第1章 救命治療、法的脳死判定等の状況の検証結果
1.初期診断・治療に関する評価
(1) | 脳神経系の管理
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(2) | 呼吸器系の管理 来院時空気呼吸下でPaO277mmHg、PaCO236 mmHg、pH7.36であり著明な異常は認めていない。しかし、自発呼吸が弱くなったので10月28日17:25ベクロニウム8mg投与下に気管内挿管を行い人工呼吸を開始している。その後、水頭症に対して脳室ドナレージ術が施行された。10月29日8:00頃、自発呼吸が出現したので、同期型間歇的強制換気モードで人工換気を継続した。この設定でPaO2は150-180mmHg、PaCO2は35-41 mmHgに維持されている。人工呼吸中はプロポフォール(2mg/kg/hr)とミダゾラム(2mg/hr)で適宜鎮静したが、時々意識確認のために投与を中止している。 11月7日、21:30左瞳孔散大、血圧低下(収縮期血圧40mmHg)が出現し、22:00には自発呼吸の停止を確認している。この時のPaO2113mmHg、PaCO236 mmHg、pH7.46であった。以後肺におけるガス交換に問題はない。 以上から入院後全経過を通して呼吸管理は適切である。 |
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(3) | 循環器系の管理 10月28日、初診時ショック状態(60 mmHg、脈拍70〜86/min)であったが、治療により血圧は11:15には100/50 mmHgに改善して、開眼、発語などを認めている。胸部不快感を訴え、l2誘導心電図上で心筋虚血所見、心エコー上で壁運動障害を認めたため、心筋梗塞を疑い、12:30より心臓カテーテル検査を施行したことは妥当な経緯と判断する。心臓カテーテル検査で冠状動脈に狭窄を認めなかった。この時点では、質問に明確に答えているので、脳循環を含めて適切な循環管理が維持できていたと判断する。 最初のCT施行まで収縮期圧は150mmHg以下に調整されていたが、CT検査後に一過性に200mmHg前後に上昇している。これは脳動脈瘤の再破裂による反応性のものと思われる。以後、昇圧薬(ドパミン、ノルエピネフリン)、および降圧薬(ニカルジピン)により収縮期血圧は100〜150mmHgに維持されている。 11月11日にノルエピネフリンを中止しても血圧低下はなく、ヘモグロビン低下を補正する目的で濃厚赤血球血液を輸血した。 以上の経過を通じて、昇圧薬(ドパミン、ノルエピネフリン)、バソプレシンまたは降圧薬(ニカルジピン)、輸血と輸液(容量負荷)等を適切に使用し、妥当な循環維持が行われていると判断する。 |
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(4) | 水・電解質の管理 経過中、著明な電解質異常はなく、尿量も充分に得られているが、11月8日の臨床的脳死判定前から著明な尿量増加がみられ、11月9日午後からバソプレシン0.5U/hrが投与された。以上より入院後の水・電解質の管理は頭蓋内圧降下療法を中心に適切に実施されている。 |
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(5) | 感染に対する管理 10月31日まで胸部X線写真で肺炎を示唆する所見はなく、喀痰培養でも細菌は検出していない。11月4日38.6℃の発熱があり動脈血培養をしている。5日の喀痰培養ではenterobacter aerogenesを検出しているが、この時点でも胸部X線写真で肺炎を示唆する所見はない。4日の動脈血培養でグラム陽性球菌を検出したとの報告を受けて、再び動脈血培養をしている。 9日にCRPが14.7mg/dLへ急上昇し、かつ4日の動脈血培養でグラム陽性球菌がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であったとの報告を受け、血管内カテーテルに関連した感染症を発症していると判断している。そこで血管カテーテルを更新し、抗生物質を広域抗菌スペクトルを有するイムペネム・シラスタチンNa(チエナム、1g×2/day)に変更している。その後、バンコマイシンに感受性があることが判明したので、バンコマイシンを投与している。以上より感染対策も適切であったと判断する。 |
(1) | 脳死判定を行うための前提条件について 本症例は平成14年10月28日に入院し、左椎骨動脈瘤破裂によるくも膜下出血が疑われたが、意識障害が重篤で、保存的治療中に高度の脳血管攣縮のため多発性脳梗塞をきたした。11月7日夕方より右瞳孔散大、21:30左瞳孔散大、22:00 JCS 300、自発呼吸が消失した。本症例では11月8日 13:00臨床的脳死と診断され、31時間51分後に第1回脳死判定を行い(終了11月10日 0:40)、6時間07分おいて第2回脳死判定を行った(終了11月10日 8:55)。 本症例は前章で詳述したことから脳死判定対象例としての前提条件を満たしている。 すなわち
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(2) | 臨床的脳死診断及び法的脳死判定
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