04/09/17 「第10回医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会」議事録 第10回 医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会                        日時 平成16年9月17日(金)                           10:30〜                        場所 厚生労働省第18会議室 ○堺部会長  ただいまから、第10回「医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会」を開催いたし ます。委員の先生方におかれましては、お忙しい中をご参集くださいまして誠にありが とうございます。本日は、12名の委員のご出席を予定しておりますが、お1人は少し遅 れます。本日の議事の関係で、日本看護協会看護研修学校糖尿病看護学専任教員の瀬戸 先生に参考人としてご出席をいただいております。それから、事務局に人事異動があり まして、構成に変更があるということですので紹介をお願いいたします。 ○医療安全推進室長  7月の人事異動により、変更のあったメンバーをご紹介いたします。医薬食品局安全 対策課安全使用推進室長の森口です。私は、医政局総務課医療安全推進室長の北島で す。また、医政局総務課長は、榮畑から原に代わりました。本日は、原から皆様方にご 挨拶申し上げるべきところですけれども、急な国会用務が入りましたので失礼させてい ただいております。代わりまして、私から一言ご挨拶を申し上げます。  本日は、ご多忙の中ご参集いただきまして誠にありがとうございます。委員の先生方 には、日頃より医療安全対策の推進にご理解とご協力を賜りまして深く感謝申し上げま す。医療安全の推進は、医療政策の最優先課題でありまして、厚生労働省におきまして は、平成14年4月に取りまとめられた「医療安全推進総合対策」および昨年12月に出さ れた「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」等を踏まえ、各般の施策に取り組んで まいりました。  本部会においてご議論いただいておりますヒヤリ・ハット事例につきましては、平成 13年10月から収集事業を開始してまいりましたが、本年4月より対象機関を全医療機関 に拡大いたしまして、現在、約1,300の医療機関の参加を得ることとなりました。さら にこの10月からは、財団法人日本医療機能評価機構において事故事例の報告事業を開始 することとしておりまして、これらの事例の解析評価を実施し、その結果を広く情報提 供することにより、医療事故の再発防止と、発生予防対策の一層の強化を図ることとし ております。  また、平成17年度の概算要求では、「診療行為に関連した死亡の調査分析に係るモデ ル事業」や、「周産期医療施設のオープン病院化モデル事業」など、医療安全に係る新 たな施策を進めていくための経費を要求しているところであります。今後とも、安心で 安全な医療の確保に向けて、施策の推進に努めて参る所存でございます。  本日の部会では、「インスリン注射に係る医療安全の取組」等が議題となっておりま す。委員の皆様におかれましては、それぞれ専門の立場から忌憚ないご意見、ご発言を お願いいたしますとともに、今後とも医療安全対策の推進に向けて、格別のご配慮を賜 りますようお願い申し上げ、簡単ではございますが挨拶とさせていただきます。  本日は、どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○堺部会長  議事に入る前に、資料の確認をお願いいたします。 ○事務局  資料の確認をさせていただきます。「議事次第」「座席表」「委員名簿」に続いて資 料1「インスリン注射に係る医療安全の取組について」、資料2「医療安全対策ネット ワーク整備事業(ヒヤリ・ハット事例収集等事業)第9回、第10回集計結果」、資料3 「医療安全対策ネットワーク整備事業参加登録施設について」です。  別冊1「医療安全対策ネットワーク整備事業第9回集計結果」、別冊2「第10回集計 結果(データ編)」です。参考資料1「インスリン製剤の取扱いについて」、参考資料 2「10%リドカイン製剤の取扱いについて」、参考資料3「医療安全対策検討会議ヒュ ーマンエラー部会要綱」です。  参考資料1、参考資料2についてご説明いたします。参考資料1「インスリン製剤の 取扱いについて」は、本日の議題1に係る内容です。1頁は2004年3月に、医薬食品局 安全対策課の指導を受け、アベンティスファーマ社が、インスリン自己注射用注入器の オプチペンプロ1による過量投与のヒヤリ・ハット等が複数報告されたことから、その 「過量投与の防止について」という安全性情報を出したものです。内容については、後 ほどご覧ください。  3頁と4頁はノボノルディスクファーマ社、5頁は日本イーライリリー社が、インス リンの1cc40単位製剤が販売中止になったというお知らせについて、2002年10月、11月 にそれぞれ発出されておりますのでご参照ください。  参考資料2「10%リドカイン製剤の取扱いについて」は、7月の事例検討作業部会で も同様の資料とさせていただいたものです。2%リドカイン製剤と、10%リドカイン製 剤を取り違え、誤まって10%リドカイン製剤を用いたために過剰投与となり、患者が死 亡する事故が続発していることに対して、すべての病棟・外来に保管しないことを徹底 する旨、以下の団体より緊急通告等が発出されました。  これについては、昨年11月27日付の医政および医薬食品局の両局長連名通知におい て、医療機関に対して医療事故防止対策の強化を図るよう周知したところです。また、 平成16年6月には、医薬品・医療用具等安全性情報202号でも情報提供しました。  この団体から発出されている中には、カリウム製剤についても同様の取扱い注意につ いての通告がされております。6月の情報提供後も、カリウム過量投与の事故等が発生 していることから、本日の資料とさせていただきました。資料の説明は以上です。 ○堺部会長  それでは議事に入ります。本日の議事の1番は「インスリン注射に係る医療安全の取 組について」です。糖尿病の治療は、ここ数年で一変したといってもいい状況にありま す。以前には考えられないほど、血糖のコントロールがよくできるようになってまいり ましたが、その背景にはいろいろな薬、インスリンや経口剤が開発されたということが あります。  しかし、その反面インスリンの種類や投与方法が極めて多岐にわたりますし、患者が 自分で注射する「自己注射」ということもありますので、ヒヤリ・ハットの報告がたく さん上がってくるようになりました。これは、ヒューマンエラーの観点からも対策を講 じなければいけない状況になっておりますので、本日はインスリン注射に係るヒヤリ・ ハット事例とその対策について、日本看護協会看護研修学校糖尿病看護学科の瀬戸奈津 子先生にご報告をいただきます。よろしくお願いいたします。 ○瀬戸参考人  まず、「糖尿病患者とインスリン注射および医療の動向」についてご説明いたしま す。糖尿病患者数が増加してまいりましたが、その背景には、日本人と糖尿病というこ とで、日本人のような東アジアの民族は遺伝的に食後のインスリン分泌量が、欧米白人 に比べて少ない人が多く、わずかに体重が増えても、インスリンの作用が妨げられると 言われています。さらに、食生活の欧米化・自動車台数の増加・ストレスが多くなって くる現状があり、糖尿病人口が増えている背景があります。  厚生労働省糖尿病実態調査では、1998年に、糖尿病が強く疑われる人と糖尿病の可能 性を否定できない人を合わせて1,370万人と推計されております。これが、2002年には 1,620万人と推計されており、4年で250万人の増加が認められております。  それに伴って、インスリン注射使用患者数も増加しています。その背景の1つは、2 型糖尿病患者にインスリン注射早期導入ケースが増加してまいりました。はじめからイ ンスリン注射を行って、生活習慣の改善とともに、ブドウ糖毒性が改善することで、そ の後インスリン注射を必要としなくなるケースが増えてきました。「ブドウ糖毒性」と いうのは、血糖値が140〜160mg/dl以上になると、筋肉、肝臓、脂肪細胞など、インス リンが誘発されやすくなる性質(感受性)が低下します。このような状態をブドウ糖毒 性といい、それを早期に改善すると、後々インスリンが必要にならなくなるケースが見 られています。  もう1つは、高齢者のインスリン注射適応のケースが増加してまいりました。加齢に よるインスリン抵抗性の増加や、代謝機能の低下などによって、食事・運動療法のみで の血糖コントロールに限界を来して、高齢者のインスリン注射適応ケースが増えてきま した。85歳以上でも、最近はインスリン自己注射の適応ケースが増えてまいりまして、 実際にインスリンを使うことで痴呆症状が改善したケースにも遭遇しています。QOL の向上にもつながっているという結果が見られています。  正式なインスリン・ユーザーの数はわかりませんが、私が勤務しておりました糖尿病 センターでは、糖尿病専門医が診療に当たっており、全患者数の3分の1はインスリン を使っていました。  「糖尿病を専門とする医療施設」ですが、糖尿病患者数がかなりの数に比しまして、 日本糖尿病学会認定の糖尿病専門医はわずか2,984名しかいません。私が携わっている 日本看護協会認定の糖尿病看護認定看護師は、糖尿病エキスパートナースという位置づ けですが、わずか57名です。日本糖尿病療養指導士認定機構が認定しております日本糖 尿病療養指導士も1万26名です。  日本糖尿病学会の認定教育施設にはいくつか条件があり、5年ごとに更新を要しま す。常勤の研修指導員又は特別研修員がいること。糖尿病の専門外来があること。食事 指導が常時行われていなければならないこと。これらいくつかの条件があり、それをク リアしている認定教育施設がわずか450施設となっております。  インスリン注射に係る用語の説明をいたします。「スライディングスケール」という のは、ヒヤリ・ハットでかなり問題になってきますが、測定した血糖値によって、その 時点で注射するインスリン量を変える投与方法です。測定した血糖が低い場合、投与す るインスリンが少なくて、その後、血糖値に上昇を来します。逆に血糖が高い場合、投 与するインスリン量が多くて、その後、血糖低下を来します。そのため、血糖コントロ ールが不安定になると最近は言われております。  スライディングスケールの例ですが、例えば、昼食前に血糖値を測ったときに235と いうことで、昼食前血糖値に基づいて「速効型8単位」施注するというようにスライ ディングスケールを使います。  スライディングスケールの適応ですが周術期、いわゆる手術前後の患者や高カロリー 輸液中、ステロイド療法中、現在ケトアシドーシス・非ケトン性高浸透性昏睡であると か、強化インスリン療法中のシックディです。強化インスリンというのは4回打ち療法 で、速効型、あるいは超速効型3回食前と、あとは眠前に基礎分泌を補うために、中間 型インスリンを打つ方法ですが、その治療中のシックディ状況のとき、あるいは強化イ ンスリン療法中の妊娠期の血糖コントロールにおいて適応するといわれています。  しかし、それ以外に糖尿病入院患者に対してスライディングスケールを使っている場 合が数多く見られます。食事を召し上がっていて、退院も間近なのに、ずっとスライデ ィングスケールを使っている、という状況が現在認められており、インスリン注射を取 り巻く環境は複雑になっています。  「単位とmlの表示」です。100単位=1mlとインスリンは規定されています。先ほど ご説明がありましたように、以前は40単位製剤と100単位製剤の間違いがかなりあった のですが、40単位製剤は中止になりましたので、それがなくなってきました。インスリ ンの単位というのは、第13回改正日本薬局法で、インスリンは換算した乾燥物に対し、 1mg当たり26単位(ヒトインスリンでは28単位といわれている)以上を含むと規定され ており、いろいろな歴史があって、そのようになっています。  (スライドの写真を指し)「インスリンの種類・インスリン専用注射器」にはたくさ ん種類があります。これが「バイアル」になり、これが「100単位製剤用の注射器」に なります。この「ノボレット」時計型のものとか、「ヒューマカート」とか、この辺は すべてディスポーザブルのインスリン注射器です。中にインスリンが内蔵されていて、 使い捨てになります。それに比して、「ヒューマエルゴ」や「ノボペン」などのカート リッジはこのようなものになり、交換式になってインスリンを使う方法になっていま す。針は、これらを使います。これら、たくさんの種類が現在使われております。  「インシデントの種類とプロセス」です。スライディングスケールでの投与量の間違 い、医師による指示の字が見にくい・細かすぎて看護師が指示を見間違えてしまったと いう例が認められます。ほかにも、医師によってスライディングスケール指示が異なっ ていて、思い込みから投与量を間違えてしまった、先ほどのように、昼食前は、この値 だったら8単位と思い込んで打ってしまった、という例が認められています。ほかにも いくつか例があり、「対応策」としては、実施時に看護師2名でダブルチェック、スケ ールは指示を出す医師によって数値は違っても、オーダリングシステムによって、記載 の仕方を統一するなどの対策が講じられております。  「投与忘れと過剰投与」ですが、手術後、日勤者が17時に血糖測定をしてインスリン 注射をしたのに、準夜勤者に勤務交替して、18時にも血糖測定・インスリン注射をして 患者に低血糖が生じたケースが認められました。ほかにも、検査や手術などで食事は止 めているにもかかわらず、患者に定期のインスリン注射を打って食事をしなかった、と いうインシデントの例がかなりあります。この対応としては、引き継ぎの徹底や職務分 担を明確にしたり、専門医以外の病棟に対してインスリンに関する知識を提供するなど の対策が講じられています。  インスリンが出ない1型糖尿病の方に関して、術前に食止めをする際や、血糖測定の 結果、低値だったからと、医師が中間型インスリンの基礎分泌自体も中止してしまった 例があり、高血糖に陥ったケースもあります。患者確認の際に、看護師が患者名を言っ て、患者が「はい」と返事をし、別の患者に注射してしまったケースも認められていま す。これらの問題は、インスリンが作られない1型糖尿病の病態を知識として把握して いないこと、患者が自己管理しているインスリンを、入院中に医療者管理したためにか えって間違いが生じるという問題が認められています。  ほかにも糖尿病専門病棟の「インシデント」としては、血糖チェック忘れや、インス リン注射時間の遅れなどですが、これを別に特に問題とは思っていない状況がありま す。  「単位表示の誤認識」です。先ほどmlと単位については説明しましたが、その違いに よって「8単位」と「8ml」を間違えて吸引するというヒヤリ・ハットがかなり認めら れています。「食品交換表」が1から6単位までありまして、「80kl=1単位」と規定 されているのですが、治療食として20単位召し上がっている患者に対し、20単位のイン スリンを打ちそうになったケースも実際に認められています。  「取扱いを間違うと重大なインシデントにつながる劇薬なのに保管方法の規定が明確 ではない」という状況があります。ヒューマリンという名称だけを見て、NとR、中間 型と速効型を間違えて打ちそうになったというケースもかなり認められています。現 在、インスリンの種類には超速効型・速効型・中間型・持続型・持効型インスリン等何 種類もありますので、インスリンを1カ所にまとめて保管していて、かえって危ない状 況が生じ、種類を間違えてしまう可能性があるのではないかと考えられます。  「ペン型インスリン注射器」の種類が多いのは先ほどご説明いたしましたが、取扱い 方が全然違うことが問題になってきています。種類としては、「カートリッジの交換型 」と「ディスポーザブル」がありますが、ペン型注射器は何種類も多くてかなり大変 で、さらに製薬会社によっては 全然種類が違ったら、互換性がないために間違いやす い、という状況が何回も生じています。  ノボペンが廃止になって、一斉に「ヒューマカートキット」というインスリンに変わ った場合に、医療者をはじめ、患者も全然使い方がわからないという状況があり、イン シデントにつながったケースなども認められています。4回打ちから2回打ちに変更す る際に、カートリッジの中身が変更されていなくて、30Rを打つべきところRを打ち続 けたケースも実際に認められております。  「事例提供」をいたします。インシデントの内容は実際に起きたことです。ある神経 内科患者に、高血糖が続いていました。ある晩19時に研修医の指導に当たっている医師 が、研修医に対して、この患者にシリンジポンプによるインスリンを「時間6」で持続 投与するようにと指示しました。研修医は看護師に、「時間6でいって下さい」と口頭 指示しました。看護師は、「本当に1時間6mlですか」と聞きました。それに対して研 修医は「はい」と回答しています。インスリン原液を、時間6ml投与されて、患者が重 症低血糖を引き起こしたケースがあります。  このインシデントの原因と考えられるのは、1つは研修医の指導に当たっている医師 は、「1時間6単位」のつもりだったのに、研修医のインスリンに関する知識を把握せ ずに、「時間6」という曖昧な表現で指示しています。  2つ目に、指示を直接出した研修医が、インスリンに関する知識がない。「単位」と 「ml」の意味がよくわかっていないにかかわらず、そのまま「時間6」という曖昧な表 現で看護師に口頭指示しています。  3つ目に、看護師は「単位」と「ml」の違いを明確に表現せずに、「1時間6mlです か」と確認しています。  4つ目に、研修医は、看護師の確認に対し疑問を感じないまま「はい」と回答してい ます。  これらのインシデントの「対策」として、指導医から研修医へ、研修医から看護師へ の口頭指示は受けないように徹底し、統一した指示簿を作成しています。また、病院内 にインシデントに関するワーキンググループを立ち上げて、使用標準ガイドラインを作 成し、シリンジポンプの濃度を統一しています。そして、直接患者にインスリンを投与 する看護師の知識向上のために、糖尿病看護認定看護師が、病院内研修会で、インスリ ンのバイアルに刺すことができるのは、インスリン専用シリンジのみというように強調 しています。  「今後の課題」は、大きく3つに分けられると考えました。「ひと」「モノ」「組織 」となりますが、「ひと」のところは医療スタッフ、患者教育への貢献、「モノ」のと ころは環境の整備、「組織」のところは組織的なアプローチの実施が今後の課題と考え られます。  「医療スタッフ・患者教育の貢献」についてですが、医療者の判断力の向上が求めら れていると考えます。臨床病期に応じた糖尿病治療マニュアル、血糖パターンマネジメ ント技術の確立が求められると考えます。  2つ目の「糖尿病医療専門家の育成と活用」というのは、冒頭に申しましたように、 かなり数が少ない状況があります。糖尿病専門医、糖尿病看護認定看護師、日本糖尿病 療養指導士をますますたくさん育成し、啓蒙活動が必要と考えております。このよう に、数が増えて、インスリンに関する知識のあるスタッフがいることでリスク回避がか なりできるのではないかと考えています。  3つ目は「患者教育の徹底」です。糖尿病患者の自己管理能力に働きかけるというこ とで、自分の身を守ってもらうところのスタンスも大事と考えています。患者一人ひと りのインスリン注射箋をファイルにして、ベッドサイドや処置室に、インスリン注射が できる場所を確保したり、インスリンの種類と量を患者と一緒に確認しながら注射する ということで、なんとかリスクは回避していきたいと考えています。  「臨床病期に応じた糖尿病治療マニュアル」は、糖尿病専門医が中心になって、SD M(STAGED DIABETES MANAGEMENT)を立ち上げ実地医家や糖尿病療養指導士を対象にし て、糖尿病の臨床病期に応じた実践的な管理マニュアルを作成しており、いま啓蒙活動 を行っています。このマニュアルによって、質の統一した医療が提供でき、インスリン に関するリスクも減っていくのではないかと考えています。  もう1つは「血糖パターンマネジメント技術の確立」です。インスリン調節アルゴリ ズム(Retrostective-後向き調節)の考え方の普及を目指しています。冒頭の「スライ ディングスケール」というのは、Prospectiveになりまして、反対にインスリン調節ア ルゴリズムは、血糖の動きを振りかえって量を決め、通常血糖が比較的安定したときは 2〜3日の血糖の動きを見てから、高すぎるあるいは低すぎる時間帯に効いている責任 インスリン量を調節していく方法になっています。  (スライドを指しながら)これが、インスリンの効果を反映する血糖値の関係です。 先ほどの昼食前でしたら、朝食前の速効型、もしくは超速効型インスリンも責任インス リンになります。ところが、スライディングスケールでは、昼食前に血糖値を測ってい るにもかかわらず、昼食前の速効型を触っていることになります。そうすると、血糖が 不安定になります。むしろ1回一時点のみの変更ということで、修正量は2〜4単位 内。2〜3日の動きを見てから変更する、という概念です。  私が携わっております、認定看護師教育専門課程でも血糖パターンマネジメント技術 の教育をいま行っています。患者が自己調節した血糖値を、糖尿病エキスパートナース が包括的に判断するために、患者の生活に合わせた食事・運動療法、さらにはインスリ ンなどの薬物療法の調節ができる、という血糖パターンマネジメント技術の習得を目指 しています。  糖尿病患者教育のバイブルといえる、アメリカ糖尿病教育者学会のコアカリキュラム では、第3版から血糖パターンマネジメントを章立てて、看護師が多くを占める糖尿病 教育士が、数日間の血糖値記録を検討し、その結果に基づいてインスリンを調節して、 包括的に血糖コントロールを管理しています。ここでは、血糖値が上がったときには、 インスリンのスライディングスケールを使うのではなくて、その時点の問題を解決して も、将来的には解決できないので、血糖パターンマネジメント概念を使って教育してい くことで進めています。これらの概念を学んだ糖尿病看護認定看護師の育成によって、 ヒューマンエラーの減少を目指したいと考えています。  次は「環境整備」です。1つは、院内で使用するインスリンの種類を減らすことが、 かなり環境整備につながると考えます。もう1つは、薬剤メーカー毎に違うペン型イン スリン注射器の規格の統一ができないかと考えています。  「組織的なアプローチの実施」に関しては、インスリン取扱いの規定(保管方法)と 周知徹底、投与方法の標準化、各部署の問題を十分拾い上げた院内教育の実施、院内全 体の啓蒙活動・啓発活動です。実際に糖尿病看護認定看護師による活動例では、病院内 で使用しているインスリンの種類と作用に関して、新しいインスリンについて随時更新 したポスターを配布したり、低血糖時の対処法のリーフレットを作成したりという活動 を行い、全部署に配布し、明示しております。  「防波堤となるシステム作り」というのは、ヒューマンエラーを最小限に防ぐという ことで、医師や外来看護師と協力して、入院患者に新たにインスリンが処方されたり、 種類が変更になったりした場合、病棟に電話をして、デバイスの使い方や作用動態の知 識を確認する、という行動を行っております。以上で発表を終わります。 ○堺部会長  ありがとうございました。瀬戸参考人のご発表に対し、質疑をお願いいたします。 ○小泉委員  インスリン個別の問題についてはよいのですが、インスリン治療の専門性ということ で意見があります。糖尿病患者が非常に増えていて、日本国民の10数%に当たるのでし ょうか、それで、専門医が非常に不足しているとおっしゃいました。たぶん、その患者 数に対応する専門医の数をシミュレートしたらすごい数になると思います。ですから、 それだけの専門医を養成するのは、現実には不可能だと思います。  専門医ということではなくて、一般医も含めて啓発というように、特に医師の場合は 考えないと対応できないのではないかと思います。看護師のほうで専門性を持っていた だいて、病棟などでいろいろな指導をしていただくというのは非常に良いと思います。 医師の知識レベルを上げるという場合に、糖尿病専門医でないと糖尿病に関する治療は 心もとないという状況が出たのでは、たぶん非常に難しいことになると思います。  小児科医が不足しているという議論があったと思うのですが、日常的な問題に対応す る小児科専門医の数を確保することは、たぶん不可能だと思います。やはり、医師全体 を念頭に置いた技術レベルの向上や知識の普及というように考えていただいたほうがい いのではないか、ということを総合診療という立場で発言させていただきました。 ○稲田委員  大変参考になりました。私が、以前に勤めていた病院では、インスリンや経口血糖降 下剤に関する事例が多かったです。先ほどのご指摘のように、患者数が非常に多いとい うこと、それから小泉委員が指摘なさいましたように、実際の管理というのは、一般の 医師、看護師、医師にしても内科医だけではなくて外科医などが関与している、という ことが関係していると思います。  特に、こういった事例が入院患者に多いというのは、糖尿病はいろいろなもののリス クファクターになりますから、どうしても手術を受ける機会が多い、あるいは集中治療 その他を受ける機会が多く、各病棟でこういった問題に対処しなければならないという ことです。糖尿病専門医あるいは看護師というよりは、一般のところの啓蒙は大変重要 だと思います。  インスリン投与というのは、ほかの薬物と違って非常に複雑です。ほかの薬物だと、 定期的に8時と4時というように時間を決めて投与できるということがあります。糖尿 病患者でこういった場合には、血糖値を見て投与が変わってくる、という非常に複雑な プロセスがあります。先ほどご指摘のように、日勤帯と準夜帯ということで、検査をし た人と投与する人が違うということがあります。スライディングスケールその他を含め て、指示が途中で変わることもあります。やはり、病院全体で組織的なプロセスをつく るようにしていかないと、こういった事故は少なくならないと思います。先ほどご指摘 のとおり、製剤、規格その他を含めた、企業からのアプローチも大変重要だろうと感じ ました。 ○三宅委員  いまのお話とも共通点が多いのですけれども、1つは、確かにインスリンの量の問 題、その使い方の問題、そのコントロールの仕方がどんどん新しく変わってきていると いうことで、正直な話、一般の医師はなかなか対応できなくなってきている。ですか ら、糖尿病の患者はどうしても病院に集まってくる。病院も医師がいなくて十分対応で きないという現状です。  もう1つは本日発表されたような、糖尿病専門の看護師をもっともっと養成して、社 会で広く活躍していただく。そして、ある程度いろいろな権限も委譲する。救命救急士 が挿管できるように、どんどんそういうものを広げていったほうがいいと思います。正 直な話、糖尿病の管理を全部医師ができないわけです。ですから、全体的な患者の管理 は医師がするとしても、もっともっと活躍の場を看護師に広げていくほうが賢明だろう と思います。  最後におっしゃったことは、私も前から思っているのですが、インスリンの種類が多 すぎること、メーカーがバラバラに作ること、しかもそれを使う器械類、例えばペン型 の器械にしても使い方がいろいろ違います。こういうことについては、前から私はこの 場で何回もお話していますけれども、少なくとも使い方は統一する、ということをしな いと誤りはどうしても起こると思います。これはいつもの話で申し訳ないのですけれど も、医薬食品局のほうで、きちんと統一した行政的な指導をして、誤りが起こらないよ うな仕組みを作るべきではないかと思っています。 ○楠本委員  三宅先生のお話は、看護にとって大変ありがたい裁量を伸ばすお話だったと思いま す。新たな看護のあり方検討会というのがあり、静脈注射は看護師の業務範囲である、 というように行政解釈が変わりました。それを受けてより安全に実施するという観点 で、この下半期から全国の病院・医療施設に向けて、看護師が注射を安全に行うための 教育をやろうということで、その指導者を養成するプログラムを開発しまして、今度全 施設に向けて発することになっております。最低ラインのベースも少し上げていこうと いう話です。  認定看護師の養成については、多方面から要請をいただいております。一昨年から厚 生労働省で、その認定のコースを設置する場合に補助金が付くようになりましたので、 これで加速して養成が増えてくるのではないかと思っています。少し使いづらい補助金 ということで、その辺のご検討を是非お願いしたいと思います。それでも、かなりの看 護系大学、行政が協力してという形でその認定も進んでいくと思いますので、もう少し 頑張ればご期待に沿えられるようになると思います。  機器の問題ですが、患者が入院するときに持ってくると、看護師が使ったことのない 物だったりします。そうすると、無理やりこちらの物に変えてくださいとお願いし、そ れで間違いが起こったりということがありますので、やはりある程度の標準化を是非進 めていただきたいと思います。 ○小泉委員  もう少し最近の動きを把握しておられたら教えていただきたいのですが、例えば一般 の方が使う道具で安全性が問題となるものに自動車があります。自動車は、各メーカー がデザインを工夫するにしても、基本的な扱いがメーカーによって全然違うということ はありません。業界で話し合うのか、行政の指導があるのかわかりませんが、規格の標 準化については、他の業界では行政も加わってこれまでの積み重ねがあると思います。 そういうノウハウを使って、インスリン製剤のデザインだけでなく、ベーシックなとこ ろも統一するということをかなり強く指導していただいていいのではないかと思いま す。 ○堺部会長  私が意見を申し上げるのもあれかもしれませんが、たまたま私は糖尿病専門医です。 先生もご存じかと思いますが、インスリンは甚だ残念なことに日本にはメーカーはあり ません。これは、すべて外国メーカーです。おそらく、これは厚生労働省のほうもご苦 労があるだろうと思うのです。国内のメーカーを指導するのと、外国にいくつもあるメ ーカーを指導するのでは、ちょっと事情が違うことを踏まえて、やはり指導はしていた だきたいという意見です。 ○稲田委員  いま製剤の話が出たのですが、例えば患者個人個人にすると、ずっと同じ機器を使っ ていて問題はない。その方たちが病院に来たときに問題が起きてしまう。インスリンの 場合には、投与法の複雑さといいますか、例えばいままでは普通だと薬は医師が管理し ていたものが、自己管理プラス医療関係者がする管理が出てくる。  インスリンの投与法が、普通の患者の場合には皮下注だけのものが、病院に入院して 患者の重症度が変わることにより、それが静注であったり、あるいは持続静注であった りというように、投与法の変化も起きてきます。その辺できちんとした指示ができるか どうか、ということもインスリンによる院内でのこういった事例を少なくすることには 重要だろうと思います。 ○上原委員  私も、いまのお話とほぼ同意見です。こういう注射薬、あるいはハイアラートドラッ グに共通したことがかなりの部分を占めていまして、インスリンだけというよりも、院 内の投薬システムそのもの、メーカーに対する安全指導という 非常に大きな2つのこ とをやっていかないと、インスリンだけではなかなかできないのではないか。指示にし ても、その変更指示のあり方等にしても、ほかの薬でも起こっていることがインスリン でも起こっている。  インスリンというのは病院によっては、あるいは病棟によっては使用頻度が多い関係 で、インスリンを軸にして院内の投薬システムをきちんとしていくということが、逆に 突破口としてやりやすいのではないかと思います。我々厚生労働省の研究班でもそうい う形で取り組んで、それなりの効果を見たように思います。  インスリン固有のことも、いまご指摘がありましたように、私も専門ナースというの は賛成です。もう1つはスライディングスケールのように、5人の医師がいたら、5人 のスライディングスケールを書いている。そういう意味では、ほかの薬以上に、看護の 負担や認知の負担は非常に大きいものを与えていますので、まずは院内での標準化とい うことはすぐに着手できることなのではないかと思います。  2番目に、メーカーの標準化に関しては、製造の段階で、使う側のことを考えてほし いのです。そのための1つの方法として、これはほかの注射薬もそうですけれども、自 分たちが作っている薬間での間違いの起こしやすさや危険性は評価していますが、使っ ている現場にたくさんあって、ほかと間違うということについては評価しないという か、あまりイメージもできていないというのが実情だと思います。  例えば、新しい薬がインスリンに関しても出た場合には、厚生労働省が指定した病院 などいくつかの所で、販売前のモニター制度のようなものをつくっていただき、それを 半年とか3カ月やってみて、ほかの薬との関係で危険性が増さないかどうかを見た上で 許可する。あるいは、その結果を、購入する病院に対する参考資料として出すといっ た、わりと実用的なアプローチも考えてよいのではないかと思います。  3番目として、例えばスライディングスケール、これは糖尿病の先生方の間では、国 際的にもスライディングスケールはできるだけするな、ということになっているにもか かわらず、科学的にこの正当性が主張できないため、世界的に使われているものです。 スライディングスケールのどれがいい、ということを学問的に裏づけられないので、結 局バラバラになっているところがあります。その意味では、学会といいますか、学問の 場においても、実際に使わざるを得ないのであれば、どれが比較的安全で、かつ効果が 高いものなのかを、臨床比較的な手法なりを使いながら、学会レベルでもそういった提 案をしてもらえるような働きかけも必要なのではないかと思っております。 ○土屋委員  インスリンの特殊性というのは、調剤ということからいうと、1回量を指定できない というか、バイアルなども総量で出さざるを得ないものということで、薬剤師の関与が しにくい部分でもあります。要するに、1本で渡さざるを得ないということです。最近 は、病棟に薬剤師も出ておりますので、そういう所で使用量の変更の場合、患者への情 報伝達といいますか、薬剤管理指導の中での情報伝達ということで、二重の情報システ ムといいますか、医療安全管理室ができたおかげで、薬品情報室だけからではなく、情 報管理室からも安全情報が流れます。指示間違いや量のことについて、患者への情報伝 達の二重性を担保していく必要もあるのかという気がいたします。そういった意味で、 薬剤師も最近はそういう形で出ておりますので、そういったことをうまく活用していく という話があります。  インスリンの単位の書き方として、これからは総量でいくらになるかという量の書き 方は、6月にも通知がありましたので決定されてくると思います。情報伝達ミスのチェ ックシステムをどうするかというのは、やはり病院の中で考えていかないといけないの ではないかという気がいたします。 ○堺部会長  私から、日本看護協会と厚生労働省に、要望が1つと、質問が1つあります。私も、 先ほど三宅委員がおっしゃった、看護師はこちらの領域でもっと指導していただきたい ということに大賛成です。入院と外来と両方について、たまたま自分の病院で恐縮です が、「看護外来」という名称を持っていますので、そちらを拡充すべきだと考えており ます。ただ、現在さまざまな領域で、そういう考え方が発展してきていると思います。 そうしますと、日本全体の看護師のマンパワーには当然限りがあります。各領域が、そ れぞれの考え方で一斉にそちらに走っていったときに、どういうことが起こるかという こともいまから考えておくべきではないかと思います。日本看護協会でもいろいろな計 画があると思いますし、いろいろな病院がいろいろな計画をしておりますので、それを 厚生労働省でも把握していただいて、どういう領域で、どういうマンパワーがこれから 使われていくのかを是非把握していただきたいと思います。これは要望です。  日本看護協会に対する質問です。インシデント・レポートがほかのものでも多数上が っておりますが、たくさん上がってきたインシデント・レポートをどうやって役立てて いくか、というのは大きな問題です。インスリン注射のヒヤリ・ハットに絞ってお尋ね しますが、これだけでもたくさんの数が上がってきて、それをまとめたものを本日ご報 告いただきましたが、何か一定の方針をお持ちでしょうか。  こういうものがたくさん上がってきたときに、どうやってまとめて、その結果をどう やって現場へフィードバックするか、もし協会としてこういうことを考えているのだ、 ということがあったら承りたいと思います。これは瀬戸参考人にお伺いするのがいいの か、楠本委員にお伺いするのがいいかわかりませんがよろしくお願いいたします。 ○瀬戸参考人  病院ごとにリスク・マネジメント委員会や、医療安全対策部を立てて、ヒヤリ・ハッ トを分析した結果対策を立ててというところで、病院で認定看護師がかなりかかわって いる状況です。組織的に全体については、楠本委員のほうからお願いいたします。 ○楠本委員  医療安全対策室で、全国で起こった事故報道に関しては全部収集(地方紙も含む) し、ヒヤリ・ハットに関しては、提供していただける施設から提供していただくという 状況です。少なくともデータベースを作り、類似事例を全部並べて、どのような事故 が、どの程度どんな状況で起こっているかを分析し、情報を「協会ニュース」やホーム ページ、緊急の場合は「号外」という形で各施設のリスク・マネージャーに送るシステ ムにしています。  リスク・マネージャーの養成は、いま日本看護協会で1,000名近くの人たちが修了し たところです。それと同時に、都道府県看護協会でも年間800名ぐらい養成しています。 その人たちのネットワークを作り、情報を上げていただき、それから精選したものをお 返しする、という仕組みで動いています。できるだけ情報提供と、現場での成功事例を 寄せていただいて、それをまたフィードバックするというシステムです。 ○堺部会長  インシデントレポートの取扱いについては、本日この後でご意見を伺いますが、ほか にインスリン注射についていかがでしょうか。 ○三宅委員  堺部会長の、看護協会への質問なのですけれども、これは看護師だけの問題ではなく て、指示を出すドクター・サイドにもかなり問題があります。口頭指示をしないとか、 単位をきちんと書くとか、チームとして医師側にもかなり問題があると思います。そう いう点で、みんなで改善すべきだろうと思います。 ○青木委員  医療事故、医療安全というのは、基本的には医療の技術的な発達に対し、その安全部 分が十分担保されない状況が助長されたということで、非常に大きな問題を来している ということだろうと思います。その中で各論的にインスリンのことを論ずれば、これは 医療としては一般医療である。どういう場においても、医療ではインスリンは出てくる ものだとすれば、これは医療関係者の一般的な知識を十分高めること、そういう形での 対応がいちばんポイントではないか。  製品の標準化ということ、総量規制という全体的な安全という観点で考えていけばい いのではないかと思います。 ○土屋委員  インスリンについては、薬価基準の書き方もすごく問題です。「1mlバイアル」と書 いてありますが、片仮名で「バイアル」と書いてあるのと「ビン」というのは違いま す。「ビン」というのが、普通でいう「バイアル」であります。ところが、この場合は 1cc単位の話ですということで、1バイアルには10cc入っているというようなことで、 非常に紛らわしい薬価基準の単位の書き方になっています。  しかも、それは保険の請求では、こういうものを使いなさいということを推奨してい るわけです。薬価基準のやり方でやりなさいということになっていることからいうと、 やはり薬価基準の中に総量が書かれていないといいますか、10ccだということがどこで もわからない、というようなものがあって、これはヘパリンもそうですが、そういう認 められ方をしているものがあります。これは医政局や医薬食品局だけではなくて、保険 局も含めて、こういうものの承認の仕方のときの単位はどうするのだろうかということ も、ヒューマンエラー防止の観点から考えていかなければいけないのかという気がいた します。 ○堺部会長  瀬戸参考人、本日はどうもありがとうございました。2番目の議題に移らせていただ きます。「医療安全対策ネットワーク整備事業第9回、第10回集計結果」等について事 務局から報告をお願いいたします。 ○事務局  資料2と別冊1と2を並列してご覧ください。資料2で第9回のほうから報告させて いただきます。1頁で、第9回のヒヤリ・ハット事例収集については、平成15年8月27 日から11月25日までのデータです。参加登録施設250施設のうち、69施設からの報告が ありました。全般コード化情報は14,263事例、重要事例情報が1,644事例、医薬品・医 療用具・諸物品等情報が127事例ありました。  2頁で、「分析方針」「分析項目」等はこれまでと変わりません。5頁も、これまで の傾向としては大きな変動はありませんでした。「発生時間帯」については、6〜7時 台になると増加し、8〜11時台にほぼピークとなっている状況です。「患者の年齢」と しては、中高齢者が多く、リスク要因が高い可能性があるということ。「職種経験年 数、部署配属年数」ともに0年のヒヤリ・ハットがもっとも多い状況です。「発生場面 」としては、「処方・与薬」「ドレーン・チューブ類の使用・管理」「その他の療養生 活の場面」におけるヒヤリ・ハットの件数が多いという状況が続いております。  6、7頁に移ります。7頁の下のほうで「患者の年齢」については、今回の集計では 0〜10歳台の発生がもっとも多かったという、小児の発生の報告が多い傾向が見られま した。その他は8頁、9頁に記載されておりますのでご覧ください。これに関しての詳 細なデータおよびグラフ等が、別冊1の1頁から54頁まで書かれておりますので、後ほ どご覧いただければと思います。  資料2の15頁は、第9回の「重要事例の情報の分析」です。先ほど申しました総収集 件数は1,644件でしたが、そのうち有効件数は1,551件でした。「分析の方法」「対象事 例の選定の考え方」等、第9回はこれまでと変わりありません。18頁の「分析結果およ び考察」です。全体の概要としては、4つ目の○印に書かれているように、「発生件数 割合が高い手技・処置」は表のとおりで、与薬が13.4%、チューブ・カテーテルが13 %、与薬(点滴・注射)に関するものが10%、転倒・転落が10%、調剤・与薬に関する ものが4.9%です。この割合は、全事例数1,551件を100%とした割合です。  それらを、それぞれについて分析した内容が書いてありますが、その内容については 割愛させていただきます。タイトルだけ読み上げさせていただきますと、18頁の(2) 「与薬に関する事例」、19頁の「チューブ・カテーテル類に関する事例」、「転倒・転 落に関する事例」とまとめております。20頁に、特徴的な事例として「コミュニケーシ ョンに関する事例」。  「食事に関する事例」では、食事の処方や配膳にかかわる事例が最近多いと言われて います。21頁では「患者の離院」ということで、患者が病棟から外に出てしまうという ヒヤリ・ハットが発生しています。「機器一般に関する事例」。今回報告された「滅菌 に関する事例」ということで、滅菌操作に関連した事例、有効期限等の取扱いに関する ヒヤリ・ハット事例が報告されております。22頁では「同姓、同名に関する事例」や、 「検査」にかかわる事例の分析がされています。  23頁で「その他注目すべき事例」として、全盲患者や視力低下のある患者のヒヤリ・ ハット、コンピューターシステム、オーダリングシステムにかかわる事例、末期患者の 自殺未遂にかかわる事例、放射線検査に関する事例等が報告されております。  24頁には、「まとめ」と「今後の課題」が記載されております。25頁の部分はお知ら せにもなりますが、インターネット上で過去の事例について、記述情報の分析コメント を付した事例については、データベースをこちらのURLで公開しておりますので、こ れを活用してさらに事故防止対策に活かしていただきたいということで結ばれておりま す。  別冊1の55頁は、第9回の重要事例のうち、分析コメントを加えた事例です。57頁 は、本日の議題1にありましたインスリンの事例が、9回の事例でも2例記述コメント を付して載せております。これ以外にも1,551例の中にはさらにありましたが、この2 例について分析を加えております。734の事例については、86頁で紹介しております。 ヒヤリ・ハットの具体的内容としては、「昼食前の血糖値が高値であり、1年目Nsが Drに指示をもらう。ヒューマリンRとの指示であり、元々ヒューマカートRを使用し ていたため、おかしいと思ったが確認しなかった。(先週の指示欄には、ヒューマリン と記載されており、又Drの指示であり、間違いはないと思った。)他のNsがその指 示を引き継ぎ、患者にヒューマリンRを投与した。後で他のNsより指摘を受けてDr に確認すると、ヒューマカートRであった」というヒヤリ・ハットが報告されておりま す。コメントについては、先ほどご議論のあった内容と重複している部分もありますの で、後ほどご覧ください。  89頁には、「インスリンの過量与薬」ということで報告されております。夕食前の血 糖値が340mg/dlだったため、スケールに従い、次行の点滴内のインスリン量を増やす 際に5単位のところを50単位増しで点滴内に混入し、更新してしまったという事例が報 告されております。事例紹介のみにとどまらせていただきますが、こちらが分析した事 例です。  113頁以降は、全事例を表にして掲載しておりますので、こちらについても後ほどご 覧いただければと思います。  資料2に戻ります。資料2の35頁、別冊2になります。第10回の集計結果ですが、平 成15年11月26日より、平成16年2月24日までの報告について集計分析をしています。全 般コード化情報は13,443事例、記述情報は1,891事例。10回から「医薬品・医療用具・ 諸物品等情報」と「重要事例情報」を統合して「記述情報」というようにまとめまし た。この記述情報のうち、医薬品・医療用具・諸物品等情報は41事例ありました。  全般コード化情報の分析についてですが、方法はこれまでと変わりありません。39頁 以降に分析結果が載っていますが、傾向は第9回とほぼ同様でした。すべてのデータと グラフが別冊2の1〜54頁までに載っていますので、後ほどご覧いただければと思いま す。  資料2の49頁、記述情報の分析についてです。こちらは1,891件のうち、有効件数は 1,879件でした。この回から分析方法を若干変更しました。「分析の概要」に書いてあ りますが、今年度の検討方法について、検討を始めて3年となり、今後はより専門的な 視点から状況を改善すべく方策を考えていくために、テーマ別の分析とすることにしま した。  (1)の2行目です。「転倒・転落・抑制」「チューブ・カテーテル類」「注射/点滴、 輸血」「内服薬/外用薬、麻薬」「検査」「器械操作」「食事・栄養」の7テーマに分 けて1回につき1〜2テーマについて集中的に検討を進めていくこととしました。  50頁、事例の選択方法としては、従来の大きな枠組みに加えて、毎回のテーマを設定 して分析すべき事例を絞り込み、分析対象事例候補として選定し、その中から分析対象 事例を決定することとしました。従来の考え方は2)に書かれており、この考え方も踏 襲しています。また、分析方法については、これまでと同様です。  資料2の52頁、「分析結果および考察」です。全体の概要としては、4つ目の○、発 生件数の割合の高いカテゴリーは、やはり9回と同様、与薬や転倒、チューブ・カテー テルで、若干順位が変動していますが、報告件数の高い割合に上がってくるテーマは大 体同一です。こちらのほうは、ここの表に上がっている総数を100%として換算してい ます。  53頁、10回は「点滴/注射・輸血」のテーマを取り上げました。事例の選定に当たっ ては、「点滴/注射等の業務のプロセス」、指示や調剤や投与を、“医師の指示から、 投与、観察、投与後”に至るまでの段階を区分し、これに基づいて分類・整理いたしま した。また、53頁の一番下のパラグラフ、今回の分析では、収集した事例をプロセスに 沿って区分し、ヒューマンエラーと機器・材料の問題や手順自体に内在する問題などに 分類し、エラーの分類をMistake、Lapse、Slipという分類にしています。これについて は、その下に解説がありますのでお読みください。  55頁、「医師の指示」の分については、Mistakeが多く、指示の出し方が適切でない 事例が見られる。また、本日の議論にありましたようなインスリンの過剰投与などの重 大なエラーが、この段階で発生しているため、ルールが不明確ということが指摘されて います。  56頁、「業務プロセスII」で、指示受けから引き継ぎの段階では、Lapseが多くみら れたという分析がされています。また、口頭指示によるものが相変わらず多いというこ とで、その中止を徹底することが指摘されています。また「業務プロセスIII」におい ては、注射の準備(薬品の混合やセットアップ)ですが、この段階ではSlipが多く見ら れるということが指摘されています。内容については後ほどお読みください。  57頁、「業務プロセスIV」については、実施、施注の段階になりますが、Lapseが中 心となると分析されています。指示書を参照する業務設計をしていない医療機関では、 実施は記憶に依存して行われることになっており、このためにLapseが生じるのではな いかと指摘されています。記憶に依存するのではなく、指示書に照らして正しいことを 確認しつつ実施するというシステムを確立することが重要といわれています。また、ク レンメの開放忘れ等三方活栓の事例も頻繁に生じているということで、このチェックシ ステムが確立することが必要と指摘されています。  次に「業務プロセスV」の段階で、実施後の観察および管理では、Mistake、Lapse、 Slip、種々の誤りが生じているということでした。特に状態の評価、提供されているサ ービスについての考察が不足したために観察が不十分ということで、ヒヤリ・ハットが 発生しているという分析がされています。  58頁に「まとめ」がありますが、2段落目に「このようなエラーが生じる背景とし て、重要な薬品についての取扱いや職種間の業務分担、業務のプロセスの標準化など、 組織的な取組みの遅れがあるのではないかと推察される。そのために、これらの注射薬 を取り扱う職員の教育や、安全に施行するための専門職員の配置をするなど、環境整備 も検討される必要がある。また薬剤師の役割ということも考える必要がある」というよ うに結んでいます。  別冊2の55頁に、第9回と同様に分析事例が載っています。57頁に13事例の目次が書 いてあります。57頁のいちばん下に、口頭指示の間違いに気づかず、そのまま実施して 生じたインスリンの過剰投与が報告されています。また、672の事例においてもインス リンの事例が報告されています。76頁がその概要になっており、77頁に具体的内容が書 いてあります。術後、回復室で血糖が400mg/dlであったため、手術室の責任者が担当 者にヒューマリンR4単位を静脈注射するよう指示しました。その際、0.04mlであると ころを0.4mlと指示し、担当者はそれが40単位であることを確認せず、そのまま側管か ら静脈注射をしました。40分後にミスに気づき、病棟に行って血糖チェック、バイタル チェックを行い、血糖は幸い300台で意識レベルも正常で、低血糖症状はなかったとい う事例が報告されています。  95頁にもう1つの事例があり、96頁に具体的内容が書いてあります。低血糖BS50で あり、冷汗があったために、患者にブドウ糖10g2袋を渡して、ブドウ糖を内服するよ うに伝えましたが、メンバーナースの交代や休憩等が重なり、それを確認するナースが 代わったり、繁忙時間であったということで確認を怠ったために、投与量が間違ってし まったという事例になっています。専門家からのコメントについては、後ほどご覧いた だければと思います。  別冊2の105頁からは記述情報集計結果で、全事例が一覧となっています。全般コー ド化情報と記述情報についての報告は以上です。  次に、医薬品と医療用具の報告をさせていただきます。資料2の29頁からです。総事 例数が127事例、対象の事例数は125、医薬品関連は82、医療用具が37、諸物品6となっ ています。要因別の件数ですが、発生しているものは記号違い、規格違い等、分布とし ては前回と変わりありません。ただ今回は、外観の類似が若干多く報告されています。  別冊1、260頁の16番に、今回報告されている外観類似の事例のうち、リンデロンVG ローションとロメフロンの点眼液の容器の類似があります。この容器についてこの6月 の通知で対応を通知していますので、今後はなくなっていくものと考えています。  266頁は、ワーファリンとラシックスの取り違えの事例です。基本的に外観が似てい るものなので、これについては今後考えていきたいと思います。  第10回の資料です。資料2の63頁、総事例数41、分析対象事例が41、医薬品の関連情 報が31、用具が8、諸物品2となっています。前回と比べて数が若干少ないのですが、 全体の報告総事例数としては変わりなく、今回だけ少ないと考えています。要因別の分 類ですが、全体的な分類については規格違い、勘違い等が多いということで、第9回と あまり変化はありません。医療用具は第9回、第10回とも管理が不十分という報告が非 常に多くなっています。この部分については、使用説明書を読んでいなかった、メンテ ナンス不足などが含まれており、今後分類については検討していきたいと考えていま す。 ○堺部会長  ヒヤリ・ハットレポートの今後のあり方については、このすぐ後にご討議をいただき ますので、今のご報告の内容に関することで、何かご質疑がありましたらどうぞ。 ○土屋委員  別冊1の93頁から「専門家のコメント」ということで、処方箋の書き方のことが書い てありますが、ここに書いてある話が本当にそうかというと、むしろ逆のことが書いて あるのかという気もするのです。例えば、96頁の右下に「テオロング顆粒50%600mg」 というものが、97頁では「300mg(成分量)」という解説がされています。おそらくこ れは、テオロング顆粒50%600mgというと、それは成分量だと思われる事例のほうが多 いであろうということからいうと、ここで専門家の意見としてこれが出たことが、逆に 誘因になってしまうこともあり得るのではないか。処方箋の書き方が混乱しているとい う話は前からあるわけで、もう何らかの形をとらないといけないのではないかという気 がするのです。厚生科研の報告でも、散剤については量違いというものはほとんどが処 方箋の書き方の問題であるという報告が出てきているわけですから、そういったことを この際きちんと書く。  97頁の隔日処方の場合、15日分と書いてあると、これは7日分か8日分か、30日分を 処方するときには、30日分と書いて、実質15日分と書くのが本当だと思うのですが、隔 日処方の場合にこういう書き方をしなさいという事例がここに出ることによって、逆に 混乱が起きはしないかと懸念されますので、この辺については気をつけないといけない と思います。ヒューマンエラー部会でやるのか、どこでやるのか知りませんが、処方箋 の書き方についてのきちんとしたことを決めないと、いつまで経っても散剤や注射剤に ついては、その書き方によるエラーというものが、必ず起きるわけですので、そろそろ その対策を、強制的にとらないといけないのではないかという気がします。 ○堺部会長  内容についての質問がないようでしたら、議事の3番に移らせていただきます。ヒュ ーマンエラー部会、つまり当部会ですが、今後のあり方について資料のご説明を事務局 からお願いします。 ○事務局  資料3です。ヒヤリ・ハット事例収集事業の参加医療機関については、今年度4月か ら全医療機関に拡大しました。4月以降の登録施設数について、随時集計しているので すが、9月10日時点での集計結果をここに記載しています。合計1,241施設が参加登録し ています。そのうち、特定機能病院が78、国立病院等が172、診療所が133となっていま す。2頁目に都道府県別の施設数を掲載しています。 ○堺部会長  いまご報告がありましたように、4月から参加施設数が増加し、それに伴って報告数 も増加してくると考えられます。このような多くのレポートを今後どのように扱うべき か。ヒヤリ・ハットレポート収集事業のあり方に加えて、このヒューマンエラー部会が 今後どのようにあるべきか、というようなことについてもご意見を賜りたいと思いま す。参考資料3に、「医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会設置要綱」というも のがあり、これが当部会の基本的な位置を示していますので、これを参考にしていただ きながら、ヒヤリ・ハット事例収集事業の今後のあり方についてでも結構ですし、それ とは直接関係がなくとも、ヒューマンエラー部会の今後のあり方について、フリーディ スカッション的にご意見を頂戴いたしたいと思います。 ○三宅委員  ヒヤリ・ハットの事例収集事業は、非常に重要な事業だと思っています。ただ、この ように参加施設が増えてきますと、集まってくる事例も非常に増えてくると思いますの で、おそらくかなり類似したものがたくさん集まってくると思うのです。そういうもの をどこかでかなり整理をして、整理した中で重要なものを拾い上げて、その中から問題 点を抽出してこういう所で検討する。そういう仕組みがいいのではないかと思います。  自分の所の話で何ですが、本社でいろいろ検討会があって、日赤全体で参加しましょ うということになったのです。その1つは、やはりこういう事業に参加することが、基 本的には、意識を高めることになるだろう、そして効果もあるのではないかということ で、全施設が参加することに決めたわけです。そういった意味でも、これを続ける意味 合いはあると思います。ですから、いかに整理して、重要なものだけを拾い上げていく かという仕組みづくりが必要かと思っています。 ○堺部会長  議長はあまり言ってはいけないのかもしれませんが、ここにはたくさん貴重な意見が 出ています。特に「記述情報」で具体的な事例の収集が随分できてきたと思いますが、 これだけの数が集まってきますと、第一に読むのが大変です。また、何がどこにあるの かを探すのも大変です。実際にこの事業を担当する方への要望ということになろうかと 思いますが、分析もですが、どうやって必要な情報を探したらいいのかということも、 そろそろご検討いただく時期にきたのかと思います。 ○小泉委員  先ほどホームページを紹介していただきましたが、そこでこういう情報は見られるわ けですね。 ○医療安全推進室長  日本医療機能評価機構のホームページにおいて、この情報のうち、いまおっしゃった ように、専門家のコメントを付した事例については、データベースを作成しており、キ ーワード検索ができます。全事例については、厚生労働省のホームページに医療安全対 策情報として掲載しているのですが、検索はできないのです。 ○小泉委員  すでに情報は提供されているが、それをどう各病院の安全管理担当者が使っていくか 分からないということがあると思うのです。ヒヤリ・ハットの事例は、個別の病院でも 結構事例が集まっている。病院によっては毎月集めて集計して、ではそれをどうしてい いのかよく分からないということが出てきている。ですから、各施設において集まった ヒヤリ・ハット事例を、どのように活用するかということについても何かアイディアを 提供していくようなことを、この辺りで検討しないといけないのではないか。マンネリ に流れている施設が少なくないのではないかと思いますが。 ○堺部会長  報告数がさらに増えてくると、見かけのインシデントの数はきっと増えてくると思う のです。ただ、やはりそろそろ内容を分析して、例えばあるひとつのことについて、何 かこういう対策をとったほうがいいということが出されたときに、それをホームページ でみんな読むわけですから、しばらく経ってその事象に関しては減ったのかどうかとい うことも、もし検証できると、みんなやる気が出てくるのではないかという気はいたし ます。 ○三宅委員  平成14年に「医療安全推進総合対策」が報告されています。基本的には、全医療機関 がこういう事例を収集することと、検討会をやりなさいということが、一応決まったわ けです。ですから当然、各医療機関がこういうインシデント、アクシデントレポートを 集めて検討して、そしてそこである程度解決できたものがたくさんあると思うのです。 これは何か指標を決めたほうがいいかもしれませんが、その中から各医療機関が、こう いうものはやはり報告すべきであるというものを報告するというようにしないと、ただ 数だけ増えても困ると思うのです。  私どもの病院でも、看護師がやはりインシデントレポートを出すようになって、どん どん数が増えてしまった。実際、そんなにたくさん報告してもらっても、処理するのに 困るということで、現在は各病棟の中で処理できるものは処理しなさい、その中で上に 報告すべきものをセレクトして報告しなさいというように変わってきているわけです。 それと同じだと思うのです。これを全国に広げていったら、もう限りなく増えてしま う。それぞれがやはりそういう機能を持つことが必要なわけですから、医療機関の中で きちんと整理をし、処理ができていかなければいけない。それには何か指標を決めなけ ればいけないとは思いますが、その中で報告すべきものをセレクトして、それを出して くださいというように変えていくのがいいのではないでしょうか。 ○土屋委員  私も以前、薬についての分析その他をやっていて感じましたのは、薬について言えば ある程度固定化してきている。今後、気をつけてやらなくてはいけないのは、例えば新 薬や後発品、そういうものが薬価基準で承認されたと、それから後、その薬に対して類 似などで起きたエラーを、例えば1年間集中的に集める。そういうことをやって、変な 言い方ですが他のものでアダラートLの10mgと20mgとを間違えたという規格違いの話よ りは、そういうターゲットを絞った集め方をしないと、めったやたらに数だけが上がっ てきてしまうのではないかということが1つです。  もう1つは、ヒューマンエラー部会のあり方に通じるかどうか分からないのですが、 「医薬品・医療用具等対策部会」のほうは、やはり解決策として、実際に物の改善とい うことについては、いろいろ批判はあるかもしれませんが、だんだん進んできているわ けです。ところが、ヒューマンエラー部会においては、アクションプランといいます か、例えば処方箋の書き方の話にしても、オーダリングの安全性、誤入力という話で も、それは指摘はされるのですが、それについて何ら行動がとられない、というところ に問題があるのではないかという気がするのです。検討はするが実施はしないのかとい うことにもなると思うのですが、やはりいくつか決まってきている、ここまで何年間か やってきて分かっている問題についての解決策をきちんと示すということをしないと、 このヒューマンエラー部会そのものが、ただこういう報告で終わってしまう可能性があ るので、そこは強く望みたいと思います。 ○堺部会長  私も、この部会が報告を受けるだけの部会であってはならないと思っています。 ○山路委員  私は、門外漢としてこの部会にずっと参加していますが、最初のときからあまり変わ っていないと感じるのは、資料2の24頁「今後の課題」のところで、非常に正しい指摘 をされています。記載の改善の問題、つまり報告の仕方の問題です。要するに、その要 因を、なぜそうなったかについての背景要因の分析がなされていない。また、組織的な 背景や要因を分析していない。ただ確認の徹底など、個人の責任に帰するような表面的 なものにとどまっているということで、最初からここに至るまで、基本的にその問題の 改善がほとんどなされていないのではないかと思います。  確かに数は広がってきた。いろいろなインシデント事例は出ているが、参考にするた めには、やはりその背景の要因分析をやらなければ何の参考にもならないのではない か。そのためには、報告の仕方の問題として、やはり繰り返し背景要因分析や、組織的 な要因分析、あるいは制度面での問題点について、もう少し突っ込んだ記述の仕方をす る。その辺のところは抜本的に考え直していく必要があるのではないかと思います。  2点目に、やはりいくつか非常に参考になる改善策が出されているのですが、本当に それが具体的に改善されたのかどうかがよく分からないところがある。例えば、制度改 革に結びつけるような、医療保険制度上もうちょっと変えたほうがいいのではないかと いう問題点が、いくつか今まで出されてきているわけですが、その辺はこの部会ではな かなか踏み込んだ提言は出せない、限界というか、もどかしさを感じているわけです。 制度改革まで踏み込んだ提言をしないと、なかなか有効性のある提言が、部会としての 機能が果たせないのではないかと私は感じています。 ○三宅委員  私も今、土屋委員や山路委員がおっしゃっったことと共通するのですが、例えば、処 方箋の書き方は、平成13年に始まった医療安全検討会議でも話題になっているのです。 しかし一向に進歩しない。根本的な問題をきちんと直すということがなされないのはど うしてかと質問したいのです。結局こういう話をすると、すぐに学会や薬品業界に振っ てしまうわけです。やはり、行政としてやるべきことは、安全を守るために最も根本的 なところは法的に規制をする、指導をするということだと思うのです。その機能が発揮 されなかったら、結局は上すべり、薬の名前、剤型、いろいろなことが13年の検討会議 で話題になってから遅々として進まず、その間にたくさんの事故が起きて、先日はじめ てそういうコメントを出したということですね。その間、私は「はっきり言ってHIV と同じことになりますよ」ということを医薬食品局にも言ったのです。  明らかに起きることが分かっているのに、それを見すごしていく。しかも、それを全 部業界に改善を任すという姿勢を改めない限り、私は改善しないと思います。根本的な こと、例えば先ほどの処方箋の書き方の問題などは、1回処方「1日何回何日分」とい う書き方にしましょうという、記載方法に決めればそれで済むことなのです。それがど うして出来ないのかが私は不思議でしようがないのです。 ○堺部会長  今日はフリーディスカッションですから、必ずしも個々のご発言の間に直接の関連が なくても結構です。いろいろなご意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ○稲田委員  ヒヤリ・ハットを出すことで、今までこんなことはいつもやっているから何でもない と思っていたことが意識に上がってきますので、これは大変意義があると思うのです が、こういったものを集めても確かにフィードバックが全然できていない。例えば、事 例をすべてインターネットに載せたとしても、対策を含めたフィードバックができてい ないということは、ひとつ問題だということを感じています。ある病院で調査をして、 対策を立ててそれが減ったという成功事例のようなものをモデルケースとして、全国に 広げていくような、小さなものから大きなものへという動きも必要だろうと思います。  処方箋ということに関しては、先ほど例が出ていましたが、与薬のことでは、ついナ ースのほうに問題がいってしまうのですが、医者の問題、またそれをチェックする薬剤 師の役割等、病院全体の取組みが必要だろう。たとえ、そういったシステムを作ったと しても、個人のSlipといった問題がどうしても最後の要素として残ってしまう。それを いかになくすか、これがいちばん難しい問題だと思いますが、やはりヒューマンエラー 部会という所でそれを考えなければいけないという気がしています。  もう1点は、新臨床研修医制度というのが始まって、新しい人たちがみんな研修を受 けることになるわけですが、先ほどの処方箋の問題も含めて、彼らの第一歩からきちん とした教育をしていくことが大変重要なことだと思います。事例の報告でも、経験年数 0年のところでいろいろな事故が、あるいはインシデントが発生しているということ は、その辺りの教育がまず重要だろうと感じました。 ○山浦委員  これまで非常に素晴らしい意見がたくさん出ていたのですが、私は極めて素朴な質問 をしたいと思います。ヒヤリ・ハットを始めたときに、10万件というのが私の頭の中に あるのですが、10万件を目指すということで始めたのか、あるいは目標を決めずに、や りながら、考えながらいくのだというスタイルでスタートしたのでしょうか。 ○堺部会長  これは私がお答えしていいかどうかよく分かりませんが、私の個人的な記憶では後者 であったと思います。件数を最初から規定したのではなく、できるだけ収集して、それ を分析していこうというスタンスであったように記憶しています。 ○山浦委員  それで今、いろいろな分析の仕方が皆さんからプロモートされたわけですが、それを 考えるのは何という委員会なのですか。ここはヒューマンエラーの部会ですね。この膨 大な資料からヒューマンエラーを探し出すというのも1つの作業かもしれませんが、こ れだけいただいても、ヒューマンエラーがここにある、ここにあるというだけであっ て、少しもヒューマンエラーの会らしくないわけです。ヒヤリ・ハットのあり方をやり ながら考えていくという会はどこになるのでしょうか。 ○医療安全推進室長  作業部会とこのヒューマンエラー部会がその会ですが、私も今日初めて主催させてい ただきまして、問題点を感じておりますのは、これだけ膨大な資料を当日配付しても十 分お目通しいただくことはできないと思いますし、予めお送りしてご覧いただくという のも、これもまた大変だと思います。先ほどから議論になっていますように、これから ますます増えていく事例を、どういう形で集約していくのか。それで、この部会なり作 業部会なりで議論しやすい形に集約するプロセスをどうしたらいいのか。今日はフリー ディスカッションということですので、そういうことも含めて、ご意見を頂戴できれば と思い、急遽、座長とご相談の上、このような場を設けさせていただいたところです。 ○山浦委員  報告するという習慣は、かなりついてきたのではないかと思います。次は何かという 時期にきているのではないでしょうか。 ○小泉委員  9回と10回が2冊になっていますが、10回のほうは事例を7テーマに分けたり、まだ あまり普及していないと思いますが、エラーをMistake、Lapse、Slipに分けたり、そう いう意識の下にこの検討部会の方々はいろいろな試みを多分されていると思うのです。 「ヒヤリ・ハット」という分かりやすい用語で安全文化が普及したのは、非常に良いア イディアだと思うのですが、例えばエラーの内容の分析なども横文字でMistakeとLapse とSlipと書いただけでは、現場の人たちはまだ取っつきにくいでしょうし、こういう辺 りを噛み砕いて分かりやすく表現し、現場でもヒューマンエラーの内容を具体的にもう 少し調べてみようかというインセンティブになるようなアイディアを、この辺りで出し てゆくのが今後の方向ではないでしょうか。 ○目黒委員  器械のほうを担当することが多いのですが、実はここの報告の中には、臨床工学の立 場からするとまだ報告は少ないのではないかと思っています。なぜ少ないかというの は、たしかこのヒヤリ・ハット収集を始めた最初に言ったのですが、要するにベースと なる臨床工学技士がいないわけです。特に国公立の場合には、組織ができていないとい うこともあり、組織を作ってくれということはよく言うのですが、その声がなかなか届 かないという現状があります。  基本的に、そういうものが改善されないまま動いていきますので、結果としてときど き呼吸器が壊れて悲惨な状況が起きるということになるわけです。私たちは日常業務を やっていると現場で分かるわけです。ですから、施設規模が大きく、いろいろな医療器 械を持っている所では、器械のメンテナンス、補修など、やらなければいけないことが いっぱいあるわけで、それがなされている所となされていない所では、医療の内容に差 があると思います。これは厚生労働省の医薬局の方がおっしゃっていましたが、古い器 械と新しい器械、整備された器械、されていない器械では、診療行為を行う場合にも差 が出てくるだろうと言われていました。  結局、医師や看護師さんたちも器械を目の前にして分からないことがあったときに、 頼る所がない施設はたくさんあると思うのです。呼吸器についても、実は国立病院を含 めて呼吸器が止まった話はときどき聞くわけです。ですから、まだまだいろいろな事故 なりヒヤリ・ハットの部分はかなり多く含まれているのだと思うのですが、そういうも のを引き上げるためにも、政策上、薬剤や検査部門同様に、なるべく臨床工学技士の人 員を配置していくような方法を考えていただいて、器械が整備され、医療をする側も受 ける側も、安心して器械を使えるような体制をつくってもらいたいというのが私の願い です。  保険点数などにも絡んでくると思うのですが、不安定な状態で治療を受ける所と、整 備されている所での診療報酬が同じというのもまたおかしな話だということもあります ので、いろいろ複雑な話が絡んでくるかと思うのですが、もう少し医療器械、臨床工学 という部分を含めて、どこかで真剣に議論をする場があればいいと考えています。 ○坂本委員  私は、ヒューマンエラー部会でのヒヤリ・ハットの事例収集は必要であると思いま す。その理由としては、例えば自分の病院を考えてみますと、いくら集めても改善され ないんです。しかし、どんなことが起こっているかということはすごくよく分かってき ます。また、私たちのやったデータ収集に関しても、どこに特化して対策を立てればい いかということは、何となく読み取れてきました。おそらく病院の中でやっていても浸 透しないということは、日本の国全体を考えてみたときに、医療職にはもっともっとや らないと浸透しないと思います。ここには興味のある人、頑張っている人たちが来てい ると思うのですが、どうしていいか悩んでいる医療職もたくさんいると思います。  また、量がたくさん集まってきたことに関してどうするかというのは、やはり読み取 りやすさと、的を得た読み取り方をする技術が必要だと思います。ではいろいろな人に どのように示していくかということに対しては、やはり広報活動をもう少し考えないと いけないと思います。医療の環境はどんどん変わってきていますので、それに関してヒ ヤリ・ハットがどのように変化しているかという変化も見ていかないといけない。例え ば、電子カルテが入ってきたことによって起こってくることも増えてきているわけで す。ですから、改善されているだけではなく、新しい医療事故も増えてきているという ことをどこで読み取るか。いま唯一読み取れるところはこういう所でしかないわけです ので、是非このツールは残しながら、やっていきたいと私は思っています。  これが出たことによって現場が変わったことが結構あります。例えばインスリンのこ ともそうですが、薬の種類を変えることによって随分病院の中では間違いが減りまし た。出すだけでストレスが大きいわけですが、結果として現場が変わってきているとい うことも実感しています。そういう意味では、事例集的なことをこの場で提言していく 方法は、まだまだ続けるべきだと私は考えています。 ○堺部会長  あり方についてのご意見を引き続きお伺いしたいと思います。楠本委員、お願いしま す。 ○楠本委員  ヒューマンエラー部会に最初から関わっていますので、振り返ってみると重要事例に ついて、あまり中を精査したことがなかったという気がします。どちらかというと、コ ード化情報の傾向をよく説明していただいたように思うのです。ひとつひとつ読んでい くと、やはり記入の仕方から指導しなければならないものも引き続きあり、こういうの をどうしたらいいのかと思っていましたら、ここに対策が書いてありますので、やはり 事例集は必要だと思います。当該施設にはフィードバックはしないのですね。ホームペ ージに記載するのでそれを見るようにということですが、書いた施設が意識を持って見 るようなことが必要なのではないかという気がしています。  国民一般にヒューマン・ファクターと医療環境が本当に理解ができていないと思って います。やはり当事者に何か責任をとらせるという形での意識がますます強くなってい る。それは訴訟が非常に増えたり、保険額が高騰したりという状況になっていることか らも分かると思うのですが、もう少し医療環境の中で、要は医療が本当に侵襲行為であ って、それを違法性の阻却という形で行われているものだということとか、やはりヒュ ーマンエラーというものが一定の率で起こるのだということ、そのことについて非常に 努力しているのだということをご理解いただくような、何かこのヒューマンエラー部会 からの発信のようなものでもしていかないと、いつまで経ってもこの中で「どうしよ う、どうしよう」ということでやっていても進んでいかない、という思いをしていま す。特にそのあおりが看護職にきています。  エタノールの事故、人工呼吸器に間違って入れてという事故がありましたが、あれも 本当にさまざまな問題点がありましたが、そこは理解されず、組織的な取組みもないま まに、看護師が禁固刑という形で決着いたしました。やはり、もう少し組織の中でのヒ ューマンエラーへの取組みを進めていくことが必要だと思います。報告が増えてきて、 確かに文化としては上がったように見えますが、組織的に全職種が協力し合ってやって いるかというと、そんな実態ではないのではないかと私は思っています。特に医師の意 識改革といった辺りは、さらに強くやっていただきたい。看護協会も、倫理的な問題等 々については、医師に向かって「ノーと言え」とか、アドボカシー機能をちゃんと使っ て患者を守りながらやっていこうという声明を出していますが、やはり看護だけでは守 り得ないというところをもう少しご理解いただいて、組織的に取り組んでいるというこ とを社会に向けて発信する、そのツールも考えていく必要があるのではないかと思いま す。 ○上原委員  まずヒヤリ・ハット事例の分析に関しては、データそのものはどうしても一般に言わ れていますように極めてパッシブでボランティアベースなので、実際の10分の1ぐらい しか上がっていない。ですから、この数字自体にはあまり意味がないと思いますし、ま た実際に分析する人もそういうことは理解していると思います。また、そこで上がって くる情報は、どうしてもコード化したものに規定されます。本来は現場で要因の分析を したものが集められると、その集計から共通の要素が見えてきて手が打てるというメリ ットがあるのですが、なかなか現場のほうで背景の分析まで十分できないという段階に ありますので、どうしてもデータは限られると思うのです。しかし、これをやはり公的 にきちんと集めているということは、極めて意味のあることだと思います。  データそのものには科学的な限界はありますが、そこからいろいろ引っ張り出せるも のがありますし、我々はそこからまだ改善のために、十分に汲み取り切れていないの で、是非続けていただきたいと思っています。使い道のことがもう少しはっきりしてき ますと、それに合わせてどういうデータをとるかということも具体的になってきますの で、どんどん変えながら、やはりこれは継続していただきたいと思います。  オフィシャル、かつパブリックなデータであるということの意義は非常にたくさんあ ると思います。例えば、1つはこれをベースにした勧告というものを作ることができ る。現在もそういう形で使っていただいていると思うのですが、これをもっと積極的に 使っていく。自分たち自身は現場で経験していますし、自分たちの病院の事例も持って いるわけですが、なかなかそういったものは表に出せないところがあります。やはり、 アノニマスであったとしても、公的に集められた事例があり、データがあることによっ て、その勧告の根拠というものをきちんと示すことができるメリットがあります。  また、教育やいろいろな所で、ドクターがいろいろな事情で遅れている所も多いので すが、医療界が十分動ききっていないところで、そうは言っても30年間これでやってき たのだからという思いがどうしてもあります。そういうときに、事実データを基にして 語っていくということが非常に大事で、看護教育でも医師教育でも、あるいはジャーナ リズムにいろいろなことを検討してもらうためにも、どんどん使ってもらう事例(ケー ススタディ)として提供されるというのは非常に重要だと思います。個別に知っていて も、制約があり公に書けないということがあります。ここに上がったものはアノニマス の形であれば使ってよいというように提供するのは、すごく意味があると思います。  もう1つは、コードに関してはまだどんどん改善しないといけないと思いますが、病 院名などはアノニマスで、かつどこまで使っていいかは厚生労働省がちゃんと管理しな がら、入力されているデータをどんどん研究用に提供するのがいいと思います。せっか く十分な量が集まってきても、これを分析していくときは目的に従って分析しますし、 その分析をするチームも限られていると思います。看護大学などでも、これからは医療 安全をきちんとした研究分野として確立しないといけないと思うのですが、ここで集ま ったものをそういう研究者に提供していくことによって、同じデータから今まで気がつ かなかったものを引っ張り出してくれる可能性も十分あると思いますし、また国民向け の説明ということにおいても、ジャーナリズムの方や社会学の分野の方、あるいは一般 の市民活動をされている方でも、そこから何かを引っ張り出して提言を作っていただ く。そういう提供ができると非常に意義があるのではないかと思っています。  これは基本的にサーベイランスなわけですが、ここで作られる情報システムを、とき どきサーベイのツールとしても使うのがいいのではないかと思います。これは私どもの 東北大学病院のシステムを作るときに提案したのですが、もうデザインができてしまっ ていたのでうまく使えなかったのです。いろいろなものを考えると入力項目が多くなっ てしまうので、どうしても決めた項目に限ってしまいます。  例えば、最近使い始めたあるカテーテルに関係して起こっていることは、データを入 力したときに、そのカテーテルを項目に入れていなければいくら集計しても引っかかっ てこないわけです。そうすると、どこかで事例分析をして、こういうことがひょっとし てあるかもしれないと思ったときに、いまから1カ月だけ、あるいは3カ月だけは、例 えばカテーテルに係るようなことがあった場合にはカテーテルの名称を入れてください とか、あるいはこのカテーテルが係わったかどうか見てくださいとか、インスリンなど は特にそれができると思うのですが、そういうものをやってみる。何年もずっとやる必 要はないわけで、例えば最近問題だと思ったときに、この2カ月はフォームにこの2項 目を加えますとか、そういうことをするだけで、どういうことが問題になっているかと いうデータの根拠を挙げることができます。せっかく作ったサーベイランスシステムの 中に、ときどき臨時のサーベイ機能を持ち込むということで、かなり活きてくると思い ます。  この部会としてということで率直な意見を言わせていただきます。せっかくこれだけ の事例があり、また作業チームもあって分析をしているわけですので、是非ここでは、 だからこうしようという提案を出していただきたい。ここの位置づけは「医療安全の専 門的事項に関する審議」とあり、それぞれのバックグラウンドの専門家の方がおられる ので、その提案に関しての適否や、あるいはできればコントラバーシャルな、こういう ようにすればいいと思われるが、こういうネガティブな波及効果もあるというようなこ と、施策的に検討が必要なことについて出して、皆さんの意見を施策決定の参考にして いただくという使い道が非常に有用なのではないか。  基本的には、病院のレベルでやるべきこと、個人のレベルでやること、制度でやるこ と、違ったレベルでそれぞれしないといけませんので、やはりこういう場というのは施 策にどう反映するか、あるいは規制にどう反映するかということをやる。ここで個々の 病院でやるべきことの話をしても、あまり意味がないと思います。そういう意味では、 是非改革を促すための施策、通達や規制をどうやることが有用なのかということ。ま た、通達や規制にはそのままつながらないが、それぞれの病院でこういう情報があった ので、各病院でこういうようにするのが極めて有効と思われるというような、あまり拘 束力は持たないかもしれませんが早く知らせてあげたいこと、そういうリコメンデーシ ョン、推奨、勧告といったものを出していく。それを誰かが討議の前に用意して出さな いといけないと思いますが、作業部会なりが用意してくださるか、あるいは事前に委員 にある程度ポイントを絞ったものを配って、委員が検討してくる。あるいは委員の皆さ んから事前に提案を集めて、そのうち事務局が、今のタイミングとしてこれが重要と思 われたものを選んでということができればいいと思います。  事例分析から出てくるものは作業チームから出ると思いますし、必ずしも事例分析 個々でなくても、それぞれの委員の方々が普段からたくさんの提言を持っておられると 思いますので、それを事例分析の例などを挙げながら、その提言を検討する、そういう 場になれば大変活きてくるのではないかと思いますので、自由意見として出させていた だきました。 ○青木委員  今までヒヤリ・ハットの事例を集めていただいて、今後集めるかどうかということに ついては、いま委員各位のご意見も、私の考えも、まだ継続したほうがいいのではない か。そのほうがより分析・提言という段階に役に立つのではないかと感じました。ま た、これは厚労省のほうの資料2でまとめていただいたものだと思うのですが、ここか らさらに出てくるところと、基のデータとこのまとめの間ぐらいに相当するもの、こう いうものが医療機関にとっては非常に有用になるのではないか。それをもう少し集約し たもの、数がどうのとか重要度がどうだというような観点からのまとめのようなもの、 この中間に位置するようなものがあれば医療機関にとって非常に参考になるのではない かと思いました。 ○堺部会長  ほかにご追加はいかがでしょうか。 ○稲田委員  今日は、こういった膨大な資料でどうしたらいいものだろうかと考えたのです。これ からはヒューマンエラー部会が、ターゲットを絞る必要があると思うのです。1つは、 やはり非常に頻度が多いものに絞る。もう1つは、死亡に、あるいは永久的な脳障害を 起こすような重大な事例に絞る。例えば、今日出ていました10%リドカイン、あるいは カリウム製剤といったものは、おそらくそれで対策はできるだろうと思うのです。もう 1つは、先ほど坂本委員もご指摘になったのですが、新しく出てきたもの、例えば内視 鏡手術や電子カルテ、そういった新しいもので重大な事故が起きないようにターゲット を絞ってやるということが必要だろうと思うのです。  最初の頻度が高いものを一体どうやってこの中から選んでいくかということですが、 1つパターン分析のようなものをしていって、ある項目を抽出していく。そのパターン に何を入れるかということが問題だと思うのですが、病院規模なのか、あるいはそこで 働く人たちのことなのか、あるいは与薬、あるいは先ほども出ていたMistakeやLapseと いったものがあります。そういったものを施策に反映できるようなパターンづくりをし ていくのがひとつ重要なことではないかと感じました。 ○小泉委員  いま上原委員がかなり包括的な提言をされたのですが、提言にしろ情報発信にしろ、 一般的に知らせるという以上に、もう少しターゲットを絞ったアプローチがあると思い ます。その1つが、やはり卒後研修だと思います。事例でも「研修医が」という言葉が たくさん出てきていますが、特に大学病院は今まで医局の壁や弊害があったのですが、 ローテイト研修が必修化され、病院全体で組織として1つのまとまったガイダンスをす るといったことがやりやすくなったと思います。これは非常にいい機会ですので、安全 の部門と卒後研修の部門は少し違うかもしれませんが、厚生労働省としてそこは密接に 協力というか相談していただいて、卒後研修の流れの中でこういう情報をきちんと入れ ていく、といったことが非常に有用なのではないかと思います。 ○三宅委員  先ほどから何人かの方がおっしゃっていたのですが、ヒューマンエラー部会でMistake やLapseなど、いろいろ出ているということなのですが、ヒューマンエラーだというこ とで終わっては仕方がないわけで、ヒューマンエラーが起きる背景としてどういうこと があって、ヒューマンエラーが起きないような仕組みとして何をすべきか、これが最大 のテーマだと思うのです。そこをやはりきちんと決めていくことだと思います。先ほど の土屋委員の処方箋の問題も、いろいろな器械の問題、つくり方の問題も、結局システ ムとしてヒューマンエラーが起きないようにするにはどうすればいいのか。それに対し て、ここからいろいろな意見が出てきた場合、それをどう行政として運用すればいいの か。  例えば、工業規格にJISというのがありますね。それと同じようなことが医療の器 械、例えば呼吸器にはきちんとそれがあるのか、シリンジポンプなどにもあるのか、そ れがメーカーによって異なっていないか、共通したもので管理されているのか。そうい う点をやっていただくのが行政ではないかと思っているのですが、違いますか。処方箋 の問題もただ1点、きちんとワンポイントつければすべてが変わるわけです。処方箋を 1日量で書く人と、1回量で書く人が混在しているわけで、それがまたいろいろな問題 を起こしている。世界的な動向として、1回処方で何日、1回処方で何回何日、それを 決めればいいことなのです。それをいつまで経っても学会に任す。薬については業界に 任す、それをやっている限り全然進歩しないわけです。ヒューマンエラーが起きないよ うにするために、何を決めるべきか。システムとしてどういう取組みをやるべきか、そ れを是非やっていただきたいと思います。 ○堺部会長  いろいろと貴重なご意見、ありがとうございました。そろそろ予定の時間がまいりま したので、本日の議事はこれまでにしたいと思います。これまでに承りましたいろいろ なご意見を事務局のほうでまとめていただいて、今後の方向性を定めていきたいと思い ます。では、今後の日程について、事務局からご案内をお願いします。 ○事務局  次回の日程につきましては、委員の皆様方の日程を調整させていただいた上で、後日 ご連絡させていただきたいと思います。 ○堺部会長  それでは本日はこれで閉会いたします。お忙しいところをありがとうございました。                      (照会先)                       医政局総務課医療安全推進室指導係長                        電話 03-5253-1111 (内線2579)