障害研究>
(感覚器障害の病態解明と研究基盤の整備に関する研究)
糖尿病性網膜症の発症メカニズム研究とその防止要因の発見
網膜色素変性症の原因遺伝子候補の同定
虚血性内耳障害に関するアポトーシスのメカニズム研究
前庭病変による平衡障害にかかる遺伝子変異の同定
緑内障、加齢黄斑変性症、難聴に関するオンライン症例登録システムの構築
ドライアイ発症におけるIL-6の関与とリスクファクター、外因要因の解明

(検査法、治療法の開発)
遺伝性感覚器疾患遺伝子診断システムの開発
前庭病変による平衡障害に対するステロイド治療の有効性の研究
虚血性内耳障害に対する内耳低温療法の開発
ドライアイ治療用人工涙液の開発
DT作業のための労働衛生管理のためのガイドライン策定
3歳児健診における視覚障害の早期発見手法の開発
内耳有毛細胞の再生方法の開発
人工内耳手術に用いる内視鏡の開発
胎児聴覚検査法の開発
(支援機器の開発)
触覚ディスプレイによる盲ろう者の文書作成システムの開発
音声読み上げ機能と点字表示機能を有するコンピュータ・オペレーティングシステムの開発
ロービジョン患者の個々の視覚特性に適合するコンピュータ表示システムの開発
人工網膜の開発に向けた基礎的知見の集積
軽量コイルによる耳小骨直接加振型補聴器の試作
 などについて研究を進めており、複雑な感覚器障害の全容解明には、まだ多くの課題があるものの、病態解明、検査法、治療法の開発、支援機器の開発に着実な成果をあげている。

(4)事業の概略図

事業の概略図


B. 評価結果

(1)必要性
 平成15年度からスタートした新障害者基本計画およびその重点施策実施5ヵ年計画(新障害者プラン)に基づいて、各種障害者施策を適切に推進することが重要な課題となる。障害者基本計画においては、障害の有無にかかわらず国民が相互に尊重し支えあう共生社会の実現を基本的な考え方とし、その実現のための基本的方向を定めている。
 障害者の地域における自立した生活を支援する具体的な体制の検討は、モデルの提示などを含め、行政において主体的に進めることが適当である。また、これら課題への対応は、民間単独では取組みにくい分野でもあり、行政的に推進する必要がある。このため上必要な研究事業について公募し、採択課題に対し補助金を交付し、その研究結果を施策に反映させることが必要である。
 また、特に精神障害者の社会復帰対策については、「心神喪失者等医療観察法案」の国議の過程で、施策の迅速・着実な展開と進捗状況の継続的な評価が求められているところであり、研究事業を着実に進めることが必要である。

(2)有効性
 障害関連研究は、障害保健福祉総合研究分野と感覚器障害研究分野があるが、効率的な実施体制をとり、有効な研究成果を得ていくこととしている。
 具体的には、障害保健福祉総合研究、感覚器総合研究においては、行政的なニーズの把握に加え、学術的な観点からの意見を踏まえて公募課題を決定することとしている。また採択課題の決定にあたっては、行政的観点からの評価に加え、各分野の専門家による研究動向を踏まえた評価結果(書面審査およびヒアリング)に基づき研究費を配分している。さらに、中間・事後評価(書面審査およびヒアリング)の実施等により、効率的・効果的な事業実施を行っている。

(3)計画性
 障害者の地域における自立した生活を支援する具体的な体制の検討は、行政において主体的に進めることが適当である。このために種々の施策ニーズに応じ、行政上必要な研究事業について公募し、採択課題に対し補助金を交付し、その研究結果を施策に反映させることが必要である。また、感覚器障害においては、高齢化が進む中で、QOLを著しく損なう感覚器障害の予防、治療、リハビリテーションは重要な課題である。特に、失明の原因として増加しているといわれる糖尿病性網膜症や緑内障、突発性難聴などに対する疫学的調査を含めた対策の樹立は急務である。
 具体的には、障害保健福祉総合研究、感覚器障害研究においては、行政的なニーズの把握に加え、学術的な観点からの意見を踏まえて公募課題を決定することとしている。また択課題の決定にあたっては、行政的観点からの評価に加え、各分野の専門家による 最新の研究動向を踏まえた評価結果(書面審査およびヒアリング)に基づき研究費を配分している。さらに、中間・事後評価(書面審査およびヒアリング)の実施等により、効率的・効果的な事業実施を行うこととしている。

(4)効率性
 障害関連研究は、障害保健福祉総合研究分野と感覚器障害研究分野があるが、効率的な実施体制をとり、有効な研究成果を得ていくこととしている。
 障害保健福祉総合研究においては、障害者の保健福祉施策の総合的な推進に有用な基礎的知見を得ることを目的としており、人文社会学的分野を含めた、行政ニーズに基づく研究課題を実施し成果をあげている。
 具体的には、
予防、治療、リハビリテーション等の適切なサービスに関する研究の成果として
高位頚髄損傷者の座薬挿入動作支援機器の開発
脊髄損傷者の褥創を起こしにくい生活用具の開発
関節拘縮の力学解析に基づく治療機器の開発
肢体不自由者用新移動機器・足漕ぎ車椅子の開発
これらの研究開発成果により、障害者のQOLの向上や就労可能性の拡大、介護負担の軽減等につながっている。
適切な障害保健福祉サービスの提供体制に関する研究の成果としては、
支援費制度の障害程度区分の決定
身体障害者補助犬の養成に関する手法の開発や施設基準の設定
高次脳機能障害に関する施設の実態把握
強度行動障害に関する福祉施設と学校との連携マニュアルの作成
障害者社会参加総合推進事業等への財源補助モデル活動の提示
措置入院制度の実態把握
精神障害者の偏見除去に関する報告書の作成
児童思春期、薬物依存、身体合併症等に対する専門病棟の施設、人員基準のあり方の検討
精神科医療における情報公開ガイドライン試案の作成 等の成果を得た。

 一方、感覚器障害研究では、感覚器障害の病態解明から障害の除去・軽減のための治療およびリハビリテーション、支援機器開発まで、総合的な研究事業として実施している。
 具体的には、新しい手術法の開発(内視鏡による人工内耳等)、治療法の開発(人工涙液、内耳低温療法等)、感覚器障害の検査法(3歳児検診における視覚障害の早期発見、胎児聴覚検査、遺伝性感覚器疾患遺伝子診断システム等)の開発、機器等の技術開発(軽量コイルによる耳小骨直接加振型補聴器、人工視覚システム等)に関して、一定の成果をあげている。
 これらの研究結果は随時行政施策に反映されるほか、診断、治療、支援技術の改善等を通じて、国民に還元されることとなる。

(5)その他
障害関連研究においては、行政ニーズに応じた優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要であり、公募課題の選定や研究の事前、中間、事後評価には、当該分野に広く深い学識経験を有する委員を委嘱して当たっていただいているところである。
平成14年12月の障害者基本計画においても、「研究開発の推進」が項立てされ、障害の予防、治療、障害者のQOLの向上等を推進するための研究開発の推進等を明記している。
心神喪失者(等)医療観察法の衆議院における修正により、次の附則が盛り込まれた。「政府は、この法律による医療の必要性の有無にかかわらず、精神障害者の地域生活の支援のため、精神障害者社会復帰施設の充実等精神保健福祉全般の水準の向上を図るものとする。」


C. 総合評価

 障害関連研究は、障害者の保健福祉施策の総合的な推進のための基礎的な知見を得ることを目的とする障害保健福祉総合研究と、視覚、聴覚・平衡覚等の感覚器の障害について、その病態解明、予防、治療、リハビリテーション、生活支援等に関する研究を行う感覚器障害研究を総合的に実施している。
 ノーマライゼーション、リハビリテーションの理念のもと、障害者の地域生活を支援する体制づくりが喫緊の課題であるが、本研究事業の成果により基礎的な知見や資料の収集、科学的で普遍的な支援手法の開発等が進みつつある。また、障害関連研究は、医療、特にリハビリテーション医療、社会福祉、教育、保健、工学など多分野の協働と連携による研究が必要な分野であるが、本研究事業によりこれらの連携が進み、研究基盤が確立するとともに、新たな研究の方向性が生まれる効果も期待できる。このため、今後とも行政的に重要な課題を中心に、研究の一層の拡充が求められる。
 これまでの研究成果は、随時、行政施策に反映されてきており、障害者施策の充実に貢献してきている。
 障害関連研究は広い範囲を対象とするものであるから、施策に有効に還元できる課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的ニーズに学術的観点を加えて、公募課題の決定、応募された課題の事前評価と採択、中間・事後評価等を実施しているが、これらの評価システムをより有効に運営することが求められている。


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